(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6435646
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】埋込磁石型回転電機用のロータ
(51)【国際特許分類】
H02K 1/27 20060101AFI20181203BHJP
H02K 1/22 20060101ALI20181203BHJP
H02K 21/14 20060101ALI20181203BHJP
【FI】
H02K1/27 501C
H02K1/22 A
H02K1/27 501A
H02K1/27 501K
H02K21/14 M
H02K21/14 G
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-110985(P2014-110985)
(22)【出願日】2014年5月29日
(65)【公開番号】特開2015-226410(P2015-226410A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2016年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柏原 寛親
【審査官】
上野 力
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−195393(JP,A)
【文献】
特開2013−115899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/27
H02K 1/22
H02K 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
埋込磁石型回転電機用のロータであって、
ロータコアには、永久磁石が埋め込まれる複数のスロットが周方向に沿って配列され、
周方向に沿って隣り合う前記スロットの最外周端部間には、両者を繋ぐスリットが切られ、
前記スリットは、前記ロータの静止時に対向面が接するように形成されていることを特徴とする、埋込磁石型回転電機用のロータ。
【請求項2】
埋込磁石型回転電機用のロータであって、
ロータコアには、永久磁石が埋め込まれる複数のスロットが周方向に沿って配列され、
周方向に沿って隣り合う前記スロットの最外周端部間には、両者を繋ぐスリットが切られ、
前記スリットには、前記ロータコアの内径方向に折れ曲がる屈曲部が形成されていることを特徴とする、埋込磁石型回転電機用のロータ。
【請求項3】
埋込磁石型回転電機用のロータであって、
ロータコアには、永久磁石が埋め込まれる複数のスロットが周方向に沿って配列され、
周方向に沿って隣り合う前記スロットの最外周端部間には、両者を繋ぐスリットが切られ、
前記スリットには、前記ロータコアの内径側に突出する蟻溝が形成されるとともに、前記蟻溝に嵌合する蟻ホゾを備える高透磁性材料からなるダブテイルピースが挿入されることを特徴とする、埋込磁石型回転電機用のロータ。
【請求項4】
埋込磁石型回転電機用のロータであって、
磁路を構成する単一のロータコアには、永久磁石が埋め込まれる複数のスロットが周方向に沿って配列され、
前記ロータコアは、前記スロットの最外周端部が開口され当該最外周端部が外径となるように成形され、
前記ロータコアには、静止時における当該ロータコアの外径と内径を等しくする高透磁性材料からなるリング部材が嵌め込まれることを特徴とする、埋込磁石型回転電機用のロータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋込磁石型回転電機用のロータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ロータコア内に永久磁石が埋め込まれた、いわゆる埋込磁石型(IPM型)の回転電機が知られている。この回転電機のロータコアには、永久磁石挿入用のスロットが形成されている。
【0003】
特許文献1,2などに示されているように、スロットはロータコアの周方向に沿って配列形成される。例えば、V字型埋め込み方式では、複数のスロットがロータコアの周方向に沿ってV字型に配列される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−178471号公報
【特許文献2】特開平11−332144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、発明者による解析の結果、V字型埋め込み方式等、埋め込み磁石型回転電機では、回転に伴ってロータコアに応力集中が生じることが明らかとなった。
図14は、その解析結果を模式的に表すものである。この図では、ロータコア100の静止時(無負荷時)の様子が二点鎖線で示され、回転時(変形時)の様子が実線で示されている。
【0006】
ロータコア100の回転に伴い、ロータコア100の、スロット102よりも外周側の部分104及び永久磁石106は、遠心力により外周方向に引っ張られる。このとき、ロータコア外周部分104及び永久磁石106は、センターリブ108及びサイドリブ110に繋ぎ留められる。ここで、センターリブ108は、スロット102、102間に形成された部分を指し、サイドリブ110は、スロット102の最外周端部112とロータコア100の外周面114との間の部分を指している。
【0007】
ロータコア100の回転数増加に伴い、ロータコア外周部分104及び永久磁石106に掛かる遠心力が増加する。発明者による解析の結果、遠心力の増加に伴い、サイドリブ110の変形量が過大となって、スロット102の最外周端部112を起点に応力集中が生じることが明らかとなった。回転数が増加して応力集中が進行すると、サイドリブ110に亀裂が生じるおそれがある。そこで、本発明は、ロータコアにおける応力集中を緩和させ、ロータの高回転化を可能とする、埋込磁石型回転電機用のロータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、埋込磁石型回転電機用のロータに関するものである。ロータコアには、永久磁石が埋め込まれる複数のスロットが周方向に沿って配列されている。また、周方向に沿って隣り合う前記スロットの最外周端部間には、両者を繋ぐスリットが切られている。
【0009】
また、上記発明において、前記スリットには、前記ロータコアの内径方向に折れ曲がる屈曲部が形成されていることが好適である。
【0010】
また、上記発明において、前記スリットには、前記ロータコアの内径側に突出する蟻溝が形成されるとともに、前記蟻溝に嵌合する蟻ホゾを備える高透磁性材料からなるダブテイルピースが挿入されることが好適である。
【0011】
また、上記発明において、前記スロットが開口しており最外周端部が外径となるように、小さく成形された前記ロータコアには、当該ロータコアの外径と内径を等しくするリング部材が嵌め込まれることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高回転化に伴うロータコアの応力集中を従来よりも緩和させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係るロータを例示する側面図である。
【
図2】本実施形態に係るロータを例示する側面図である。
【
図3】本実施形態に係るロータを例示する部分拡大図である。
【
図4】本実施形態の別例に係るロータを示す側面図である。
【
図5】本実施形態の別例に係るロータを示す部分拡大図である。
【
図6】本実施形態の別例に係るロータを示す側面図である。
【
図7】本実施形態の別例に係るロータを示す側面図である。
【
図8】本実施形態の別例に係るロータを示す側面図である。
【
図9】従来技術に係るロータの応力解析結果を示す図である。
【
図10】本実施形態に係るロータの応力解析結果を示す図である。
【
図11】本実施形態の別例に係るロータの応力解析結果を示す図である。
【
図12】本実施形態の別例に係るロータの応力解析結果を示す図である。
【
図13】本実施形態の別例に係るロータの応力解析結果を示す図である。
【
図14】従来技術に係るロータの応力集中について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に、本実施形態に係る、埋込磁石型回転電機用のロータ10を例示する。この回転電機は、例えばハイブリッド車両や電気自動車の駆動源及び発電機として機能する。ロータ10は、ロータコア12、回転シャフト14、及び永久磁石16を備える。
【0015】
回転シャフト14はロータコア12に嵌合し、ロータ10の回転による駆動力を、図示しない負荷に伝達する。永久磁石16は、図示しないステータの回転磁界と吸引反発して磁石トルクを発生させる。永久磁石16は、例えばネオジム磁石等の希土類磁石から構成される。
【0016】
ロータコア12の磁極構成として、一対の永久磁石16で一つの磁極を構成する。例えばN極とS極の一方の磁極となる一対の永久磁石16A,16Aと、他方の磁極となる一対の永久磁石16B,16Bとが、それぞれロータコア12の周方向に沿って順次配置される。これにより、一対の永久磁石16A,16Aまたは16B,16Bは、例えば周方向に沿ってV字型となるように配置される。
【0017】
ロータコア12は、ステータの鉄磁極の磁束(リラクタンストルク)や永久磁石16の磁束(マグネットトルク)の磁路として機能する。ロータコア12は、高透磁性材料から構成され、例えば円盤状の珪素鋼板を積層することで形成される。
【0018】
ロータコア12には、永久磁石16が埋め込まれる複数のスロット18が形成されている。スロット18は、ロータコア12の軸方向に穿孔された貫通孔であって、ロータコア12の周方向に沿って、例えばV字状に配列形成されている。また、ロータ10の回転時における永久磁石16の径方向外側への移動を防止するために、スロット18の外周側の幅を永久磁石16の幅未満となるように絞ることで、ストッパ20を形成するようにしてもよい。
【0019】
ロータコア12には、周方向に沿って隣り合うスロット18,18の最外周端部18A,18Aを繋ぐスリット22Aが切られている。スリット22Aは、例えば異極の永久磁石16A,16Bを繋ぐようにして形成される。スリット22Aは直線状に形成されていてもよく、またロータコア12の外周に沿った(中心がロータコア12外周と等しい)円弧形状に形成されてもよい。
【0020】
スリット22Aは、スロット18の最外周端部18Aの応力集中を緩和させる緩和手段として機能する。
図2のハッチングにて示すように、スリット22Aを設けることで、ロータコア12の最外周部がリング状となる。すなわち、
図14にて示したように、サイドリブとセンターリブとが永久磁石とロータコアの最外周部分を繋ぎ留める従来構造に代えて、本実施形態では、ロータコア12にリング状の枠(箍)を嵌めるような構造を採っている。このような構造とすることで、後述するように、ロータ10の高回転化に伴う、スロット18の最外周端部18Aの応力集中が緩和される。
【0021】
図3には、スリット22Aの周辺拡大図が示されている。スリット22Aの幅Wが増加するほど、磁気回路的にはロータコア12の磁気抵抗が増加することになる。このため、スリット22Aの幅Wを狭く形成することが好適である。具体的には、スリット22Aの幅Wは、静止時(無負荷時)において、0mm以上0.1mm以下となるように形成されていることが好適である。例えばロータ10の静止時に、対向面24,24が接するように(W=0mm)スリット22Aが形成されることがより好適である。
【0022】
また、
図3の矢印にて示すように、ロータコア12の、スリット22Aを隔てた内周側と外周側とが、ロータ10の回転に伴って振動する。この振動を吸収するために、幅Wが0mmを超過するようにスリット22Aを形成するとともに、当該スリット22Aに樹脂等の緩衝材25を充填してもよい。
【0023】
図4には、
図1とは別例の実施形態が示されている。
図1と異なる構造として、スリット22Bには、ロータコア12の内径方向に折れ曲がる屈曲部26が形成されている。
【0024】
図5には、スリット22Bとその周辺の拡大図が例示されている。スリット22Bに屈曲部26を設けるとともに、当該スリット22Bに緩衝材25を充填することで、
図5の矢印に示されているように、ロータコア12の、スリット22Bを隔てた内周側と外周側との、径方向及び周方向の振動が吸収される。
【0025】
図6には、
図1、
図4とは別例の実施形態が示されている。
図1、
図4と異なる構造として、スリット22Cには、ロータコア12の内径側に突出する蟻溝28が形成される。さらに、スリット22Cには、この蟻溝28に嵌合する蟻ホゾ30を備えるダブテイルピース32が挿入される。
【0026】
ダブテイルピース32は、高透磁性材料から構成される。例えば、珪素鋼などの、ロータコア12と同一の材料から構成される。上述したように、磁気抵抗の低減のために、スリット22Cの幅Wは0mmであることが好適であるが、加工上これを実現することは困難となる。そこで、スリット22Cに高透磁性材料を挿入することで、磁気抵抗の低下を抑制する。
【0027】
さらに、ダブテイルピース32には、ロータ10の回転時に自重による遠心力が発生するが、上記嵌合手段(蟻溝28と蟻ホゾ30)を設けることで、ダブテイルピース32をロータコア12の内周側に繋ぎ留めることが可能となる。その結果、ダブテイルピース32による、ロータコア12の外周側(例えば、
図2のハッチングにて示したリング状の領域)への荷重が抑制される。
【0028】
図7には、
図1、
図4、及び
図6とは別例の実施形態が示されている。
図1、
図4及び
図6と異なる構造として、ロータ10は、ロータコア12、回転シャフト14、及び永久磁石16の他に、リング部材34を備える。
【0029】
ロータコア12は、スロット18が開口されその最外周端部18Aが外径となるように、小さく成形されている。
図8に示されるように、このロータコア12に、リング部材34が嵌め込まれる。
図7に戻り、ロータコア12の外周面とリング部材34の内周面とによって、スロット18,18の最外周端部18A,18Aを繋ぐスリット22Dが形成される。
【0030】
リング部材34は、高透磁性材料から構成されることが好適であって、例えば、珪素鋼などの、ロータコア12と同一の材料から構成される。また、リング部材34の内径は、ロータコア12の外径(直径)に等しいことが好適である。なお、等しいとは実際の機械加工精度を考慮したものであってよく、静止時(無負荷時)におけるリング部材34の内径とロータコア12の外径の差が0.1mm以下であるときに、両者の径は等しいものとしてよい。
【0031】
次に、本実施形態に係るロータ10の応力解析結果について、
図9〜
図13を用いて説明する。これらの図に示す応力解析では、いずれも、鉄からロータを構成している。また回転数は25,000回転とした。さらに、静止時(無負荷時)の形状を破線で示し、回転時の形状(変形状態)を実線で示す。さらに、応力の強さを、格子状ハッチングの網掛けの粗密で表している。網掛けが密であるほど、相対的に応力が高いことを示している。
【0032】
図9には、スリット22が形成されていない、従来のロータにおける応力解析結果が示されている。なお、永久磁石16は未挿入の状態で解析を行った。この図に示されているように、スロット18の最外周端部18Aに強い応力が掛かっている。この解析における最大応力は約1010MPaであった。
【0033】
図10には、
図1に係る実施形態におけるロータ10の応力解析結果が示されている。なお、永久磁石16は未挿入の状態で解析を行った。また、この解析では、回転時におけるロータ10の変形がごく僅かであったため、静止時(破線)の形状図示を省略している。この図に示されているように、ロータコア12の、スリット22Aより外周側の広範囲に亘って強い応力が掛かっている。この解析における最大応力は470MPaであり、従来のロータと比較して応力集中が緩和されていることが確認された。
【0034】
図11には、
図4に係る実施形態におけるロータ10の応力解析結果が示されている。なお、永久磁石16が挿入された状態で解析を行った。この図に示されているように、ロータコア12の、スリット22Bより外周側に強い応力が掛かっている。この解析における最大応力は約770MPaであり、永久磁石16を挿入した状態であっても、従来のロータと比較して応力集中が緩和されていることが確認された。
【0035】
図12には、
図6に係る実施形態におけるロータ10の応力解析結果が示されている。なお、永久磁石16が挿入された状態で解析を行った。この図に示されているように、ダブテイルピース32の蟻ホゾ30はロータコア12の蟻溝28と係合していることが理解される。また、ロータコア12の、スリット22Cより外周側の広範囲に亘って強い応力が掛かっている。この解析における最大応力は370MPaであり、永久磁石16を挿入した状態であっても、従来のロータと比較して応力集中が緩和されていることが確認された。
【0036】
図13には、
図7に係る実施形態におけるロータ10の応力解析結果が示されている。なお、永久磁石16は未挿入の状態で解析を行った。この図に示されているように、スリット22Dより外周側のリング部材34全体に強い応力が掛かっている。この解析における最大応力は約220MPaであり、従来のロータと比較して応力集中が緩和されていることが確認された。
【符号の説明】
【0037】
10 ロータ、12 ロータコア、16 永久磁石、18 スロット、22 スリット、26 屈曲部、28 蟻溝、30 蟻ホゾ、32 ダブテイルピース、34 リング部材。