【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0037】
[評価方法]
耐久性試験
フマル酸含有繊維シート(縦20cm、横20cm)に霧吹きを用いて水道水(温度:23℃±5℃)をかけ、軽く水気を拭き取った後、スキンpHテスター(ハンナ インスツルメンツ・ジャパン社製、「HI98109」)を用いて表面のpH(初期pH)を測定した。ビーカーに水道水(pH:6.7〜6.9、温度:23℃±5℃)50mLを入れ、ピンセットを用いて上記のフマル酸含有繊維シートを浸漬し、取り出す操作を10回繰り返した。取り出したフマル酸含有繊維シートの水気を軽く拭き取った後、表面のpH(試験後pH)を測定した。そして、pHの変化量(試験後pH−初期pH)が、0.5以下を「◎」、0.5超1.5以下を「○」、1.5超を「×」と評価した。なお、試験後pHが6.5以上の場合は、pH変化量にかかわらず「×」と評価した。
【0038】
[フマル酸含有繊維シート作製試験1(No.1〜7)]
水100質量部に、キサンタンガム水溶液にフマル酸30質量%を分散させたフマル酸分散液(第一製網社製、フマル酸分散液「DF−30」、フマル酸100質量部に対するキサンタンガム含有量は0.01質量部〜5質量部)を溶解させて、表1に示す濃度を有するフマル酸含有水溶液を調製した。不織布(金星製紙製、サーマルボンド不織布「LD18」、基材繊維;ポリプレピレンを芯、ポリエチレンを鞘とする芯鞘型複合繊維)を、前記フマル酸含有水溶液に浸漬させた後、乾燥させることにより、不織布を構成する基材繊維にフマル酸を付与した。フマル酸の付着量は、フマル酸水溶液への浸漬前後の質量差から算出した。乾燥雰囲気は、温度23±5℃、湿度65%とし、乾燥時間は7日間または30日間とした。得られたフマル酸含有繊維シートの評価結果を表1に示した。
【0039】
参考例1
不織布(金星製紙製、サーマルボンド不織布「LD18」)について、フマル酸を付与することなく評価した。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示すように、フマル酸の付与量が多い場合、乾燥時間が長くなるほど耐久性が向上する傾向がある。これは樹脂繊維表面のフマル酸量が多くなると、フマル酸の結晶化に長時間を要するためと考えられる。
【0042】
[フマル酸含有繊維シート作製試験2(No.8、9)]
水100質量部にフマル酸分散液(第一製網社製、フマル酸分散液「DF−30」)を溶解させて、表2に示す濃度を有するフマル酸含有水溶液を調製した。不織布(金星製紙製、サーマルボンド不織布「LD18」)をフマル酸含有水溶液に浸漬させた後、乾燥させることにより、不織布を構成する基材繊維にフマル酸を付与した。乾燥雰囲気は、温度23±5℃、湿度65%とし、乾燥時間は7日間とした。得られたフマル酸含有繊維シートの評価結果を表2に示した。
【0043】
参考例2〜7
表2に記載の薬剤水溶液を調製し、不織布(金星製紙製、サーマルボンド不織布「LD18」)を薬剤水溶液に浸漬させた後、乾燥させることにより、不織布を構成する基材繊維に薬剤を付与した。乾燥雰囲気は、温度23±5℃、湿度65%とし、乾燥時間は7日間とした。得られた薬剤含有繊維シートの評価結果を表2に示した。
【0044】
参考例8
不織布(金星製紙製、サーマルボンド不織布「LD18」)について、薬剤を付与することなく評価した。
【0045】
【表2】
【0046】
人体からの排泄物は、体温に近い温度であるため、フマル酸含有繊維シートを衛生物品に使用する場合には、40℃前後の水に対しても耐久性を有することが必要となる。表2に示したように、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸では、初期pHは低いものの、20℃試験および40℃試験のいずれにおいても試験後pHが未加工の不織布のpHとほぼ同等となった。クエン酸で加工した不織布では、20℃試験では耐久性が認められたものの、40℃試験では、試験後pHが未加工の不織布のpHとほぼ同等になった。よって、これらの薬剤を用いた場合、実用し得る程度の耐久性が得られないことがわかる。一方、フマル酸を付与した不織布(No.8,9)では、20℃試験、40℃試験のいずれにおいてもpHの変動が小さく、耐久性に優れることがわかる。
【0047】
また、フマル酸含有繊維シートNo.8について、各段階における繊維表面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した結果を、
図1〜3に示した。
図1と
図2とを比較すると、フマル酸含有水溶液と接触させた後に乾燥させた繊維表面にはフマル酸が付与されていることがわかる。そして、
図1と
図3とを比較すると、耐久性試験後(
図3)の繊維表面においてもフマル酸が残存していることがわかる。よって、繊維表面が特定の樹脂から構成されている樹脂繊維にフマル酸を付与した場合、フマル酸被膜の耐久性が優れていることがわかる。なお、画像を記載していないが、フマル酸以外の薬剤を付与した繊維では、耐久性試験(40℃)後には繊維表面に薬剤がほとんど残存していなかった。
【0048】
[フマル酸含有繊維シート作製試験3(No.11〜20)]
水100質量部にフマル酸分散液(第一製網社製、フマル酸分散液「DF−30」)を溶解させて、フマル酸含有水溶液(フマル酸濃度:0.09質量%)を調製した。表3に示した不織布をフマル酸含有水溶液に浸漬させた後、乾燥させることにより、不織布を構成する基材繊維にフマル酸を付与した。乾燥雰囲気は、温度23±5℃、湿度65%とし、乾燥時間は7日間または30日間とした。得られたフマル酸被覆繊維シートの評価結果を表3に示した。
【0049】
【表3】
【0050】
表3で用いた不織布は以下のとおりである。
PS−114:三井化学社製、シンテックス(登録商標) PS−114(基材繊維;PP繊維)
20307WTD:ユニチカ社製、マリックス(登録商標) 20307WTD(基材繊維;ポリエステル繊維)
DF−5−100:ダイワボウポリテック社製、ミラクルクロス(登録商標) DF−5−100(基材繊維;PET繊維とPA繊維との混合)
RPX−101:ダイワボウポリテック社製、アピタス(登録商標) RPX−101(基材繊維;PP繊維)
RS−60:ダイワボウポリテック社製、アピタス RS−60(基材繊維;セルロース系繊維、PP繊維、PET繊維およびPPとPEとの複合繊維の混合(セルロース系繊維含有率50質量%未満))
ST−30:ダイワボウポリテック社製、アピタス ST−30(基材繊維;PET繊維)
C030S/A01:ユニチカ社製、コットエース(登録商標) C030S/A01(基材繊維;綿)
RH3−25:ダイワボウポリテック社製、アピタス RH3−25(基材繊維;セルロース系繊維と、PPとPEとの複合繊維の混合(セルロース系繊維含有率50質量%超))
RPN−35:ダイワボウポリテック社製、アピタス RPN−35(基材繊維;セルロース系繊維と、PPとPEとの複合繊維の混合(セルロース系繊維含有率50質量%超))
RHT−38:ダイワボウポリテック社製、アピタス RHT−38(基材繊維;セルロース系繊維と、PPとPEとの複合繊維の混合(セルロース系繊維含有率50質量%超))
【0051】
表3に示すように、基材繊維中の繊維表面の少なくとも一部がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、または、ポリアミド樹脂で構成された樹脂繊維の含有率が50質量%以上であるフマル酸含有繊維シートNo.11〜16(30日間乾燥品)は、いずれも初期pHと試験後pHとの差が小さく、フマル酸が脱落しにくいことがわかる。これらの中でも基材繊維がポリプロピレン(PP)のみからなる場合、7日間乾燥品でも弱酸性が維持できている。基材繊維中のセルロース系繊維の含有率が50質量%超であるフマル酸含有繊維シートNo.17〜20は、初期pHと試験後pHとの差が大きかった。これは試験時にフマル酸がセルロール系繊維の内部に取り込まれてしまうため、繊維表面のpHが増大したと考えられる。
【0052】
[フマル酸含有繊維シート作製試験4(No.21〜27)]
水100質量部にフマル酸分散液(第一製網社製、フマル酸分散液「DF−30」)を0.05質量部溶解させて、フマル酸含有水溶液(フマル酸濃度:0.015質量%)を調製した。表4に示した不織布をフマル酸水溶液に浸漬させた後、乾燥させることにより、不織布を構成する基材繊維にフマル酸を付与した。乾燥雰囲気は、温度23±5℃、湿度65%とし、乾燥時間は7日間とした。得られたフマル酸含有繊維シートの評価結果を表4に示した。
【0053】
[フマル酸含有繊維シート作製試験4(No.28〜33)]
水100質量部にフマル酸分散液(第一製網社製、フマル酸分散液「DF−30」)を1.0質量部溶解させて、フマル酸含有水溶液(フマル酸濃度:0.3質量%)を調製した。表4に示した不織布をフマル酸含有水溶液に浸漬させた後、乾燥させることにより、不織布を構成する基材繊維にフマル酸を付与した。乾燥雰囲気は、温度23±5℃、湿度65%とし、乾燥時間は7日間とした。得られたフマル酸含有繊維シートの評価結果を表4に示した。
【0054】
【表4】
【0055】
表4で用いた不織布は以下のとおりである。
PQ1156:三井化学社製、シンテックス PQ1156(基材繊維;PP繊維)
PQ1131:三井化学社製、シンテックス PQ1131(基材繊維;PP繊維)
PS−104:三井化学社製、シンテックス PS−104(基材繊維;PP繊維)
PB−0220:三井化学社製、シンテックス PB−0220(基材繊維;PP繊維)
70200WTO:ユニチカ社製、マリックス 70200WTO(基材繊維;ポリエステル繊維)
RPX−275:ダイワボウポリテック社製、アピタス RPX−275(基材繊維;PP繊維)
ST−30:ダイワボウポリテック社製、アピタス ST−30(素材;PET100質量%)
【0056】
フマル酸含有水溶液のフマル酸濃度を変更した場合でも、基材繊維の50質量%以上がポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維であれば、初期pHが弱酸性となり、また優れた耐久性を示す。