【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は次の飛行体および高速交通システムである。
(1) 走行路にそって揚力および地面効果により飛行して走行する飛行体であって、
走行方向にそって上に凸の翼形の断面を有し、走行により揚力が生じて浮上する胴体
と、
この胴体を備えた機体と、
この機体を走行方向に推進する推進装置と、
前記機体が走行方向にそって走行するように制御する制御装置と、
前記機体の下部から上部方向に流れる気流を制限し、揚力の発生に必要な圧力差を維持するように、機体の側部がわから走行路がわに伸びる減圧部材とを有し、
前記減圧部材は機体の走行方向には存在せず、
揚力が生じる主翼を有しないことを特徴とする飛行体。
(2) 減圧部材がブラシである上記(1)記載の飛行体。
(3) アスペクト比が1以下である上記(1)または(2)記載の飛行体。
(4) 走行路が路面および側壁を有し、減圧部材が機体の側部がわから、走行路の路面または側壁がわに伸びるものである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の飛行体。
(5) 走行路と、
上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の飛行体と
を有することを特徴とする高速交通システム。
(6) 走行路が路面および側壁を有する上記(5)記載の高速交通システム。
(7) 走行路から飛行体に電力を供給する給電装置
を含む上記(5)または(6)記載の高速交通システム。
【0008】
本発明では、飛行体は走行路にそって、揚力および地面効果を利用して飛行する。走行路は走行方向にそって伸びる路面、およびその両がわに平行な側壁を有しているか、または路面の中央に機体が跨って走行する中央壁を有していることが好ましく、路面は地面効果を得るためにほぼ平坦に形成されることが好ましい。路面、側壁および中央壁は剛性を有する材質であれば制限なく用いることができ、材質としてはアスファルト、コンクリート、鋼材などが挙げられる。路面の幅は、走行する飛行体の幅に応じて決められるが、側壁と飛行体の間隙は飛行体の制御精度を考慮すると、例えば30cm〜60cm、特に40cm〜50cmとすることができる。また側壁の高さは機体に取り付けた減圧部材の浮上時の高さよりも高くする。側壁の向きは直線部では路面に垂直とすることができるが、カーブでは旋回面に応じて傾斜させることができる。走行路は上部を開放型にしてもよいが、屋根で覆うのが好ましく、場合によっては上部を塞いだトンネルとすることもできる。
【0009】
本発明の飛行体は、走行路にそって揚力および地面効果により飛行する飛行体である。地上から浮上して飛行する飛行体としての航空機は、主翼の揚力により航行するが、前記特許文献1などでも同様に
主翼の揚力により浮上する。このように
主翼を利用する飛行体は、前述のように
主翼の分だけ走行路の幅を大きくする必要があるので、飛行体の
主翼をなくすことができれば、幅の小さい走行路を利用して走行することが可能となる。このように飛行体の
主翼をなくすために、本発明では、飛行体の胴体を翼
形に形成し、揚力および地面効果による浮上を可能にする。
【0010】
本発明の飛行体は、走行方向にそって上に凸の形状の上面を有する胴体を備えた機体を採用する。これにより機体の胴体自体が、走行方向にそった断面が翼形になり、このような胴体を備えた飛行体が走行すると、上に凸の形状をもつ胴体の上面にそって流れる気流は、他の部分よりも高速となり、気圧が低下するため揚力が生じる。この時飛行体が路面からわずかの間隔で走行する場合には、飛行体の下がわの空気流の圧力が高くなるという地面効果により、機体は上向の力を受けて押し上げられる。こうして路面付近を走行する飛行体は、揚力および地面効果により効率的に飛行することができる。地面効果は機体が迎え角を形成する状態で飛行することにより大きくなる。胴体の下面を下に凸の形状にしてもよく、これにより地面効果が得られやすくなる場合もある。この場合でも、胴体の下面よりも上面を凸にして、中心線(カンバーライン;camber line)が翼弦線に対して上に凸となるようにすることにより、揚力を大きくすることができる。
【0011】
このような胴体の形状としては、簡単なものとして、前がわと後がわが対称な放物線カンバー翼形があるが、最大翼厚部が前がわにある層流翼形にしてもよい。上面および下面の走行方向に垂直な面の形状は路面と平行な直線とされるが、上または下に凸の形状にしてもよい。胴体の高さは空気抵抗を小さくするために低いほうが良いが、乗客の居住性を確保する必要があるため2m〜4mとすることができ、機体の長さを大きくして(形状を細長くして)空気抵抗を減らすこともできる。胴体の幅は乗客の居住性と走行路の幅を削減するため、用途によって1〜4m程度とすることができる。またアスペクト比(翼幅/翼弦)は1よりかなり小さくてもよい。本発明では胴体が翼形であるので、アスペクト比の要素である翼幅は胴体の幅、翼弦は胴体の長さに相当する。
【0012】
飛行体が揚力および地面効果により飛行する場合、機体の上下を流れる気流の圧力は機体の上がわで低く、下がわで高くなる。この圧力差を解消しようとして、機体の下がわから上がわへ気流が流れると圧力差がなくなり、揚力が得られなくなる。一般に航空機ではアスペクト比を大きくすることにより
主翼の下から上に流れる空気の量を抑制しているが、本発明では無
主翼のためアスペクト比が小さいので、胴体の側部がわから走行路がわに伸びる減圧部材を設けて、胴体の下部から上部方向に流れる気流を制限し、上下の圧力差を維持する。このとき上下の圧力差は、一例として翼
形上面の面積(=胴体の面積)が40m
2のとき機体の重量を6トンとすると、1470Pa(=0.015気圧)程度であり、胴体と走行路間に密着して気流を遮断する必要はなく、減圧部材を設けて機体の下部から上部方向に流れる気流を制限するだけで良い。この圧力差は走行速度、揚力係数が大きいほど大きくなるので、走行状態で揚力が得られる程度の圧力差を維持することができる。
【0013】
この減圧部材は機体の下部から上部方向に流れる気流を完全に遮断するものではなく、気流を少しずつ通過させる際、圧力損失により減圧して、上下の圧力差を維持するような部材である。このような減圧部材としては、多数の間隙が分散して存在する多間隙部材であって、その間隙を通して気流を効率的に通過させ、それにより圧力損失を生じさせる部材があるが、可撓性を有するものが好ましい。このような減圧部材として、胴体がわの基部から線状、片状、羽根状等の可撓性長尺材が伸びるブラシが好ましいが、網その他の材料でもよい。減圧部材を形成する材料としては、炭素繊維成形体、鋼材、セラミック、その他の耐熱性、耐摩耗性で安全性の高い材料が好ましい。減圧部材は胴体の側部がわから走行路がわに伸びるように形成される。減圧部材は胴体の側部から走行路がわに伸びるのが好ましいが、胴体の側部がわであれば、底部から走行路がわに伸びていてもよい。走行路が路面および側壁を有する場合は、路面がわに伸びるようにすることもできるが、特に側壁がわに伸びるのが好ましい。減圧部材は機体と走行路間の間隙を埋め、その先端が走行路に摺動するように達するのが好ましいが、走行路との間に間隙が生じてもよい。減圧部材は胴体のほぼ全長にわたって設けてもよいが、上下の差圧の大きい部分に限定して設けてもよい。
【0014】
飛行体を形成する機体には、胴体の後方に伸びる尾翼が形成されるが、さらに胴体の前方に伸びる前翼が形成されてもよい。尾翼は水平尾翼と垂直尾翼からなる安定飛行のための固定翼であり、それぞれ変角式の制御フィンが設けられる。尾翼に設けられる制御フィンは左右に分割して設けられ、それぞれ別々に変角制御可能とされる。前翼が形成される場合も、制御フィンと同様の変角式に形成することができる。機体には、離着陸のための着陸装置が設けられる。着陸装置は胴体の下部に設ける車輪(ローラ)が一般的であるが、他の構成のものでもよい。車輪は無駆動式の自由輪としてもよいが、低速時の操縦性を持たせるために、駆動輪にしたり、あるいは操舵性の車輪にすることもできる。このような車輪は飛行時には格納可能とすることができる。
【0015】
本発明の飛行体には、機体を走行方向に推進させるための推進装置が設けられる。推進装置は電動機で駆動するファンなど、電気式に推進するものが好ましいが、場合によっては電動機の代わりに内燃機関も選択できる。このような推進装置は機体の外がわに取り付けてもよいが、ファンなどの場合は、胴体内にダクトで覆ったファンを取り付け、胴体の前がわの吸気口から空気を取り入れ、後部のダクトから圧縮した空気を噴射して胴体に推進力を与える構造のものが好ましい。推進装置は飛行中も、地上走行中も同じものを利用できるが、分離して設けてもよく、例えば地上走行中は駆動輪で推進してもよい。
【0016】
飛行体には、制動装置が設けられるが、推進装置を回転数制御、あるいは逆転させるなどして、制動装置と兼用することもできる。推進装置とは別の制動装置として、スポイラ、車輪のブレーキなどのほか、ブラシなどを側壁に押し付けるそり(スレッド)なども利用できる。また機材の故障などで飛行体が走行路を外れて大事故となることを防止するために、側壁または中央壁になんらかの突起を設けて機体の走行路からの離脱を防止することができる。この場合、機体の側壁または中央壁がわにローラやスレッドなどを設けて、衝撃を緩和するように構成することができる。
【0017】
このほか飛行体には、走行方向にそって走行するように制御する制御装置が設けられる。制御装置は通常、機体の高さ、速度などの目標値を設定する指令部、機体の位置や姿勢を検知するセンサ群、制御信号を作成する処理部、制御フィンを制御するアクチュエータ群などから構成される。位置については、路面、側壁との間隔を測定する電波高度計などが用いられる。姿勢については一般的にはジャイロやレートジャイロなどが用いられるが、機体に付けた複数の電波高度計のデータを計算機で処理して検知することもできる。このような制御装置は機体の胴体内に設けられ、自動であるいは操縦者により操作できるようにされる。
【0018】
このほか機体の胴体内には、乗員室、貨物室、空調装置などが設けられる。胴体を含む機体の材料としては、軽量で、強靭なものが好ましく、炭素繊維成形体、軽合金などが用いられる。機体の寸法は1人乗りから多数の乗客を輸送する鉄道車両や航空機に相当するものまであり得る。ただし列車のように連結するのではなく、原則として単体ごとに飛行するように運行されるが、編隊での運行は可能とされる。
【0019】
上記のような飛行体の走行を行う高速交通システムは、上記のような飛行体を走行させる走行路、および走行路を走行する飛行体により構成される。走行路は路面および側壁を有するものが好ましく、上部に屋根等の覆いを設けて半開放式に形成することができる。また飛行体を電動機等により電気式に推進する場合、走行路から飛行体に電力を供給する給電装置を設けることができる。走行路は単線でも複線でもよく、途中の駅などを設けることができる。飛行体、走行路は軽量であるので、建設費が安い高架式(モノレールなど)が適している。飛行体は胴体が
主翼の働きをするので、翼
形胴体の後の乱れた気流の影響を避けるために、各飛行体間の間隔を十分にとらなければならない。そのため各飛行体同士は機械的に連結するのではなく、飛行体間距離を自動的に制御して編隊で運行し、駅では間隔をつめて駅舎を短くすることができる。給電装置は、走行路にそって敷設された埋め込み電線等の給電線と、この給電線から集電するように飛行体に設けられたパンタグラフ等の集電装置とを含む構成とすることができる。飛行体については前記のような個別の安全運行システムを採用し、これらを総合的に運航する中央管制システムを設け、安全で高効率の高速交通システムを構成することができる。
【0020】
以上の構成において、走行路に飛行体を配置し、推進装置により飛行体の走行方向に推進させると、飛行体は着陸装置を使って走行を開始する。飛行体の速度が飛行速度に達すると、上に凸の形状をもつ胴体の上面にそって流れる気流は、他の部分よりも高速となり、気圧が低下するため揚力が生じる。この時飛行体の下がわにも空気が入り込み、飛行体の下がわの空気流の圧力が高くなるという地面効果により、機体は上向の力を受けて押し上げられ、こうして揚力および地面効果により効率的に飛行する。この時の飛行体の姿勢は、機体が迎え角を形成する状態で飛行することにより地面効果が大きくなるが、形状によっては胴体の下面を下に凸の形状にしておくことにより、地面効果が得られやすくなる場合もある。
【0021】
飛行体が揚力および地面効果により飛行する場合、機体の上下を流れる気流の圧力は機体の上がわで低く、下がわで高くなる。この圧力差を解消しようとして、機体の下がわから上がわへ気流が流れると圧力差がなくなり、揚力が得られなくなるが、本発明の飛行体では胴体の側部から走行路がわに伸びる減圧部材を設けて、胴体の下部から上部方向に流れる気流を制限し、上下の圧力差を維持する。この減圧部材は機体の下部から上部方向に流れる気流を完全に遮断するものではなく、気流を少しずつ通過させる際、圧力損失により減圧して、上下の圧力差を維持する。これにより飛行体の揚力および地面効果は減衰または消滅することなく、飛行体は飛行を継続する。減圧部材として多数の間隙が分散して存在し、気流が間隙を通過する際圧力損失が生じる部材を用いることにより、走行路との摩擦や気流等による損傷を受けることなく効率的に減圧効果が表れ、上下の圧力差が維持できる。また減圧部材として、ブラシのように基部から線状、片状、羽根状等の可撓性長尺材が伸びる減圧部材を用いる場合は、機体と走行路間の間隙をほぼ完全に埋め、外力により隙間が開いてもすぐに復元し、効率的な減圧効果を維持することができる。
【0022】
飛行体の走行方向にそった走行は制御装置により制御される。制御装置では、機体の高さ、速度などの目標値を指令部で設定し、機体の位置や姿勢をセンサ群で検知し、検知信号を司令部の目標値と比較し、その差を処理部で処理して制御信号を作成し、アクチュエータ群を制御して水平尾翼および垂直尾翼に設けられた制御フィンを制御することにより、走行方向にそって走行するように制御される。位置については、路面、側壁との間隔を測定する電波高度計などで検知することができる。姿勢についてはジャイロやレートジャイロなどで検知するほか、機体に付けた複数の電波高度計のデータを計算機で処理して検知して制御することができる。飛行体の位置については、走行路の中央を、両がわの側壁から等しい間隔を保って飛行するように、主として垂直尾翼に設けられた制御フィンを制御する。垂直尾翼の制御フィンは、曲げたがわに機体の方向が変わるので、正しい位置に戻った後に逆方向に変角し、最終的に走行方向に対応する方向に制御する。
【0023】
飛行体の飛行時の高さは地面効果が表れる高さであり、飛行体の底面積、重量、姿勢、速度等により異なるが、制御精度を考慮すると一般的には路面から40cm〜60cm程度とすることができる。このような高さで飛行するためには、速度に合わせて飛行体の姿勢(迎え角)を制御することにより、一定の高さを維持して飛行することができる。姿勢(迎え角)の制御については、主として水平尾翼に設けられた制御フィンを制御する。水平尾翼の制御フィンは、上がわに向けると機体の姿勢は上向きになり、迎え角が大きくなって地面効果を受けやすくなり、飛行体は高い位置で飛行する。水平尾翼の制御フィンを下がわに向けると、迎え角が小さくなって地面効果も小さくなり、飛行体は低い位置で飛行する。
【0024】
走行路がカーブしている場合は、垂直尾翼の制御フィンを制御して走行方向を変えるとともに、左右に分割されている水平尾翼の制御フィンをそれぞれ差動的に制御してロール角を変え、機体を左または右に傾斜させた姿勢に制御して旋回することにより、遠心力を相殺して安定な飛行を行うことができる。例えばカーブの曲率半径を20kmとすると、時速540kmで走行時に乗客に加わる横方向の加速度は、重力加速度gの0.11倍であり、ロール角を旋回内がわに6.3度とすれば遠心力を相殺できる。この制御は、センサ群の検知信号のフィードバックを含む制御ループにより行うことができる。飛行体の飛行に許容できる最小のカーブの曲率半径は、飛行体の速度と乗り心地の観点で許容できる最大遠心力等により異なるが、一般的には10〜20km、好ましくは20〜50kmとすることができる
【0025】
飛行体の速度の調整は主として推進装置の出力の調整により行うことできるが、速度の変化により飛行体の姿勢、位置等も変化するので、それに対しても正常な姿勢、位置等を維持するように制御することが必要である。飛行体を着地、停止させるためには、制動装置を作動させて制動することができる。速度を低下させるには、推進装置を回転数制御、あるいは逆転させるなどして制動することができる。飛行体は速度の低下により高度が下がり、着地装置としての車輪(ローラ)等により着地する。着地した状態での位置、姿勢等の制御も飛行時の制御と同様に、主として垂直尾翼の制御フィンにより行うことができるほか、操舵性の車輪の操縦により行うこともできる。着地状態での制動も推進装置を回転数制御、あるいは逆転させるなどして制動することができるほか、推進装置とは別の制動装置として、スポイラ、車輪のブレーキ、ブラシ等を側壁に押し付けるそり(スレッド)などによる制動も行うことができる。
【0026】
本発明では、飛行体は胴体の側部がわから走行路がわに伸びる減圧部材が設けられているので、胴体の下部から上部方向に流れる気流は効率的よく制限され、部材通過時の圧力損失により、機体上下の圧力差は維持される。減圧部材として、ブラシのように基部から線状、片状、羽根状等の可撓性長尺材が伸びる減圧部材を用いる場合は、機体と走行路間の間隙をほぼ完全に埋め、外力により隙間が開いてもすぐに復元し、減圧効果を維持することができる。これにより飛行体の揚力および地面効果は減衰または消滅することなく、飛行体は飛行を継続することができる。このときの圧力差は小さいので、飛行体は比較的低速でも揚力と地面効果を利用して飛行することができる。
【0027】
本発明の飛行体が浮上する速度は、機体の形状、重量等により異なるが、一般的には200km/h前後とすることができる。本発明の飛行体は空気力により浮上するので、原理的には航空機であり、車輪の摩擦力で駆動する一般の鉄道のような車輪による速度限界はないが、機体に加わる空気抵抗によるエネルギー損失が増すため、時速600km/h程度が上限になる。磁気浮上方式よりも消費電力が少なく、走行路がわにコイルが不要であり、また軽量で走行路の建設費が安く、経済的に高速交通システムが実現できる。