特許第6435539号(P6435539)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6435539歯ブラシ用毛、その製造方法及び歯ブラシ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6435539
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】歯ブラシ用毛、その製造方法及び歯ブラシ
(51)【国際特許分類】
   A46D 1/00 20060101AFI20181203BHJP
【FI】
   A46D1/00 101
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-178830(P2011-178830)
(22)【出願日】2011年8月18日
(65)【公開番号】特開2013-39268(P2013-39268A)
(43)【公開日】2013年2月28日
【審査請求日】2014年6月17日
【審判番号】不服2017-10788(P2017-10788/J1)
【審判請求日】2017年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】小林 海之
【合議体】
【審判長】 久保 竜一
【審判官】 長馬 望
【審判官】 矢島 伸一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−82094(JP,A)
【文献】 特開2002−159345(JP,A)
【文献】 特開2005−131059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A46D 1/05
A46D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端から先端に向かって延びる略円柱状の胴部と、該胴部に延設された3〜5つの分岐部とを備え、該分岐部は先端に向かい漸次縮径する形状とされた歯ブラシ用毛において、
材質は、ポリエステルであり、
前記胴部は、前記分岐部の基端寄りに、前記分岐部に向かい漸次縮径する縮径部が形成され、
前記胴部の最大径は、100〜300μmであり、
前記縮径部の長さは、0.5〜15mmであり、
前記縮径部の最小径は、前記胴部の最大径の60〜95%であり、
前記胴部には、その長さ方向に延びる3〜5つの中空部が、前記胴部の中心軸回りに互いに離間して形成され、かつ、前記中心軸を含む領域には中空部が形成されておらず、
前記中空部は、前記中心軸に直交する断面形状が前記中心軸に頂角を向けた略二等辺三角形であり、
前記分岐部は、前記中空部同士の間の領域から突設され、
前記分岐部の外周面は、前記胴部の外周面及び前記中空部の内周面と面一に連なり、
前記分岐部の基端近傍の断面形状は、略二等辺三角形であり、
前記分岐部の先端径は、10〜60μmであり、
前記分岐部の長さは、0.5〜10mmであることを特徴とする歯ブラシ用毛。
【請求項2】
前記分岐部の断面形状は、先端に向かうに従い円形となることを特徴とする請求項1に記載の歯ブラシ用毛。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の歯ブラシ用毛が植毛されていることを特徴とする歯ブラシ。
【請求項4】
樹脂製の繊維を束ねて繊維束とし、この繊維束の任意の端面を鉛直下方に向け、前記任意の端面から任意の長さで前記繊維束を溶剤に浸漬する工程を有する請求項1又は2に記載の歯ブラシ用毛の製造方法であって、
前記繊維には、その長さ方向に延びる3〜5つの中空部が、前記繊維の中心軸回りに互いに離間して形成され、かつ、前記中心軸を含む領域には中空部が形成されておらず、
前記中空部は、前記中心軸に直交する断面形状が前記中心軸に頂角を向けた略二等辺三角形であり、
前記繊維束を前記溶剤に浸漬し、前記繊維の外周を溶剤が溶解すると共に、前記繊維同士の間及び中空部内を前記溶剤が這い上がりつつ前記繊維を溶解し、前記分岐部と前記縮径部とを形成することを特徴とする歯ブラシ用毛の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯ブラシ用毛、その製造方法及び歯ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な歯ブラシは、ハンドル部とこの先端部に設けられたヘッド部とを備えるハンドル体と、ヘッド部に複数の歯ブラシ用毛を束ねて植毛された毛束とを備えている。
歯ブラシ用毛としては、先端部が先端に向かい漸次縮径し先鋭化されたテーパー毛、基端から先端にかけて略同等の径のストレート毛等が知られている。中でも、テーパー毛は、歯頸部や歯間部等の狭小部に入り込めるため、歯周病予防に有効とされている。加えて、テーパー毛は、先端部が柔軟であるため、口腔内に優しい当たり心地を与える。
テーパー毛は、狭小部を良好に清掃でき、当たり心地が優しいものの、毛腰が軟らかいため、歯面や咬合面等の清掃実感に物足りなさを感じる場合がある。
【0003】
こうした問題に対し、先端部が分岐したいわゆる先端分岐毛が提案されている。
例えば、基端寄りの断面が三つ葉のクローバー型とされ、先端側が3つに分岐し、各分岐毛がテーパー状とされた刷毛が提案されている(例えば、特許文献1)。
また、互いに接着しない樹脂のスキン層とコア層からなる複合繊維で構成され、毛先を研磨して複数に分割したことを特徴とするブリッスル用繊維が提案されている(例えば、特許文献2)。
また、例えば、ポリエステル樹脂製の海部の中に、ポリアミド樹脂製の2〜5つの島部を散在させた海島型複合繊維であり、植毛基部から一定の長さにわたり島部と海部からなる複合部を有し、それより先側については、島部のみを露出させて2〜5本の芯毛が形成されたものが提案されている(例えば、特許文献3)。
あるいは、先端が複数に裂かれたブラシ用モノフィラメントが提案されている(例えば、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−169827号公報
【特許文献2】特開平9−98837号公報
【特許文献3】特開平9−322821号公報
【特許文献4】特開2006−207111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の発明は、歯ブラシ用毛を植毛面に植毛する際に、機械的な衝撃を受けて裂けて破損されすいという問題がある。特に、平線式植毛装置で歯ブラシ用毛を植毛する場合、歯ブラシ用毛を植毛機に供給する際、又は植毛面に歯ブラシ用毛を打ち込む際に、歯ブラシ用毛が裂けやすいという問題がある。特許文献2〜3の発明は、製造工程が煩雑であると共に高コストであるという問題がある。特許文献4の発明は、分岐部の長さや太さを制御するのが困難であるという問題がある。
加えて、歯ブラシ用毛には、歯面、咬合面及び狭小部の清掃性のさらなる向上が求められている。
そこで、本発明は、歯面、咬合面及び狭小部の清掃性に優れ、容易に製造でき、かつ歯ブラシの製造適性に優れる歯ブラシ用毛を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の歯ブラシ用毛は、基端から先端に向かって延びる略円柱状の胴部と、該胴部に延設された複数の分岐部とを備え、該分岐部は先端に向かい漸次縮径する形状とされた歯ブラシ用毛において、前記胴部は、前記分岐部の基端寄りに、前記分岐部に向かい漸次縮径する縮径部が形成されていることを特徴とする。
前記分岐部の断面形状は、略多角形であることが好ましい。
【0007】
本発明の歯ブラシは、本発明の前記歯ブラシ用毛が植毛されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の歯ブラシ用毛の製造方法は、樹脂製の繊維を束ねて繊維束とし、この繊維束の任意の端面を鉛直下方に向け、前記任意の端面から任意の長さで前記繊維束を溶剤に浸漬する工程を有する、本発明の前記歯ブラシ用毛の製造方法であって、前記繊維には、その長さ方向に延びる中空部が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の歯ブラシ用毛によれば、歯面、咬合面及び狭小部の清掃性に優れ、容易に製造でき、かつ歯ブラシの製造適性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第一の実施形態にかかる歯ブラシ用毛の正面図である。
図2図1の歯ブラシ用毛のII−II断面図である。
図3図1の歯ブラシ用毛の材料である繊維の正面図である。
図4図3のIV−IV断面図である。
図5】本発明の第二の実施形態にかかる歯ブラシ用毛の正面図である。
図6図5のVI−VI断面図である。
図7図5のVII−VII断面図である。
図8】本発明の一実施形態にかかる歯ブラシ用毛の断面図である。
図9】本発明の一実施形態にかかる歯ブラシ用毛の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第一の実施形態)
本発明の第一の実施形態にかかる歯ブラシ用毛について、以下に図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の歯ブラシ用毛が植毛面に植毛された状態を示す正面図である。
図1に示すように、歯ブラシ用毛1は、胴部10と、胴部10に延設された3つの分岐部20とを備えるものである。
【0012】
胴部10は、歯ブラシ用毛1が植毛面40に植毛された状態で、基端11から先端21に向かって延びる略円柱状のものである。本実施形態において、胴部10は、基端11寄りに、基端11から先端21に向かって略同一径とされた胴ストレート部12が形成され、胴ストレート部12に続き、胴部10と分岐部20との境界(分岐部基端)22に向かい漸次縮径する胴縮径部14が形成されている。歯ブラシ用毛1は、胴縮径部14が形成されていることで、胴部10から分岐部20にかけて、全体がしなやかに撓み、歯面、咬合面及び狭小部の清掃性に優れるものとなる。
【0013】
胴ストレート部12の長さL0は、歯ブラシ用毛1の全体の長さを勘案して決定できる。
胴ストレート部12の太さ、即ち、胴部10の最大径R1は、材質等を勘案して決定され、100〜300μmが好ましく、150〜250μmがより好ましい。上記下限値未満であると、毛腰が柔らかくなりすぎて歯面や咬合面等の清掃実感が低下するおそれがある。上記上限値超であると、狭小部の清掃性が低下したり、当たり心地が硬くなるおそれがある。
【0014】
胴縮径部14の長さL1は、歯ブラシ用毛1に求める剛性等に応じ、材質等を勘案して決定でき、例えば、0.5〜15mmとされる。胴縮径部14の長さL1は、後述する浸漬工程の溶剤の種類と浸漬時間との組み合わせにより調節される。
胴縮径部14の最小径、即ち、胴部10と分岐部20との境界における胴部10の太さR2は、例えば、R1の30〜99%が好ましく、60〜95%がより好ましい。上記下限値未満であると、分岐部20の長さL2が短くなってその効果が発揮されにくく、また毛腰が柔らかくなりすぎて歯面や咬合面等の清掃実感が低下するおそれがある。上記上限値超であると、狭小部の清掃性が低下したり、当たり心地が硬くなるおそれがある。
【0015】
図2に示すように、胴部10には長さ方向に延びる中空部16が、胴部10の中心軸O1回りに形成されている。本実施形態において、この中空部16の断面形状は、胴部10の中心軸O1近傍に頂角が位置する略二等辺三角形とされ、中空部16は、中心軸O1の軸線回りに環状配置されている。略二等辺三角形とは、一部又は全部の辺が円弧状になったものや、各頂点が直線又は曲線で隅切された形状を含む概念である。
【0016】
分岐部20は、先端21に向かい漸次縮径し、先端21が先鋭化されたいわゆるテーパー状とされている。図2に示すように、分岐部20の断面形状は、歯ブラシ用毛1の中心軸O1近傍に頂角が位置する略二等辺三角形とされている。なお、分岐部20の断面形状は、先端21に向かうに従い、円形に近づいていく。
分岐部20の外周面は、胴部10の外周面及び中空部16の内周面と面一に連なっており、歯ブラシ用毛1は、全体として、基端11から先端21に向かい漸次縮径した形状とされている。
本実施形態において、分岐部20は、互いに略同等の形状及び略同等の大きさである。
【0017】
分岐部20の長さ、即ち分岐部基端22から先端21までの長さL2は、歯ブラシ用毛1に求める剛性等に応じ、材質等を勘案して決定でき、例えば、0.5〜10mmが好ましく、2〜4mmがより好ましい。上記下限値未満であると、狭小部の清掃性が低下したり、当たり心地が硬くなるおそれがあり、上記上限値超であると、毛腰が柔らかくなりすぎて歯面や咬合面等の清掃実感が低下するおそれがある。分岐部20の長さL2は、後述する浸漬工程の溶剤の種類と浸漬時間との組み合わせにより調節される。
【0018】
分岐部20の先端径(先端21から分岐部基端22に0.1mm寄った部分)R3は、例えば、10〜100μmが好ましく、10〜60μmがより好ましい。なお、先端径R3は、分岐部20の断面が内接する円の直径である。
【0019】
歯ブラシ用毛1は、胴部10と分岐部20とが一体成形されたものである。
歯ブラシ用毛1の材質は、歯ブラシ用毛として一般に用いられるものであれば限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、612ナイロン、610ナイロン等のポリアミド、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン等の樹脂が挙げられ、中でも、加工が容易であることからポリエステルが好ましい。これらの樹脂は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、製造設備の投資コスト、メンテナンス性、外観品質の安定性の観点から、単材質からなるモノフィラメントであることが好ましい。
【0020】
歯ブラシ用毛1の製造方法は、樹脂製の繊維を束ねて繊維束とし(束形成工程)、この繊維束の任意の端面を鉛直下方に向け、この任意の端面から任意の長さで前記繊維束を溶剤に浸漬する工程(浸漬工程)を有するものが挙げられる。
【0021】
束形成工程では、任意の本数の樹脂製の繊維を束ねて、繊維束を得る。束形成工程における繊維束中の繊維の本数は、製造効率等を勘案して決定できる。
歯ブラシ用毛1の製造に用いられる樹脂製の繊維5について、図3〜4を用いて説明する。図3に示す繊維5は、一方の端部51から他方の端部52にかけて、略同一径の円柱状とされ、内部に、長さ方向に延びる3つの中空部16が形成されたものである。
繊維5は、例えば、一般的な中空用毛の製造方法と同様に、押し出し成形機によって製造される。押し出し成形機による製造方法としては、例えば、上述の特許文献4に記載のフィラメントの製造方法と同様の方法が挙げられる。
繊維5の長さは、目的とする歯ブラシ用毛1の長さや、植毛方法等を勘案し決定でき、例えば、平線式植毛で植毛される歯ブラシ用毛1とする場合には、25〜35mm程度とされる。
【0022】
浸漬工程では、繊維束の任意の端面を溶剤に浸漬して、分岐部20と胴縮径部14とを形成する。
浸漬工程で用いられる溶剤は、繊維5の種類に応じて決定でき、例えば、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液等のアルカリ性溶液、硫酸溶液等の酸性溶液、有機溶媒等が挙げられ、中でも、アルカリ性溶液が好ましい。
溶剤として水酸化ナトリウム溶液を用いる場合、水酸化ナトリウムの濃度は、例えば、40〜50質量%とされる。
また、水酸化ナトリウム溶液の温度は、例えば、120〜140℃とされる。
繊維束を溶剤に浸漬する長さは、所望する分岐部20の長さ等を勘案して適宜決定できる。
【0023】
繊維束を溶剤に浸漬すると、繊維5の外周を溶剤が溶解すると共に、繊維5同士の間及び中空部16内を溶剤が這い上がりつつ繊維5を溶解し、分岐部20と胴縮径部14とが形成される。
溶剤に任意の時間浸漬した後、繊維束を溶剤から取り出し、必要に応じて中和した後、水で洗浄する。
分岐部20は、歯ブラシ用毛1の片端にのみ形成されていてもよいし、両端に形成されていてもよい。
【0024】
こうして得られた歯ブラシ用毛1は、例えば、平線式植毛法で植毛面40に植毛されたり、インモールド法により、植毛面40に植毛されたりして、歯ブラシとなる。
【0025】
本実施形態の歯ブラシ用毛によれば、先端が先鋭化された分岐部を備えるため、歯間や歯頸部等の狭小部を良好に清掃でき、分岐部に連なる胴部は、分岐部よりも太いため、強い毛腰を発揮し、歯面や咬合面を良好に清掃できる。加えて、胴部には胴縮径部が形成されているため、胴部から分岐部にかけてしなやかに撓み、毛腰が硬くなりすぎず、優しい当たり心地で、狭小部、歯面及び咬合面を良好に清掃できる。
【0026】
本実施形態によれば、胴部が略円柱形とされているため、植毛の際の衝撃等で歯ブラシ用毛が裂けたりするのを防止できる。特に、平線式植毛装置で植毛する場合、歯ブラシ用毛を植毛機に供給する際、又は植毛面に歯ブラシ用毛を打ち込む際に、歯ブラシ用毛が破損されるのを防止できる。
【0027】
本実施形態によれば、分岐部は、断面形状が略三角形とされているため、断面形状の各頂点を形成する稜線で歯垢を掻きとるようにして、より良好に狭小部を清掃できる。
【0028】
本実施形態によれば、繊維束を溶剤に浸漬するという簡便な方法で、テーパー状の分岐部を備える歯ブラシ用毛を製造できる。
【0029】
(第二の実施形態)
本発明の第二の実施形態にかかる歯ブラシ用毛について、以下に図面を参照して説明する。本実施形態において第一の実施形態と異なる点は、分岐部の数量と、その断面形状である。
ただし、本実施形態は、参考例である。
【0030】
図5に示すように、歯ブラシ用毛100は、胴部110と、胴部110に延設された4つの分岐部120とを備えるものである。
胴部110は、歯ブラシ用毛100が植毛面40に植毛された状態で、基端111から先端121に向かって延びる略円柱状のものである。本実施形態において、胴部110は、基端111寄りに略同一径の胴ストレート部112が形成され、胴ストレート部112に続き、分岐部基端122に向かい漸次縮径する胴縮径部114が形成されている。
図6〜7に示すように、胴部110には長さ方向に延びる中空部116が形成されている。中空部116は、胴部110を略円筒形にくりぬくものである。胴部110内には、胴部110の長さ方向に延びる略円柱状の4つの分岐基部130が、中心軸O2回りに胴部110の内周面に接して形成されている。
【0031】
分岐部120は、先端121に向かい漸次縮径し、先端121が先鋭化されたいわゆるテーパー状とされている。図6に示すように、分岐部120の断面形状は、略真円形とされている。
分岐部120の外周面は、胴部110の外周面及び分岐基部130の外周面と面一に連なっており、歯ブラシ用毛100は、全体として、基端111から先端121に向かい漸次縮径した形状とされている。
本実施形態において、分岐部120は、互いに略同等の形状及び略同等の大きさである。
【0032】
胴ストレート部112の長さは、胴ストレート部12の長さと同様であり、胴ストレート部112の太さは、胴ストレート部12の太さと同様である。
胴縮径部114の長さは、胴縮径部14の長さと同様であり、胴縮径部114の最小径は、胴縮径部14の最小径と同様である。
分岐部120の長さは、分岐部20の長さと同様であり、分岐部120の先端径は、分岐部20の先端径と同様である。
歯ブラシ用毛100の材質は、歯ブラシ用毛1の材質と同様である。
【0033】
本実施形態によれば、分岐部の断面が円形であるため、分岐部の毛腰が柔らかく、当たり心地がより優しいものとなる。
【0034】
(その他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
第一の実施形態では、分岐部の断面形状が略三角形とされているが、本発明はこれに限定されず、分岐部の断面形状が真円形、楕円形等の円形、略四角形、略五角形等の三角形以外の略多角形であってもよい。
第二の実施形態では、分岐部の断面形状が略真円形とされているが、本発明はこれに限定されず、楕円形であってもよいし、略三角形、略四角形、略五角形等の略多角形であってもよい。
ただし、清掃性を向上させる観点からは、分岐部の断面形状は略多角形であることが好ましい。
【0035】
第一の実施形態では、3つの分岐部が形成されているが、本発明はこれに限定されず、分岐部の数量は、2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。
第二の実施形態では、4つの分岐部が形成されているが、本発明はこれに限定されず、分岐部の数量は、2〜3つであってもよいし、5つ以上であってもよい。
ただし、分岐部に適度な毛腰を備えさせ、清掃性を向上させると共に、優しい当たり心地を得る観点からは、分岐部の数量は3〜10が好ましく、3〜5がより好ましい。
【0036】
第一の実施形態では、3つ中空部がそれぞれ独立して形成されているが、本発明はこれに限定されず、例えば、複数の中空部が中心軸を含む領域でつながり、中心軸近傍から放射状に延びる断面形状、即ち、十字形、星形等であってもよい。
このような中空部が形成された歯ブラシ用毛について、図8を用いて説明する。ただし、図8に示す歯ブラシ用毛は、参考例である。図8(a)は、図2と同様の位置の断面図であり、図8(b)は、胴部の断面図である。図8(a)、(b)に示すように、歯ブラシ用毛200は、略円柱状の胴部210と4つの分岐部220を備え、胴部210に、胴ストレート部212と胴縮径部214とが形成されたものである。
分岐部220の断面形状は略三角形であり、先端に向かうに従い円形に近づくものとされている。胴部210には、断面形状が略十字形の中空部216が形成されている。
歯ブラシ用毛200のように、中空部216が、中心軸O3を含む領域でつながっていると、浸漬工程で溶剤が奥深くまで入り込みやすくなり、分岐部220の長さを長くできる点で好ましい。
【0037】
第一及び第二の実施形態では、分岐部が互いに略同等の形状及び略同等の大きさとされているが、本発明は、これに限定されず、一部の分岐部と他の分岐部とが、形状又は大きさの異なるものであってもよいし、全ての分岐部が相互に形状又は大きさの異なるものであってもよい。例えば、一部の分岐部の断面形状が略多角形であり、一部の分岐部の断面形状が略円形であってもよいし、分岐部の断面形状が相互に異なる略多角形であってもよい。また、例えば、分岐部は、相互に同じ断面形状で、相互に太さが異なるものであってもよい。
【0038】
一部の分岐部の大きさが他の分岐部の大きさと異なる歯ブラシ用毛について、図9を用いて説明する。ただし、図9に示す歯ブラシ用毛は、参考例である。図9(a)は、図2と同様の位置の断面図であり、図9(b)は、胴部の断面図である。図9(a)、(b)に示すように、歯ブラシ用毛300は、略円柱状の胴部310と3つの第一の分岐部320と、3つの第二の分岐部322とを備え、胴部310には、胴ストレート部312と胴縮径部314とが形成されたものである。
第一の分岐部320の断面形状は略三角形であり、先端に向かうに従い円形に近づくものとされている。第二の分岐部322の断面形状は略三角形であり、先端に向かうに従い円形に近づくものとされている。
歯ブラシ用毛300は、第一の分岐部320の断面形状と第二の分岐部322の断面形状とが略同等とされ、第一の分岐部320の断面積が第二の分岐部322の断面積よりも大きくされたものである。
【0039】
胴部310には、中心軸O4を含む領域に断面形状が略円形の円形中空部318が形成され、円形中空部318から胴部310の外周面に向かうように放射状に延びるような断面形状の矩形中空部319が形成されている。胴部310には、任意の矩形中空部319と、この任意の矩形中空部319と胴部310の周方向で近接する他の矩形中空部319とにより、3つの第一の分岐基部330と、3つの第二の分岐基部332とが形成されている。第一の分岐基部330と第二の分岐基部332とは、断面形状が略三角形とされ、断面積が相互に異なるものとされている。また、第一の分岐基部330と第二の分岐基部332とは、胴部310の周方向に交互に位置されている。
第一の分岐部320は、第一の分岐基部330及び胴部310の外周面と略面一とされ、第二の分岐部322は、第二の分岐基部332及び胴部310の外周面と略面一とされている。
この歯ブラシ用毛300は、比較的硬い毛腰の第一の分岐部320で清掃性が高められ、比較的柔らかい毛腰の第二の分岐部322で優しい当たり心地が高められるものである。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を示して本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
押出成形によりPBTを押し出して中空部を有する繊維を得、この繊維を溶剤(50質量%水酸化ナトリウム)に浸漬して、第一の実施形態の歯ブラシ用毛1と同様の歯ブラシ用毛を得た。得られた歯ブラシ用毛の仕様は表1に示す通りであった。この歯ブラシ用毛は、溶剤に浸漬する方法(表中、この加工方法を「溶解」と記す)で得られるため、製造効率が高いものであった。
次いで、1つの毛束当たりの用毛数が20本になるように、10本の歯ブラシ用毛を2つ折りにし、4列×7段で植毛して歯ブラシを得た。得られた歯ブラシについて、植毛適性、狭小部清掃性、面清掃性を評価し、その結果を表1に示す。
【0042】
(実施例2)
第二の実施形態の歯ブラシ用毛100と同様の歯ブラシ用毛とした以外は、実施例1と同様にして歯ブラシを得た。得られた歯ブラシについて、植毛適性、狭小部清掃性、面清掃性を評価し、その結果を表1に示す。
ただし、実施例2は、参考例である。
【0043】
(比較例1)
押出成形によりPBTを押し出して、断面形状が三つ葉のクローバ型(多葉型)の繊維を得、この繊維を溶剤(50質量%水酸化ナトリウム)に浸漬して、特許文献1と同様の歯ブラシ用毛を得た以外は、実施例1と同様にして歯ブラシを得た。得られた歯ブラシについて、植毛適性、狭小部清掃性、面清掃性を評価し、その結果を表1に示す。
【0044】
(比較例2)
特許文献2に従い、スキン層をナイロン、コア層をPBTとした繊維を研磨して歯ブラシ用毛を得た以外は、実施例1と同様にして歯ブラシを得た。この歯ブラシ用毛は、複数層からなる繊維を製造する点、研磨で分岐部を形成する点(表中、この加工方法を「研磨」と記す)で、製造方法が煩雑であった。得られた歯ブラシについて、植毛適性、狭小部清掃性、面清掃性を評価し、その結果を表1に示す。
【0045】
(比較例3)
特許文献3に従い、島部をナイロン、海部をPBTとした繊維を用いた以外は、実施例1と同様にして歯ブラシを得た。この歯ブラシ用毛は、海島構造の繊維を製造する点で、製造方法が煩雑であった。得られた歯ブラシについて、植毛適性、狭小部清掃性、面清掃性を評価し、その結果を表1に示す。
【0046】
(比較例4)
繊維の断面形状を、直径120μmの円形の軸線回りに直径60μmの4つの円形が環状配置されたもの(多葉型)とした以外は、比較例1と同様にして歯ブラシを得た。得られた歯ブラシについて、植毛適性、狭小部清掃性、面清掃性を評価し、その結果を表1に示す。
【0047】
(比較例5)
特許文献4に従い、押出成形によりPBTを押し出して、六小胞が形成され、断面輪郭が略真円形の繊維を得た。この繊維の一端を回転刃で処理して、分岐部が形成された歯ブラシ用毛を得た(表中、この加工方法を「カット」と記す)。得られた歯ブラシ用毛を用い、実施例1と同様にして歯ブラシを得、得られた歯ブラシについて、植毛適性、狭小部清掃性、面清掃性を評価し、その結果を表1に示す。
【0048】
(評価方法)
<植毛適性>
各例の歯ブラシについて、植毛された歯ブラシ用毛を目視で観察し、破損が認められないものを「○」、破損が認められるものを「×」と評価した。
【0049】
<狭小部清掃性>
各例の歯ブラシを用いて口腔内を清掃し、下記評価基準に準じて狭小部清掃性を評価した。
【0050】
≪評価基準≫
◎:歯頸部の歯垢が除去された感じを非常に感じる。
○:歯頸部の歯垢が除去された感じを感じる。
△:歯頸部の歯垢が除去された感じをあまり感じない。
×:歯頸部の歯垢が除去された感じを全く感じない。
【0051】
<面清掃性>
各例の歯ブラシを用いて口腔内を清掃し、下記評価基準に準じて狭小部清掃性を評価した。
【0052】
≪評価基準≫
◎:歯面及び咬合面の歯垢が除去された感じを非常に感じる。
○:歯面及び咬合面の歯垢が除去された感じを感じる。
△:歯面及び咬合面の歯垢が除去された感じをあまり感じない。
×:歯面及び咬合面の歯垢が除去された感じを全く感じない。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に示すように、本発明を適用した実施例1〜2は、植毛適性が良好であり、かつ狭小部清掃性及び面清掃性が「○」又は「◎」であった。加えて、実施例1〜2の歯ブラシ用毛は、製造効率が高く、かつ単一の材質からなる繊維を加工して得られるため、比較的、低コストで製造できるものであった。
一方、多葉型の繊維を加工して得られた比較例1及び4は、胴部が略円形でないため、植毛適性が「×」であった。
比較例2は、多層構造の繊維を用い、これを研磨して分岐部を形成するため、製造効率が低いものであった。また、狭小部清掃性が「△」であった。
比較例3は、分岐部の形状がストレートであるため、狭小部清掃性が「△」であった。
比較例5は、分岐部の形状がストレートであるため、狭小部清掃性が「△」であった。
以上の結果から、本発明を適用した歯ブラシ用毛は、歯面、咬合面及び狭小部の清掃性に優れ、容易に製造でき、かつ歯ブラシの製造適性に優れていることが判った。
【符号の説明】
【0055】
1、100、200、300 歯ブラシ用毛
5 繊維
10、110、210、310 胴部
11、111 基端
12、112、212、312 胴ストレート部
14、114、214、314 胴縮径部
16、116、216、316 中空部
20、120、220、320、322 分岐部
21、121 先端
22、122 分岐部基端
図1
図2
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図9