特許第6436224号(P6436224)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6436224
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】オイルシール用コーティング剤
(51)【国際特許分類】
   C09D 109/00 20060101AFI20181203BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20181203BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20181203BHJP
【FI】
   C09D109/00
   C09D7/65
   C09D7/61
【請求項の数】3
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-500626(P2017-500626)
(86)(22)【出願日】2016年2月10日
(86)【国際出願番号】JP2016053910
(87)【国際公開番号】WO2016132982
(87)【国際公開日】20160825
【審査請求日】2017年7月27日
(31)【優先権主張番号】特願2015-28287(P2015-28287)
(32)【優先日】2015年2月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】木村 奈津美
(72)【発明者】
【氏名】阿部 克己
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−292160(JP,A)
【文献】 特開2003−213122(JP,A)
【文献】 特開2008−189892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
C09K 3/10
F16J15/00− 15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン100重量部に対し、粒子径が0.5〜30μmであるシリカ、シリコーン樹脂またはポリカーボネート充填剤を10〜160重量部の割合で含有させ、有機溶媒溶液として調製されたコーティング剤であって、これをコーティングした基材表面とエンジンオイルの接触角が35°未満となるオイルシール用コーティング剤。
【請求項2】
請求項1記載のコーティング剤を用いてコーティング処理したオイルシール。
【請求項3】
150〜250℃で1〜24時間加熱処理された請求項2記載のオイルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルシール用コーティング剤に関する。さらに詳しくは、油中での低摩擦化を可能とするオイルシール用コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
オイルシールは、自動車、産業機械等の分野で、重要な機械要素として広く用いられている。オイルシールは、運動用途や摺動用途に用いられるが、その際シールの摩擦熱による密封油やシール材料の劣化、摩擦抵抗による機器のエネルギー損失が問題となることが多い。
【0003】
オイルシールのトルクを低減させるためには、摺動面にオイルを保持することが好ましく、そのためには摺動面の粗さを大きくする一方で、オイルとの濡れ性を向上させることが必要とされる。しかしながら、コーティング剤に従来より用いられている0.1〜10μmといった低粒子径のフッ素樹脂粒子を充填剤として配合したものは、フッ素樹脂の表面エネルギーが高く、オイルとの濡れ性を著しく向上させることは難しく、粒子径が小さいためコーティング表面の粗さを大きくすることも難しかった。
【0004】
一方、オイルシールリップ部の摺動面に、シール材料よりも摩擦係数の低い材料の塗膜を形成させることにより、オイルシールは低摩擦化されるが、摺動により塗膜が剥がれると低摩擦化の効果は失われてしまう。
【0005】
本出願人は先に特許文献1〜2において、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン100重量部に対し、軟化点40〜160℃のワックスおよびフッ素樹脂、またはフッ素樹脂およびポリエチレン樹脂の両者を、それぞれ10〜160重量部の割合で含有させ、有機溶媒溶液として調製された加硫ゴム用表面処理剤を提案している。これらはオイルシール等に有効に適用されるとされているが、昨今さらなる低トルク性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3893985号公報
【特許文献2】特許第4873120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、オイルシールの本来有するすぐれたシール性能を維持しつつ、低トルク性を達成可能なコーティング剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる本発明の目的は、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン100重量部に対し、粒子径が0.5〜30μmであるシリカ、シリコーン樹脂またはポリカーボネート充填剤を10〜160重量部の割合で含有させ、有機溶媒溶液として調製されたコーティング剤であって、これをコーティングした基材表面とエンジンオイルの接触角が35°未満となるオイルシール用コーティング剤によって達成される。
【発明の効果】
【0009】
コーティング剤に含有せしめる充填剤として、粒子径が大きく、コーティングされた基材表面とエンジンオイルとの接触角が35°未満となるようなものを選択することにより、コーティング表面の粗さを大きくする一方で、油との濡れ性を向上させ、油中での動摩擦係数を下げることができるので、オイルシールの低トルク性を達成せしめるといったすぐれた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンとしては、末端基としてイソシアネート基が付加された分子量1,000〜3,000程度のものが用いられ、これは市販品、例えば日本曹達製品日曹TP-1001(酢酸ブチル50重量%含有溶液)などをそのまま用いることが出来る。末端基としてイソシアネート基が付加されていることから、加硫ゴム表面の官能基や水酸基含有成分と反応し、接着、硬化することができる。このポリブタジエン樹脂は、同様のイソシアネート基で反応高分子化するポリウレタン樹脂よりも、ゴムとの相性、相溶性が良いため、ゴムとの密着性が良く、特に耐摩擦・摩耗特性が良いのが特徴である。
【0011】
充填剤としては、粒子径が約0.5〜30μm、好ましくは約1.0〜30μm程度であって、最終的にコーティング剤として調製され、オイルシール表面をコーティング後に、コーティング処理された基材表面とエンジンオイル、例えばエンジンオイルOW-20等との接触角が35°未満となるものが用いられ、具体的にはシリカ、シリコーン樹脂、ポリカーボネート粒子が挙げられる。充填剤の粒子径がこれより小さい場合には、コーティング表面の粗さが小さくなり、油を保持する効果が維持できなくなり、シール摺動面のトルクが高くなってしまう。一方、これより充填剤の粒子径が大きい場合には、コーティング表面の粗さが大きくなり、シール性が悪化して油の漏れが発生するようになる。また、コーティング後の接触角がこれより大きくなってしまうような充填剤を用いると、油を弾いてしまうようになり、オイルシール摺動面の油の保持力を損ない、所望の低トルク性を達成することが困難となる。
【0013】
シリカとしては、ハロゲン化珪酸または有機珪素化合物の熱分解法やけい砂を加熱還元し、気化したSiOを空気酸化する方法等で製造される、乾式法シリカ、けい酸ナトリウムの熱分解法などで製造される湿式法シリカなどの非晶質シリカなどが、シリコーン樹脂としては、例えば縮合反応型、付加反応型、紫外線または電子線硬化型等のシリコーン樹脂が、またポリカーボネートとしては、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、脂肪族−芳香族ポリカーボネート等が挙げられるが、これらは本発明では粒子径が約0.5〜30μmであれば特に限定されず、市販品をそのまま用いることができる。
【0014】
充填剤は、イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエン100重量部当り、約10〜160重量部、好ましくは約25〜120重量部の割合で用いられる。充填剤の割合がこれより多い場合には、ゴムとの密着性、耐摩擦摩耗特性が悪くなり、コーティングの柔軟性が損なわれるようになり、硬化した後の塗膜にヒビ割れが発生するようになる。一方この範囲より少ないと、滑り性、非粘着性が悪くなるようになり、コーティング表面の摩擦係数が高くなってしまう。
【0015】
イソシアネート基含有1,2-ポリブタジエンおよび充填剤は、有機溶媒の溶液(分散液)として調製され、オイルシールのコーティング剤として用いられる。有機溶媒としては、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが用いられ、これは一般的に市販されている溶媒をそのまま用いることが出来る。有機溶媒による希釈量は、塗布厚み、塗布方法に応じて、適宜選択される。なお、塗布厚みは、通常約1〜30μm、好ましくは約3〜20μmであり、塗布厚みがこれより小さい場合には、ゴム表面をすべて被覆することが出来ず、滑り性、非粘着性を損なうことがある。一方、塗布厚みがこれより大きいと、塗布表面の剛性が高くなり、シール性、柔軟性を損なうことがある。シール部品などの使用用途では、約3〜20μm程度が好ましい。
【0016】
かかるコーティング剤により処理が可能なオイルシールを構成するゴムとしては、フッ素ゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、ステレン−ブタジエンゴム、アクリルゴム、クロロブレンゴム、ブチルゴム、天然ゴムなどの一般的なゴム材料が挙げられ、この内好ましくは、ゴムに配合される老化防止剤、オイルなどのゴム配合剤のゴム表面層へのブルームミングが少ないゴム材料が用いられる。なお、ゴム材質、目的に応じて、上記各成分の配合比率および有機溶媒の種類、有機溶媒量、有機溶媒混合比率は適宜選択される。
【0017】
コーティング剤のオイルシール表面への塗布方法としては、浸せき、スプレー、ロールコータ、フローコータなどの塗布方法が挙げられるが、これらの方法に限定されるものではない。この際、あらかじめコーティング剤塗布前にゴム表面の汚れ等を洗浄などにより除去することが好ましい。特に、ゴムからブルーム物、ブリード物が表面に析出している場合には、水、洗剤、溶剤などによる洗浄および乾燥が行われる。
【0018】
コーティング剤をオイルシール表面へ塗布した後、約150〜250℃で約10分〜24時間程度熱処理される。加熱温度がこれより低く、また加熱時間がこれより短い場合には、皮膜の硬化およびゴムとの密着性が不十分で、非粘着性、滑り性が悪くなる。一方、加熱温度がこれより高く、また加熱時間がこれより長い場合には、ゴムの熱老化が起こるようになる。従って、各種ゴムの耐熱性に応じて、加熱温度、加熱時間を適宜設定する必要がある。
【0019】
また、アウトガス量の低減が要求される品目の場合には、熱処理、減圧処理、抽出処理などを単独または組み合わせて行うことができるが、経済的には熱処理が最も良く、アウトガス量を減らすには、約150〜250℃で約1〜24時間程度熱処理することが好ましく、ゴム中の低分子成分および皮膜中のポリブタジエンに含まれる低分子成分をガス化させるために、温度は高いほど、また時間は長い程有効である。
【実施例】
【0020】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0021】
実施例1
イソシアネート基含有1,2−ポリブタジエン 200重量部
(日本曹達製品TP1001;酢酸ブチル50%含有) ( 100 〃 )
シリカ(中央シリカ製品シリカ6B;粒子径7μm) 43 〃
酢酸ブチル 1798 〃
以上の各成分を混合し、この酢酸ブチル溶液からなるコーティング剤溶液を厚さ2mmの加硫ゴム上に10〜30μmの厚さでスプレー塗布し、200℃で10時間熱処理した後、接触角、油中での動摩擦係数の測定を行った。なお、各重量部は溶液重量部で示されており、各成分の実重量部は( )内に示されている(以下の実施例および比較例も同じ)。
接触角:協和界面科学製Drop Master 500を用い、エンジンオイルOW-20
に対する接触角を計測
35°未満を○、35°以上を×と評価
油中での動摩擦係数:新東科学社製HEIDON TYPE14DR表面性試験機を利
用し、下記条件下で往復動を行い、往路側の動摩
擦係数を測定し、0.2未満を○、0.2以上を×と評

荷重:50g
速度:50mm/分
往復動距離:50mm
圧子:10mm径鋼球
油種:エンジンオイルOW-20
注) 油中での動摩擦係数は、オイルシールの実機評価と
相関している評価であり、上記テストピースを用い
た油中での動摩擦係数が低いとオイルシールを用い
た実機評価も良好になる
【0022】
実施例2
実施例1において、シリカの代わりにポリカーボネート(岐阜セラック製品ポリカTR-7;粒子径6μm、トルエン等93%含有)が614重量部(ポリカーボネートとして43重量部)用いられた。
【0023】
実施例3
実施例1において、シリカの代わりにシリコーン樹脂粒子(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製品トスパール130;粒子径3μm)が同量(43重量部)用いられた。
【0024】
実施例4
実施例1において、シリカの代わりにシリコーン樹脂粒子(信越化学工業製品X-52-703;粒子径0.8μm)が同量(43重量部)用いられた。
【0025】
比較例1
実施例1において、シリカの代わりにポリアミド粒子(東レ製品ナイロンSP-10;粒子径10μm)が同量(43重量部)用いられた。
【0026】
比較例2
実施例1において、シリカの代わりにシリコーンゴム粒子(東レ製品トレフィルE606;粒子径2μm)が同量(43重量部)用いられた。
【0027】
比較例3
実施例1において、シリカの代わりにPTFE(AGCセイミケミカル製品フルオン172J;粒子径0.2μm)が同量(43重量部)用いられた。
【0028】
参考例
実施例1において、コーティング剤溶液として、特許文献1に開示されている発明に相当するポリブタジエン50重量部、PTFE溶液1567重量部(固形分濃度5%;78.35重量部)およびポリエチレンワックス溶液 1567重量部(固形分濃度5%;78.35重量部)からなるものが用いられた。
【0029】
以上の各実施例、比較例および参考例で得られた結果は次の表に示される。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係るコーティング剤は、オイルシールの本来有するすぐれたシール性能を維持しつつ、低トルク性を達成しているので、オイルシールはもちろんのこと、複写機用ゴムロール、複写機用ゴムベルト、工業用ゴムホース、工業用ゴムベルト、ワイパー、自動車用ウェザーストリップ、ガラスラン等のゴム部品の粘着防止、低摩擦化、摩耗防止等にも有効に用いられる。