【実施例】
【0035】
以下、実施例の燃料電池用セパレータおよび燃料電池セルスタックについて、図面を用いて説明する。なお、同一部材については同一の符号を用いて説明する。
【0036】
(実施例1)
実施例1の燃料電池用セパレータおよび燃料電池セルスタックについて、
図1、
図2を用いて説明する。
【0037】
図1、
図2に示されるように、本例の燃料電池用セパレータ1は、アノード20と固体電解質層21とカソード23とを有する平板形の燃料電池単セル2に用いられる。なお、
図1では、燃料電池単セルの積層構造が一部破断した図を用いて示されている。また、
図2では、便宜上、燃料電池単セル2の詳細な積層構造は省略されている。
図2において、燃料電池単セル2におけるカソード23は、燃料電池用セパレータ1側にある。燃料電池用セパレータ1は、具体的には、燃料電池単セル2におけるカソード23側に配置される。
【0038】
本例において、燃料電池単セル2は、具体的には、固体電解質層21と、固体電解質層21の一方面に積層されたアノード20と、固体電解質層21の他方面に中間層22を介して積層されたカソード23とを有しており、アノード20を支持体とする。固体電解質層21を構成する固体電解質は、酸化ジルコニウム系酸化物であり、具体的には、8mol%のY
2O
3を含むイットリア安定化ジルコニア(以下、8YSZ)である。固体電解質層21の厚みは、10μmである。アノード20は、NiまたはNiOと固体電解質との混合物より層状に形成されている。アノード20を構成する固体電解質は、具体的には、酸化ジルコニウム系酸化物である8YSZである。アノード20の厚みは、420μmである。カソード23は、ペロブスカイト型酸化物と固体電解質とを含む混合物より層状に形成されている。カソード23を構成するペロブスカイト型酸化物は、具体的には、La
1−xSr
xCo
1−yFe
yO
3(x=0.4、y=0.8、以下、LSCF)である。カソード23を構成する固体電解質は、具体的には、酸化セリウム系酸化物であり、具体的には、10mol%のGdがドープされたセリア(以下、10GDC)である。カソード23の厚みは40μmである。中間層22は、酸化セリウム系酸化物より層状に形成されている。中間層22を構成する酸化セリウム系酸化物は、具体的には、10GDCである。中間層22の厚みは、10μmである。
【0039】
燃料電池用セパレータ1は、セパレータ本体10と、カソード側集電体12と、熱伝導層11とを有している。
【0040】
本例では、具体的には、セパレータ本体10は、板状のセパレータ本体基部101と、セパレータ本体基部101の両側縁部からカソード側集電体12側へ突出する一対の突出部102とを有している。一対の突出部102は、カソード側集電体12の両側縁部を支持するためのものである。セパレータ本体10の材料は、フェライト系ステンレス鋼である。
【0041】
カソード側集電体12は、セパレータ本体10の燃料電池単セル2側に配置されている。燃料電池用セパレータ1が燃料電池単セル2に適用された際に、カソード側集電体12は、カソード23と当接する。本例では、具体的には、カソード側集電体12は、板状の集電体基部121と、集電体基部121の表面に設けられた複数のリブ122とを有している。隣り合うリブ122の間は、空気等の酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路とされる。また、リブ122の頂部がカソード23に当接する。なお、カソード側集電体12は、メッシュ状体から構成することもできる。カソード側集電体12の両側縁部は、セパレータ本体10における突出部102の頂部に溶接されている。カソード側集電体12の材料は、フェライト系ステンレス鋼である。
【0042】
熱伝導層11は、セパレータ本体10とカソード側集電体12との間に配置された繊維状部材よりなる。本例では、具体的には、セパレータ本体10における一対の突出部102の間に形成された凹部103に、繊維状部材よりなる熱伝導層11が配置されている。
【0043】
ここで、繊維状部材は、セパレータ本体10の材料よりも熱伝導率が大きい材料の繊維より形成されている。本例では、具体的には、繊維状部材は、炭化珪素および/または炭化珪素を主成分とする複合材の繊維より形成されている。なお、炭化珪素および/または炭化珪素を主成分とする複合材は、25W/m・K以上の熱伝導率を有する材料である。また、本例では、熱伝導層11の厚みは、0.2mm以上2mm以下の範囲とされている。
【0044】
本例の燃料電池用セパレータ1は、例えば、以下のようにして製造することができる。なお、燃料電池用セパレータの製造方法は、これに限定されるものではない。
【0045】
セパレータ本体10における燃料電池単セル2側の面上に、繊維状部材よりなる熱伝導層11を積層する。次いで、熱伝導層11上にカソード側集電体12を配置し、セパレータ本体10とカソード側集電体12との間に熱伝導層11を挟んだ状態で、セパレータ本体10にカソード側集電体12を溶接等により固定する。これにより、本例の燃料電池用セパレータ1が得られる。
【0046】
次に、本例の燃料電池セルスタックについて説明する。
【0047】
図1、
図2に示されるように、本例の燃料電池セルスタック3は、アノード20と固体電解質層21とカソード23とを有する平板形の燃料電池単セル2と、カソード側集電体12がカソード23に接するように配置された上記燃料電池用セパレータ1と、アノード側セパレータ4とを有している。
【0048】
本例で用いられる燃料電池単セル2は、本例の燃料電池用セパレータ1にて説明した通りである。アノード側セパレータ4は、アノード側セパレータ本体40と、アノード側集電体41とを有している。アノード側集電体41は、具体的には、アノード側セパレータ本体40における燃料電池単セル2側の表面に溶接等により固定されている。アノード側セパレータ本体40の材料は、フェライト系ステンレス鋼である。アノード側集電体41は、金属Niからなるメッシュ状体より形成されている。アノード側セパレータ4は、アノード側集電体41がアノード20に接するように配置されている。なお、図示はしないが、本例の燃料電池セルスタック3は、燃料電池用セパレータ1とアノード側セパレータ4とに挟持された燃料電池単セル2がセル厚み方向に複数積層された積層構造を有している。
【0049】
また、本例では、燃料電池セルスタック3は、燃料電池単セル2を支持するセルフレーム5を有している。セルフレーム5は、ステンレス製であり、平板形の燃料電池単セル2の外形より小さい大きさの開口部51を有している。セルフレーム5は、開口部51の周縁部により、燃料電池単セル2の外周縁部を支持する。なお、燃料電池単セル2を支持する部分には、酸化剤ガスと燃料ガスとがクロスリークしないようにシール6が設けられている。なお、シール6の材料は、ガラスである。また、セルフレーム5とアノード側集電体41の間には、両者が電気的に通電しないように絶縁体7が設けられている。なお、絶縁体7の材料は、マイカである。
【0050】
本例の燃料電池セルスタック3は、例えば、以下のようにして製造することができる。なお、燃料電池セルスタックの製造方法は、これに限定されるものではない。
【0051】
燃料電池用セパレータ1におけるカソード側集電体12上に、セルフレーム5を積層する。次いで、燃料電池単セル2とセルフレーム5とが接する部分にシール6を形成する。次いで、カソード側集電体41およびシール6に燃料電池単セル2が接触するように、燃料電池単セル2を載置する。次いで、セルフレーム5とアノード側集電体41とが接する部分に絶縁体7を形成する。次いで、燃料電池単セル2上に、アノード側セパレータ4のアノード側集電体41を配置する。次いで、燃料電池単セル2のアノード20と絶縁体7との両方に接触するように、アノード側集電体41を積層する。これにより、本例の燃料電池セルスタック3が得られる。
【0052】
次に、本例の燃料電池用セパレータ、燃料電池セルスタックの作用効果について説明する。
【0053】
本例の燃料電池用セパレータ1は、セパレータ本体10とカソード側集電体12との間に配置された繊維状部材よりなる熱伝導層11とを有している。そして、熱伝導層11を構成する繊維状部材は、セパレータ本体10の材料よりも熱伝導率が大きい材料の繊維より形成されている。
【0054】
そのため、燃料電池用セパレータ1は、酸化剤ガスによる熱伝達を利用して燃料電池単セル2の熱を、カソード23側に配置された熱伝導層11に積極的に伝えることができる。ここで、一般的に、カソード側の酸化剤ガス流量は、アノード側の燃料ガス流量に比べて多い。そのため、燃料電池用セパレータ1は、燃料ガスによる熱伝達を利用する場合に比べ、燃料電池単セル2の熱を熱伝導層に十分に伝えることができる。それ故、燃料電池用セパレータ1は、燃料電池単セル2の温度分布を平滑化しやすい。
【0055】
また、燃料電池用セパレータ1は、燃料電池セルスタック3において燃料電池単セル2にカソード23側へ凸となる反りが生じたり、セル周辺部材のクリープ変形等による変形が生じたりした場合であっても、繊維状部材より構成される熱伝導層11がクッションの役割を果たす。そのため、燃料電池用セパレータ1は、燃料電池単セル2の変形を緩衝させることができる。
【0056】
本例の燃料電池セルスタック3は、燃料電池用セパレータ1を用いているので、燃料電池単セル2の温度分布を平滑化しやすく、燃料電池単セル2の変形を緩衝させることができる。それ故、燃料電池セルスタック3は、燃料電池単セル2の過度な温度分布や変形による燃料電池単セル2の割れを抑制しやすく、構造信頼性を向上させることができる。
【0057】
<実験例>
以下、実験例を用いてより具体的に説明する。ここでは、発電時における燃料電池単セルのセル面内温度分布を調べるため、シミュレーションを実施した。これについて説明する。
【0058】
(計算例1〜計算例8)
上記シミュレーションにあたり、次の計算モデルを設定した。すなわち、燃料電池セルスタックは、
図3に示されるように、セルフレーム5に支持された燃料電池単セル2と、繊維状部材よりなる熱伝導層を備えるセパレータ(不図示)とを有している。当該セパレータは、燃料電池単セル2のカソード側に配置されている。燃料ガスと酸化剤ガス(空気)は、燃料ガスと酸化剤ガスとを平行に同じ向きで流す、いわゆるコーフロー(Co−Flow)方式により燃料電池単セルに供給される。なお、
図3において、符号91は、燃料ガスのIN側マニホールドであり、符号92は、燃料ガスのOUT側マニホールドである。また、矢印Fは、燃料ガスの流れる方向を示している。また、破線Aおよび破線Bは、それぞれシミュレーションラインを示している。破線Aは、燃料ガスの流れる方向と垂直な方向で燃料電池単セル2を二等分する位置にある。破線Bは、燃料ガスの流れる方向と垂直な方向で燃料電池単セル2を1:9にわける位置にある。
【0059】
上記燃料電池セルスタックは、5kWで発電させる。5kW発電時の熱計算条件は、次の通りとする。発電温度:700℃、空気ガス熱当量:9.75W/K、燃料ガス熱当量:2.64W/K、セル総発熱量:3.85kW、セルサイズ:30.28cm
3、セルの熱伝導率:1.4W/m・K、熱伝導層を除いたセル以外の熱伝導率:22.5W/m・K、熱伝導層を構成する繊維状部材:SiC繊維、SiCの熱伝導率:後述の表1に示される通り、熱伝導層の厚み:後述の表1に示される通り。
【0060】
(計算例9)
上記計算例1〜計算例8において、熱伝導層を有さない点以外は同様にして、計算例9とした。なお、計算例9は、計算例1〜計算例8に対する比較例であり、セパレータ本体の材料がステンレス鋼からなり、熱伝導層を有していない場合に相当する。
【0061】
各計算例についてのシミュレーション結果を各主要条件とともに表1に示す。表1において、最大温度差ΔTは、シミュレーションラインAにおける燃料電池単セルの最高温度とシミュレーションラインBにおける燃料電池単セルの最低温度との差である。また、計算例2と計算例9における各燃料電池単セルの温度分布を
図4、
図5に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
上記のシミュレーションの結果から、セパレータ本体の材料よりも熱伝導率が大きい材料の繊維より形成した繊維状部材よりなる熱伝導層を有するセパレータをカソード側に用いることにより、燃料電池単セルの温度分布を平滑化しやすいことが確認された。
【0064】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。