(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Ga:0.1〜50質量%、N及びPから選択される1種以上の元素を0.01〜2質量%、酸素:0.01〜6質量%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる成分組成を有し、前記N及びPのいずれかの元素と少なくともGa又はCuとによる化合物の状態で含有され、前記化合物の平均粒径が10μm以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【背景技術】
【0002】
近年、カルコパイライト系の化合物半導体による薄膜型太陽電池が実用に供せられるようになり、この化合物半導体による薄膜型太陽電池は、ソーダライムガラス基板の上にプラス電極となるMo電極層を形成し、このMo電極層の上にCIGS膜からなる光吸収層が形成され、この光吸収層上にZnS、CdSなどからなるバッファ層が形成され、このバッファ層上にマイナス電極となる透明電極層が形成された基本構造を有している。
【0003】
上記光吸収層の形成方法として、蒸着法により成膜する方法が知られており、この方法により得られた光吸収層は高いエネルギー変換効率が得られるものの、蒸着法による成膜は蒸着速度が遅いため、大面積の基板に成膜した場合には、膜厚分布の均一性が低下しやすい。そのために、スパッタ法によって光吸収層を形成する方法が提案されている。
【0004】
スパッタ法により上記光吸収層方法としては、まず、Inターゲットを使用してスパッタによりIn膜を成膜する。このIn膜上にCu−Ga二元系合金ターゲットを使用してスパッタすることによりCu−Ga二元系合金膜を成膜し、得られたIn膜及びCu−Ga二元系合金膜からなる積層プリカーサ膜をSe雰囲気中で熱処理してCIGS膜を形成する方法(いわゆる、セレン化法)が提案されている。
【0005】
さらに、以上の技術を背景に、前記Cu−Ga合金膜及びIn膜の積層プリカーサ膜を、金属裏面電極層側からGa含有量の高いCu−Ga合金層、Ga含有量の低いCu−Ga合金層、In層の順序でスパッタリング法により作製し、これをセレン及び/又は硫黄雰囲気中で熱処理することにより、界面層(バッファ層)側から金属裏面電極層側への薄膜光吸収層内部でのGaの濃度勾配を徐々(段階的)に変化させることで、開放電圧の大なる薄膜型太陽電池を実現すると共に、薄膜光吸収層の他の層からの剥離を防止する技術が提案されている。この場合、CuGaターゲット中のGa含有量は1〜40原子%と提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0006】
一方、太陽電池等の光起電力装置に用いられる低抵抗のp型伝導型を持ったカルコパイライト構造半導体を得るために、p型伝導型のカルコパイライト構造半導体にP、Sb、BiなどのVb属元素をイオンドーピング(イオン注入)によってドーピングする方法が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。
また、カルコパイライト構造半導体へのN、P、Sb、Bi元素の高濃度ドープを分子線やイオン線を用いて行う場合、結晶欠陥等が生じるなどの問題点があり、困難であることが記載されている。さらに、カルコパイライト構造半導体へのVb族元素のドープに、リン酸ナトリウムを用いている技術が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
すなわち、上記非特許文献1に記載の方法では、イオンドーピング工程を用いるために、製造コストが高いと共に、特許文献2でも記載されているように、半導体膜に結晶欠陥が発生する等の問題点がある。また、P、Asのドープを行う場合、毒性の高いPH
3、AsH
3を使用することから工程の安全性を考慮すると好ましくない。
【0010】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、Vb族元素のうち、特に、N、Pが高濃度にドープされたCu−Ga膜を、安全に、かつ、均一に、低コストで成膜可能なスパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
即ち、本発明に係るスパッタリングターゲットは、Ga:0.1〜50質量%、N及びPから選択される1種以上の元素を0.01〜2質量%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる成分組成を有し、前記N及びPのいずれかの元素と少なくともGa又はCuとによる化合物の状態で含有され、前記化合物の平均粒径が10μm以下であることを特徴とする。
また、本発明に係るスパッタリングターゲットは、Ga:0.1〜50質量%、N及びPから選択される1種以上の元素を0.01〜2質量%、酸素:0.01〜6質量%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる成分組成を有し、前記N及びPのいずれかの元素と少なくともGa又はCuとによる化合物の状態で含有され、前記化合物の平均粒径が10μm以下であることを特徴とする。
【0012】
このスパッタリングターゲットでは、N及びPのいずれかの元素が少なくともGa又はCuによる化合物の状態で含有され、前記化合物の平均粒径が10μm以下であるので、スパッタリング法により、カルコパイライト構造半導体の前駆体(CuGa膜)形成時に高濃度にN、Pの元素をドーピング可能である。また、スパッタリングプロセスによるドーピングであるために、従来のイオンドーピングに比べて安価、安全かつ均一にドーピング可能である。さらに、前駆体へ、N、Pをドーピングできるため、結晶欠陥等が生じずに、カルコパイライト構造半導体膜へのダメージがない。
【0013】
なお、前記N及びPのいずれかの元素と少なくともGa又はCuとによる化合物の平均粒径が10μm以下に設定されているので、スパッタリング時の異常放電の発生を抑制することができる。
また、上記Gaの含有量を0.1〜50質量%とした理由は、50質量%を超えると、低融点相が析出してしまうためであり、0.1質量%未満であると、CIGS太陽電池の前駆体として使用する際、Ga量が少ないため、所望特性の膜を得るには、スパッタリング成膜の前に、或いは、その後に、Ga添加が必要となり、製造ステップが増えるためである。
また、N及びPから選択される1種以上の元素の含有量を2質量%以下とした理由は、2質量%を超えると異常放電が多発するためである。0.01質量%以上とした理由は、膜中へのN及びPから選択される1種類以上の元素の添加効果が現れないためである。
【0014】
本発明に係るスパッタリングターゲットは、上記のスパッタリングターゲットにおいて、前記化合物が、GaN、GaP、Cu
3N、Cu
3Pの少なくとも一種以上であることを特徴とする。
また、本発明に係るスパッタリングターゲットは、上記のスパッタリングターゲットにおいて、前記化合物が、Ga(NO
3)
3、GaPO
4、Cu
3(PO
4)
2、Cu(NO
3)
2の少なくとも一種以上であることを特徴とする。
即ち、このスパッタリングターゲット中には、これらの化合物の添加によって、N、Pを含有することになり、スパッタリングで成膜されたCuGa膜における結晶欠陥等の発生を抑制し、カルコパイライト構造半導体膜へのダメージを少なくしており、しかも、高純度の原料を使用することができ、不可避不純物の含有量をできる限り低減することが可能である。
【0015】
また、本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法は、上記の本発明のスパッタリングターゲットを製造する方法であって、N及びPのいずれかの元素と少なくともCuとによる化合物粉末とCu−Ga合金粉との混合粉末、N及びPのいずれかの元素と少なくともGaとによる化合物粉末とCu−Ga合金粉又はCu粉末との混合粉末、或いは、N及びPのいずれかの元素と少なくともGa又はCuとによる化合物粉末とCu−Ga合金粉末とCu粉末との混合粉末からなる成形体を、真空中、不活性ガス中又は還元性雰囲気中で焼結する工程を有していることを特徴とする(以下では、常圧焼結法という)。
【0016】
また、本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法は、上記の本発明のスパッタリングターゲットを製造する別の方法であって、N及びPのいずれかの元素と少なくともCuとによる化合物粉末とCu−Ga合金粉との混合粉末、N及びPのいずれかの元素と少なくともGaとによる化合物粉末とCu−Ga合金粉又はCu粉末との混合粉末、或いは、N及びPのいずれかの元素と少なくともGa又はCuとによる化合物粉末とCu−Ga合金粉末とCu粉末との混合粉末を、真空中又は不活性ガス雰囲気中でホットプレスする工程を有していることを特徴とする(以下では、ホットプレス法という)。
【0017】
また、本発明に係るスパッタリングターゲットの製造方法は、上記の本発明のスパッタリングターゲットを製造するさらに別の方法であって、N及びPのいずれかの元素と少なくともCuとによる化合物粉末とCu−Ga合金粉との混合粉末、N及びPのいずれかの元素と少なくともGaとによる化合物粉末とCu−Ga合金粉又はCu粉末との混合粉末、或いは、N及びPのいずれかの元素と少なくともGa又はCuとによる化合物粉末とCu−Ga合金粉末とCu粉末との混合粉末末を、熱間静水圧プレス法を用いて焼結する工程を有していることを特徴とする(以下では、HIP法という)。
【0018】
以上のように、これらのスパッタリングターゲットの製造方法では、上記の混合粉末を、粉末焼結の方法を使用することで、Vb族元素とGaとの化合物を溶解法によって添加して製造するスパッタリングターゲットに比べ、N及びPのいずれかの元素と少なくともGa又はCuによる化合物を均一に分散分布させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係るスパッタリングターゲットによれば、N及びPのいずれかの元素が少なくともGa又はCuによる化合物の状態で含有され、前記化合物の平均粒径が10μm以下であるので、スパッタリング法により、カルコパイライト構造半導体の前駆体(CuGa膜)形成時に、N、Pを、高濃度に、安価、安全、かつ、均一にドーピングすることが可能である。
従って、本発明のスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法によれば、CIGS薄膜型太陽電池の光吸収層を成膜することで、N、Pが、高濃度に添加され、発電効率の高い太陽電池を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るスパッタリングターゲット及びその製造方法の実施形態について、N、Pの元素の含有の仕方で第1の実施形態と第2の実施形態とに分けて説明する。
【0021】
本実施形態のスパッタリングターゲットは、上述したように、Ga:0.1〜50質量%、N及びPから選択される1種以上の元素を0.01〜2質量%を含有し、選択的に酸素:0.01〜6質量%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる成分組成を有し、前記N及びPのいずれかの元素が少なくともGa又はCuによる化合物の状態で含有され、前記化合物の平均粒径が10μm以下であることを基本としているが、前記化合物は、GaN、GaP、Cu
3N、Cu
3P、Ga(NO
3)
3、GaPO
4、Cu
3(PO
4)
2、Cu(NO
3)
2の少なくとも一種以上である。ここで、N、P元素の含有が、前記化合物として、GaN、GaPで添加される場合を、第1の実施形態とし、Cu
3N、Cu
3P、Ga(NO
3)
3、GaPO
4、Cu
3(PO
4)
2、Cu(NO
3)
2で添加される場合を、第2の実施形態とした。
【0022】
〔第1の実施形態〕
第1の実施形態のスパッタリングターゲットは、Ga:0.1〜50質量%、N及びPから選択される1種以上の元素:0.01〜2質量%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる成分組成を有し、N、Pの元素がGaとの化合物の状態で含有され、前記化合物としては、GaN、GaPが挙げられる。
【0023】
なお、上記スパッタリングターゲットにおけるターゲット組成の分析は、先ず、製造された後に、スパッタリングターゲットを割り、断面を露出させた試料を作製し、得られた試料断面をクロスセクションポリッシャ(CP)加工で処理する。さらに、処理した面をEPMA(電子線マイクロアナライザ)でCu、Ga、N、Pで定量分析(面分析)を行うことで、含有量を測定して組成分析を行っている。
【0024】
また、化合物(GaN、GaP)の最大粒径は、ターゲット断面をEPMAで観察することにより行われ、200倍のCOMPO像を5枚撮影する。そして、これら5枚の画像の中で最も大きな上記化合物の粒径を計測して、最大の粒径としている。平均粒径については、同様に撮影した5枚の写真に存在する上記化合物の粒径から平均値を算出した。
【0025】
第1の実施形態のスパッタリングターゲットを製造する方法は、Ga化合物粉末とCu−Ga合金粉末、或いは、Ga化合物粉末とCu−Ga合金粉末とCu粉末との混合粉末を予め用意し、以下の3つの焼結方法で製造することができる。
【0026】
(1)前記混合粉末を金型に充填し、冷間にてプレス成形して成形体を作製する。あるいは、前記混合粉末を成形モールドに充填、タッピングして一定の嵩密度を有する成形体を形成する。この成形体を真空中、不活性ガス中又は還元性雰囲気中において焼結する。特に、水素雰囲気中で焼結する場合には、雰囲気中の水素含有量は、1%以上好ましくは90%以上に設定する。
(2)混合粉末を真空又は不活性ガス雰囲気中で10〜60MPaの圧力範囲内でホットプレスする。
(3)混合粉末をHIP法で圧力:15〜150MPaにて焼結する。
【0027】
この混合粉末を用意するには、例えば、以下の方法で行う。
先ず、用意するGaN化合物粉末又はGaP化合物粉末としては、純度3N以上で、酸素含有量の上昇を抑えると共にCu−Ga合金粉末とCu粉末との混合性を考慮して、一次粒子径が0.3μm以下のものが好ましい。特に、化合物として、GaN及びGaPを用いると、これらは、酸素を含有していないと共に、高純度の原料を使用することができ、ターゲット中の酸素や不可避不純物の含有量を低減することができるため、好適である。
なお、ターゲット中の酸素含有量を低減するために、GaN及びGaP化合物粉末中の吸着水分や水和物を混合する前に予め取り除く必要がある。例えば、真空乾燥機中で真空環境にて120℃、10時間の乾燥が有効である。
【0028】
GaN及びGaP化合物粉末の解砕は、粉砕装置(例えば、ボールミル、ジェットミル、ヘンシェルミキサー、アトライター等)を用いて行う。得られる平均二次粒子径は10μm以下が好ましい。粉砕工程は湿度RH40%以下の乾燥した環境で行うことが好ましい。
さらに、この乾燥させた解砕粉とターゲット組成のCu−Ga合金粉末及びCu粉末の少なくとも一方を、乾式混合装置を用いて相対湿度RH40%以下の乾燥した環境にて混合し、焼結用原料粉を用意する。なお、混合は還元性雰囲気中で行うことがさらに好ましい。
【0029】
なお、Cu−Ga合金粉末及びCu粉末の平均粒径は250μm未満が好ましい。250μm以上であると焼結不良を起こすためである。
また、混合後の混合粉中の吸着水分を取り除く必要がある場合、例えば、真空乾燥機中で真空環境にて80℃、3時間以上の乾燥が有効である。
【0030】
次に、このように上記方法で混合した原料粉を、RH30%以下の乾燥環境でプラスチック樹脂性の袋に封入し保管する。
また、Cu−Ga合金又はCuの焼結中の酸化防止のため、常圧焼結、ホットプレス又はHIPは、還元性雰囲気中、真空中又は不活性ガス雰囲気中で行う。
【0031】
常圧焼結においては、GaN及びGaP化合物を添加する場合、雰囲気中の水素の存在は焼結性の向上に有利である。雰囲気中の水素含有量は1%以上であることが好ましく、90%以上はより好ましい。
ホットプレスにおいては、ホットプレスの圧力がターゲット焼結体の密度に大きな影響を及ぼすので、好ましい圧力は10〜60MPaとする。また、加圧は、昇温開始前からでもよいし、一定のホットプレス温度に到達してから行ってもよい。
HIP法においては、好ましい圧力は15〜150MPaとする。
焼結体の焼結時間は組成により変わるが、1〜10時間が好ましい。1時間より短くなると、焼結が不十分であり、スパッタ中に割れや欠けが発生し、さらには、スパッタリング時に異常放電が発生する可能性が高くなる。一方、10時間より長くしても密度を向上させる効果はほとんどない。
【0032】
次に、上記焼結体には、通常放電加工、切削加工又は研削加工を用いて、スパッタリングターゲットの指定形状に加工する。
次に、加工後のスパッタリングターゲットを、Inを半田として、Cu又はSUS(ステンレス)、或いは、その他金属(例えば、Mo)からなるバッキングプレートにボンディングし、スパッタリングに供する。
なお、加工済みのスパッタリングターゲットを保管する際には、酸化、吸湿を防止するため、ターゲット全体を真空パック又は不活性ガス置換したパッキングを施すことが好ましい。
【0033】
このように作製したスパッタリングターゲットは、Arガスをスパッタガスとして直流(DC)マグネトロンスパッタに供する。このときの直流(DC)スパッタリングは、パルス電圧を付加するパルスDC電源を用いることでもよいし、パルスなしのDC電源でも可能である。また、スパッタリング時の投入電力は、例えば、3W/cm
2であり、ガス圧が0.67Paとされる。
【0034】
このようにして作製された第1の実施形態のスパッタリングターゲットは、N、Pの元素がGaとの化合物の状態で含有され、前記化合物の平均粒径が10μm以下であるので、スパッタリング法により、カルコパイライト構造半導体の前駆体(CuGa膜)形成時に、高濃度にN、Pの元素をドーピング可能である。また、スパッタリングプロセスによるドーピングであるために、従来のイオンドーピングに比べて安価、安全かつ均一にドーピング可能である。さらに、前駆体へN、Pの元素をドーピングできるため、結晶欠陥等が生じずに、カルコパイライト構造半導体膜へのダメージがない。
【0035】
なお、N、Pの元素とGaとの化合物の平均粒径が10μm以下に設定されているので、スパッタリング時の異常放電の発生を抑制することができる。
また、前記化合物としてGaN及びGaPの少なくとも一種を採用することで、化合物が酸素を含有していないと共に、高純度の原料を使用することができるので、不可避不純物の含有量を低減可能である。
さらに、本実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法では、上記混合粉末を、粉末焼結の方法を使用することで、Vb族元素とGaとの化合物を溶解法によって添加して製造するターゲットに比べ、N、Pの元素とGaとの化合物を均一に分散分布させることができる。
【0036】
(実施例)
次に、第1の実施形態に係るスパッタリングターゲット及びその製造方法に関し、上述の製造方法に基づいて作製した実施例により、評価した結果を説明する。
【0037】
先ず、表1及び表3に示される成分組成及び粒径を有するCu−Ga合金粉末と、Cu粉(純度4N)と、純度3Nで一次平均粒子径が10μmのGaN粉末又はGaP粉末とを、表1及び表3に示される量になるように配合し、実施例1〜30の原料粉末とした。これらの原料粉末を、真空乾燥機中で10
−1Paの真空環境にて120℃、10時間で乾燥させ、その後、容積10Lのポリエチレン製ポットに入れ、さらに、120℃、10時間乾燥した直径5mmのジルコニアボールを入れて、ボールミルで、表1及び表3に記載の時間で混合した。混合はアルゴン雰囲気で行った。
【0038】
得られた混合粉末を、表2及び表4に指定された条件にて焼結した。常圧焼結する場合、まず混合粉末を金属製金型に充填し、500〜2000kgf/cm
2の圧力にて常温加圧して、成形体を作製し、還元雰囲気ガスとして、水素(H
2)、一酸化炭素(CO)、アンモニアクラッキングガス等の還元ガス、或いは、それらの還元ガスと不活性ガスとの混合ガスを用い焼成を行った。ホットプレスの場合、原料粉末を黒鉛モールドに充填して真空ホットプレスを行った。HIPの場合も常圧焼結と同様に、まず混合粉末を金属製金型に充填し、常温1500kgf/cm
2で加圧成形する。得られた成形体を0.5mm厚みのステンレス容器に装入した後、真空脱気を経て封入し、HIP処理に用いる。
なお、焼結済みの焼結体に、乾式切削加工を施し、直径125(mm)×厚さ5(mm)のスパッタリングターゲット(実施例1〜30のスパッタリングターゲット)を作製した。
【0043】
<評価>
本実施例1〜30のスパッタリングターゲットについて、焼結体中のGaN粒子又はGaP粒子を、日本電子株式会社製電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)(JXA−8500F)で観察し、上述した計測方法で粒子の最大粒径、平均粒径をそれぞれ求めた。
また、作製したターゲット中のGaとCuとPとの各含有量を、ICP法(高周波誘導結合プラズマ法)を用いて定量分析を行った。また、Nについては、不活性ガス融解熱伝導度法を用いて定量分析を行った。
【0044】
さらに、実施例1〜30のスパッタリングターゲットについて、マグネトロンスパッタ装置を用いて、投入電力:3.3W/cm
2、10minの直流(DC)スパッタリングにより、Siウエハ上に1000nm成膜した。また、スパッタリング時のAr流量は30sccmとし、圧力を0.67Paとした。
この成膜された各膜に対してEPMA定性分析を行い、N又はPに係るピークが検出された場合は、膜中にN又はPの元素が有る(添加されている)と判断し、ピークが検出されない場合は、膜中にN又はPの元素が無い(添加されていない)と判断した。
【0045】
さらに、以上の条件において10分間連続スパッタリング(電力:3.3W/cm
2、電源:DC)を行い、異常放電の発生回数をスパッタ電源に付属したアーキングカウンターにて自動的に記録した。また、スパッタリング中に発生したアーキングにおいて、継続してスパッタリングが可能なアーキングをソフトアーク、スパッタリングターゲットの損傷が大きく継続してスパッタリングが不可能なアーキングをハードアークとして区別した。ソフトアークに関しては、アーキングカウンターにて計測が可能なため、その発生回数を記録した。また、ハードアークについては、スパッタリングを中断せざるを得ないため、その中断の発生の有無と、スパッタリング後のターゲット表面の割れ、欠けを目視にて評価した。これらの結果も、表2及び表4に示す。なお、異常放電回数が300回を超える場合、安定して直流(DC)スパッタリングができず、評価可能な膜が得られないため不良と判断し、「成膜不可」と表記した。
【0046】
(比較例)
先ず、表1及び表3に示される成分組成及び粒径を有するCu−Ga合金粉末と、Cu粉(純度4N)と、純度3NのGaN粉末又はGaP粉末とを、表1及び表3に示される量になるように配合し、比較例1〜6の原料粉末とした。得られた混合粉末を、表2及び表4に示された条件にて焼結し、比較例1〜6のスパッタリングターゲットを作製した。これら比較例のスパッタリングターゲットについても、実施例と同様に評価した。その結果も併せて表2及び表4に示す。
【0047】
これらの結果からわかるように、実施例はいずれも異常放電回数が少なく、スパッタリング中のターゲット割れや欠けも無かった。また、スパッタリングした膜中には、N又はPが検出され添加されていることが確認された。これらに対して、比較例1では、Nの含有量が2質量%を超えており、異常放電回数が増大して安定したスパッタ成膜ができなかった共にスパッタリング中のターゲット欠けが発生した。また、比較例2及び3では、GaNの平均粒径が10μmを超えており、異常放電回数が増大して安定したスパッタ成膜ができなかった共にスパッタ中のターゲットの割れ又は欠けが発生した。
【0048】
さらに、比較例4では、Pの含有量が2質量%を超えており、異常放電回数が増大して安定したスパッタ成膜ができなかった共にスパッタ中のターゲットの欠けが発生した。また、比較例5及び6では、GaPの平均粒径が10μmを超えており、異常放電回数が増大して安定したスパッタリング成膜ができなかった共に、スパッタリング中のターゲット割れ又は欠けが発生した。
【0049】
〔第2の実施形態〕
上述した第1の実施形態は、Ga:0.1〜50質量%、N及びPから選択される1種以上の元素:0.01〜2質量%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる成分組成を有し、N、Pの元素が、Gaとの化合物、即ち、GaN、GaPの状態で含有されスパッタリングターゲットの場合であった。これに対して、第2の実施形態は、Ga:0.1〜50質量%、N及びPから選択される1種以上の元素:0.01〜2質量%を含有し、選択的に酸素:0.01〜6質量%を含有し、残部がCu及び不可避不純物からなる成分組成を有したスパッタリングターゲットであって、N、Pの元素が、少なくともCu又はGaによる化合物の状態、即ち、Cu
3N、Cu
3P、Ga(NO
3)
3、GaPO
4、Cu
3(PO
4)
2、Cu(NO
3)
2で添加される場合である。
【0050】
従って、第2の実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造においては、第1の実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法におけるGaN化合物又はGaP化合物の添加の代わりに、Cu
3N、Cu
3P、Ga(NO
3)
3、GaPO
4、Cu
3(PO
4)
2、Cu(NO
3)
2のいずれかによる化合物を添加すればよく、第2の実施形態の製造手順は、上述した第1の実施形態の製造手順と同様である。
【0051】
また、第2の実施形態のスパッタリングターゲットに関するターゲット組成分析と、化合物〔Cu
3N、Cu
3P、Ga(NO
3)
3、GaPO
4、Cu
3(PO
4)
2、Cu(NO
3)
2〕の最大粒径及び平均粒径の測定とについても、第1の実施形態の場合と同様である。なお、酸素については、得られたスパッタリングターゲットについて、JIS Z 2613「金属材料の酸素定量方法通則」に記載された赤外線吸収法に準拠し、LECO社製TC600を用いて測定した。
【0052】
このようにして作製された第2の実施形態のスパッタリングターゲットは、N、Pの元素が、Cu
3N、Cu
3P、Ga(NO
3)3、GaPO
4、Cu
3(PO
4)
2、Cu(NO
3)
2のいずれかの化合物の状態で含有され、前記化合物の平均粒径が10μm以下であり、最大粒径でも、15μm以下であるので、スパッタリング時の異常放電の発生を抑制することができるとともに、スパッタリング法により、カルコパイライト構造半導体の前駆体(CuGa膜)形成時に、高濃度にN、Pの元素をドーピングすることが可能である。また、スパッタリングプロセスによるドーピングであるために、従来のイオンドーピングに比べて安価、安全かつ均一にドーピング可能である。さらに、前駆体へN、Pの元素をドーピングできるため、結晶欠陥等が生じずに、カルコパイライト構造半導体膜へのダメージがない。
【0053】
さらに、第2の実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法では、上記した混合粉末を、粉末焼結することで、Vb族元素とGaとの化合物を溶解法によって添加して製造するスパッタリングターゲットに比べ、N、Pの元素と少なくともCu又はGaとの化合物を均一に分散分布させることができる。
【0054】
(実施例)
次に、第2の実施形態に係るスパッタリングターゲット及びその製造方法に関し、上述の製造方法に基づいて作製した実施例により、評価した結果を説明する。
【0055】
先ず、表5に示される成分組成及び粒径を有するCu−Ga合金粉末と、Cu粉(純度4N)と、純度3NのCu
3N化合物粉末、Cu
3P化合物粉末、Ga(NO
3)
3化合物粉末、GaPO
4化合物粉末、Cu
3(PO
4)
2化合物粉末、Cu(NO
3)
2化合物粉末とを、表5に示される量になるように配合し、実施例31〜37の原料粉末とした。これらの原料粉末を、真空乾燥機中で10
−1Paの真空環境にて120℃、10時間で乾燥させ、その後、容積10Lのポリエチレン製ポットに入れ、さらに、120℃、10時間乾燥した直径5mmのジルコニアボールを入れて、ボールミルで、表5に記載の時間で混合した。混合はアルゴン雰囲気で行った。
【0056】
得られた混合粉末を、表6に指定された条件にて焼結した。ホットプレス法による場合では、原料粉末を黒鉛モールドに充填して真空ホットプレスを行った。HIP法による場合では、混合粉末を金属製金型に充填し、常温1500kgf/cm
2で加圧成形する。得られた成形体を0.5mm厚みのステンレス容器に装入した後、真空脱気を経て封入し、HIP処理を行った。なお、焼結済みの焼結体に、乾式切削加工を施し、直径125(mm)×厚さ5(mm)のスパッタリングターゲット(実施例31〜37のスパッタリングターゲット)を作製した。
【0059】
<評価>
本実施例31〜37のスパッタリングターゲットについて、焼結体中におけるCu
3P粒子、Ga(NO
3)
3粒子、GaPO
4粒子、Cu
3(PO
4)
2粒子、Cu(NO
3)
2粒子を、日本電子株式会社製電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)(JXA−8500F)で観察し、上述した計測方法で粒子の最大粒径、平均粒径をそれぞれ求めた。
また、作製したターゲット中のGaとCuとPとの各含有量を、ICP法(高周波誘導結合プラズマ法)を用いて定量分析を行った。また、Nについては、不活性ガス融解熱伝導度法を用いて定量分析を行った。酸素については、 JIS Z 2613「金属材料の酸素定量方法通則」に記載された赤外線吸収法に準拠し、LECO社製TC600を用いて測定した。
【0060】
さらに、実施例31〜37のスパッタリングターゲットについて、マグネトロンスパッタ装置を用いて、投入電力:3.3W/cm
2、10minの直流(DC)スパッタリングにより、Siウエハ上に1000nm成膜した。ここで、スパッタリング時のAr流量は30sccmとし、圧力を0.67Paとした。この成膜された各膜に対してEPMA定性分析を行い、N又はPに係るピークが検出された場合は、膜中にN又はPの元素が有る(添加されている)と判断し、ピークが検出されない場合は、膜中にN又はPの元素が無い(添加されていない)と判断した。
【0061】
さらに、以上の条件において10分間連続スパッタリング(電力:3.3W/cm
2、電源:DC)を行い、異常放電の発生回数をスパッタ電源に付属したアーキングカウンターにて自動的に記録した。また、スパッタリング中に発生したアーキングにおいて、継続してスパッタリングが可能なアーキングをソフトアーク、スパッタリングターゲットの損傷が大きく継続してスパッタリングが不可能なアーキングをハードアークとして区別した。ソフトアークに関しては、アーキングカウンターにて計測が可能なため、その発生回数を記録した。また、ハードアークについては、スパッタリングを中断せざるを得ないため、その中断の発生の有無と、スパッタリング後のターゲット表面の割れ、欠けを目視にて評価した。これらの結果も、表6に示す。なお、異常放電回数が300回を超える場合、安定して直流(DC)スパッタリングができず、評価可能な膜が得られないため不良と判断し、「成膜不可」と表記した。
【0062】
(比較例)
先ず、表5に示される成分組成及び粒径を有するCu−Ga合金粉末と、Cu粉(純度4N)と、純度3NのCu
3P化合物粉末又はCu(NO
3)
2化合物粉末とを、表5に示される量になるように配合し、比較例7、8の原料粉末とした。得られた混合粉末を、表6に示された条件にて焼結し、比較例7、8のスパッタリングターゲットを作製した。これら比較例のスパッタリングターゲットについても、実施例と同様に評価した。その結果も併せて表6に示す。
【0063】
表6に示された結果からわかるように、実施例31〜37の場合には、いずれも異常放電回数が少なく、スパッタリング中のターゲット割れや欠けも無かった。また、スパッタリングした膜中には、N又はPが検出され添加されていることが確認された。
これに対して、比較例7の場合では、Cu
3P化合物の最大粒径が15μmを超え、さらに、平均粒径も10μmを超えており、異常放電回数が増大して安定したスパッタ成膜ができなかった共にスパッタリング中のターゲット割れが発生した。また、比較例8の場合では、Cu(NO
3)
2化合物の最大粒径が15μmを超え、さらに、平均粒径も10μmを超えており、異常放電回数が増大して安定したスパッタ成膜ができなかったと共にスパッタリング中のターゲット割れが発生した。
【0064】
なお、本発明を、スパッタリングターゲットとして利用するためには、相対密度:90%以上、面粗さRa:1.5μm以下、比抵抗:10
−2Ω・cm以下、抗折強度:10
0MPa以上であることが好ましい。上記第1及び第2の実施形態における各実施例は、いずれもこれらの条件を満たしたものである。
また、本発明の技術範囲は上記実施形態及び上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。