特許第6435785号(P6435785)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6435785燃料電池用セパレータおよび燃料電池セルスタック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6435785
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータおよび燃料電池セルスタック
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0247 20160101AFI20181203BHJP
   H01M 8/0234 20160101ALI20181203BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20181203BHJP
【FI】
   H01M8/0247
   H01M8/0234
   !H01M8/12 101
   !H01M8/12 102A
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-226564(P2014-226564)
(22)【出願日】2014年11月7日
(65)【公開番号】特開2016-91867(P2016-91867A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 朗
【審査官】 前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−231172(JP,A)
【文献】 特開平7−315932(JP,A)
【文献】 特開2007−15901(JP,A)
【文献】 特開2007−157424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0247
H01M 8/0234
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード(20)と固体電解質層(21)とカソード(23)とを有する平板形の燃料電池単セル(2)に用いられる燃料電池用セパレータ(1)であって、
セパレータ本体(10)と、
該セパレータ本体(10)の上記燃料電池単セル()側に配置されたカソード側集電体(12)と、
上記セパレータ本体(10)と上記カソード側集電体(12)との間に配置された繊維状部材よりなる熱伝導層(11)とを有しており、
上記カソード側集電体(12)は、メッシュ状体から構成されており、
上記繊維状部材は、上記セパレータ本体(10)の材料よりも熱伝導率が大きい材料の繊維より形成されていることを特徴とする燃料電池用セパレータ(1)。
【請求項2】
上記繊維状部材は、炭化珪素および/または炭化珪素を主成分とする複合材の繊維より形成されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用セパレータ(1)。
【請求項3】
上記繊維状部材は、25W/m・K以上の熱伝導率を有する材料の繊維より形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の燃料電池用セパレータ(1)。
【請求項4】
上記熱伝導層(11)の厚みは、0.2mm以上2mm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータ(1)。
【請求項5】
上記セパレータ本体(10)は、
板状のセパレータ本体基部(101)と、
上記セパレータ本体基部(101)の両側縁部から上記カソード側集電体(12)側へ突出するとともに、上記カソード側集電体(12)の両側縁部を支持する一対の突出部(102)とを有していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータ(1)。
【請求項6】
アノード(20)と固体電解質層(21)とカソード(23)とを有する平板形の燃料電池単セル(2)と、上記カソード側集電体(12)が上記カソード(23)に接するように配置された請求項1〜のいずれか1項に記載の燃料電池用セパレータ(1)と、アノード側セパレータ(4)とを有することを特徴とする燃料電池セルスタック(3)。
【請求項7】
上記燃料電池単セル(2)は、アノード(20)を支持体とすることを特徴とする請求項に記載の燃料電池セルスタック(3)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータおよび燃料電池セルスタックに関し、さらに詳しくは、電解質として固体電解質を利用する燃料電池単セルに用いられる燃料電池用セパレータ、これを用いた燃料電池セルスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アノードと固体電解質層とカソードとを有する平板形の燃料電池単セルをセパレータを介して多数段積層してなる燃料電池セルスタックが知られている。
【0003】
なお、先行する特許文献1には、固体電解質を挟んでアノードとカソードとを有する複数の燃料電池単セルが直列に接続されてなる複数のバンドルと、還元雰囲気となるアノードの側方であって隣り合うバンドル間に配置された銅製の均熱板とを有する燃料電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−224143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電解質として固体電解質を用いる燃料電池セルスタックは、ガスの流れに応じてセルの発電分布が変わることや、セル自体の熱伝導率が低いため、燃料電池単セルに温度分布が生じやすい。温度分布が過度に大きくなると、それにより生じた応力が燃料電池単セルの破壊強度を上回り、燃料電池単セルが割れるという問題がある。
【0006】
燃料電池単セルの温度分布を低減するため、従来技術では、アノード側に銅製の均熱板を用いることにより、燃料電池単セルの均熱化が図られている。しかしながら、一般的に、アノード側の燃料ガス流量は、カソード側の酸化剤ガス流量に比べて少ない。そのため、燃料ガスによる熱伝達を利用し、燃料電池単セルの熱を金属製の均熱板等の熱伝導部材に十分に伝えることは難しい。それ故、従来技術は、燃料電池単セルの温度分布を平滑化するのに不利である。
【0007】
さらに、燃料電池単セルは、昇降温時や還元時に変形する。例えば、平板形の燃料電池単セルは、カソード側が凸となるような反りが生じる場合がある。一方、カソード側セパレータは、通常、そのような変形は生じ難い。そのため、燃料電池セルスタックでは、変形した燃料電池単セルとカソード側セパレータとの接触によって燃料電池単セルに過度な応力がかかると、燃料電池単セルが割れることがある。
【0008】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、燃料電池単セルの温度分布を平滑化しやすく、燃料電池単セルの変形を緩衝させることが可能な燃料電池用セパレータ、また、これを用いた燃料電池セルスタックを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、アノードと固体電解質層とカソードとを有する平板形の燃料電池単セルに用いられる燃料電池用セパレータであって、
セパレータ本体と、
該セパレータ本体の上記燃料電池単セル側に配置されたカソード側集電体と、
上記セパレータ本体と上記カソード側集電体との間に配置された繊維状部材よりなる熱伝導層とを有しており、
上記カソード側集電体は、メッシュ状体から構成されており、
上記繊維状部材は、上記セパレータ本体の材料よりも熱伝導率が大きい材料の繊維より形成されていることを特徴とする燃料電池用セパレータにある。
【0010】
本発明の他の態様は、アノードと固体電解質層とカソードとを有する平板形の燃料電池単セルと、上記カソード側集電体が上記カソードに接するように配置された上記燃料電池用セパレータと、アノード側セパレータとを有することを特徴とする燃料電池セルスタックにある。
【発明の効果】
【0011】
上記燃料電池用セパレータは、セパレータ本体とカソード側集電体との間に配置された繊維状部材よりなる熱伝導層とを有している。そして、熱伝導層を構成する繊維状部材は、セパレータ本体の材料よりも熱伝導率が大きい材料の繊維より形成されている。
【0012】
そのため、上記燃料電池用セパレータは、酸化剤ガスによる熱伝達を利用して燃料電池単セルの熱を、カソード側に配置された熱伝導層に積極的に伝えることができる。ここで、一般的に、カソード側の酸化剤ガス流量は、アノード側の燃料ガス流量に比べて多い。そのため、上記燃料電池用セパレータは、燃料ガスによる熱伝達を利用する場合に比べ、燃料電池単セルの熱を熱伝導層に十分に伝えることができる。それ故、上記燃料電池用セパレータは、燃料電池単セルの温度分布を平滑化しやすい。
【0013】
また、上記燃料電池用セパレータは、燃料電池セルスタックにおいて燃料電池単セルにカソード側へ凸となる反りが生じたり、セル周辺部材のクリープ変形等による変形が生じたりした場合であっても、繊維状部材より構成される熱伝導層がクッションの役割を果たす。そのため、上記燃料電池用セパレータは、燃料電池単セルの変形を緩衝させることができる。
【0014】
上記燃料電池セルスタックは、上記燃料電池用セパレータを用いているので、燃料電池単セルの温度分布を平滑化しやすく、燃料電池単セルの変形を緩衝させることができる。それ故、上記燃料電池セルスタックは、燃料電池単セルの過度な温度分布や変形による燃料電池単セルの割れを抑制しやすく、構造信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1の燃料電池用セパレータを模式的に示した分解斜視図である。
図2】実施例1の燃料電池用セパレータ、燃料電池セルスタックを模式的に示した断面図である。
図3】実験例におけるシミュレーションについて説明するための説明図である。
図4】実験例における計算例2のシミュレーション結果である。
図5】実験例における計算例9のシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記燃料電池用セパレータは、アノードと固体電解質層とカソードとを有する平板形の燃料電池単セルに用いられる。燃料電池用セパレータは、具体的には、燃料電池単セルにおけるカソード側に配置される。当該燃料電池単セルは、電解質として固体電解質を利用する固体電解質型の燃料電池単セルである。固体電解質層を構成する固体電解質としては、例えば、酸素イオン導電性を示す固体酸化物セラミックス等を用いることができる。なお、固体電解質として固体酸化物セラミックスを用いる燃料電池は、固体酸化物形燃料電池(SOFC)と称される。
【0017】
上記燃料電池用セパレータにおいて、熱伝導層を構成する繊維状部材は、セパレータ本体の材料よりも熱伝導率が大きい材料の繊維より形成されている。繊維状部材を形成する繊維の材料、セパレータ本体の材料の熱伝導率は、各材料のバルク体からなる各測定試料を用い、レーザーフラッシュ法により測定する。測定試料の形状は、直径10mm×厚み1mmであり、測定温度は700℃である。
【0018】
上記燃料電池用セパレータにおいて、繊維状部材は、25W/m・K以上の熱伝導率を有する材料の繊維より形成されていることが好ましい。この場合には、発電により燃料電池単セルから発生した熱を、熱伝導層が奪いやすくなるため、上記構成を採用したことによる効果が大きくなる。上記熱伝導率は、より好ましくは、26W/m・K以上、さらに好ましくは、27W/m・K以上、さらにより好ましくは28W/m・K以上とすることができる。なお、上記熱伝導率は、排熱を促す観点からは、高ければ高いほどよい。上記熱伝導率は、繊維入手性、製法や純度等に起因する物性値の変動等を考慮し、好ましくは60W/m・K以下、より好ましくは55W/m・K以下とすることができる。
【0019】
上記燃料電池用セパレータにおいて、繊維状部材は、炭化珪素および/または炭化珪素を主成分とする複合材の繊維より形成されていることが好ましい。上記において、「炭化珪素を主成分とする」とは、50質量%以上が炭化珪素であることを意味する。炭化珪素系の繊維は、高温の酸化雰囲気に曝された場合でも劣化し難く、金属ニッケル並みの熱伝導率を有している。そのため、この場合には、燃料ガスに比べて流量の多い酸化剤ガスによる熱伝達を利用して燃料電池単セルの熱を熱伝導層に伝えやすくなる。それ故、この場合には、燃料電池単セルの温度分布をより平滑化しやすい燃料電池用セパレータが得られる。なお、金属の中で熱伝導率が比較的大きい銅は、酸化しやすいため酸化雰囲気ではそのまま使用することが難しい。
【0020】
炭化珪素を主成分とする複合材としては、具体的には、炭化珪素と炭素とが複合されてなる複合材などを例示することができる。
【0021】
上記燃料電池用セパレータにおいて、熱伝導層の厚みは、具体的には、例えば、燃料電池単セルの熱を熱伝導層に十分に伝えやすくし、熱伝導層を有することによる効果を大きくする観点から、好ましくは0.2mm以上、より好ましくは0.25mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上、さらにより好ましくは0.35mm以上、さらにより一層好ましくは0.45mm以上とすることができる。また、上記燃料電池用セパレータにおいて、熱伝導層の厚みは、具体的には、例えば、燃料電池セルスタックの積層方向の長さを抑制しやすく、燃料電池セルスタックの設置スペースを確保しやすくなる観点から、好ましくは2mm以下、より好ましくは1.8mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下とすることができる。
【0022】
上記燃料電池用セパレータにおいて、セパレータ本体の材料としては、具体的には、例えば、形状加工性、コスト等の観点から、フェライト系ステンレス鋼、フェライト系耐熱クロム合金などを好適に用いることができる。
【0023】
上記燃料電池用セパレータにおいて、カソード側集電体の材料としては、具体的には、例えば、導電性、コスト等の観点から、フェライト系ステンレス鋼、フェライト系耐熱クロム合金などを好適に用いることができる。また、カソード側集電体は、具体的には、酸化剤ガスの拡散性等の観点から、メッシュ状体から構成されている。なお、カソード側集電体は、カソードに接触して電子を配電するための層である。一般的に、カソード側においても、集電体という語句が多用されているため、これに順じて配電体ではなく集電体と表記する。
【0024】
上記燃料電池用セパレータにおいて、カソード側集電体は、例えば、カソード側集電体の外周部等を溶接等によってセパレータ本体に固定することにより一体化することができる。この場合には、セパレータ本体とカソード側集電体との間に熱伝導層が確実に挟持される。
【0025】
上記燃料電池セルスタックは、アノードと固体電解質層とカソードとを有する平板形の燃料電池単セルと、カソード側に配置された上記燃料電池用セパレータと、アノード側に配置されたアノード側セパレータとを有している。上記燃料電池セルスタックにおいて、アノード側セパレータは、上記燃料電池用セパレータと別体であってもよいし、上記燃料電池用セパレータと一体化されていてもよい。後者の場合には、より具体的には、上記燃料電池用セパレータにおける熱伝導層側と反対側の面部分がアノード側セパレータとして機能するように構成すればよい。
【0026】
上記燃料電池セルスタックにおいて、燃料電池単セルは、アノードを支持体とすることができる。アノードを支持体とする燃料電池単セルは、固体電解質層やカソードに比べ、アノードの厚みが厚いため、特に、カソード側が凸となるような反りが生じやすい。そのため、この場合には、繊維状部材より構成される熱伝導層のクッション効果を十分に発揮させやすく、カソード側において燃料電池単セルの変形を緩衝させやすい燃料電池セルスタックが得られる。
【0027】
上記燃料電池セルスタックにおいて、燃料電池単セルは、固体電解質層とカソードとの間に中間層を有することができる。なお、中間層は、主に、カソードを構成する材料と固体電解質層を構成する材料との反応を防止するための層である。
【0028】
上記燃料電池単セルは、具体的には、固体電解質層と、固体電解質層の一方面に積層された上記燃料電池用アノードと、固体電解質層の他方面に中間層を介してまたは中間層を介さずに積層されたカソードとを有する構成とすることができる。
【0029】
上記燃料電池単セルにおいて、各部位を構成する材料としては、以下のものを例示することができる。
【0030】
固体電解質層を構成する固体電解質としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)等の酸化ジルコニウム系酸化物;ランタンガレート系酸化物;CeO、CeOにGd、Sm、Y、La、Nd、Yb、Ca、Dr、および、Hoから選択される1種または2種以上の元素等がドープされたセリア系固溶体等の酸化セリウム系酸化物などを例示することができる。固体電解質層の厚みは、オーミック抵抗の低減などの観点から、好ましくは3〜20μm、より好ましくは3〜10μmとすることができる。
【0031】
アノードの材質としては、例えば、Ni、NiO等の触媒と、上記酸化ジルコニウム系酸化物等の固体電解質との混合物などを例示することができる。なお、NiOは、発電時の還元雰囲気でNiとなる。アノードの厚みは、ガス拡散、電気抵抗、強度などの観点から、例えば、好ましくは、100〜800μm、より好ましくは、200〜600μmとすることができる。
【0032】
カソードの材質としては、例えば、ランタン−マンガン系酸化物、ランタン−コバルト系酸化物、ランタン−鉄系酸化物等の導電性を有するペロブスカイト型酸化物、上記ペロブスカイト型酸化物と上記酸化セリウム系酸化物等の固体電解質との混合物などを例示することができる。上記ペロブスカイト型酸化物としては、具体的には、例えば、La1−xSrCo1−yFe系酸化物(x=0.4、y=0.8等)、La1−xSrCoO系酸化物(x=0.4等)、La1−xSrFeO系酸化物(x=0.4等)、La1−xSrMnO系酸化物(x=0.4等)、Sm1−xSrCoO系酸化物(x=0.5等)などを例示することができる。カソードの厚みは、ガス拡散性、電極反応抵抗、集電性などの観点から、好ましくは20〜100μm、より好ましくは30〜60μmとすることができる。
【0033】
中間層の材質としては、上記酸化セリウム系酸化物などを例示することができる。中間層の厚みは、オーミック抵抗の低減、カソードからの元素拡散防止などの観点から、好ましくは1〜10μm、より好ましくは1〜5μmとすることができる。
【0034】
なお、上述した各構成は、上述した各作用効果等を得るなどのために必要に応じて任意に組み合わせることができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例の燃料電池用セパレータおよび燃料電池セルスタックについて、図面を用いて説明する。なお、同一部材については同一の符号を用いて説明する。
【0036】
(実施例1)
実施例1の燃料電池用セパレータおよび燃料電池セルスタックについて、図1図2を用いて説明する。
【0037】
図1図2に示されるように、本例の燃料電池用セパレータ1は、アノード20と固体電解質層21とカソード23とを有する平板形の燃料電池単セル2に用いられる。なお、図1では、燃料電池単セルの積層構造が一部破断した図を用いて示されている。また、図2では、便宜上、燃料電池単セル2の詳細な積層構造は省略されている。図2において、燃料電池単セル2におけるカソード23は、燃料電池用セパレータ1側にある。燃料電池用セパレータ1は、具体的には、燃料電池単セル2におけるカソード23側に配置される。
【0038】
本例において、燃料電池単セル2は、具体的には、固体電解質層21と、固体電解質層21の一方面に積層されたアノード20と、固体電解質層21の他方面に中間層22を介して積層されたカソード23とを有しており、アノード20を支持体とする。固体電解質層21を構成する固体電解質は、酸化ジルコニウム系酸化物であり、具体的には、8mol%のYを含むイットリア安定化ジルコニア(以下、8YSZ)である。固体電解質層21の厚みは、10μmである。アノード20は、NiまたはNiOと固体電解質との混合物より層状に形成されている。アノード20を構成する固体電解質は、具体的には、酸化ジルコニウム系酸化物である8YSZである。アノード20の厚みは、420μmである。カソード23は、ペロブスカイト型酸化物と固体電解質とを含む混合物より層状に形成されている。カソード23を構成するペロブスカイト型酸化物は、具体的には、La1−xSrCo1−yFe(x=0.4、y=0.8、以下、LSCF)である。カソード23を構成する固体電解質は、具体的には、酸化セリウム系酸化物であり、具体的には、10mol%のGdがドープされたセリア(以下、10GDC)である。カソード23の厚みは40μmである。中間層22は、酸化セリウム系酸化物より層状に形成されている。中間層22を構成する酸化セリウム系酸化物は、具体的には、10GDCである。中間層22の厚みは、10μmである。
【0039】
燃料電池用セパレータ1は、セパレータ本体10と、カソード側集電体12と、熱伝導層11とを有している。
【0040】
本例では、具体的には、セパレータ本体10は、板状のセパレータ本体基部101と、セパレータ本体基部101の両側縁部からカソード側集電体12側へ突出する一対の突出部102とを有している。一対の突出部102は、カソード側集電体12の両側縁部を支持するためのものである。セパレータ本体10の材料は、フェライト系ステンレス鋼である。
【0041】
カソード側集電体12は、セパレータ本体10の燃料電池単セル2側に配置されている。燃料電池用セパレータ1が燃料電池単セル2に適用された際に、カソード側集電体12は、カソード23と当接する。本例では、具体的には、カソード側集電体12は、板状の集電体基部121と、集電体基部121の表面に設けられた複数のリブ122とを有している。隣り合うリブ122の間は、空気等の酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路とされる。また、リブ122の頂部がカソード23に当接する。なお、カソード側集電体12は、メッシュ状体から構成することもできる。カソード側集電体12の両側縁部は、セパレータ本体10における突出部102の頂部に溶接されている。カソード側集電体12の材料は、フェライト系ステンレス鋼である。
【0042】
熱伝導層11は、セパレータ本体10とカソード側集電体12との間に配置された繊維状部材よりなる。本例では、具体的には、セパレータ本体10における一対の突出部102の間に形成された凹部103に、繊維状部材よりなる熱伝導層11が配置されている。
【0043】
ここで、繊維状部材は、セパレータ本体10の材料よりも熱伝導率が大きい材料の繊維より形成されている。本例では、具体的には、繊維状部材は、炭化珪素および/または炭化珪素を主成分とする複合材の繊維より形成されている。なお、炭化珪素および/または炭化珪素を主成分とする複合材は、25W/m・K以上の熱伝導率を有する材料である。また、本例では、熱伝導層11の厚みは、0.2mm以上2mm以下の範囲とされている。
【0044】
本例の燃料電池用セパレータ1は、例えば、以下のようにして製造することができる。なお、燃料電池用セパレータの製造方法は、これに限定されるものではない。
【0045】
セパレータ本体10における燃料電池単セル2側の面上に、繊維状部材よりなる熱伝導層11を積層する。次いで、熱伝導層11上にカソード側集電体12を配置し、セパレータ本体10とカソード側集電体12との間に熱伝導層11を挟んだ状態で、セパレータ本体10にカソード側集電体12を溶接等により固定する。これにより、本例の燃料電池用セパレータ1が得られる。
【0046】
次に、本例の燃料電池セルスタックについて説明する。
【0047】
図1図2に示されるように、本例の燃料電池セルスタック3は、アノード20と固体電解質層21とカソード23とを有する平板形の燃料電池単セル2と、カソード側集電体12がカソード23に接するように配置された上記燃料電池用セパレータ1と、アノード側セパレータ4とを有している。
【0048】
本例で用いられる燃料電池単セル2は、本例の燃料電池用セパレータ1にて説明した通りである。アノード側セパレータ4は、アノード側セパレータ本体40と、アノード側集電体41とを有している。アノード側集電体41は、具体的には、アノード側セパレータ本体40における燃料電池単セル2側の表面に溶接等により固定されている。アノード側セパレータ本体40の材料は、フェライト系ステンレス鋼である。アノード側集電体41は、金属Niからなるメッシュ状体より形成されている。アノード側セパレータ4は、アノード側集電体41がアノード20に接するように配置されている。なお、図示はしないが、本例の燃料電池セルスタック3は、燃料電池用セパレータ1とアノード側セパレータ4とに挟持された燃料電池単セル2がセル厚み方向に複数積層された積層構造を有している。
【0049】
また、本例では、燃料電池セルスタック3は、燃料電池単セル2を支持するセルフレーム5を有している。セルフレーム5は、ステンレス製であり、平板形の燃料電池単セル2の外形より小さい大きさの開口部51を有している。セルフレーム5は、開口部51の周縁部により、燃料電池単セル2の外周縁部を支持する。なお、燃料電池単セル2を支持する部分には、酸化剤ガスと燃料ガスとがクロスリークしないようにシール6が設けられている。なお、シール6の材料は、ガラスである。また、セルフレーム5とアノード側集電体41の間には、両者が電気的に通電しないように絶縁体7が設けられている。なお、絶縁体7の材料は、マイカである。
【0050】
本例の燃料電池セルスタック3は、例えば、以下のようにして製造することができる。なお、燃料電池セルスタックの製造方法は、これに限定されるものではない。
【0051】
燃料電池用セパレータ1におけるカソード側集電体12上に、セルフレーム5を積層する。次いで、燃料電池単セル2とセルフレーム5とが接する部分にシール6を形成する。次いで、カソード側集電体41およびシール6に燃料電池単セル2が接触するように、燃料電池単セル2を載置する。次いで、セルフレーム5とアノード側集電体41とが接する部分に絶縁体7を形成する。次いで、燃料電池単セル2上に、アノード側セパレータ4のアノード側集電体41を配置する。次いで、燃料電池単セル2のアノード20と絶縁体7との両方に接触するように、アノード側集電体41を積層する。これにより、本例の燃料電池セルスタック3が得られる。
【0052】
次に、本例の燃料電池用セパレータ、燃料電池セルスタックの作用効果について説明する。
【0053】
本例の燃料電池用セパレータ1は、セパレータ本体10とカソード側集電体12との間に配置された繊維状部材よりなる熱伝導層11とを有している。そして、熱伝導層11を構成する繊維状部材は、セパレータ本体10の材料よりも熱伝導率が大きい材料の繊維より形成されている。
【0054】
そのため、燃料電池用セパレータ1は、酸化剤ガスによる熱伝達を利用して燃料電池単セル2の熱を、カソード23側に配置された熱伝導層11に積極的に伝えることができる。ここで、一般的に、カソード側の酸化剤ガス流量は、アノード側の燃料ガス流量に比べて多い。そのため、燃料電池用セパレータ1は、燃料ガスによる熱伝達を利用する場合に比べ、燃料電池単セル2の熱を熱伝導層に十分に伝えることができる。それ故、燃料電池用セパレータ1は、燃料電池単セル2の温度分布を平滑化しやすい。
【0055】
また、燃料電池用セパレータ1は、燃料電池セルスタック3において燃料電池単セル2にカソード23側へ凸となる反りが生じたり、セル周辺部材のクリープ変形等による変形が生じたりした場合であっても、繊維状部材より構成される熱伝導層11がクッションの役割を果たす。そのため、燃料電池用セパレータ1は、燃料電池単セル2の変形を緩衝させることができる。
【0056】
本例の燃料電池セルスタック3は、燃料電池用セパレータ1を用いているので、燃料電池単セル2の温度分布を平滑化しやすく、燃料電池単セル2の変形を緩衝させることができる。それ故、燃料電池セルスタック3は、燃料電池単セル2の過度な温度分布や変形による燃料電池単セル2の割れを抑制しやすく、構造信頼性を向上させることができる。
【0057】
<実験例>
以下、実験例を用いてより具体的に説明する。ここでは、発電時における燃料電池単セルのセル面内温度分布を調べるため、シミュレーションを実施した。これについて説明する。
【0058】
(計算例1〜計算例8)
上記シミュレーションにあたり、次の計算モデルを設定した。すなわち、燃料電池セルスタックは、図3に示されるように、セルフレーム5に支持された燃料電池単セル2と、繊維状部材よりなる熱伝導層を備えるセパレータ(不図示)とを有している。当該セパレータは、燃料電池単セル2のカソード側に配置されている。燃料ガスと酸化剤ガス(空気)は、燃料ガスと酸化剤ガスとを平行に同じ向きで流す、いわゆるコーフロー(Co−Flow)方式により燃料電池単セルに供給される。なお、図3において、符号91は、燃料ガスのIN側マニホールドであり、符号92は、燃料ガスのOUT側マニホールドである。また、矢印Fは、燃料ガスの流れる方向を示している。また、破線Aおよび破線Bは、それぞれシミュレーションラインを示している。破線Aは、燃料ガスの流れる方向と垂直な方向で燃料電池単セル2を二等分する位置にある。破線Bは、燃料ガスの流れる方向と垂直な方向で燃料電池単セル2を1:9にわける位置にある。
【0059】
上記燃料電池セルスタックは、5kWで発電させる。5kW発電時の熱計算条件は、次の通りとする。発電温度:700℃、空気ガス熱当量:9.75W/K、燃料ガス熱当量:2.64W/K、セル総発熱量:3.85kW、セルサイズ:30.28cm、セルの熱伝導率:1.4W/m・K、熱伝導層を除いたセル以外の熱伝導率:22.5W/m・K、熱伝導層を構成する繊維状部材:SiC繊維、SiCの熱伝導率:後述の表1に示される通り、熱伝導層の厚み:後述の表1に示される通り。
【0060】
(計算例9)
上記計算例1〜計算例8において、熱伝導層を有さない点以外は同様にして、計算例9とした。なお、計算例9は、計算例1〜計算例8に対する比較例であり、セパレータ本体の材料がステンレス鋼からなり、熱伝導層を有していない場合に相当する。
【0061】
各計算例についてのシミュレーション結果を各主要条件とともに表1に示す。表1において、最大温度差ΔTは、シミュレーションラインAにおける燃料電池単セルの最高温度とシミュレーションラインBにおける燃料電池単セルの最低温度との差である。また、計算例2と計算例9における各燃料電池単セルの温度分布を図4図5に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
上記のシミュレーションの結果から、セパレータ本体の材料よりも熱伝導率が大きい材料の繊維より形成した繊維状部材よりなる熱伝導層を有するセパレータをカソード側に用いることにより、燃料電池単セルの温度分布を平滑化しやすいことが確認された。
【0064】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 燃料電池用セパレータ
10 セパレータ本体
11 熱伝導層
12 カソード側集電体
2 燃料電池単セル
20 アノード
21 固体電解質層
23 カソード
3 燃料電池セルスタック
4 アノード側セパレータ
図1
図2
図3
図4
図5