特許第6435932号(P6435932)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6435932ガラス用コーティング剤、及びガラス積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6435932
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】ガラス用コーティング剤、及びガラス積層体
(51)【国際特許分類】
   C09D 123/26 20060101AFI20181203BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20181203BHJP
   C09D 171/02 20060101ALI20181203BHJP
   C09D 179/00 20060101ALI20181203BHJP
   C09D 191/06 20060101ALI20181203BHJP
   B32B 17/10 20060101ALI20181203BHJP
   C03C 17/32 20060101ALI20181203BHJP
   C03C 17/38 20060101ALI20181203BHJP
【FI】
   C09D123/26
   C09D133/00
   C09D171/02
   C09D179/00
   C09D191/06
   B32B17/10
   C03C17/32 A
   C03C17/38
【請求項の数】9
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2015-46662(P2015-46662)
(22)【出願日】2015年3月10日
(65)【公開番号】特開2016-166291(P2016-166291A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2018年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】于 越
(72)【発明者】
【氏名】菅野 真樹
(72)【発明者】
【氏名】小出 昌史
【審査官】 田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−071974(JP,A)
【文献】 特開2012−224824(JP,A)
【文献】 特開2006−045510(JP,A)
【文献】 特開2002−235027(JP,A)
【文献】 特開2003−292869(JP,A)
【文献】 特開2009−091514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
B32B 1/00−43/00
C03C 17/00−17/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性オレフィン系樹脂(A)と、アクリル系樹脂(B)と、カルボジイミド系樹脂(C)と、ワックス状樹脂(D)(ただし、変性オレフィン系樹脂(A)である場合を除く)とを含有するガラス用コーティング剤であって、変性オレフィン系樹脂(A)が、カルボキシル基を有する変性オレフィン系樹脂(a)を含有することを特徴とするガラス用コーティング剤
【請求項2】
ガラス用コーティング剤全不揮発分中、
変性オレフィン系樹脂(A)が、0.5〜90重量%、
アクリル系樹脂(B)が、0.5〜90重量%、
カルボジイミド系樹脂(C)が、0.5〜90重量%、
ワックス状樹脂(D)が、0.5〜30重量%、
であることを特徴とする請求項1記載のガラス用コーティング剤。
【請求項3】
カルボジイミド系樹脂(C)が、アルキレンオキサイド鎖を有するカルボジイミド系樹脂(c)を含有することを特徴とする請求項1又は2記載のガラス用コーティング剤。
【請求項4】
アルキレンオキサイド鎖を有するカルボジイミド系樹脂(c)が、エチレンオキサイド鎖を有するカルボジイミド系樹脂(c1)を含有することを特徴とする請求項記載のガラス用コーティング剤。
【請求項5】
ワックス状樹脂(D)が、ポリオレフィンワックス(d1)、エステルワックス(d2)およびアミドワックス(d3)からなる群より選択される1種以上のワックスであることを特徴とする請求項1〜いずれか記載のガラス用コーティング剤。
【請求項6】
ガラス基材(X)と、請求項1〜いずれか記載のガラス用コーティング剤からなるコーティング層(Y)とを積層してなるガラス積層体。
【請求項7】
さらに、ガラス基材(X)と、コーティング層(Y)と間に、焼付層(M)を有し、
前記焼付層(M)が、Si、TiおよびSnからなる群より選択される1以上の金属の酸化物を含有することを特徴とする請求項記載のガラス積層体。
【請求項8】
コーティング層(Y)の厚さが、0.01〜30μmであることを特徴とする請求項又は記載のガラス積層体。
【請求項9】
ガラス基材(X)の端面が、曲面または平面形状であることを特徴とする請求項いずれか記載のガラス積層体。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス製品の外面にコーティングし、ガラス製品外面に十分な滑性を付与し、しかも耐磨耗性、耐水性、耐アルカリ性にも優れるコーティング剤、及びこのコーティング剤を外面にコーティングしたガラス積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス容器などのガラス製品は、滑性を付与させる為に、成形直後の高温のガラス容器外面にホットエンドコーティングと言われる金属酸化物(酸化スズ、酸化チタン等)をコーティング(焼付層)し、さらにコールドエンドコーティングと言われるポリエチレン樹脂等のコーティングが行われている。しかし、金属酸化物コーティング皮膜と樹脂コーティング皮膜との密着不足や、樹脂コーティング皮膜の磨耗により、搬送ラインにおけるガイド汚れやガラス容器の滑性低下等更にアルカリ液によるガラス容器を洗浄させると、ポリエチレン樹脂等のコーティング層が剥離し、ガラス容器に再塗工の必要があり、リサクル使用は不可能と問題がある。
【0003】
一方、近年のガラス容器製造ライン、食品メーカー等のガラス容器ユーザーにおける充填ラインの高速化に伴い、ガラス容器に施されたコールドエンドコーティングの磨耗やガラス容器表面からの磨耗・脱落に起因する搬送ラインの汚染の問題が顕在化してきた。
これらの課題を解決するため、ポリエチレンワックスとシランカップリング剤とを含有するコールドエンドコーティング剤の開発も行われており(特許文献1参照)、一定の成果が得られているが、ガラス容器ユーザーでのラインの更なる高速化に伴い、更に磨耗や脱落し難しく、耐アルカリ洗浄性を有するコーティングを可能にするコールドエンドコーティング剤が求められている。
【0004】
従来、コールドエンドコーティング剤以外に、ガラス製品のコーティング剤として、樹脂とシランカップリング剤とを含む組成物が刊行物に記載されている(特許文献2、3)。しかしながら、同記載によれば、それらのコーティング剤によりガラス瓶等の表面にコーティングを施した場合、その表面滑り角は20°以上と大きい、すなわち滑性が悪いことが示されている。また、同文献に記載されたコーティング剤の具体例としては、樹脂としてポリウレタン樹脂エマルジョンまたはメタクリル酸とエチレンとの共重合体(ケミパールS−100(登録商標))を用いたものが記載されるに止まる。
【0005】
また、α−オレフィンと無水マレイン酸との共重合体やその部分エステル体を分散安定剤として含む塗工用吸水性樹脂分散体(特許文献4)や該樹脂からなる顔料分散剤(特許文献5)、該樹脂の水性分散体の存在下、顔料を分散させた水性インキ(特許文献6,7)が知られている。しかし、これらの分散体や分散剤、水性インキは、基材、特にガラス製品に強固に接着したコーティング被膜を形成することを目的としたものではない。
【0006】
特許文献8には、無水マレイン酸/α―オレフィン共重合体と、酸化ポリエチレンと、セルロース又はセルロース誘導体からなるコーティング剤が開示されているが、金属酸化物コーティング被膜と樹脂コーティング被膜の密着不足、樹脂コーティング被膜の耐摩耗性不足により、搬送ラインガイドなどに樹脂が転写・付着し、ガイド汚れ、ガラス容器の滑性低下などを起こすという課題があり、耐アルカリ性溶液の洗浄後のガラス製品のリサイクル性能も記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−241145号公報
【特許文献2】特開昭57−145466号公報
【特許文献3】特開昭57−3869号公報
【特許文献4】特開平4−255704号公報
【特許文献5】特開平1−261474号公報
【特許文献6】特開2004−91519号公報
【特許文献7】特開2002−91520号公報
【特許文献8】特開2012−224824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ガラス製品の外面にコーティングし、ガラス製品外面に十分な滑性を付与し、しかも耐磨耗性、耐水性、耐アルカリ洗浄性にも優れるガラス用コーティング剤を提供することである。本発明の更なる目的は、本発明のガラス用コーティング剤をガラス製品の外面にコーティングすることで、ガラス製品表面の傷付き防止機能を発現し、かつガラス製品表面のコーティングの磨耗・脱落に起因する搬送ライン、特にコンベアガイドの汚染を防止でき、更に、アルカリ性溶液で洗浄しても外面にコーティング層を保つことができることによりリサイクル可能なガラス製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記諸問題点を考慮し解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、変性オレフィン系樹脂(A)と、アクリル系樹脂(B)と、カルボジイミド系樹脂(C)と、ワックス状樹脂(D)(ただし、変性オレフィン系樹脂(A)である場合を除く)とを含有するガラス用コーティング剤に関する。
【0011】
また、本発明は、更に、ガラス用コーティング剤全不揮発分中、変性オレフィン系樹脂(A)が0.5〜90重量%、アクリル系樹脂(B)が0.5〜90重量%、カルボジイミド系樹脂(C)が0.5〜90重量%、ワックス状樹脂(D)が0.5〜30重量%、であることを特徴とする上記ガラス用コーティング剤に関する。
【0012】
また、本発明は、更に、変性オレフィン系樹脂(A)が、カルボキシル基を有する変性オレフィン樹脂(a)を含有することを特徴とする上記ガラス用コーティング剤。
カルボジイミド系樹脂(C)が、アルキレンオキサイド鎖を有するカルボジイミド樹脂(c)を含有することを特徴とする上記ガラス用コーティング剤に関する。
【0013】
また、本発明は、アルキレンオキサイド鎖を有するカルボジイミド系樹脂(c)が、エチレンオキサイド鎖を有するカルボジイミド系樹脂(c1)を含有することを特徴とする上記ガラス用コーティング剤に関する。
【0014】
また、本発明は、ワックス状樹脂(D)が、ポリオレフィンワックス(d1)、エステルワックス(d2)およびアミドワックス(d3)からなる群より選択される1種以上のワックスであることを特徴とする上記ガラス用コーティング剤に関する。
【0015】
また、本発明は、ガラス基材(X)と、上記ガラス用コーティング剤からなるコーティング層(Y)とを積層してなるガラス積層体に関する。
【0016】
また、本発明は、さらに、ガラス基材(X)と、コーティング層(Y)と間に、焼付層(M)を有し、
前記焼付層(M)が、Si、TiおよびSnからなる群より選択される1以上の金属の酸化物を含有することを特徴とする上記ガラス積層体に関する。
【0017】
また、本発明は、ガラス基材(X)の端面が、曲面または平面形状であることを特徴とする上記ガラス積層体に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、ガラス製品外面に十分な滑性を付与し、しかも耐磨耗性、耐水性、耐アルカリ洗浄性にも優れる水性コーティング剤が提供でき、更には、該水性コーティング剤により表面処理を施したガラス製品は、その製造ラインやユーザーサイド(食品工場等)でコンベアガイド等の搬送ラインを汚染することがないこと及びアルカリ性溶液で洗浄してもコーティング層も保つことができ、リサイクル可能な特徴を有する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のガラス用コーティング剤は、変性オレフィン系樹脂(A)と、アクリル系樹脂(B)と、カルボジイミド系樹脂(C)と、ワックス状樹脂(D)とを含有する含有したものである。本発明のガラス用コーティング剤は、変性オレフィン系樹脂(A)と、アクリル系樹脂(B)と、カルボジイミド系樹脂(C)と、ワックス状樹脂(D)とを必須として含有することにより、コーティング剤として使用した場合には、ガラス製品外面に十分な滑性を付与することで、傷付き防止機能等の耐擦傷性、更には耐水性、耐アルカリ洗浄性にも優れるコーティング層を形成することが可能となる。また、ガラスへの高密着性を維持するため、コーティング後の磨耗・脱落に起因する耐磨耗性が良好となり、搬送ライン、特にコンベアガイドの汚染を防止し、更にアルカリ性溶液で洗浄してもコーティング層も保つことができ、ガラス積層体のリサイクル可能となる。
【0020】
また、本発明のガラス積層体とは、板ガラス、ガラス瓶、ガラス製の食器や花瓶等、ガラスを原料としたガラス製品の全てを含む。
【0021】
以下、ガラス用コーティング剤の構成成分について具体的に説明する。
<変性オレフィン系樹脂(A)>
本発明の変性オレフィン系樹脂(A)は、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂を変性したものが用いられる。例えば、ポリオレフィン樹脂を、官能基を含有する化合物で変性してなるものが挙げられる。また、αオレフィンと、ビニル基と官能基とを含有化合物とで共重合したものが挙げられる。
【0022】
本発明の変性オレフィン系樹脂(A)のうち、カルボキシル基を有する変性オレフィン樹脂(a)は、炭化水素を主鎖としてなり、その構造中の少なくとも一部にポリオレフィン構造を有し、側鎖、あるいは末端にカルボキシル基を有する樹脂であり、ポリオレフィン樹脂を、後からカルボキシル基含有化合物で変性して得られた樹脂(a1)あるいはαオレフィンとカルボキシル基含有化合物とを共重合した樹脂(a2)である。
【0023】
樹脂(a1)に用いられるポリオレフィン樹脂としては、プロピレンホモポリマー、プロピレン−エチレンブロック共重合体樹脂、プロピレン−エチレンランダム共重合体樹脂、プロピレン−αオレフィンブロック共重合体樹脂、プロピレン−αオレフィンランダム共重合体樹脂、プロピレン−ブテンブロック共重合体樹脂、プロピレン−ブテンランダム共重合体樹脂、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−シクロオレフィン共重合体等が挙げられる。
【0024】
樹脂(a2)に用いられるαオレフィンとしては、より具体的に、例えば、エチレンやプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−エイコセン等のαオレフィンやその単独や共重合体類;例えば、シクロペンテン、シクロオクテン、3−メチルシクロペンテン、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、2−テトラシクロドデセン、5−アセチル−2−ノルボルネン、8−メトキシカルボニル−2−テトラシクロドデセン等のシクロオレフィンやその単独や共重合体類が挙げられる。
【0025】
カルボキシル基含有化合物で変性して得られた樹脂(a1)とαオレフィンとカルボキシル基含有化合物とで共重合した樹脂(a2)に大別され、前者は酸価が低く、後者は酸価が高いのが特徴である。
【0026】
上記オレフィンモノマーに加えて、イソプレン、クロロプレンおよびブタジエン等のジエン系モノマーや、スチレン、アクリロニトリル等を共重合してもよい。
【0027】
樹脂(a)を構成するカルボキシル基含有化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸が工業的に有利であり、本発明では生産性の点でマレイン酸もしくはマレイン酸誘導体であることが特に好ましい。
【0028】
本発明でカルボキシル基を有する変性オレフィン樹脂(a)のうち、水性分散体(a―1―a)は、カルボキシル基含有ポリオレフィン樹脂(a−1)をアンモニアやアルカリ金属等を含有し、必要に応じて、後述の界面活性剤(S)を加えて水に分散した水性分散体である(a―1―a)。水性分散体の不揮発成分は10〜70重量%であることが好ましい。不揮発成分が10重量%以上であると、カルボキシル基を有する変性オレフィン系樹脂(a)の分散粒子がコーティングした際に、隙間無く融着しやすくなるため、均一なコーティング層を形成することが可能となる。70%重量以下であると、コーティングに最適な粘度を確保することが可能となる。
【0029】
また、水性分散体(a―1―a)に含有される樹脂(a)の平均粒子径は0.01〜5.0μmの範囲であることが好ましい。平均粒子径が0.01μm以上であると、コーティング剤として使用した場合に、コーティング層が均一となり、十分な滑性を付与することが可能となる。また、5.0μm以下であると、分散安定化が図られ、水分散体を長期保存しても問題無く使用が可能となる。
【0030】
カルボキシル基を有する変性オレフィン系樹脂(a)は、極性基であるカルボキシル基を多く持つので、ガラス面及びガラス面に施した金属酸化物膜との密着性が良くなる。また、樹脂(a)は融点が低いので、ガラス容器のコーティング剤として使用した際にコールドエンド(徐冷炉の出口付近)におけるガラス温度でも融解しやすく、ガラス面またはガラス面に施された酸化金属膜上に広い接着面積で熱融着する。このため、樹脂(a)被膜は剥がれ難く、搬送ラインのガイドを汚したり滑性低下を防止する効果を有する。
【0031】
さらに、カルボキシル基を有する変性オレフィン系樹脂(a)は、本発明において、後述のカルボジイミド系樹脂(C)のバインダー樹脂として働き得る。すなわち、加熱によりカルボキシル基を有する変性オレフィン系樹脂(a)のカルボキシル基がカルボジイミド系樹脂(C)中の複数のカルボジイミド基と付加反応することによりウレア結合を生成し、ガラス表面に対する密着性に優れた高密度な架橋膜が形成することができる。つまり、カルボキシル基を有する変性オレフィン系樹脂(a)とカルボジイミド系樹脂(C)との反応によって、耐アルカリ性が向上することができる。
【0032】
なお、樹脂(a)の酸変性率は10重量%以上が望ましい。また、酸価が、5〜500mgKOH/gであることが好ましく、10〜300mgKOH/gの範囲が特に好ましい。酸価が5mgKOH/g以上であると、ガラス面またはガラス面に施された金属膜に対して、密着性が向上するだけで無く、平均粒子径も小さくすることが可能となり、より平滑な塗膜を作成することが可能となり、また、500mgKOH/g以下であると、耐水性が低下しないため好ましい。
【0033】
樹脂(a)は、融点100℃以上で針入度3以下の高融点、高密度であることが望ましい。融点が100℃以上であると、本発明の水性分散体樹脂組成物をガラス容器のコーティング剤として使用した際、コールドエンドでのコーティングで溶融しにくくなり微粒子としてコーティング被膜中に存在し、針入度3以下の高密度であることによって滑性が向上し、耐摩耗性が付与される。樹脂(a)の融点の上限について制限はないが、通常の樹脂(a)の融点は140℃以下である。
【0034】
ここで、針入度とは、JIS K2207、及びK2235に規定されている硬さを表す指標で有り、温度、荷重、及び時間の三つの項目が重要で有り、一般的には、温度25℃、荷重100g、時間5秒にてが示されている。工業用の硬質の樹脂は、40以下である。
【0035】
本発明における樹脂(a)の重量平均分子量は500〜500,000の範囲であり、特に1,000〜200,000が好ましい。平均分子量が500未満では、コーティング剤として使用した際、ガラス面への密着強度等の諸物性を低下させるだけでなく、コーティング層の耐殺傷性が低下してしまう。重量平均分子量が500,000を超えると、後述の水性分散体(c―1−c)と相溶し難くなり、またコーティング時あるいは成膜時の溶融剪断力の大きさによって、ガラス面への密着性が変化するため、一定の耐久性を得るのが非常に難しくなる。
【0036】
変性オレフィン系樹脂(A)の水性分散体(a―1―a)の製造法について:
変性オレフィン系樹脂(A)と後述のアニオン型界面活性剤とを溶融混練して混練物を得る第1の混練工程の温度が融点以上であり、前記混練物に、後述の塩基性物質と水とを添加し、溶融混練する第2の混練工程の温度が融点以下であり、水の添加量が変性オレフィン系樹脂(A)100重量部に対して10〜70 重量部であることを特徴とする変性オレフィン系樹脂(A)の水性分散体(a―1―a)を得ることができる。
【0037】
水性分散体(a―1―a)を製造する方法としては、特開2004−115712号公報に記載されているようなポリオレフィン共重合体を重合する工程と、該ポリオレフィン共重合体に不飽和カルボン酸または不飽和カルボン酸無水物をグラフトする変性工程とを有する方法が好ましい。
【0038】
ポリオレフィン共重合体の組成は、重合工程時のオレフィンモノマーの供給量を適宜変更することにより調節できる。また、重量平均分子量と融点の調整方法としては、重合時に水素ガスを使用して制御する方法、モノマー濃度を制御する方法、重合温度を制御する方法等が挙げられる。
【0039】
変性工程では、ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物、アゾニトリルから適宜選択して使用できる。有機過酸化物としては、ジ( t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサンなどのパーオキシケタール類、クメンヒドロキシパーオキシドなどのハイドロパーオキシド類、ジ(t−ブチル)パーオキシドなどのジアルキルパーオキサイド類、ベンゾイルパーオキシドなどのジアシルパーオキサイド類が挙げられる。アゾニトリルとしては、アゾイソブチロニトリル、アゾイソプロピロニトリル等が挙げられる。これらラジカル重合開始剤は1 種を単独で用いても構わないし、2種以上を組み合わせてもよい。ラジカル重合開始剤の添加量は、前駆体のポリオレフィン系重合体100重量部に対して0.1〜10重量部であることが好ましい。
【0040】
グラフト反応させる方法は、変性オレフィン系樹脂(A)を製造できれば、いかなる方法であってもよい。例えば、無溶媒で溶融加熱攪拌して反応させる方法、押出機で加熱混練して反応させる方法等が挙げられる。それらの中でも押出機を用いてグラフト重合する方法は溶媒を使用する必要がなく、溶媒留去工程が不要であり、さらにグラフト重合工程に時間を有しないためエネルギー的に有利な点で好適である。
【0041】
塩基性物質は、変性オレフィン系樹脂(A)と未中和のアニオン型界面活性剤を中和するために必要とされる。塩基性物質としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニア、およびアミン等の水中で塩基として作用する物質、アルカリ金属の酸化物、水酸化物、弱塩基、水素化物、アルカリ土類金属の酸化物、水酸化物、弱塩基、水素化物等の水中で塩基として作用する物質、これらの金属のアルコキシド等を挙げることができる。中でも、貯蔵安定性の点から、水酸化カリウムが好ましい。塩基性物質の量は、水性分散体の貯蔵安定性の点から、変性オレフィン系樹脂(A)およびアニオン型界面活性剤に由来する酸を中和するのに必要な量に対して1〜2モル倍量であることが好ましく、1.2 〜1.8モル倍量であることがより好ましい。
【0042】
本発明の変性オレフィン系樹脂(A)の水性分散体(a―1―a)の製造は、加熱可能なバレル内に2本のスクリューが配備された二軸押出機と、該二軸押出機の先端側に設けられた冷却手段と、二軸押出機のバレル先端および冷却手段を接続する流路とを具備し、流路の一部が連結管からなる製造装置を用いる。冷却手段としては、例えば、ジャケット付きスタティックミキサーを用いて、得られた水性分散体を80 ℃以下まで冷却することが好ましい。なお、冷却手段としては、ジャケット付きスタティックミキサーの他には、単軸または多軸の押出機を使用することもできる。
【0043】
前記二軸押出機は二軸押出機根元にある材料投入口( 以下、「投入口」と示す)から二軸押出機中間部( 以下、「中間部」と示す) までに変性オレフィン系樹脂(A)とアニオン型界面活性剤とを溶融混練して混練物を得る第1の混練工程と、中間部から二軸押出機先端側( 以下「先端側」と示す) に前記混練物に対して二軸押出機の中間部に設けた水溶液供給口より塩基性物質と水とを添加し、溶融混練する第2の混練工程とを有する。第1の混練工程においては、加熱温度を第1の変性オレフィン系樹脂(A)の融点以上とし、第2 の混練工程においては、加熱温度を変性オレフィン系樹脂(A)の融点以下とする。
【0044】
第1の混練工程の加熱温度( 以下、「バレル前半温度」という。) が変性オレフィン系樹脂(A)の融点未満であると、製造時の安定性が低下し、粒子径が大きく、未乳化物量が多くなる。第2 の混練工程の加熱温度( 以下、「バレル後半温度」という。) が変性オレフィン系樹脂(A)の融点を超えると、得られた水性分散体の粘度が上昇する。
【0045】
第1の混練工程でのアニオン型界面活性剤の添加量は、変性オレフィン系樹脂(A)100 重量部に対して1〜45重量部であることが好ましく、15 〜40重量部であることがより好ましい。
【0046】
第2の混練工程での塩基性物質の添加量は、水性分散体の貯蔵安定性の点から、変性オレフィン系樹脂(A)およびアニオン型界面活性剤に由来する酸を中和するのに必要な量に対して1〜2倍量であることが好ましく、1 .2〜1 .8倍量であることがより好ましい。塩基性物質は混練物に直接添加してもよいが、5 〜4 0 重量% 程度の水溶液の形態で添加するのが好ましい。
【0047】
<アクリル系樹脂(B)>
アクリル系樹脂(B)は後述の界面活性剤(S)を加えて水に分散した水性分散体(b―1―b)として使用される。下記(イ)〜(二)に本発明で使用される水性分散体(b―1―b)についてより具体的に述べる。
(イ)水溶性アクリル樹脂
カルボキシル基含有ビニルモノマー(M−1)、水酸基含有ビニルモノマー(M−2)及びその他のビニルモノマー(M−3)を共重合して得られる酸価約20〜約150、水酸基価約20〜約200、数平均分子量約3,000〜約100,000のアクリル樹脂の中和物が挙げられる。カルボキシル基含有ビニルモノマー(M−1)、は1分子中に1個以上のカルボキシル基と1個の重合性不飽和結合とを有する化合物で、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等が挙げられる。水酸基含有ビニルモノマー(M−2)は、1分子中に水酸基と重合性不飽和結合とをそれぞれ1個有する化合物であり、この水酸基は主として架橋剤と反応する官能基として作用するものである。該モノマーとしては、具体的には、アクリル酸もしくはメタクリル酸と炭素数2〜10個の2価アルコールとのモノエステル化物が好適であり、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート等を挙げることができる。その他のビニルモノマー(M−3)としては、上記両モノマー(M−1)、(M−2)以外であって、1分子中に1個の重合性不飽和結合を有する化合物で、その具体例を以下(1)〜(8)に列挙する。
(1)アクリル酸もしくはメタクリル酸と炭素数1〜20の1価アルコールとのモノエステル化物:例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート等。
(2)芳香族系ビニルモノマー:例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等。
(3)グリシジル基含有ビニルモノマー:1分子中にグリシジル基と重合性不飽和結合とをそれぞれ1個有する化合物で、具体的には、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等。
(4)含窒素アルキル(炭素数1〜20)アクリレート:例えばジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等。
(5)重合性不飽和結合含有アミド系化合物:例えば、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルプロピルアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等。
(6)脂肪族ビニル化合物:例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル等。
(7)重合性不飽和結合含有ニトリル系化合物:例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等。
(8)ジエン系化合物:例えばブタジエン、イソプレン等。
【0048】
これらのその他のビニルモノマー(M−3)は、1種もしくは2種以上を用いることができる。
上記ビニルモノマーの共重合反応は既知の方法で行なうことができ、酸価が約20未満ならば水に溶解し難く、約150を越える場合には残存カルボキシル基の影響で塗膜性能が低下することがある。かくして得られるアクリル樹脂は後記第1級及び/又は第2級モノアミンで中和することによって水溶解にすることが好ましい。
【0049】
(ロ)水分散性アクリル樹脂−1
ビニルモノマーを界面活性剤のような分散安定剤の存在下で乳化重合せしめることによって得られる平均粒子径0・05〜1・0μmの微粒子状アクリル樹脂で、水中に分散してなる。乳化重合せしめるビニルモノマーは前記モノマー(M―1)、モノマー(M―2)及びモノマー(M―3)から選ばれたものが好ましく、更に必要に応じて重合性不飽和結合を1分子中に2個以上有するビニル化合物(M−4)を少量併用すると粒子内架橋した水分散性アクリル樹脂が得られ、塗膜性能が更に向上するので好ましい。
【0050】
該ビニル化合物(M−4)としては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジメチクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリアクリレート等が挙げられ、各化合物において、それぞれに含まれる2個以上の不飽和結合の反応性が大差ないことが好ましく、ここでは前記ジエン系化合物は含まれない。ここで製造される水分散性アクリル樹脂も後記第1級及び/又は第2級モノアミンで中和することが好ましい。
【0051】
(ハ)水分散性アクリル樹脂−2
水中に分散しているアクリル樹脂微粒子が安定剤ポリマーによって安定化されている水分散体であり、これは、該粒子をコア部、安定剤ポリマーをシェル部であるコア/シェルタイプのエマルジョンである。具体的には、最初にカルボキシル基含有ビニルモノマー(M−1)を全くもしくは殆ど含有しないビニルモノマー成分を乳化重合し、その後、カルボキシル基含有ビニルモノマー(M−1)を多量に含んだビニルモノマー成分を加えて乳化重合することによって得られ、このものは後記第1級及び/又は第2級モノアミンを用いて中和することによって増粘するので塗工作業性の面から好ましいものである。
【0052】
(ニ)水分散性アクリル樹脂−3
重合体粒子(コア部)が架橋しており、これを安定化させるポリマー(シェル部)があり、該コアとシェル部とが化学的に結合してなるコア/シェルタイプのエマルジョンである。
【0053】
コア部とシェル部との結合方法は特に、コア部の表面に加水分解性官能基又はシラノール基を有せしめ、次いでこれらの基に重合性不飽和結合を導入し、そして該不飽和結合にカルボキシル基含有ビニルモノマー(M−1)を含むビニルモノマー成分を共重合した(シェル部が形成される)後、該シェル部のカルボキシル基を中和することによって得たものが好ましい。このものは、スプレー塗工中における揺変性(チクソトロピック性)であるために高湿度下でも塗膜がタレることは殆んどない。有機溶剤を配合しても何ら異常が認められない、平滑性、光沢、耐水性、耐アルカリ性並びに付着性等が優れている等の特徴を有している。このコア/シェルタイプのエマルジョンは次の工程(I)〜(III)によって得られる。
【0054】
(I):加水分解性官能基及び/又はシラノール基並びに重合性不飽和結合を有するシラン系モノマー(以下、「シラン系モノマー」と略称する)(M−5)、水酸基含有ビニルモノマー(M−2)及びこれ以外のビニルモノマー(M−6)を水性媒体中で反応せしめ、三次元に架橋反応してなる微粒子状ポリガーが水中に分散してなるエマルジョンを製造する。この微粒子がコア部を形成する。
【0055】
(II):上記エマルジョン中の微粒子状ポリマーに、シラン系モノマー(M−5)及び/又はアリル(メタ)アクリレート(M−7)を反応させる。(II)において、シラン系モノマー(M−5)は微粒子ポリマー表面の官能基と縮合反応し、またアリル(メタ)アクリレート(M−7)は該微粒子状ポリマー中に残存する未反応の重合性不飽和結合と共重合するものと思われ、これらのいずれの方法によっても該微粒子状ポリマー表面に重合性不飽和結合を導入することができる。
【0056】
(III):上記(II)の反応後のエマルジョン中で、カルボキシル基含有ビニルモノマー(M−1)を含むビニルモノマー成分(M−8)を共重合し、更に該カルボキシル基を中和する。この中和した共重合体が上記微粒子状ポリマーを分散安定化するための安定化ポリマーであり、シェル部に相当する。(III)では、ビニルモノマー成分(M−8)が上記(II)の反応後の微粒子状ポリマー表面のシラン系モノマー(M−5)及び/又はアリル(メタ)アクリレート(M−7)に由来する重合性不飽和結合と共重合する。
【0057】
工程(I)でもちいるシラン系モノマー(M−5)は、1分子中に加水分解性官能基及び/又はシラノール基を3個と重合性不飽和結合を1個有する残基1個とがSiに結合してなる化合物であり、主として内部架橋によりコア部を形成する機能を有するものである。
一般式(R13−Si−X
(R1は炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数3〜15のアルコキシアルコキシ基及び炭素数1〜12のアルカノイルオキシ基等の加水分解性官能基及び/又はシラノール基である。
Xは重合性不飽和結合を有する残基であり、例えば、CH2=CH−、下記化1で示されるものである。)
【0058】
【化1】
【0059】
(R2はH又はCH3、nは2〜10の整数である。)
シラン系モノマー(M−5)としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アクリロキシエチルトリメトキシシラン、メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン等が挙げられ、これらのうち特に好ましいシラン系モノマーとしてはビニルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0060】
工程(I)における水酸基含有ビニルモノマー(M−2)は前記したものが使用でき、「これ以外のビニルモノマー(M−6)」は前記モノマー(M−1)〜(M−5)から(M−5)及び(M−2)を除いたものである。
【0061】
工程(I)におけるシラン系モノマー(M−5)と水酸基含有ビニルモノマー(M−2)とこれ以外のビニルモノマー(M−6)とを水性媒体中で共重合せしめて三次元に架橋反応してなる微粒子ポリマーを得る方法は、例えば、それ自体既に公知の次に列挙する(i)〜(iii)の乳化重合方法によって行なうことができる。
(i)上記モノマーの混合物を、水に界面活性剤を配合してなる撹拌中の水性媒体中に不活性ガス雰囲気下で徐々に滴下しながら所定温度で共重合を行なわしめる。
(ii)上記モノマーの混合物を予め水性媒体中で乳化しておき、これを撹拌中の水中に徐々に滴下しながら所定の温度で共重合せしめる。
(iii)上記いずれも、少量のモノマー(混合物、単独のいずれでも差し支えない)を取出して予めシード重合しておき、次いで、上記(i)、(ii)の方法に準じて乳化重合してもよい。このうち、(iii)が粒径を小さくでき、塗工中におけるタレ抵抗性、平滑性等を向上させる点から好適である。これらの乳化重合はいずれもラジカル重合開始剤の存在下で行なうことが好ましい。
【0062】
ここで、工程(I)及び(III)で用いる各種モノマーの構成比率について説明する。工程(I)の全モノマーと工程(III)の全モノマーとの構成比は、両モノマーの合計重量に基づいて、工程(I)の全モノマーは30〜95重量%、特に60〜90重量%が、工程(III)の全モノマーは70〜5重量%、特に40〜10重量%がそれぞれ好ましい。また、工程(I)の全モノマーはシラン系モノマー(M−5)と水酸基含有ビニルモノマー(M−2)とこれ以外のビニルモノマー(M−6)とからなっており、これらのモノマーの合計重量に基づいて、シラン系モノマー(M−5)が0.5〜20重量%、特に1〜10重量%、水酸基含有ビニルモノマー(M−2)が1〜30重量%、特に2〜20重量%、これ以外のビニルモノマー(M−6)が98.5〜50重量%、特に97〜70重量%がそれぞれ好ましい。更に、工程(III)の全モノマーはカルボキシル基含有ビニルモノマー(M−1)を含むビニルモノマー成分(M−8)からなっており、モノマー(M−1)はモノマー成分(M−8)中1〜50重量%、特に3〜30重量%が好ましい。モノマー成分(M−8)は、モノマー(M−1)に、水酸基含有ビニルモノマー(M−2)や前記モノマー(M−3)で例示した1)〜3)のモノマーから選ばれた1種以上を併用してなっている。このうち、モノマー(M−2)の含有率はモノマー成分(M−8)中30重量%以下、特に25重量%以下が好ましい。
【0063】
また、モノマー成分(M−8)にはシラン系モノマー(M−5)や多ビニル化合物(M−4)を併用することもでき、その使用量はモノマー成分(M−8)に対し10重量%以下が適している。
【0064】
工程(I)によって得られるエマルジョンの該微粒子状ポリマーは主として重合性不飽和結合による炭素−炭素結合とシラン系モノマー(M−5)による−Si−O−Si−結合との両者によって三次元に架橋反応しているもの推察される。そして、この微粒子ポリマーの表面には、上記シラン系モノマー(M−5)に基づく加水分解性官能基及び/又はシラノール基が未反応の状態で結合しているものと思われる。更に、その表面にはモノマー(M−2)に基づく水酸基も存在する。工程(I)で得られる微粒子状ポリマーの粒子径は界面活性剤等の種類、量、重合方法によって異なるが、10〜500nm、特に30〜300nmが好ましい。
【0065】
工程(II)は、該微粒子状ポリマーの表面に重合性不飽和結合を導入するためのものである。工程(II)で得られる重合性不飽和結合を導入した微粒子状ポリマーを、以下「不飽和微粒子状ポリマー」と略称する。

工程(II)における微粒子状ポリマーとシランモノマー(M−5)との比率は、特に制限されないが、工程(I)で用いたシラン系モノマー(M−5)1モル当り、工程(II)で用いるシラン系モノマー(M−5)が0.5〜2モル(通常前者100重量部当り後者50〜200重量部)の範囲が好ましい。
【0066】
モノマー(M−5)とモノマー(M−7)とを併用することが好ましく、これらの微粒子状ポリマーとの構成比率はそれぞれ上記したものが適用できる。
【0067】
工程(III)は、工程(II)で得られた不飽和微粒子状ポリマーに、カルボキシル基を有するビニルモノマー(M−1)を含有するビニルモノマー成分(M−8)を共重合し、次いで、該カルボキシル基を中和してシェル部を形成する工程である。
【0068】
この工程は、工程(II)の不飽和微粒子状ポリマー(コア部に相当)にビニルモノマー成分(M−8)による主として線状の共重合ポリマー(シェル部に相当)を化学的に結合させるためのもののである。
【0069】
工程(III)では、不飽和微粒子状ポリマーにビニルモノマー成分を共重合してシェル部を形成し、更に該シェル部中のカルボキシル基を中和することも含まれる。中和剤としては、後記第1級もしくは第2級アミンを用いることが好ましい。
本発明では、上記基体樹脂のうち、この水分散性アクリル樹脂−3が最適である。
【0070】
<カルボジイミド系樹脂(C)>
本発明のカルボジイミド系樹脂(C)は、アルキレンオキサイド鎖を有する親水性のカルボジイミド系樹脂(c)が使用され、アルキレンオキサイド鎖がエチレンオキサイド鎖である水性分散可能なカルボジイミド系樹脂(c−1)より好ましく使用される。エチレンオキサイド鎖を有するカルボジイミド系樹脂(c−1)は、必要に応じて、後述の界面活性剤(S)を加えて水に分散した水性分散体(c―1―c)として使用される。水性分散体(c―1―c)の不揮発成分は1〜70重量%であることが好ましい。不揮発成分が1重量%以上であると、カルボジイミド系樹脂(C)の分散粒子がコーティングした際に、隙間無く融着しやすくなるため、均一なコーティング層を形成することが可能となる。70重量%以下であると、コーティングに最適な粘度を確保することが可能となる。
【0071】
本発明のカルボジイミド系樹脂(C)は、コーティング剤として使用した場合には、前述のカルボキシル基を有する変性オレフィン(A)、ワックス状樹脂(D)やその他の化合物に含有されているカルボキシル基、水酸基等の活性水素と反応するため、コーティング層を形成した場合には、粒子間架橋に伴って塗膜の凝集力が向上する架橋剤として機能する。カルボジイミド系樹脂(C)としては、分子内にカルボジイミド基、即ち、−N=C=N−を少なくとも一つを有し、中でもカルボジイミド基を分子内に1〜15個有する化合物が好ましい。係るカルボジイミド基を有するカルボジイミド系樹脂(C)を得る方法の一つとして、有機溶媒中で触媒の存在下に、後述のポリイソシアネート類(Q)を100〜200℃で脱二酸化炭素する方法がある。100℃以下では反応に長時間要し、200℃以上では副反応が起こりやすい。かかる反応は、窒素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0072】
カルボジイミド化反応に用いられる触媒としては、上述の触媒が使用可能である。特に、ホスホレン、ホスホレンオキサイド類が上げられる。具体的には、1−エチル−3−メチル−3ホスホレンオキサイド、1−フェニル−3−メチル−3−ホスホレンオキサイド、1−フェニル−3−メチル−2−ホスホレンオキサイド等の有機金属系化合物が挙げられる。カルボジイミド化反応の際に用いられる有機溶媒としては沸点が高く、又原料であるポリイソシアネート類(Q)、及び生成するカルボジイミド系樹脂(C)と反応するような活性水素を持たないことが必要である。例を挙げると、トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン等の芳香族炭化水素;ジエチレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールジブチレート、ヘキシレングリコールジアセテート、グリコールジアセテート、メチルグリコールアセテート、エチルグリコールアセテート、ブチルグリコールアセテート、エチルジグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート等のグリコールエーテルエステル類;エチルブチルケトン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸アルミ、プロピオン酸プロピル、酪酸エチル等の脂肪族エステル等がある。カルボジイミド基の生成は、2260cm-1のイソシアネ−ト基の吸収ピ−クの消失、及びカルボジイミド基の吸収ピ−クの生成によって確認できる。
【0073】
カルボジイミド系樹脂(C)は、前記の基本的な方法の他、例えば米国特許第2,941,956号、特公昭47−33279号公報、特開平5−178954、特開平7−330849号公報等に開示されている方法、J.Org.Chem.,28,2069(1963)、Chem.、Review81,619(1981)に記載されている方法で行うことができる。また、最近では特開平5−178954号公報、特開平6−56950号公報等に開示されている様に無溶媒下でも行うことができる。
カルボジイミド系樹脂(C)の市販品としては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を原料としたモノカルボジイミドとしてルプラネートMM−103、XTB−3003(BASF社製)、スタバクゾールP(住友バイエルウレタン社製)、テトラメチルキシリレンジイソシアネートを原料としたポリカルボジイミドとしてカルボジライトV−03、V−05等(日清紡社製)等が挙げられる。尚、これらのカルボジイミド系樹脂(C)は、−N=C=N−の他に原料たるポリイソシアネート類(Q)に由来するイソシアネート基を分子中に少なくとも1つ有する場合がある。
本発明にけるカルボジイミド系樹脂(C)溶液を水性分散体とする方法としては、上記同様、カルボジイミド系樹脂(C)にも水性化能を持たせることが考えられる。具体的には下記の方法が挙げられる。
【0074】
(方法C1)両末端にイソシアネート基を有するポリカルボジイミドを形成し、そのイソシアネート基にポリエチレングリコール等のポリエーテルポリオール(p1)を反応させる方法。
【0075】
(方法C2)両末端にイソシアネート基を有するポリカルボジイミドや(方法C1)で得られたアルキレンオキサイド基を有するカルボジイミド系樹脂(c)に、N−アルキルアミノスルホン酸塩を反応させる方法。
【0076】
(方法C3)上述の界面活性剤(S)を添加配合する方法。
これら(方法C1)〜(方法C3)のいずれかを単独で、あるいは組み合わせた工程後、有機溶剤を減圧化にて水と共沸して除去し、水性分散体(c―1―c)を得ることができる。なお、水性化にあたっては上述した撹拌乳化混合器を用いて、高剪断力下による強制分散を行うことが好ましい。
【0077】
また、本発明のカルボジイミド系樹脂(C)の水性分散体(c―1―c)に、含有されるカルボジイミド系樹脂(C)の平均粒子径は0.01〜30.0μmの範囲であることが好ましい。平均粒子径が0.01μm以上であると、コーティング剤として使用した場合には、コーティング層が均一となり、十分な架橋反応性付与することが可能となるため、コーティング層の耐水性、耐擦傷性を維持することが可能となる。また、30.0μm以下であると、分散安定化が図られ、水分散体を長期保存しても問題無く使用が可能となる。
カルボジイミド系樹脂(C)の水性分散体(c―1―c)の市販品としては、例えば、水添ジフェニルメタンジイソシアネート(水添MDI)を原料としたカルボジライトE−02、V−02−L2、E−03A等(日清紡社製)等が挙げられる。
【0078】
カルボジイミド系樹脂(C)を合成させる際、必要な原料であるポリイソシアネート類(Q)としては、従来公知のものを使用することができ、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート等が挙げられる。
【0079】
ポリイソシアネート類(Q)のうち、芳香族ポリイソシアネートとしては、より具体的に、例えば、1,3−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(別名:4,4’−MDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(別名:2,4−TDI)、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−トルイジンジイソシアネート、2,4,6−トリイソシアネートトルエン、1,3,5−トリイソシアネートベンゼン、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’,4”−トリフェニルメタントリイソシアネート等を挙げることができる。
脂肪族ポリイソシアネートとしては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(別名:HMDI)、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等を挙げることができる。
芳香脂肪族ポリイソシアネートとしては、2,4−ジイソシアネート−1−メチル−ベンゼン(別名:2,4−TDI)、2,6−ジイソシアネート−1−メチル−ベンゼン(別名:2,6−TDI)、1,3−フェニレンビスメチレンジイソシアナート(別名:m−XDI)、1,4−フェニレンビスメチレンジイソシアナート(別名:p−XDI)、2,2'−ジフェニルメタンジイソシアネート(別名:2,2−MDI)、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート(別名:4,4−MDI)、1,3−ナフタレンジイルジイソシアネート(別名:1,3−NDI)、1,5−ナフタレンジイルジイソシアネート(別名:1,5−NDI)等を挙げることができる。
【0080】
脂環族ポリイソシアネートとしては、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(別名:IPDI)、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(別名:水添MDI)、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ノルボルネンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0081】
また、ポリイソシアネート類(Q)成分の一部として、上記、ポリイソシアネートの2−メチルペンタン−2,4−ジオールやトリメチロールプロパン等のポリオールとのアダクト体、イソシアヌレート環を有する3量体等も併用することができる。ポリフェニルメタンポリイソシアネート(別名:PAPI)、及びこれらのポリイソシアネート変性物等を使用し得る。なおポリイソシアネート変性物としては、カルボジイミド基、ウレトジオン基、ウレトンイミン基、水と反応したビュレット基、イソシアヌレート基のいずれかの基、又はこれらの基の2種以上を有する変性物を使用できる。ポリオールとジイソシアネートの反応物も少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物として使用することができる。
【0082】
本発明に用いられるポリイソシアネート類(Q)としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等の無黄変型、又は難黄変型のポリイシソアネート化合物を用いると耐候性の点から好ましい。更に、上記記載のポリイソシアネート類(Q)として、樹脂組成物の透明性や反応性の制御の面でイソホロンジイソシアネート(別名:IPDI)を使用するのが好ましい。
界面活性剤(S)は、極性物質と非極性物質を均一に混合させる働きを持つもので有り、本発明では変性オレフィン系樹脂(A)をはじめ、アクリル系樹脂(B)、カルボジイミド系樹脂(C)、ワックス状樹脂(D)を水媒体に安定分散させる機能を有する化合物である。このような界面活性剤(S)としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、及び両性界面活性剤が挙げられる。
【0083】
アニオン系界面活性剤としては、より具体的に、オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩類、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩類、ポリエキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類、モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウムなどのアルキルスルホコハク酸エステル塩およびその誘導体類、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩類等の非反応性のアニオン系界面活性剤類;
アルキルエーテル系(市販品としては、第一工業製薬株式会社製アクアロンKH−05、株式会社ADEKA製アデカリアソープSR−10N、花王株式会社製ラテムルPD−104など)、スルフォコハク酸エステル系(市販品としては、花王株式会社製ラテムルS−120、三洋化成株式会社製エレミノールJS−2など)、アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、第一工業製薬株式会社製アクアロンH−2855A、株式会社ADEKA製アデカリアソープSDX−222など)、(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、日本乳化剤株式会社製アントックスMS−60、三洋化成工業株式会社製エレミノールRS−30など)、リン酸エステル系(市販品としては、第一工業製薬株式会社製H−3330PL、株式会社ADEKA製アデカリアソープPP−70など)等の反応性のアニオン系界面活性剤類等が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、より具体的に、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタンモノラウレートなどのソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどのポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンモノラウレートなどのポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類、オレイン酸モノグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル等の非反応性のノニオン系界面活性剤類;例えば、アルキルエーテル系(市販品としては、株式会社ADEKA製アデカリアソープER−10、花王株式会社製ラテムルPD−420など)、アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては第一工業製薬株式会社製アクアロンRN−10、株式会社ADEKA製アデカリアソープNE−10など)、(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、日本乳化剤株式会社製RMA−564など)等の反応性のノニオン系界面活性剤類等が挙げられる。
【0084】
カチオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルイミダゾリウム塩等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド、ホスファジルコリン等が挙げられ、1種だけを用いてもよいし、あるいは、複数種を併用してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0085】
<ワックス状樹脂(D)>
次にワックス状樹脂(D)について説明する。
本発明のワックス状樹脂(D)をコーティング剤に含んで使用した場合には、形成した塗膜の潤滑性、傷つき防止性、付着防止性、撥水性、離型性等の機能を付与することが可能である。ワックス状樹脂(D)は、水性分散体(d−1−d)として使用され、その不揮発成分は1〜70重量%であることが好ましい。不揮発成分が1重量%以上であると、ワックス状樹脂(D)の分散粒子がコーティングした際に、隙間無く融着しやすくなるため、均一なコーティング層を形成することが可能となる。70重量%以下であると、コーティングに最適な粘度を確保することが可能となる。
【0086】
また、水性分散体(d−1−d)に、含有されるワックス状樹脂(D)の平均粒子径は0.01〜30.0μmの範囲であることが好ましい。平均粒子径が0.01μm以上であると、コーティング剤として使用した場合には、コーティング層が均一となり、表層に点在して十分な滑性を付与することが可能となる。また、30.0μm以下であると、分散安定化が図られ、水性分散体を長期保存しても問題無く使用が可能となる。
【0087】
ワックス状樹脂(D)は、JIS K7210に準じてMFR測定が不可能であるもののを通常一般に「ワックス」とよばれ、天然ワックス(db)と合成ワックス(da)に大別される。天然ワックス(db)としては、木蝋、ハゼ蝋、漆蝋、パーム蝋、蜜蝋、鯨蝋、イボタ蝋、羊毛蝋、ライス蝋、カンデリラワックス、カルナバワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシン等が挙げられる。
【0088】
合成ワックス(da)としては半合成ワックスと全合成ワックスがある。半合成ワックスとは、天然ワックスまたはワックス様材料を、エステル化、アミド化、酸性ワックスの中和等の化学的処理により変性したものである。これら合成ワックス(da)は、ポリオレフィンワックス(d1)、エステルワックス(d2)、またはアミドワックス(d3)に区別される。塗工中における耐熱性を考慮すると合成ワックス(da)を用いることが好ましく、これらはそれぞれ単独、あるいは併用して使用することができる。尚、ワックス状樹脂(D)には、水性化とガラス面への密着性の点でカルボキシル基を含有していることが好ましい。また、本発明の効果が得られる場合は、必要に応じて上記ポリオレフィンワックスに親水性高分子や極性モノマー及び一般的な反応性基を共重合もしくはグラフト反応させて用いても良い。なお単に共重合体という場合はランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0089】
ポリオレフィンワックス(d1)としては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油ワックスや、水溶液中で分散可能な公知の各種ポリオレフィンを用いることができる。例えばプロピレンホモポリマー、プロピレン−エチレンブロック共重合体樹脂、プロピレン−エチレンランダム共重合体樹脂、プロピレン−αオレフィンブロック共重合体樹脂、プロピレン−αオレフィンランダム共重合体樹脂、プロピレン−ブテンブロック共重合体樹脂、プロピレン−ブテンランダム共重合体樹脂、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−シクロオレフィン共重合体等が好ましく挙げられる。
【0090】
また、前述のαオレフィンコモノマー同士2種類以上の共重合体も用いることができ、例えばαオレフィンモノマーと酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどのコモノマーとの共重合体なども挙げられる。
【0091】
また、本発明の効果が得られる場合は、必要に応じて上記ポリオレフィンワックスに親水性高分子や極性モノマー及び一般的な反応性基を共重合もしくはグラフト反応させて用いても良い。なお単に共重合体という場合はランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0092】
本発明におけるエステルワックス(d2)としては、脂肪酸にアルコールが1つ以上結合した脂肪酸エステルが合成ワックスとして挙げられる。
【0093】
アルコールとしては単官能もしくは多官能アルコール類(p4)を用いることができる。単官能アルコールとしては炭素数が6以上の高級アルコールを用いることが好ましく、炭素数が10以上の高級アルコールを用いることがより好ましい。具体例としては、例えば、ミスチリルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコールが例示されるが、これらに限定されるものではない。本発明では、グリセリン、プロピレングリコール、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトールが好ましく、グリセリン、ジペンタエリトリトールがより好ましい。
【0094】
また、脂肪酸としては、カプロン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸、メリシン酸など飽和脂肪酸、またはオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸などの不飽和脂肪酸等が挙げられる。また、12−ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシ脂肪酸やアジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸も挙げられる。本発明では、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸が好ましく、ステアリン酸または12−ヒドロキシステアリン酸のトリグリセライドがより好ましい。
【0095】
市販されている脂肪酸エステルの例としては理研ビタミン社製の「リケマール」等があげられる。
【0096】
本発明におけるアミドワックス(d3)としては、カルボン酸アミド、スルホン酸アミド、あるいはリン酸アミド等、アミド結合を有するワックスが挙げられるが、耐熱性等の点で、カルボン酸アミドが好ましく、脂肪酸アミドが特に好ましく使用される。
【0097】
脂肪酸アミドとしては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド等の脂肪族モノカルボン酸アミド;
N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド等のN−置換脂肪族モノカルボン酸アミド;
メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等の脂肪族ビスカルボン酸アミド;
N,N'―エチレン−ビス−オレイルアミド、N,N'−エチレンビスステアリン酸アミド、N,N'−メチレンビスステアリン酸アミドなどのN−置換脂肪族カルボン酸ビスアミドを含む脂肪族カルボン酸アミド、あるいは水酸基をさらに有するヒドロキシ脂肪酸アミドなどが挙げられる。これらの化合物が有するアミド基は1個でも2個以上でもよい。市販されているアマイドワックスの例としては花王社製の「カオーワックス」等があげられる。
【0098】
本発明のワックス状樹脂(D)は、1種だけを用いてもよいし、あるいは、複数種を併用してもよいが、耐熱性を考慮すると合成ワックスを用いることが好ましい。本発明の水性分散体樹脂組成物をコーティング剤として使用した場合には、コーティング層に十分な滑性を付与するための優位性は、(d1)≧(d2)>(d3)>(db)であるが、コーティング時の条件や、コーティング後のガラス製品の使用状況により、適時配合することで、良好なコーティング層を得ることが可能となる。
【0099】
ワックス状樹脂(D)は、融点が、80〜150℃の範囲であることが好ましい。融点が80℃以下であると、本発明のコーティング剤をガラス容器のコーティング剤として使用した際に、ワックス状樹脂(D)が軟化し易く、ガラス面またはガラス面に施された金属酸化物膜への密着性が向上する。一方融点が150℃以上であると、内容物を充填するときの温水洗浄でワックス状樹脂(D)が脱落し難くなる。
【0100】
ワックス状樹脂(D)の重量平均分子量は500〜500,000の範囲であり、特に1,000〜200,000が好ましい。平均分子量が500未満では、コーティング剤をガラス容器のコーティング剤として使用した際、ガラス面への密着強度等の諸物性を低下させるだけでなく、コーティング層の耐殺傷性が低下してしまう。重量平均分子量が500,000を超えると、上記の変性オレフィン系樹脂(A)、アクリル系樹脂(B)、カルボジイミド系樹脂(C)と相溶し難くなるため、塗膜が白化したり、またコーティング時の粘度が増大するため、ガラス面への密着性が低下する。
【0101】
ワックス状樹脂(D)を水性分散体とする方法としては、ワックス状樹脂(D)にも水性化能を持たせることが考えられる。具体的には下記の方法が挙げられる。
(方法D1)上記のカルボキシル基含有のワックス状樹脂を、上述の塩基で中和する方法。
(方法D2)酸価が100〜500、数平均分子量が2,000〜50,000のアクリル系性樹脂とともに分散させて、上述の塩基で中和する方法。
(方法D3)水溶性の高いポリオール、例えばポリエチレングリコール等のポリエーテルポリオール(p1)をポリウレタン系樹脂のポリオール成分として使用する方法。
(方法D4)界面活性剤(S)を添加配合する方法等。
【0102】
この中でも、(方法D1)では自己乳化型となるため、粘度上昇も抑えられ、好ましく使用される。さらに、条件により、(方法D2)〜(方法D4)を併用使用することが好ましい。水性化は水を混合して、これまでと同様、撹拌乳化混合器を用いて、高剪断力下による強制分散を行うことが好ましい。

本発明において、ガラス用コーティング剤の不揮発成分全量中、変性オレフィン系樹脂(A)、アクリル系樹脂(B)、カルボジイミド系樹脂(C)が0.5〜90重量%、ワックス状樹脂(D)が0.5〜30重量%を含有することが好ましい。
【0103】
さらに、変性オレフィン系樹脂(A)、アクリル系樹脂(B)、30〜89重量%、ワックス状樹脂(D)1〜20重量%、カルボジイミド系樹脂(C)1〜50重量%含有してなることが好ましい。
【0104】
変性オレフィン系樹脂(A)、アクリル系樹脂(B)が、カルボジイミド系樹脂(C)のそれぞれ0.5重量%以上であると、コーティング層の凝集力とガラス面に対する密着性が優れ、耐擦傷性も優れる。
【0105】
一方、変性オレフィン系樹脂(A)、アクリル系樹脂(B)、カルボジイミド系樹脂(C)が、90重量%以下であると、滑性に優れた均一性のあるコーティング膜を形成することができる。
【0106】
<ガラス積層体>
本発明のガラス用コーティング剤は、上述の各成分を、当技術分野で周知の方法に従って均一に混合することによって調製することができる。ガラス用コーティング剤は、液状、あるいはペースト状のいずれかの形態で、様々な用途に適用することができる。本発明の一実施形態において、上記、ガラス用コーティング剤は、ガラス基材(X)をコーティング剤で処理したガラス積層体の用途で使用される。ガラス積層体形成用コーティング剤の用途で使用される場合の不揮発成分濃度は、1〜30重量%の範囲である。不揮発成分濃度が1%未満であると、ガラス面のコーティング層(Y)が不均一となり、ムラができやすいため、コーティング後の磨耗・脱落に起因する耐磨耗性が低下し、搬送ライン、特にコンベアガイドの汚染を引き起こす可能性がある。
【0107】
また、30重量%よりも濃度が高い場合には、コーティング剤の粘度が高くなり、ガラス面のコーティング層(Y)が不均一となり、ガラス製品外面に十分な滑性を付与できないため、傷付き防止機能等の耐擦傷性、さらには耐水性にも優れるコーティング層(Y)を形成することができなくなる。
【0108】
本発明の一実施形態では、ガラス用コーティング剤をガラス積層体形成用コーティング剤として使用して、代表的に0.1〜30μmの膜厚を有する樹脂層が形成される。したがって、塗膜形成の観点から、ガラス用コーティング剤の粘度は、少なくとも1〜3,500mPa・sの範囲、好ましくは10〜2,000mPa・s、及びより好ましくは20〜1,500mPa・sの範囲であることが望ましい。上記粘度が3,500mPa・s以下の場合、コーティングによって基材上に0.1〜30μmの薄膜を容易に形成することができ、透過率等の光学的特性を高めることも容易である。一方、粘度が1mPa・s以上の場合、ガラス用コーティング剤から形成する樹脂層の膜厚を制御することが容易である。このように、ガラス用コーティング剤の粘度を調整するために、水や上述の水混和性有機溶媒の添加により、適時、調整が可能となる。
【0109】
本発明のガラス用コーティング剤を使用する場合、概コーティング剤をガラス面及びガラス面に施した焼付層(M)にコーティングする方法としては、特に制限は無く、スプレーによる吹き付け、マイヤーバー、アプリケーター、刷毛、スプレー、ローラー、ディッピング、グラビアコーター、ダイコーター、マイクログラビアコーター、リップコーター、コンマコーター、カーテンコーター、ナイフコーター、リバースコ−ター、スピンコーター、浸漬等の、周知の様々な方法を適用することができる。また、薄膜塗工又は厚膜塗工等の形態についても、用途に応じて、特に制限なく、選択することができる。
【0110】
本発明の一実施形態では、コーティング方法の一例として、ガラス基材(X)が鏡や窓用の端面が平面形状であったり、ガラス瓶等の端面が曲面形状であったりしても、本発明のガラス用コーティング剤を使用して、好ましくガラス積層体を作成することが可能である。ガラス瓶のような端面が曲面形状のガラス基材(X)へのコーティングは、一般的にスプレーやディッピングで行われ、コーティング方法として、ホットエンドコーティングとコールドエンドコーティングの二つの工程で行われる。
【0111】
第1の工程として、前述の焼付層(M)はホットエンドコーティング工程により、徐冷炉の入り口付近において、成形直後の高温のガラス容器の外面にスズ化合物(主に四塩化スズ)、チタン化合物(主に四塩化チタン)等を作用させて、ガラス容器の外面に酸化スズ、酸化チタン等の金属酸化物被膜を形成するものである。ホットエンドコーティングを行うことにより、次工程におけるコールドエンドコーティング被膜のガラス面への密着性が向上する。
【0112】
次に、第2の工程として、コールドエンドコーティングにより、本発明のガラス用コーティング剤をコーティングする。コールドエンドコーティングは徐冷炉の終端付近で行うコーティングで、この時のガラス容器外面の平均温度は通常70〜150℃程度であるが、この温度を変性オレフィン系樹脂(A)、アクリル系樹脂(B)、カルボジイミド系樹脂(C)、ワックス状樹脂(D)の軟化点よりも低くすることで、良好な滑性が付与され、ガイド摩擦及び温水洗浄による滑性低下が起こりにくく、ガイド汚れも防ぐことができる。
【0113】
また、本発明においてコーティング後の水性コーティング剤の乾燥方法は任意であるが、上記ガラス瓶のコーティング方法では、通常はガラス瓶の余熱により十分に乾燥される。
【0114】
各合成例の樹脂(A)、(B)、(C)、(D)について、成分内容、外観、不揮発分濃度(NV)、粘度(Vis)、水素イオン指数(pH)、及び平均粒子径(Dm)を以下の方法に従って求め、結果を表1〜3に示した。また、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、ガラス転移温度(Tg)、酸価(AV)及び水酸基価(OHV)の測定方法についても測定方法について示した。
【0115】
《外観》
各配合例で得られた水性分散体の液体外観を目視にて評価した。
《不揮発成分濃度(NV)》
水性分散体、約1gを金属容器に秤量し、150℃オーブンにて20分間乾燥して、残分を秤量して残率計算をし、不揮発成分濃度(%)とした。
《粘度(Vis)》
各配合例で得られた水性分散体を23℃の雰囲気下でE型粘度計(東機産業社製 TV−22)にて、約1.2mlを測定用試料とし、回転速度0.5〜100rpm、1分間回転の条件で測定し、溶液粘度(mPa・s)とした。
《水素イオン指数(pH)》
各配合例で得られた水性分散体23℃の雰囲気下でpH測定器(HORIBA社製 F−71)で測定し、pHとした。
【0116】
《平均粒子径(Dm)》
試料を500倍に水希釈し、該希釈液約5mlを動的光散乱測定法(測定装置はマイクロトラック(株)日機装製)により測定をおこなった。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを平均粒子径(Dm、単位:nm、あるいはμm)とした。
《分子量》
数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)の測定は、昭和電工社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「ShodexGPC System−21」を用いた。GPCは溶媒に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィーであり、溶媒としてはテトロヒドロフラン、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mn)の決定はポリスチレン換算で行った。
【0117】
《酸価(AV)》
共栓三角フラスコ中に試料化合物(B)を、約1gを精密に量り採り、トルエン/エタノール(容積比:トルエン/エタノール=2/1)混合液100mlを加えて溶解した。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間保持した後、溶液が淡紅色を呈するまで0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定した。
【0118】
乾燥状態の樹脂の値として、酸価(mgKOH/g)を次式により求めた。
【0119】
酸価(mgKOH/g)={(5.611×a×F)/S}/(不揮発分濃度/100)
ただし、S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
【0120】
《水酸基価(OHV)》
共栓三角フラスコ中に試料を、約1gを精密に量り採り、トルエン/エタノール(容量比:トルエン/エタノール=2/1)混合液100mlを加えて溶解する。更にアセチル化剤(無水酢酸25gをピリジンで溶解し、容量100mlとした溶液)を正確に5ml加え、約1時間攪拌した。これに、フェノールフタレイン試液を指示薬として加え、30秒間持続する。その後、溶液が淡紅色を呈するまで0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液で滴定する。
【0121】
水酸基価は次式により求めた。水酸基価は樹脂の乾燥状態の数値とした(単位:mgKOH/g)。
【0122】
水酸基価(mgKOH/g)=[{(b−a)×F×28.25}/S]/(不揮発分濃度/100)+D
ただし、S:試料の採取量(g)
a:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
b:空実験の0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の消費量(ml)
F:0.1Nアルコール性水酸化カリウム溶液の力価
D:酸価(mgKOH/g)
【0123】
《ガラス転移温度(Tg)》
ロボットDSC(示差走査熱量計、セイコーインスツルメンツ社製「RDC220」)に「SSC5200ディスクステーション」(セイコーインスツルメンツ社製)を接続して、測定に使用した。
【0124】
試料約10mgをアルミニウムパンに入れ、秤量して示差走査熱量計にセットし、試料を入れない同タイプのアルミニウムパンをリファレンスとして、100℃の温度で5分間加熱した後、液体窒素を用いて−120℃まで急冷処理した。その後10℃/分で昇温し、昇温中に得られたDSCチャートからガラス転移温度(Tg、単位:℃)を決定した。
・変性オレフィン系樹脂(A)の水性分散体(a―1―a)の合成例:
表1−1〜表1−3に示した成分を用いて、上記工程(I)〜(III)に準じて水性分散体(a―1―a)を製造した。
【0125】
[合成例1]
表1-1〜表1−3を示したように、1000mL丸底フラスコに、脱イオン水110 m L 、硫酸マグネシウム・7 水和物22 .2gおよび硫酸18.2gを採取し、攪拌して溶解させた。これにより得た溶液に、市販の造粒モンモリロナイト16.7gを分散させ、100℃ まで昇温し、2時間攪拌を行った。その後、室温まで冷却し、得られたスラリーを濾過してウェットケーキを回収した。回収したウェットケーキを1000 mL丸底フラスコにて、脱塩水500mLにて再度スラリー化し、濾過を行った。この操作を2回繰り返した。最終的に得られたケーキを、窒素雰囲気下110℃で一晩乾燥して、化学処理モンモリロナイト13.3gを得た。得られた化学処理モンモリロナイト44gに、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液( 0.4 mmol/mL)20mLを加え、室温で1 時間攪拌した。この懸濁液にトルエン80mLを加え、攪拌後、上澄みを除いた。この操作を2回繰り返した後、トルエンを加えて、粘土スラリー( スラリー濃度= 99mg粘土/m L) を得た。別のフラスコに、トリイソブチルアルミニウム0 .2 mmolを採取し、ここで得られた粘土スラリー57.38mLおよびジクロロ[ ジメチルシリレン( シクロペンタジエニル) (2,4−ジメチル−4H−5,6,7,8−テトラヒドロ−1−アズレニル)ハフニウム]131mg(57μmol)のトルエン希釈液を加え、室温で1 0 分間攪拌し、触媒スラリーを得た。次いで、内容積24リットルの誘導攪拌式オートクレーブ内に液体プロピレン2.48Lおよび液体エチレン0 .05Lを導入した。室温で、上記触媒スラリーを全量導入し、8 5 ℃ まで昇温し重合時全圧を0 .6MPa 、水素濃度400ppmで一定に保持しながら、同温度で2時間攪拌を継続した。攪拌終了後、未反応オレフィンを放出して重合を停止した。オートクレーブを開放してポリマーのトルエン溶液を全量回収し、溶媒並びに粘土残渣を除去して、プロピレン−エチレン共重合体トルエン溶液を得た。得られたプロピレン−エチレン共重合体をポリオレフィン共重合体とした。表1−2を示したように、上記工程(I)ポリオレフィン共重合体に無水マレイン酸をグラフトさせる変性処理を施して、変性オレフィン系樹脂(A)を得た。具体的には、上記ポリオレフィン共重合体100 部に、無水マレイン酸2 部、ジ−t−ブチルパーオキシド1.8部を、170℃ に設定した二軸押出機を用いて反応させて、変性オレフィン系樹脂(A)を得た。その際、押出機内を脱気して、残留する未反応物を除去した。表1−3を示したように、アニオン型界面活性剤としてポリエキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム12.5部、水酸化カリウム2.5部を配合し攪拌機にて1000rpmで1分間混合した。この混合物をホモジナイザーで3000rpmで高速攪拌しながら精製水90部を5分間かけて徐々に添加し、不揮発分濃度約30%、pH:6.9の変性オレフィン系樹脂(A)の水性分散体(a―1―a)を得た。
【0126】
[合成例2]
合成例1と同様にして,表1-1〜表1−3の滴下混合物の組成で重合を行い、表1-1〜表1−3の合成例2の不揮発分濃度約29%、pH:6.8の変性オレフィン系樹脂(A)の水性分散体(a―1―a)を得た。
【0127】
【表1】
【0128】
商品名:
DP-5201A:東洋アドレ社製ポリプロピレン 「アクアペトロ DP−5201A」 不揮発分:16%
AE−301:日本製紙社製ポリプロピレン 「アウローレン AE301」 不揮発分:30%
BW−5550:三菱化学社製ポリプロピレン 「アプトロック BW−5550」 不揮発分:30%
W401:三井化学社製低密度ポリエチレン 「ケミパール W401」 不揮発分:40%
【0129】
・アクリル系樹脂(B)の水性分散体(b−1−b)
表2−1〜表2−4に示した成分を用いて、下記工程(I)〜(III)に準じてコア/シェルタイプのエマルジョン(合成例3〜7)を製造した。
工程(I):フラスコ内に脱イオン水120部を入れ、それを80〜85℃に加熱し、撹拌しながら第1表の第1プレエマルジョン2部を滴下し20分間熟成後、同温度で残りのプレエマルジョンを一定速度で3時間を要して滴下して三次元に架橋反応してなるコア部の水分散液を得た。工程(II):第1プレエマルジョン滴下終了後、速やかに、シラン系モノマー及びアリルメタクリレートを滴下し、80〜85℃で1時間保持して、上記コア部表面にシラン系モノマー及びアリルメタクリレートを反応せしめた。工程(III):脱イオン水50部を配合し、80〜85℃で第2プレエマルジョンを一定速度で1時間を要して滴下した。次いで、同温度で1時間保持してから室温に急冷し、固形分含有率が30%になるように脱イオン水を加えた。得られたポリマー微粒子は有機溶剤に不溶である。その後、脱イオン水を加えジエタノールアミンで中和し、20%固形分含有率に調整してコア/シェル型のエマルジョン合成例3〜7を得た。
【0130】
第2−3表において、*3〜7は次のものを示す。(※1)プレエマルジョン:それぞれに記載の成分からなる混合物を高速撹拌機で均一に分散してなる乳化物。(※2)それぞれのプレエマルジョンに含まれる重合性モノマー成分に基づく重量比率。(※3)中和には、ジエタノールアミンを用いた。(※4)レーザー相関スペクトロスコピー法で測定した。
【0131】
【表2】
【0132】
・カルボジイミド系樹脂(C)の水性分散体(c−1−c)
[合成例10]
還流冷却管、滴下満斗、ガス導入管、撹拌装置、温度計を備えた4ツロの2,000mlフラスコに、、窒素ガスを導入しながら、ジシクロヘキシルカルボジイミド80部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート15部を混合し、界面活性剤(S)としてポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル(HLB14.4)2.5部、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテルサルフェート2.5部を配合し攪拌機にて1000rpmで1分間混合した。この混合物をホモジナイザーで3000rpmで高速攪拌しながら精製水90部を5分間かけて徐々に添加し、不揮発分濃度約50%、pH:7.1のジシクロヘキシルカルボジイミド水性分散体(c―1―c)を得た。
[合成例11]
還流冷却管、滴下満斗、ガス導入管、撹拌装置、温度計を備えた4ツロの2,000mlフラスコに、、窒素ガスを導入しながら、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(Q)700部をカルボジイミド化触媒(3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド)14部とともに180℃に昇温し、32時間反応させ、イソシアネート末端テトラメチルキシリレンカルボジイミド(重合度=10)を得た。次いで、得られたカルボジイミド系樹脂(C)224.4部とヒドロキシプロパンスルホン酸ナトリウム32.4部を100℃で24時間反応させた。これに精製水244部を80℃で徐々に加え、不揮発分濃度約50%、pH:7.0のカルボジイミド系樹脂(C)の水性分散体(c―1―c)を得た。
【0133】
[合成例12]
還流冷却管、滴下満斗、ガス導入管、撹拌装置、温度計を備えた4ツロの2,000mlフラスコに、、窒素ガスを導入しながら、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(Q)578gとカルボジイミド化触媒(3−メチル−1−フェニル−2−ホスホレン−1−オキシド)2.9gを180℃で15時間反応させ、イソシアネート末端ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド(重合度=4)を得た。次いで、得られたイソシアネート末端ジシクロヘキシルメタンカルボジイミドに、重合度:約12のポリエチレングリコールモノメチルエーテル485.0gを加え、150℃で5時間反応させた。反応後、50℃まで冷却し、水1478gを徐々に加えて、カルボジイミド系樹脂(B)の溶液を得た。次に、減圧下、100℃まで昇温して共沸し、過剰のポリエチレングリコールモノメチルエーテルを除去した後、室温まで冷却して不揮発分濃度約51%、Ph:6.8のエチレンオキサイド鎖を有するカルボジイミド系樹脂(c−1)の水性分散体(c―1―c))を得た。
【0134】
【表3】
【0135】
商品名:
E-02:日清紡ケミカル社製エチレンオキサイド鎖含有カルボジイミド系樹脂水性分散体「カルボジライトE-02」不揮発分:40%
E-03A:日清紡ケミカル社製エチレンオキサイド鎖含有カルボジイミド系樹脂水性分散体「カルボジライトE-03A」 不揮発分:40%
・ワックス状樹脂(ただし、樹脂(a)である場合を除く)のDの水性分散体(d−1−d)
【0136】
[合成例8]
還流冷却管、滴下満斗、ガス導入管、撹拌装置、温度計を備えた4ツロの2,000mlフラスコに、ポリエチレンワックス(三井石油化学社製「ハイワックスNL−500」)250部,イソプロパノール100部を仕込み、窒素気流下、80℃に加熱する。滴下管より、メタクリル酸メチル5部,アクリル酸n−ブチル10部,アクリル酸15部及びアゾビスイソビチロニトリル1.25部の混合物を3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で更に3時間反応を継続し、その後、十分に撹拌を行いながらジメチルエタノールアミン(塩基)19部と精製水650部を添加し水分散化した後、昇温して共沸し、系内のイソプロパノールを除去し、不揮発分濃度約30%、Ph:6.8で不揮発分中にワックス成分を約91重量%含有する水性分散体(d−1−d)を得た。この水性分散体(d−1−d)の光散乱法による平均粒子径は380nmであった。
【0137】
[合成例9]
温度計、攪拌機、還流冷却機、滴下槽、窒素ガス吹き込み管を備えた4ツロの2,000mlフラスコに、カルナウバワックス(融点80〜84℃)(c2) 20.0部、及び酸化型ポリエチレンワックス(融点110℃)(c1−1) 80.0部を仕込み、窒素ガスを導入しつつ攪拌しながら120℃に昇温し混合溶融した。別の4ツロの2,000mlフラスコに、ジメチルエタノールアミン(塩基) 2.1部、メチルエチルケトン436.8部、及び精製水 436.8部を仕込み90℃に加熱し、攪拌速度600rpmで攪拌しながら前記フラスコ)内の溶液を徐々に別のフラスコ中に添加した。添加終了後、そのまま攪拌しながら、減圧下、共沸によりメチレチルケトンを除去し、40℃以下まで冷却し、不揮発分濃度30%、Ph:6.9のワックス状樹脂(D)の水性分散体(d−1−d)を得た。この水性分散体(d−1−dの分散粒子の光散乱法による平均粒子径は1.2μmであった。
【0138】
【表4】
【0139】
商品名:
ALTANA製ワックス状樹脂「AQUACER531」不揮発分:45%、ALTANA製ワックス状樹脂「AQUACER539」不揮発分:35%
<ガラス用コーティング剤>
[配合例1〜40]
1Lのポリ瓶に、カルボキシル基を有する変性オレフィン樹脂(a)の水性分散体(a―1―a)、アクリル系樹脂(B)の水性分散体(b−1−b)、カルボジイミド系樹脂(C)の水性分散体(c−1−c)とワックス状樹脂(Dの水性分散体(d−1−d)を必須成分とし、表5に示す比率で仕込み、精製水を加えてホモミキサーにて、3,000回転で5分間、十分に攪拌を行い、十分に脱泡を行った後、不揮発成分濃度、約10%前後に調整し、配合例に示すガラス用コーティング剤を得た。尚、表中示した数字は不揮発分を意味している。
【0140】
【表5】
【0141】
<ガラス積層体>
表5の比率で配合したガラス用コーティング剤を用い、それぞれ以下の方法でガラス積層体を作成した。
[実施例1〜36][比較例1〜4]
表5に示したガラス用コーティング剤をガラス用コーティング剤として使用して、以下の積層体を作成した。
【0142】
ホットエンドコーティングで酸化錫を施した液体用ガラス容器(ガラス瓶)を用意し、それらを高温乾燥機中で115℃にて60分間保持して、十分に定着化をした。配合例に示したガラス用コーティング剤をハンド式スプレーガンのカップに充填し、スプレーガンを固定した。外表面の平均温度を110℃とした該ガラス容器をターンテーブルの中心に置き、2回転/分で回転させながらガラス用コーティング剤を約2秒間スプレーし、ガラス容器の外表面胴部にコーティング剤を塗布した。その後、乾燥させてガラス積層体を作成した。
【0143】
得られたガラス積層体について、耐擦傷性、滑性(常態、温水浸漬後)及び密着性(滑性変化、外観変化)を以下の方法に従って求め、結果を表6に示した。
《耐擦傷性》
ガラス積層体表面の耐擦傷性測定は、磨耗試験機(本光製作所製)の先端に♯0000番のスチールウールを取り付け、1kg/cm2の荷重をかけて、10往復摩擦したときの表面を、実体顕微鏡を使用して傷の状況を確認し、以下の3段階で目視評価した。「△」評価以上の場合、実際の使用時に特に問題ない。
【0144】
○:全く傷無し、問題なし。
【0145】
△:若干傷が確認できるが、実用上問題なし。
【0146】
×:傷が目立ち、実用不可。
【0147】
《滑性測定(常態)》
ガラス積層体表面の滑性測定は、滑性測定機を用いて、日本ガラスびん協会規格「7.14表面滑り角度測定方法」に基づいて測定した。
測定は、3本の瓶状ガラス積層体を俵積みし、このサンプルを徐々に傾斜させて上部ガラス容器が滑り始めた角度すなわち滑性角度で判定し、その角度(°)が小さいほど活性が良いと判断し、以下の4段階で評価した。「△」評価以上の場合、実際の使用時に特に問題ない。
【0148】
<滑性測定判断基準>
◎:滑性角度7〜10°
○:滑性角度11°〜13°
△:滑性角度14°〜16°
×:滑性角度17°以上
【0149】
《温水浸漬後滑性》
ガラス積層体を65℃の温水に20分間浸漬し(C社情報、他社明細書は70℃-10分)、取り出したガラス積層体について、上記同様測定し、「温水浸漬後滑性」とし、以下の4段階で評価した。
「△」評価以上の場合、実際の使用時に特に問題ない。
【0150】
<滑性測定判断基準>
◎:滑性角度7〜10°
○:滑性角度11°〜13°
△:滑性角度14°〜16°
×:滑性角度17°以上
《アルカリ浸漬後滑性》
ガラス積層体を85℃の濃度が1.8%のNaOHに15分間浸漬し、取り出したガラス積層体について、上記同様測定し、「アルカリ浸漬後滑性」とし、以下の4段階で評価した。
「△」評価以上の場合、実際の使用時に特に問題ない。
【0151】
<滑性測定判断基準>
◎:滑性角度7〜10°
○:滑性角度11°〜13°
△:滑性角度14°〜16°
×:滑性角度17°以上
【0152】
<密着性試験(滑性測定)>
ガラス容器積層体を、ラインシュミレーター(LS)に2分かけた後、ガラス容器表面の傷の有無を確認した。その後、滑性測定機を用いて、日本ガラスびん協会規格「7.14表面滑り角度測定方法」に基づいて滑性を測定し、ラインシュミレーター使用前後の滑性の変化を以下の3段階で測定した。「△」評価以上の場合、実際の使用時に特に問題ない。
【0153】
<判断基準>
○:滑性角度変化が3°以下で問題なし。
【0154】
△:滑性角度変化が3〜7°で実用上、問題なし
×:滑性角度変化が7°以上で、滑性低下が著しい
【0155】
《密着性試験(外観評価)》
上記同様、ガラス積層体を、ラインシュミレーター(LS)に2分かけた後の外観を目視にて、以下の4段階で評価した。「△」評価以上の場合、実際の使用時に特に問題ない。
【0156】
<判断基準>
◎:コーティング剤の剥がれが全くなし
○:若干端部に浮きがある
△:微少の剥がれがあるが特に問題なし
×:一部コーティング剥がれている
【0157】
【表6】
【0158】
本発明のガラスコーティング剤を用いた場合は、表6に示すように、実施例1〜8、10、11、14〜16、25〜36では、特に問題ない。更に密着性試験の結果から、ガラスコーティング剤の剥がれがないことから、ガラス製品表面のコーティングの磨耗・脱落に起因する搬送ライン、特にコンベアガイドの汚染を防止することも可能である。また、実施例9、12、13、17〜24では、耐殺傷性、滑性、あるいは密着性のいずれかのレベルが低いが、実用上、特に問題ない。
【0159】
これに対して、比較例1〜4では、耐殺傷性、滑性、あるいは密着性のいずれかに難があるため、使用困難であることがわかる。