【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。
実施例1:イネの卵細胞、精細胞、受精細胞の取得
(1)イネのH2B−GFP導入株の作製
イネユビキチンプロモータの下流にヒストンH2B−GFP融合タンパク質をコードするDNAを繋いだDNAコンストラクトを組み込んだバイナリーベクターを用いて、アグロバクテリウム法によってイネ(Oryza sativa L. cv Nipponbare)を形質転換することによって、H2B−GFP導入株を作製した。
(2)卵細胞と精細胞の取得
イネの穂から得た未開花の花を解体して子房と葯を採取した。3mlの6%マンニトール溶液(370mosmol/kg H
2O)が入った3.5cmプラスチックシャーレの中に子房と葯を入れた。
【0055】
新しい3.5cmプラスチックシャーレ中の3mLの6%マンニトール溶液(370mosmol/kg H
2O)に柱頭を除去した子房を沈めて、シャーレの底でレーザーブレード(フェザー安全カミソリ(株)、FA−10)により子房の下部を切断した。顕微鏡観察により切断部から出てくる卵細胞を確認し、ミクロキャピラリーで卵細胞を単離した。30〜40個の子房からおよそ10〜15個の卵細胞が得られた。各卵細胞の直径は40〜50μmであった。なお、各実験では、細胞の直径の測定は、顕微鏡で細胞の外周長が最も大きい位置にピントを合わせて画像を撮影し、画像処理ソフト(Pixela社製、InStudio)を使用して測定した。
【0056】
マイクロインジェクター(STサイエンス社製, UJI−B)に接続したミクロキャピラリーで1〜2μLの6%マンニトール液滴(370mosmol/kg H
2O)を作った。同ミクロキャピラリーを用いて、単離した卵細胞をこの液滴中に入れた。この卵細胞は、単離後8時間以内に各実験に使用した。また、当日に卵細胞を使わない場合は、4℃で一晩保存して、翌日、実験に使用した。卵細胞の直径は40〜50μmであった。
【0057】
6%マンニトール溶液(370mosmol/kg H
2O)中において葯をピンセットで開裂させて、花粉粒を溶液に曝露した。溶液中で花粉粒が破裂し、精細胞を含む花粉内容物が放出された。精細胞は、花粉粒を破裂させてから1時間以内に各実験に使用した。各精細胞の直径は8〜10μmであった。
(3)受精細胞の作製
本実施例では、
図1(A)に示すように、精細胞と卵細胞を融合して受精細胞を作製し、各実験に使用した。
【0058】
以下の細胞の電気融合には、融合用装置(ネッパジーン社製、ECFG21)を使用した。ダブルピペットホルダー(ナリシゲ社製、HD−21)を装着したマニピュレーター(UMMT−3FC、成茂科学器械研究所製)を用いた。チタン電極(ネッパジーン社製,CUY5100Ti100)をピペットホルダーに固定した。
【0059】
カバーガラスの周囲を、5%ジクロロメチルシランを含む1,1,1-トリクロロエタン溶液に浸し、乾燥させた。このカバーガラス中央部分に0.2〜0.3mLのミネラルオイル(Embryo Culture-tested Grade,シグマアルドリッチ社製、1001279270)を載せた。このミネラルオイル内に1〜2μLの6%マンニトール液滴(370mosmol/kg H
2O)を作り、この液滴の中に1つの卵細胞と1つの精細胞を入れた。
【0060】
このミネラルオイル内において、交流電流(AC)フィールド(1MHz,0.4kV/cm)下で、一つの電極に卵細胞を接着させ、この卵細胞に精細胞を接着させた。そして、この電極に他方の電極を近づけた。電極間距離は、100〜200μmに調整した。
【0061】
ガラスキャピラリーを用いて、0.5〜1μLの8%マンニトール溶液(520mosmol/kg H
2O)を液滴に穏やかに加えた。これにより、マンニトール液滴の浸透圧を400〜450mosmol/kg H
2Oにした。精細胞が楕円形状に変形し、また、卵細胞が電極に付着しやすくなった。
【0062】
直流パルス(50μs、12〜15kV/cm)をかけて細胞融合し、得られた融合細胞を回収した。この融合細胞(受精細胞)の直径は40〜50μmであった。
【0063】
受精細胞は、直流パルスをかけてから20分以内に以下の各実験に使用した。
【0064】
(4)卵細胞同士の融合細胞の作製
本実施例では、2つの卵細胞を融合して1つの融合細胞を得た。
【0065】
カバーガラス上のミネラルオイル(Embryo Culture-tested Grade,シグマアルドリッチ社製、1001279270)内に1〜2μLの6%マンニトール液滴(370mosmol/kg H
2O)を作製した。1つの液滴の中に卵細胞を2つ入れた。
【0066】
このミネラルオイル内において、交流電流(AC)フィールド(1MHz,0.4kV/cm)下で、一つの電極に1つの卵細胞を接着させ、この卵細胞にもう一つの卵細胞を接着させた。そして、この電極に他方の電極を近づけた。2つの電極の距離は、300〜500μmに調整した。
【0067】
ガラスキャピラリーを用いて、0.5〜1μLの8%マンニトール溶液(520mosmol/kg H
2O)を液滴に穏やかに加えた。これにより、マンニトール液滴の浸透圧を400〜450mosmol/kg H
2Oにした。そして直流パルス(50μs、9〜11kV/cm)をかけて細胞融合し、融合細胞を回収した。この融合細胞の直径は50〜60μmであった。
【0068】
卵細胞同士の融合細胞は、融合させてから4時間以内に以下の各実験に使用した。
(5)4つの卵細胞を融合させて得る四倍体の融合細胞の作製
本実施例では、4つの卵細胞を融合して1つの融合細胞を得た。
【0069】
カバーガラス上のミネラルオイル(Embryo Culture-tested Grade,シグマアルドリッチ社製、1001279270)内に1〜2μLの6%マンニトール液滴(370mosmol/kg H
2O)を作製した。1つの液滴の中に上記(4)と同様にして得た卵細胞同士の融合細胞を2つ入れた。
【0070】
このミネラルオイル内において、交流電流(AC)フィールド(1MHz,0.4kV/cm)下で、一つの電極に1つの融合細胞を接着させ、この融合細胞にもう一つの融合細胞を接着させた。そして、この電極に他方の電極を近づけた。2つの電極の距離は、350〜600μmに調整した。
【0071】
ガラスキャピラリーを用いて、0.5〜1μLの8%マンニトール溶液(520mosmol/kg H
2O)を液滴に穏やかに加えた。これにより、マンニトール液滴の浸透圧を400〜450mosmol/kg H
2Oにした。そして直流パルス(50μs、9〜11kV/cm)をかけて細胞融合し、融合細胞を回収した。この融合細胞の直径は60〜70μmであった。
【0072】
融合細胞は、融合させてから4時間以内に以下の各実験に使用した。
実施例2:受精細胞と卵細胞とを融合させる、三倍体の植物細胞の作製
本実施例では、
図1(B)に示すように、受精細胞と卵細胞を融合させて、三倍体の植物細胞を作製した。
【0073】
カバーガラス上のミネラルオイル(Embryo Culture-tested Grade,シグマアルドリッチ社製、1001279270)内に1〜2μLの6%マンニトール液滴(370mosmol/kg H
2O)を作製した。1つのマンニトール液滴の中に、受精細胞及び卵細胞を1つずつ入れた。
【0074】
このミネラルオイル内において、交流電流(AC)フィールド(1MHz,0.4kV/cm)下で、一つの電極に受精細胞を接着させ、この受精細胞に卵細胞を接着させた。そして、この電極に他方の電極を近づけた。2つの電極の距離は、300〜500μmに調整した。
【0075】
ガラスキャピラリーを用いて、0.5〜1μLの8%マンニトール溶液(520mosmol/kg H
2O)を液滴に穏やかに加えた。これにより、マンニトール液滴の浸透圧を400〜450mosmol/kg H
2Oにした。そして直流パルス(50μs、9〜11kV/cm)をかけて細胞融合し、融合細胞を回収した。
実施例3:受精細胞と卵細胞同士を融合させた融合細胞を融合させる、四倍体の植物細胞の作製
本実施例では、
図1(C)に示すように、受精細胞と卵細胞同士の融合細胞とを融合させて、四倍体の植物細胞を作製した。
【0076】
カバーガラス上のミネラルオイル(Embryo Culture-tested Grade,シグマアルドリッチ社製、1001279270)内に1〜2μLの6%マンニトール液滴(370mosmol/kg H
2O)を作製した。1つの液滴の中に受精細胞と卵細胞同士の融合細胞を1つずつ入れた。
【0077】
このミネラルオイル内において、交流電流(AC)フィールド(1MHz,0.4kV/cm)下で、一つの電極に受精細胞を接着させ、この受精細胞に融合細胞を接着させた。そして、この電極に他方の電極を近づけた。2つの電極の距離は、350〜600μmに調整した。
【0078】
ガラスキャピラリーを用いて、0.5〜1μLの8%マンニトール溶液(520mosmol/kg H
2O)を液滴に穏やかに加えた。これにより、マンニトール液滴の浸透圧を400〜450mosmol/kg H
2Oにした。そして直流パルス(50μs、9〜11kV/cm)をかけて細胞融合し、融合細胞を回収した。
実施例4:受精細胞に卵細胞同士を融合させた融合細胞を2つ融合させる、六倍体の植物細胞の作製
本実施例では、
図1(D)に示すように、実施例3と同様にして作製した四倍体細胞と、実施例1(4)と同様にして作製した卵細胞同士の融合細胞である二倍体細胞とを融合させて、六倍体の植物細胞を作製した。
【0079】
まず、受精細胞と卵細胞同士の融合細胞を実施例3と同様に融合させた。この融合細胞の直径は60〜70μmであった。この融合細胞を6%マンニトール溶液(370mosmol/kg H
2O)に移した。
【0080】
次に、カバーガラス上のミネラルオイル(Embryo Culture-tested Grade,シグマアルドリッチ社製、1001279270)内に1〜2μLの6%マンニトール液滴(370mosmol/kg H
2O)を作製した。1つのマンニトール液滴の中に、四倍体の融合細胞と、卵細胞同士の融合細胞を1つずつ入れた。
【0081】
このミネラルオイル内において、交流電流(AC)フィールド(1MHz,0.4kV/cm)下で、一つの電極に四倍体の融合細胞を接着させ、この四倍体の融合細胞に卵細胞同士の融合細胞を接着させた。そして、この電極に他方の電極を近づけた。2つの電極の距離は、400〜650μmに調整した。
【0082】
ガラスキャピラリーを用いて、0.5〜1μLの8%マンニトール溶液(520mosmol/kg H
2O)を液滴に穏やかに加えた。これにより、マンニトール溶液の浸透圧を400〜450mosmol/kg H
2Oにした。そして直流パルス(50μs、9〜11kV/cm)をかけて細胞融合し、融合細胞を回収した。
実施例5:八倍体の植物細胞の作製
本実施例では、
図1(E)に示すように、実施例3と同様にして作製した四倍体細胞と、実施例1(5)と同様に、4つの卵細胞を融合させた四倍体の植物細胞とを融合させて、八倍体の植物細胞を作製した。
【0083】
まず、四倍体の融合細胞を実施例3と同様に融合させた。この融合細胞を6%マンニトール溶液(370mosmol/kg H
2O)に移した。次に、4つの卵細胞を融合させた四倍体の融合細胞を6%マンニトール溶液(370mosmol/kg H
2O)に移した。
【0084】
次に、カバーガラス上のミネラルオイル(Embryo Culture-tested Grade,シグマアルドリッチ社製、1001279270)内に1〜2μLの6%マンニトール液滴(370mosmol/kg H
2O)を作製した。1つのマンニトール液滴の中に、四倍体の融合細胞と、4つの卵細胞を融合させて得た四倍体の融合細胞を1つずつ入れた。
【0085】
このミネラルオイル内において、交流電流(AC)フィールド(1MHz,0.4kV/cm)下で、一つの電極に六倍体の融合細胞を接着させ、この六倍体の融合細胞に卵細胞同士の融合細胞を接着させた。そして、この電極に他方の電極を近づけた。2つの電極の距離は、500〜700μmに調整した。
【0086】
ガラスキャピラリーを用いて、0.5〜1μLの8%マンニトール溶液(520mosmol/kg H
2O)を液滴に穏やかに加えた。これにより、マンニトール溶液の浸透圧を400〜450mosmol/kg H
2Oにした。そして直流パルス(50μs、9〜11kV/cm)をかけて細胞融合し、融合細胞を回収した。
実施例6:融合細胞から植物体への発生
0.2mL受精細胞用培地(N6Z培地(Kumlehn J. et.al. (1998)Planta 205: 327-333)に以下の改変を加えたもの(2g/L CHU(N6) basal salt mixture (シグマアルドリッチ社製)、0.025mg/L Na
2MoO
4・2H
2O、0.025mg/L CoCl
2・6H
2O、0.025mg/L CuSO
4・5H
2O、0.01mg/L レチノール、0.01mg/L カルシフェロール、0.01mg/Lビオチン、1mg/L チアミン・H
2O、1mg/L ニコチン酸、1mg/L ピリドキシン・HCl、1mg/L 塩化コリン、1mg/L Ca-パントテン酸、0.2mg/L リボフラビン、0.2mg/L 2,4-D、0.02mg/L コバラミン、0.02mg/L p-アミノ安息香酸、0.4mg/L 葉酸、2mg/Lアスコルビン酸、40mg/L リンゴ酸、40mg/L クエン酸、40mg/L フマル酸、20mg/L Na-ピルビン酸、1,000mg/L グルタミン、及び250mg/L カゼイン加水分解物、100mg/L ミオイノシトール。浸透圧はグルコースで450mosmol/kg H
2Oに調整。pH5.7。フィルター滅菌。)を、直径12mmのMillicell CMインサート(ミリポア社製)内に入れ、2mLの培地の入った3.5cmプラスチックシャーレの中に入れた。40〜60μLのイネ浮遊細胞培養物(Line Oc、理研バイオリソースセンター製)をフィーダー細胞としてシャーレに加えた。
【0087】
無水エタノールと滅菌水でミクロキャピラリーを洗浄して滅菌した後、実施例2〜4で得られた融合細胞を新鮮な7%マンニトール液滴(450mosmol/kg H
2O)中に投入し、その後、受精細胞用培地の入ったCMインサート内のメンブレン上に移した。
【0088】
融合細胞は、暗所に26℃で一晩静置して培養した。細胞融合から12−16時間後に、融合細胞を蛍光顕微鏡で観察し、核が融合している個体数を数えた。結果を表1に示す。その後、40rpmの速度で穏やかに振とう培養した。
【0089】
そして、細胞融合から1日後に細胞分裂をしている個体数、細胞融合から5日後に球状様胚を形成した個体数を数えた。結果を表1に示す。
【0090】
融合後5日目に、胚の入ったCMインサートを、2mLの受精細胞用培地の入った新しい35mm直径シャーレの中に移し、上記の培養を続けた。
【0091】
18日間の培養後、細胞コロニーを、再分化培地(改変したMS培地の固体培地。MS塩、MSビタミン、100mg/L myoinositol、2g/L casamino acid、30g/L sucrose、30 g/L sorbitol、0.2 mg/L l-naphthaleneacetic acid(NAA)、1 mg/L kinetin及び0.3 % Gelrite)に移して培養した。30℃で12〜30日間持続的に光で照らして培養した。そして、細胞融合から30日後に観察し、カルスを形成した個体数を数えた。結果を表1に示す。
【0092】
カルス中に芽が分化してきたら、それを発根用培地(キネチン及びNAAを含めないこと以外は再分化培地と同じ)に移し、13時間/11時間の明/暗サイクルで、28℃で11〜13日培養した。そして、細胞融合から43〜45日後に植物体を形成した個体数を数えた。結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1に示すように、融合した細胞から高い確率で植物体が形成された。この結果は、受精細胞に卵細胞を融合させることにより、植物体まで発生する倍数体の細胞を作製することができることを示すものである。
実施例7:イネの受精細胞とコムギの卵細胞との融合
(1)コムギの精細胞及び卵細胞の取得
イネの子房及び葯から卵細胞と精細胞を取得した方法と同様の方法で、コムギ(Triticum aestivum,明治大学・川上直人博士から分与)の子房及び葯から卵細胞及び精細胞を取得した。卵細胞の直径は50〜60μmであった。
(2)イネの卵細胞とコムギの精細胞との融合(比較例)
カバーガラス上のミネラルオイル(Embryo Culture-tested Grade,シグマアルドリッチ社製、1001279270)内に1〜2μLの6%マンニトール液滴(370mosmol/kg H
2O)を作製した。1つのマンニトール液滴の中にイネの卵細胞とコムギの精細胞を1つずつ入れた。
【0095】
このミネラルオイル内において、交流電流(AC)フィールド(1MHz,0.4kV/cm)下で、一つの電極にイネの卵細胞を接着させ、この卵細胞にコムギの精細胞を接着させた。そして、この電極に他方の電極を近づけた。2つの電極の距離は、100〜200μmに調整した。
【0096】
ガラスキャピラリーを用いて、0.5〜1μLの8%マンニトール溶液(520mosmol/kg H
2O)を液滴に穏やかに加えた。これにより、マンニトール溶液の浸透圧を400〜450mosmol/kg H
2Oにした。そして直流パルス(50μs、12〜15kV/cm)をかけて細胞融合し、融合細胞を回収した。
(3)イネの受精細胞とコムギの卵細胞の融合(実施例)
カバーガラス上のミネラルオイル(Embryo Culture-tested Grade,シグマアルドリッチ社製、1001279270)内に1〜2μLの6%マンニトール液滴(370mosmol/kg H
2O)を作製した。1つのマンニトール液滴の中にイネの受精細胞とコムギの卵細胞を1つずつ入れた。
【0097】
このミネラルオイル内において、交流電流(AC)フィールド(1MHz,0.4kV/cm)下で、一つの電極に受精細胞を接着させ、この受精細胞に卵細胞を接着させた。そして、この電極に他方の電極を近づけた。2つの電極の距離は、300〜500μmに調整した。
【0098】
ガラスキャピラリーを用いて、0.5〜1μLの8%マンニトール溶液(520mosmol/kg H
2O)を液滴に穏やかに加えた。これにより、マンニトール溶液の浸透圧を400〜450mosmol/kg H
2Oにした。そして直流パルス(50μs、9〜11kV/cm)をかけて細胞融合し、融合細胞を回収した。
(4)融合細胞の培養
実施例5と同様に、(1)及び(2)で作製した融合細胞を培養した。その結果を
図2に示す。イネの卵細胞とコムギの精細胞との融合細胞は、球状様胚までで発生が止まってしまった。一方、イネの受精細胞とコムギの卵細胞の融合は、カルスまで発生した。
【0099】
イネの受精細胞とコムギの卵細胞を融合させて作成した融合細胞は、細胞融合から3分後、18時間後、1日後、5日後、7日後、11日後、39日後、41日後、50日後、60日後、及び74日後に画像を撮影した。画像を
図3に示す。
【0100】
融合細胞がカルスを形成したことから、植物体まで発生しうる、イネとコムギの雑種細胞の作製に成功したことがわかる。この結果は、イネの精細胞と卵細胞を融合した細胞にイネとは異種のコムギの卵細胞を融合させることにより、植物体まで発生しうる雑種細胞を作製できることを示すものである。
実施例8:イネの受精細胞とミナトカモジグサの卵細胞との融合
(1)ミナトカモジグサの卵細胞の取得
イネの子房から卵細胞を取得した方法と同様の方法で、ミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon、理研バイオリソースセンターから分与)の子房から卵細胞を取得した。この卵細胞の直径は30〜40μmであった。
(2)イネの受精細胞と、ミナトカモジグサの卵細胞の融合
カバーガラス上のミネラルオイル(Embryo Culture-tested Grade,シグマアルドリッチ社製、1001279270)内に1〜2μLの6%マンニトール液滴(370mosmol/kg H
2O)を作製した。
【0101】
1つのマンニトール液滴の中にイネの受精細胞とミナトカモジグサの卵細胞を1つずつ入れた。
【0102】
このミネラルオイル内において、交流電流(AC)フィールド(1MHz,0.4kV/cm)下で、一つの電極にイネの受精細胞を電極に接着させ、このイネの受精細胞にミナトカモジグサの卵細胞を接着させた。そして、この電極に他方の電極を近づけた。2つの電極の距離は、300〜500μmに調整した。
【0103】
ガラスキャピラリーを用いて、0.5〜1μLの8%マンニトール溶液(520mosmol/kg H
2O)を液滴に穏やかに加えた。これにより、マンニトール溶液の浸透圧を400〜450mosmol/kg H
2Oにした。そして直流パルス(50μs、9〜11kV/cm)をかけて細胞融合し、融合細胞を回収した。
(3)融合細胞の培養
実施例5と同様に融合細胞を培養した。融合細胞は、融合直後、融合から1.5時間後、1日後、2日後、4日後、6日後、14日後、および65日後に画像を撮影した。画像を
図4に示す。融合細胞がカルスを形成し、芽及び根様の器官の形成も観察された。このことから、植物体まで発生しうる、イネとミナトカモジグサの雑種細胞の作製に成功したことがわかる。この結果は、イネの精細胞と卵細胞を融合した細胞にイネとは異種のミナトカモジグサの卵細胞を融合させることにより、植物体まで発生しうる雑種細胞を作製できることを示すものである。