(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルキレンイミン、ビニルアミン、アリルアミン、リジン、プロタミン及びジアリルジメチルアンモニウムクロライドからなる群から選択される化合物を構成モノマーとして含むポリマー、並びに、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物、を含む被覆材料と、該被覆材料によって表面が被覆された基材と、を備え、
前記ポリマーは、前記基材と共有結合され、
前記硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物は、前記ポリマーとイオン結合され、
表面におけるX線電子分光法(XPS)で測定した全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率が、6.0〜12.0原子数%であり、
表面におけるX線電子分光法(XPS)で測定した全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率が、3.0〜6.0原子数%である、抗血栓性材料。
前記第4級アンモニウム基は、窒素原子に結合する炭素鎖がアルキル基で構成され、該アルキル基1つあたりの炭素数が1〜12個である、請求項2記載の抗血栓性材料。
前記被覆材料は、アクリル酸、メタクリル酸、α−グルタミン酸、γ−グルタミン酸及びアスパラギン酸からなる群から選択される化合物を構成モノマーとして含むアニオン性ポリマー、又は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、リンゴ酸、酒石酸及びクエン酸からなる群から選択されるアニオン性化合物、を含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の抗血栓性材料。
表面におけるX線電子分光法(XPS)で測定したN1sピークの全成分に対する窒素原子の分割ピークであるn2成分の存在比率が、20〜70原子数%である、請求項1〜7のいずれか一項記載の抗血栓性材料。
表面におけるX線電子分光法(XPS)で測定したC1sピークの全成分に対する炭素原子の分割ピークであるc3成分の存在比率が、2.0原子数%以上である、請求項1〜8のいずれか一項記載の抗血栓性材料。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の抗血栓性材料は、アルキレンイミン、ビニルアミン、アリルアミン、リジン、プロタミン及びジアリルジメチルアンモニウムクロライドからなる群から選択される化合物を構成モノマーとして含むポリマー、並びに、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物、を含む被覆材料と、上記被覆材料により表面が被覆された基材と、を備え、上記ポリマーは上記基材と共有結合され、表面におけるX線電子分光法(以下、「XPS」)で測定した全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率が6.0〜12.0原子数%であることを特徴としている。
【0020】
本明細書において使用する用語は、特に断りがない限り、下記に示す定義を用いる。
【0021】
ここで、抗血栓性とは、血液と接触する表面で血液が凝固しない性質であり、例えば、血小板の凝集や、トロンビンに代表される血液凝固因子の活性化などで進行する血液凝固、を阻害する性質を指す。
【0022】
ここで、抗血栓性材料とは、抗血栓性を有する材料のことであり、特に限定されるものではないが、医療機器及び医療器具(例えば、人工腎臓、人工肺、人工血管、人工弁、ステント、ステントグラフト、カテーテル、遊離血栓捕獲器具、血管内視鏡、縫合糸、血液回路、チューブ類、カニューレ、血液バッグ、注射器等)を構成する材料として用いることができる。これらの医療機器及び医療器具は血液と接触することが多く、医療機器及び医療器具の表面で血液凝固が進行しやすいため、材料に抗血栓性材料を用いることが必要とされている。
【0023】
基材とは、抗血栓性材料を構成する材料のうち、次に定義する被覆材料に被覆される面を構成する物質のことである。本発明における基材の材質は特に限定されるものではないが、例えばポリエステル系、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(以下、「ePTFE」)、ポリウレタン、ポリエーテルウレタン、ポリアミド、塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリメチルメタクリレート等が基材の材質として好ましい。この中でも、抗血栓性材料の基材として汎用性の高いポリエステル系が好ましく、少なくともエステルを構成モノマーとして有するポリマーがより好ましい。例えば、PET、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びポリブチレンナフタレート等が挙げられ、この中でもPETが抗血栓性材料の基材として汎用性が高くより好ましい。
【0024】
被覆材料とは、基材の表面の少なくとも一部を被覆する材料のことであり、本発明において被覆材料は、アルキレンイミン、ビニルアミン、アリルアミン、リジン、プロタミン及びジアリルジメチルアンモニウムクロライドからなる群から選択される化合物を構成モノマーとして含むポリマー、並びに、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物を含んでいる。
【0025】
本発明において、被覆材料を構成するポリマーは、アルキレンイミン、ビニルアミン、アリルアミン、リジン、プロタミン及びジアリルジメチルアンモニウムクロライドからなる群から選択される化合物を構成モノマーとして含むポリマーである。これらの構成モノマーは、カチオン性の窒素原子を有しているため、ポリマーはカチオン性となり、一方、硫黄原子を含む抗凝固活性を有する化合物はアニオン性であるため、イオン結合することができる。硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物は、ヘパリン又はヘパリン誘導体、デキストラン硫酸、ポリビニルスルホン酸及びポリスチレンスルホン酸等が挙げられ、ヘパリン又はヘパリン誘導体がより好ましい。また、ヘパリン又はヘパリン誘導体は、血液凝固反応を阻害できるものであれば特に限定されず、臨床で一般的に広く使われているヘパリン、未分画ヘパリンや低分子量ヘパリンのほか、アンチトロンビンIIIに高親和性のヘパリンなども含まれる。
【0026】
被覆材料を構成するポリマーは、カチオン性を有しており細胞毒性等を発現する可能性があるため、血液等の体液中に溶出することは好ましくない。そのため、被覆材料を構成するポリマーは、基材の表面と共有結合していることが好ましい。
【0027】
ここで、共有結合とは、原子同士で互いの電子を共有することによって生じる化学結合を指す。本発明においては、被覆材料を構成するポリマー及び基材の表面が有する炭素、窒素、酸素、硫黄等の原子同士の共有結合であり、単結合であっても多重結合であっても構わない。共有結合の種類は、限定されるものではないが、例えば、アミン結合、アジド結合、アミド結合、イミン結合等が挙げられる。その中でも特に共有結合の形成しやすさや結合後の安定性等の観点からアミド結合がより好ましい。本願発明者らが鋭意検討した結果、被覆材料を構成するポリマーと基材の表面との間でアミド結合が形成されることにより、ポリマーの基材の表面における立体配置が、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物、例えばヘパリン又はヘパリンの誘導体とのイオン結合状態を最適にすることを見出した。共有結合の確認は、ポリマーを溶解する溶剤で洗浄しても溶出しないことから判定することができる。
【0028】
被覆材料を構成するポリマーは、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。ポリマーが共重合体である場合には、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体又は交互共重合体のいずれであってもよいが、ブロック共重合体の場合、窒素原子を含んだ繰り返し単位が連続するブロックの部分と硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物とで相互作用する方が、強固にイオン結合するため、ブロック共重合体がより好ましい。
【0029】
ここで、単独重合体とは、1種類の構成モノマーを重合して得られる高分子化合物をいい、共重合体とは、2種類以上のモノマーを共重合して得られる高分子化合物をいう。中でもブロック共重合体とは、繰り返し単位の異なる少なくとも2種類以上のポリマーが共有結合でつながり、長い連鎖になったような分子構造の共重合体をいい、ブロックとは、ブロック共重合体を構成する「繰り返し単位の異なる少なくとも2種類以上のポリマー」のそれぞれを指す。
【0030】
本発明において、ポリマーの構造は直鎖状でもよいし、分岐状でもよい。本発明においては、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物、と多点でより安定なイオン結合を形成することができるため、分岐状の方がより好ましい。
【0031】
本発明において、ポリマーは、第1級から第3級のアミノ基及び第4級アンモニウム基のうち少なくとも1つの官能基を有しているが、その中でも、第4級アンモニウム基は、第1級から第3級のアミノ基よりも硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物とのイオン相互作用が強固であり、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物の溶出速度が制御しやすいため、好ましい。
【0032】
本発明において、第4級アンモニウム基を構成する3つのアルキル基の炭素数は特に限定されるものではないが、多すぎると疎水性が高く、また立体障害が大きくなるため、第4級アンモニウム基に効果的に硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物がイオン結合できなくなる。また、多すぎると細胞毒性も生じやすくなることから、第4級アンモニウム基を構成する窒素原子に結合しているアルキル基1つあたりの炭素数は1〜12が好ましく、さらには、2〜6が好ましい。第4級アンモニウム基を構成する窒素原子に結合している3つのアルキル基は全て同じ炭素数であってもよいし、異なっていてもよい。
【0033】
本発明において、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物とイオン相互作用に基づく吸着量が多いことから、ポリマーとしてポリアルキレンイミンを用いることが好ましい。ポリアルキレンイミンとしては、PEI、ポリプロピレンイミン及びポリブチレンイミン、さらにはアルコキシル化されたポリアルキレンイミン等が挙げられ、なかでもPEIがより好ましい。
【0034】
PEIの具体例としては、“LUPASOL”(登録商標)(BASF社製)や“EPOMIN”(登録商標)(株式会社日本触媒社製)等が挙げられるが、本発明の効果を妨げない範囲で他のモノマーとの共重合体であってもよく変性体であってもよい。ここでいう変性体とは、ポリマーを構成するモノマーの繰り返し単位は同じであるが、例えば、後述する放射線の照射により、その一部がラジカル分解や再結合等を起こしているものを指す。
【0035】
本発明において、アルキレンイミン、ビニルアミン、アリルアミン、リジン、プロタミン及びジアリルジメチルアンモニウムクロライド以外に用いられる、共重合体を形成する構成モノマーは、特に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、ビニルカプロラクタム、酢酸ビニル、スチレン、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート及びシロキサン等が例示できる。アルキレンイミン、ビニルアミン、アリルアミン、リジン、プロタミン及びジアリルジメチルアンモニウムクロライド以外に用いられる、共重合体を形成する構成モノマーは、多すぎると硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物、とのイオン結合が弱くなるので10重量%以下であることが好ましい。
【0036】
本発明において、被覆材料を構成するポリマーの重量平均分子量が小さすぎると、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物よりも分子量が小さくなるため、基材の表面で安定したイオン結合が形成されず、目的の抗血栓性が得られにくくなる。一方で、ポリマーの重量平均分子量が大きすぎると、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物がポリマーによって内包されてしまい、被覆材料の最表面に露出しなくなってしまう。このため、被覆材料を構成するポリマーの重量平均分子量は、600〜2000000が好ましく、1000〜1500000がより好ましく、10000〜1000000がさらにより好ましい。ポリマーの重量平均分子量は、例えば、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法や、光散乱法等により測定することができる。
【0037】
本発明において、被覆材料を構成するヘパリン又はヘパリン誘導体は、精製されていてもよいし、されていなくてもよい。血液凝固反応を阻害できるものであれば良く、臨床で一般的に広く使われているヘパリン、未分画ヘパリンや低分子量ヘパリンのほか、アンチトロンビンIIIに高親和性のヘパリンなども含まれる。ヘパリンの具体例としては、“ヘパリンナトリウム”(Organon API社製)等が挙げられる。
【0038】
本発明において、基材の表面の構造を保持しつつ、かつ、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物以外の成分の溶出を抑えたまま、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物の抗凝固活性を高く長く発現するために、本願発明者らが鋭意検討した結果、抗血栓性材料の表面におけるXPSによる全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率に最適な値が存在することを見出した。原子の存在比率は、「原子数%」で表され、原子数%とは、全原子の存在量を100とした時の、特定原子の割合を原子数換算で示したものである。
【0039】
すなわち、本発明において、抗血栓性材料の表面におけるXPSによる全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率は、3.0〜6.0原子数%が好ましく、3.2〜5.5原子数%がより好ましく、3.5〜5.0原子数%がさらにより好ましい。全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率が3.0原子数%未満の場合、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物の被覆量が少なくなるため、目的の抗血栓性は得られない。一方、全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率が6.0原子数%を超える場合は、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物の被覆量が十分量存在し、目的の抗血栓性は得られるものの、イオン結合させるための、基材の表面に共有結合するポリマーの量を多く必要とするため、溶出するにつれて露出した多量のポリマーが、カチオン性を有するために、溶血毒性を示すことが分かった。
【0040】
さらに、全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率が6.0原子数%以下であれば、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物の被覆量が適切な量となるため、内皮細胞の接着性が高められる。
【0041】
具体的に、抗血栓性材料の表面における全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率は、XPSによって求めることができる。
[測定条件]
装置 :ESCALAB220iXL(VG Scientific社製)
励起X線 :monochromaticAlKα1,2線(1486.6eV)
X線径 :1mm
X電子脱出角度 :90°(抗血栓性材料の表面に対する検出器の傾き)
【0042】
ここでいう抗血栓性材料の表面とは、XPSの測定条件におけるX電子脱出角度、すなわち抗血栓性材料の表面に対する検出器の傾きを90°として測定した場合に検出される、測定表面からの深さ10nmまでのことを指す。また、本発明において、基材には硫黄原子を含んでいても硫黄原子を含んでいなくてもよい。また、本発明において、基材には窒素原子を含んでいても窒素原子を含んでいなくてもよい。
【0043】
抗血栓性材料の表面にX線を照射し、生じる光電子のエネルギーを測定することで得られる物質中の束縛電子の結合エネルギー値から、抗血栓性材料の表面の原子情報が得られ、また各結合エネルギー値のピークのエネルギーシフトから価数や結合状態に関する情報が得られる。さらに、各ピークの面積比を用いて定量、すなわち各原子や価数、結合状態の存在比率を算出することができる。
【0044】
具体的には、硫黄原子の存在を示すS2pピークは結合エネルギー値が161eV〜170eV付近に見られ、本発明においては、全ピークに対するS2pピークの面積比が3.0〜6.0原子数%であることが好ましいことを見出した。全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率は、小数点第2位を四捨五入して、算出することとする。
【0045】
また、同様にしてXPS測定から、抗血栓性材料の表面におけるXPSで測定した全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率にも最適な値が存在することを見出した。すなわち、抗血栓性材料の表面におけるXPSで測定した全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、抗血栓性を高めるためには、6.0〜12.0原子数%が好ましく、7.0〜12.0原子数%がより好ましく、7.5〜11.0原子数%がより好ましく、8.0〜10.0原子数%がさらにより好ましい。全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率が6.0原子数%未満の場合、基材の表面に共有結合するポリマーの量が少ないために基材の表面の構造は保持されるものの、ポリマーを介してイオン結合する、ヘパリン又はヘパリンの誘導体のような硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物の被覆量が少なくなるため、目的の抗血栓性は得られない。一方、全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率が12.0原子数%を超える場合は、基材の表面に共有結合するポリマーの量が多くなるため、ポリマーを介してイオン結合する硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物の被覆量が十分量存在するが、硫黄原子を含む抗凝固活性を有する化合物が溶出するにつれて露出した多量のポリマーが、カチオン性を有するために、溶血毒性を示すことが分かった。
【0046】
さらに、全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率が12.0原子数%以下であれば、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物の被覆量が適切な量となるため、内皮細胞の接着性が高められる。抗血栓性と細胞接着性を両立するためには、抗血栓性材料の表面におけるXPSで測定した全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率は、6.0〜12.0原子数%が好ましく、6.0〜9.5原子数%がより好ましく、8.0〜9.5原子数%がさらにより好ましい。
【0047】
具体的には、窒素原子の存在を示すN1sピークは結合エネルギー値が396eV〜403eV付近に見られ、本発明においては、全ピークに対するN1sピークの面積比が6.0〜12.0原子数%であることが好ましいことを見出した。さらに、N1sピークは、主に炭素−窒素(以下、「C−N」)結合に帰属されるn1成分(399eV付近)と、アンモニウム塩又はC−N(n1とは異なる構造)又は窒素酸化物(以下、「NO」)に帰属されるn2成分(401〜402eV付近)にピーク分割することができる。各分割ピーク成分の存在比率は、以下の式1によって算出される。全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率及び各分割ピーク成分の存在比率は、小数点第2位を四捨五入して、算出することとする。
【0048】
分割
ratio = N1s
ratio × (分割
percent /100) ・・・式1
分割
ratio : 各分割ピーク成分の存在比率(%)
N1s
ratio : 全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率(%)
分割
percent : N1sピークにおける各分割ピーク成分の割合(%)
【0049】
N1sピークの分割によって得られるNOに帰属するn2成分は、本発明においては第4級アンモニウム基の存在を示すものであり、N1sピークの全成分に対するn2成分の割合、すなわち、分割
percent(n2)は、20〜70原子数%が好ましく、25〜65原子数%がより好ましく、30〜60原子数%がさらに好ましいことを見出した。分割
percent(n2)が20原子数%未満の場合、第4級アンモニウム基の存在量が少ないため、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物とのイオン相互作用が弱く、溶出速度が早くなり目的の抗血栓性が得られにくくなる。一方、分割
percent(n2)が70原子数%を超える場合は、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物とのイオン相互作用が強固すぎるため、イオン複合体の形成による自由度の低下によって、抗凝固活性を高く長く発現できないだけでなく、溶出速度が遅くなりやすい。また、n2成分の存在比率、すなわち、分割
ratio(n2)は、式1によって算出されるため、上記理由により、1.4〜8.4原子数%が好ましく、1.8〜7.2原子数%がより好ましく、2.4〜6.0原子数%がさらにより好ましい。
【0050】
また、炭素原子の存在を示すC1sピークは結合エネルギー値が282〜292eV付近に見られ、C1sピークは、主に飽和炭化水素等の存在を示唆する炭素−水素(以下、「CHx」)結合や、炭素−炭素(以下、「C−C」)結合、炭素=炭素(以下、「C=C」)結合に帰属されるc1成分(285eV付近)と、エーテルや水酸基の存在を示唆する炭素−酸素(以下、「C−O」)結合や、炭素−窒素(以下、「C−N」)結合に帰属されるc2成分(286eV付近)と、カルボニル基の存在を示唆する炭素=酸素(以下、「C=O」)結合に帰属されるc3成分(287〜288eV付近)と、エステル基やカルボキシル基の存在を示唆する酸素=炭素−酸素(以下、「O=C−O」)結合に帰属されるc4成分(288〜289eV付近)と、ベンゼン環等の共役系の存在を示唆するπ−π
*サテライトピーク(以下、「π−π」)結合に帰属されるc5成分(290〜292eV付近)にピーク分割することができる。各分割ピーク成分の存在比率は、以下の式2によって算出される。全原子の存在量に対する炭素原子の存在比率及び各分割ピーク成分の存在比率は、小数点第2位を四捨五入して、算出することとする。
【0051】
分割
ratio = C1s
ratio × (分割
percent /100) ・・・式2
分割
ratio : 各分割ピーク成分の存在比率(%)
C1s
ratio : 全原子の存在量に対する炭素原子の存在比率(%)
分割
percent : C1sピークにおける各分割ピーク成分の割合(%)
【0052】
C1sピークの分割によって得られるC=O結合に帰属されるc3成分は、本発明においてはアミド基の存在を示すものであり、本発明においてC1sピークの全成分に対するc3成分の割合、すなわち、本発明において、抗血栓性材料の表面におけるXPSで測定したアミド基の存在比率は、2.0原子数%以上が好ましく、3.0原子数%以上がより好ましいことを見出した。アミド基の存在比率が2.0原子数%未満の場合、被覆材料を構成するポリマーと基材の表面との間で、アミド結合による共有結合が少なく、被覆材料の被覆量が少なくなるとともに、ポリマーの基材の表面における立体配置の影響により硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物とのイオン結合状態が悪くなるため、目的の抗血栓性が得られにくくなる。
【0053】
本発明の抗血栓性材料は、医療機器及び医療器具(例えば、人工腎臓、人工肺、人工血管、人工弁、ステント、ステントグラフト、カテーテル、遊離血栓捕獲器具、血管内視鏡、縫合糸、血液回路、チューブ類、カニューレ、血液バッグ、注射器等)に好適に用いることができるが、特に遊離血栓捕獲器具及び人工血管の材料として用いることが好ましい。
【0054】
本発明の抗血栓性材料を遊離血栓捕獲器具に用いる場合、遊離血栓捕獲器具の全ての構成要素に本発明の抗血栓性材料を用いることが好ましいが、遊離した血栓を捕獲するための構成要素である多孔質材料が最も抗血栓性を必要とするため、少なくとも多孔質材料を基材として、多孔質材料に被覆材料を被覆していればよい。基材である多孔質材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、多孔膜やメッシュ等が挙げられ、孔や目開きサイズの均一性がより高いことから、メッシュが好ましい。材質としては、特に限定されるものではないが、ニッケル−チタン合金等の金属、ポリウレタン及びポリエステル系等が好適に用いられ、ポリエステル系であるPETがより好適に用いられる。
【0055】
遊離する血栓の捕捉精度を高めるために、材質であるメッシュがPETの場合には、メッシュを構成する繊維の単糸径が10μm〜50μmであることが好ましく、20μm〜40μmであることがより好ましい。また、メッシュの目開きは10μm〜200μmであることが好ましく、50μm〜150μmであることがより好ましい。
【0056】
本発明の抗血栓性材料を人工血管に用いる場合、人工血管の全ての構成要素に本発明の抗血栓性材料を用いることが好ましいが、人工血管の内表面が血液と接触し最も抗血栓性を必要とするため、少なくとも人工血管の内表面を基材として、内表面に被覆材料を被覆していればよい。基材である人工血管の内表面を構成する材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、モノフィラメントやマルチフィラメント等で構成された経糸と緯糸からなる織物構造体が好ましい。材質としては、特に限定されるものではないが、ナイロンやポリエステル系、ePTFE等が好適に用いられ、ポリエステル系であるPETがより好適に用いられる。
【0057】
人工血管の柔軟性が良好となるためには、材質であるメッシュがPETの場合には、単糸直径が15μm以下であるモノフィラメントやマルチフィラメントが好ましく、単糸直径が10μm以下であるモノフィラメントやマルチフィラメントがより好ましく、単糸直径が5μm以下であるモノフィラメントやマルチフィラメントがさらにより好ましい。
【0058】
従来の抗血栓材料の場合、基材であるメッシュを被覆材料により被覆することによって、メッシュの微細構造である目開きが破壊されることで、血栓の捕捉精度が低下してしまうおそれがある。また、人工血管の内表面の微細構造である経糸と緯糸からなる織物構造体が破壊されることで、血流等に影響を与えて血栓形成を促進してしまうおそれがある。しかしながら、本発明の抗血栓性材料において、例えば、抗血栓性材料の表面におけるXPSによる全原子の存在量に対する窒素原子の存在比率を、12.0原子数%以下とするようにポリマーを被覆するとともに、XPSによる全原子の存在量に対する硫黄原子の存在比率が、6.0原子数%以下にするように硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物を被覆することで、被覆材料の厚みは1〜600nmとなり、遊離血栓捕獲器具に用いられるメッシュの目開きの微細構造や人工血管の内表面に用いられる織物構造体の微細構造を壊すことなく、高く長い抗血栓性を発現することができる。
【0059】
基材を被覆する被覆材料の平均の厚みは、厚すぎると基材の表面の微細構造を破壊してしまうため、1〜600nmであることが好ましく、1〜200nmであることがより好ましく、1〜100nmであることがさらにより好ましい。ここでいう平均の厚みは、例えば後述する走査型透過電子顕微鏡(以下、「STEM」)で被覆材料に由来する原子が観測される厚みであり、少なくとも3点の平均の値を指す。
【0060】
本発明の抗血栓性材料の製造方法を以下に示す。例えば、基材である遊離血栓捕獲器具のメッシュを構成する繊維や人工血管の織物構造体を構成する繊維を製糸する際に、アルキレンイミン、ビニルアミン、アリルアミン、リジン、プロタミン及びジアリルジメチルアンモニウムクロライドからなる群から選択される化合物を構成モノマーとして含むポリマーと、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物を含んだ溶液の中に目的の基材を添加して被覆材料による被覆を行なってもよいが、上記ポリマーと、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物の間で、その全てもしくはいずれか一部を予め反応させた後の被覆材料により、基材の表面を被覆してもよい。
【0061】
その中でも、基材の表面で抗血栓性を効率良く発現させるためには、第1の被覆工程として、アルキレンイミン、ビニルアミン、アリルアミン、リジン、プロタミン及びジアリルジメチルアンモニウムクロライドからなる群から選択される化合物を構成モノマーとして含むポリマーを基材の表面に共有結合させた後、第2の被覆工程として硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物を上記ポリマーにイオン結合させる方法がより好ましい。
【0062】
また、ポリマーが第1級から第3級のアミノ基を含んでいる場合、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物とのイオン相互作用を強固にし、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物の溶出速度を制御しやすくするため、第1の被覆工程後に、ポリマーを第4級アンモニウム化する工程を追加してもよい。
【0063】
第1の被覆工程として、アルキレンイミン、ビニルアミン、アリルアミン、リジン、プロタミン及びジアリルジメチルアンモニウムクロライドからなる群から選択される化合物を構成モノマーとして含むポリマーを基材の表面に共有結合させた後、第2の被覆工程として硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物を上記ポリマーにイオン結合させる方法を用いた場合の製造方法を以下に示す。
【0064】
ポリマーを基材の表面に共有結合させる方法は、特に限定されるものではないが、基材が官能基(水酸基、チオール基、アミノ基、カルボキシル基、アルデヒド基、イソシアネート基及びチオイソシアネート等)を有する場合、ポリマーと化学反応により共有結合させる方法がある。例えば、基材の表面がカルボキシル基等を有する場合、水酸基、チオール基及びアミノ基等を有するポリマーを基材の表面に共有結合させればよいし、水酸基、チオール基及びアミノ基等を有する化合物をポリマーと共有結合させた後、カルボキシル基等を有する基材の表面に共有結合させる方法等が挙げられる。
【0065】
また、基材が官能基を有しない場合、プラズマやコロナ等で基材の表面を処理した後に、ポリマーを共有結合させる方法や、放射線を照射することにより、基材の表面及びポリマーにラジカルを発生させ、その再結合反応により基材の表面とポリマーを共有結合させる方法がある。放射線としてはγ線や電子線が主に用いられる。γ線を用いる場合、γ線源量は250万〜1000万Ciが好ましく、300万〜750万Ciがより好ましい。また、電子線を用いる場合、電子線の加速電圧は5MeV以上が好ましく、10MeV以上がより好ましい。放射線量としては、1〜50kGyが好ましく、5〜35kGyがより好ましい。照射温度は10〜60℃が好ましく、20〜50℃がより好ましい。
【0066】
放射線を照射することにより共有結合させる方法の場合、ラジカル発生量を制御するため、抗酸化剤を用いてもよい。ここで、抗酸化剤とは、他の分子に電子を与えやすい性質を持つ分子のことを指す。用いられる抗酸化剤は特に限定されるものではないが、例えば、ビタミンCなどの水溶性ビタミン類、ポリフェノール類、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリン等のアルコール類、グルコース、ガラクトース、マンノース及びトレハロース等の糖類、ソジウムハイドロサルファイト、ピロ亜硫酸ナトリウム、二チオン酸ナトリウム等の無機塩類、尿酸、システイン、グルタチオン、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(以下、「Bis−Tris」)等の緩衝剤等が挙げられる。しかしながら、取り扱い性や残存性等の観点から、特にメタノール、エタノール、プロピレングリコール、Bis−Trisが好ましく、プロピレングリコール、Bis−Trisがより好ましい。これらの抗酸化剤は単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いてもよい。また、抗酸化剤は、水溶液に添加することが好ましい。
【0067】
本発明において、より高く長い抗血栓性を発現するために、アクリル酸、メタクリル酸、α−グルタミン酸、γ−グルタミン酸及びアスパラギン酸からなる群から選択される化合物を構成モノマーとして含むアニオン性ポリマー、又は、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、リンゴ酸、酒石酸及びクエン酸からなる群から選択される少なくとも一種のアニオン性化合物のうち少なくとも一方をポリマーの表面と共有結合させる第1の追加工程を第1の被覆工程の後に行うことが好ましい。また、アニオン性ポリマー又はアニオン性化合物をポリマーの表面と共有結合させる第1の追加工程後に、アルキレンイミン、ビニルアミン、アリルアミン、リジン、プロタミン及びジアリルジメチルアンモニウムクロライドからなる群から選択される化合物を構成モノマーとして含むカチオン性ポリマーをアニオン性ポリマー又はアニオン性化合物と共有結合させる第2の追加工程を行い、その後、ヘパリン又はヘパリンの誘導体のような硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物をカチオン性ポリマーと共有結合させる第2の被覆工程を行うことがより好ましい。必要に応じて、アニオン性ポリマー又はアニオン性化合物及びカチオン性ポリマーを用いて、第3及び第4の追加工程を行ってもよい。
【0068】
アニオン性ポリマーは、特に限定されるものではないが、アニオン性官能基の重量比率が高い方が基材や被覆材料との共有結合による被覆量が多くなるため、ポリアクリル酸(以下、「PAA」)や、ポリメタクリル酸、ポリα−グルタミン酸、ポリγ−グルタミン酸、ポリアスパラギン酸を用いることが好ましく、PAAがより好ましい。
【0069】
PAAの具体例としては、“ポリアクリル酸”(和光純薬工業株式会社製)等が挙げられるが、本発明の効果を妨げない範囲で他のモノマーとの共重合体であってもよく変性体であってもよい。
【0070】
アニオン性ポリマーは、特に限定されるものではないが、上記以外の構成モノマーと共重合体を形成していてもよく、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、ビニルカプロラクタム、酢酸ビニル、スチレン、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、シロキサン等が例示できる。アニオン性ポリマーと共重合体を形成する構成モノマーは、多すぎると基材や被覆材料との共有結合による被覆量が少なくなるため、10重量%以下であることが好ましい。
【0071】
アニオン性ポリマーの重量平均分子量が小さすぎると、基材や被覆材料との共有結合による被覆量が少なくなるため、高い抗血栓性が得られにくくなる。一方で、アニオン性ポリマーの重量平均分子量が大きすぎると、被覆材料が内包されてしまう。このため、アニオン性ポリマーの重量平均分子量は、600〜2000000が好ましく、10000〜1000000がより好ましい。
【0072】
アニオン性化合物は、特に限定されるものではないが、アニオン性官能基の重量比率が高い方が基材や被覆材料との共有結合による被覆量が多くなるため、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、リンゴ酸、酒石酸及びクエン酸を用いることが好ましく、コハク酸がより好ましい。
【0073】
基材の材質としてポリエステル系を用いる場合、特に限定されるものではないが、加熱条件下でポリマーを接触させることでアミノリシス反応により共有結合させる方法を用いることもできる。また、酸及びアルカリ処理により基材の表面のエステル結合を加水分解させ、基材の表面に生じたカルボキシル基とポリマーのアミノ基を縮合反応させ、共有結合させることもできる。これらの方法において、ポリマーを基材の表面に接触させて反応させてもよいが、溶媒に溶解した状態で接触させて反応させてもよい。溶媒としては、水やアルコール等が好ましいが、取り扱い性や残存性等の観点から、特に水が好ましい。また、ポリマーを構成するモノマーを基材の表面と接触させた状態で重合した後に、反応させて共有結合させてもよい。
【0074】
加熱の手段は、特に限定されるものではないが、電気加熱、マイクロ波加熱、遠赤外線加熱等が挙げられる。アミノリシス反応によりポリエステル系の基材とポリマーを共有結合させる場合、加熱温度が低すぎるとポリマーによるポリエステル系の基材に対してのアミノリシス反応が進行しにくいため、加熱温度はガラス転移点付近以上であることが好ましい。一方で、高すぎるとアミノリシス反応は十分に進行するものの、ポリエステル系の基材の骨格構造が壊れてしまうため、加熱温度は融点以下であることが好ましい。
【0075】
本発明では、第1の被覆工程の前に、基材の表面のエステル結合を加水分解及び酸化する工程が重要であることがわかった。具体的には、酸もしくはアルカリ及び酸化剤により処理する方法が好適に用いられる。本発明において、酸もしくはアルカリのみにより処理する方法では、十分な量のポリマーが基材の表面に被覆されないことがわかった。その理由としては、酸もしくはアルカリのみにより処理する方法では、エステル結合の加水分解により生じる水酸基とカルボキシル基が混在し、ポリマーのアミノ基との縮合反応が効率良く進行しないことが挙げられる。また、水酸基の存在は、血液と接触した際に、補体を活性しやすいことが知られているため、好ましくない。すなわち、補体を活性せずポリマーの被覆量を上げて抗血栓性を高めるためには、酸もしくはアルカリ及び酸化剤により処理する方法が特に好適に用いられる。
【0076】
本発明における酸もしくはアルカリ及び酸化剤により基材の表面のエステル結合を加水分解及び酸化する工程の組み合わせとしては、酸と酸化剤により処理する方法が最適であることを見出した。また、アルカリにより基材の表面を処理した後、酸と酸化剤により処理してもよい。
【0077】
用いられる酸の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、硫酸、フルオロスルホン酸、硝酸、リン酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、テトラフルオロホウ酸、クロム酸及びホウ酸等の無機酸や、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸及びポリスチレンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸、酢酸、クエン酸、ギ酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸及び酒石酸等のカルボン酸、アスコルビン酸及びメルドラム酸等のビニル性カルボン酸、デオキシリボ核酸及びリボ核酸などの核酸等が挙げられる。その中でも取り扱い性等の観点から、塩酸や硫酸等がより好ましい。
【0078】
用いられる塩基の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム及び水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化テトラメチルアンモニウム及び水酸化テトラエチルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウムの水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化ユウロピウム及び水酸化タリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、グアニジン化合物、ジアンミン銀(I)水酸化物及びテトラアンミン銅(II)水酸化物等のアンミン錯体の水酸化物、水酸化トリメチルスルホニウム及び水酸化ジフェニルヨードニウム等が挙げられる。その中でも取り扱い性等の観点から、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等がより好ましい。
【0079】
用いられる酸化剤の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、硝酸カリウム、次亜塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素等のハロゲン、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム三水和物、過マンガン酸アンモニウム、過マンガン酸銀、過マンガン酸亜鉛六水和物、過マンガン酸マグネシウム、過マンガン酸カルシウム及び過マンガン酸バリウム等の過マンガン酸塩、硝酸セリウムアンモニウム、クロム酸、二クロム酸、過酸化水素水等の過酸化物、トレンス試薬及び二酸化硫黄等が挙げられるが、その中でも酸化剤の強さや抗血栓性材料の劣化を適度に防ぐことができる等の観点から、過マンガン酸塩がより好ましい。
【0080】
ポリマーとポリエステル系の基材の表面を共有結合させる方法としては、例えば脱水縮合剤等を用いて縮合反応させる方法がある。
【0081】
用いられる脱水縮合剤の種類は、特に限定されるものではないが、例えば、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、1−エーテル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、1−エーテル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(以下、「EDC」)、1,3−ビス(2,2−ジメチルー1,3−ジオキソランー4−イルメチル)カルボジイミド、N−{3−(ジメチルアミノ)プロピル−}−N’−エチルカルボジイミド、N−{3−(ジメチルアミノ)プロピル−}−N’−エチルカルボジイミドメチオダイド、N−tert−ブチル−N’−エチルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N’−(2−モルフォィノエチル)カルボジイミド メソ−p−トルエンスルフォネート、N,N’−ジ−tert−ブチルカルボジイミド又はN,N’−ジ−p−トリカルボジイミド等のカルボジイミド系化合物や、4(−4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルフォリニウムクロリドn水和物(以下、「DMT−MM」)等のトリアジン系化合物が挙げられる。
【0082】
脱水縮合剤は、脱水縮合促進剤と共に用いてもよい。用いられる脱水縮合促進剤は、特に限定されるものではないが、例えば、ピリジン、4−ジメチルアミノピリジン(以下、「DMAP」)、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール又はN−ヒドロキシコハク酸イミドが挙げられる。
【0083】
ポリマー、脱水縮合剤及び脱水縮合促進剤は、混合水溶液にして反応させてよいし、順番に添加して反応を行なってもよい。
【0084】
基材の材質としてePTFEを用いる場合、特に限定されるものではないが、プラズマやコロナ等により基材の表面を官能基化する方法を用いることができる。また、フッ素樹脂表面処理剤等を用いて基材の表面に存在するフッ素原子を引き抜き、空気中の酸素や水素、水蒸気などと反応して、例えば、水酸基やカルボキシル基、カルボニル基等を形成する方法を用いることもできる。
【0085】
上記ポリエステル系の基材と同様にして、ポリマーをePTFEの基材の表面に共有結合させる第1の被覆工程を実施することができる。
【0086】
また、ポリマーが第1級から第3級のアミノ基を含んでいる場合、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物とのイオン相互作用を強固にし、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物の溶出速度を制御しやすくさせる場合に、ポリマーを第4級アンモニウム化する工程を追加しても良い。
【0087】
ポリマーを第4級アンモニウム化する方法としては、ポリマーを基材の表面に共有結合する前に第4級アンモニウム化してもよいし、ポリマーを基材の表面に共有結合した後に第4級アンモニウム化してもよいが、ポリマーと硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物とのイオン相互作用を強固にするためには、ポリマーが有する第4級アンモニウム基が被覆材料の最表面に存在することが好ましいため、基材の表面に共有結合した後に第4級アンモニウム化するのが好ましい。具体的には、ポリマーを基材の表面に共有結合した後に、塩化エーテル、臭化エチル等のハロゲン化アルキル化合物又はグリシジル基含有4級アンモニウム塩を直接接触させてもよいし、水溶液もしくは有機溶剤に溶解させて接触させてもよい。
【0088】
硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物をポリマーにイオン結合させる第2の被覆工程としては、特に限定されるものではないが、水溶液の状態で接触させる方法が好ましい。
【0089】
本発明では抗血栓性材料の表面の抗ファクターXa活性を測定した。ここで、抗ファクターXa活性とは、プロトロンビンからトロンビンへの変換を促進する第Xa因子の活性を阻害する程度を表す指標であり、例えば、抗血栓性材料における硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物がヘパリン又はヘパリン誘導体の場合には、その活性単位での表面量を知ることができる。測定には、“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”(積水メディカル株式会社製)を用いた。抗ファクターXa活性が低すぎると、抗血栓性材料におけるヘパリン又はヘパリン誘導体の表面量が少なく、目的の抗血栓性は得られにくくなる。一方で、抗ファクターXa活性が高すぎると、ヘパリン又はヘパリン誘導体の表面量が目的の抗血栓性を発現するために十分量存在するが、被覆材料の厚みが増えることで基材の表面の微細構造を保持できなくなることがある。すなわち、抗ファクターXa活性は、25mIU/cm
2であることが好ましく、30mIU/cm
2であることがより好ましく、50mIU/cm
2であることがより好ましい。ここでいう抗ファクターXa活性による表面量は、生理食塩水に30分浸漬した後に測定した数値を指す。
【0090】
本発明の抗血栓性材料は、基材の表面に被覆したヘパリン又はヘパリン誘導体の抗ファクターXa活性による総被覆量が少ないにも関わらず、生理食塩水に30分浸漬した後の初期表面量が高いことが特徴である。総被覆量とは、抗ファクターXa活性により測定した全ての溶出量と抗血栓性材料の表面に残存する表面量を合計した量であり、多すぎると、基材の表面の微細構造が破壊されてしまう一方で、低すぎると、目的の抗血栓性が得られにくくなる。すなわち、抗血栓性材料の表面の抗ファクターXa活性による総被覆量が10000mIU/cm
2以下であり、かつ、生理食塩水に30分浸漬した後の初期表面量が25mIU/cm
2以上であることが好ましく、10000mIU/cm
2以下であり、かつ、生理食塩水に30分浸漬した後の初期表面量が30mIU/cm
2以上であることがより好ましく、総被覆量が5000mIU/cm
2以下であり、かつ、生理食塩水に30分浸漬した後の初期表面量が50mIU/cm
2以上であることがより好ましい。
【0091】
本発明において、抗血栓性を示す指標として、ヒト全血液を接触させた時の血栓重量を定量した。本発明の被覆材料を被覆した抗血栓性材料と、被覆材料を含まない同種の基材を陽性対照として、それぞれ試験を3回実施した。以下の式3によって血栓重量の相対値を算出し、その3回の平均値が10%以上であれば、本発明において抗血栓性材料への血栓付着量は少なく好ましい。
【0092】
血栓重量の相対値(%) = (Bt/Bp)×100 ・・・式3
Bt : 検体の血栓重量
Bp : 陽性対照の血栓重量
【0093】
本発明において、抗血栓性材料が使用され続けることで、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物が溶出していくが、その際、露出したポリマーが、カチオン性を有するために、溶血毒性の懸念がある。溶血毒性を示す指標として、以下の式4で算出される、溶血率を用いた。溶血毒性は、厚生労働省が発行するガイドライン「医療機器の製造販売承認申請等に必要な生物学的安全性評価の基本的考え方について」の溶血毒性試験に沿って、表1のように溶血率の値でグレード分けされている。本発明における溶血毒性としては、非溶血性と軽度の溶血性あり、にグレード分けされることが好ましく、非溶血性、にグレード分けされることがより好ましい。
【0094】
溶血率(%) = [(At−An)/(Ap−An)]×100 ・・・式4
At : 検体の吸光度
An : 陰性対照の吸光度
Ap : 陽性対照の吸光度
【0096】
さらに、本発明の抗血栓性材料は、従来技術のように基材の界面を基点にポリマー及び硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物等から構成される被覆材料が被覆されているのではなく、基材の界面から深さ方向にも、被覆材料が存在していることが特徴である。
【0097】
具体的に、基材の界面から深さ方向に被覆材料が存在するかどうかは、STEMとXPS等の組み合わせによって確認することができる。STEMにはエネルギー分散型X線分光分析器(以下、「EDX」)及び電子エネルギー損失分光分析器(以下、「EELS」)等の検出器があり、STEMの測定条件を以下に示す。
[測定条件]
装置 :電界放出型透過電子顕微鏡JEM−2100F(JEOL社製)
EELS検出器 :GIF Tridiem(GATAN社製)
EDX検出器 :JED−2300T(JEOL社製)
画像取得 :Digital Micrograph(GATAN社製)
試料調整 :超薄切片法(銅製マイクログリッドに懸架し、包埋樹脂はアクリル系樹脂を使用。)
加速電圧 :200kV
ビーム径 :直径0.7nm
エネルギー分解能 :約1.0eVFWHM
【0098】
ここでいう抗血栓性材料の表面とは、XPSで測定される測定表面からの深さ10nmまでのことを指し、抗血栓性材料の界面とは、STEMで測定前の試料調整時に包埋するアクリル系樹脂との境界のことを指す。
【0099】
基材の界面から深さ方向に被覆材料が存在するかどうかは、例えば、STEMの測定から判断できる。抗血栓性材料の界面から深さ方向にポリマー及び硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物である被覆材料に由来する原子を観測していき、基材に由来する原子が観測された位置よりも深い位置に被覆材料に由来する原子が観測されればよい。例えば、基材がポリエステル系やePTFEの場合、基材に由来する酸素原子やフッ素原子等が観測された位置よりも、ポリマーに由来する窒素原子や硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物に由来する硫黄原子が観測されればよい。ここで、基材の界面とは基材に由来する原子が観測された深さ方向の位置のことを指す。ここで、原子の存在はSTEM測定から得られたスペクトルにおいて、バックグラウンドを引いて各原子に由来するピーク強度が認められるかどうかで判断する。
【0100】
本発明においては、基材の界面の位置から深さ方向において、より抗血栓性材料の界面から離れた位置にポリマー及び硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物である被覆材料に由来する原子が存在する。具体的には、窒素原子及び硫黄原子が少なくとも基材の界面から深さ方向20〜100nmまでに存在していることが好ましく、50〜90nmまでに存在していることがより好ましい。本発明においては、被覆材料が少なくとも基材の界面から深さ方向20〜100nmまでに存在することにより、溶出する硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物の溶出量や溶出速度が最適になり、高く長い抗血栓性を発現することがわかった。50nm未満しか被覆材料が存在しない場合は、硫黄原子を含むアニオン性の抗凝固活性を有する化合物の溶出が早すぎるためよくない。一方で、100nmを超える場合は、溶出量や溶出速度は最適だが、酸もしくはアルカリ及び酸化剤によるポリエステル系基材の加水分解による劣化が激しく、基材の引張り強度等の力学特性が低下してしまうため好ましくない。本発明は、細孔が存在する多孔質材料ではない基材において、深さ方向20〜100nmまでに被覆材料を結合させることが好ましい。
【実施例】
【0101】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0102】
(実施例1)
基材であるPETメッシュ(径:27μm、繊維間距離:100μm)を5.0重量%過マンガン酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)、0.6mol/L硫酸(和光純薬工業株式会社製)の水溶液に浸漬し、60℃で3時間反応させてPETメッシュを加水分解及び酸化した(加水分解及び酸化する工程)。反応後の水溶液を除去し、塩酸(和光純薬工業株式会社製)及び蒸留水で洗浄した。
【0103】
次いでPETメッシュを、0.5重量%DMT−MM(和光純薬工業株式会社製)、被覆材料の一部である5.0重量%PEI(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製)の水溶液に浸漬し、30℃で2時間反応させてPETメッシュにPEIを縮合反応により共有結合させた(第1の被覆工程)。反応後の水溶液を除去し、蒸留水で洗浄した。
【0104】
さらにPETメッシュを、臭化エチル(和光純薬工業株式会社製)、もしくは臭化ペンチル(和光純薬工業株式会社製)の1重量%メタノール水溶液に浸漬し、35℃で1時間反応させた後、50℃に加温して4時間反応させ、PETメッシュの表面に共有結合されたPEIを第4級アンモニウム化した(第4級アンモニウム化工程)。反応後の水溶液を除去し、メタノールや蒸留水で洗浄した。
【0105】
最後に、0.75重量%ヘパリンナトリウム(Organon API社製)、0.1mol/L塩化ナトリウムの水溶液(pH=4)に浸漬し、70℃で6時間反応させて、PEIとイオン結合させた(第2の被覆工程)。反応後の水溶液を除去し、蒸留水で洗浄した。
【0106】
ここで、第4級アンモニウム化工程を実施せずに第2の被覆工程を実施したPETメッシュをサンプル1、臭化エチルを用いて第4級アンモニウム化工程を実施したPETメッシュをサンプル2、臭化ペンチルを用いて第4級アンモニウム化工程を実施したPETメッシュをサンプル3とした。
【0107】
それぞれのサンプルについて、生理食塩水に30分浸漬した後の抗ファクターXa活性による表面量の測定、ヒト全血液試験による評価及び溶血毒性評価を実施した。結果を表2に示す。表2に示すとおり、サンプル1〜3の抗ファクターXa活性による表面量は多く、ヒト全血液試験による評価では血栓付着は無し(−)であり、溶血毒性評価も非溶血性(−)であった。
【0108】
(実施例2)
実施例1と同様の操作を行い、第1の被覆工程を実施した後、PETメッシュを0.5重量%DMT−MM、40重量%無水コハク酸(和光純薬工業株式会社製)のジメチルアセトアミドに浸漬し、50℃で17時間反応させた(第1の追加工程)。反応後の溶液を除去し、メタノールや蒸留水で洗浄した。さらにPETメッシュを、0.5重量%DMT−MM、5.0重量%PEIの水溶液に浸漬し、30℃で2時間反応させた(第2の追加工程)。反応後の水溶液を除去し、蒸留水で洗浄した。実施例1と同様の操作を行い、臭化エチルを用いて第4級アンモニウム化工程を実施した後、第2の被覆工程を実施した。
【0109】
ここで、PEI(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製)で第2の追加工程を実施したPETメッシュをサンプル4、PEI(LUPASOL(登録商標) SK;BASF社製)で第2の追加工程を実施したPETメッシュをサンプル5とした。
【0110】
それぞれのサンプルについて、生理食塩水に30分浸漬した後の抗ファクターXa活性による表面量の測定、ヒト全血液試験による評価及び溶血毒性評価を実施した。結果を表2に示す。表2に示すとおり、サンプル4及び5の抗ファクターXa活性による表面量は多く、また、ヒト全血液試験による評価では血栓付着は無し(−)であり、溶血毒性評価も非溶血性(−)であった。
【0111】
(実施例3)
実施例1と同様の操作を行い、第1の被覆工程を実施した後、PETメッシュを0.5重量%DMT−MM、0.5重量%PAA(和光純薬工業株式会社製)の水溶液に浸漬し、30℃で2時間反応させた(第1の追加工程)。反応後の水溶液を除去し、炭酸ナトリウム水溶液や蒸留水で洗浄した。
【0112】
さらにPETメッシュを、0.5重量%DMT−MM、5.0重量%PEIの水溶液に浸漬し、30℃で2時間反応させた(第2の追加工程)。反応後の水溶液を除去し、蒸留水で洗浄した。実施例1と同様の操作を行い、臭化エチルを用いて第4級アンモニウム化工程を実施した後、第2の被覆工程を実施した。
【0113】
ここで、PEI(平均分子量約600;和光純薬工業株式会社製)で第2の追加工程を実施したPETメッシュをサンプル6、PEI(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製)で第2の追加工程を実施したPETメッシュをサンプル7、ポリアリルアミン塩酸塩(以下、「PAH」)(重量平均分子量90万;シグマ−アルドリッチ社製)で第2の追加工程を実施したPETメッシュをサンプル8とした。
【0114】
それぞれのサンプルについて、生理食塩水に30分浸漬した後の抗ファクターXa活性による表面量の測定、ヒト全血液試験による評価及び溶血毒性評価を実施した。結果を表2に示す。表2に示すとおり、サンプル6〜8の抗ファクターXa活性による表面量は多く、ヒト全血液試験による評価では血栓付着は無し(−)であり、溶血毒性評価も非溶血性(−)であった。
【0115】
(実施例4)
実施例1と同様の操作を行い、PEI(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製)をポリアリルアミン塩酸塩(以下、「PAH」)(重量平均分子量90万;シグマ−アルドリッチ社製)、もしくはポリ−L−リシン臭化水素酸塩(以下、PLys)(重量平均分子量3〜7万;シグマ−アルドリッチ社製)に変更して第1の被覆工程を実施した。実施例1と同様の操作を行い、臭化エチルを用いて第4級アンモニウム化工程を実施した後、第2の被覆工程を実施した。
【0116】
ここで、PEI(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製)をPAHに変更して第1の被覆工程を実施したPETメッシュをサンプル9、PEI(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製)をPLysに変更して第1の被覆工程を実施したPETメッシュをサンプル10とした。
【0117】
それぞれのサンプルについて、生理食塩水に30分浸漬した後の抗ファクターXa活性による表面量の測定、ヒト全血液試験による評価及び溶血毒性評価を実施した。結果を表2に示す。表2に示すとおり、サンプル9及び10の抗ファクターXa活性による表面量は多く、ヒト全血液試験による評価では血栓付着は無し(−)であり、溶血毒性評価も非溶血性(−)であった。
【0118】
(実施例5)
PETメッシュを5%PEIの水溶液に浸漬し、5kGyのγ線を照射(JS−8500型コバルト60γ線照射装置;ノーディオン・インターナショナル社製)し共有結合させた(第1の被覆工程)。反応後の水溶液を除去し、Triton−X100(シグマ−アルドリッチ社製)、生理食塩水や蒸留水で洗浄した。実施例1と同様の操作を行い、臭化エチルを用いて第4級アンモニウム化工程を実施した後、第2の被覆工程を実施した。
【0119】
ここで、PEI(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製)で第1の被覆工程を実施したPETメッシュをサンプル11とした。
【0120】
それぞれのサンプルについて、生理食塩水に30分浸漬した後の抗ファクターXa活性による表面量の測定、ヒト全血液試験による評価及び溶血毒性評価を実施した。結果を表2に示す。表2に示すとおり、サンプル11の抗ファクターXa活性による表面量は中程度あり、ヒト全血液試験による評価では血栓付着は無し(−)であり、溶血毒性評価も非溶血性(−)であった。
【0121】
(実施例6)
実施例1と同様の操作を行い、ヘパリンナトリウム(Organon API社製)をデキストラン硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)に変更して第2の被覆工程を実施したPETメッシュをサンプル12とした。
【0122】
サンプル12について、ヒト全血液試験による評価及び溶血毒性評価を実施した。結果を表2に示す。表2に示すとおり、ヒト全血液試験による評価では血栓付着は無し(−)であり、溶血毒性評価も非溶血性(−)であった。
【0123】
(比較例1)
PETメッシュを5%PEIの水溶液に浸漬し、5kGyのγ線を照射(JS−8500型コバルト60γ線照射装置;ノーディオン・インターナショナル社製)し共有結合させた(第1の被覆工程)。反応後の水溶液を除去し、Triton−X100(シグマ−アルドリッチ社製)、生理食塩水や蒸留水で洗浄した。実施例1と同様の操作を行い、臭化エチルを用いて第4級アンモニウム化工程を実施した後、第2の被覆工程を実施した。
【0124】
ここで、PEI(平均分子量約600;和光純薬工業株式会社製)で第1の被覆工程を実施した後、第4級アンモニウム化工程を実施しなかったPETメッシュをサンプル13、PEI(平均分子量約600;和光純薬工業株式会社製)で第1の被覆工程を実施したPETメッシュをサンプル14、PEI(LUPASOL(登録商標) SK;BASF社製)で第1の被覆工程を実施したPETメッシュをサンプル15、PEI(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製)で第1の被覆工程を実施した後、デキストラン硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)で第2の被覆工程を実施したPETメッシュをサンプル16とした。
【0125】
それぞれのサンプルについて、生理食塩水に30分浸漬した後の抗ファクターXa活性による表面量の測定、ヒト全血液試験による評価及び溶血毒性評価を実施した。結果を表2に示す。表2に示すとおり、サンプル13〜16の溶血毒性評価は非溶血性(−)であったが、ヒト全血液試験による評価では血栓付着は有り(+)であった。また、抗ファクターXa活性による表面量は少なかった。
【0126】
(比較例2)
PETメッシュを5%PEIの水溶液に浸漬し、80℃で2時間加熱し、PETメッシュにPEIをアミノリシス反応により共有結合させた(第1の被覆工程)。反応後の水溶液を除去し、蒸留水で洗浄した。実施例1と同様の操作を行い、臭化エチルを用いて第4級アンモニウム化工程を実施した後、第2の被覆工程を実施した。
【0127】
ここで、PEI(平均分子量約600;和光純薬工業株式会社製)で第1の被覆工程を実施したPETメッシュをサンプル17、PEI(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製)で第1の被覆工程を実施したPETメッシュをサンプル18、PEI(LUPASOL(登録商標) SK;BASF社製)で第1の被覆工程を実施したPETメッシュをサンプル19とした。
【0128】
それぞれのサンプルについて、生理食塩水に30分浸漬した後の抗ファクターXa活性による表面量の測定、ヒト全血液試験による評価及び溶血毒性評価を実施した。結果を表2に示す。表2に示すとおり、サンプル17〜19の溶血毒性評価は非溶血性(−)であったが、ヒト全血液試験による評価では血栓付着は有り(+)であった。また、抗ファクターXa活性による表面量は少なかった。
【0129】
(比較例3)
実施例1と同様の操作を行い、PEI(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製)をPEI(平均分子量約600;和光純薬工業株式会社製)に変更して第1の被覆工程を実施した。実施例1と同様の操作を行い、臭化エチルを用いて第4級アンモニウム化工程を実施した後、第2の被覆工程を実施したPETメッシュをサンプル20とした。
【0130】
サンプル20について、生理食塩水に30分浸漬した後の抗ファクターXa活性による表面量の測定、ヒト全血液試験による評価及び溶血毒性評価を実施した。結果を表2に示す。表2に示すとおり、サンプル20の溶血毒性評価は非溶血性(−)であったがヒト全血液試験による評価では血栓付着は有り(+)であった。また、抗ファクターXa活性による表面量は少なかった。
【0131】
(比較例4)
実施例1と同様の操作を行い、第1の被覆工程を実施した後、PETメッシュを0.5重量%DMT−MM、0.5重量%PAA(和光純薬工業株式会社製)の水溶液に浸漬し、30℃で2時間反応させた(第1の追加工程)。反応後の水溶液を除去し、炭酸ナトリウム水溶液や蒸留水で洗浄した。
【0132】
さらにPETメッシュを、0.5重量%DMT−MM、5.0重量%PEIの水溶液に浸漬し、30℃で2時間反応させた(第2の追加工程)。反応後の水溶液を除去し、蒸留水で洗浄した。
【0133】
さらにPETメッシュを、0.5重量%DMT−MM、0.5重量%PAA(和光純薬工業株式会社製)の水溶液に浸漬し、30℃で2時間反応させた(第3の追加工程)。反応後の水溶液を除去し、炭酸ナトリウム水溶液や蒸留水で洗浄した。
【0134】
さらにPETメッシュを、0.5重量%DMT−MM、5.0重量%PEIの水溶液に浸漬し、30℃で2時間反応させた(第4の追加工程)。反応後の水溶液を除去し、蒸留水で洗浄した。実施例1と同様の操作を行い、臭化エチルを用いて第4級アンモニウム化工程を実施した後、第2の被覆工程を実施した。
【0135】
ここで、PEI(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製)で第4の追加工程を実施したPETメッシュをサンプル21、PEI(LUPASOL(登録商標) SK;BASF社製)で第4の追加工程を実施したPETメッシュをサンプル22とした。
【0136】
それぞれのサンプルについて、生理食塩水に30分浸漬した後の抗ファクターXa活性による表面量の測定、ヒト全血液試験による評価及び溶血毒性評価を実施した。結果を表2に示す。表2に示すとおり、サンプル21及び22の抗ファクターXa活性による表面量は多かったが、ヒト全血液試験による評価では血栓付着は無し(−)であり、溶血毒性評価は軽度の溶血性あり(+)であった。
【0137】
(実施例7)
ここで、基材をPETフィルムに変更して、実施例1と同様の操作を行い、サンプル1と同様に第4級アンモニウム化工程を実施せずに第2の被覆工程を実施したPETフィルムをサンプル23、サンプル2と同様に臭化エチルを用いて第4級アンモニウム化工程を実施したPETフィルムをサンプル24、サンプル3と同様に臭化ペンチルを用いて第4級アンモニウム化工程を実施したPETフィルムをサンプル25とした。サンプル23〜25について、細胞接着性試験による評価を実施した。結果を表3に示す。表3に示すとおり、サンプル23〜25の細胞接着性評価は(++)であった。
【0138】
(実施例8)
また、基材をPETフィルムに変更して、実施例3と同様の操作を行い、サンプル7と同様にPEI(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製)で第2の追加工程を実施したPETフィルムをサンプル26とした。サンプル26について、細胞接着性試験による評価を実施した。結果を表3に示す。表3に示すとおり、サンプル26の細胞接着性評価は(+)であった。
【0139】
(実施例9)
また、基材をPETフィルムに変更して、実施例5と同様の操作を行い、サンプル11と同様にPEI(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製)で第1の被覆工程を実施したPETフィルムをサンプル27とした。サンプル27について、細胞接着性試験による評価を実施した。結果を表3に示す。表3に示すとおり、サンプル27の細胞接着性評価は(++)であった。
【0140】
(比較例5)
また、基材をPETフィルムに変更して、比較例1と同様の操作を行い、サンプル13と同様にPEI(平均分子量約600;和光純薬工業株式会社製)で第1の被覆工程を実施した後、第4級アンモニウム化工程を実施しなかったPETフィルムをサンプル28、サンプル14と同様にPEI(平均分子量約600;和光純薬工業株式会社製)で第1の被覆工程を実施したPETフィルムをサンプル29とした。サンプル28及び29について、細胞接着性試験による評価を実施した。結果を表3に示す。表3に示すとおり、サンプル28及び29の細胞接着性評価は(++)であった。
【0141】
(比較例6)
また、基材をPETフィルムに変更して、比較例4と同様の操作を行い、サンプル21と同様にPEI(LUPASOL(登録商標) P;BASF社製)で第4の追加工程を実施したPETフィルムをサンプル30、サンプル22と同様にPEI(LUPASOL(登録商標) SK;BASF社製)で第4の追加工程を実施したPETフィルムをサンプル31とした。サンプル30及び31について、細胞接着性試験による評価を実施した。結果を表3に示す。表3に示すとおり、サンプル30及び31の細胞接着性評価は(−)であった。
【0142】
本発明の材料が有する抗血栓性と安全性について、抗ファクターXa活性による表面量、ヒト全血液試験による評価及び溶血毒性の評価方法を下記に示す。
【0143】
また、本発明の材料が有する細胞接着性について、吸光度を用いて培養後の細胞接着量を測定する細胞接着性試験による評価方法を下記に示す。
【0144】
(評価1:抗ファクターXa活性による表面量)
被覆材料を被覆した抗血栓性材料(例えばPETメッシュ)を0.5×0.5cmのサイズにカットし、生理食塩水を用いて37℃で30分間洗浄した。洗浄後のPETメッシュを“テストチーム(登録商標) ヘパリンS”(積水メディカル株式会社製)の操作手順に従って反応させ、405nmの吸光度をマイクロプレートリーダ(MTP−300;コロナ電気株式会社製)で測定して、テストチーム ヘパリンSの操作手順に従って抗ファクターXa活性による表面量を算出した。表面量は高い程よく、25mIU/cm
2以上であることが好ましく、50mIU/cm
2以上であることがより好ましい。
【0145】
(評価2:ヒト全血液試験)
被覆材料を被覆した抗血栓性材料(例えばPETメッシュ)、および被覆材料を含まない同種の基材(陽性対照)を有効表面積1.0cm
2にカットし、生理食塩水で37℃、30分間洗浄してから2mLのマイクロチューブに入れた。ヒト新鮮血に0.5U/mLとなるようにヘパリンナトリウム注(味の素製薬株式会社製)を添加した後、このヒト血液を2mL添加し、37℃で2時間インキュベートした。インキュベート後にメッシュを取り出し、PBS(−)(日水製薬株式会社製)でリンスした後、付着した血栓重量を定量した。血栓重量は、試験前のメッシュとリンス後のメッシュの乾燥重量をそれぞれ測定し、その差によって求めた。各サンプルおよび陽性対照についてそれぞれ試験を3回実施し、式3により算出した血栓重量の相対値の3回の平均値が10%以上であれば血栓付着は有りとして(+)、10%未満であれば血栓付着は無しとして(−)と判定した。
【0146】
(評価3:溶血毒性試験)
ヒト新鮮血をガラスビーズ入り三角フラスコの壁面を伝うように入れた。手のひらの上で、水平に円を描くように、およそ1秒間に2回の間隔で約5分間振とうし、脱線維血を調製した。被覆材料を被覆した抗血栓性材料(例えばPETメッシュ)を1.0×2.0cmのサイズにカットし、生理食塩水で37℃、30分間洗浄してから2mLのマイクロチューブに入れた。メッシュが入ったマイクロチューブに生理食塩水で50倍希釈した脱線維血を1mL添加し、37℃で4時間インキュベートした。インキュベート後、750Gで5分間遠心分離した。上清を採取し、576nmでのUV吸収を測定した。式4より算出した値が2より大きい値、すなわち溶血性有りであれば(+)、2以下の値、すなわち非溶血性であれば(−)と判定した。溶血毒性は無い方がよく、非溶血性であることが好ましい。
【0147】
(評価4:細胞接着性試験)
細胞接着性とは、材料に対する細胞の接着のしやすさを示す性質であり、以下の評価法で測定される。サンプル23〜31を打抜ポンチで直径15mmの円板サンプルに打ち抜いた。細胞培養用の24ウェル・マイクロプレート(住友ベークライト社製)のウェルに内壁面を上にして1枚入れ、上から肉厚1mmの金属パイプ状錘を乗せた。2%FBS内皮細胞培地キット−2(タカラバイオ社製)に懸濁した正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(タカラバイオ社)を1ウェル当たり4×10
4個になるように添加した。1mLの培地中で37℃、5%CO
2の環境下で24時間培養した。その後、PBS(−)(ニッスイ社製)でリンスした後に、Cell Counting Kit−8(同仁化学社製)を100μL添加し、37℃、5%CO
2の環境下で4時間培養した。その後、450nmの吸光度をマイクロプレートリーダ(MTP−300;コロナ電気株式会社製)で測定して、以下の式5に示すように、吸光度を算出した。
As = At−Ab ・・・式5
At : 測定値の吸光度
Ab : ブランク溶液の吸光度(培地及びCell Counting Kit−8の溶液のみで細胞なし。)
As : 算出された吸光度
【0148】
ここで、算出した吸光度Asから培養後の細胞接着量が分かるため、吸光度Asを元に細胞接着性のスコアを決定した。具体的には、Asが0.5未満であれば細胞接着性は弱いとして(−)、Asが0.5以上であれば細胞接着性は強いとして(+)、Asが0.7以上であれば細胞接着性はより強いとして(++)と判定した。
【0149】
【表2】
【0150】
【表3】