(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記合剤塗料を圧延後、前記第二ロールの外周面を走行する被塗布物に前記合剤塗料を塗膜状に転写して塗工し、塗膜物を製造することを特徴とする請求項1に記載の塗膜物の製造装置。
前記合剤塗料を圧延する際の、前記塗料粒子の前記表面層への食い込み深さが、前記塗料粒子径の5%以上50%以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の塗膜物の製造装置。
合剤塗料を圧延する1つまたは2つの第一ロールと、前記合剤塗料を間に挟んで前記第一ロールと向かい合って配置される第二ロールとを用いて、塗膜物を製造する塗膜物の製造方法において、
前記第一ロールの表面には前記塗料粒子より低硬度の表面層が設けられ、
前記第一ロールと前記第二ロールとの距離が最短となる領域において、前記第二ロールとその外周面を走行する前記被塗布物との間に前記塗料粒子よりも小さい体積の空隙を有し、
2つの前記第一ロールの間隙または前記第一ロールと前記第二ロールとの間隙に前記合剤塗料を供給し、前記第一ロールから前記第二ロールにわたって前記合剤塗料を圧延して、前記合剤塗料を塗膜状にして塗膜物を製造することを特徴とする塗膜物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の塗膜物の製造装置及び塗膜物の製造方法は、長尺の被塗布物の表面に合剤塗料を塗工して塗膜物を製造するものである。
以下本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明においては、同じ構成部分には同じ符号を付して、適宜説明を省略している。
【0016】
まず、ロールを2つ用いた塗膜物の製造装置及びこれを用いた塗膜物の製造方法について説明する。
【0017】
図1は、本発明の塗膜物の製造装置におけるロールの基本構成を示す図である。
図1に示すように、本発明の塗膜物の製造装置の基本構造は、第一ロール11と第二ロール12とが隙間を隔てて配置され、隙間を被塗布物21と塗膜材料である合剤塗料22とが同時に通過することにより、被塗布物21に合剤塗料22が圧着されて塗膜物23が製造される構造である。第一ロール11と第二ロール12とは、いずれも円柱形状部分を備え、円柱の外周面部分が互いに向かい合うように配置される。また、第一ロール11と第二ロール12とは、外周面に沿って回転し、その回転の方向は互いに逆向きである。
【0018】
図1に示すように、本発明の塗膜物の製造装置では、第一ロール11と第二ロール12との間に合剤塗料22が進入する。第一ロール11は第二ロール12と逆方向に回転する。また、被塗布物21は、第二ロール12の周速度と等しい速さで第二ロール12の回転方向と同方向に走行し、第一ロール11と第二ロール12との間を通過する。これにより、合剤塗料22は、被塗布物21に塗膜状に転写される。その後、合剤塗料22が塗膜状に転写された塗膜物23は、プレス工程・乾燥工程・剥離工程などの後工程へ搬送される。
【0019】
この塗布工程において、第一ロール11および第二ロール12の材質は、例えばSUS等のように合剤塗料22の硬さにより変形することのない表面硬度が高いものが好ましい。
【0020】
図1の構成において、第一ロール11から被塗布物21の上へ合剤塗料22を塗膜状に転写するためには、第一ロール11の表面は転写性の優れた材料で被覆されていることが好ましく、例えばウレタンゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、クロロブレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム等のゴム弾性体や、PTFE焼結体、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、PEEK樹脂などの高分子材料といった樹脂材料、またアルミナ、シリカ、チタニア、ニッケル、クロム、窒化クロム、ジルコニア、酸化亜鉛、マグネシア、タングステンカーバイド、DLC、ダイヤモンドなどの無機材料、金属材料または複合化合物材料やフッ素化合物などで被覆されていることが好ましい。また耐久性、磨耗性の観点から無機材料、金属材料またはそれらの複合化合物材料やフッ素化合物を用いても良い。なお、優れた転写性を有していれば、これら材料に限定されるものではない。
【0021】
そして、
図1の構成において、第一ロール11の表面層10は、使用する合剤塗料22の硬さ、特に合剤塗料22に含まれる塗料粒子の圧壊強度や、塗料粒子の集合体である造粒体を崩すのに必要な強度に合わせて、適切な材質を選定しなければならない。塗料粒子の硬さに対し、表面層10が硬すぎると崩された塗料粒子をさらに圧壊してしまい、製品性能が下がってしまう。そのため、本発明の塗膜物の製造装置は、第一ロール11の表面に表面層10を設け、表面層10の固さを、崩された塗料粒子を圧壊させない硬さ以下、例えば、塗料粒子よりも低硬度とすることを特徴とする。また、造粒体に対して、表面層10が軟らかすぎると、造粒体を粒子に崩すことができず、目標の粒子層数、すなわち目標膜厚にすることができない。そのため、表面層10の固さを、造粒体を粒子に崩すことができる硬さ、つまり、造粒体中の粒子間結合を分断し、造粒体を粒子に崩すことができる硬さ以上とすることが好ましい。例えば、塗料粒子が層状物質、鱗片状物質のように、弱い結合で凝集した崩れやすい材料や軟らかい材料のとき、第一ロール11の表面層10の材質は、ゴム弾性体や樹脂材料とし、崩れた粒子が圧壊されにくい硬さとする。また、上記ゴム弾性体や樹脂の表面に金属材料または複合化合物材料やフッ素化合物等が薄く被覆されていても良い。一方、合剤塗料22中の塗料粒子が金属、金属酸化物、焼結体、セラミック、硬質樹脂といった硬い材料のとき、第一ロール11の表面層10の材質は、崩れた塗料粒子が圧壊されにくく、造粒体を塗料粒子に崩すことができるように、無機材料、無機−有機ハイブリッド材料、金属材料または複合化合物材料やフッ素化合物等の硬い材料で形成されたり、これらの硬い材料で被覆されることが好ましい。また、第一ロール11の表面層10の耐久性、耐磨耗性を向上させるために、公知の技術により本発明の範囲内で、材質自体の強度を向上させても良い。公知の技術とは、例えば、官能基を付与する、あるいは結晶構造や分子構造を変化させるといった材質自体の強度を向上させる処理などである。
【0022】
図5に被塗布物21が走行する第二ロール12と第一ロール11との間に合剤塗料22が供給され、塗膜物23が形成されるプロセスを示した。
図5においては、第一ロール11と第二ロール12との間のギャップを合剤塗料22が通過する過程を工程(a)〜工程(d)に分けて、断面および側面の構成を示す。以下、それぞれについて説明する。
【0023】
図5の工程(a)において、第二ロール12上を走行する被塗布物21と第一ロール11との間に合剤塗料22がロール真上方向から供給される。合剤塗料22の供給は、第一ロール11と第二ロール12との間(以下ロール間と称す)で塗料が動かなくなるブリッジやラットホールといった現象が起きず、定量的かつ流動的に供給できる方法が好ましく、具体的には振動フィーダー、スクリューフィーダー、ロータリーフィーダー、ロールフィーダー、ベルトフィーダー、エプロンフィーダーなどのフィーダーを使用した供給方法が好ましい。
【0024】
図5の工程(b)において合剤塗料22は、第一ロール11と第二ロール12との回転によりロール間の最も狭いギャップへ送られる。その際に、合剤塗料22はギャップへ送られながら圧延され、最も狭いギャップを通過することで、被塗布物21の表面に塗膜を形成する。被塗布物21上のロール間ギャップを被塗布物21の幅方向、つまり被塗布物21の走行方向に直行する方向にわたり均一にすることで、幅方向に均一な塗膜物23を得ることができる。またロール間ギャップ値を変えることで、塗膜の厚みを自由に変化させることができる。
【0025】
図5の工程(c)において、ロール間で圧延され、形成された塗膜物23では、合剤塗料22が第二ロール12側へ全量転写され、第一ロール11へは合剤塗料22が残存しない。そのため、第一ロール11と第二ロール12とが1周回転した後の次工程でも、新たに供給される合剤塗料22により連続的に塗膜物23を形成することができ、
図5の工程(d)のように均一かつ連続的な塗膜物23を得ることができる。
【0026】
図6〜
図8は本発明の塗膜物の製造装置におけるロール間の塗料粒子の様子を説明する模式図であり、
図6はロール間の造粒体の様子を示す図、
図7はロール間の造粒体の様子を示す拡大図、
図8は塗料粒子の様子を示す拡大図である。
【0027】
図6〜
図8に示すように、合剤塗料22に含まれる塗料粒子32の集合体である造粒体31は、第一ロール11、第二ロール12間で圧力がかかることで、粒子状に崩され、所定の粒子層数、すなわち目標膜厚の塗膜物を得ることができる。ロール間の最も狭いギャップを通過する際に、塗料粒子32が受ける圧力は最大となる。ロール間の最も狭いギャップを通過する際、
図8に示すように第一ロール11の表面層10、あるいは、被塗布物21に接する塗料粒子32は、第一ロール11の表面層10、あるいは被塗布物21の表面と1点で接触し、その反対側からは複数の隣り合う塗料粒子32と接することで分散した力を受ける。塗料粒子32が第一ロール11の表面層10、あるいは被塗布物21と1点で接触した際に、
図9に示すように第一ロール11の表面層10が塗料粒子32に対して軟質材であれば、第一ロール11の表面層10が変形することで、塗料粒子32と面接触になり、塗料粒子32が受ける圧力は小さくできる。一方で、
図10に示すように第一ロール11の表面層10が塗料粒子32に対して硬質材であれば、第一ロール11の表面層10が変形せず、塗料粒子32と表面層10とが点接触になり、塗料粒子32が受ける圧力は大きくなり、塗料粒子32子が圧壊しやすくなる。しかし、造粒体を粒子状に崩す圧力よりも、第一ロール11の表面層10が軟らかいと、造粒体が崩れる前に第一ロール11の表面層10が変形してしまうため、造粒体を粒子状に崩すことができない。その結果として、第一ロール11の表面層10の変形分、塗膜の膜厚が厚くなってしまい、所定の粒子層数、すなわち目標膜厚の塗膜物を得ることができないといった不具合が生じる。
【0028】
塗料粒子の集合体である造粒体を崩して、所定の目標膜厚にすることができ、かつ、第一ロール11の表面層10に塗料粒子32が食い込むことで塗料粒子32の圧壊を抑制するために、塗料粒子32の圧壊圧力、第一ロール11の表面層10のヤング率、造粒体の崩壊圧力の最適な関係は、シミュレーションにより算出することができ、[Pa]等に単位を統一した状態で下記の関係式の通りである。塗料粒子の圧壊圧力×20>第一ロール11の表面層10のヤング率>造粒体の崩壊圧力である。塗料粒子の圧壊圧力、造粒体の崩壊圧力は、一般的な粉体圧縮試験機を用いることで導出することができる。この関係式を満たすことにより、塗料粒子32の集合体である造粒体を崩して、所定の目標膜厚にすることができ、かつ、第一ロール11の表面層10に塗料粒子32が適度に食い込むことで塗料粒子の圧壊を抑制することができる。
【0029】
表面層10の硬さを規定すると共に、あるいは表面層10の硬さを規定するに代わり、被塗布物21に塗料粒子32が接する際の衝撃を緩和することも可能である。ただし、
図11に示すように被塗布物21は、製品によって決まっているため、被塗布物21の材質を、塗料粒子32に対して軟らかい材質に選定することは難しい。そこで、被塗布物21の裏面を粗面化させることと、被塗布物21が走行する第ニロール12の表面を粗面化させることで、
図11に示すように被塗布物21と第二ロール12の表面との間に空隙14ができ、この空隙14内の空気により、塗料粒子32にかかる圧力が分散され、塗料粒子32が圧壊するのを抑制することもできる。被塗布物21には進行方向にテンションがかかっているため、塗料粒子32から圧力を受けても、空隙14は潰れることなく存在できる。またこの空隙14の大きさは、ロール間の最も狭いギャップを通過する際に最小となる。また、空隙14の大きさを塗料粒子32の体積よりも小さくする。これにより、合剤塗料22が被塗布物21に食い込んで、空隙14内の空気を漏洩させることを抑制することができるため、被塗布物21と接する塗料粒子32の圧壊を抑制できる。
【0030】
また、本構成では、供給する合剤塗料22を、所定の極板合剤重量(g/m
2)にするために、第一ロール11と第二ロール12の隙間は自由に設定することができる、または、第一ロール11と第二ロール12の周速度比を自由に設定することができる。
【0031】
このときの第一ロール11に対する第二ロール12の周速度比(第二ロール12の周速度/第一ロール11の周速度)は、より良好な転写性を得るために1より大きいことが望ましい。
【0032】
図3に、第一ロール11と第二ロール12の周速度が異なる場合のロール構成図を示す。
図1のロールの構成との違いは、
図1の構成が第一ロール11と第二ロール12が等速であるのに対し、
図3では第一ロール11と第二ロール12の周速度が異なっている点である。
【0033】
図3では、第一ロール11に対して異なる周速で回転する第二ロール12が設置されている。この周速度比(第二ロール12の周速度/第一ロール11の周速度)が1より小さいと、合剤塗料22の供給量が不足する可能性が高くなり、合剤塗料22を第一ロール11から被塗布物21上へ塗膜状に転写させることが難しい。
【0034】
また、第一ロール11から被塗布物21上へ合剤塗料22を塗膜状に転写する状態においては、周速度比はかなり大きくても構わないが、均一な膜厚を作製するうえにおいては、周速度比は30以下、つまり周速度比は1より大きく、30以下の範囲であることが望ましい。周速比が1より大きいほうが、転写率が高くなるが、周速比が30より大きいと合剤塗料22とロールとの間で滑りが生じるため、転写率が悪くなるからである。
【0035】
図4に、
図2の第一ロール11と第二ロール12を2組組合せることで、両面同時に塗工できる構成図を示す。また
図2の第一ロール11と第二ロール12を2組以上組み合わせることで複数層を逐次に、あるいは同時に塗工にしても良い。なお、
図4では両面に塗工している。
図4においては、第二ロール12が隣り合うように2組の第一ロール11と第二ロール12を配置する。そして、被塗布物21を、隣り合う2つの第二ロール12の間を走行させる。それぞれの第一ロール11と第二ロール12との間から合剤塗料22を供給し、第二ロール12に転写された合剤塗料22を、隣り合う2つの第二ロール12の間で、被塗布物21の両面に転写する。
次に、ロールを3つ以上用いる場合の塗膜物の製造装置及びこれを用いた塗膜物の製造方法について説明する。ロールを2つ用いる塗膜物の製造装置に対し、以下に示す塗膜物の製造装置は、ロールを3つ以上用いることが特徴である。3つ以上のロールの内、1つは、その外周面に沿って被塗布物を走行させる被塗布物用のロールで、残りのロールは合剤塗料を供給,圧延する塗料供給用のロールである。さらに、被塗布物や塗膜物を保持する補助的なロールを設けることもできる。なお、以下の説明ではロールを3つ用いる構成を例に説明する。
【0036】
図1において、第一ロール11,第二ロール12への密着力が強く、合剤塗料同士の結着力の弱い転写性の乏しい合剤塗料においては、第一ロール11から被塗布物21へ、または、第一ロール11から第二ロール12へ塗膜を転写させる際に、第一ロール11,第二ロール12への密着力が強いため塗膜が第一ロール11,第二ロール12に付着して転写しづらい、あるいは、塗膜の結着力が弱いため塗膜が分断するなどの不具合により、塗膜状に合剤塗料22を形成させることが難しい。
【0037】
そのため、3つのロールを用いる。以下、3つのロールを用いる構成について説明する。
図2に、一旦ロールの表面に形成させた塗膜を塗膜物23に転写する方式のロール構成図を示す。
図1と異なる点は、第三ロール13を追加した点である。塗料供給用のロールである第一ロール11、第二ロール12間で一旦塗膜を形成し、被塗布物用のロールである第三ロール13表面を走行する被塗布物21上に塗膜物23を形成する方法である。
【0038】
図2は、第一ロール11と第二ロール12との間に進入してきた合剤塗料22が、一旦第二ロール12の表面に塗膜状に付着し、この塗膜状の合剤塗料22が、第二ロール12から第三ロール13上を走行する被塗布物21へ転写される様子を示している。
【0039】
この場合、第三ロール13は、第二ロール12とは逆方向に回転し、被塗布物21は、第二ロール12と第三ロール13との間を、第三ロール13の周速度と等しい速さで、第三ロール13の回転方向と同方向に走行する。
【0040】
図2に示す構成において、隣り合う第一ロール11と第二ロール12の周速度を異ならせてもよい。また、
図2に示す構成では、後述のように、隣接する第二ロール12と第三ロール13の周速度を異ならせてもよい。
【0041】
なお、必要に応じて、第二ロール12と第三ロール13の間に、さらに別のロールが存在していてもよい。
図2の構成において、第一ロール11から第二ロール12の表面へ合剤塗料22を塗膜状に転写するため、あるいは第二ロール12から被塗布物21の上へ合剤塗料22を塗膜状に転写するためには、第一ロール11および第二ロール12の表面は
図1の第一ロール11と同様、転写性の優れた材料で被覆されていることが好ましい。材料については
図1の説明部と同様である。
【0042】
図1の第一ロール11と同様、
図2の3つのロールを備える塗膜物の製造装置においても、第一ロール11および第二ロール12に表面層18を設けることが特徴である。また、
図1の表面層10と同様に、これらの表面層18は、使用する合剤塗料22の硬さ、特に塗料粒子の圧壊強度や、塗料粒子の集合体である造粒体を崩すのに必要な強度に合わせて、適切な材質を選定しなければならない。塗料粒子の硬さに対し、表面層18が硬すぎると塗料粒子が圧壊してしまい、製品性能が下がってしまう。一方で、造粒体に対して、表面層18が軟らかすぎると、造粒体を塗料粒子に崩すことができず、目標の粒子層数、すなわち目標膜厚にすることができないといった課題がある。そのため、塗料粒子が例えば層状物質、鱗片状物質のように、弱い結合で凝集した崩れやすい材料や軟らかい材料のとき、表面層18の材質は、ゴム弾性体や樹脂材料とし、崩れた塗料粒子が圧壊されにくい硬さとする。また、上記ゴム弾性体や樹脂の表面に金属材料または複合化合物材料やフッ素化合物等が薄く被覆されていても良い。一方、合剤塗料22中の塗料粒子が金属、金属酸化物、焼結体、セラミック、硬質樹脂といった硬い材料のとき、表面層18の材質は、無機材料、無機−有機ハイブリッド材料、金属材料または複合化合物材料やフッ素化合物などで被覆されていることが好ましい。また、表面層18の耐久性、耐磨耗性を向上させるために、公知の技術により本発明の範囲内で、材質自体の強度を向上させても良い。公知の技術とは、例えば、官能基を付与する、あるいは結晶構造や分子構造を変化させるといった材質自体の強度を向上させる処理などである。
【0043】
前述の
図6〜
図10における説明と同様に、
図2の構成においても、塗料粒子の圧壊圧力×20>ロールの表面層18のヤング率>造粒体の崩壊圧力の関係式を満たすことにより、塗料粒子32の集合体である造粒体を崩して所定の目標膜厚にすることができ、かつ、表面層18に塗料粒子32が食い込むことで塗料粒子32の圧壊を抑制することができる。また、
図11における説明と同様に、
図12に示すように、被塗布物21と第三ロール13表面との間に粒子の体積よりも体積の小さい空隙19をつくることにより、被塗布物21と接する塗料粒子32の圧壊を抑制できる。
【0044】
なお、第一ロール11と第二ロール12との間に供給される合剤塗料22が、本発明の塗膜材料の一例にあたり、被塗布物21に合剤塗料22が塗膜状に転写された塗膜物23が、本発明の塗膜物の一例にあたる。被塗布物21に合剤塗料22が転写された直後の状態から、プレス工程・乾燥工程・剥離工程などの後工程を終えるまでの状態の塗膜物23が、本発明の塗膜物の一例にあたる。
【0045】
実施の形態1,2において、第一ロール11と第二ロール12との間に供給する合剤塗料22の体積水分濃度は、20vol%〜62vol%であることが望ましい。
体積水分濃度がこの範囲内の場合、合剤塗料22は、合剤塗料22中の粒子表面またはその近傍にのみ溶媒が存在しているために流動性を持っていない。体積水分濃度が62vol%よりも多いと、合剤塗料22に流動性が生じやすくなるため、第一ロール11と被塗布物21との両側に合剤塗料22が付着し、塗膜状に合剤塗料22を形成させることが困難となる。また体積水分濃度が20vol%より低いと、合剤塗料22中の粒子間が溶媒によってほとんど被覆されていないので、合剤塗料22を塗膜状に形成させることができず、被塗布物21側に膜状に転写させることができない。
【0046】
よって、合剤塗料22の体積水分濃度を20vol%以上62vol%以下の範囲とすることにより、被塗布物21上に塗膜状の合剤塗料22を精度良く転写させることができる。
【0047】
図13に、本発明の塗膜物の製造装置の模式図を示す。合剤塗料22が第一ロール11と第二ロール12との間の上側に設置された塗料供給ホッパー17を介して、第一ロール11と第二ロール12間ギャップに供給される。巻き出し機15から被塗布物21が搬送され、第二ロール12上面を走行し、第一ロール11と第二ロール12との間で合剤塗料22が被塗布物21上に塗膜状に転写される。合剤塗料22が塗膜状に転写された塗膜物23は、巻き取り機16に巻き取られる。巻き取り機16に搬送される前に必要に応じて、プレス工程・乾燥工程・剥離工程・スリット工程などの後工程を実施しても良い。また巻き取りをせず、積層工程・組立工程などの次工程を直接実施してもよい。
【0048】
図14に、本発明の塗膜物の製造装置及び製造方法で作製した塗膜物である負極板及び正極板を用いたリチウム二次電池の縦断面模式図を示す。円筒形のリチウム二次電池の組立は、
図14に示すように、複合リチウム酸化物を活物質とする正極板1と、リチウムを保持しうる材料を活物質とする負極板2とをセパレータ3を介して渦巻き状に巻回した後、この渦巻き状極板群5を有底円筒形の電池ケース4の内部に収容し、次いでこの電池ケース4に所定量の非水溶媒からなる電解液を注液した後、電池ケース4の開口部にガスケット7を周縁に取り付けた封口板6を挿入し、電池ケース4の開口部を内方向に折り曲げて封口している。
【0049】
なお
図15に示すように、被塗布物がない場合にも、第一ロールと第二ロール間に合剤塗料22を通過させることにより、合剤塗料22が圧延されて、被塗布物が無いシート状の塗膜物24を製造することができる。つまり、塗膜物24は被塗布物21を用いず、合剤塗料22がシート状に圧延されたものである。例えば、このシート状の塗膜物24の粒子を、イオン交換樹脂、カーボン、磁性体、ガラス、セラミック粒子等にすると、フィルター部材シート、電極シート、キャパシタ電極シート、蓄電デバイス電極シート、磁性シート、電磁波吸収シート、断熱シート、放熱シート等、の用途に用いるシート状の塗膜物を製造することができる。
【0050】
以下、発明者らが行った実験結果を、
図1,
図2を用いて各実施例および各比較例として説明する。
(実施例1)
実施例1の実験では、塗膜物として負極板の作製を行い、検証した。
【0051】
まず、次のようにして、負極合剤の塗料Aを作製した。
負極の活物質と結着剤と増粘剤とを所定の量の水とともに双腕式練合機にて攪拌し、体積水分率が50%の負極合剤の塗料Aを作製した。ここで、負極の活物質としては、人造黒鉛を100体積部用いた。また、結着剤としては、活物質100体積部に対して結着剤
の固形分換算で2.3体積部のチレン−ブタジエン共重合体ゴム粒子分散体を用いた。また、増粘剤としては、活物質100体積部に対して1.4体積部のカルボキシメチルセルロースを用いた。負極合剤の塗料Aの造粒体の崩壊圧力、および、人造黒鉛粒子の圧壊圧力は、微小圧縮試験機((株)島津製作所製:MCT−W500)を用いて測定し、それぞれ0.02GPaと0.3GPaであった。
【0052】
合剤塗料Aを塗工した負極板の作製に用いたロールの構成については次のとおりであった。
図2に示すように、第一ロール11と第二ロール12、及び、第二ロール12と第三ロール13を、最も間隔が狭い位置で100μmの隙間を空けて平行に設置した。第一ロール11、第二ロール12および第三ロール13の材質はSUSであり、表面に硬質クロムメッキ処理を施した。また、第一ロール11および第二ロール12は、いずれも、表面層18としてフッ素樹脂膜を被覆させてある。
【0053】
第二ロール12と第三ロール13の間に通す被塗布物21として、厚み15μmの銅箔を用い、銅箔を第三ロール13の周速度と同速度で移動させるようにした。第二ロール12の周速度を30m/minに、第三ロール13の周速度を45m/min設定し、周速度比(第二ロール12の周速度/第一ロール11の周速度)が5になるように、第一ロール11の周速度を6m/minに設定した。
【0054】
上記銅箔の裏面は粗面とし、第二ロール12と第三ロール13間のギャップが最も狭いところを合剤塗料22である合剤塗料Aが通過する際に、第三ロール13と銅箔との間に微小な人造黒鉛粒子以下の体積の空隙が存在するようにした。
【0055】
そして、作製した負極の合剤塗料Aを第一ロール11と第二ロール12との間に供給し、一旦第二ロール12上に塗膜を形成させ、続いて、第二ロール12上から銅箔上に合剤塗料Aの塗膜を転写させた後、乾燥工程にて溶媒を揮発させ、プレス工程にて圧縮成形して負極板を作製した。
【0056】
(実施例2)
実施例2の実験では、塗膜物として正極板の作製を行い、検証した。
まず、次のようにして、正極合剤の塗料Bを作製した。
【0057】
正極の活物質と結着剤と導電材とを所定の量のNMPとともに双腕式練合機にて攪拌し、体積溶媒率が45%の正極の合剤塗料を作製した。正極の活物質としては、ニッケル系正極材を100体積部用いた。また、結着剤としては、活物質100体積部に対して結着剤の固形分換算で2.0体積部のPVDFを用いた。また、導電材としては、活物質100体積部に対して3.0体積部のアセチレンブラックを用いた。正極合剤の塗料Bの造粒体の崩壊圧力、および、ニッケル系正極材粒子の圧壊圧力は、微小圧縮試験機((株)島津製作所製:MCT−W500)を用いて測定し、それぞれ0.02GPaと50GPaであった。
【0058】
合剤塗料Bが塗工された正極板の作製に用いたロールの構成については次のとおりであった。
図2に示すように、実施例1と同様に、第一ロール11と第二ロール12、及び、第二ロール12と第三ロール13を、100μmの隙間を空けて平行に設置した。第一ロール11、第二ロール12および第三ロール13の材質はSUSであり、表面に硬質クロムメッキ処理を施した。第一ロール11および第二ロール12は、いずれも、表面層18としてDLC膜を被覆させてある。
【0059】
第二ロール12と第三ロール13の間に通す被塗布物21として、厚み15μmのアルミ箔を用い、アルミ箔を第三ロール13の周速度と同速度で移動させるようにした。第二ロール12の周速度を30m/minに、第三ロール13の周速度を45m/min設定し、周速度比(第二ロール12の周速度/第一ロール11の周速度)が5になるように、第一ロール11の周速度を6m/minに設定した。
【0060】
上記アルミ箔の裏面は粗面とし、第二ロール12と第三ロール13間のギャップが最も狭いところを合剤塗料22である合剤塗料Bが通過する際に、第三ロール13とアルミ箔との間に微小な人造黒鉛粒子以下の体積の空隙が存在するようにした。
【0061】
そして、作製した正極の合剤塗料Bを第一ロール11と第二ロール12との間に供給し、一旦第二ロール12上に塗膜を形成させ、続いて、第二ロール12上からアルミ箔上に合剤塗料Bの塗膜を転写させた後、乾燥工程にて溶媒を揮発させ、プレス工程にて圧縮成形して正極板を作製した。
【0062】
以下、
図1,
図2を用いて、比較例および比較結果を説明する。
以下の比較例において、比較例1〜2、および比較例5〜8では、それぞれ実施例1とは負極板の作製方法のみ異なるものとした。比較例3、4では、それぞれ実施例2とは正極板の作製方法のみ異なるものとした。
【0063】
負極板上、正極板上の評価については、塗膜転写性、粒子の圧壊性、造粒体を崩して所定の目標膜厚にできるかの低膜厚化性により評価し、方法は次のとおり行った。
塗膜転写性の評価については、第一ロール11から第二ロール12を介して第三ロール13上を走行する被塗布物21へ、合剤塗料22が塗膜状に転写されるかどうかについて、測定を実施した。具体的には、投入した合剤塗料22の重さと転写された塗膜の重さを比較することで、転写率が測定できる。ここでは、転写率が90%以上の場合は転写を○とし、それより少ない場合は×とした。
【0064】
粒子の圧壊性については、極板作成時に活物質粒子が圧壊するかどうかについて顕微鏡による表面観察を実施した。
低膜厚化性については、塗膜の膜厚が設定したロール間ギャップと同じ長さになっているかどうかを測定した。
【0065】
(比較例1)
比較例1は、第一ロール11と第二ロール12の表面層18をDLCとした以外は、実施例1と同様にして負極板を作製した。
【0066】
(比較例2)
比較例2は第一ロール11と第二ロール12の表面層18をシリコンゴムとした以外は、実施例1と同様にして負極板を作製した。
【0067】
(比較例3)
比較例3は第一ロール11と第二ロール12の表面層18をフッ素樹脂とした以外は、実施例2と同様にして正極板を作製した。
【0068】
(比較例4)
比較例4は第一ロール11と第二ロール12の表面層18をシリコンゴムとした以外は、実施例2と同様にして正極板を作製した。
【0069】
(比較例5)
比較例5は銅箔の裏面を鏡面とし、銅箔の裏面が粗面の場合と比較して、銅箔と第三ロール13間の空隙を少ない状態とした以外は、実施例1と同様にして負極板を作製した。
【0070】
(比較例6)
比較例6は負極の合剤塗料22の体積水分率を15%とした以外は、実施例1と同様にして負極板を作製した。
【0071】
(比較例7)
比較例7は負極の合剤塗料22の体積水分率を70%とした以外は、実施例1と同様にして負極板を作製した。
【0072】
(比較例8)
比較例8は第一ロール11および第二ロール12の表面層18の材質をアクリル樹脂とした以外は、実施例1と同様にして負極板を作製した。
【0073】
各実施例1〜2における測定結果を
図16に、各比較例1〜8における測定結果を
図17に示す。
【0074】
図16から明らかなように、実施例1、2において、合剤塗料22に含まれる塗料粒子の圧壊圧力×20>ロールの表面層18のヤング率>造粒体の崩壊圧力となるよう、それぞれロールの表面層18の材質を選定することで、塗料粒子の表面層への食込み深さは、それぞれ粒子径の50%以上、5%以下となる。つまり、合剤塗料を圧延する際の、塗料粒子の表面層への食い込み深さが、塗料粒子径の5%以上50%以下であると、塗料粒子が圧壊せず、また造粒体を崩して目標の厚みとすることができる結果が得られた。また、被塗布物21の裏面を粗面とし、ロールとの間に空隙を設けることで被塗布物21と接する塗料粒子が圧壊しない結果が得られた。さらに、表面層18の水接触角が90°以上となる表面層18の材質を選定することで、良好な転写性が得られた。ここで、水接触角は、板状の表面層18の材質の表面上に水滴を滴下したときの、水滴の表面と板の表面との境界における水滴表面の接線と板とがなす角度である。
図17に示すように、塗料粒子の圧壊圧力×20>ロールの表面層18のヤング率とならないロールの表面層18を選定した比較例1では、塗料粒子の表面層への食込み深さは粒子径の3%であり、塗料粒子が圧壊する結果となった。塗料粒子に対して表面層18が硬すぎたためである。
【0075】
ロールの表面層18のヤング率>造粒体の崩壊圧力とならないロールの表面層18を選定した比較例2〜4では、塗料粒子の表面層への食込み深さは粒子径の55%以上であり、塗料粒子は圧壊しなかったが、造粒体を崩すことが難しく低膜厚化ができない結果となった。造粒体が表面層18に食い込みすぎたためである。
【0076】
銅箔の裏面を鏡面とし、銅箔と第三ロール13間の空隙をできるだけ少なくした比較例5では、銅箔と接触した塗料粒子へかかる圧力が分散されず、塗料粒子が圧壊する結果となった。したがって、被塗布物21の裏面は粗面とし、被塗布物21とロールの間に空隙を設けることが好ましいことが分かる。
【0077】
塗膜材料の体積水分率を20vol%〜62vol%の範囲外とした比較例6および7では、前記第二ロール12から被塗布物21への転写性が悪く、前記第二ロールにほとんどの塗膜材料が残る結果が得られた。したがって、塗膜材料の体積水分率を20vol%以上62vol%以下とすることが好ましいことが分かる。
【0078】
第一ロール11に対する第二ロール12の周速度比(第二ロール12の周速度/第一ロール11の周速度)を1より小さい値とした比較例5では、前記第二ロール12から被塗布物21への転写性がやや悪く、前記第二ロールに塗膜材料が残る結果が得られた。そのため、周速度比(第二ロール12の周速度/第一ロール11の周速度)は1以上とすることが好ましいことが分かる。
【0079】
第一ロール11および第二ロール12の表面層18の材質をアクリル樹脂とした比較例8では、前記第二ロール12から被塗布物21への転写性が悪く、前記第二ロールにほとんどの塗膜材料が残る結果が得られた。
【0080】
以上の評価から、粒子の圧壊圧力×20>ロールの表面層のヤング率>造粒体の崩壊圧力となり、塗料粒子の表面層への食い込み深さが粒子径の5%以上50%以下となるよう、それぞれ第一ロール11および第二ロール12の表面層18の材質を選定することにより、塗料粒子がロールの表面層18に適度に食い込み、ロールの表面層18が変形するため、良好な転写性が得られ、粒子が圧壊せず、造粒体を崩して目標の厚みとすることができる。さらに、被塗布物21の裏面を粗面とし、ロールとの間に空隙を設けることが好ましい。また、水接触角が90°以上のロールの表面層18の材質を選定することが好ましい。また、合剤塗料22の体積水分量が20vol%以上62vol%以下の範囲にすることが好ましい。そのようにして、活物質が圧壊しない均一な塗膜物の製造を実現できる製造装置、及びこれを用いた製造方法を提供することができ、上記製造方法で作製した極板を使用することにより、出力特性の優れた二次電池が提供できることがわかった。すなわち、湿潤した電極組成物からなる塗料をロール間で圧延して塗膜を形成し、前記塗膜を集電体へ転写させることで、直接集電体に電極組成物層を形成でき高生産性であること、塗料の乾燥工程が必要ない湿潤塗料を用いた場合でも、塗料粒子が圧壊しない均一な塗膜物の製造を実現できる。
【0081】
本発明の厚みバラつきの小さい極板を使用した二次電池は、出力特性に優れているので、電子機器(パーソナルコンピュータ、携帯電話機、スマートフォン、ディジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ等)、電動工具(電動ドリル、電動ドライバー等)、および、車両(車椅子、自転車、スクータ、オートバイ、車、福祉車両、電車、汽車等)などの移動体に用いることができる。さらに、非常時用の電源としての電力貯蔵システムに適用することも可能である。
【0082】
また、本発明に係る塗膜物の製造用ロール、及びこれを用いた製造方法は、前記電池の極板の他に、キャパシタやフェライトシートや軟水機中の樹脂膜、その他機能性の樹脂膜の製造方法に展開できる。