特許第6436080号(P6436080)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6436080
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20181203BHJP
   B60C 11/12 20060101ALI20181203BHJP
   B60C 11/01 20060101ALI20181203BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20181203BHJP
【FI】
   B60C11/03 100C
   B60C11/03 B
   B60C11/03 Z
   B60C11/12 B
   B60C11/03 200A
   B60C11/01 B
   B60C5/00 H
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-526282(P2015-526282)
(86)(22)【出願日】2014年7月2日
(86)【国際出願番号】JP2014067682
(87)【国際公開番号】WO2015005194
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2017年7月3日
(31)【優先権主張番号】特願2013-146758(P2013-146758)
(32)【優先日】2013年7月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】小石川 佳史
【審査官】 河島 拓未
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−215221(JP,A)
【文献】 特開2012−236455(JP,A)
【文献】 特開2009−143327(JP,A)
【文献】 特開2002−283812(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/096498(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド面にタイヤ周方向に延びる少なくとも4本の主溝を有し、隣接する主溝間にタイヤ周方向に延びる複数本の周方向陸部が区画形成されると共に、タイヤ幅方向最外側の各主溝とタイヤ幅方向両側の接地端との間にそれぞれショルダー陸部が区画形成され、且つ、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、
前記複数本の周方向陸部のそれぞれに、タイヤ幅方向に延び、車両装着時に車両に対して内側になる主溝に連通する一方で、車両装着時に車両に対して外側になる主溝に連通せずに前記周方向陸部内で終端する複数本のラグ溝のみを、タイヤ周方向に間隔を開けて形成し、タイヤ幅方向両側の前記ショルダー陸部に、タイヤ周方向に延びる周方向細溝を形成すると共に、タイヤ幅方向に延び、前記周方向細溝と接地端とに開口する一方で、前記主溝に開口しないショルダーラグ溝を、タイヤ周方向に間隔を開けて形成し、且つ、少なくとも車両装着時に車両に対して内側になるショルダー陸部に、タイヤ幅方向に延び、前記周方向細溝と接地端とに開口する一方で、前記主溝に開口しないサイプを形成し、タイヤ赤道側の周方向陸部の溝面積比率よりもタイヤ幅方向外側の周方向陸部の溝面積比率が大きく、且つ、タイヤ幅方向最外側の周方向陸部の溝面積比率よりもショルダー陸部の溝面積比率が大きいことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
少なくとも車両装着時に車両に対して外側になるショルダー陸部に、タイヤ周方向に延びる周方向細溝を形成すると共に、タイヤ幅方向に延び、前記周方向細溝と接地端とに開口する一方で、前記主溝に開口しないショルダーラグ溝を、タイヤ周方向に間隔を開けて形成したことを特徴とする請求項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ラグ溝がいずれもタイヤ周方向に対して同じ方向に傾斜していることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記ショルダーラグ溝が前記ラグ溝と同じ方向に傾斜していることを特徴とする請求項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド面にタイヤ周方向に延びる少なくとも4本の主溝を有する空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、乾燥路面での操縦安定性能とウェット路面での走行性能とを両立させながら、騒音性能を向上させることを可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、道路整備の進展や車両の高性能化を受けて、空気入りタイヤに対して、高速走行時における乾燥路面での走行性能(ドライ性能)とウェット路面での走行性能(ウェット性能)とを両立させながら、騒音性能を向上させることが強く求められている。
【0003】
一般に、ウェット性能を向上させる方法としては、タイヤのトレッド面にタイヤ周方向に延びる主溝のほかにタイヤ幅方向に延びるラグ溝やサイプを形成して排水性を確保することが行われている。ところが、このような方法では、トレッド面に形成された陸部の剛性が低下してしまうために、ドライ性能を確保することが難しくなると同時に、騒音性能が悪化するという問題があった。
【0004】
従来、ドライ性能とウェット性能とを両立させながら、騒音性能を向上させるための対策として、タイヤの車両への装着方向を指定したうえで、ラグ溝の形態やその配置を特定することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、特許文献1の構造では、ラグ溝が形成されない陸部が存在するため、ウェット性能が必ずしも充分に得られるとは言えない。また、ラグ溝が少ないことにより陸部の剛性は確保できるものの、ラグ溝による操舵時の手応え感や舵のリニアリティ(操舵時の舵角に対する車両挙動の線形性)は不足するため、ドライ性能のうち、特に、ドライ路面での操縦安定性(ドライ操縦安定性)を充分に向上することが難しくなる。そのため、ドライ性能とウェット性能とを両立させながら、騒音性能を向上させるための更なる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開2010−247759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、乾燥路面での操縦安定性能とウェット路面での走行性能とを両立させながら、騒音性能を向上させることを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、トレッド面にタイヤ周方向に延びる少なくとも4本の主溝を有し、隣接する主溝間にタイヤ周方向に延びる複数本の周方向陸部が区画形成されると共に、タイヤ幅方向最外側の各主溝とタイヤ幅方向両側の接地端との間にそれぞれショルダー陸部が区画形成され、且つ、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、前記複数本の周方向陸部のそれぞれに、タイヤ幅方向に延び、車両装着時に車両に対して内側になる主溝に連通する一方で、車両装着時に車両に対して外側になる主溝に連通せずに前記周方向陸部内で終端する複数本のラグ溝のみを、タイヤ周方向に間隔を開けて形成し、タイヤ幅方向両側の前記ショルダー陸部に、タイヤ周方向に延びる周方向細溝を形成すると共に、タイヤ幅方向に延び、前記周方向細溝と接地端とに開口する一方で、前記主溝に開口しないショルダーラグ溝を、タイヤ周方向に間隔を開けて形成し、且つ、少なくとも車両装着時に車両に対して内側になるショルダー陸部に、タイヤ幅方向に延び、前記周方向細溝と接地端とに開口する一方で、前記主溝に開口しないサイプを形成し、タイヤ赤道側の周方向陸部の溝面積比率よりもタイヤ幅方向外側の周方向陸部の溝面積比率が大きく、且つ、タイヤ幅方向最外側の周方向陸部の溝面積比率よりもショルダー陸部の溝面積比率が大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、上述のように、周方向陸部に形成されるラグ溝がいずれも車両装着時に車両に対して内側になる主溝に開口する一方で車両装着時に車両に対して外側になる主溝に開口しないので、走行時におけるポンピング音やパターンノイズは車両に対して内側に向けて放射されることになり、車外騒音を低減することができる。また、全ての周方向陸部に上述のラグ溝が形成されているので、ウェット路面走行時には、陸部と路面との間に介在する雨水等が車両内側の主溝に向けて効率よく流れ易くなり、ウェット性能を向上することができる。その一方で、ラグ溝はいずれも周方向陸部内で終端し、周方向陸部を分断しないので、各周方向陸部の剛性が確保され、ドライ性能を維持することができる。
【0010】
本発明においては、周方向陸部のそれぞれに前記ラグ溝のみ形成されるので、車外騒音を確実に低減することができる。
【0011】
本発明においては、少なくとも車両装着時に車両に対して外側になるショルダー陸部に、タイヤ周方向に延びる周方向細溝を形成すると共に、タイヤ幅方向に延び、周方向細溝と接地端とに開口する一方で、主溝に開口しないショルダーラグ溝を、タイヤ周方向に間隔を開けて形成することが好ましい。これにより、主溝に起因する気柱共鳴音がショルダーラグ溝を通じて車外に放射されることが無くなる一方で、周方向細溝の溝断面積が小さいために周方向細溝に起因する気柱共鳴音は充分に小さいので、車外騒音を抑制することができる。また、ウェット路面走行時には、周方向細溝とショルダーラグ溝とにより陸部と路面との間に介在する雨水等を排出することができるので、ウェット性能を向上することができる。その一方で、周方向細溝と周方向細溝に隣接する主溝との間に周方向に分断されない陸部が区画形成されるので、この部分の剛性が確保され、ドライ性能を向上することができる。
【0012】
本発明においては、タイヤ赤道側の周方向陸部の溝面積比率よりもタイヤ幅方向外側の周方向陸部の溝面積比率が大きく、且つ、タイヤ幅方向最外側の周方向陸部の溝面積比率よりもショルダー陸部の溝面積比率が大きいので、急激なコーナリングフォースの増大を抑制して、より滑らかな操舵を、つまり、舵のリニアリティを向上させることができる。
【0013】
本発明においては、タイヤ幅方向両側のショルダー陸部に、タイヤ周方向に延びる周方向細溝を形成すると共に、タイヤ幅方向に延び、周方向細溝と接地端とに開口する一方で、前記主溝に開口しないショルダーラグ溝を、タイヤ周方向に間隔を開けて形成し、且つ、少なくとも車両装着時に車両に対して内側になるショルダー陸部に、タイヤ幅方向に延び、周方向細溝と接地端とに開口する一方で、主溝に開口しないサイプを形成しているので、サイプによる排水性能が得られるため、ウェット性能を向上することができる。
【0014】
本発明においては、ラグ溝がいずれもタイヤ周方向に対して同じ方向に傾斜していることが好ましい。このようにラグ溝を配置することで、水深が深い路面等を走行する際にラグ溝を通る水の流れがスムーズになるので、排水性能を向上し、ウェット性能を改善することができる。
【0015】
このとき、更に、ショルダーラグ溝がラグ溝と同じ方向に傾斜していることが好ましい。このようにショルダーラグ溝を配置することで、水深が深い路面等を走行する際にラグ溝及びショルダーラグ溝を通る水の流れがスムーズになるので、排水性能を向上し、ウェット性能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線断面図である。
図2図2は、本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのトレッド面を示す正面 図である。
図3図3は、従来の空気入りタイヤのトレッド面の一例を示す正面図である。
図4図4は、比較例1のトレッドパターンを示す正面図である。
図5図5は、比較例2のトレッドパターンを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1において、空気入りタイヤTは車両に対する装着方向が指定され符号INは車両装着時に車両に対して内側になる側(以下、車両内側という)、符号OUTは車両装着時に車両に対して外側になる側(以下、車両外側という)、符号CLはタイヤ赤道を表わす。この空気入りタイヤTは、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3から構成される。左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図1では2層)のベルト層7,8が埋設されている。各ベルト層7,8は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7,8において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層7,8の外周側にはベルト補強層9が設けられている。ベルト補強層9は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層9において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°〜5°に設定されている。
【0019】
本発明は、このような一般的な空気入りタイヤに適用されるが、その断面構造は上述の基本構造に限定されるものではない。
【0020】
図2に例示するように、本発明の空気入りタイヤのトレッド部1の外表面、即ち、トレッド面10には、タイヤ周方向に延びる複数本(図2では4本)の主溝11が設けられている。この主溝11は、溝幅が例えば5mm〜10mm、溝深さが例えば5mm〜10mmである。隣接する主溝11間には、タイヤ周方向に延びる複数本(図2では3本)の周方向陸部12が区画形成されている。また、タイヤ赤道CLのタイヤ幅方向両側において、タイヤ幅方向最外側の主溝11と接地端Eとの間にショルダー陸部13が区画形成されている。複数本の周方向陸部12には、それぞれ、タイヤ幅方向に延び車両内側の主溝11に連通する一方で、車両外側の主溝11に連通せずに周方向陸部12内で終端する複数本のラグ溝14が、タイヤ周方向に間隔を開けて形成されている。このラグ溝14は、溝幅が例えば2mm〜10mm、溝深さが主溝11よりも浅く、例えば2mm〜8mmである。
【0021】
このような形状のラグ溝14は、車両内側の主溝11のみに開口し、車両外側の主溝11には開口していないので、走行時におけるポンピング音やパターンノイズは車両内側に向けて放射されることになる。そのため、車外騒音が低減され、騒音性能を向上することができる。また、全ての周方向陸部12に、上述の形状のラグ溝14が形成されているので、ウェット路面走行時には、陸部と路面との間に介在する雨水等が車両内側の主溝11に向けて効率よく流れ易くなり、ウェット性能を高めることができる。その一方で、ラグ溝14はいずれも周方向陸部内で終端し、周方向陸部12を分断しないので、各周方向陸部12は、タイヤ周方向に連続的に延在するリブ構造となり、剛性が確保され、ドライ性能を維持することができる。
【0022】
このとき、周方向陸部12に、上述のラグ溝14とは異なる形状の溝、即ち、タイヤ幅方向に延び車両内側の主溝11と車両外側の主溝11に共に連通する溝を形成すると、雨水等の流れは良くなりウェット性能は向上するものの、走行時におけるポンピング音やパターンノイズは車両外側にも放射されることになり、車外騒音を低減することはできない。また、周方向陸部12が周方向に分断されることになるため、周方向陸部12の剛性が低下し、ドライ性能が悪化する。従って、周方向陸部12には、上述のラグ溝14のみを設けることが好ましい。
【0023】
ラグ溝14は、上述のように周方向陸部12内で終端していればよいが、好ましくは、ラグ溝14を周方向に投影した長さL1が、周方向陸部12の幅L2の30%〜70%であるとよい。言い換えれば、ラグ溝14の終端部とそのラグ溝14に連通しない隣接する主溝11との間隔を周方向陸部12の幅の30%〜70%にするとよい。長さL1が周方向陸部12の幅L2の30%より小さいと、ラグ溝14が小さ過ぎるため排水性能を向上する効果が充分に得られない。長さL1が周方向陸部12の幅L2の70%より大きいと、周方向陸部12の剛性が充分に確保することが難しくなる。
【0024】
主溝11は少なくとも4本が形成されていれば、その本数は特に限定されないが、溝による排水性能とトレッド面の剛性との関係から、図2の実施形態のように、4本の主溝11を設けることが好ましい。即ち、3本の周方向陸部12と、そのタイヤ幅方向両側にそれぞれ1本ずつ(計2本)のショルダー陸部13を区画形成することが好ましい。
【0025】
ショルダー陸部13には、図2に例示するように、タイヤ周方向に延びる周方向細溝15とタイヤ幅方向に延びるショルダーラグ溝16とを設けることが好ましい。周方向細溝15は、タイヤ幅方向最外側の主溝11と接地端Eとの間で、タイヤ幅方向最外側の主溝11に沿ってタイヤ周方向に延びる溝である。周方向細溝15の溝幅及び溝深さは、主溝11の溝幅及び溝深さよりも小さくし、例えば溝幅を1mm〜5mm、溝深さを2mm〜8mmにするとよい。一方、ショルダーラグ溝16は、周方向細溝15と接地端Eとに開口する一方で、主溝11に開口しない形状を有する。特に、図2の実施形態では、ショルダーラグ溝16は、周方向細溝15と交差し、周方向細溝15と周方向細溝15に隣接する主溝11(即ち、タイヤ幅方向最外側の主溝11)との間に区画形成される陸部内で終端している。このショルダーラグ溝16は、タイヤ周方向に間隔を開けて複数本が配置される。ショルダーラグ溝16の溝幅は例えば1mm〜5mm、溝深さは例えば2mm〜10mmにするとよい。
【0026】
このような形状の周方向細溝15とショルダーラグ溝16とを設けることで、ショルダーラグ溝16が主溝11に連通しないことにより、主溝11に起因する気柱共鳴音がショルダーラグ溝16を通じて車両外側に放射されることを防ぐことができる。また、周方向細溝15は溝断面積が主溝11よりも小さいため、周方向細溝15に起因する気柱共鳴音は主溝11に起因する気柱共鳴音よりも充分に小さく、ショルダーラグ溝16が周方向細溝15に連通していても、車外騒音が悪化することは無い。そのため、騒音性能を向上することができる。更に、ウェット路面走行時には、周方向細溝15とショルダーラグ溝16とにより陸部と路面との間に介在する雨水等を排出することができるので、ウェット性能も向上することができる。その一方で、周方向細溝15と周方向細溝15に隣接する主溝11(タイヤ幅方向最外側の主溝11)との間に、ショルダーラグ溝16により分断されずタイヤ周方向に連続的に延在するリブ構造の陸部が区画形成されるので、この部分の剛性が確保され、ドライ性能も向上することができる。
【0027】
上述の周方向細溝15とショルダーラグ溝16とは、少なくとも車両内側のショルダー陸部13に形成すればよいが、好ましくは、図2に例示するように、タイヤ幅方向両側のショルダー陸部13にそれぞれ設けると良い。
【0028】
周方向陸部12及びショルダー陸部13のそれぞれの溝面積比率は、タイヤ赤道CL側の周方向陸部12の溝面積比率よりもタイヤ幅方向外側の周方向陸部12の溝面積比率が大きく、且つ、タイヤ幅方向最外側の周方向陸部12の溝面積比率よりもショルダー陸部13の溝面積比率が大きいという傾向を有することが好ましい。図2の実施形態において、タイヤ赤道CL上の周方向陸部12を第1周方向陸部12A、そのタイヤ幅方向両側の周方向陸部12を第2周方向陸部12Bとし、第1周方向陸部12Aの溝面積比率をS1、第2周方向陸部12Bの溝面積比率をS2、ショルダー陸部13の溝面積比率をS3とすると、溝面積比率はS1<S2<S3という大小関係にするとよい。
【0029】
このようにタイヤ赤道CL側に向かって陸部の溝面積比率がより小さくなるように設定することで、急激なコーナリングフォースの増大を抑制して、より滑らかな操舵を、つまり、舵のリニアリティを向上させることができる。溝面積比率の大小関係が上述の関係から外れると、コーナリングフォースの増大を充分に抑制できなくなる。
【0030】
尚、本発明において、溝面積比率とは、接地面における各陸部(周方向陸部12、ショルダー陸部13)の面積に対する各陸部(周方向陸部12、ショルダー陸部13)に含まれるラグ溝14又は周方向細溝15及びショルダーラグ溝16(及び後述のサイプ17)の総面積の割合である。また、接地領域とは、JATMA規定の最大負荷能力に対応する空気圧をタイヤに充填して静止した状態で平板上に垂直に置き、最大負荷能力の80%に相当する荷重を負荷させたときの平板上に形成される接地面である。
【0031】
図2に例示するように、タイヤ幅方向両側のショルダー陸部13にショルダーラグ溝16を形成する場合、更に、少なくとも車両内側のショルダー陸部13に、タイヤ幅方向に延び、周方向細溝15と接地端Eとに開口する一方で、主溝11に開口しないサイプ17を形成することが好ましい。より好ましくは、図2に例示するように、サイプ17を隣接する2本のショルダーラグ溝16の中間に1本ずつ配置するとよい。
【0032】
このような形状のサイプ17を設けることで、ウェット路面走行時の排水性能を向上することができる。また、特にサイプ17を車両内側のショルダー陸部13に設けることで、ネガティブキャンバーに設定された際に接地圧が高くなる車両内側の陸部が動き易くなり、偏摩耗を抑制することができる。
【0033】
尚、本発明において、サイプ17とは、溝幅が0.6mm〜1.2mmで、溝深さが1mm〜5mmの微細な溝である。
【0034】
ラグ溝14は、図2に例示するように、タイヤ周方向に対して傾斜していることが好ましい。その傾斜方向は、ラグ溝14が形成される周方向陸部12の位置によらず、いずれも同じ方向であることが好ましい。このときラグ溝14のタイヤ幅方向に対する傾斜角度θ1は例えば15°〜45°にするとよい。このようにラグ溝14を配置することで、水深が深い路面等を走行する際にラグ溝14を通る水の流れがスムーズになるので、排水性能を向上し、ウェット性能を改善することができる。
【0035】
ショルダーラグ溝16についても、図2に例示するように、タイヤ周方向に対して傾斜していることが好ましい。特に、ショルダーラグ溝16の傾斜方向を、ラグ溝14と同じ方向にするとよい。このときショルダーラグ溝16の傾斜角度θ2は、ラグ溝14の傾斜角度θ1と同等もしくは小さくし、例えば15°〜30°にするとよい。このようにラグ溝及びショルダーラグ溝を配置することで、水深が深い路面等を走行する際にラグ溝及びショルダーラグ溝を通る水の流れがスムーズになるので、排水性能を向上し、ウェット性能を改善することができる。
【実施例】
【0036】
タイヤサイズが215/45R17 87Wであり、図1に例示する断面形状を有し、基調とするトレッドパターン、周方向細溝の有無、ショルダーラグ溝の形状、周方向陸部(第1周方向陸部、車両内側の第2周方向陸部、車両外側の第2周方向陸部)及びショルダー陸部(車両内側、車両外側)の溝面積比率、サイプの有無、ラグ溝の傾斜方向、ラグ溝の傾斜方向に対するショルダーラグ溝の傾斜方向をそれぞれ表1のように設定した従来例1、比較例1〜2、実施例1〜3、参考例1〜6の12種類の空気入りタイヤを作製した。
【0037】
尚、従来例1の空気入りタイヤは、図3に例示するトレッドパターンを有するタイヤである。具体的には、トレッド面にタイヤ周方向に延びる4本の主溝を有し、隣接する主溝間に3列の陸部が区画形成されている。これら3列の陸部は、タイヤ幅方向に延び、車両内側及び車両外側の主溝にそれぞれ連通する複数本のラグ溝により周方向に分断され、ブロック列を成している。同様に、タイヤ幅方向最外側の主溝とタイヤ幅方向両側の接地端との間に区画形成されたショルダー陸部も、タイヤ幅方向に延び、主溝と接地端にそれぞれ開口するショルダーラグ溝により周方向に分断され、ブロック列を成している。本発明のタイヤとは異なり、ショルダー陸部に周方向細溝は形成されていない。また、表1に示すように、ラグ溝の傾斜方向は、陸部ごとに異なり、隣接する陸部どうしでラグ溝の傾斜方向が逆向きになっている。
【0038】
また、比較例1,2の空気入りタイヤは、図4,5に例示するように、第1周方向陸部又は第2周方向陸部のいずれかに形成されるラグ溝が車両内側及び車両外側の主溝に連通することで、第1周方向陸部又は第2周方向陸部が周方向に分断され、ブロック列を成す構造になっている。具体的には、比較例1(図4)の空気入りタイヤでは、第1周方向陸部がラグ溝により周方向に分断されてブロック列となり、比較例2(図5)の空気入りタイヤでは、第2周方向陸部(車両内側及び車両外側)がラグ溝により周方向に分断されてブロック列となっている。これら比較例1,2(図4,5)のタイヤは、上述の点以外は、実施例1(図2)のタイヤと同じ構造である。
【0039】
表中の「ラグ溝の傾斜方向」の欄では、第1周方向陸部及び第2周方向陸部に形成されたラグ溝の傾斜方向が全て揃っている場合を「一致」、第1周方向陸部又は第2周方向陸部(車両内側、車両外側)のいずれかに形成されたラグ溝が他の周方向陸部に形成されたラグ溝と傾斜方向が揃っていない場合を「不一致」として示した。また、「ショルダーラグ溝の傾斜方向」の欄では、第1周方向陸部及び第2周方向陸部に形成されたラグ溝の傾斜方向が全て揃っている場合に、ショルダーラグ溝もラグ溝と同じ方向に傾斜している場合を「一致」として示し、異なる方向に傾斜している場合を「不一致」として示した。
【0040】
これら12種類の空気入りタイヤについて、下記の評価方法により、騒音性能、ドライ操縦安定性能、ウェット性能を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0041】
騒音性能
各試験タイヤをリムサイズ17×7Jのホイールに組み付けて、空気圧を250kPaとして排気量1.8Lの試験車両(前輪駆動車)に装着し、欧州通過音規制に対応したEEC/ECEタイヤ単体騒音規制に基づく測定方法に準拠して通過音を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、従来例1を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど通貨騒音が小さく、騒音性能が優れていることを意味する。
【0042】
ドライ操縦安定性能
各試験タイヤをリムサイズ17×7Jのホイールに組み付けて、空気圧を230kPaとして排気量1.8Lの試験車両(前輪駆動車)に装着し、乾燥したアスファルト路面からなるテストコースにおいて、速度を60km/h〜140km/hの範囲内で変化させながら走行させ、3名のテストドライバーによる官能評価を実施した。評価結果は、官能評価の評価点を指数化し、従来例1を100とする指数値にて示した。この指数値が大きいほどドライ操縦安定性能が優れていることを意味する。
【0043】
ウェット性能
各試験タイヤをリムサイズ17×7Jのホイールに組み付けて、空気圧を230kPaとして排気量1.8Lの試験車両(前輪駆動車)に装着し、水深2mm〜3mmのアスファルト路面からなるテストコースにおいて、速度を40km/h〜80km/hの範囲内で変化させながら走行させ、3名のテストドライバーによる官能評価を実施した。評価結果は、官能評価の評価点を指数化し、従来例1を100とする指数値にて示した。この指数値が大きいほどウェット操縦安定性能が優れていることを意味する。
【0044】
【表1】
【0045】
表1から明らかなように、実施例1〜はいずれも従来例1に対して、ウェット性能を高度に維持しながら、騒音性能及びドライ操縦安定性能を向上した。
【0046】
一方、第1周方向陸部または第2周方向陸部に形成されたラグ溝のいずれかが、車両内側及び車両外側の主溝に開口している比較例1,2は、騒音性能、ドライ操縦安定性能、及び、ウェット性能を向上する効果が殆ど得られなかった。
【符号の説明】
【0047】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7,8 ベルト層
9 ベルト補強層
10 トレッド面
11 主溝
12 周方向陸部
12A 第1周方向陸部
12B 第2周方向陸部
13 ショルダー陸部
14 ラグ溝
15 周方向細溝
16 ショルダーラグ溝
17 サイプ
CL タイヤ赤道
E 接地端
図1
図2
図3
図4
図5