(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔実施例1〕
[全体構成]
図1は、実施例1のハイブリッド車両の駆動系およびその全体制御システムを示す概略系統図である。
図1のハイブリッド車両は、エンジン1および電動モータ(電動機)2を動力源として搭載され、エンジン1は、スタータモータ3により始動する。エンジン1は、Vベルト式の無段変速機(変速機)4を介して駆動輪5に適宜切り離し可能に駆動結合する。
【0009】
無段変速機4のバリエータCVTは、プライマリプーリ6と、セカンダリプーリ7と、これらプーリ6,7間に掛け渡したVベルト8とからなるVベルト式無段変速機構である。なお、Vベルト8は複数のエレメントを無端ベルトによって束ねる構成を採用したが、チェーン方式等であってもよく特に限定しない。プライマリプーリ6はトルクコンバータT/Cを介してエンジン1のクランクシャフトに結合し、セカンダリプーリ7はクラッチCLおよび変速機用最終減速ギヤ9を順次介して駆動輪5と結合されたリングギヤ52に結合する。なお、実施例1にあっては、動力伝達経路を断接する要素(クラッチやブレーキ等)を総称してクラッチと記載する。
図1は、動力伝達経路を概念的に示すものであり、後述する副変速機31内に設けられたハイクラッチH/C,リバースブレーキR/BおよびローブレーキL/Bを、総称してクラッチCLと記載している。クラッチCLが締結状態のとき、エンジン1からの動力はトルクコンバータT/Cを経てプライマリプーリ6へ入力され、その後Vベルト8、セカンダリプーリ7、クラッチCLおよび変速機用最終減速ギヤ9を順次経て駆動輪5に達し、ハイブリッド車両の走行に供される。
【0010】
エンジン動力伝達中、プライマリプーリ6のプーリV溝幅を小さくしつつ、セカンダリプーリ7のプーリV溝幅を大きくすることで、Vベルト8とプライマリプーリ6との巻き掛け円弧径を大きくすると同時にセカンダリプーリ7との巻き掛け円弧径を小さくする。これにより、バリエータCVTはHigh側プーリ比(High側変速比)へのアップシフトを行う。High側変速比へのアップシフトを限界まで行った場合、変速比は最高変速比に設定される。
【0011】
逆にプライマリプーリ6のプーリV溝幅を大きくしつつ、セカンダリプーリ7のプーリV溝幅を小さくすることで、Vベルト8とプライマリプーリ6との巻き掛け円弧径を小さくすると同時にセカンダリプーリ7との巻き掛け円弧径を大きくする。これにより、バリエータCVTはLow側プーリ比(Low側変速比)へのダウンシフトを行う。Low側変速比へのダウンシフトを限界まで行った場合、変速は最低変速比に設定される。
【0012】
バリエータCVTは、プライマリプーリ6の回転数を検出するプライマリ回転数センサ6aと、セカンダリプーリ7の回転数を検出するセカンダリ回転数センサ7aとを有し、これら両回転数センサにより検出された回転数に基づいて実変速比を算出し、この実変速比が目標変速比となるように各プーリの油圧制御等が行われる。
【0013】
電動モータ2は減速機構11を介して駆動輪5と結合されたリングギヤ52に常時結合され、この電動モータ2は、バッテリ12の電力によりインバータ13を介して駆動される。
インバータ13は、バッテリ12の直流電力を交流電力に変換して電動モータ2へ供給すると共に、電動モータ2への供給電力を加減することにより、電動モータ2を駆動力制御および回転方向制御する。
なお電動モータ2は、上記のモータ駆動のほかに発電機としても機能し、回生制動の用にも供する。この回生制動時はインバータ13が、電動モータ2に回生制動力分の発電負荷をかけることにより、電動モータ2を発電機として作用させ、電動モータ2の発電電力をバッテリ12に蓄電する。
【0014】
実施例1のハイブリッド車両は、クラッチCLを解放すると共にエンジン1を停止させた状態で電動モータ2を駆動することで、電動モータ2の動力のみが減速機構11を経て駆動輪5に達し、電動モータ2のみによる電気走行モード(EVモード)で走行を行う。この間、クラッチCLを解放することで、停止状態のエンジン1およびバリエータCVTのフリクションを低減し、EV走行中の無駄な電力消費を抑制する。
【0015】
上記のEVモードによる走行状態において、エンジン1をスタータモータ3により始動させると共にクラッチCLを締結させると、エンジン1からの動力がトルクコンバータT/C、プライマリプーリ6、Vベルト8、セカンダリプーリ7、クラッチCLおよび変速機用最終減速ギヤ9を順次経て駆動輪5に達するようになり、ハイブリッド車両はエンジン1および電動モータ2によるハイブリッド走行モード(HEVモード)で走行する。
【0016】
ハイブリッド車両を上記の走行状態から停車させる、もしくは、この停車状態に保つに際しては、駆動輪5と共に回転するブレーキディスク14をキャリパ15により挟圧して制動することで目的を達する。または、電動モータ2を発電機として作用させ、回生制動により目的を達成してもよい。キャリパ15は、運転者が踏み込むブレーキペダル16の踏力に応動する負圧式ブレーキブースタ17による倍力下で、ブレーキペダル踏力対応のブレーキ液圧を出力するマスタシリンダ18に接続されている。マスタシリンダ18により発生したブレーキ液圧によりキャリパ15を作動させてブレーキディスク14の制動を行う。ハイブリッド車両はEVモードおよびHEVモードのいずれにおいても、運転者がアクセルペダル19を踏み込んで指令する駆動力指令に応じたトルクで駆動輪5を駆動し、運転者の要求に応じた駆動力をもって走行する。
【0017】
ハイブリッドコントローラ21は、ハイブリッド車両の走行モード選択と、エンジン1の出力制御と、電動モータ2の回転方向制御および出力制御と、バリエータCVTの変速制御と、副変速機31の変速制御およびクラッチCLの締結、解放制御と、バッテリ12の充放電制御とを実行する。このとき、ハイブリッドコントローラ21は、対応するエンジンコントローラ22、モータコントローラ23、変速機コントローラ24、およびバッテリコントローラ25を介してこれら制御を行う。
【0018】
ハイブリッドコントローラ21には、ブレーキペダル16を踏み込む制動時にOFFからONに切り替わる常開スイッチであるブレーキスイッチ26からの信号と、アクセルペダル踏み込み量(アクセルペダル開度)APOを検出するアクセルペダル開度センサ27からの信号とが入力される。ハイブリッドコントローラ21はさらに、エンジンコントローラ22、モータコントローラ23、変速機コントローラ24、およびバッテリコントローラ25との間で、内部情報のやり取りを行う。
【0019】
エンジンコントローラ22は、ハイブリッドコントローラ21からの指令に応答して、エンジン1を出力制御し、モータコントローラ23は、ハイブリッドコントローラ21からの指令に応答してインバータ13を介し電動モータ2の回転方向制御および出力制御を行う。変速機コントローラ24は、ハイブリッドコントローラ21からの指令に応答し、エンジン駆動される機械式オイルポンプO/P(もしくはポンプ用モータに駆動される電動式オイルポンプEO/P)からのCVTフルードを媒体として、バリエータCVT(Vベルト式無段変速機構CVT)の変速制御および副変速機31の変速制御およびクラッチCLの締結、解放制御を行う。バッテリコントローラ25は、ハイブリッドコントローラ21からの指令に応答し、バッテリ12の充放電制御を行う。
【0020】
[無段変速機の構成]
図2(a)は、実施例1のハイブリッド車両の駆動系およびその全体制御システムを示す概略系統図であり、
図2(b)は、実施例1のハイブリッド車両の駆動系における無段変速機4に内蔵された副変速機31内におけるクラッチCL(具体的には、H/C, R/B, L/B)の締結論理図である。
図2(a)に示すように、副変速機31は、複合サンギヤ31s-1および31s-2と、インナピニオン31pinと、アウタピニオン31poutと、リングギヤ31rと、ピニオン31pin, 31poutを回転自在に支持したキャリア31cとからなるラビニョオ型プラネタリギヤセットで構成する。
【0021】
複合サンギヤ31s-1および31s-2のうち、サンギヤ31s-1は入力回転メンバとして作用するようセカンダリプーリ7に結合し、サンギヤ31s-2はセカンダリプーリ7に対し同軸に配置するが自由に回転し得るようにする。
サンギヤ31s-1にインナピニオン31pinを噛合させ、このインナピニオン31pinおよびサンギヤ31s-2をそれぞれアウタピニオン31poutに噛合させる。
アウタピニオン31poutはリングギヤ31rの内周に噛合させ、キャリア31cを出力回転メンバとして作用するよう変速機用最終減速ギヤ9に結合する。
キャリア31cとリングギヤ31rとをクラッチCLであるハイクラッチH/Cにより適宜結合可能となし、リングギヤ31rをクラッチCLであるリバースブレーキR/Bにより適宜固定可能となし、サンギヤ31s-2をクラッチCLであるローブレーキL/Bにより適宜固定可能となす。
【0022】
副変速機31は、ハイクラッチH/C、リバースブレーキR/BおよびローブレーキL/Bを、
図2(b)に○印により示す組み合わせで締結させ、それ以外を
図2(b)に×印で示すように解放させることにより前進第1速、第2速、後退の変速段を選択することができる。ハイクラッチH/C、リバースブレーキR/BおよびローブレーキL/Bを全て解放すると、副変速機31は動力伝達を行わない中立状態であり、この状態でローブレーキL/Bを締結すると、副変速機31は前進第1速選択(減速)状態となり、ハイクラッチH/Cを締結すると、副変速機31は前進第2速選択(直結)状態となり、リバースブレーキR/Bを締結すると、副変速機31は後退選択(逆転)状態となる。
図2(a)の無段変速機4は、全てのクラッチCL(H/C, R/B, L/B)を解放して副変速機31を中立状態にすることで、バリエータCVT(セカンダリプーリ7)と駆動輪5との間を切り離すことができる。
【0023】
図2(a)の無段変速機4は、エンジン駆動される機械式オイルポンプO/Pもしくはポンプ用モータに駆動される電動式オイルポンプEO/Pからのオイルを作動媒体として制御されるもので、変速機コントローラ24がライン圧ソレノイド35、ロックアップソレノイド36、プライマリプーリ圧ソレノイド37-1、セカンダリプーリ圧ソレノイド37-2、ローブレーキ圧ソレノイド38、ハイクラッチ圧&リバースブレーキ圧ソレノイド39およびスイッチバルブ41を介し、バリエータCVTの当該制御を以下のように制御する。なお、変速機コントローラ24には、
図1につき前述した信号に加えて、車速VSPを検出する車速センサ32からの信号、および車両加減速度Gを検出する加速度センサ33からの信号を入力する。
【0024】
ライン圧ソレノイド35は、変速機コントローラ24からの指令に応動し、機械式オイルポンプO/Pからのオイルを車両要求駆動力対応のライン圧PLに調圧する。また、機械式オイルポンプO/Pとライン圧ソレノイド35との間には電動式オイルポンプEO/Pが接続されており、変速機コントローラ24からの指令に応動してポンプ吐出圧を供給する。
ロックアップソレノイド36は、変速機コントローラ24からのロックアップ指令に応動し、ライン圧PLを適宜トルクコンバータT/Cに向かわせることで、トルクコンバータT/Cを所要に応じて入出力要素間が直結されたロックアップ状態にする。
【0025】
プライマリプーリ圧ソレノイド37-1は、変速機コントローラ24からのCVT変速比指令に応動してライン圧PLをプライマリプーリ圧に調圧し、これをプライマリプーリ6へ供給することにより、プライマリプーリ6のV溝幅と、セカンダリプーリ7のV溝幅とを、CVT変速比が変速機コントローラ24からの指令に一致するよう制御して変速機コントローラ24からのCVT変速比指令を実現する。
セカンダリプーリ圧ソレノイド37-2は、変速機コントローラ24からのクランプ力指令に応じてライン圧PLをセカンダリプーリ圧に調圧し、これをセカンダリプーリ7に供給することにより、セカンダリプーリ7がVベルト8をスリップしないよう挟圧する。
【0026】
ローブレーキ圧ソレノイド38は、変速機コントローラ24が副変速機31の第1速選択指令を発しているとき、ライン圧PLをローブレーキ圧としてローブレーキL/Bに供給することによりこれを締結させ、第1速選択指令を実現する。
ハイクラッチ圧&リバースブレーキ圧ソレノイド39は、変速機コントローラ24が副変速機31の第2速選択指令または後退選択指令を発しているとき、ライン圧PLをハイクラッチ圧&リバースブレーキ圧としてスイッチバルブ41に供給する。
【0027】
実施例1の電動式オイルポンプEO/Pの最大吐出能力は、機械式オイルポンプO/Pに比べて小さく設定されており、バリエータCVTを変速させる程度の吐出能力は有しておらず、変速比を維持する程度の吐出能力、もしくは潤滑油を供給する程度の吐出能力を確保することで、電動式オイルポンプEO/Pのモータおよびポンプの小型化を図っている。
第2速選択指令時はスイッチバルブ41が、リバースブレーキ圧ソレノイド39からのライン圧PLをハイクラッチ圧としてハイクラッチH/Cに向かわせ、これを締結することで副変速機31の第2速選択指令を実現する。
後退選択指令時はスイッチバルブ41が、リバースブレーキ圧ソレノイド39からのライン圧PLをリバースブレーキ圧としてリバースブレーキR/Bに向かわせ、これを締結することで副変速機31の後退選択指令を実現する。
【0028】
[最終減速ギヤの配置]
図3は、実施例1の変速機ケース50の下部を車両側方(車両後方から向かって右側)から見た模式図である。
図3では、各ギヤの噛み合いピッチ円を図示している。
無段変速機4の外周を覆う変速機ケース50の下部には、デファレンシャル51と電動モータ2の減速機構11と副変速機31(
図2参照)と変速機用最終減速ギヤ9とが収容されている。
デファレンシャル51は、変速機ケース50の最下部に配置されている。デファレンシャル51は、リングギヤ52と、リングギヤ52の軸方向一方側にリングギヤ52と一体に設けられたデフケース53と、デフケース53の内部に設けられ、ピニオンシャフト、ピニオンギヤおよび左右サイドギヤで形成される差動機構部(不図示)とを有する。左右サイドギヤは、左右のドライブシャフト54と結合されている。変速機ケース50内の最下部に貯留されるCVTフルード(以下、潤滑油)Lの油面OLは、リングギヤ52の回転中心O
1と同じ高さに設定されている。すなわち、油面OLは、リングギヤ52およびデフケース53の下側半分が浸かる高さに設定されている。
【0029】
減速機構11は、変速機ケース50の下部であって、デファレンシャル51よりも上方の位置に配置されている。減速機構11は、電動機用最終減速ギヤ55と電動機用ギヤ列56とを備える。電動機用最終減速ギヤ55は、デファレンシャル51のリングギヤ52と噛み合う。電動機用ギヤ列56は、互いに噛み合った2個のギヤ(第1ギヤ56a、第2ギヤ56b)を有するギヤ列である。第1ギヤ56aは、第1回転軸57aにより電動機用最終減速ギヤ55と結合されている。電動機用最終減速ギヤ55の回転中心O
2は、リングギヤ52の回転中心O
1よりも上方かつ前方に配置されている。第2ギヤ56bは、第2回転軸57bにより第3ギヤ56cと結合されている。第3ギヤ56cの回転中心O
3は、電動機用最終減速ギヤ55の回転中心O
2よりも上方に配置されている。第3ギヤ56cは、電動モータ2のモータ出力軸2aと結合されたピニオン2bと噛み合う。ピニオン2bの回転中心O
4は、第3ギヤ56cの回転中心O
3よりも上方に配置されている。第1ギヤ56aおよび第2ギヤ56bは、リングギヤ52および電動機用最終減速ギヤ55よりも軸方向一方側(リングギヤ52に対してデフケース53側)の位置に配置されている。第3ギヤ56cおよびピニオン2bは、第1ギヤ56aおよび第2ギヤ56bよりも軸方向一方側の位置に配置されている。
【0030】
変速機用最終減速ギヤ9は、変速機ケース50の下部であって、デファレンシャル51よりも上方、かつ、減速機構11よりも後方の位置に配置されている。変速機用最終減速ギヤ9は、第3回転軸57cにより副変速機31のキャリア31cと結合されている。第3回転軸57cの内部には、第3回転軸57cの軸方向に沿って軸心潤滑油路58が設けられている。軸心潤滑油路58は、変速機用最終減速ギヤ9の回転中心O
5に対して偏心した位置に配置されている。軸心潤滑油路58には、第3回転軸57cに設けられた図外の径方向油路が接続されている。機械式オイルポンプO/Pまたは電動式オイルポンプEO/Pから軸心潤滑油路58に供給された潤滑油は、遠心力により径方向油路を通過して変速機用最終減速ギヤ9の潤滑に供される。
【0031】
図3において、リングギヤ52の回転中心O
1を原点として車両前後方向をx軸(車両前方側が正方向)、車両上下方向をz軸(車両上方側が正方向)とする平面座標を規定すると、リングギヤ52の噛み合いピッチ円と変速機用最終減速ギヤ9の噛み合いピッチ円との接点、すなわち、リングギヤ52と変速機用最終減速ギヤ9との噛み合い点Aは、第2象限(x<0,z>0)内に配置されている。また、電動機用最終減速ギヤ55は、変速機用最終減速ギヤ9とリングギヤ52との噛み合いピッチ円の接線(噛み合い接線)上に配置されている。
なお、
図3において、各ギヤの外側に記載された矢印は、車両前進時の回転方向を示すものである。すなわち、車両前進時には、リングギヤ52と第2ギヤ56bは
図3の右回り(時計回り)に回転し、電動機用最終減速ギヤ55とピニオン2bと変速機用最終減速ギヤ9は左回り(反時計回り)に回転する。
【0032】
次に、作用を説明する。
[軸心潤滑の余剰油の再利用]
従来、無段変速機とクラッチを介して結合された最終減速ギヤをデファレンシャルのリングギヤと噛み合わせると共に、最終減速ギヤに電動機を結合することで、最終減速ギヤに変速機用の最終減速ギヤ機能と電動機用の最終減速ギヤ機能とを持たせたハイブリッド車両が知られている。
ところが、上記従来技術は、実際の車両適用まで十分に考慮したものではないため、実際に車両適用する場合には、最終減速ギヤの設け方について検討の余地を残している。すなわち、実際に車両適用する際、レイアウト性、組み立て性または製造コスト等の様々な要求から、最終減速ギヤを変速機と電動機とで共通化するのではなく、それぞれ専用の最終減速ギヤを個別に設けることが必要となる場合がある。例えば、最終減速ギヤを個別に設けることで、既存のエンジン車の構造に対して電動機側の構成のみの追加で済むため、製造コストの観点から有利となる場合がある。
【0033】
変速機と電動機とで専用の最終減速ギヤを個別に設ける場合、変速機用最終減速ギヤと電動機用最終減速ギヤとを、リングギヤにそれぞれ噛み合わせることになるが、それらの噛み合わせ順をどうするのか、つまり、車両前進時のリングギヤの回転方向において、ケース内に貯留されている潤滑油内を通過したリングギヤの歯を変速機用最終減速ギヤの歯と電動機用最終減速ギヤの歯のどちらと先に噛み合わせるのかについて、潤滑性の観点から検討の余地が残されている。特に、変速機用最終減速ギヤは軸心潤滑油路を持つため、十分な潤滑性が得られるのに対し、軸心潤滑油路を持たない電動機用最終減速ギヤの潤滑性の向上が課題であり、変速機用最終減速ギヤの軸心潤滑の余剰油を電動機用最終減速ギヤの潤滑に再利用して欲しいとのニーズがある。
【0034】
そこで、実施例1では、車両前進時のリングギヤ52の回転方向において、変速機ケース50内に貯留されている潤滑油内を通過したリングギヤ52の歯が変速機用最終減速ギヤ9の歯よりも後で電動機用最終減速ギヤ55の歯と噛み合うように、リングギヤ52に対し、変速機用最終減速ギヤ9と電動機用最終減速ギヤ55とを配置した。すなわち、
図3において、車両前進時のリングギヤ52は右回りに回転する。このとき、リングギヤ52と変速機用最終減速ギヤ9との噛み合い点Aは、リングギヤ52と電動機用最終減速ギヤ55との噛み合い点Bよりも車両後方側に設けられているため、潤滑油内を通過したリングギヤ52の歯は、変速機用最終減速ギヤ9の歯よりも後で電動機用最終減速ギヤ55の歯と噛み合うこととなる。
【0035】
ここで、変速機用最終減速ギヤ9は、第3回転軸57cを介して副変速機31と結合されているため、変速機用最終減速ギヤ9を油面OLに近づけるほど副変速機31による潤滑油Lの撹拌抵抗が大きくなる。よって、変速機用最終減速ギヤ9は出来るだけ油面OLから離してレイアウトする必要が有り、実施例1では、変速機用最終減速ギヤ9を、z軸付近に配置している。このため、変速機用最終減速ギヤ9は、リングギヤ52の潤滑油掻き上げによる十分な潤滑を期待できない。そこで、実施例1では、変速機用最終減速ギヤ9に対し、軸心潤滑油路58による軸心潤滑を採用している。
【0036】
軸心潤滑油路58に供給され変速機用最終減速ギヤ9を潤滑した後に軸受などを通ってこぼれた潤滑油の一部(余剰分)は、リングギヤ52と変速機用最終減速ギヤ9との噛み合い点Aに巻き込まれる。このとき、巻き込まれた潤滑油は、あたかもギヤポンプのように吐出エネルギが与えられることで、噛み合い接線方向へと噴出され、電動機用最終減速ギヤ55および電動機用ギヤ列56に飛散することで、電動機用最終減速ギヤ55および電動機用ギヤ列56の潤滑に供される。よって、軸心潤滑油路58に供給された潤滑油の余剰分を電動機用最終減速ギヤ55および電動機用ギヤ列56の潤滑にために再利用でき、軸心潤滑油路を持たない電動機用最終減速ギヤ55および電動機用ギヤ列56の潤滑性を向上できる。
【0037】
また、リングギヤ52で掻き上げられた潤滑油においても、先ず変速機用最終減速ギヤ9の歯面に飛散し、その後リングギヤ52と変速機用最終減速ギヤ9との噛み合い点Aに巻き込まれ、上記のように噴出されることで、新たな潤滑経路を設けることなく電動機用最終減速ギヤ55および電動機用ギヤ列56の潤滑性をさらに向上させ、軸心潤滑の余剰油のみでは不足する分を補うことができる。
【0038】
実施例1では、リングギヤ52と変速機用最終減速ギヤ9との噛み合い点Aを、第2象限(x<0,z>0)内に配置した。これにより、リングギヤ52が掻き上げた潤滑油をリングギヤ52と変速機用最終減速ギヤ9との噛み合い点Aに送ることができるため、電動機用最終減速ギヤ55および電動機用ギヤ列56に噴出する潤滑油量を増大できる。つまり、電動機用最終減速ギヤ55および電動機用ギヤ列56の潤滑性をさらに向上できる。
【0039】
実施例1では、電動機用最終減速ギヤ55を、変速機用最終減速ギヤ9とリングギヤ52との接点(噛み合い点A)における接線上に配置した。上述したように、噛み合い点Aに巻き込まれるた潤滑油は、噛み合い接線方向へと噴出されるため、噛み合い接線上に電動機用最終減速ギヤ55を配置することで、噛み合い点Aから噴出した潤滑油の多くを供給できるため、電動機用最終減速ギヤ55および電動機用ギヤ列56の潤滑性をさらに向上できる。
【0040】
実施例1にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
(1) エンジン1と、エンジン1の出力軸に結合された無段変速機4と、無段変速機4の出力軸に結合されたクラッチCLと、クラッチCLの出力軸に結合された変速機用最終減速ギヤ9と、電動モータ2と、電動モータ2のモータ出力軸2aに結合された電動機用最終減速ギヤ55と、変速機用最終減速ギヤ9と電動機用最終減速ギヤ55との両方に噛み合うリングギヤ52を有するデファレンシャル51と、デファレンシャル51と結合された駆動輪5と、を備え、車両前進時のリングギヤ52の回転方向において、デファレンシャル51が収容された変速機ケース50内に貯留されている潤滑油内を通過したリングギヤ52の歯が変速機用最終減速ギヤ9の歯よりも後で電動機用最終減速ギヤ55の歯と噛み合うように、リングギヤ52に対し、変速機用最終減速ギヤ9と電動機用最終減速ギヤ55とを配置した。
よって、軸心潤滑油路58に供給された潤滑油の余剰分を電動機用最終減速ギヤ55および電動機用ギヤ列56の潤滑にために再利用でき、軸心潤滑油路を持たない電動機用最終減速ギヤ55および電動機用ギヤ列56の潤滑性を向上できる。
【0041】
(2) デファレンシャル51の回転中心0
1を原点とし、車両の前後方向と上下方向を座標軸とする平面座標を規定したとき、リングギヤ52と変速機用最終減速ギヤ9との噛み合い点Aを、前後方向が負となり、上下方向が正となる第2象限内に配置した。
よって、リングギヤ52が掻き上げた潤滑油をリングギヤ52と変速機用最終減速ギヤ9との噛み合い点Aに送ることができるため、電動機用最終減速ギヤ55および電動機用ギヤ列56に噴出する潤滑油量を増大できる。つまり、電動機用最終減速ギヤ55および電動機用ギヤ列56の潤滑性をさらに向上できる。
【0042】
(3) 電動機用最終減速ギヤ55を、変速機用最終減速ギヤ9とリングギヤ52との噛み合い接線の延長線上に配置した。
よって、噛み合い点Aから噴出した潤滑油の多くを電動機用最終減速ギヤ55および電動機用ギヤ列56に供給できるため、電動機用最終減速ギヤ55および電動機用ギヤ列56の潤滑性をさらに向上できる。
【0043】
〔他の実施例〕
以上、本願発明を実施例に基づいて説明したが、上記構成に限られず、他の構成であっても本願発明に含まれる。
例えば、変速機のケース内に貯留される潤滑油の油面は、少なくともリングギヤの一部が浸かる高さであれば良い。