(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明の恒温保管庫の検査ラインについて図面を用いて説明を行う。なお、以下の説明は本発明の一実施形態について説明するものであり、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、以下の実施形態は改変することが可能である。
【0015】
図1には本発明の恒温保管庫の検査ラインの構成を示す。検査ライン1は、被検査物9を移送するコンベア10と、コンベア10に隣接して計測ユニット20を移送する往路コンベア12が配設されている。ここで隣接とは、コンベア10と往路コンベア12は並んで設けられていて、互いの距離は、コンベア10の始点10sから終点10eに至るまで、ほぼ一定に形成されていることをいう。
【0016】
なお、検査ライン1は一定の室温Trの環境に組み立てられる。冷却能力若しくは温熱性能を測定するのに、この一定室温Trから被検査物9の定常運転温度Trgまで冷却(若しくは温熱)する時間と消費電力で判断するからである。そのため、検査ライン1を収納する検査室60と検査室60の室温を一定に維持する空調設備62が備えられる。
【0017】
往路コンベア12には、付随する復路コンベア14が設けられる。復路コンベア14は、被検査物9と共に、往路コンベア12の終点12eまで移送された計測ユニット20を往路コンベア12の始点12sの位置まで戻すための移送手段である。
【0018】
往路コンベア12と復路コンベア14は隣接していなくてもよい。しかし、往路コンベア12の終点12eと復路コンベア14の始点14sは隣接し、往路コンベア12の始点12sと復路コンベアの終点14eは隣接して設けられるのが好ましい。終点12eと始点14sおよび終点14eと始点12sの間で計測ユニット20を受け渡すためである。
【0019】
なお、終点12eと始点14sおよび終点14eと始点12sの間には、ブリッジ13aおよび13bが設けられてもよい。ブリッジ13aおよび13bは、往路コンベア12と復路コンベア14の間で、計測ユニット20を移動させる。
【0020】
往路コンベア12にはトロリー線16が隣接される。また、復路コンベア14にもトロリー線18が隣接される。ただし、トロリー線18はなくてもよい。往路コンベア12の始点12sに戻す計測ユニット20は電力が供給されていなくてもよいからである。またトロリー線16と兼用する構成であってもよい。
【0021】
コンベア10、往路コンベア12、復路コンベア14には、それぞれ駆動装置10d、12d、14dが備えられている。これらの駆動装置10d、12d、14dは制御装置50によって制御される。
【0022】
制御装置50は、例えばMPU(Micro Processor Unit)とメモリで構成されるコンピュータであってよい。またシーケンサ等を用いたそれ以外の構成であってもよい。制御装置50は、通信装置52が接続されている。各計測ユニット20および駆動装置10d、12d、14dと通信するためである。
【0023】
通信装置52は、電波若しくは光通信が好適に利用できる。多くの配線を省略できるからである。しかし、有線による通信方法を排除するものではない。なお、
図1では、各計測ユニット20とは、光通信を行い、駆動装置10d、12d、14dとは、有線で通信する形態を示した。
【0024】
図2には、計測ユニット20の構成を示す。計測ユニット20は、トロリー線16(若しくはトロリー線18であってもよい)から電力を供給される電力受信部22と、被検査物9に電力を送電する電力送信部24と、電力受信部22と電力送信部24の間に設けられ、被検査物9の消費電力を測定する電力測定部26と、被検査物9の庫内温度を測定する温度センサ28と制御部30および通信部34を有する。また、計測ユニット20の状態を作業者に知らせるための状態ランプ36s、状態ランプ36m、状態ランプ36eが設けられていてもよい。
【0025】
電力受信部22は、トロリー線16に接続する電極子22aとフィルタ部22bから構成される。フィルタ部22bには、少なくともHPF(High Pass Filter)が設けられる。トロリー線16との接触によるスパイクノイズやリップルを被検査物9に送信しないためである。また、計測ユニット20内の機器もトロリー線16からの電力で駆動する。したがって、これらの機器にスパイクノイズやリップルのある電力を供給しないためでもある。
【0026】
電力受信部22は、トロリー線16からの電力を所定の電圧に変換する変換器(図示せず)を有していてもよい。また、被検査物9が、外部からの指示を受けるための通信コネクタ受け(図示せず)を有している場合は、通信コネクタ38を有していてもよい。
【0027】
電力送信部24は、被検査物9に対して電力を送信するプラグ受け24aおよび、ヒューズ回路24bを含む。ヒューズ回路24bは、被検査物9の電源回路にショートがあった場合に、検査ライン1全体の供給電力のダウンを防止する。
【0028】
電力測定部26は、電圧測定部26vと電流測定部26aで構成される。これらは、電力送信部24から被検査物9に流された電流と電圧を計測する。また、計測ユニット20内の機器の消費電力を同時に測定してもよい。これらの測定値は、制御部30に送信される。なお、電力測定部26自体が測定した電圧と測定した電流から消費電力を算出する構成であってもよい。
【0029】
温度センサ28は、被検査物9(恒温保管庫)内の温度を測定する。冷却庫の場合は、冷蔵庫、冷凍庫、チルド庫が備えられている場合があるので、少なくとも3つの測定端子28s、28t、28uを有しているのが望ましい。温度センサ28からの温度測定値は制御部30に送信される。
【0030】
制御部30は、MPU30cとメモリ30mで構成される。制御部30は、電力測定部26からの測定電圧Vおよび測定電流Aを信号SvおよびSaとして受信する。そして、消費電力Wを信号SvおよびSaから算出する。なお、制御部30は、電力測定部26が、電圧と電流の積を算出する場合は、信号Swによって電力値だけを受信してもよい。
【0031】
また、温度センサ28からは、庫内温度を信号Sfとして受信する。なお、庫内温度の信号Sfは、冷蔵庫内温度の信号Sfs、冷凍庫内温度の信号Sft、チルド庫内温度の信号Sfuを含んでよい。温蔵庫の場合は、いずれかの温度センサ28を庫内に差し込んで庫内温度Sfを測定すればよい。
【0032】
制御部30は、さらに時計30tを有する。単位時間あたりの消費電力を求めるためである。制御部30は、受信した信号および算出した消費電力をメモリ30mに記録する。
【0033】
また、制御部30は、通信部34で、検査ライン1の制御装置50の通信装置52と通信をする。少なくとも制御部30は、制御装置50から、計測ユニット20に接続される被検査物9の識別番号と消費電力の範囲を受け取る。測定した結果に対し、製品としての合否を判断するためである。
【0034】
以上の構成を有する検査ライン1の動作を説明する。
図1を参照して、被検査物9は、製造ラインからコンベア10の始点10sに移送されてくる。移送されてきた被検査物9の差込プラグ9pは、往路コンベア12の始点12sで待機している計測ユニット20のプラグ受け24aに差し込まれる(
図2参照)。また、計測ユニット20の温度センサ28の測定端子28s、28t、28uはそれぞれの庫内に差し込まれる。
【0035】
被検査物9と計測ユニット20との接続は作業者の人手で行われる。作業者は、検査ライン1に備えられた操作盤(図示せず)で、接続の完了を制御装置50に伝える。
【0036】
制御装置50は、今接続された被検査物9の諸元および消費電力の範囲を、通信装置52を介して計測ユニット20に送信する。消費電力の範囲とは、冷凍、冷却、チルド若しくは温熱の場合に、消費する電力の範囲Wa−Wbと、霜取り運転を行う際の消費電力の範囲Wc−Wdである。また、室温から被検査物9の定常運転温度Trgまで冷却する時の時間幅Ta−Tbを含めても良い。
【0037】
それぞれの運転状態で消費電力の定格値は決められているが、組み上げた被検査物9個々において、幾分かの誤差がある。その誤差の設計上許容出来る上限値と下限値を消費電力の範囲という。なお、ここで上限値はWb、Wdであり、下限値はWa、Wcとする。
【0038】
また、冷却機若しくは温熱機の性能は予め設計時に決められるので、室温Trから定常運転温度Trgまで到達時間は設計上算出することができる。Taは最短の到達時間であり、Tbは許容される最長の到達時間である。
【0039】
制御装置50は、計測ユニット20に諸元等の送信すべき情報を送信したら、コンベア10および往路コンベア12を駆動する。駆動は、制御装置50から駆動装置10dおよび12dに指示C10dおよび指示C12dを送信することで行われる。なお、コンベア10と往路コンベア12は、全く同期して動く。復路コンベア14は、作業者から指示があった場合に駆動させる。
【0040】
コンベア10と往路コンベア12は間欠的に移動してもよい。つまり、新たな被検査物9が計測ユニット20と接続される毎に移動してもよい。若しくはコンベア10の終点10eの直前で被検査物9の検査が終了する毎に所定の長さ分だけコンベア10と往路コンベア12を進めてもよい。
【0041】
もちろん、被検査物9と計測ユニット20との接続の間は、コンベア10と往路コンベア12の移送速度を遅くし、接続が完了した後に、再び移送速度をあげてもよい。いずれにしても、コンベア10と往路コンベア12は同一速度で動き、接続された被検査物9と計測ユニット20が隣接する位置関係を維持する。
【0042】
制御装置50から被検査物9の諸元を受け取った計測ユニット20は、検査を開始する。検査は、室温Trから被検査物9の定常運転時の庫内温度(定常運転温度Trg)まで庫内温度を変更する間の時間Tw1及びその間の消費電力Wwと、霜取り運転に切り替わってからの一定時間の間の平均消費電力Wvである。
【0043】
なお、計測ユニット20は、一定のサンプリング時間ごとに消費電力を計測することができ、平均消費電力Wvだけでなく、標準偏差、分散、最大値最小値といった値で、消費電力を計測することもできる。また、庫内温度に関しても、単に温度の測定だけでなく、温度が上昇若しくは下降する際に生じるオーバーシュートやアンダーシュートの量や、変動幅といった項目の計測もできる。ここでは、消費電力は平均値を計測し、庫内温度は温度だけを計測する場合について説明を続ける。
【0044】
制御部30は、被検査物9の運転を指示する指示C9sを発信する。発信する先は、通信コネクタ38を通じて被検査物9に発信してもよい。また、発信先は計測ユニット20自身に設けられた状態ランプ36sであってもよい。状態ランプ36sは、「計測スタートランプ」といえる。状態ランプ36sを点灯させるのは、作業者が手動で被検査物9の起動スイッチを入れる場合のためである。したがって、作業者は状態ランプ36sの点灯を見たら手動で被検査物9の起動スイッチを入れる。
【0045】
指示C9sを送信した制御部30は温度センサ28からの信号Sfおよび消費電力Wをメモリ30mに記録する。消費電力Wの算出は、例えば1秒毎若しくは5秒毎といった単位時間毎の消費電力を求め、1時間当たりの消費電力(W/h)に換算して記録するのが望ましい。もちろん単位時間はミリ秒のオーダーであってもよいし、10秒、30秒といった値であってもよい。
【0046】
恒温保管庫の電源にインバータが用いられる場合は、インバータの動作不良が発生する場合がある。その場合は、単位時間を商用周波数の波長の1/10程度にするのが望ましい。また、この検査の間、コンベア10と往路コンベア12は同期して、終点10eおよび終点12eに向かって進行する。
【0047】
この計測は、温度センサ28で観測される庫内温度が所定の温度(定常運転温度Trg)に到達するまで行われる。定常運転温度Trgは、通常被検査物9が運転される温度である。したがって、ここで行われる検査は、室温Trから定常運転温度Trgまで庫内が冷える履歴を測定する。
【0048】
制御部30は、庫内温度が定常運転温度Trgに到達したら、制御部30は、それまでの到達時間Tw1が時間幅Ta−Tbに入るか否かを判定する。入っていれば合格であり、入っていなければ不合格である。
【0049】
また、それまでの平均消費電力Wwを算出する。そして、消費電力の範囲Wa−Wbに含まれるか否かを判断する。ここでも、入っていれば合格であり、入っていなければ不合格である。
【0050】
合否の判断を行ったら、制御部30は、冷却能力若しくは温熱性能の検査が終了した旨の指示C9mを発信する。発信先は、被検査物9であってもよいし、計測ユニット20自体に設けられた状態ランプ36mであってもよい。状態ランプ36mは、「到達ランプ」といってもよい。恒温保管庫が冷却を行う場合は、指示C9mを受けた被検査物9は、霜取り運転に移行する。また、作業者が手動で運転の切替を行う場合は、状態ランプ36mの点灯を見たら、被検査物9の運転の切り替えを行う。
【0051】
指示C9mを送信した制御部30は、これまでの計測同様に、温度センサ28および消費電力の計測を継続する。霜取り運転は、冷却庫である被検査物9が内蔵したヒータを稼動させ、内部の霜を取る運転モードである。ここで、制御部30は、消費電力がヒータの消費電力まで到達し、その状態が所定時間維持されれば、平均消費電力Wvを算出する。そして平均消費電力Wvが消費電力の範囲Wc−Wdに含まれるか否かを判断する。含まれれば合格と判断し、含まれなければ不合格である。
【0052】
合否を判断した制御部30は、検査終了の指示C9eを発信する。発信先は、計測ユニット20に設けられた状態ランプ36eである。状態ランプ36eは、「検査終了ランプ」と呼んでもよい。また、通信コネクタ38を通じて、被検査物9に発信してもよい。通信コネクタ38を通じて指示C9eを受信した被検査物9は、電源をオフにして運転を中断する。
【0053】
制御部30は、計測ユニット20が被検査物9から切り離されたら、これまで記録したデータをその合否を含めて、通信部34および通信装置52を介して制御装置50に送信する。
【0054】
制御装置50は、ディスプレイに横軸が時間、縦軸に消費電力および庫内温度を表示した表を表示する。恒温保管庫が冷却庫の場合はそれぞれ設計時に、冷却時の消費電力および霜取りヒータの消費電力の範囲が決められている。ここでは、室温Trから定常運転温度Trgまでに必要な電力の範囲Wa−Wbおよび到達時間幅Ta−Tbおよび、霜取りヒータでの消費電力の範囲Wc−Wdである。そこで、この検査の間の消費電力のパターンを見ることで、被検査物9の電源が正常に稼動していたか否かがわかる。
【0055】
図3には、その測定結果の一例を示す。
図3は定常運転温度が−5℃の冷凍庫の場合である。
図3(a)は、時間(横軸)と消費電力(縦軸)の関係を示す。また、
図3(b)は、時間(横軸)と庫内温度(縦軸)の関係を示す。また、
図3(a)では、この被検査物9の運転時の消費電力の範囲Wa−Wbの範囲と、霜取りヒータでの消費電力の範囲Wc−Wdをグラフ中にドットゾーンとして表した。これは予め制御装置50から送信されるデータによって計測ユニット20は知る。
【0056】
図3(b)を参照して、計測が開始されてからTw1後に定常運転温度Trgである−5℃に到達し、その間の消費電力(
図3(a)参照)は、ほぼ一定のWwである。また、その後の霜取り運転では、消費電力はWvまであがり、庫内温度は上昇を始めた。計測ユニット20は被検査物9の消費電力がWvを所定時間Tfの間維持していることを確認したら、検査終了の指示C9eを発信する。
【0057】
霜取り運転では霜取りヒータが稼動する。ヒータは電気を熱に変えるものであり、消費電力によって、庫内に発生する熱量は決まる。したがって、霜取りヒータは消費電力をモニタするだけで判断できるからである。所定時間Tfは、図では、−5℃から0℃まで上昇するほどの時間に見えるが、実際は数十秒程度の時間で十分である。
【0058】
なお、定常運転温度Trgに達した後、消費電力が低下するのは、この温度が定常運転温度Trgであるからであり、ここからは、この温度を維持するように被検査物9がPID制御等を行う。また、定常運転温度Trgに達した後も消費している電力Wmは、制御部30等の計測ユニット20の他の部品が消費する電力である。
【0059】
図4には、そもそも冷却能力が不足している場合の例を示す。この被検査物9は、定常運転温度Trgである−5℃に達するまでの時間Tw1が、許容されている最長到達時間Tbより長かった。したがって、製品としての冷却能力が不足していると判断される。つまり、計測ユニット20自体が合格判断を出さない。
【0060】
図5は、冷却時の消費電力にリップル40が生じた場合を示す。
図5(a)および
図5(b)の縦軸および横軸は
図3の場合と同じである。このリップル40は、被検査物9の電源に使われたインバータの駆動不良に原因があると考えられる。
図5(b)では、庫内温度は時間幅Ta−Tb内に所定の温度(定常運転温度Trgである−5℃)まで到達していた。
【0061】
したがって、数値だけの合否では、このようなパターンは合格である。つまり、計測ユニット20は合格判断を行う。しかし、このように電源にリップル40が生じるものは、納品後の故障発生率が高くなる。したがって、
図5(a)のような消費電力パターンを有するものは、再検査若しくは再調整を行う必要があると判断する。この判断は、制御装置50の画面に表示された
図5のグラフを見た作業者が行ってもよい。また、制御装置50自体が、検査履歴の適正さを判断するプログラムを持ち、合否若しくは再検査を判断するようにしてもよい。
【0062】
図6は温蔵庫の場合の検査結果例を示す。
図6(b)を参照して、室温(Tr)から定常運転温度Trgである40℃までの時間Tw1は、予定された時間幅Ta−Tbの範囲に入っている。また、この間の消費電力Wwも予定された消費電力の範囲Wa−Wbに入っている。したがって、この温蔵庫の場合は、計測ユニット20自体が合格と判断する。また、制御装置50で表示された状態でも、初期検査は合格と判断される。
【0063】
なお、定常運転温度Trgになってから、消費電力が上下する。これは、庫内温度を一定に維持するために、PID制御された結果、温熱器を断続運転するために生じた消費電力のパターンである。
【0064】
以上のように本発明に係る恒温保管庫の検査ラインでは、被検査物9の消費電力を測定し、記録するので、従来ではわからなかった、被検査物9の電源に関する不備も発見することができる。また、恒温保管庫が冷却される場合、霜取り運転の適否を、温度計を用いて判断しないので、検査時間を短縮できるという効果がある。