特許第6436557号(P6436557)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許6436557-吸着式冷凍機 図000005
  • 特許6436557-吸着式冷凍機 図000006
  • 特許6436557-吸着式冷凍機 図000007
  • 特許6436557-吸着式冷凍機 図000008
  • 特許6436557-吸着式冷凍機 図000009
  • 特許6436557-吸着式冷凍機 図000010
  • 特許6436557-吸着式冷凍機 図000011
  • 特許6436557-吸着式冷凍機 図000012
  • 特許6436557-吸着式冷凍機 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6436557
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】吸着式冷凍機
(51)【国際特許分類】
   F25B 17/08 20060101AFI20181203BHJP
【FI】
   F25B17/08 Z
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-261004(P2013-261004)
(22)【出願日】2013年12月18日
(65)【公開番号】特開2015-117877(P2015-117877A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年6月27日
【審判番号】不服2017-8769(P2017-8769/J1)
【審判請求日】2017年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】特許業務法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 伸介
(72)【発明者】
【氏名】柳田 昭
(72)【発明者】
【氏名】岡本 義之
(72)【発明者】
【氏名】永島 久夫
【合議体】
【審判長】 紀本 孝
【審判官】 窪田 治彦
【審判官】 槙原 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−287531(JP,A)
【文献】 特開平10−185353(JP,A)
【文献】 特開2006−284051(JP,A)
【文献】 特開2005−257199(JP,A)
【文献】 特開2004−132690(JP,A)
【文献】 特開2008−107075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B17/08,35/04-37/00
F28D20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を熱媒体が流通する熱媒体管(121)と、
前記熱媒体によって冷却されることで前記熱媒体管(121)外部の気相状態の冷媒を吸着し、さらに、加熱されることで吸着した前記冷媒を脱離する吸着剤(124)を有する吸着層(122)と、
前記熱媒体管(121)の長手方向に直交するように配置され、前記熱媒体管(121)と前記吸着剤(124)との間で熱の授受を行う伝熱部材(123)とを備え、
複数の前記伝熱部材(123)が所定ピッチで並べられ、隣り合う前記伝熱部材(123)の間に前記吸着材(124)が充填され、前記伝熱部材(123)と前記吸着剤(124)とが一体に形成されている吸着器を複数備える吸着式冷凍機であって、
前記所定ピッチは200μm以下であり、
前記吸着層(122)内に充填された前記吸着剤(124)の充填密度(ρ)を、前記吸着剤(123)の粒子の真密度(ρabs)で除した値を吸着剤充填割合(φ)としたとき、前記吸着剤充填割合(φ)が70%以下であり、
前記伝熱部材(123)と前記熱媒体管(121)とが金属接合されており、
前記複数の吸着器(11、12)のうち、前記吸着剤(124)に前記冷媒を吸着させる吸着工程となる吸着器および前記吸着剤(124)から前記吸着した前記冷媒を脱離させる脱離工程となる吸着器を切り換えることによって、複数の運転モードを切り換えるように構成されており、
前記吸着工程と前記脱離工程との切替時間(τ)が、20秒以上、240秒以下の範囲に設定されていることを特徴とする吸着式冷凍機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の吸着・脱離を行う吸着剤を有する吸着式冷凍機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、吸着式冷凍機に用いられる吸着器として、熱媒体が流れる熱媒体管の外周に、吸着剤と伝熱部材とが混合された吸着層を設けられたものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−148194号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のような吸着器において、吸着能力Qは、以下の数式1にて表される。
【0005】
(数1)
Q=G・ΔH・ΔC・η/τ
但し、Gは吸着剤量であり、ΔHは吸着剤が吸着・脱離する冷媒の冷媒潜熱であり、ΔCは吸着容量であり、ηは吸着効率であり、τは切替時間である。なお、切替時間τとは、吸着剤に冷媒を吸着させる吸着工程と、吸着剤から吸着した冷媒を脱離させる脱離工程との切替時間のことをいう。
【0006】
この数式1から明らかなように、吸着剤量Gが多くなると、吸着能力Qが向上する。しかしながら、吸着層のうち吸着剤の割合が多い場合、吸着剤の熱抵抗が大きいため、吸着剤量Gの増加分以上に吸着効率ηが低下し、その結果、吸着能力Qが低下するという問題がある。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、吸着能力を向上させることができる吸着式冷凍機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、内部を熱媒体が流通する熱媒体管(121)と、熱媒体によって冷却されることで熱媒体管(121)外部の気相状態の冷媒を吸着し、さらに、加熱されることで吸着した冷媒を脱離する吸着剤(124)を有する吸着層(122)と、熱媒体管(121)の長手方向に直交するように配置され、熱媒体管(121)と吸着剤(124)との間で熱の授受を行う伝熱部材(123)とを備え、複数の伝熱部材(123)が所定ピッチで並べられ、隣り合う伝熱部材(123)の間に吸着材(124)が充填され、伝熱部材(123)と吸着剤(124)とが一体に形成されている吸着器を複数備える吸着式冷凍機において、所定ピッチは200μm以下であり、吸着層(122)内に充填された吸着剤(124)の充填密度(ρ)を、吸着剤(123)の粒子の真密度(ρabs)で除した値を吸着剤充填割合(φ)としたとき、吸着剤充填割合(φ)が70%以下であり、伝熱部材(123)と前記熱媒体管(121)とが金属接合されており、複数の吸着器(11、12)のうち、吸着剤(124)に冷媒を吸着させる吸着工程となる吸着器および吸着剤(124)から吸着した冷媒を脱離させる脱離工程となる吸着器を切り換えることによって、複数の運転モードを切り換えるように構成されており、吸着工程と脱離工程との切替時間(τ)が、20秒以上、240秒以下の範囲に設定されていることを特徴とする。
【0009】
これによれば、吸着剤充填割合(φ)を70%以下とすることで、吸着剤充填割合(φ)が90%前後の従来の吸着器に比べ、2倍以上の吸着能力を確保することができるので、吸着能力を向上させることができる(図4参照)。
【0010】
なお、本発明において、「伝熱部材(123)と吸着剤(124)とが一体に形成されている」とは、吸着剤(124)が伝熱部材(123)に対して三次元的に配置されていることを意味している。例えば、熱媒体管(121)が円管により構成されているとともに、プレート状の伝熱部材(123)が熱媒体管(121)の外表面に複数設けられている場合、「伝熱部材(123)と吸着剤(124)とが一体に形成されている」とは、吸着剤(124)が伝熱部材(123)に対して、伝熱部材(123)の長手方向(熱媒体管(121)の径方向)だけでなく、熱媒体管(121)の長手方向(軸方向)および熱媒体管(121)の周方向に三次元的に配置されていることを意味している。
【0011】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態における吸着式冷凍機の全体構成図であり、第1の作動状態を示している。
図2】第1実施形態における第1吸着器を示す要部拡大図である。
図3】第1実施形態における吸着式冷凍機の全体構成図であり、第2の作動状態を示している。
図4】切替時間と吸着能力との関係を示す特性図である。
図5】切替時間と吸着効率との関係を示す特性図である。
図6】伝熱部材の構成材料を変更した場合の吸着能力の変化を示す特性図である。
図7】第2実施形態における第1吸着器を示す正面図である。
図8図7のVIII−VIII断面図である。
図9図8のIX−IX断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0014】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について図1図6に基づいて説明する。図1に示すように、吸着式冷凍機は、第1、第2の2つの吸着器11、12、凝縮器13および蒸発器14を備えている。
【0015】
第1、第2吸着器11、12の内部には第1熱媒体(本実施形態では水)が流通する。第1、第2吸着器11、12の表面には、冷媒を吸着・脱離する吸着剤が保持されている。
【0016】
第1、第2吸着器11、12の内部に流通する第1熱媒体としては、熱源15で加熱された高温熱媒体と、室外器16で冷却された低温熱媒体とを切り替え可能になっている。室外器16は、熱媒体と室外空気とを熱交換させて第1熱媒体を冷却する放熱用熱交換器である。
【0017】
第1、第2吸着器11、12の内部に低温熱媒体が流通している場合には、吸着剤は蒸気冷媒を吸着する。第1、第2吸着器11、12の内部に高温熱媒体が流通している場合には、吸着剤は冷媒を脱離する。吸着剤としては、ゼオライトやシリカゲル等を用いることができる。
【0018】
凝縮器13は、室外器16で冷却された第1熱媒体と、第1、第2吸着器11、12のいずれか一方で脱離した蒸気冷媒(本実施形態では水蒸気)とを熱交換させて蒸気冷媒を凝縮させる。
【0019】
蒸発器14は、凝縮器13で凝縮した液冷媒(本実施形態では水)と室内器17からの第2熱媒体(本実施形態では水)とを熱交換させて液冷媒を蒸発させる。蒸発器14で蒸発した蒸気冷媒は、第1、第2吸着器11、12のいずれか一方に吸着される。室内器17は、蒸発器14で吸熱された第2熱媒体と室内空気とを熱交換させて室内空気を冷却する冷却用熱交換器である。
【0020】
第1、第2吸着器11、12、凝縮器13および蒸発器14の間の蒸気冷媒の流通は、蒸気バルブ18によって制御される。
【0021】
図1中、ポンプ19、20は第1熱媒体を循環させるものであり、ポンプ21は第2熱媒体を循環させるものである。切換弁22、23は第1熱媒体の循環経路を切り換えるものである。
【0022】
次に、本実施形態の第1、第2吸着器11、12の構成について説明する。なお、第1吸着器11と第2吸着器12とは同様の構成であるため、以下では第1吸着器11について説明し、第2吸着器12については説明を省略する。
【0023】
図2に示すように、第1吸着器11は、熱媒体が流れる熱媒体管121を有している。熱媒体管121は、熱伝導性に優れる金属(本実施形態では、銅または銅合金)により構成されている。熱媒体管121の外側には、吸着層122が設けられている。
【0024】
具体的には、熱媒体管121の外表面には、熱伝導性に優れる金属(本実施形態では、銅または銅合金)により構成された伝熱部材123が金属接合されている。本実施形態の伝熱部材123は、板状に形成されており、複数枚が所定のピッチPで等間隔に並べられている。複数枚の伝熱部材123の配置方向は、熱媒体管121内の熱媒体の流れ方向と平行になっている。
【0025】
隣り合う伝熱部材123の間には、吸着剤124が充填されている。これにより、伝熱部材123と吸着剤124とが一体に形成されている。吸着剤124は、熱媒体によって冷却されることで熱媒体管121外部の気相状態の冷媒(水蒸気)を吸着し、さらに、加熱されることで吸着した冷媒(水蒸気)を脱離するものである。吸着剤124は、微小な多数の粒子状に形成されており、例えば、シリカゲル、ゼオライトから構成されている。このような伝熱部材123および吸着剤124により、吸着層122が構成されている。
【0026】
次に、上記構成における作動を説明する。吸着式冷凍機は、第1、第2吸着器11、12のうち、吸着剤124に冷媒を吸着させる吸着工程となる吸着器および吸着剤124から吸着した冷媒を脱離させる脱離工程となる吸着器を切り換えるように構成されている。
【0027】
具体的には、まず切換弁22、23を図1に示すように作動させて、熱源15と第1吸着器11との間に高温の第1熱媒体を循環させるとともに、室外器16と第2吸着器12および凝縮器13との間に低温の第1熱媒体を循環させる。
【0028】
これにより、第1吸着器11が、吸着していた冷媒を脱離する脱離工程となり、第2吸着器12が、蒸気冷媒を吸着する吸着工程となるので、第1吸着器11では吸着剤の再生が行われ、第2吸着器12で発生した冷凍能力により室内に吹き出す空気が冷却される。
【0029】
そして、この状態(第1の作動状態)で所定時間が経過したときに、切換弁22、23を図3に示すように作動させて、熱源15と第2吸着器12との間に高温の第1熱媒を循環させるとともに、室外器16と第1吸着器11および凝縮器13との間に低温の第1熱媒体を循環させる。
【0030】
これにより、第1吸着器11が吸着工程となり、第2吸着器12が脱離工程となるので、第1吸着器11で発生した冷凍能力により空調風が冷却され、第2吸着器12にて吸着剤の再生が行われる。
【0031】
そして、この状態(第2の作動状態)で所定時間が経過したとき、切換弁22、23を作動させて再び図1の状態(第1の作動状態)とする。このように、図1の第1の作動状態と図3の第2の作動状態とを所定時間毎に交互に繰り返して、吸着式冷凍機を連続的に稼働させる。
【0032】
なお、所定時間は、ケーシング24内に存在する液冷媒の残量や、第1、第2吸着器12の吸着剤の吸着能力等に基づいて適宜選定されるものである。以下、この所定時間を、切替時間τという。なお、本実施形態では、各吸着器11、12において、吸着剤124に冷媒を吸着させる時間である吸着工程時間と、吸着剤124から吸着した冷媒を脱離させる時間である脱離工程時間とが等しくなっている。
【0033】
ところで、第1、第2吸着器11、12における吸着能力Qは、発明が解決しようとする課題の欄に記載の通り、以下の数式1で表される。
【0034】
(数1)
Q=G・ΔH・ΔC・η/τ
このとき、吸着容量ΔCと吸着効率ηの積は、以下の数式2のように、吸着剤温度Tadと冷媒温度Tvとの関数で表される。
【0035】
【数2】
但し、Tadは吸着剤温度であり、Tvは冷媒温度である。
【0036】
ここで、吸着剤温度Tadは、熱媒体から吸着剤124までの熱抵抗によって伝熱計算がされる。吸着剤124としてシリカゲルやゼオライト等の一般的な吸着剤を採用した場合、吸着剤124の熱伝導率は0.01〜0.1W/mKオーダーとなる。これに対し、銅やアルミニウム等から構成される伝熱部材123の熱伝導率は数百W/mKオーダーであるため、伝熱部材123に対して吸着剤124の熱抵抗が非常に大きい。
【0037】
したがって、吸着剤124や伝熱部材123の材質よりも、吸着剤124の充填割合φが吸着剤温度に与える影響が大きく、吸着能力ηは吸着剤124の充填割合φに律速される。
【0038】
そして、吸着剤124の充填割合φは、以下の数式3で表される。
【0039】
【数3】
但し、ρは吸着層122内に充填された吸着剤124の充填密度であり、ρabsは吸着剤124の粒子の真密度である。吸着剤124の充填密度ρは、以下の数式4で表される。
【0040】
(数4)
ρ=m/V
但し、mは吸着層122内に充填された吸着剤124の重量であり、Vは吸着層122全体の体積である。
【0041】
ここで、吸着剤124としてゼオライトを用いるとともに、伝熱部材123を銅で構成した吸着器11、12において、吸着剤124の充填割合φ変更した場合の吸着能力の変化を図4に示し、吸着剤124の充填割合φ変更した場合の吸着効率の変化を図5に示す。なお、下記の表1に示すように、伝熱部材123の板厚TおよびピッチPを変更することにより、吸着剤124の充填割合を変更することができる。
【0042】
【表1】
なお、吸着剤124の充填割合φの上限は、伝熱部材123の製造限界から決まり、伝熱部材123を一般的な機械加工により製造する場合、90%である。
【0043】
図4および図5から明らかなように、吸着剤124の充填割合φが小さくなるほど、吸着能力が高くなり、また、吸着効率も高くなる。
【0044】
吸着剤124の充填割合φが小さくなるほど吸着能力が高くなるという傾向は、図4に示すように、切替時間τが20秒〜240秒の範囲において、より顕著に表れる。具体的には、吸着剤124の充填割合φを70%以下とすることで、従来の吸着器(吸着剤124の充填割合φが90%)における吸着能力の最大値(図4中の白丸参照)に対して2倍以上の吸着能力を確保することができる。さらに、吸着剤124の充填割合φを60%以下とすることで、従来の吸着器における吸着能力の最大値に対して3倍以上の吸着能力を確保することができる。
【0045】
ところで、上述の吸着器11、12において、伝熱部材123の構成材料を変更した場合の吸着能力の変化を図6に示す。図6では、吸着剤124の充填割合φを60%とした場合における、伝熱部材の123の構成材料を銅としたときの吸着能力の変化、および、伝熱部材123の構成材料をアルミニウムとしたときの吸着能力の変化を示している。
【0046】
図6から明らかなように、伝熱部材の123の構成材料を銅としてもアルミニウムとしても、切替時間τに対する吸着能力はほとんど変わらない。したがって、伝熱部材の123の構成材料を変更しても、吸着剤124の充填割合φが小さくなるほど吸着能力が高くなるという傾向は変わらない。
【0047】
以上説明したように、吸着剤充填割合φを70%以下とすることで、吸着剤充填割合φが90%前後の従来の吸着器に比べ、2倍以上の吸着能力を確保することができるので、吸着能力を向上させることができる。さらに、吸着剤充填割合φを60%以下とすることで、前記従来の吸着器に比べ、3倍以上の吸着能力を確保することができるので、吸着能力をより向上させることができる。
【0048】
このとき、吸着剤充填割合φを低下させると、吸着剤量Gが少なくなるため、上述した数式1において、吸着剤量Gが減少した分だけ吸着能力Qが低下すると考えられる。しかしながら、吸着剤量Gの減少分以上に吸着効率ηが上昇しているため、結果として吸着能力Qは向上している。
【0049】
すなわち、本実施形態では、吸着剤充填割合φを低下させても、すなわち吸着剤量を減少させても、吸着能力を向上させることができる。このため、吸着能力を向上させつつ、吸着器11、12の小型化を図ることができる。吸着器11、12を小型化することにより、吸着器11、12の熱容量が小さくなるため、吸着式冷凍機の冷凍サイクル全体として高い成績係数(COP)を発揮することができる。
【0050】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図7図9に基づいて説明する。本第2実施形態は、上記第1実施形態と比較して、第1吸着器11および第2吸着器12の構成が異なるものである。なお、本実施形態においても、第1吸着器11と第2吸着器12とは同様の構成であるため、以下では第1吸着器11について説明し、第2吸着器12については説明を省略する。
【0051】
本実施形態の第1吸着器11は、図7図8および図9に示すように、金属製の筐体30内に吸着コア20を一体化成形して備えている。吸着コア20は、熱媒体管121を有している。熱媒体管121の周辺部には、細孔123aを有する伝熱部材123および吸着剤124が設けられている。すなわち、吸着コア20は、熱媒体管121と、細孔を有する伝熱部材123と、その細孔に充填された吸着剤124とを有している。
【0052】
伝熱部材123は、熱伝導性に優れる金属粉を加熱して、溶融することなく焼結によって結合した焼結体である。金属粉は、銅または銅合金を用いており、例えばその金属粉は、粉末状、粒子状、鱗片状および繊維状のいずれか(本実施形態では、繊維状)に形成されているものであればよい。
【0053】
上記焼結時においては、金属粉間に存在する空隙によって、いわゆる三次元網目状の気孔が焼結体に形成される。この三次元網目状の気孔が、上記細孔に相当するものである。細孔は、粒子径が微小な吸着剤124を充填可能に構成された微細な孔である。金属粉、すなわち伝熱部材123は、熱媒体管121に焼結によって金属的に結合(接合)されている。伝熱部材123は、その全体が一方向に伸長するように、複数の円筒状の熱媒体管121の周辺部に形成されており、全体形状として円筒状である。
【0054】
さらに、本実施形態では、図8に示すように、熱媒体管121の間に、冷媒が流通する冷媒通路125が配置されている。この冷媒通路125は、上記三次元網目状の細孔とは異なり、一方向に例えばまっすぐに延びるように形成されている。具体的には、冷媒通路125は、熱媒体管121の延伸方向、すなわち円筒状の熱媒体管121の軸方向に延びるように形成されている。
【0055】
筐体30は、図7および図9に示すように、筐体本体131、シート132、133、およびタンク134、135を有している。
【0056】
筐体本体131は、円筒状に形成されており、内部に、円筒状の吸着コア20の伝熱部材123が収容可能に形成されている。また、筐体本体131の上端側開口部と下端側開口部は、シート132、133で封止可能に形成されている。筐体本体131の上部には、吸着コア20の吸着層(吸着剤充填層)に、冷媒(水蒸気)を導くことが可能な冷媒流入配管136および冷媒流出配管137が設けられている。
【0057】
このように筐体本体131とシート132、133を封止することにより、内部を真空に保持可能である。これにより、筐体本体131とシート132、133によって形成される内部密閉空間内には、被吸着媒体としての冷媒以外には、他の気体は存在しないようになっている。
【0058】
吸着時には、冷媒は、蒸発器側から冷媒流入配管136を通して、冷媒通路125に分配される。冷媒通路125に分配された冷媒は、吸着層の内部に浸透する。また、脱離時には、冷媒は、吸着層から吐き出され、吐き出た冷媒は各冷媒通路125を通して、冷媒流出配管137より凝縮器側へ導かれる。
【0059】
また、シート132、133には、熱媒体管121が貫通可能な貫通穴132a、133aが形成されている。この貫通穴132a、133aと熱媒体管121は、ろう付け等による接合により気密に固定されている。
【0060】
タンク134、135には、熱媒体を導くことが可能な熱媒体流入配管138および熱媒体流出配管139が設けられている。熱媒体は、下部タンク134の熱媒体流入配管138に流入し、熱媒体管121を通して、上部タンク135の熱媒体流出配管139より流出する。このような下部タンク134および上部タンク135は、熱交換媒体を複数の熱媒体管121へ供給分配するためのタンクである。
【0061】
本実施形態のように、伝熱部材123を金属粉により構成した吸着器11、12においても、上記第1実施形態と同様の効果を得ることが可能となる。
【0062】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
【0063】
(1)上記実施形態では、熱媒体管121および伝熱部材123を銅または銅合金により構成した例について説明したが、これに限らず、例えばステンレスやアルミニウム等、他の金属によりそれぞれ構成してもよい。
【0064】
(2)上記実施形態では、各吸着器11、12において、吸着工程時間と脱離工程時間とが等しくなっている例について説明したが、これに限定されない。
【0065】
吸着式冷凍機を、連続的な冷房運転(吸着器11、12で発生した冷凍能力により空調風を冷却する運転)およびヒートポンプとして作動させる場合は、通常、吸着工程時間と脱離工程時間とが等しくなる。しかしながら、吸着工程時間と脱離工程時間とが異なる場合に、本発明を適用してもよい。なお、この場合、吸着性能は吸着工程時間に律速されるので、吸着工程時間を切替時間τとみなしてもよい。
【0066】
(3)上記第2実施形態では、伝熱部材123を金属粉により構成した例について説明したが、これに限らず、伝熱部材123を金属粉、金属繊維、金属メッシュおよび発泡金属の群から選択される少なくとも一種により構成してもよい。
【0067】
(4)上記第2実施形態では、熱媒体管121および筐体30の径方向断面を円筒形状とした例について説明したが、これに限らず、熱媒体管および筐体の径方向断面を、楕円形状、矩形状等のいずれの形状としてもよい。
【符号の説明】
【0068】
121 熱媒体管
122 吸着層
123 伝熱部材
124 吸着剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9