特許第6436714号(P6436714)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6436714フマル酸被覆繊維およびフマル酸含有繊維集合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6436714
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】フマル酸被覆繊維およびフマル酸含有繊維集合体
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/203 20060101AFI20181203BHJP
   D06M 15/03 20060101ALI20181203BHJP
   A61F 13/15 20060101ALN20181203BHJP
   D06M 101/30 20060101ALN20181203BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20181203BHJP
   D06M 101/34 20060101ALN20181203BHJP
【FI】
   D06M13/203
   D06M15/03
   !A61F13/15 142
   D06M101:30
   D06M101:32
   D06M101:34
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-208555(P2014-208555)
(22)【出願日】2014年10月10日
(65)【公開番号】特開2016-79510(P2016-79510A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110044
【氏名又は名称】株式会社リブドゥコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(73)【特許権者】
【識別番号】000208787
【氏名又は名称】第一製網株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(72)【発明者】
【氏名】西田 素子
(72)【発明者】
【氏名】奥薗 一彦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 孝之
【審査官】 小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−528566(JP,A)
【文献】 米国特許第05272005(US,A)
【文献】 特開2000−191587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00−15/715
A61F 13/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂繊維と、前記樹脂繊維表面の少なくとも一部に存在するフマル酸とを有し、
前記フマル酸が、前記樹脂繊維とフマル酸含有水溶液とを接触させた後、水を除去することにより付与されたものであり、
前記樹脂繊維の表面は、少なくとも一部がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、または、ポリアミド樹脂から構成されており、
前記フマル酸の付与量が、樹脂繊維100質量部に対して0.0001質量部〜3.5質量部であることを特徴とするフマル酸被覆繊維。
【請求項2】
前記フマル酸含有水溶液が、増粘剤として、キサンタンガム、ペクチン、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナンまたはゼラチンを含有する請求項1に記載のフマル酸被覆繊維。
【請求項3】
基材繊維から構成された繊維集合体と、前記繊維集合体を構成する基材繊維表面の少なくとも一部に存在するフマル酸とを有し、
前記フマル酸が、前記繊維集合体とフマル酸含有水溶液とを接触させた後、水を除去することにより付与されたものであり、
前記基材繊維が、繊維表面の少なくとも一部がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、または、ポリアミド樹脂から構成された樹脂繊維を含有し、
前記フマル酸の付与量が、繊維集合体100質量部に対して0.0001質量部〜3.5質量部であることを特徴とするフマル酸含有繊維集合体。
【請求項4】
表面のpHが、4.5〜6.5である請求項3に記載のフマル酸含有繊維集合体。
【請求項5】
前記繊維集合体が、不織布、織布、編み物である請求項3または4に記載のフマル酸含有繊維集合体。
【請求項6】
前記フマル酸含有水溶液が、増粘剤として、キサンタンガム、ペクチン、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナンまたはゼラチンを含有する請求項3〜5のいずれか一項に記載のフマル酸含有繊維集合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フマル酸被覆繊維、フマル酸含有繊維集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁パッドなどの衛生用品は、使用者の肌に直接触れ得る状態で使用される。そのため、排尿、排経血などの体液によりトップシートがアルカリ性になると、使用者の皮膚の皮脂、タンパク質、アミノ酸の膜が流れ出しやすい環境となり、皮膚のかぶれが生じやすくなる。そこで、このような衛生用品に使用される繊維や繊維製品として、弱酸性を維持することができるものが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、人体から発生する汗、尿又は便を分解する細菌類の増殖を抑え、分解時に産生される酸又はアルカリ性物質の発生を抑制することによって、皮膚表面のpHをほぼ中性域の範囲に保つpH調整機能を有する繊維または繊維製品が記載されている(特許文献1(請求項4、段落[0012])参照)。特許文献2には、セルロース系繊維を含む繊維構造物を有機酸で処理した抗菌性繊維構造物(特許文献2(請求項2、段落[0031])参照)。特許文献3には、5mL透水速度が5秒以下、濡れ戻り量が0.1g以上5.0g以下の透水性能を有し、且つ表面層のpHが4.0以上6.5以下であり、単位面積あたり20mL透水後の表面層のpHが4.0以上6.8以下である透水性不織布が記載されている(特許文献3(請求項1)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−214326号公報
【特許文献2】特開2013−112903号公報
【特許文献3】特開2014−91899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、樹脂繊維とこの樹脂繊維表面の少なくとも一部に存在するフマル酸とを有するフマル酸被覆繊維において、フマル酸被膜の耐久性に優れたフマル酸被覆繊維を提供することを目的とする。また、本発明は、上記フマル酸被覆繊維を含有するフマル酸含有繊維集合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のフマル酸被覆繊維は、樹脂繊維と、前記樹脂繊維表面の少なくとも一部に存在するフマル酸とを有し、前記フマル酸が、前記樹脂繊維とフマル酸含有水溶液とを接触させた後、水を除去することにより付与されたものであり、前記樹脂繊維の表面は、少なくとも一部がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、または、ポリアミド樹脂から構成されており、前記フマル酸の付与量が、樹脂繊維100質量部に対して0.0001質量部〜3.5質量部であることを特徴とする。水難溶性であるフマル酸は、体液等に接触しても、直ちに溶解せず徐々に体液等に溶解する。そのため、繊維表面にフマル酸を有することで、繊維表面が体液等によりアルカリ性になることを長期にわたり防止できる。また、フマル酸を、樹脂繊維とフマル酸含有水溶液とを接触させた後水を除去して付与することで、フマル酸が樹脂繊維から脱落しにくくなる。
【0007】
本発明には、フマル酸含有繊維集合体も含まれる。前記フマル酸含有繊維集合体としては、基材繊維から構成された繊維集合体と、前記繊維集合体を構成する基材繊維表面の少なくとも一部に存在するフマル酸とを有し、前記フマル酸が、前記繊維集合体とフマル酸含有水溶液とを接触させた後、水を除去することにより付与されたものであり、前記基材繊維が、繊維表面の少なくとも一部がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、または、ポリアミド樹脂から構成された樹脂繊維を含有し、前記フマル酸の付与量が、繊維集合体100質量部に対して0.0001質量%〜3.5質量%であることが好ましい。前記フマル酸含有繊維集合体は、表面のpHが、4.5〜6.5であることが好ましい。前記繊維集合体としては、不織布、織布、編み物が好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のフマル酸被覆繊維、フマル酸含有繊維集合体を用いれば、衛生用品の所望とする部分を弱酸性に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例におけるフマル酸含有繊維シートNo.8のフマル酸付与前の繊維表面のSEM画像を示す図面代用写真である。
図2】実施例におけるフマル酸含有繊維シートNo.8のフマル酸付与後、耐久性試験前の繊維表面のSEM画像を示す図面代用写真である。
図3】実施例におけるフマル酸含有繊維シートNo.8の耐久性試験後の繊維表面のSEM画像を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のフマル酸被覆繊維は、樹脂繊維と、前記樹脂繊維表面の少なくとも一部に存在するフマル酸とを有する。つまり、前記フマル酸被覆繊維は、基材となる樹脂繊維の少なくとも一部の表面がフマル酸で被覆されている。樹脂繊維表面にフマル酸を有することにより、樹脂繊維表面を弱酸性に維持することができる。また、フマル酸は水難溶性であるため、フマル酸被膜は体液等に対する耐久性に優れる。
【0011】
前記樹脂繊維は、表面の少なくとも一部がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、または、ポリアミド樹脂から構成されている。このような樹脂繊維では、フマル酸含有水溶液と接触させ、乾燥させることによりフマル酸を付与した場合、時間の経過とともにフマル酸の結晶化が進み、より溶解しにくい状態となり、耐久性が一層高まる。
【0012】
前記ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などが挙げられる。前記ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などが挙げられる。前記ポリアミド樹脂(PA)としては、ポリアミド6、ポリアミド66などが挙げられる。
【0013】
前記樹脂繊維は、単独素材から構成された繊維でもよいし、多種素材から構成された複合繊維でもよい。複合繊維としては、芯鞘型、並列型、偏芯芯鞘型、放射型、中空放射型、海島型、ブレンド型、ブロック型などが挙げられる。前記樹脂繊維が、複合繊維である場合、繊維素材としてポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂以外の他の樹脂成分を含んでいてもよい。単独素材からなる繊維としては、ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維が挙げられる。複合繊維としては、ポリオレフィン樹脂からなる芯部とポリエステル樹脂からなる鞘部とを有する繊維、ポリアミド樹脂からなる芯部とポリエステル樹脂からなる鞘部とを有する繊維などが挙げられる。
【0014】
前記樹脂繊維が、その表面が2種以上の樹脂から構成される複合繊維である場合、繊維表面全体におけるポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、または、ポリアミド樹脂から構成されている領域の面積率が、50%以上が好ましく、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。特定の樹脂から構成されている面積が50%以上であれば、フマル酸被膜の耐久性がより向上する。なお、前記面積率は、複合繊維の構造から求めることができる。
【0015】
前記樹脂繊維としては、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂またはポリアミド樹脂の単独素材からなる繊維;鞘部がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂またはポリアミド樹脂から構成されている芯鞘型の複合繊維が好ましい。
【0016】
前記フマル酸は、前記樹脂繊維とフマル酸含有水溶液とを接触させた後、水を除去することにより付与されたものである。このようにフマル酸を付与することで、フマル酸が樹脂繊維表面に被覆膜を形成し、また、フマル酸が樹脂繊維表面で結晶化するため、フマル酸が樹脂繊維から脱落しにくくなる。
【0017】
前記樹脂繊維とフマル酸含有水溶液とを接触させる方法としては、フマル酸含有水溶液に樹脂繊維を浸漬する方法が挙げられる。前記フマル酸含有水溶液の溶媒としては、水、水と親水性有機溶剤との混合溶液などを用いることができる。前記親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、アセトン、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0018】
前記フマル酸含有水溶液中のフマル酸濃度は、0.000001質量%以上が好ましく、より好ましくは0.000002質量%以上、さらに好ましくは0.000003質量%以上であり、0.7質量%以下が好ましく、より好ましくは0.6質量%以下である。フマル酸濃度が0.000001質量%以上であれば、フマル酸濃度が低くなり過ぎず、所望pHになるまでの樹脂繊維への付着加工・乾燥が容易となり、0.7質量%以下であれば、水溶液中にフマル酸を容易に完全溶解させることができる。
【0019】
前記フマル酸含有水溶液は、増粘剤を含有することが好ましい。前記増粘剤としては、例えば、キサンタンガム、ペクチン、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン、ゼラチン、不飽和カルボン酸(共)重合体(例えば、ポリアクリル酸、イソブチレン−マレイン酸共重合体、ジイソブチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体など)、カルボキシル化多糖体(例えば、カルボキシメチルセルロースなど)、および、これらの塩(例えば、有機アミン塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩)、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリスチレンスルホン酸、および、これらの塩(例えば、有機アミン塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩)、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、N,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート(共)重合体の無機酸(塩酸、リン酸など)塩または有機酸(ギ酸、酢酸、乳酸など)塩などが挙げられる。
【0020】
前記増粘剤の含有量は、特に規定する必要はないが、フマル酸100質量部に対して、0.0000002質量部以上が好ましく、より好ましくは0.001質量部以上、さらに好ましくは0.01質量部以上であり、5質量部以下が好ましく、より好ましくは0.5質量部以下、さらに好ましくは0.04質量部以下である。
【0021】
加工に使用するフマル酸含有水溶液には、増粘剤以外に、クエン酸・リンゴ酸等の有機酸や、抗菌剤、消臭剤、界面活性剤、紡糸に使用する油剤等を配合して、使用することもできる。
【0022】
前記樹脂繊維とフマル酸含有水溶液とを接触させた後、水を除去する方法は、特に限定されず、例えば、自然乾燥が挙げられる。
【0023】
前記樹脂繊維100質量部に対する前記フマル酸の付与量は、0.0001質量部以上が好ましく、より好ましくは0.00015質量部以上であり、3.5質量部以下が好ましく、より好ましくは2.0質量部以下、さらに好ましくは1.0質量部以下である。フマル酸の付与量が0.0001質量部以上であればフマル酸被覆繊維を用いた繊維集合体のpHを6.5以下に調整することが容易となり、3.5質量部以下であればフマル酸被膜が厚くなり過ぎず、耐久性がより向上する。フマル酸の付与量は、所定の質量のフマル酸被覆繊維を、多量のエタノールを用いたソックスレー抽出を行い、付着しているフマル酸を全て溶解させた後、溶液中のフマル酸の質量を測定することで求められる。
【0024】
本発明には、基材繊維から構成される繊維集合体であって、前記基材繊維が前記フマル酸被覆繊維を含有するフマル酸含有繊維集合体も含まれる。繊維集合体としては、不織布、織物、編み物などの繊維シートや、基材繊維同士が意図的に固着、絡合されていないものなどが挙げられる。
【0025】
前記フマル酸含有繊維集合体中のフマル酸含有量は、繊維集合体100質量部に対して、0.0001質量部以上が好ましく、より好ましくは0.00015質量部以上であり、3.5質量部以下が好ましく、より好ましくは2.0質量部以下、さらに好ましくは1.0質量部以下である。フマル酸の含有量が0.0001質量部以上であれば繊維集合体のpHを6.5以下に調整することが容易となり、3.5質量部以下であればフマル酸被膜が厚くなり過ぎず、耐久性がより向上する。フマル酸の担持量は、所定の大きさ(例えば1cm)に切り出したフマル酸含有繊維集合体を、多量のエタノール(例えば2L)を用いたソックスレー抽出を行い、付着しているフマル酸を全て溶解させた後、溶液中のフマル酸の質量を測定することで求められる。なお、後述するようにフマル酸含有水溶液を繊維集合体に吹き付ける場合には、フマル酸含有水溶液のフマル酸濃度と吹き付ける液量から求めることもできる。
【0026】
前記フマル酸含有繊維集合体は、表面のpHが、4.5以上が好ましく、より好ましくは4.8以上、さらに好ましくは5.0以上であり、6.5以下が好ましく、より好ましくは6.3以下、さらに好ましくは6.1以下である。表面のpHが4.5以上であれば皮膚への刺激を抑えることができ、6.5以下であれば、菌の増殖を抑制する効果が高くなる。
【0027】
前記フマル酸含有繊維集合体としては、基材繊維として前記フマル酸被覆繊維を用いて、繊維集合体を構成したもの(態様1);基材繊維としてフマル酸被覆繊維を含まない繊維集合体とフマル酸含有水溶液とを接触させた後、水を除去することにより基材繊維にフマル酸を付与したもの(態様2);が挙げられる。
【0028】
前記態様1の場合、前記フマル酸含有繊維集合体は、基材繊維としてフマル酸被覆繊維以外の他の繊維を含有してもよい。他の繊維としては、セルロース、レーヨンなどのセルロース系繊維;ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などが挙げられる。この場合、基材繊維中のフマル酸被覆繊維の含有率は、20質量%以上が好ましく、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上である。フマル酸被覆繊維の含有率が20質量%以上であれば、フマル酸含有繊維集合体のpHを4.5〜6.5に保ちやすくなる。
【0029】
前記態様2の場合、基材繊維が、繊維表面の少なくとも一部がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、または、ポリアミド樹脂から構成された樹脂繊維を含有する。このような樹脂繊維としては、上記フマル酸被覆繊維に使用されるものと同様の樹脂繊維が挙げられ、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂またはポリアミド樹脂の単独素材からなる繊維;鞘部がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂またはポリアミド樹脂から構成されている芯鞘型の複合繊維が好ましい。
【0030】
前記態様2の場合、基材樹脂が、前記樹脂繊維以外の他の繊維を含有してもよい。他の繊維としては、例えば、セルロース、レーヨンなどのセルロース系繊維が挙げられる。この場合、前記基材繊維中の繊維表面の少なくとも一部がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、または、ポリアミド樹脂から構成された樹脂繊維の含有率は、50質量%以上が好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。前記樹脂繊維の含有率が50質量%以上であれば、基材繊維表面に形成されたフマル酸被膜の耐久性がより向上する。
【0031】
なお、態様1および態様2のいずれにおいても、基材繊維中のセルロース系繊維の含有率は50質量%未満が好ましく、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。基材繊維としてセルロース系繊維を含まないことも好ましい。セルロース系繊維を多く含む場合、フマル酸含有繊維集合体が体液等の水分を吸収した際に、フマル酸がセルロール系繊維の内部に取り込まれてしまい、繊維集合体のpHが増大する傾向がある。
【0032】
前記態様2において、繊維集合体とフマル酸含有水溶液とを接触させる方法としては、フマル酸含有水溶液に繊維集合体を浸漬する方法;繊維集合体にフマル酸含有水溶液を吹き付ける方法が挙げられる。フマル酸含有繊維集合体の製造に使用されるフマル酸含有水溶液については、前記フマル酸被覆繊維の製造に用いたものと同じものが使用できる。
【0033】
繊維集合体に接触させるフマル酸含有水溶液中のフマル酸濃度は、0.000001質量%以上が好ましく、より好ましくは0.000002質量%以上、さらに好ましくは0.000003質量%以上であり、0.7質量%以下が好ましく、より好ましくは0.6質量%以下である。フマル酸濃度が0.000001質量%以上であれば、フマル酸濃度が低くなり過ぎず、所望pHになるまでの樹脂繊維への付着加工・乾燥が容易となり、0.7質量%以下であれば、水溶液中にフマル酸を容易に完全溶解させることができる。
【0034】
なお、フマル酸含有水溶液中のフマル酸濃度は、フマル酸を付与する基材樹脂の組成に応じて調整することが好ましい。基材樹脂が吸水性繊維を含有すると、繊維集合体に対するフマル酸付与量が多くなる傾向がある。基材繊維中の吸水性繊維の含有率が50質量%以上の場合、前記フマル酸含有水溶液中のフマル酸濃度は、0.000001質量%以上が好ましく、より好ましくは0.0001質量%以上であり、0.001質量%以下である。吸水性繊維としては、セルロース系繊維が挙げられる。基材繊維中の疎水性繊維の含有率が50質量%以上の場合、前記フマル酸含有水溶液中のフマル酸濃度は、0.0001質量%以上が好ましく、より好ましくは0.001質量%以上であり、0.7質量%以下が好ましく、より好ましくは0.6質量%以下である。疎水性繊維としては、繊維表面がポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂で構成された繊維が挙げられる。
【0035】
本発明のフマル酸被覆繊維、フマル酸含有繊維集合体は、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁パッド、マスクなどの衛生用品;サージカルドレープ、サージカルガウン、止血用押圧ベルト、白衣などの医療用品;肌着などの衣料、脇パッド、ストッキング、手袋、キャップ、エプロンなどの衣類;ふきん、ワイパー、クッキングシート、ドリップシート、ウェットティッシュ、寝具、風呂敷、トートバッグ、スリッパ、フィルターなどの日用品;網などの産業資材;などに好適に使用できる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0037】
[評価方法]
耐久性試験
フマル酸含有繊維シート(縦20cm、横20cm)に霧吹きを用いて水道水(温度:23℃±5℃)をかけ、軽く水気を拭き取った後、スキンpHテスター(ハンナ インスツルメンツ・ジャパン社製、「HI98109」)を用いて表面のpH(初期pH)を測定した。ビーカーに水道水(pH:6.7〜6.9、温度:23℃±5℃)50mLを入れ、ピンセットを用いて上記のフマル酸含有繊維シートを浸漬し、取り出す操作を10回繰り返した。取り出したフマル酸含有繊維シートの水気を軽く拭き取った後、表面のpH(試験後pH)を測定した。そして、pHの変化量(試験後pH−初期pH)が、0.5以下を「◎」、0.5超1.5以下を「○」、1.5超を「×」と評価した。なお、試験後pHが6.5以上の場合は、pH変化量にかかわらず「×」と評価した。
【0038】
[フマル酸含有繊維シート作製試験1(No.1〜7)]
水100質量部に、キサンタンガム水溶液にフマル酸30質量%を分散させたフマル酸分散液(第一製網社製、フマル酸分散液「DF−30」、フマル酸100質量部に対するキサンタンガム含有量は0.01質量部〜5質量部)を溶解させて、表1に示す濃度を有するフマル酸含有水溶液を調製した。不織布(金星製紙製、サーマルボンド不織布「LD18」、基材繊維;ポリプレピレンを芯、ポリエチレンを鞘とする芯鞘型複合繊維)を、前記フマル酸含有水溶液に浸漬させた後、乾燥させることにより、不織布を構成する基材繊維にフマル酸を付与した。フマル酸の付着量は、フマル酸水溶液への浸漬前後の質量差から算出した。乾燥雰囲気は、温度23±5℃、湿度65%とし、乾燥時間は7日間または30日間とした。得られたフマル酸含有繊維シートの評価結果を表1に示した。
【0039】
参考例1
不織布(金星製紙製、サーマルボンド不織布「LD18」)について、フマル酸を付与することなく評価した。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示すように、フマル酸の付与量が多い場合、乾燥時間が長くなるほど耐久性が向上する傾向がある。これは樹脂繊維表面のフマル酸量が多くなると、フマル酸の結晶化に長時間を要するためと考えられる。
【0042】
[フマル酸含有繊維シート作製試験2(No.8、9)]
水100質量部にフマル酸分散液(第一製網社製、フマル酸分散液「DF−30」)を溶解させて、表2に示す濃度を有するフマル酸含有水溶液を調製した。不織布(金星製紙製、サーマルボンド不織布「LD18」)をフマル酸含有水溶液に浸漬させた後、乾燥させることにより、不織布を構成する基材繊維にフマル酸を付与した。乾燥雰囲気は、温度23±5℃、湿度65%とし、乾燥時間は7日間とした。得られたフマル酸含有繊維シートの評価結果を表2に示した。
【0043】
参考例2〜7
表2に記載の薬剤水溶液を調製し、不織布(金星製紙製、サーマルボンド不織布「LD18」)を薬剤水溶液に浸漬させた後、乾燥させることにより、不織布を構成する基材繊維に薬剤を付与した。乾燥雰囲気は、温度23±5℃、湿度65%とし、乾燥時間は7日間とした。得られた薬剤含有繊維シートの評価結果を表2に示した。
【0044】
参考例8
不織布(金星製紙製、サーマルボンド不織布「LD18」)について、薬剤を付与することなく評価した。
【0045】
【表2】
【0046】
人体からの排泄物は、体温に近い温度であるため、フマル酸含有繊維シートを衛生物品に使用する場合には、40℃前後の水に対しても耐久性を有することが必要となる。表2に示したように、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸では、初期pHは低いものの、20℃試験および40℃試験のいずれにおいても試験後pHが未加工の不織布のpHとほぼ同等となった。クエン酸で加工した不織布では、20℃試験では耐久性が認められたものの、40℃試験では、試験後pHが未加工の不織布のpHとほぼ同等になった。よって、これらの薬剤を用いた場合、実用し得る程度の耐久性が得られないことがわかる。一方、フマル酸を付与した不織布(No.8,9)では、20℃試験、40℃試験のいずれにおいてもpHの変動が小さく、耐久性に優れることがわかる。
【0047】
また、フマル酸含有繊維シートNo.8について、各段階における繊維表面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した結果を、図1〜3に示した。図1図2とを比較すると、フマル酸含有水溶液と接触させた後に乾燥させた繊維表面にはフマル酸が付与されていることがわかる。そして、図1図3とを比較すると、耐久性試験後(図3)の繊維表面においてもフマル酸が残存していることがわかる。よって、繊維表面が特定の樹脂から構成されている樹脂繊維にフマル酸を付与した場合、フマル酸被膜の耐久性が優れていることがわかる。なお、画像を記載していないが、フマル酸以外の薬剤を付与した繊維では、耐久性試験(40℃)後には繊維表面に薬剤がほとんど残存していなかった。
【0048】
[フマル酸含有繊維シート作製試験3(No.11〜20)]
水100質量部にフマル酸分散液(第一製網社製、フマル酸分散液「DF−30」)を溶解させて、フマル酸含有水溶液(フマル酸濃度:0.09質量%)を調製した。表3に示した不織布をフマル酸含有水溶液に浸漬させた後、乾燥させることにより、不織布を構成する基材繊維にフマル酸を付与した。乾燥雰囲気は、温度23±5℃、湿度65%とし、乾燥時間は7日間または30日間とした。得られたフマル酸被覆繊維シートの評価結果を表3に示した。
【0049】
【表3】
【0050】
表3で用いた不織布は以下のとおりである。
PS−114:三井化学社製、シンテックス(登録商標) PS−114(基材繊維;PP繊維)
20307WTD:ユニチカ社製、マリックス(登録商標) 20307WTD(基材繊維;ポリエステル繊維)
DF−5−100:ダイワボウポリテック社製、ミラクルクロス(登録商標) DF−5−100(基材繊維;PET繊維とPA繊維との混合)
RPX−101:ダイワボウポリテック社製、アピタス(登録商標) RPX−101(基材繊維;PP繊維)
RS−60:ダイワボウポリテック社製、アピタス RS−60(基材繊維;セルロース系繊維、PP繊維、PET繊維およびPPとPEとの複合繊維の混合(セルロース系繊維含有率50質量%未満))
ST−30:ダイワボウポリテック社製、アピタス ST−30(基材繊維;PET繊維)
C030S/A01:ユニチカ社製、コットエース(登録商標) C030S/A01(基材繊維;綿)
RH3−25:ダイワボウポリテック社製、アピタス RH3−25(基材繊維;セルロース系繊維と、PPとPEとの複合繊維の混合(セルロース系繊維含有率50質量%超))
RPN−35:ダイワボウポリテック社製、アピタス RPN−35(基材繊維;セルロース系繊維と、PPとPEとの複合繊維の混合(セルロース系繊維含有率50質量%超))
RHT−38:ダイワボウポリテック社製、アピタス RHT−38(基材繊維;セルロース系繊維と、PPとPEとの複合繊維の混合(セルロース系繊維含有率50質量%超))
【0051】
表3に示すように、基材繊維中の繊維表面の少なくとも一部がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、または、ポリアミド樹脂で構成された樹脂繊維の含有率が50質量%以上であるフマル酸含有繊維シートNo.11〜16(30日間乾燥品)は、いずれも初期pHと試験後pHとの差が小さく、フマル酸が脱落しにくいことがわかる。これらの中でも基材繊維がポリプロピレン(PP)のみからなる場合、7日間乾燥品でも弱酸性が維持できている。基材繊維中のセルロース系繊維の含有率が50質量%超であるフマル酸含有繊維シートNo.17〜20は、初期pHと試験後pHとの差が大きかった。これは試験時にフマル酸がセルロール系繊維の内部に取り込まれてしまうため、繊維表面のpHが増大したと考えられる。
【0052】
[フマル酸含有繊維シート作製試験4(No.21〜27)]
水100質量部にフマル酸分散液(第一製網社製、フマル酸分散液「DF−30」)を0.05質量部溶解させて、フマル酸含有水溶液(フマル酸濃度:0.015質量%)を調製した。表4に示した不織布をフマル酸水溶液に浸漬させた後、乾燥させることにより、不織布を構成する基材繊維にフマル酸を付与した。乾燥雰囲気は、温度23±5℃、湿度65%とし、乾燥時間は7日間とした。得られたフマル酸含有繊維シートの評価結果を表4に示した。
【0053】
[フマル酸含有繊維シート作製試験4(No.28〜33)]
水100質量部にフマル酸分散液(第一製網社製、フマル酸分散液「DF−30」)を1.0質量部溶解させて、フマル酸含有水溶液(フマル酸濃度:0.3質量%)を調製した。表4に示した不織布をフマル酸含有水溶液に浸漬させた後、乾燥させることにより、不織布を構成する基材繊維にフマル酸を付与した。乾燥雰囲気は、温度23±5℃、湿度65%とし、乾燥時間は7日間とした。得られたフマル酸含有繊維シートの評価結果を表4に示した。
【0054】
【表4】
【0055】
表4で用いた不織布は以下のとおりである。
PQ1156:三井化学社製、シンテックス PQ1156(基材繊維;PP繊維)
PQ1131:三井化学社製、シンテックス PQ1131(基材繊維;PP繊維)
PS−104:三井化学社製、シンテックス PS−104(基材繊維;PP繊維)
PB−0220:三井化学社製、シンテックス PB−0220(基材繊維;PP繊維)
70200WTO:ユニチカ社製、マリックス 70200WTO(基材繊維;ポリエステル繊維)
RPX−275:ダイワボウポリテック社製、アピタス RPX−275(基材繊維;PP繊維)
ST−30:ダイワボウポリテック社製、アピタス ST−30(素材;PET100質量%)
【0056】
フマル酸含有水溶液のフマル酸濃度を変更した場合でも、基材繊維の50質量%以上がポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維であれば、初期pHが弱酸性となり、また優れた耐久性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のフマル酸被覆繊維、フマル酸含有繊維集合体は、使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁パッド、マスクなどの衛生用品;サージカルドレープ、サージカルガウン、止血用押圧ベルト、白衣などの医療用品;肌着などの衣料、脇パッド、ストッキング、手袋、キャップ、エプロンなどの衣類;ふきん、ワイパー、クッキングシート、ドリップシート、ウェットティッシュ、寝具、風呂敷、トートバッグ、スリッパ、フィルターなどの日用品;網などの産業資材;などに好適に使用できる。
図1
図2
図3