(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6435568
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】Acinetobacter baumanniiの検出
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20181203BHJP
C12Q 1/689 20180101ALI20181203BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20181203BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20181203BHJP
【FI】
C12Q1/04ZNA
C12Q1/689 Z
C12M1/00 A
C12N15/09 Z
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-14286(P2014-14286)
(22)【出願日】2014年1月29日
(65)【公開番号】特開2015-139409(P2015-139409A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2017年1月16日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物名 日本臨床微生物学雑誌 第23巻 第4号 発行年月日 平成25年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591222245
【氏名又は名称】国立感染症研究所長
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】曽家 義博
(72)【発明者】
【氏名】松井 真理
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 仁人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 里和
(72)【発明者】
【氏名】柴山 恵吾
【審査官】
戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】
J. Microbiol. Methods,2013年,vol.94, no.2,pp.121-124
【文献】
生物試料分析,2013年,vol.36, no.4,pp.310-315
【文献】
第41回薬剤耐性菌研究会 プログラム・抄録集,2012年,p.25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−1/70
C12N 15/00−15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号10に示される塩基配列の全体又は一部からなり、14〜25個のヌクレオチドからなり、配列番号1に示される塩基配列の第107番目及び第108番目の塩基を認識するように設計された核酸プローブ、並びに、
配列番号2で示される塩基配列の連続する16塩基以上36塩基以下の塩基配列からなるプライマー、及び配列番号3で示される塩基配列の連続する16塩基以上36塩基以下の塩基配列からなるプライマー、を含む、Acinetobacter baumannii検出用キット。
【請求項2】
核酸プローブが蛍光標識されている、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
配列番号2で示される塩基配列の連続する16塩基以上36塩基以下の塩基配列からなるプライマーが、配列番号4、5又は6で示される塩基配列からなるプライマーである、請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】
配列番号3で示される塩基配列の連続する16塩基以上36塩基以下の塩基配列からなるプライマーが、配列番号7、8又は9で示される塩基配列からなるプライマーである、請求項1〜3のいずれかに記載のキット。
【請求項5】
更に、α型DNAポリメラーゼを含む、請求項1〜4のいずれかに記載のキット。
【請求項6】
配列番号2で示される塩基配列の連続する16塩基以上36塩基以下の塩基配列からなるプライマー、及び配列番号3で示される塩基配列の連続する16塩基以上36塩基以下の塩基配列からなるプライマー、を用いて試料中の核酸を増幅する工程、及び
配列番号10に示される塩基配列の全体又は一部からなり、14〜25個のヌクレオチドからなり、配列番号1に示される塩基配列の第107番目及び第108番目の塩基を認識するように設計された核酸プローブを増幅させた核酸に結合させる工程
を含む、Acinetobacter baumannii International clone Type IIの検出方法。
【請求項7】
核酸の増幅が、α型DNAポリメラーゼを用いて行われる、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Acinetobacter baumannii(以下A. baumannii)の検出する分野に関する。より詳細には、本発明は、A. baumanniiの検出用プローブ、及びプライマー、並びにこれらを用いたA. baumanniiの検出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
アシネトバクター属には30以上の種が確認されており、その多くはヒトから分離されることがあるが、感染の多くはA. baumannii によるものと報告されている。A. baumanniiは、好気性のグラム陰性菌であり、鞭毛を持たず、不動性であり、日和見感染症の原因菌となる。A. baumanniiは、他の生物のDNA断片を取り込み自身のDNAに組み込む機構を持つ事から、変異を起こしやすい菌と報告されている。A. baumannii感染は、特に免疫力が低下した場合、重篤な症状に陥る可能性があるため、早期検出をすることは臨床的に意義が高い。
【0003】
細菌の菌種同定法で最も広く用いられている方法は培養法であるが、生化学的性状よりA. baumanniiを分別して検出することは困難であり、同定には種々の遺伝子検査法を用いる必要がある。しかしながら、これまで報告されている方法では、多数の工程と時間を要することから、迅速にA. baumanniiの検出を行うことは困難である。さらに近年薬剤耐性を有していると報告されているInternational clone typeII(以下、「IC II」と略す場合がある)と他のA. baumanniiとの分別はシークエンス法で行われており、迅速に検出できる方法は報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Journal of Microbiological Methods 94(2013) 121-124
【非特許文献2】Journal of Clinical Microbiology 44(3), 827-832(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、簡便、迅速、且つ特異的にA. baumannii(中でも薬剤耐性が多いと報告されているA. baumannii International clone TypeII)を分別して検出する手段を提供すること等を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、blaOXA-51-like遺伝子の特定の配列領域の存在を指標とすることによって、アシネトバクター属の他の種を検出することなく、また漏れなく精確にA. baumanniiを検出できることを見出した。また、本発明者等は、blaOXA-51-like遺伝子の特定の位置を指標とすることにより、International cloneIIを他のA. baumanniiと区別して検出できることを見出した。本発明者等は、これらの知見に基づき、更なる試行錯誤を重ね、本発明を完成するに到った。代表的な本発明を以下に示す。
【0007】
A:A. baumannii IC II検出用核酸プローブ
項1.
配列番号1に示される塩基配列の第107番目及び第108番目の塩基を認識するように設計された核酸プローブ。
項2.
14〜28個のヌクレオチドからなる、項1に記載の核酸プローブ。
項3.
配列番号10に示される塩基配列の全体又は一部からなる、項1又は2に記載の核酸プローブ。
項4.
蛍光標識されている、項1〜3のいずれかに記載の核酸プローブ。
B: A. baumannii IC II検出用キット
項5.
項1〜4のいずれかに記載の核酸プローブ、並びに、
配列番号2で示される塩基配列の連続する16塩基以上36塩基以下の塩基配列からなるプライマー、及び
配列番号3で示される塩基配列の連続する16塩基以上36塩基以下の塩基配列からなるプライマー、
を含む、Acinetobacter baumannii検出用キット。
項6.
配列番号2で示される塩基配列の連続する16塩基以上36塩基以下の塩基配列からなるプライマーが、配列番号4、5又は6で示される塩基配列からなるプライマーである、項5に記載のキット。
項7.
配列番号3で示される塩基配列の連続する16塩基以上36塩基以下の塩基配列からなるプライマーが、配列番号7、8又は9で示される塩基配列からなるプライマーである、項5又は6に記載のキット。
項8.
更に、α型DNAポリメラーゼを含む、項5〜7のいずれかに記載のキット。
項9.
C:A. baumannii IC II検出方法
項1〜4のいずれかに記載の核酸プローブを試料中の核酸に結合させる工程(I)を含む、Acinetobacter baumannii International clone Type IIの検出方法
項10.
工程(I)の前に
配列番号2で示される塩基配列の連続する16塩基以上36塩基以下の塩基配列からなるプライマー、及び
配列番号3で示される塩基配列の連続する16塩基以上36塩基以下の塩基配列からなるプライマー、
を用いて試料中の核酸を増幅する工程(II)を含む、項9に記載の方法。
項11.
工程(II)の核酸の増幅が、α型DNAポリメラーゼを用いて行われる、項10に記載の方法。
D:A. baumannii検出用プライマーセット
項12.
配列番号2で示される塩基配列の連続する16塩基以上36塩基以下の塩基配列からなるプライマー、及び
配列番号3で示される塩基配列の連続する16塩基以上36塩基以下の塩基配列からなるプライマー、
を含むプライマーセット。
項13.
Acinetobacter baumanniiの検出用である、項12に記載のプライマーセット。
項14.
配列番号2で示される塩基配列の連続する16塩基以上36塩基以下の塩基配列からなるプライマーが、配列番号4、5又は6で示される塩基配列からなるプライマーである、請求項12又は13に記載のプライマーセット。
項15.
配列番号3で示される塩基配列の連続する16塩基以上36塩基以下の塩基配列からなるプライマーが、配列番号7、8又は9で示される塩基配列からなるプライマーである、請求項12〜14のいずれかに記載のプライマーセット。
【発明の効果】
【0008】
本発明を利用することにより、従来よりも迅速、簡便、且つ正確に試料中のA. baumannii又はA. baumannii IC IIの存在を検出することが可能である。よって、本発明を利用することにより、A. baumannii感染の診断をより迅速、簡便、且つ正確に実施することが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1:A. baumannii IC II検出用プローブ
A. baumannii IC IIは、配列番号1で示されるOXA-51-likeβ-ラクタマーゼタンパク質をコードする遺伝子の塩基配列において、第107番目及び第108番目の塩基が、他のA. baumanniiと異なる。具体的には、A. baumannii IC IIでは、第107番目及び第108番目の塩基は、各々チミン及びアデニンであるのに対し、他のA. baumanniiでは第107番目の塩基はアデニンであり、第108番目の塩基はシトシン又はアデニンである。そこで、これらの塩基の違いを指標にしてA. baumannii IC IIの存在を他のA. baumanniiと区別して検出することができる。
【0010】
当該塩基の違いを指標にしたA. baumannii IC IIの検出は、当該塩基を認識するように設計されたポリヌクレオチドである核酸プローブを用いて行うことが好ましい。そのような核酸プローブは、配列番号1に示される塩基配列を基に設計でき、公知の技術及び装置を利用して作製できる。核酸プローブの長さは、当該塩基の違いを認識可能である限り特に制限されない。核酸プローブの長さの下限は、好ましくは14塩基であり、より好ましくは15塩基、更に好ましくは16塩基である。核酸プローブの長さの上限は、好ましくは26塩基であり、より好ましくは25塩基、更に好ましくは24塩基、より更に好ましくは23塩基、特に好ましくは22塩基である。
【0011】
好適な核酸プローブの具体例としては、配列番号10に示される塩基配列の全部又は一部を有し、且つ、上述する配列番号1に示される塩基配列の第107番目及び第108番目の塩基を認識するポリヌクレオチド(又なオリゴヌクレオチド)を挙げることができる。
【0012】
核酸プローブは、その存在の検出を容易にするために、標識されていることが好ましい。核酸プローブの標識の種類は、核酸プローブの検出を可能にする限り特に制限されず、検出様式に応じて適宜選択することができる。例えば、核酸プローブは、磁性体、電子伝達体、酵素、ビオチン、蛍光物質、ハプテン、抗原、抗体、放射性物質及び発光団等から成る群より選択される1種以上の物質によって標識され得る。これらの標識物質は、核酸プローブの任意の位置に結合させることができるが、3’末端又は5’末端に結合させることが好ましい。
【0013】
磁性体としては、例えば、酸化鉄、二酸化クロム、コバルト、及びフェライト等が挙げられる。電子伝達体としては、例えば、フェロセン、PQQ、及びレドックス化合物等が挙げられる。酵素としては、例えば、ペルオキシダーゼ、ベータ−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、及びアルカリフォスファターゼ等が挙げられる。蛍光物質としては、例えば、Cy5(登録商標)、Cy3(登録商標)、FITC、ローダミン、ランタニド蛍光体、テキサスレッド、FAM、JOE、CalFluor Red 610(登録商標)、及びQuasar670(登録商標)等が挙げられる。ハプテンとしては、ジゴキシゲニン等が挙げられる。放射性同位体としては、例えば、32P、35S、3H、14C、125I、及び131I等が挙げられる。発光団としては、ルテニウム、及びエクオリン等が挙げられる。
【0014】
より簡便且つ短時間で核酸プローブの検出が可能であるという観点から、核酸プローブは、蛍光物質で標識されることが好ましい。核酸プローブを蛍光標識することにより、試料中の核酸と核酸プローブとが結合/融解する際の蛍光強度の変化に基づいて、試料中の核酸がA. baumannii IC IIの核酸であるか否かを判定することが出来る。このような目的での使用に好ましい蛍光物質を次段落に例示する。
【0015】
4−アセトアミド−4’−イソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸,アクリジンおよび誘導体(アクリジン,アクリジンイソチオシアネート),AlexaFluor(登録商標)350,Alexa Fluor(登録商標)488,AlexaFluor(登録商標)546,Alexa Fluor(登録商標)555,AlexaFluor(登録商標)568,Alexa Fluor(登録商標)594,AlexaFluor(登録商標)647(Molecular Probe),5−(2’−アミノエチル)アミノナフタレン−1−スルホン酸(EDANS),4−アミノ−N−[3−ビニルスルホニル)フェニル]ナフタルイミド−3,5ジスルホネート(LuciferYellow VS),N−(4−アニリノ−1−ナフチル)マレイミド,アントラニルアミド,BODIPY(登録商標)CR−6G,BOPIPY(登録商標)530/550,BODIPY(登録商標)FL,ブリリアントイエロー,クマリンおよび誘導体(クマリン,7−アミノ−4−メチルクマリン(AMC,クマリン120),7−アミノ−4−トリフルオロメチルクマリン(クマリン151)),Cy2(登録商標),Cy3(登録商標),Cy3.5(登録商標),Cy5(登録商標),Cy5.5(登録商標),シアノシン,4’,6−ジアミニジノ−2−フェニルインドール(DAPI),5’,5"−ジブロモピロガロール−スルホネフタレイン(BromopyrogallolRed),7−ジエチルアミノ−3−(4’−イソシアナトフェニル)−4−メチルクマリン,ジエチレントリアミン四酢酸,4,4’−ジイソチオシアナトジヒドロ−スチルベン−2,2’−ジスルホン酸,4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸,塩化5−[ジメチルアミノ]ナフタレン−1−スルホニル(DNS,塩化ダンシル),4−(4’−ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸(DABCYL),4−ジメチルアミノフェニルアゾフェニル−4’−イソチオシアネート(DABITC),Eclipse(商標)(EpochBiosciences Inc.),エオシンおよび誘導体(エオシン,エオシンイソチオシアネート),エリスロシンおよび誘導体(エリスロシンB,エリスロシンイソチオシアネート),エチジウム,フルオレセインおよび誘導体(5−カルボキシフルオレセイン(FAM),5−(4,6−ジクロロトリアジン−2−イル)アミノフルオレセイン(DTAF),2’,7’−ジメトキシ−4’5’−ジクロロ−6−カルボキシフルオレセイン(JOE),フルオレセイン,フルオレセインイソチオシアネート(FITC),ヘキサクロロ−6−カルボキシフルオレセイン(HEX),QFITC(XRITC),テトラクロロフルオレセイン(TET)),フルオレスカミン,IR144,IR1446,マラカイトグリーンイソチオシアネート,4−メチルウンベリフェロン,オルトクレゾールフタレイン,ニトロチロシン,パラローザニリン,フェノールレッド,B−フィコエリスリン,R−フィコエリスリン,o−フタルジアルデヒド,OregonGreen(登録商標),ヨウ化プロピジウム,ピレンおよび誘導体(ピレン,酪酸ピレン,酪酸スクシンイミジル1−ピレン),QSY(登録商標)7,QSY(登録商標)9,QSY(登録商標)21,QSY(登録商標)35(MolecularProbe),リアクティブレッド4(Cibacron(登録商標)ブリリアントレッド3B−A),ローダミンおよび誘導体(6−カルボキシ−X−ローダミン(ROX),6−カルボキシローダミン(R6G),リサミンローダミンB塩化スルホニル,ローダミン(Rhod),ローダミンB,ローダミン123,ローダミングリーン,ローダミンXイソチオシアネート,スルホローダミンB,スルホローダミン101,スルホローダミン101の塩化スルホニル誘導体(テキサスレッド)),N,N,N’,N’−テトラメチル−6−カルボキシローダミン(TAMRA),テトラメチルローダミン,テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC),リボフラビン,ロゾール酸,テルビウムキレート誘導体。これらの中でも取扱い性の良さという観点から、FITC、BODIPY-FL、FAM、CR6G、Cy3、及びCy5から成る群より選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0016】
核酸プローブは、5’末端及び3’末端のいずれか又は両方(好ましくは、5’末端)の塩基がシトシンであり、このシトシンを介して蛍光物質が核酸プローブに結合していることが好ましい。また、5’末端に蛍光物質が結合している核酸プローブを用いる際は、その3’末端がリン酸基で修飾されていることが好ましい。3’末端を修飾することにより核酸プローブが結合した試料核酸では、PCR反応は進まないため、増幅反応液中に予め核酸プローブを添加することができる。そうすることにより、試料中の核酸の増幅、核酸プローブとの結合、及び核酸プローブの検出を実質的に1工程で連続的に行うことができる。核酸プローブは、必要に応じて、増幅反応を開始する前の反応溶液に添加しても良い。核酸増幅反応液に添加するプローブの量は、特に制限されないが、例えば、10〜1000nmolの範囲で添加することが出来る。
【0017】
核酸プローブの検出を介してA. baumannii IC II由来の核酸を検出する様式は任意であり、使用する標識物質等に応じて適宜選択することができる。標識物質として蛍光物質を使用する場合、例えば、次のようにして核酸プローブを検出することが出来る。核酸プローブが、遊離した状態でシグナルを示し、且つ、相補的な核酸と二本鎖を形成した場合にシグナルを示さない標識化プローブ(例えば、グアニン消光プローブ)を使用する場合、試料中の核酸とプローブとが解離している状態では蛍光が発せられるが、温度の降下等により二本鎖を形成すると、前記蛍光が減少(又は消光)する。上述する蛍光物質は、すべてこのような特性を有する。従って、例えば、試料核酸及び核酸プローブを含む反応液の温度を上げ、急激に温度を低下させた後、徐々に温度を上昇させて、温度上昇に伴う蛍光強度の増加を測定することにより、A. baumannii IC II由来の核酸の有無を検出することができる。更に、核酸プローブが結合する領域における遺伝子型を決定するために、上記のような温度変化に伴う蛍光強度の変化を解析してTm(melting temperature)値を決定し、それを指標とすることもできる。
【0018】
2:A. baumannii検出用プライマーセット
A. baumanniiは、ゲノムDNA中のblaOXA-51-like遺伝子と呼ばれる領域の存在によって、多くの他のAcinetobacter属菌と区別され得る。しかし、A. baumanniiに属する菌の中には、blaOXA-51-like遺伝子領域中に変異が存在すること等により、単にblaOXA-51-like遺伝子の存在を指標とするだけでは全てのA. baumannii属菌を正確に検出することはできない。そこで、より正確なA. baumanniiの検出を可能にする手段として、配列番号2で示される塩基配列の連続する16塩基以上36塩基以下の塩基配列からなるプライマー(以下、「Fプライマー」と称する場合がある)、及び、配列番号3で示される塩基配列の連続する16塩基以上36塩基以下の塩基配列からなるプライマー(以下、「Rプライマー」と証する場合がある)、を含むプライマーセットを用いることが好ましい。
【0019】
配列番号2に示される塩基配列は、配列番号1に示される塩基配列の第48番目〜第86番目の塩基配列と一致する。配列番号3に示される塩基配列は、配列番号1に示される塩基配列の第169番目〜第218番目の塩基配列に相補的である。本発明者等は、配列番号1に示される塩基配列において、第48番目の塩基よりも上流の領域に長鎖ポリヌクレオチドが挿入されたblaOXA-51-like遺伝子を有するA. baumanniiが存在し、そのような遺伝子は、blaOXA-51-like遺伝子の任意の領域に相補的なプライマーセットでは増幅できないことを見出した。
【0020】
Fプライマー及びRプライマーの長さの下限は、好ましくは17塩基であり、より好ましくは18塩基であり、更に好ましくは19塩基であり、更に好ましくは20塩基であり、更に好ましくは21塩基である。Fプライマー及びRプライマーの長さの上限は、好ましくは35塩基であり、より好ましくは34塩基であり、更に好ましくは33塩基であり、更に好ましくは32塩基であり、更に好ましくは31塩基であり、更に好ましくは30塩基であり、更に好ましくは29塩基である。
【0021】
好適なFプライマーの具体例としては、配列番号4〜6のいずれかに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを挙げることが出来る。好適なRプライマーの具体例としては、配列番号7〜9のいずれかに示される塩基配列からなるポリヌクレオチドを挙げることが出来る。Fプライマー及びRプライマーは、任意の手法及び/又はDNA合成装置を用いて、作製することができる。
【0022】
Fプライマー及びRプライマーを含むプライマーセットを用いたA. baumanniiの検出は、A. baumanniiのゲノムDNAを鋳型とし、当該プライマーセットを用いて任意の核酸増幅方法を実施することにより行うことができる。核酸増幅方法としては、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、NASBA(Nucleic acid sequence based amplification:Nature 第350巻、第91頁(1991年))法、TMA(Transcription−mediated amplification:J.Clin.Microbiol. 第31巻、第3270頁(1993年))法、SDA(Strand Displacement Amplification:Nucleic acid research 第20巻、第1691頁(1992年))法、LCR(Ligase Chain Reaction:国際公開89/12696号公報)、RCA(Rolling Circle Amplification:国際公開90/1069号公報)、LAMP(loop-mediated isothermal amplification method:J Clin Microbiol. 第42巻:第1,956頁(2004年))、ICAN(isothermal and chimeric primer-initiated amplification of nucleic acids:Kekkaku. 第78巻、第533頁(2003年))等が挙げられる。これらの核酸増幅方法を実施する際に具体的な条件は、マニュアル等を参考に適宜設定することが出来る。好ましい核酸増幅方法はPCRである。
【0023】
PCR法は、試料核酸、4種類のデオキシヌクレオシド三リン酸、一対のプライマー及び耐熱性DNAポリメラーゼの存在下で、変性、アニーリング、伸長の3工程からなるサイクルを繰り返すことにより、一対のプライマーで挟まれる試料核酸の領域を指数関数的に増幅させる方法である。即ち、熱変性工程で試料の1本の二本本鎖核酸を二本の1本鎖核酸に分離し、続くアニーリング工程において各プライマーと、それぞれに相補的な一本鎖試料核酸上の領域とをハイブリダイズさせ、続く伸長工程で、各プライマーを起点としてDNAポリメラーゼの働きにより鋳型となる各一本鎖試料核酸に相補的なDNA鎖を伸長させ、二本鎖DNAとする。この1サイクルにより、1本の二本鎖DNAが2本の二本鎖DNAに増幅される。従って、このサイクルをn回繰り返せば、理論上、上記一対のプライマーで挟まれた試料DNAの領域は2
n倍に増幅される。増幅されたDNA領域は大量に存在するので、電気泳動等の方法により容易に検出できる。よって、遺伝子増幅法を用いれば、従来では検出不可能であった、極めて微量(1分子でも可能)の試料核酸をも検出することが可能である。
【0024】
PCR法における各工程の具体的な条件としては、例えば、最初の熱変性工程を80〜100℃で10秒〜15分、繰り返しの熱変性を80〜100℃で1〜300秒、アニーリンクを40〜80℃で1〜300秒、伸長反応工程を60〜85℃で1〜300秒程度行い、これらを1サイクルとして、繰り返しを30〜70サイクル繰り返すことができる。
【0025】
PCR反応液に添加するプライマーセットの配合割合は任意であるが、例えば、0.1〜2μmol/lとなるように添加することができる。また、FプライマーとRプライマーとの存在比率(モル)は、Fプライマー:Rプライマー=1:0.25〜1:4とすることができる。
【0026】
PCR反応溶液の組成は、特に制限されず、例えば、反応液25μlあたり、各プライマーオリゴヌクレオチドが0.5〜50pmol、×10の緩衝液が2.5μl、2mMのdNTPで2.5μl、塩類が25mM濃度液で0.05〜10μl、DNAポリメラーゼが0.1〜3U程度であることが好ましい。
【0027】
PCR法を上述するプローブの存在下で実施する場合、DNAポリメラーゼには、α型DNAポリメラーゼを用いることが好ましい。これは、鋳型DNAに結合したプローブが、Taq DNA Polymerase等のPol I型のDNAポリメラーゼが有する5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によって、分解されないようにするためである。従って、このような観点からDNAポリメラーゼとして、Pol I型DNAポリメラーゼを用いることは好ましくなく、α型DNAポリメラーゼを用いることが好ましい。更に、α型DNAポリメラーゼは、その3’→5’エキソヌクレアーゼ活性により高い正確性でDNAが増幅されるという観点でも好ましい。
【0028】
通常、α型DNAポリメラーゼは3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を有するため、核酸増幅速度はPol I型酵素と比較して低い傾向がある。しかし、KOD DNA Polymeraseは、α型DNAポリメラーゼでありながらDNA合成活性が高く100塩基/秒以上のDNA合成速度を有し伸長効率が優れている。従って、核酸増幅反応の実施にはα型DNAポリメラーゼの中でも、KOD DNA Polymerase(東洋紡製、登録商標)を用いることが好ましい。
【0029】
更に、α型DNAポリメラーゼを変異させて100塩基/秒以上のデオキシリボ核酸合成速度を有する変異型DNAポリメラーゼ、或いは、野生型と変異型とを組み合わせることにより性能を向上させたDNAポリメラーゼ組成物を使用することもできる。例えば、Prime STAR HS DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製、登録商標)、PfuTurbo DNAポリメラーゼ(アジレント・テクノロジー社製)などを利用することもできる。
【0030】
前記反応液中のDNAポリメラーゼの添加割合は、特に制限されないが、例えば、1〜100U/mLであり、好ましくは5〜50U/mLであり、より好ましくは20〜30U/mLである。
【0031】
PCRを初めとする核酸増幅法によって増幅された核酸の検出方法は任意であり、公知の手法を適宜選択することができる。例えば、増幅産物を特異的に認識する標識オリゴヌクレオチドを用いて検出することができ、また、反応終了後の反応液をそのままアガロースゲル電気泳動にかけても容易に検出できる。そのように増幅産物を検出することにより、A. baumannii由来のゲノムDNAの存在を確認することができる。また、上記1.に説明する核酸プローブを利用することもできる。上記1.に説明する核酸プローブを利用することにより、A. baumanniiと他の菌又は他のAcinetobacter属の菌とを区別するだけでなく、A. baumannii IC IIのみを検出することもできる。核酸プローブは、PCR反応を開始する前の反応溶液に予め添加してもよく、増幅反応が終了してから添加しても良いが、予め添加する方が作業効率が良いため好ましい。
【0032】
上記プライマーセットを用いて増幅させる核酸を含む試料は、A. baumannii由来のゲノムDNAを含むと考えられる(又は、それが疑われる)試料であることが好ましい。そのような試料としては、特に制限されないが、例えば、A. baumanniiの感染が疑われる被検体から採取した膿、胸水、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、及び血液、並びに、それらを培養した菌コロニー懸濁液及び培養液等が挙げられる。試料の採取方法、DNAやRNA等の核酸の調製方法等は、制限されず、従来公知の方法が採用できる。
【0033】
3.A. baumannii検出用キット
上記2.に説明したプライマーセットは、適切なプローブ等と組み合わせることにより、A. baumannii検出用キットとすることができる。プローブとしては、上記1.に説明する核酸プローブを用いることもできる。そのようなキットには、更に、α型DNAポリメラーゼを含めることができる。当該キットには、更に任意の成分及び/又は使用マニュアル等を含めることができる。
【実施例】
【0034】
以下実施例をもって本発明を具体的に説明する。しかし、本発明は下記実施例に限定されない。
1.プライマー及びプローブの作製
パーキンエルマー社製DNAシンセサイザー392型を用いて、ホスホアミダイト法にて、配列番号4〜11に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを合成した。以下、配列番号4に示されるオリゴヌクレオチドを「オリゴ4」と省略する場合があり、他のオリゴヌクレオチドについても同様である。オリゴヌクレオチドの合成は上記製品のマニュアルに従い、オリゴヌクレオチドの脱保護はアンモニア水で55℃、一夜実施した。オリゴヌクレオチドの精製はパーキンエルマー社製のOPCカラムにて実施した。オリゴ4〜6及び11はセンス鎖プライマーであり、オリゴ7〜9はアンチセンス鎖プライマーである。これらセンス鎖プライマーとアンチセンス鎖プライマーとを任意に組み合わせてプライマーセットとして使用することができる。オリゴ10はプローブであり、5’末端のシトシンをフルオレセインイソチオシアネ−ト(FITC)で蛍光標識し、3’末端はリン酸基で標識した。配列番号1で示される塩基配列(bla-oxa-51-likeタンパクをコードする)との関係で、各オリゴヌクレオチドが認識する位置を下記表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
2.PCR法を用いたA. baumannii International Clone IIの検出
下記の表2に示すPCR反応液を調製し、下記表3に示す条件でPCRを実施した。表2において、抽出DNA溶液は、5つの異なる臨床試料より単離され、シークエンス法によりA. baumannii International Clone II由来であることが確認されたDNAを含む。また、フォワードプライマーには、オリゴ4〜6及び11のいずれかを用い、リバースプライマーには、オリゴ7〜9のいずれかを用いた。
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
上記条件に従った反応後、反応液の温度を上昇速度0.09℃/秒で40℃から75℃に上昇させながら蛍光量を測定した。測定結果に基づいて融解温度解析を行い、蛍光強度変化量を求めた。その結果を下記表4に示す。尚、全ての試験において、式[-dF(蛍光強度変化量)/dT(温度変化量)]で表される値が最も大きくなる温度(Tm)は、60℃付近であった。
【0040】
【表4】
【0041】
表4に示される通り、オリゴ11とオリゴ7のプライマーセットを用いてDNA溶液3を検出した場合を除き、全ての試験でPCR産物に結合したプローブが解離する際に生じる蛍光量の変化に基づいて、Acinetobacter baumannii International clone Type II株を検出できることが確認された。DNA溶液3の核酸について検討したところ、配列番号1で示される塩基配列において、オリゴ11が認識する領域とオリゴ4〜6が認識する領域との間に約1.3kbpの配列が挿入されており、これが原因で核酸が増幅しなかったことが判明した。
【0042】
3.Acinetobacter baumanniiと他のAcinetobacter属菌株との識別
種々の臨床材料から分離されたAcinetobacter baumanniiより抽出したDNA溶液について、上記2.の試験と同様の条件で、オリゴ4とオリゴ7のプライマーセットを用いてPCRを実施した。融解温度解析を行い、蛍光強度変化量及び式[-dF(蛍光強度変化量)/dT(温度変化量)]で表される値のピーク温度(Tm)を求めた。結果を下記の表5に示す。
【0043】
【表5】
【0044】
表5に示す通り、A. baumannii以外のAcinetobacter属由来の核酸は増幅されないことが確認された。また、A. baumannii International clone IIと他のA. baumanniiとでは、Tmの違いに基づいて識別可能であることが確認された。尚、このTmの差は、プローブが認識する領域(具体的には、配列番号1の第107番目及び第108番目の塩基)に変異が存在する為である。
【0045】
本発明に従えば、試料中の核酸の増幅を約17分で行い、その後の増幅産物の検出を約9分で行うことが可能であるため、全体として約26分でA. baumanniiと他の菌とを識別すること、及び/又はA. baumannii IC IIとその他の菌株とを識別することが可能である。更に、核酸増幅と増幅産物の検出は、1つの装置で連続的に行うことが可能であるため、実際には1作業工程で前記識別が可能である。一方、従来のシークエンス法を用いて、A. baumanniiと他の菌との識別、又は、A. baumannii IC IIと他の菌株とを識別するためには、核酸の増幅に約1.5時間、増幅産物の精製に約0.5時間、シークエンス反応に約2.5時間、及び、配列解析に約2時間所要するため、全体として6.5時間必要であり、分断された多くの作業工程が必要である。このように、本発明を利用することに、従来の方法と比較してA. baumannii 及び/又はA. baumannii IC IIの識別を、遥かに迅速、簡便、且つ、正確に行うことが可能である。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]