(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記蓄熱シートを形成するステップは、前記絶縁シートの前記第1面と成形シートの面とで前記蓄熱シート用ペーストを挟んで成形することにより前記蓄熱シートの前記第2面に前記成形シートの前記面が当接するように前記蓄熱シートを形成するステップを含み、前記蓄熱シートを形成するステップの後で前記成形シートを前記蓄熱シートの前記第2面から剥離するステップをさらに含む、請求項7に記載の断熱シートの製造方法。
前記成形シートを前記蓄熱シートの前記第2面から剥離するステップは、前記成形シートを前記蓄熱シートの前記第2面から剥離することにより、前記蓄熱シートの前記第2面の表面粗さRaを2μm以上かつ20μm以下にするステップを含む、請求項8に記載の断熱シートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施の形態1)
図1Aは実施の形態における断熱シート1001の断面図である。
図1Bは
図1Aに示す断熱シート1001の拡大断面図である。絶縁シート14は、面14Aと、面14Aの反対側の面14Bとを有する。断熱シート1001は、絶縁シート14と、絶縁シート14の面14Aに接合する蓄熱シート13と、絶縁シート14の面14Bに接合する高熱伝導シート15とを備える。高熱伝導シート15は、絶縁シート14の面14Bに接合する面15Aと、面15Aの反対側の面15Bとを有する。断熱シート1001は、高熱伝導シート15の面15Bに接合する絶縁シート16をさらに備えてもよい。
【0010】
蓄熱シート13は、樹脂12と、樹脂12に混合されてかつ潜熱蓄熱剤を内包する粉体状マイクロカプセル11とを含有する。
図1Cは粉体状マイクロカプセル11の断面図である。粉体状マイクロカプセル11は、複数の球体のカプセル11Aと、複数のカプセル11Aにそれぞれ封入された潜熱蓄熱剤11Bよりなる。実施の形態1ではカプセル11Aはホルマリン樹脂よりなる。実施の形態1では、潜熱蓄熱剤11Bは、融点が約39℃のパラフィンである。カプセル11Aは1μm〜3μm程度の直径D1の球体である。粉体状マイクロカプセル11は、凝集している複数のカプセル11Aにより形成された50μm程度の直径D2を有する二次粒子である。粉体状マイクロカプセル11を樹脂12と混ぜ合わせてシート状に成形することにより約0.6mmの厚さの蓄熱シート13を構成している。樹脂12は例えばウレタン樹脂を用いている。ウレタン樹脂を用いることにより、粉体状マイクロカプセル11の量を多くしても、マイクロカプセル11をつぶさずに混合することができ、さらに蓄熱シート13に柔軟性を与えることができる。
【0011】
蓄熱シート13中の粉体状マイクロカプセル11の割合は重量比で約70%である。蓄熱シート13中の粉体状マイクロカプセル11の割合を多くするほど蓄熱シート13は熱伝導性を高くすることができる。その割合が重量比で90%を超えると混練が困難になり、またシートとしての強度、形状を保つことが難しくなる。一方、粉体状マイクロカプセル11の割合が重量比で40%未満になると二次粒子である粉体状マイクロカプセル11が互いに離れて樹脂12の中に浮かんでいる状態となるので蓄熱シート13の蓄熱性が低くなり、蓄熱シート13としての性能を発揮しにくくなる。実施の形態1ではその割合を40%以上とすることにより、粉体状マイクロカプセル11が互いに接触している状態となるので、速やかに蓄熱シート13全体に熱を伝えることができる。以上より、蓄熱シート13の中の粉体状マイクロカプセル11の割合を、好ましくは重量比で40%〜90%、より好ましくは50〜90%とする。
【0012】
蓄熱シート13の表面や内部には多くの空隙13Cが形成されている。蓄熱シート13の全体積に対する空隙13Cの体積の合計の割合である空隙率を約15%としている。これにより蓄熱シート13の微視的な表面積を蓄熱シート13の巨視的な幾何学的な面積の10倍程度とすることができ、蓄熱シート13の表面からより多くの熱を輻射して断熱シート1001の温度が上昇することを抑制することができる。実施の形態1では、空隙率は、蓄熱シート13を水中に沈め、蓄熱シート13を真空引きすることで空隙13C内に水を注入し、蓄熱シート13の体積に対する注入された水の体積の割合を計算することにより求められる。蓄熱シート13の空隙率を大きくするほど、蓄熱シート13の表面積は大きくなって熱を輻射する効率は高くなる。しかし、空隙率が大きくなりすぎると、蓄熱シート13内の粉体状マイクロカプセル11の量が少なくなるので、蓄熱シート13の蓄熱性が低くなる。蓄熱シート13の空隙率を10%以上かつ30%以下とすることが望ましい。これにより、60℃における蓄熱シート13の表面から輻射される熱放射率を80%以上とすることができる。蓄熱シート13に熱的に接続されている発熱部品から出た熱は蓄熱シート13に蓄えられると同時に放熱されるので、発熱部品が連続して動作しても発熱部品の温度の上昇を抑制することができる。
【0013】
蓄熱シート13の面13Bには絶縁シート14の面14Aが貼り合わされている。実施の形態1では、絶縁シート14は約10μmの厚さのポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記す)からなる。絶縁シート14の面14B上にはアクリル系樹脂からなる粘着材を介して高熱伝導シート15の面15Aが貼り合わされている。高熱伝導シート15としては、例えば約25μmの厚さの熱分解グラファイトシートが用いられる。なお、高熱伝導シート15としては、熱分解グラファイトシート以外に、銅フィルム、アルミニウムフィルム等のように100W/m・K以上の熱伝導率を有する材料を用いることができる。グラファイトシートは面15A、15Bと平行な方向である面方向の熱伝導率が約1600W/m・Kと、これら金属フィルムよりも面方向にはるかに高い熱伝導率を有し、柔軟性が大きいので、高熱伝導シート15としてグラファイトシートを用いることがより望ましい。
【0014】
高熱伝導シート15の面15Bに絶縁シート16を貼り合わせていることが望ましい。これにより、取り扱い時に高熱伝導シート15を保護することができる。絶縁シート16は両面接着性テープであってもよい。これにより、高温になる部分と高熱伝導シート15とを密着させることができ、高熱伝導シート15の性能をより発揮させることができる。
【0015】
なお、蓄熱シート13と絶縁シート14とを貼り合わせるとは、結果として蓄熱シート13と絶縁シート14とが貼り合わされたことを意味する。蓄熱シート13を形成した後に絶縁シート14を貼り合わせてもよい。あるいは絶縁シート14の面14A上に蓄熱シート13を成形してもよい。
【0016】
蓄熱シート13は面13Bの反対側の面13Aを有する。蓄熱シート13の面13Aには何も設けられずにむき出しになることが望ましい。これにより、蓄熱シート13の面13Bからより効率的に放熱することができる。
【0017】
図2は断熱シート1001を使用した機器1002の断面図である。機器1002は、基板20と、基板20に実装したIC等の発熱部品19と、発熱部品19にサーマルインターフェイスマテリアル19Aを介して熱的に接続されたシールドケース21と、断熱シート1001とを備える。シールドケース21の上に断熱シート1001の高熱伝導シート15の面15Bが両面接着性テープである絶縁シート16を介して貼り合わされている。この構成により、発熱部品19で発生した熱はシールドケース21を通じて高熱伝導シート15に伝わり、高熱伝導シート15の面方向に拡散される。高熱伝導シート15全体が蓄熱シート13と確実に貼り合わされているので、スムースに蓄熱シート13全体に熱が伝わる。蓄熱シート13に伝わった熱は、潜熱蓄熱剤11Bが所定の温度になると潜熱蓄熱剤11Bを融解させるために消費されるので、蓄熱シート13の温度上昇を遅延させることができる。これにより、特に発熱部品19の急激な発熱に対して対処することができる。さらに蓄熱シート13はその内部に空隙13Cが形成されているので、大きな表面積を有する。大きな表面積から赤外線を輻射することにより熱を逃がすことができ、発熱部品19の温度を下げることができる。
【0018】
図3は実施の形態1における断熱シート1001を使用した機器1002での発熱部品19の温度T19を示す。
図3は、
図9に示す従来の電子機器500での発熱部品2の温度T2を併せて示す。実施の形態1における機器1002は従来の電子機器500よりも発熱の初期段階で温度上昇の傾きを小さくできるとともに、長時間発熱したときに到達する温度を低くすることができる。
【0019】
実施の形態1において、複数のカプセル11Aに封入された潜熱蓄熱剤11Bの融点は約39℃とほぼ同じである。一種類の粉体状マイクロカプセル11ではなく、例えば融点が約39℃の潜熱蓄熱剤11Bを封入した粉体状マイクロカプセル11と、約60℃の潜熱蓄熱剤11Bを封入した粉体状マイクロカプセル11とが樹脂12と混合されて蓄熱シート13を構成してもよい。これにより、発熱部品19の温度が急激に上昇することをより抑制することができる。
【0020】
次に、断熱シート1001の製造方法について説明する。
図4Aから
図4Dは断熱シート1001の製造方法を示す概要図である。
【0021】
まず、粉体状マイクロカプセル11に含有されている水分の量である含水率を測定する。含水率が0.4%未満あるいは、2%を超える場合には、粉体状マイクロカプセル11を加湿器あるいは乾燥機に入れて、含水率が0.4%以上2%以下となるように調整する。含水率を調整した粉体状マイクロカプセル11と樹脂12とを混合し蓄熱シート用ペースト17を得る。
【0022】
樹脂12としてはウレタン樹脂を用いている。このウレタン樹脂は主剤と硬化剤とからなり、JIS K2207による樹脂の硬度評価で、硬化後の針入度が50〜250で、より好ましくは80〜180となるような樹脂である。通常のウレタン樹脂では針入度は20以下程度である。このような樹脂に大量の粉体状マイクロカプセルを混ぜて硬化した場合、もろくなりシート形状が保ちにくくなる。一方、針入度が大きすぎる場合は、ウレタン樹脂の強度が小さく、シート形状を維持することが困難になる。これに対して実施の形態1では、針入度が50〜250となるようなウレタン樹脂を用いているので、粉体状マイクロカプセル11の割合を重量比で40%以上としてもシート状に成形することができる。
【0023】
実施の形態1では蓄熱シート用ペースト17中の粉体状マイクロカプセル11の割合を重量比で約70%とし、樹脂12の割合を約30%としている。
【0024】
蓄熱シート用ペースト17を、
図4Aと
図4Bに示すように、ロール成形機を用いて絶縁シート14と成形シート18の間にはさんで厚さ約0.6mmの厚みを有するシートに成形する。
【0025】
絶縁シート14は厚さ約10μmのPETフィルムである。蓄熱シート13を成形する面13Aは、コロナ処理を施すことにより水酸基あるいはカルボキシル基等の極性基を形成することにより極性化され、さらに凹凸が形成されている。これにより、絶縁シート14の面14Aは樹脂12に対する濡れ性が高くなり、蓄熱シート13を成形したときに樹脂12が絶縁シート14の面14Aに沿って広がる。これにより、蓄熱シート13の絶縁シート14と接する面13Bには、粉体状マイクロカプセル11が存在しない厚さ5〜10μm程度の層13D(
図1B)が形成される。したがって、樹脂12を硬化させることにより、蓄熱シート13と絶縁シート14とを強固に接合させることができ、かつ蓄熱シート13と絶縁シート14の間での熱伝導性を高くすることができる。
【0026】
成形シート18は、絶縁シート14と同様に約10μmの厚さのPETフィルム等の絶縁シートであってもよい。これにより、成形シート18を最終的に保護フィルムとして機能させることができる。あるいは、成形シート18を離型性フィルムで構成することにより、断熱シート1001を実装した後に剥離することにより、蓄熱シート13を露出させることができる。
【0027】
次に、蓄熱シート13が積層された絶縁シート14を90℃の乾燥機に約20時間入れ、蓄熱シート13を硬化させる。この硬化のときに、粉体状マイクロカプセル11に付着していた水分が蓄熱シート13の外に出ようとして蓄熱シート13に空隙13Cを形成する。したがって、粉体状マイクロカプセル11の含水率が低すぎると十分な空隙13Cを形成することができず、逆に含水率が高すぎると蒸発した水分の逃げ場がなくなり、成形シート18と蓄熱シート13との間で過剰に多くの気泡が出て外観を損ねたり、樹脂12が十分硬化しなかったりする可能性がある。したがって、粉体状マイクロカプセル11の含水率を好ましくは0.4%以上かつ2%以下、より好ましくは0.4%以上かつ1%以下に調整する。
【0028】
次に、
図4Cに示すように、硬化した蓄熱シート13が積層した絶縁シート14を蓄熱シート13と共に金型で所定の形状に切断する。
【0029】
次に、絶縁シート14の面14Bに高熱伝導シート15を貼り合わせることにより
図4Dに示す断熱シート1001を得ることができる。高熱伝導シート15は約25μmの厚さの熱分解グラファイトシートよりなり、高熱伝導シート15の面15Aに設けた両面接着性テープにより絶縁シート14の面14Bに貼り合わせている。
【0030】
高熱伝導シート15の面15Bに絶縁シート16を貼り合わせていることが望ましい。この場合、面15Bに絶縁シート16を予め貼り合わせた高熱伝導シート15を絶縁シート14の面14Bに貼り合わせることが好ましい。これにより、取り扱い時に高熱伝導シート15を保護することができる。絶縁シート16は両面接着性テープであってもよい。これにより、発熱部品19と高熱伝導シート15とを密着させることができ、高熱伝導シート15の性能をより発揮させることができる。
【0031】
図5Aは実施の形態2における断熱シート2001の斜視図である。
図5Bは断熱シート2001の拡大断面図である。
図5Cは断熱シート2001の拡大斜視図である。絶縁シート114は、面114Aと、面114Aの反対側の面114Bとを有する。断熱シート2001は、絶縁シート114と、絶縁シート114の面114Aに接合する蓄熱シート113と、絶縁シート114の面114Bに接合する高熱伝導シート116とを備える。高熱伝導シート116は、絶縁シート114の面114Bに接合する面116Aと、面116Aの反対側の面116Bとを有する。断熱シート
2001は、高熱伝導シート116の面116Bに接合する絶縁シート118をさらに備えてもよい。
【0032】
蓄熱シート113は、樹脂112と、樹脂112に混合されてかつ潜熱蓄熱剤を内包する粉体状マイクロカプセル111とを含有する。
図5Dは粉体状マイクロカプセル111の断面図である。粉体状マイクロカプセル111は、複数の球体のカプセル111Aと、複数のカプセル111Aにそれぞれ封入された潜熱蓄熱剤111Bよりなる。実施の形態2ではカプセル111Aはホルマリン樹脂よりなる。実施の形態2では、潜熱蓄熱剤111Bは、融点が約39℃のパラフィンである。カプセル111Aは1μm〜3μm程度の直径D1の球体である。粉体状マイクロカプセル111は、凝集している複数のカプセル111Aにより形成された50μm程度の直径D2を有する二次粒子である。粉体状マイクロカプセル111を樹脂112と混ぜ合わせてシート状に成形することにより約0.6mmの厚さの蓄熱シート113を構成している。樹脂112は例えばウレタン樹脂を用いている。ウレタン樹脂を用いることにより、粉体状マイクロカプセル111の量を多くしても、マイクロカプセル111をつぶさずに混合することができ、さらに蓄熱シート113に柔軟性を与えることができる。
【0033】
蓄熱シート113中の粉体状マイクロカプセル111の割合は重量比で約70%である。蓄熱シート113中の粉体状マイクロカプセル111の割合を多くするほど蓄熱シート113は熱伝導性を高くすることができる。その割合が重量比で90%を超えると混練が困難になり、またシートとしての強度、形状を保つことが難しくなる。一方、粉体状マイクロカプセル111の割合が重量比で40%未満になると二次粒子である粉体状マイクロカプセル111が互いに離れて樹脂112の中に浮かんでいる状態となるので蓄熱シート113の蓄熱性が低くなり、蓄熱シート113としての性能を発揮しにくくなる。実施の形態2ではその割合を40%以上とすることにより、粉体状マイクロカプセル111が互いに接触している状態となるので、速やかに蓄熱シート113全体に熱を伝えることができる。以上より、蓄熱シート113の中の粉体状マイクロカプセル111の割合を、好ましくは重量比で40%〜90%、より好ましくは50〜90%とする。
【0034】
通常、ウレタン樹脂と粉体状マイクロカプセル111とを混合して形成されたシートの表面粗さは0.02μm程度である。実施の形態2では、蓄熱シート113の表面粗さRaを約5μmとしている。これにより、蓄熱シート113の表面積を大きくすることができ、蓄熱シート113の表面からより多くの熱を輻射することにより、断熱シート2001の温度が上昇することを抑制することができる。蓄熱シート113の表面粗さRaが2μmより小さくなると輻射される熱の量が少なくなり、表面粗さRaが20μmより大きくなるとシートを安定して形成することが難しくなる。したがって、蓄熱シート113の表面粗さRaは2μm以上かつ20μm以下とすることが望ましい。これにより、60℃における蓄熱シート113の表面から輻射される熱放射率を80%以上とすることができる。断熱シート2001に熱的に接続されている発熱部品から出た熱は、蓄熱シート113に蓄えられると同時に放熱されるので、発熱部品が連続して動作しても発熱部品の温度上昇を抑制することができる。
【0035】
蓄熱シート113の面113Bには絶縁シート114の面114Aが貼り合わされている。実施の形態2では、絶縁シート114は約10μmの厚さのポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記す)からなる。絶縁シート114の面114B上にはアクリル系樹脂からなる粘着材を介して高熱伝導シート116の面116Aが貼り合わされている。高熱伝導シート116としては、例えば約25μmの厚さの熱分解グラファイトシートが用いられる。なお、高熱伝導シート116としては、熱分解グラファイトシート以外に、銅フィルム、アルミニウムフィルム等のように100W/m・K以上の熱伝導率を有する材料を用いることができる。グラファイトシートは面116A、116Bと平行な方向である面方向の熱伝導率が約1600W/m・Kと、これら金属フィルムよりも面方向にはるかに高い熱伝導率を有し、柔軟性が大きいので、高熱伝導シート116としてグラファイトシートを用いることがより望ましい。
【0036】
なお、蓄熱シート113と絶縁シート114とを貼り合わせるとは、結果として蓄熱シート113と絶縁シート114とが貼り合わされたことを意味する。蓄熱シート13を形成した後に絶縁シート114を貼り合わせてもよい。あるいは絶縁シート114の面114A上に蓄熱シート113を成形してもよい。
【0037】
図6は断熱シート2001を使用した機器2002の断面図である。機器2002は、基板120と、基板120に実装したIC等の発熱部品119と、発熱部品119にサーマルインターフェイスマテリアル119Aを介して熱的に接続されたシールドケース121と、断熱シート2001とを備える。シールドケース121の上に断熱シート2001の高熱伝導シート116の面116Bが両面接着性テープである絶縁シート118を介して貼り合わされている。この構成により、発熱部品119で発生した熱はシールドケース121を通じて高熱伝導シート116に伝わり、高熱伝導シート116の面方向に拡散される。高熱伝導シート116全体が蓄熱シート113と確実に貼り合わされているので、スムースに蓄熱シート113全体に熱が伝わる。蓄熱シート113に伝わった熱は、潜熱蓄熱剤111Bが所定の温度になると潜熱蓄熱剤111Bを融解させるために消費されるので、蓄熱シート113の温度上昇を遅延させることができる。これにより、特に発熱部品119の急激な発熱に対して対処することができる。蓄熱シート113の表面は、その表面粗さを所定の大きさにすることにより表面積が大きくなっており、この表面から赤外線を輻射することにより熱を逃がすことができ、発熱部品119の温度を下げることができる。
【0038】
図7は実施の形態2における断熱シート2001を使用した機器2002での発熱部品119の温度T119を示す。
図7は、
図9に示す従来の電子機器500での発熱部品2の温度T2を併せて示す。実施の形態2における機器2002は従来の電子機器500よりも発熱の初期段階で温度上昇の傾きを小さくできるとともに、長時間発熱したときに到達する温度を低くすることができる。
【0039】
実施の形態
2において、複数のカプセル111Aに封入された潜熱蓄熱剤111Bの融点は約39℃とほぼ同じである。一種類の粉体状マイクロカプセル111ではなく、例えば融点が約39℃の潜熱蓄熱剤111Bを封入した粉体状マイクロカプセル111と、約60℃の潜熱蓄熱剤111Bを封入した粉体状マイクロカプセル111とが樹脂112と混合されて蓄熱シート113を構成してもよい。これにより、発熱部品119の温度が急激に上昇することをより抑制することができる。
【0040】
次に、断熱シート2001の製造方法について説明する。
図8Aから
図8Dは断熱シート2001の製造方法を示す概要図である。
【0041】
まず、粉体状マイクロカプセル111と樹脂112とを混合し、蓄熱シート用ペースト117を得る。
【0042】
樹脂112としてはウレタン樹脂を用いている。このウレタン樹脂は主剤と硬化剤とからなり、JIS K2207による樹脂の硬度評価で、硬化後の針入度が50〜250で、より好ましくは80〜180となるような樹脂である。通常のウレタン樹脂では針入度は20以下程度である。このような樹脂に大量の粉体状マイクロカプセルを混ぜて硬化した場合、もろくなりシート形状が保ちにくくなる。一方、針入度が大きすぎる場合は、ウレタン樹脂の強度が小さく、シート形状を維持することが困難になる。これに対して実施の形態2では、針入度が50〜250より好ましくは80〜180となるようなウレタン樹脂を用いているので、粉体状マイクロカプセル111の割合を重量比で40%以上としてもシート状に成形することができる。樹脂112の架橋速度は約600分である。架橋速度とは、主剤と硬化剤とを混合した後、常温で放置したとき、その粘度が混合直後より3倍になるまでの時間をいう。
【0043】
実施の形態2では蓄熱シート用ペースト117中の粉体状マイクロカプセル111の割合を重量比で約70%とし、樹脂112の割合を約30%としている。
【0044】
蓄熱シート用ペースト117を、
図8Aと
図8Bに示すように、ロール成形機を用いて絶縁シート114の面
114Aと成形シート115の面
115Bとの間にはさんで厚さ約0.6mmの厚みを有するシートに成形する。これにより、蓄熱シート用ペースト117よりなる蓄熱シート113は絶縁シート114の面
114Aと成形シート115の面
115Bとに当接する。
【0045】
絶縁シート114は厚さ約5μmのPETフィルムである。蓄熱シート113を成形する面113Aは、コロナ処理を施すことにより水酸基あるいはカルボキシル基等の極性基を形成することにより極性化され、さらに凹凸が形成されている。これにより、絶縁シート114の面114Aは樹脂112に対する濡れ性が高くなり、蓄熱シート113を成形したときに樹脂112が絶縁シート114の面114Aに沿って広がる。これにより、蓄熱シート113の絶縁シート114と接する面113Bには、粉体状マイクロカプセル111が存在しない厚さ5〜10μm程度の層113D(
図5B)が形成される。したがって、樹脂112を硬化させることにより、蓄熱シート113と絶縁シート114とを強固に接合させることができ、かつ蓄熱シート113と絶縁シート114の間での熱伝導性を高くすることができる。
【0046】
成形シート115は約10μmの厚さを有するPETフィルムよりなる。成形シート115の蓄熱シート用ペースト117と接する面115Bの水に対する接触角は約70°である。
【0047】
次に、積層された絶縁シート114と蓄熱シート用ペースト117と成形シート115を、成形シート115を上にした状態で90℃の乾燥機に約12時間入れ、蓄熱シート用ペースト117を加熱して硬化させて蓄熱シート113を得る。その後、成形シート115を蓄熱シート113の面113Aから剥離する。その後、
図8Cに示すように、積層された絶縁シート114と蓄熱シート113を金型により所定の形状に切断する。ただし、積層された絶縁シート114と蓄熱シート113を所定の形状に切断した後、成形シート115を剥離しても構わない。
【0048】
粉体状マイクロカプセル111の表面に微量のパラフィンが残留する場合がある。また、粉体状マイクロカプセル111と樹脂112とを混合したときに、粉体状マイクロカプセル111Aの一部が破壊されて内部のパラフィンが出てくる場合がある。このように、蓄熱シート用ペースト117の樹脂112にはこれらの微量のパラフィンが残留する場合がある。この場合に、蓄熱シート用ペースト117を約90℃の乾燥機に入れて硬化させて蓄熱シート113を形成すると、高い温度ではパラフィンが溶けて蓄熱シート113の表面に析出しやすい。パラフィンの密度は約0.9g/cm
3であり、実施の形態2では樹脂112の密度は約0.934g/cm
3であるので、パラフィンが蓄熱シート113の上方の面に析出しやすい。
【0049】
実施の形態2では、成形シート115の蓄熱シート用ペースト117と接する面115Bの水に対する接触角を約70°としている。したがって、蓄熱シート用ペースト117(蓄熱シート113)の表面に析出したパラフィンに対する成形シート115の面115Bの濡れ性が高く、成形シート115を剥離するときに表面のパラフィンも同時に蓄熱シート113の面113Aから剥離することができる。これにより蓄熱シート113の面113Aに凹凸ができ、蓄熱シート113の面113Aの表面粗さRaを2μm以上かつ20μm以下とすることができる。蓄熱シート113の中にパラフィンが残っていると、機器2002の中が高温になったときにパラフィンが周辺に飛び散り、機器2002の中を汚染する可能性がある。実施の形態2では、蓄熱シート113の中に残留するパラフィンの量を大幅に低減することができ、機器2002への影響をなくすることができる。また蓄熱シート113の面113Bの表面粗さを大きくしているので、放熱性を高め、連続して動作しても発熱部品119の温度上昇を抑制することができる。
【0050】
成形シート115の蓄熱シート用ペースト117と接する面115Bの水に対する接触角は60°以上かつ75°以下とすることが望ましい。接触角が75°を超えるとパラフィンからの剥離性が高まり、パラフィンを面113Aから除去する効果が小さくなり、接触各が60°より小さくなるとパラフィンが面113Aに過度に強固に密着し、成形シート115を剥離するときに、蓄熱シート113を破損してしまう可能性がある。また、絶縁シート114の蓄熱シート用ペースト117と接する面114Aの水に対する接触角を、成形シート115の面115Bの水に対する接触角よりも小さくすることが望ましい。これにより成形シート115をスムースに蓄熱シート113から剥離することができる。
【0051】
成形シート115の厚さは5μm以上かつ30μm以下とすることが望ましい。成形シート115の厚さが5μmより薄くなると剥離時に成形シート115が破損しやすくなり、暑さが30μmを超えると剥離しにくくなる。
【0052】
樹脂112の架橋速度は200分以上かつ1500分以下とすることが望ましい。架橋速度が200分よりも短くなると蓄熱シート用ペースト117の硬化時にパラフィンが十分に表面に析出しにくくなり、架橋速度が1500分を超えると断熱シート2001の生産性が低くなる。
【0053】
次に、絶縁シート114の面114Bに高熱伝導シート116を貼り合わせることにより
図8Dに示す断熱シート2001を得ることができる。高熱伝導シート116は約25μmの厚さの熱分解グラファイトシートよりなり、高熱伝導シート116の面116Aに設けた両面接着性テープにより絶縁シート114の面114Bに貼り合わせている。
【0054】
高熱伝導シート116の面116Bに絶縁シート118を貼り合わせていることが望ましい。この場合、面116Bに絶縁シート118を予め貼り合わせた高熱伝導シート116を絶縁シート114の面114Bに貼り合わせることが好ましい。これにより、取り扱い時に高熱伝導シート116を保護することができる。絶縁シート118は両面接着性テープであってもよい。これにより、発熱部品119と高熱伝導シート116とを密着させることができ、高熱伝導シート116の性能をより発揮させることができる。