(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6436091
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】ポリオレフィン糸条及び製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/04 20060101AFI20181203BHJP
【FI】
D01F6/04 B
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-548583(P2015-548583)
(86)(22)【出願日】2013年12月19日
(65)【公表番号】特表2016-507662(P2016-507662A)
(43)【公表日】2016年3月10日
(86)【国際出願番号】EP2013077449
(87)【国際公開番号】WO2014096228
(87)【国際公開日】20140626
【審査請求日】2016年11月15日
(31)【優先権主張番号】12198531.1
(32)【優先日】2012年12月20日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】マリッセン, ルーロフ
(72)【発明者】
【氏名】フェルダースドンク, ペト
(72)【発明者】
【氏名】ハイネン, ヨハネス ヘンドリクス マリー
【審査官】
清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−248345(JP,A)
【文献】
特開平06−346332(JP,A)
【文献】
特表2007−522351(JP,A)
【文献】
特表2010−507026(JP,A)
【文献】
特表2003−528994(JP,A)
【文献】
米国特許第06448359(US,B1)
【文献】
特開2011−111830(JP,A)
【文献】
特表2014−517882(JP,A)
【文献】
米国特許第09121115(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0115099(US,A1)
【文献】
特表2007−517992(JP,A)
【文献】
特開2006−342444(JP,A)
【文献】
特表2008−517168(JP,A)
【文献】
特開平10−168648(JP,A)
【文献】
特表2008−517167(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/028590(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00−6/96
9/00−9/04
D02G 1/00−3/48
D02J 1/00−13/00
D03D 1/00−27/18
D04B 1/00−1/28
21/00−21/20
D04H 1/00−18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも30cN/dtexの引張り強さを有し、且つ、複数の紡糸超高分子量ポリエチレンフィラメントを含むマルチフィラメント糸条において、前記紡糸超高分子量ポリエチレンフィラメントのいずれか一つの繊度は、少なくとも10dtexであることを特徴とする、マルチフィラメント糸条。
【請求項2】
少なくとも35cN/dtexの引張り強さを有する、請求項1に記載の糸条。
【請求項3】
前記紡糸超高分子量ポリエチレンフィラメントのいずれか一つの繊度は、少なくとも12dtexである、請求項1又は2に記載の糸条。
【請求項4】
少なくとも50dtexの繊度を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の糸条。
【請求項5】
天然材料から製造されるフィラメントを更に含み、前記天然材料は、セルロース、綿、麻、ウール、絹、ジュート、サイザル、ココヤシ、及びリネンからなる材料の群から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の糸条。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の糸条を含む布地。
【請求項7】
請求項6に記載の布地を含む手袋。
【請求項8】
釣り糸及び魚網、接地網、貨物ネット及びカーテン、凧線、デンタルフロス、テニスラケットストリング、キャンバス、不織布及びその他の種類の布地、帯ひも、電池セパレータ、コンデンサ、圧力容器、ホース、アンビリカルケーブル、電気的光ファイバ、及び信号ケーブル、自動車機器、動力伝達ベルト、建築構造材料、切創及び刺傷耐性並びに切開耐性物品、保護手袋、複合材スポーツ用品、ヘルメット、カヤック、カヌー、自転車、並びにボート船体及びスパー、スピーカーコーン、高性能絶縁物、レードーム、帆、及びジオテキスタイルからなる製品の群から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の糸条を含む製品。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のマルチフィラメント糸条の紡糸UHMWPEモノフィラメントであって、前記モノフィラメントは、少なくとも30cN/dtexの引張り強さと少なくとも10dtexの繊度を有するゲル紡糸モノフィラメントである、紡糸UHMWPEモノフィラメント。
【請求項10】
前記モノフィラメントは、少なくとも5.0Nの強度を有する、請求項9に記載のモノフィラメント。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、高強度を有するマルチフィラメント超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)糸条、及びその製造方法に関する。本発明は、更に、前述の糸条を含む様々な製品、特に、例えば、手袋、エプロン、革ズボン、ズボン、ブーツ、ワニ皮製品(gators)、シャツ、上着、コート、靴下、靴、下着、ベスト、防水ズボン、帽子、長手袋等などの、衣類又は頑丈な上着の物品などの耐切創性が望まれる用途における前述の糸条の使用に関する。本発明は、更に、前述のマルチフィラメント糸条に含まれるモノフィラメントに関する。
【0002】
例えば、マルチフィラメントUHMWPE糸条は、例えば、高い引張り強さ、弾性率、摩耗及びクリープ耐性などの、非常に良好な機械的及び物理的特性を有する高性能マルチフィラメントポリエチレン糸条が開示されている国際公開第2005/066401号パンフレットで知られている。又、国際公開第2005/066401号パンフレットの糸条は、数多くのフィラメントを含む場合でさえも、良好な特性を維持し、様々な半仕上げ物品及び最終用途物品への使用に非常に適しており、その例としては、ロープ、コード、魚網、スポーツ用品、医療インプラント、及び耐弾道性複合材が挙げられる。
【0003】
前述の半仕上げ物品及び最終用途物品の中で、切創に対して着用者を保護するために使用される衣類又は頑丈な上着の物品は、特別な部類を形成する。例えば、食品を取り扱い加工する場合など、個人によって着用される手袋及びその他の保護衣類の耐切創性は、特定の業界にとって、その使用に少なくとも適する一定水準を超える必要がある。わかりやすい例は食肉加工業であり、ここでは耐切創性の水準の増加とともに、保護物品は着用者が器用な動きをし触って感知できる感度を得るようにする必要がある。
【0004】
結果として、国際公開第2005/066401号パンフレットの周知のマルチフィラメント糸条は、一連の非常に良好な特性を示しているが、いくつかの用途、特に耐切創性用途においては、最適な性能が低下する場合があることが認められた。従って、これを含む製品に対する最適な耐切創性を提供するために、周知の糸条を更に向上させる必要がある。特に、より用途が広い耐切創性布地、即ち、耐切創の特性が主として必要とされるより広い範囲の用途に使用可能である布地が必要である。
【0005】
従って、本発明は、高い引張り強さ、例えば、好ましくは少なくとも30cN/dtexの引張り強さを有し、且つ、複数の紡糸超高分子量ポリエチレンフィラメントを含むマルチフィラメント糸条であって、前記紡糸フィラメントのいずれか一つの繊度は、少なくとも10dtexであることを特徴とする、マルチフィラメント糸条を提供する。
【0006】
本発明の糸条、以下、本発明による糸条は、高い耐損傷性及び化学的耐性を有し、且つ、耐切創性及び/又は快適性が向上した、これを含む製品を提供することが認められた。特に、本発明による糸条を含む布地を含む製品は、布地の表面における液体の堆積に対して最適な耐性を有することから、油状の又は湿潤した物品を取り扱う際に非常に良好に機能することが認められた。
【0007】
本明細書においては、フィラメントとは、その長さ寸法が、例えば、幅と厚さの直径又は寸法などの横寸法に比べてはるかに大きい細長体と理解される。通常、フィラメントの横寸法は、前述の断面の最も高い寸法のその最も低い寸法に対する比が、多くとも5、好ましくは多くとも3であるものである。モノフィラメントとも称されるフィラメントは、複数のフィラメントが集合してモノフィラメント状の生成物になるものとは対照的に、1つの紡糸孔を介する紡糸プロセスによって得られる一体の細長体であるものと理解される。又、用語フィラメントは、繊維の実施形態を含み、且つ、規則的又は不規則的な断面を有することができる。通常、フィラメントは、連続長を有するが、特定の利用においては、加工されて、いわゆる、短繊維、即ち、一般的にフィラメントの切断又はけん切によって得られる不連続長を有するフィラメントを形成することができる。本発明の目的に向けた糸条は、複数の個々のフィラメントを含む細長体である。
【0008】
好ましくは、本発明による糸条のフィラメントは、少なくとも12dtex、より好ましくは少なくとも14dtex、更により好ましくは少なくとも16dtex、より好ましくは少なくとも18dtex、最も好ましくは少なくとも22dtexの繊度を有する。
【0009】
好ましくは、本発明による糸条の引張り強さは、少なくとも35cN/dtex、より好ましくは少なくとも40cN/dtex、最も好ましくは少なくとも45cN/dtexある。耐切創性保護衣類への使用に非常に適していることに加えて、この高い引張り強さの糸条は、弾道衝撃に対して保護されるように設計された衣類への使用にも適していることが認められた。
【0010】
好ましくは、本発明による糸条は、少なくとも50dtex、より好ましくは少なくとも100dtex、最も好ましくは少なくとも400dtexの繊度を有する。好ましくは、実用的な理由で、本発明による糸条は、多くとも5000dtex、より好ましくは多くとも4000dtex、最も好ましくは多くとも3000dtexの繊度を有する。好ましくは、本発明による糸条は、少なくとも5、より好ましくは少なくとも24、最も好ましくは少なくとも80のいくつかのフィラメントを有する。本発明のより高い繊度の糸条は、必要資本及び必要エネルギーが少ないプロセスによって製造されることができることが認められた。
【0011】
好ましい実施形態においては、本発明による糸条は、少なくとも12dtex、より好ましくは少なくとも15dtex、最も好ましくは少なくとも20dtexの繊度を有するフィラメントによって少なくとも30cN/dtexの引張り強さを有する。こうした糸条は、切創に対して耐性が高まった、これを含む製品を提供することが認められた。
【0012】
別の態様においては、本発明は、例えば、好ましくは少なくとも35cN/dtexの引張り強さなどの高い引張り強さを有し、且つ、紡糸超高分子量ポリエチレンフィラメントのいずれか一つの繊度は、少なくとも10dtex、より好ましくは少なくとも12dtex、最も好ましくは少なくとも15dtexであることを特徴とする複数の前述の紡糸フィラメントを含むマルチフィラメント糸条を提供する。こうした糸条は、弾道衝撃に対して耐性を有するこれを含む製品を提供することが認められた。
【0013】
別の実施形態においては、本発明による糸条は、硬質充填剤を含むフィラメントを含む。本明細書において、硬質充填剤とは、少なくとも2.5、より好ましくは少なくとも4、最も好ましくは少なくとも6のモース硬度を有する充填剤と理解される。適切な硬質充填剤の良い例としては、ガラス充填剤、鉱物充填剤、又は金属充填剤が挙げられる。充填剤は、例えば、微粒子形状、小平板、針状、繊維状などの任意の形状を有することができる。好ましい実施形態においては、硬質充填剤は、多くとも20ミクロン、より好ましくは多くとも15ミクロン、最も好ましくは多くとも10ミクロンの平均直径を有する繊維状の形状を有する。好ましくは、硬質の繊維状充填剤は、少なくとも3、より好ましくは少なくとも6、更により好ましくは少なくとも10の平均アスペクト比を有し、この場合に、このアスペクト比は、硬質の繊維状充填剤の長さと直径との比である。硬質の繊維状充填剤の直径とアスペクト比は、走査電子顕微鏡法(SEM)画像を用いることによって容易に求めることができる。直径の場合には、そのまま充填剤のSEM画像を作製し、表面に渡って広げ、100のランダムに選択された位置で直径を測定し、次いでこうして得られた100の値の平均を算出することが可能である。アスペクト比の場合には、1つ以上の繊維状充填剤のSEM画像を作製し、硬質繊維の長さを測定することが可能である。好ましくは、SEM画像は、後方散乱電子で作製される。好ましくは、硬質の繊維状充填剤は、紡糸技術によって製造される。こうした充填剤の利点は、その直径が、耐切創性製品用の優れた特性を有する本発明による糸条を提供することができる実質的に一定の値を有することである。
【0014】
又、本発明は、例えば、好ましくは少なくとも12cN/dtex、より好ましくは少なくとも15cN/dtex、最も好ましくは少なくとも17cN/dtexの引張り強さなどの高い引張り強さを有し、且つ、紡糸超高分子量ポリエチレンフィラメントのいずれか一つの繊度は、少なくとも10dtexであることを特徴とする複数の前述の紡糸フィラメントを含むマルチフィラメント糸条に関し、この場合に、前述のフィラメントは硬質充填剤を含む。硬質充填剤の好ましい実施形態は、前述で開示されている。好ましくは、前述のフィラメントのdtexは、少なくとも12、より好ましくは少なくとも14、更により好ましくは少なくとも16、最も好ましくは少なくとも18である。
【0015】
又、本発明による糸条は、UHMWPE以外の合成材料から製造されるフィラメントを含むことができるが、又、天然材料から製造され、且つ、好ましくは不連続長、即ち天然短繊維を有するフィラメントを含むことができる。天然短繊維の例としては、これらに限定されるものではないが、セルロース、綿、麻、ウール、絹、ジュート、サイザル、ココヤシ、リネン等の繊維が挙げられ、綿が好ましい。天然フィラメントの例としては、金属ワイヤー、ガラスフィラメント等が挙げられる。本発明の綿を含む糸条及びフィラメントは、非常に良好な快適性を示すことが認められた。合成ポリマーのフィラメントの例としては、これらに限定されるものではないが、例えば、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)(Kevlar(登録商標)として知られる)などのポリアミド及びポリアラミド、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、ポリ{2,6−ジイミダゾ−[4,5b−4’,5’e]ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン}(M5として知られる)、ポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)(PBO)(Zylon(登録商標)として知られる)、ポリ(ヘキサメチレンアジプアミド)(ナイロン6,6として知られる)、ポリ(4−アミノ酪酸)(ナイロン6として知られる)、例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、及びポリ(1,4シクロヘキシリデンジメチレンテレフタラート)などのポリエステル、ポリビニルアルコールから製造されるものが挙げられる。合成フィラメントの好ましい例としては、連続長及び/又は不連続長を有するポリエステルフィラメント及び/又はポリアミドフィラメントが挙げられる。
【0016】
又、本発明は、本発明による糸条を含む布地に関する。
【0017】
本発明の布地、以下、本発明による布地は、例えば、織り構造、編み構造、組み(plaited)構造、組み(braided)構造、又は不織構造、或いはそれらの組み合わせなどの当技術分野において周知の任意の構造であることができる。織布としては、平織り、畝織り、斜子織り、及び綾織りの布地等を挙げることができる。編布としては、例えば、シングルジャージー又はダブルジャージーの布地などの横編み、或いは縦編みであることができる。不織布の例はフェルト布地である。織布、編布、又は不織布の更なる例、並びにその製造法は、「工業用織物ハンドブック(Handook of Technical Textiles)」、ISBN978−1−59124−651−0の第4章、第5章、及び第6章に記載されており、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。組み布の説明及びその例は、同ハンドブックの第11章、より詳しくは段落11.4.1に記載されており、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0018】
好ましくは、本発明による布地は、編布、より好ましくは織布であり、更により好ましくは、織布は、単位長当たり及び断面直径全体で軽い重量で構成される。こうした布地は、同一構造からなる周知の布地と比較した場合、耐切創性が向上するとともに、単位被覆表面積当たりの低い重量、並びに柔軟性及び柔らかさの程度が増加したことを示すことが認められた。
【0019】
本発明は、更に、物品、特に、本発明による布地を含む衣類又は頑丈な上着の物品に関する。こうした物品の例としては、これらに限定されるものではないが、手袋、エプロン、革ズボン、ズボン、ブーツ、ワニ皮製品(gators)、シャツ、上着、コート、靴下、靴、下着、ベスト、防水ズボン、帽子、長手袋等が挙げられる。
【0020】
又、本発明は、衣類又は頑丈な上着の物品における、特に本明細書の前述の例における本発明による布地の使用に関する。
【0021】
特に、本発明は、本発明の布地を含む手袋に関する。本発明の手袋は、良好な快適性、更に通気性を示すことができることが認められた。好ましくは、本発明による手袋によって含まれる布地は、手袋の装着性及び柔軟性を高める編布である。
【0022】
本発明による糸条は、ロープ、索具等、好ましくは、例としては、海洋、工業、及び沖合における作業などの重負荷作業用に設計されたロープへの使用に対して興味ある材料になる特性を有することが認められた。重負荷作業としては、錨の取り扱い、沖合の再生可能なエネルギー生産のための支持プラットフォームの係留、沖合の油掘削装置及び生産プラットフォームの係留等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
又、本発明による糸条は、ホース、パイプ、電気及び光学ケーブルなどの補強された製品用の、特に深海の環境において使用される補強された製品用の補強体として使用することに非常に適している。従って、本発明は又、補強体を含む補強された製品に関し、この場合に、補強体は本発明による糸条を含む。
【0024】
又、本発明は、本発明による糸条を含む医療器具に関する。好ましい実施形態においては、医療器具は、ケーブル又は縫合糸であり、好ましくはインプラントで使用される。その他の例としては、メッシュ、エンドレスループ製品、バッグ状又は風船状の製品に加えて、その他の織られた及び/又は編まれた製品が挙げられる。ケーブルの良好な例としては、外傷固定ケーブル、胸骨閉鎖ケーブル、及び、予防的である、補綴ケーブル、長骨骨折固定ケーブル、短骨骨折固定ケーブルが挙げられる。又、例えば、靱帯代替物などのためのチューブ状の製品は、本発明による糸条から好適に製造される。本発明による糸条から作製されるこうした製品は、荷重を保持する表面とヒト又は動物体に曝される表面との間の効率的な比を示す。本発明による糸条は、侵入を受けやすくなく、又、滅菌剤で簡単に洗い流すことができることが更に認められた。
【0025】
本発明は、更に、本発明による糸条を含む複合材物品に関する。好ましくは、本発明による複合材物品は、複数の層を含み、この場合に、前述の層はそれぞれ、本発明による糸条を含み、前述の糸条は、好ましくは、一方向性(UD)層としても知られる平行配列で配置される。複層の複合材物品は、例えば、防護服、ヘルメット、硬質で可撓性のシールドパネル、装甲車両用のパネル等などの弾道用途に非常に有用であることが判明した。従って、本発明は又、本発明による糸条を含む前述で列挙されたものである耐弾道性物品に関する。
【0026】
又、例えば、釣り糸及び魚網、接地網、貨物ネット及びカーテン、凧線、デンタルフロス、テニスラケットストリング、キャンバス(例えばテントキャンバス)、不織布及びその他の種類の布地、帯ひも、電池セパレータ、コンデンサ、圧力容器、ホース、(沖合の)アンビリカルケーブル、電気的光ファイバ、及び信号ケーブル、自動車機器、動力伝達ベルト、建築構造材料、切創及び刺傷耐性並びに切開耐性物品、保護手袋、スキーなどの複合材スポーツ用品、ヘルメット、カヤック、カヌー、自転車、並びにボート船体及びスパー、スピーカーコーン、高性能絶縁物、レードーム、帆、ジオテキスタイル等などのようなその他の用途への使用にも、本発明による糸条は適切であることが認められた。従って、本発明は又、本発明の糸条を含む前述で列挙された用途に関する。
【0027】
又、本発明は、釣り糸、凧糸、及びヨットの糸条を含む、本発明による糸条を含むスポーツ用品に関する。又、本発明は、本発明による糸条を含む壁部を有する貨物コンテナに関する。
【0028】
本発明の別の態様においては、マルチフィラメント糸条は、例えば、好ましくは少なくとも30cN/dtex、より好ましくは少なくとも35cN/dtexの引張り強さなどの高い引張り強さ、並びに、少なくとも10dtex、より好ましくは少なくとも12dtex、最も好ましくは少なくとも15dtexの繊度を有するゲル紡糸UHMWPEモノフィラメントを含む。切断要素として本発明のモノフィラメントを使用する切断装置は、特に、例えば、ゆで卵又はチーズ製品を切るなどの、食品産業において優れた有利性を示すことが認められた。特に切断装置が洗浄可能であることが最も有利であると認められた。
【0029】
従って、本発明は又、ゲル紡糸UHMWPEモノフィラメント、並びに、切断要素、即ち、より小さい断面に分けるために使用される要素を含む切断装置、切断される製品に関し、前述の切断要素は、本発明による糸条のいずれか一つを含み、好ましくは前述の切断要素は、本発明によるゲル紡糸モノフィラメントを含む。
【0030】
本発明の一実施形態においては、ゲル紡糸UHMWPEモノフィラメントは、少なくとも4.0N、好ましくは少なくとも4.5N、より好ましくは少なくとも5.0N、更により好ましくは少なくとも6.0N、最も好ましくは少なくとも7Nの1フィラメント当たりの強度を有する。強度要素として本発明のモノフィラメントを含む糸条は、特に、例えば、多色布地などの縫製布において、又は釣り糸として、有利性を示すことが認められた。特に、本発明によるモノフィラメントは、微細さ及び透明性のために、人の目にほとんど見えない縫い目を提供することが認められた。好ましくは、本発明のこの実施形態によるモノフィラメントは、少なくとも20cN/dtex、より好ましくは25cN/dtex、及び最も好ましくは30cN/dtexの引張り強さを有する。より高い引張り強さを有するモノフィラメントは、人の目に更によりほとんど見えない縫い目を提供することが認められた。従って、本発明は又、本発明による少なくとも1つのモノフィラメントを含む糸条に関し、好ましくは、糸条は、本発明によるモノフィラメントから実質的になる。
【0031】
本発明は、更に、複数のUHMWPE紡糸フィラメントを含む糸条を製造する方法に関し、この方法は、以下の順序で、
a.UHMWPEを適切な溶媒、好ましくはデカリンに溶解した溶液を提供する工程と、
b.前述の溶液を複数の孔を含むダイを通過させる工程であって、孔が、第1の速度で前述の溶液を放出して前述の溶液を含む複数のフィラメントを形成し、孔はそれぞれ、出口直径
【数1】
を備える出口を有し、前述のフィラメントはそれぞれ、前述のキャピラリの出口で測定される直径D
filを有する工程と、
c.前述の溶液を含むフィラメントを冷却浴、好ましくは冷却水浴に浸漬させ、第2の速度で回転する巻き取りロールに対して、前述の浸漬させたフィラメントを巻き取る工程と、
d.浴から前述のフィラメントを取り出して紡糸フィラメントを形成し、溶媒を少なくとも部分的に抽出し、前述の抽出の前、間、及び/又は後に、少なくとも1つの延伸工程にて前述の紡糸フィラメントを延伸する工程と、
を含み、
この場合に、工程b)は、第2の速度と第1の速度の間の比
として定義され
るドローダウン(DD
op)
が、レゾナンスドローダウンDDresの20%〜90%にて作動され、
DD
resは、D
filが最大値
【数2】
及び最小値
【数3】
の間で少なくとも25%の割合で1分当たり変動する
ときの第2の速度と第1の速度の間の比であり、この割合は、式1
【数4】
を用いて算出され、式中、
【数5】
は、1分間に記録される少なくとも10回の測定数から算出されるD
filの平均値である。
【0032】
本発明による方法は、フィラメント破損量が減少し、非常に安定であり、且つ/又は、糸条のすべてのフィラメントについて同様な延伸パターンを可能にすることが認められた。又、本発明による方法は、強度及びフィラメントの繊度の最適な組み合わせを有する糸条の生産を可能にする。
【0033】
本発明による方法によれば、工程b)で、孔はそれぞれ、第1の速度で溶液を放出し、1孔当たりの溶液の体積流量と孔の面積
【数6】
の間の比として算出される。1孔当たりの溶液の体積流量は、ダイに入る前の溶液の体積流量を孔の数で割ることによって容易に求めることができる。ダイに入る前の溶液の体積流量は、紡糸ポンプ又は押し出し機を使用することによって、容易に設定することができる。好ましくは、すべての孔は、仮に異なる直径を有する孔が使用されても、本質的に同一であり、本明細書において前述の値は、平均値として理解される。
【0034】
工程c)では、浸漬されたフィラメントは、第2の速度で回転するロールに対して巻き取られる。本明細書において速度とは、前述のロールの表面速度と理解される。前述の速度は、前述のロールを駆動するための駆動モーターを使用することによって容易に調整されることができる。
【0035】
本発明による方法によれば、DD
resは、D
filの1分当たりの変動を分析することにより求められる。D
filは、校正した写真より、又は校正したビデオカメラを使用することによって容易に求められることができる。D
filはmmで表される。本発明においては、
【数7】
は、少なくとも25%、より好ましくは少なくとも30%、更により好ましくは少なくとも40%、最も好ましくは少なくとも50%である。DD
resを求めるためにより高い閾値を選択することによって、本発明による方法の利点がより顕著であることが認められた。特に
DDresの40%〜90
%、より好ましくは
DDresの50%〜90
%、最も好ましくは
DDresの60%〜90%
であるDD
opの場合、本発明による方法はその最適条件
で作動した。
【0036】
前述において定義されるように、本発明による方法の工程b)が作動するドローダウン(DD
op)は、例えば、初めにドローダウンを増加させてドローダウン
レゾナンスに到達し、次いで、例えば、多くと
もDD
resの90%などの必要な値までドローダウンを低減させることによって容易に設定することができる。好ましくは、DD
opは、多くとも
DDresの85%、より好ましくは多くとも80%、最も好ましくは多くとも75
%である。本発明による方法の安定性は、ドローダウンを低下させながら、増加することが認められた。又、DD
opは、少なくとも
DDresの20%、好ましくは少なくとも40%、最も好ましくは少なくとも60
%である。DD
opのこうした値は、当技術分野において新規であり一般的な理解を許さず、その理由は、UHMWPOフィラメントを製造する現在の紡糸プロセスは、多くと
もDD
resの5%の範囲でのDD
opの値を使用するからである。DD
resから非常に離れたDD
opの値を使用することに通じる一般的な考えは、プロセスがより安定であり、DD
opを増加させることによって、不安定性及びフィラメント破損がもたらされるに過ぎないことである。しかしながら、本発明者らは、それとは反対に本発明による方法の高い安定性を実証し実現した。
【0037】
好ましくは、孔それぞれの
【数8】
は、少なくとも1.5mm、より好ましくは少なくとも2mm、最も好ましくは少なくとも3mmである。好ましくは、前述の
【数9】
は、多くとも5mm、より好ましくは多くとも4mm、最も好ましくは多くとも3.5mmである。こうした大きい直径の孔ですら、本発明による方法は、DD
resにより近いDD
opを使用する場合でさえも、非常に安定であることが認められた。好ましくは、孔はそれぞれ、少なくとも1.5mm、より好ましくは少なくとも2mm、最も好ましくは少なくとも3mmの実質的に一定の直径を有するキャピラリを含み、この場合に、キャピラリの前述の直径は、
【数10】
に等しい。好ましくは、前述の直径は、多くとも5mm、より好ましくは多くとも4mm、最も好ましくは多くとも3.5mmである。本発明による方法は、2mm〜4mm、最も好ましくは2.5mm〜3.5mm、最も好ましくは約3mmの直径を有するキャピラリに対して非常に良好な結果を提供することが認められた。好ましくは、前述のキャピラリは、少なくとも1.5、より好ましくは少なくとも2.0、最も好ましくは少なくとも2.5の
【数11】
比を有し、Lはキャピラリの長さである。好ましくは、前述の
【数12】
比は、多くとも10、より好ましくは多くとも7.5、最も好ましくは多くとも5である。
【0038】
又、孔は、いわゆる収縮ゾーン、即ち直径D
0から
【数13】
までの直径において段階的な減少を有するゾーンを含むことができる。好ましくは、収縮ゾーンは、8〜75°の範囲の角度を有する。又、孔は、すぐ上にて定義されたキャピラリを含むことが好ましく、この場合に、好ましくは、収縮ゾーンはキャピラリの上流に配置される。
【0039】
本発明による方法の工程b)では、UHMWPE溶液は、好ましくは少なくとも1.4g/分/孔、より好ましくは少なくとも2.0g/分/孔、更により好ましくは少なくとも2.4g/分/孔の第1の流速で、ダイの孔を通過させられる。好ましくは、前述の第1の流速は、2.0g/分/孔〜8.0g/分/孔、より好ましくは、2.4g/分/孔〜7.7g/分/孔である。
【0040】
本明細書に記載の本発明によるプロセスは、本発明によるマルチフィラメント糸条並びに本発明によるモノフィラメント、両方の生産を可能にすることができる。ここで、押し出されたフィラメントは、糸条の束として本明細書において記載されるように加工されることができ、或いは、プロセスの任意の段階で、1つ以上のモノフィラメントと、モノフィラメントの残りからなるマルチフィラメント糸条の任意の残りに分かれることができる。
【0041】
好ましくは、以下、流体フィラメントとしても称される、溶液含有フィラメントは、本発明によるプロセスの工程b)で空隙に放出される。好ましくは、前述の流体フィラメントは、好ましくは少なくとも8、より好ましくは少なくとも12、更により好ましくは少なくとも14、更により好ましくは少なくとも16、最も好ましくは少なくとも18の延伸比で空隙において延伸される。好ましくは、空隙は、1mm〜20mm、より好ましくは2mm〜15mm、更により好ましくは2mm〜10mm、最も好ましくは2mm〜5mmの長さを有する。こうした好ましい空隙の長さは、糸条の引張り強さに実質的な影響を与えることなく、空隙における延伸比を低下させることができることが認められた。
【0042】
代替の実施形態においては、流体フィラメントは、3〜12、好ましくは4〜10、最も好ましくは4〜8の延伸比で空隙において延伸される。空隙におけるフィラメントのこうした好ましい延伸比は、実験で記載されるように、糸条又は単一のフィラメントにおいて測定される1フィラメント当たりの高い強度を有する糸条及びモノフィラメントの生産に特に適している。
【0043】
空隙と呼称されるが、前述の隙は、例えば、空気、窒素、又はその他の不活性気体などの任意の気体又は気体状の混合物で満たされることができる。本明細書において、空隙とは、ダイと冷却浴との間の距離と理解される。冷却浴は、例えば、水などの液体であることができ、例えば、約室温などの紡糸温度未満の温度での浴を含む。冷却浴が液体冷却浴である場合には、空隙の最小値は、任意の液体表面の波が、ダイの表面に接触するのを防止するように選択されることが好ましい。
【0044】
UHMWPEの紡糸に適切な周知の溶媒のいずれも、溶媒として使用して、例えば、パラフィンワックス、パラフィン油又は鉱油、灯油、デカリン、テトラリン、或いはそれらの混合物などの、前述の溶液を作製することができる。本プロセスは、比較的揮発性の溶媒、好ましくは275℃未満、より好ましく250又は225℃未満の大気条件で沸点を有する溶媒に対して特に有利であることが判明している。適切な例としては、デカリン、テトラリン、及びいくつかの灯油グレードが挙げられる。溶液は、周知の方法を使用して作製することができ、好ましくは、2軸押し出し機を利用して、前述の溶媒におけるUHMWPEのスラリーから均一溶液を作製する。溶液を、紡糸プレートとも称されるダイに、計量ポンプにて一定の流速で送達することが好ましい。溶液の濃度は、好ましくは3〜25質量%であり、ポリオレフィン又はポリエチレンのモル質量がより高いほど、より低い濃度が好ましい。好ましくは、濃度は、15〜25dl/gの範囲における固有粘度(IV)を有するUHMWPEの場合に3〜15質量%である。好ましくは、UHMWPE溶液は、多くとも90℃、より好ましくは多くとも70℃の溶媒の沸点内における温度で形成される。
【0045】
好ましくは、UHMWPEは、約8dl/g〜40dl/g、好ましくは10dl/g〜30dl/g、より好ましくは12dl/g〜28dl/g、最も好ましくは15dl/g〜25dl/gの固有粘度(IV、135℃でデカリンの溶液において測定される)を有する。固有粘度は、M
n及びM
wのような実際のモル質量パラメータに比べてより容易に求めることができるモル質量(分子量とも称される)の測定値である。IVとM
wの間のいくつかの経験的関係が存在するが、こうした関係は、モル質量分布に依存する。等式M
w=5.37×10
4[IV]
1.37(欧州特許出願公開第0504954A1号明細書を参照されたい)に基づいて、4又は8dl/gのIVは、それぞれ約360又は930kg/モルのM
wに等しくなる。
【0046】
好ましくは、UHMWPEは、100の炭素原子当たり1分岐未満、好ましくは300の炭素原子当たり1分岐未満の直鎖型ポリエチレンであり、通常、分岐又は側鎖又は鎖分岐は、少なくとも10の炭素原子を含む。直鎖型ポリエチレンは、プロピレン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテン、又はオクテンのようなアルケンなどの、5モル%までの1つ以上のコモノマーを更に含むことができる。
【0047】
本発明によるプロセスに使用されるUHMWPEは、抗酸化剤、熱安定化剤、着色剤、流れ促進剤等などの、一般的には5質量%未満、好ましくは3質量%未満の、少量の通常の添加剤を更に含むことができる。UHMWPEは、単一のポリマーグレード、更に又、例えば、IV又はモル質量分布、及び/又は、コモノマー又は側鎖の基の種類及び数が異なる、2つ以上の異なるポリマーグレードの混合物であることができる。
【0048】
本発明によれば、浴槽からフィラメントを取り出し、紡糸フィラメントを得た後、前述の紡糸フィラメントを抽出工程に供し、この場合に、その中に存在する溶媒は、このフィラメントから少なくとも部分的に除去される。溶媒除去は、例えば、デカリンなどの比較的揮発性の溶媒が使用される場合は蒸発によって、抽出液体を使用することによって、又は両方の方法の組合せによってなどの、周知の方法によって実施可能である。
【0049】
本発明による方法は、紡糸フィラメントが、好ましくは少なくとも4の延伸比で少なくとも1段階で延伸される、少なくとも1つの延伸工程を更に含む。好ましくは、延伸は、少なくとも2段階で、好ましくは上昇プロファイルを有する異なる温度で実施される。延伸は、約120〜約155℃で起こることが好ましい。少なくとも10、より好ましくは少なくとも20、最も好ましくは少なくとも40の全延伸比DR
total=DR
stage 1×DR
stage 2×DR
stage 3を有する、3段階の延伸が最も好ましい。
【0050】
好ましい実施形態においては、本発明による方法は、本発明による糸条を生産し、この場合に、少なくとも2mmの
【数14】
の孔を有するダイが使用され、溶液の総重量の少なくとも5重量%のUHMWPEの溶液が使用され、少なくと
もDD
resの20%のDD
opが使用され、且つ、少なくとも20の総延伸比を有する3段階の延伸が使用される。好ましくは、
【数15】
は、少なくとも3mm、より好ましくは2.5mm〜3.5mmである。好ましくは、UHMWPE溶液は、少なくとも6重量%、より好ましくは少なくとも8重量%、最も好ましくは少なくとも9重量%を有する。好ましくは、溶媒はデカリンである。好ましくは、DD
opは、少なくとも
DDresの40%
であり、最も好ましくは少なくとも60
%である。
【実施例】
【0051】
本発明を、以下の実施例及び比較実験によって更に説明するが、本明細書において先に用いられた様々なパラメータを求めるために用いられた方法を初めに示す。
・dtex:糸条又はフィラメントの繊度は、それぞれ100メートルの糸条又はフィラメントを秤量することによって測定した。糸条又はフィラメントのdtexを、重量(ミリグラムで示す)を10に割ることによって算出した。
・IV:固有粘度を、ASTM D1601(2004)の方法に従い、135℃でデカリンにおいて、溶解時間は16時間で、2g/l溶液の量で抗酸化剤としてBHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)を用いて、ゼロの濃度までの異なる濃度で測定される粘度を推定することによって求める。
・繊維の引張り特性:引張り強度(又は強度)及び引張り弾性率(又は弾性率)は、500mmの繊維の名目ゲージ長さ、50%/分のクロスヘッド速度、及び「繊維グリップ(Fibre Grip)D5618C」タイプのインストロン2714のクランプを用いて、ASTM D885Mに記載されるように、マルチフィラメント糸条に対して定義され、且つ、求められる。測定した応力−ひずみ曲線に基づいて、弾性率を0.3〜1%のひずみの勾配として求める。弾性率及び強度の算出のために、10メートルの繊維を秤量することによって求められるように、測定した引張り力を繊度で割り、0.97g/cm
3の密度と仮定してGPaにおける値を算出する。1モノフィラメント当たりの強度は、cN/dtexでのマルチフィラメント糸条の引張り強さを糸条の1フィラメント当たりのdtexで乗じることによって求められる。
【0052】
[実施例1〜4]
スラリーを、デカリン中に約20dl/gのIVを有する9重量%のUHMWPEから調製し、共回転二軸押し出し機に送り、スラリーを溶液に変えた。この押し出し機及び紡糸ヘッドを、185℃の温度で加熱した。溶液を、1孔当たり約7.7g/分(実施例1及び2用)及び3.8g/分(実施例3及び4用)の速度で24の孔を有するダイを通過させた。
【0053】
孔は、3mmの
【数16】
と約8mmの長さを有するキャピラリの上流側に、15°の角度を備える円錐状の収縮ゾーンを含んだ。
【0054】
孔から放出された流体フィラメントは空隙に入り、下記の表1に示される延伸比が空隙において適用される速度で巻き取られた。プロセスが作動されるDD
opは、空隙における延伸比と同一であり、すべての場合において、約90%の
レゾナンスドローダウンDD
resである。
【0055】
その後、流体フィラメントは水浴に入り、ここで流体フィラメントは冷却され、巻き取りロールに対して巻き取られた。その後、流体フィラメントは第1のオーブンに入り、ここで流体フィラメントは、デカリンが蒸発しながら、8回延伸された。
【0056】
第1のオーブンから、流体フィラメントは第2のオーブンに入り、ここで流体フィラメントは、糸条の特性とともに下記の表1に示される様々な延伸比で延伸された。
【0057】
【表1】
【0058】
[実施例5及び6]
糸条が、約149℃で第3の工程にて更に延伸された以外は、実施例1を繰り返した。以下の表2に示すように、2つの延伸比が適用される。
【0059】
【表2】
【0060】
[実施例7]
実施例1の材料は、編まれて260g/m
2の面密度(度目10ゲージ)を有する布地に形成された。基準として、同一構造の布地が、195のUHMWPEフィラメントを含む440dTexの市販の糸条を使用して編まれた。この糸条は、約31cN/dtexの引張り強さを有し、製品名SK62でDSM Dyneema(登録商標)、NLによって販売されている。
【0061】
両方の布地を、標準EN388並びに標準ASTM1790−05(いずれとも2回)に従って、耐切創性試験に供した。同様に、布地をマーチンデール(EN388)摩耗試験に供し、それぞれの布地のタイプに対して、ブレークスルー(breakthrough)が観察されたところのサイクル数を求めた。得られた結果を下記の表3に列挙する。
【0062】
【表3】
【0063】
[実施例8]
実施例1を繰り返したが、約7重量%の硬質充填剤の全溶液を、押し出し前にスラリーに加えた。硬質充填剤は、鉱物フィブリル、すなわち、Lapinus、NLによって商標名CF10ELSで販売される、繊維状の形状を有する充填剤であった。得られた糸条は、410dTexの繊度、約18cN/Dtexの引張り強さ、及び約850cN/dTexの弾性率を有した。
【0064】
糸条は、編まれて260g/m
2の面密度(度目10ゲージ)を有する布地に形成された。基準として、同一構造の布地が、130のUHMWPEフィラメントを含む440dTexの市販の糸条を使用して編まれた。この糸条は、約17cN/dtexの引張り強さを有し、前述と同一の種類及び量の硬質充填剤を含んだ。
【0065】
両方の布地を、前述の実施例7で詳述された同一の耐切創性試験に供した。マーチンデール摩耗試験を、布地ごとに4回実施した。得られた結果を下記の表4に列挙する。
【0066】
【表4】
【0067】
[実施例9及び10]
実施例1を繰り返したが、流体フィラメントは、5.7g/分の1孔当たりの処理能力で空隙において約19回延伸された。第1のオーブンにおいて、流体フィラメントは、6回伸張された。糸条は、糸条の特性とともに下記の表4に示される様々な延伸比で第2の工程にて延伸された。
【0068】
【表5】
【0069】
[実施例11及び14]
実施例1を繰り返したが、紡糸ヘッド温度は175℃まで低下させ、流体フィラメントは、7.7g/分の1孔当たりの処理能力で4mmの長さの空隙おいて約5.7回延伸された。フィラメントは、糸条の特性とともに下記の表6に示される様々な延伸比で第1及び第2の工程にて延伸された。紡糸プレートから出た24のフィラメントから、1つのフィラメントが、個々に加工されて、実施例11〜13となり、一方、残りの23のフィラメントは、23のフィラメント糸条として加工された。実施例11及び12の対応する23のフィラメント糸条は報告されず、実施例13の対応する23のフィラメント糸条のみが、実施例14として報告される。
【0070】
【表6】