(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記走査機構は、前記副測定領域において、前記試料から発生した前記2次X線が直接入射される位置に前記検出器を移動することを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析装置。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる元素や当該元素の濃度を測定する機器として、X線を照射した際に発生する蛍光X線を検出し、当該蛍光X線のエネルギーと強度から構成元素を分析する蛍光X線分析装置が知られている。
【0003】
蛍光X線分析装置には、エネルギー分散型の検出器を備え、全元素の分析が一度に可能であるエネルギー分散型蛍光X線分析装置と、1元素ずつ分光素子で分光し、エネルギー分散型の装置よりも高精度な分析が可能である波長分散型蛍光X線分析装置が広く用いられている。
【0004】
具体的には、波長分散型蛍光X線分析装置は、分光素子を用いることにより10eV程度のエネルギー分解能を有するのに対して、エネルギー分散型蛍光X線分析装置は、分光素子を用いず、100eV程度のエネルギー分解能を有するSDD(Silicon Drift Detector)半導体検出器等を用いて分析を行う。
【0005】
エネルギー分散型の装置は、波長分散型の装置に比べて測定線のピーク重なりが多く、バックグラウンド強度も大きい。そのため、エネルギー分散型の装置では、一般的に波形分離処理などを行い、バックグラウンド強度を除去し、ピーク強度のみを抽出して定量分析を行う。
【0006】
一方、波長分散型の装置では、エネルギー分散型の装置に比べてバックグラウンド強度の影響は小さく、通常はバックグラウンド強度の分離除去は行わない。しかし、微量成分の定量分析などで高精度な分析を行う場合、波長分散型の装置を用いてバックグラウンド強度の分離除去を行う場合がある。
【0007】
例えば、ゴニオメータで分光素子と検出器を連動して走査する一般的な走査型の装置では、ピーク領域とピーク近接領域とで同程度の感度でバックグラウンド強度を測定できると見做し、ピーク近接領域にゴニオメータで移動させてバックグラウンド強度を測定し、ピーク測定強度からバックグラウンド強度を差し引いて定量分析を行う。この場合、測定に時間を要するという課題が存在する。
【0008】
また、特許文献1は、波長分散型装置に分光素子で分光された試料からの2次X線を測定する検出器と、試料からの2次X線を分光せずに直接測定するエネルギー分散型検出器をともに搭載し、用途に応じて使用する検出器を切り替える点を開示している。
【0009】
しかしながら、試料からの2次X線を分光せずに直接測定するエネルギー分散型の検出器と、分光素子で分光された2次X線を測定する検出器を共に備える構成は装置が複雑化するという課題が存在する。
【0010】
そこで、例えば特許文献2及び3は、簡易な装置構成を有する蛍光X線分析装置として、2次X線を分光する分光素子と、分光されたX線を測定するエネルギー分散型の検出器とを備える蛍光X線分析装置を開示している。当該装置は、例えば、最初に試料から発生した2次X線を直接測定し、全範囲のエネルギーのスペクトルを短時間で測定し、次いで分光された2次X線を測定することにより、微量元素の蛍光X線や分光しなければ妨害線と分離できない蛍光X線を個別に測定する。
【0011】
また、上記バックグラウンド強度を除去する技術として、例えば特許文献4は、分光素子で分光された2次X線を広い分光角度(エネルギー)範囲に渡たりエネルギー分散型の検出器を走査しながら狭いエネルギー範囲内のX線強度を測定する点を記載している。そして、測定されたX線スペクトルからピーク角度(エネルギー)における近接線や高次線等の妨害によるバックグラウンド強度を推定した上で、測定されたピークであるX線スペクトルから、推定されたバックグラウンド強度を差し引くこと点を開示している。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0028】
図1は、本発明の実施形態に係る蛍光X線分析装置の概略を示す図である。図に示すように、蛍光X線分析装置は、X線源100と、試料室102と、試料台104と、分光素子固定台106と、退避機構108と、検出器110と、計数器112と、走査機構114と、記憶装置116と、演算装置118と、を含んで構成されている。
【0029】
X線源100は、1次X線を試料台104に載置された試料103に照射する。
【0030】
試料室102は、X線源100の出射部、試料台104、分光素子固定台106、退避機構108、検出器110、走査機構114、を内部に収容する。また、試料室102の内部は、真空排気装置(図示せず)によって真空引きしてもよい。さらに、X線を透過する隔壁で仕切り、X線源100の出射部、試料台104を収容する試料室102と分けて、分光素子固定台106、退避機構108、検出器110、走査機構114、を収容する分光室(図示せず)を設けてもよい。
【0031】
試料台104は、試料103を載置する。具体的には、例えば、試料台104は、X線源100から1次X線が照射される面に対して、測定対象となる試料103を載置する。また、例えば、試料台104は、X線源100から1次X線が照射される面に対して、後述する比率を算出する為に必要な測定データを得る為に、標準試料を載置する。
【0032】
分光素子固定台106は、分光素子120を固定する。具体的には、例えば、分光素子固定台106は、試料から発生した複数の波長の2次X線のうち、入射角に応じて、いわゆるブラッグの条件式を満たす特定の波長のみを分光する分光素子120を固定する。
【0033】
分光素子固定台106は、それぞれ異なる波長または波長帯域の2次X線を分光する複数の分光素子120を固定する構成としてもよい。具体的には、例えば、多角柱の分光素子固定台106の異なる面に、それぞれ異なる格子間隔を有する分光素子120を固定し、分光素子交換機(図示せず)で分光素子固定台106を多角柱の中心軸を中心に回転させ、測定対象となる元素に応じて分光素子120を選択する構成としてもよい。
【0034】
分光素子120で分光する角度分解能を確保するため、試料と分光素子120との間、または/および、分光素子120と検出器110との間にスリット(図示せず)を設けてもよい。
【0035】
また、分光素子固定台106は、全反射ミラー200を固定する構成としてもよい。具体的には、例えば、
図2に示すように、分光素子固定台106は、高エネルギー成分を除去する全反射ミラー200を固定するようにしてもよい。また、分光素子固定台106に固定する複数の分光素子120の一つを全反射ミラー200に置き換えて、分光素子交換機を用いて選択する構成としてもよい。
【0036】
退避機構108は、分光素子120を2次X線の経路から退避する。具体的には、例えば、
図3に示すように、退避機構108は、分光素子120が固定された状態の分光素子固定台106を移動させることによって、分光素子120を試料から発生した2次X線の進む経路から退避する。また、例えば、分光素子交換機を退避機構108として用い、分光素子を取り付けていない多角柱の面に分光素子固定台106を回転させて、分光素子120が試料から発生した2次X線を遮らない位置に退避するようにしてもよい。
【0037】
走査機構114は、退避機構108により分光素子120が退避された状態でエネルギー分散型装置として2次X線を測定する副測定領域124と、波長分散型装置として分光素子120に分光された2次X線を測定する主測定領域122と、の間で検出器110を連続的に移動する。
【0038】
具体的には、例えば、分析試料の測定時に、走査機構114は、バックグラウンド強度を得るために2次X線を測定する副測定領域124と、試料103に含まれる元素のピーク強度を得るために2次X線を測定する主測定領域122の間で検出器110を連続的に移動する。
【0039】
ここで、副測定領域124は、分光素子120が退避された状態で試料から発生した2次X線が直接入射される位置、及び、分光素子120が退避された位置に配置された全反射ミラー200によって反射された2次X線が入射される位置を含む領域である。
【0040】
具体的には、例えば、試料から発生した2次X線の進む方向と分光素子120表面との成す入射角度をθ度とした場合、副測定領域124は、θが0度となる位置である。また、全反射ミラー200で反射された2次X線が入射される位置は、2θが、0度近傍(例えば0.5度)となる位置である。
【0041】
主測定領域122は、分光素子120に分光された2次X線が入射される領域である。具体的には、例えば、主測定領域122は、2θが10度から160度となる領域である。
【0042】
また、走査機構114は、2次X線が分光素子120に入射する入射角度を変更するとともに、分光された2次X線が出射された方向に検出器110の位置を移動する。具体的には、例えば、走査機構114は、入射角度がθ度である場合に、試料から発生した2次X線の進む方向と分光素子120によって分光された2次X線の進む方向との成す角度が2θ度となるように、分光素子固定台106を回転させるとともに、検出器110を移動する。例えば、走査機構114は、いわゆるゴニオメータである。
【0043】
走査機構114の動作によって、2次X線が分光素子120に入射する入射角度が変更される。入射角度は分光される2次X線のエネルギーの関数であることから、走査機構114を備えた検出器110は、様々なエネルギーの2次X線の強度を高いエネルギー分解能で測定することができる。
【0044】
上記のように、走査機構114が検出器110をθが0度から160度まで連続的に走査または任意の角度に移動させる構成とすることにより、副測定領域124で測定する機構と、主測定領域122で測定する機構を共有することができ、蛍光X線分析装置の構成を簡素なものにすることができる。
【0045】
検出器110は、2次X線の強度を測定するエネルギー分散型の検出器である。具体的には、例えば、検出器110は、従来から知られているSDD等の半導体検出器である。なお、検出器110は、エネルギー分散型蛍光X線装置の検出器として用いて元素分析を行えるエネルギー分解能を有していれば半導体検出器以外の検出器であってもよい。また、検出器110は、走査機構114によって、2次X線を直接入射する位置、又は、全反射ミラー200によって反射された2次X線を入射する位置、又は、分光された2次X線を入射する位置に配置される。
【0046】
計数器112は、検出器110から出力されるパルス信号を、2次X線のエネルギーに相当する波高値に応じて計数して演算装置118に出力する。具体的には、例えば、計数器112は、マルチチャンネルアナライザであって、検出器110の出力パルス信号を、エネルギーに対応したチャンネル毎に計数し、2次X線の強度として演算装置118に出力する。
【0047】
記憶装置116は、試料103を測定対象として、副測定領域124で測定されたバックグラウンド強度と、主測定領域122で測定されたバックグラウンド強度と、の比率を予め記憶する。
【0048】
また、例えば、記憶装置116は、標準試料を測定対象とした場合における、全反射ミラー200によって反射された2次X線のバックグラウンド強度と、主測定領域122で測定されたバックグラウンド強度と、の比率を予め記憶するようにしてもよい。比率の算出方法及び演算装置118の詳細な説明については後述する。
【0049】
演算装置118は、副測定領域における測定強度から波形分離してバックグラウンド強度を算出するとともに、主測定領域における分析線の測定強度から、分析線のエネルギーに対応する算出されたバックグラウンド強度に上記比率を乗じた値を差し引く補正を行い、定量分析を行う。
【0050】
具体的には、演算装置118は、試料の分析を行う時、副測定領域124における分光されていない2次X線の測定強度から波形分離して、分析線のエネルギーに対応するバックグラウンド強度を算出する。さらに、演算装置118は、主測定領域122における測定強度から、分析線のエネルギーに対応する、前記算出されたバックグラウンド強度に、予め記憶した比率を乗じた値を差し引く補正を行い、定量分析を行う。
【0051】
なお、上記比率を算出する際に用いる試料103は、組成が既知である標準試料が望ましい。具体的には、例えば、演算装置118は、副測定領域124において2次X線を直接入射する位置に検出器110が配置された状態で標準試料を測定した2次X線のスペクトルから波形分離処理等を行うことで分析線のエネルギーに対応するバックグラウンド強度を算出する。また、ピーク強度の分離が不要な分析対象元素を含まない標準試料を用いて、直接バックグラウンド強度のスペクトルを測定し、分析線のエネルギーに対応するバックグラウンド強度を分離算出するのがより望ましい。
【0052】
標準試料を測定対象として、主測定領域122で測定されるバックグラウンド強度は、例えば、測定線のピーク近傍において、ピーク角度の両側に等間隔の角度に順次配置される検出器110で測定された強度を平均して算出される。また、分析対象元素を含まない標準試料を用いて、直接バックグラウンド強度を測定するのがより望ましい。
【0053】
続いて、本実施形態における蛍光X線分析装置の動作について説明する。まず、記憶装置116が予め記憶する比率について、例えば、グラファイトの様な分析対象となる元素を殆ど含まない標準試料を用いた場合を説明する。
【0054】
まず、試料台104に標準試料が載置されている状態で、当該標準試料に1次X線が照射される。検出器110は、副測定領域124に配置され、分光素子120が退避された状態で2次X線の強度を測定する。
【0055】
ここで測定する2次X線の強度は、主測定領域122で測定する分光された2次X線の強度よりも強い。そのため、1次X線の強度と比例するX線管の管電流を下げて、検出器110が飽和しない1次X線の強度を予め定めておくこともできる。また、X線光路中に減衰率が既知であるアッテネータを挿入して、検出器110が飽和しない強度にしてもよい。
【0056】
続いて、計数器112は、検出器110の出力パルス信号を、エネルギーに相当する波高値に応じた2次X線の強度として計数して演算装置118に出力する。
【0057】
ここで、演算装置118に出力される測定結果を、縦軸を2次X線の強度とし、横軸をエネルギーとするスペクトルで
図4に示す。具体的には、例えば、副測定領域124における測定結果は、
図4における19keV付近のエネルギーで、約90のピーク強度を有するスペクトルである。このバックグラウンドスペクトルのピークは試料に照射された1次X線のコンプトン散乱によるものである。
【0058】
また、標準試料が分析元素等を含む場合には、含有元素に起因するピーク強度を波形分離し、バックグラウンド強度を算出する。具体的には、例えば、ピーク波形がガウシアン関数、バックグラウンド強度がエネルギーの1次関数であると仮定して、最小二乗法を用いて波形分離してエネルギーに対するバックグラウンド強度を算出する。
【0059】
ここで、検出器110は、
図2のように、全反射ミラー200で反射された2次X線の強度を測定してもよいし、
図3のように、分光素子120が固定された分光素子固定台106が2次X線の経路から退避された状態で2次X線の強度を測定してもよい。全反射ミラー200を用いて測定した場合には、測定結果に含まれる不要な高エネルギー成分を除去することができるので、必要なエネルギー領域において検出器が飽和しない強度で効率よく測定することができる。
【0060】
次に、走査機構114は、検出器110を主測定領域122に移動させる。例えば、走査機構114は、検出器110を2θが10度となる位置に移動させる。また、退避機構108は、退避させていた分光素子120を2次X線が入射される位置に配置する。
【0061】
次に、標準試料に予め定めた強度の1次X線が照射された状態で、分光素子120の回転角θと連動させ、走査機構114が検出器110を2θが10度から160度となる位置に走査させながら、検出器110は分光素子120に分光された2次X線の強度を測定する。なお、設定ステップごとに2θの走査を一定時間停止させながら、順次2次X線の強度を測定してもよい。また、分析する元素が限られている場合は、必要な2θ角度(エネルギー)のみに検出器を移動して2次X線の強度を測定することもできる。
【0062】
計数器112は、検出器110の出力パルス信号を、2θに応じた2次X線の強度として計数して演算装置118に出力する。具体的には、例えば、計数器112が2θをエネルギーに変換することで得られる主測定領域122における測定結果は、
図4における19keV付近で、約270のピーク強度を有するスペクトルである。
【0063】
標準試料に分析元素等を含む場合は、含有元素によるピーク強度を分離除去し、バックグラウンド強度を算出する。具体的には、例えば、バックグラウンド強度がエネルギーの1次関数であると仮定して、ピーク強度を含まないピークの両側同角度で測定した2次X線強度を平均して、ピーク角度(エネルギー)でのバックグラウンド強度を算出する。
【0064】
次に、演算装置118は、副測定領域124において測定された分光されていない2次X線のバックグラウンド強度と、主測定領域122において測定された分光された2次X線のバックグラウンド強度と、の比率を算出する。具体的には、例えば、演算装置118は、主測定領域122において測定された分光された2次X線のバックグラウンド強度を副測定領域124において測定された分光されていない2次X線のバックグラウンド強度で除算し、
図4に示すようなエネルギーに対応する比率(縦軸右目盛り)を算出する。比率は、副測定領域124において測定された分光されていない2次X線のバックグラウンド強度を主測定領域122において測定された分光された2次X線のバックグラウンド強度で除算したものや、規定値に対する相対値等を用いることもできる。また、エネルギーと等価である2θ角度等に対応する比率でもよい。
【0065】
なお、
図4に示すように、例えば副測定領域124における高いエネルギー領域等では測定強度が低下するため、比率は、当該領域ではノイズを多く含む。従って、比率は、スムージング処理されたものが望ましい。そこで、演算装置118は、比率に対して、例えば、Savitzuky−Goray法等により、
図4に示すような移動平均を算出してもよい。実際の測定位置である2θ角度(分析元素の蛍光X線エネルギー等)に対してのみ比率を算出しておく場合は、測定位置である2θ角度を中心とする一定範囲の比率を平均してもよい。また、スムージング処理は、比率を算出する前の主測定領域および副測定領域において測定されたバックグラウンド強度に対して行ってもよい。
【0066】
さらに、演算装置118は、比率の移動平均に対して、近似式を算出してもよい。具体的には、例えば、
図4に示す測定結果における比率に対する近似曲線は、比率yを、エネルギーxの2次関数とした場合、下記式1で表される。
【0067】
y=0.0089x
2-0.0017x-0.118・・・(式1)
【0068】
なお、
図4に示すRの2乗は、いわゆる決定係数であり、近似式の一致度の高さを表す指標であり、1.0に近いほど一致度が数高い。
図4に示す近似曲線の決定係数は、0.9941である。
【0069】
試料から発生した2次X線は、分光素子120によって分光される際、分光素子120の反射係数に応じて減衰する。主測定領域122において検出器110が測定する2次X線は分光素子120によって分光されたX線であることから、主測定領域122において検出器110が測定する2次X線の強度は、分光素子120によって減衰した後の強度である。
【0070】
一方、副測定領域124において検出器110は、試料から出射されるX線を直接測定する。従って、副測定領域124において検出器110が測定する2次X線は、主測定領域122において検出器110が測定する2次X線のように分光素子120による減衰が発生していない。
【0071】
さらに、主測定領域122における分光された2次X線の測定強度は、元素分析に用いる分析線の他に、試料での散乱線や分光素子で発生する蛍光X線などのバックグラウンド強度を含む。試料での散乱線から分光された高次線など、分析線からエネルギーが離れたバックグラウンド強度については、計数器112で計数するエネルギーの範囲を限定して除去することもできるが、分析線と同じエネルギーで分光されたバックグラウンド強度は除去することができない。
【0072】
従って、主測定領域122におけるバックグラウンド強度と、副測定領域124におけるバックグラウンド強度と、の比率は、分光素子等の光学系及び測定条件に対して固有の比率として算出することができる。分析試料を測定する前に、記憶装置116は、上記のようにして算出された比率を、予め記憶する。
【0073】
なお、記憶装置116は、2次X線のエネルギーの大きさに対応した比率を記憶するようにすることが望ましい。例えば、記憶装置116は、上記比率を2次X線のエネルギーの関数として記憶するようにすることが望ましい。具体的には、上記のように、多項式で近似された関数を比率として記憶することが望ましい。
【0074】
しかしながら、記憶装置116は、比率とエネルギーをテーブルとして記憶してもよい。また、記憶装置116は、特定のエネルギーまたはエネルギー範囲における比率のみを記憶するようにしてもよい。さらに、記憶装置116は、分光素子120を複数備える構成とする場合には、分光素子120毎に異なる上記比率を記憶するようにしてもよい。
【0075】
また、上記比率を算出する際に測定対象となる試料は、分析対象元素を含まない標準試料であることが望ましい。具体的には、例えば、標準試料は、グラファイトまたはアクリルであることが望ましい。特に、グラファイトは、X線照射による劣化が少ないため、標準試料として好適である。
【0076】
続いて、記憶装置116が比率を記憶した状態で、分析対象である試料103を測定する場合における蛍光X線分析装置の行う処理について説明する。
【0077】
まず、分析対象である試料103が試料台104に載置された状態で、当該試料103に対して1次X線が照射される。具体的には、例えば、鉛フリー半田や、鉛を含む鉱物が試料台104に載置される。
【0078】
次に、検出器110は、副測定領域124に配置される。次に、検出器110は、分光素子120が退避された状態で2次X線の強度を測定する。また、計数器112は、検出器110から出力されるパルス信号を、波高値に応じて計数して演算装置118に出力する。
【0079】
ここで、検出器110は、
図2のように、全反射ミラー200で反射された2次X線の強度を測定してもよいし、
図3のように、分光素子120が固定された分光素子固定台106が2次X線の経路から退避された状態で2次X線の強度を測定してもよい。
【0080】
次に、走査機構114は、検出器110を主測定領域122に移動させる。具体的には、例えば、退避機構108は、退避させていた分光素子120を2次X線が入射される位置に配置する。また、走査機構114は、例えば、分光素子120を鉛の分析線を分光する入射角に設定し、分光された分析線を測定できる位置に検出器110を移動させる。
【0081】
次に、試料に1次X線が照射された状態で、検出器110は2次X線の強度を測定する。また、計数器112は、検出器110の出力パルス信号を計数して演算装置118に出力する。
【0082】
次に、演算装置118は、主測定領域122における測定強度から、バックグラウンド強度を差し引く補正を行う。具体的には、例えば、演算装置118は、副測定領域124における測定強度から波形分離して、分析線のエネルギーに対応するバックグラウンド強度を算出する。次に、演算装置118は、当該バックグラウンド強度に対して、主測定領域122において検出器110が配置された位置と対応する分析線のエネルギーにおける比率を乗算する。
【0083】
ここで、上記比率は、副測定領域124及び主測定領域122において測定したバックグラウンド強度の比率であるため、乗算によって得た値は、主測定領域122における測定強度に含まれるバックグラウンド強度と近似できる。次に、演算装置118は、主測定領域122における測定強度から、乗算によって得た値を差し引く補正を行う。
【0084】
主測定領域122及び副測定領域124における標準試料及び実際に分析を行う試料103の測定において、測定条件の組み合わせが異なる場合、前記比率に盛込んでおくか、算出するバックグラウンド強度を追加補正する必要がある。例えば、測定条件としてX線管の管電流や測定時間を変えた場合、これらは2次X線の測定強度とそれぞれ比例するので、前記比率に容易に盛り込むことができる。減衰率が既知であるアッテネータの有無に関しても同様である。
【0085】
設定した分析元素に応じて、順次、走査機構114が検出器110を移動させて2次X線の強度を測定し、上記補正を行った強度を用いて定量分析を行い、分析元素の含有率を算出する。
【0086】
図5(a)及び(b)は、それぞれ本発明における蛍光X線分析装置を用いた検量線、及び、従来技術を用いた検量線を示す図である。
図5(a)は、測定対象が鉛フリー半田である場合における鉛の検量線であり、
図5(a)の横軸は、測定対象である試料に実際に含まれる鉛の質量パーセントであり、縦軸は、鉛の分析線であるPB−Lβ1線の強度である。
【0087】
図5(a)における測定方法Aは、従来のシンチレーション検出器を備えた波長分散型蛍光X線分析装置を用いた検量線である。
図5(a)における測定方法Bは、エネルギー分散型の検出器を備えた従来の方法で分析線と離れたエネルギーのバックグラウンド強度を除去する波長分散型蛍光X線分析装置を用いた検量線である。また、
図5(a)における測定方法Cは、本発明を用いた検量線である。
【0088】
図5(a)における横軸は、測定対象である試料に実際に含まれる鉛の質量パーセントであることから、切片における2次X線の強度は0となることが理想である。しかしながら、
図5(a)に示すように、測定方法A及びBによる検量線は、測定対象が鉛を含まない試料である場合であっても、一定の強度の2次X線が観測されている。
【0089】
一方、測定方法Cによる検量線は、切片が0に近く、決定係数も1.0に近い。これは、従来技術と比較して高精度な定量分析が行えることを示している。
【0090】
また、
図5(b)は、測定対象が鉱物である場合における鉛の検量線であり、
図5(b)の横軸は、当該鉱物に実際に含まれる鉛の質量パーセントであり、縦軸は、鉛の分析線であるPB−Lβ1線の強度である。
【0091】
図5(b)における測定方法Aは、従来のエネルギー分散型蛍光X線分析装置を用いた検量線である。
図5(b)における測定方法Bは、シンチレーション検出器を備えた従来の方法でバックグラウンド強度を除去する波長分散型蛍光X線分析装置を用いた検量線である。また、
図5(b)における測定方法Cは、本発明を用いた検量線である。
【0092】
鉱物中に含まれる鉛の質量パーセントと、測定された2次X線の強度は比例関係を有し、検量線に対してばらつきが少ないことが望ましい。従って、決定係数は1.0となることが理想である。
【0093】
図5(b)に示すように、測定方法A及びBにおいて、検量線を1次関数で近似すると、測定方法Aにおける決定係数は0.2944であり、測定方法Bにおける決定係数は0.864である。当該決定係数は、1.0から離れた値であることから、当該決定係数は、測定方法A及びBによる検量線では精度良く定量分析ができないことを示している。
【0094】
一方、測定方法Cにおける決定係数は0.989であり、1.0に近い値であることから、測定方法Cによる検量線は、精度良く定量分析ができることを示している。
【0095】
ここでは分かり易いように検量線法を用いた定量分析の例で説明したが、FP(ファンダメンタルパラメータ)法を用いた定量分析でも原理的に同様の効果が得られる。
【0096】
以上のように、本発明によれば、エネルギー分散型の検出器を用い、分光素子120で分光された2次X線の測定強度から、分光せずに測定された2次X線の強度に基づき算出されたバックグラウンド強度を除去することで高精度な定量分析を行うことができる。
【0097】
また、予め、分光された2次X線のバックグラウンド強度と分光されていない2次X線のバックグラウンド強度との比率を記憶しておくことにより、ピーク位置の近傍に検出器を移動させて別途測定を行うことが不要となり、迅速な測定を行うことができる。さらに、走査機構114が、検出器110を副測定領域124と主測定領域122との間で連続的に移動させることにより、簡素な構成とすることができる。