特許第6436732号(P6436732)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6436732
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】書籍用紙
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/20 20060101AFI20181203BHJP
   D21H 19/10 20060101ALI20181203BHJP
   B42D 1/00 20060101ALI20181203BHJP
【FI】
   D21H19/20 Z
   D21H19/10 B
   B42D1/00 A
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-230718(P2014-230718)
(22)【出願日】2014年11月13日
(65)【公開番号】特開2016-94678(P2016-94678A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2017年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴
(72)【発明者】
【氏名】小林 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】宮野 隆広
(72)【発明者】
【氏名】山田 喜威
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−266818(JP,A)
【文献】 特開2005−133244(JP,A)
【文献】 特開2008−196083(JP,A)
【文献】 特開昭59−071497(JP,A)
【文献】 特開2006−257621(JP,A)
【文献】 特開平10−204790(JP,A)
【文献】 特開2001−316999(JP,A)
【文献】 特開昭57−193598(JP,A)
【文献】 特開2006−123379(JP,A)
【文献】 特開平4−146297(JP,A)
【文献】 特開2001−336088(JP,A)
【文献】 特開平6−167000(JP,A)
【文献】 紙及びパルプの繊維長試験方法 光学的自動計測法について,紙パ技協誌第43巻第5号P479〜P485,1989年 5月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B−D21J
B42D1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン−ブタジエン系ラテックスおよび澱粉を含有するクリア塗工層を原紙上に備え、坪量が40g/m以上、密度が1.0g/cm以下である書籍用紙であって、
原紙を構成するパルプの20%以上が脱墨パルプであり、原紙を構成するパルプの平均繊維長が0.86mm以下である、上記書籍用紙
【請求項2】
原紙を構成するパルプの30%以上が広葉樹パルプである、請求項1に記載の書籍用紙。
【請求項3】
原紙を構成するパルプの平均繊維長が0.70mm以上である、請求項1または2に記載の書籍用紙。
【請求項4】
原紙がタルクを含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の書籍用紙。
【請求項5】
前記澱粉が酸化澱粉である、請求項1〜4のいずれかに記載の書籍用紙。
【請求項6】
前記ラテックスの平均粒子径が70nm〜90nm以下である、請求項1〜のいずれかに記載の書籍用紙。
【請求項7】
ラテックスと澱粉の重量比率が、ラテックス:澱粉=10:90〜99:1である、請求項1〜のいずれかに記載の書籍用紙。
【請求項8】
紙中灰分が5重量%〜30重量%である、請求項1〜のいずれかに記載の書籍用紙。
【請求項9】
請求項1〜のいずれかに記載の書籍用紙を製本した冊子。
【請求項10】
請求項1〜のいずれかに記載の書籍用紙の製造方法であって、
平均繊維長が0.86mm以下であるパルプを用いて原紙を抄造する工程と、
スチレン−ブタジエン系ラテックスおよび澱粉を含有するクリア塗工層を原紙上に塗工する工程と、
を有する、上記方法。
【請求項11】
製本された冊子の小口面を改装した際の用紙同士のくっつきを抑制する方法であって、冊子を構成する用紙として、請求項1〜のいずれかに記載の書籍用紙を用いることを特徴とする、上記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製本された冊子の改装時における研磨の際の、小口面のくっつきを低減した書籍用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、書籍は出版社から取次店を通じて書店に並ぶという委託制度をもとに流通しており、通常、書店で販売できなかった30〜40%の書籍は返本される。返本された書籍は、再度他の書店へ商品として回されることになるが、一度店頭に陳列されるなどして、製造されてから時間が経過した書籍では、小口面が退色してしまうため、研磨機を用いた「改装」と呼ばれる小口面の研磨加工が施される。
【0003】
ところが、この研磨加工後の研磨面には、書籍用紙の原料である木質パルプ繊維同士の絡み合いや、印刷時の表面性対策のために処理されたクリア塗工層の接着剤などによって、ページ間のくっつきが発生し、ページが開きにくくなる場合がある。製本された冊子を改装する際の小口面の「くっつき」(ブロッキングともいう)は、それを解消するためにページの捌きを一冊ずつ行う必要があり、作業が煩雑である。また、「くっつき」が捌ききれなかった商品が書店などに流通してしまうリスクなどもあり、改装による小口面のくっつきの改善が求められている。
【0004】
研磨時の小口面のくっつきを解消する技術としては、脱墨フロスを主原料とする再生粒子凝集体を填料および顔料として含有し、かつ、紙中灰分を10〜25%とする印刷用紙に関する技術(特許文献1)や、全パルプ成分中の40〜70重量%が機械パルプであり、そのうちの50〜100重量%が加圧ストーングランドパルプで構成される紙上に、5〜13%の濃度のクリアサイズ剤を0.7〜1.5g/m塗布した中質書籍用紙に関する技術(特許文献2)などが例示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−211374号公報
【特許文献2】特開2005−133244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に知られている従来の技術では、下記のような課題が発生する。すなわち、特許文献1に記載の技術は、顔料塗工層を設けたことによって発生する滑りを技術課題とするものであり、顔料塗工層を有していない非塗工紙に関する技術ではなかった。一方、引用文献2に記載の技術は、非塗工紙(クリア塗工紙)における研磨面の引っ付きに関する技術であるものの、特殊なパルプ(加圧ストーングランドパルプ)を用いてパルプ面から技術課題に対応する技術であり、クリア塗工層の面からの検討はまったくなされていない。
【0007】
このような状況に鑑み、本発明の課題は、製本された冊子を改装時の小口面のくっつきを防止した非塗工書籍用紙を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究を行った結果、坪量が40g/m以上、密度が1.0g/cm以下の非塗工書籍用紙において、平均繊維長が0.86mm以下と短いパルプ繊維を用いて得られた原紙上に、少なくとも接着剤としてスチレン−ブタジエン系ラテックスと澱粉を含有するクリア塗工層を塗工することによって、改装時の小口面のくっつきが効果的に抑制された書籍用紙が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、これに限定されるものではないが、本発明は以下の内容を包含する。
(1) スチレン−ブタジエン系ラテックスおよび澱粉を含有するクリア塗工層を原紙上に備え、原紙を構成するパルプの平均繊維長が0.86mm以下であり、坪量が40g/m以上、密度が1.0g/cm以下である書籍用紙。
(2) 原紙がタルクを含有する、(1)に記載の書籍用紙。
(3) 前記澱粉が酸化澱粉である、(1)または(2)に記載の書籍用紙。
(4) 前記ラテックスの平均粒子径が70nm〜90nm以下である、(1)〜(3)のいずれかに記載の書籍用紙。
(5) ラテックスと澱粉の重量比率が、ラテックス:澱粉=10:90〜99:1である、(1)〜(4)のいずれかに記載の書籍用紙。
(6) 紙中灰分が5重量%〜30重量%である、(1)〜(5)のいずれかに記載の書籍用紙。
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の書籍用紙を製本した冊子。
(8) (1)〜(6)のいずれかに記載の書籍用紙の製造方法であって、平均繊維長が0.86mm以下であるパルプを用いて原紙を抄造する工程と、スチレン−ブタジエン系ラテックスおよび澱粉を含有するクリア塗工層を原紙上に塗工層する工程と、を有する、上記方法。
(9) 製本された冊子の小口面を改装した際の用紙同士のくっつきを抑制する方法であって、冊子を構成する用紙として、(1)〜(6)のいずれかに記載の書籍用紙を用いることを特徴とする、上記方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の書籍用紙は、それを製本した場合に、改装した際の小口面のくっつきが効果的に抑制されるという効果を奏する。また、本発明の書籍用紙は、優れた印刷適性、加工適性を備えているため、書籍用紙として特に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
書籍用紙
本発明は書籍用紙に関する。本発明において書籍用紙とは、主に書籍に用いられる非塗工紙である。書籍として用いられるため、印刷適性に優れており、また、長時間読む場合でも視認性が高く目が疲れにくいことが一般に求められる。また製本して使用されることが一般的であるため、製本した際に、めくりやすいように紙の腰(剛度)を調整することが好ましく、また近年の傾向としてページ数が減っても本のボリューム感を損なわないよう低密度(嵩高性)であることが求められる場合もある。
【0012】
本発明の書籍用紙は、JIS P 8124に準じて測定した坪量が40g/m以上であり、好ましくは45g/m以上、より好ましくは50g/m以上である。また、坪量の上限は特にないが、100g/m以下であることが好ましく、95g/m以下であることがより好ましい。また、本発明の書籍用紙の紙厚は特に制限されないが、JIS P 8118に準じて測定した紙厚が40μm以上であることが好ましく、55μm以上であることがより好ましく、60μm以上であることがさらに好ましい。
【0013】
本発明の書籍用紙は、JIS P 8118に準じて測定した紙の密度が、1.0g/cm以下であり、好ましくは0.95g/cm以下、より好ましくは0.90g/cm以下、さらに好ましくは0.85g/cm以下、最も好ましくは0.80g/cm以下である。このような密度であると、改装時の小口面のくっつきが少なくなり、また、低密度であるのでページ数が減っても本のボリューム感を損なわないようにすることができる。密度の下限は特にないが、書籍用紙に求められる平滑性を維持する観点からは、は0.40g/cm以上が好ましく、0.50g/cm以上がより好ましい。
【0014】
本発明の書籍用紙は、ISO2471に準じて測定したISO不透明度が、80以上であることが好ましく、85以上であることがより好ましい。ISO不透明度が低くなると、印刷時に裏抜けが発生し、製本した際に読みにくい本になりやすい。
【0015】
原紙
本発明の書籍用紙は、紙料を抄造した原紙上に、接着剤を主体としたクリア塗工層を有する。原紙は、パルプ繊維の他に必要に応じて填料が内添される。
【0016】
本発明に用いる紙料は、パルプ原料を含んでなる。上述したように、本発明の書籍用紙に用いられる原紙は、平均繊維長が0.86mm以下であるパルプから抄造される。原紙を構成するパルプの平均繊維長は、書籍用紙をJIS P 8220に準じて離解してパルプスラリーを調製し、L&W社製Fiber Testerを用いて測定された長さ加重平均である。使用するパルプ全体の平均繊維長を0.86mm以下と短くすることによって、繊維同士の絡み合いが抑えられて、改装時の小口面のくっつきが少なくなると考えられる。好ましい態様においてパルプの平均繊維長は好ましくは0.84mm以下である。パルプの平均繊維長の下限は特に制限されないが、0.70mm以上とすることが好ましく、0.75mm以上としてもよい。本発明においては、叩解条件、パルプ配合や材種の調整等により、パルプの平均繊維長を所望の範囲に設定することができる。叩解条件としては、例えば、叩解機の形式、刃(プレート)の形状、刃と刃の間隔の変更や、また、叩解機で処理するパルプの流量や濃度を変更すること等によって叩解負荷が変わり、繊維長を調整することができる。なお、叩解の程度は、製紙業界の技術者であれば当然理解できるように、例えば、カナダ標準濾水度(CSF)を指標として評価することができる。
【0017】
また、使用するパルプ原料に特に制限はなく、針葉樹パルプ(NP)や広葉樹パルプ(LP)などの木材パルプの他に、リンターパルプ、麻、バガス、ケナフ、エスパルト草、ワラなどの非木材パルプ、レーヨン、アセテートなどの半合成繊維、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルなどの合成繊維などを使用することができる。具体的には、機械パルプ(MP)、脱墨パルプ(DIP、古紙パルプとも呼ばれる)、クラフトパルプ(KP)など、印刷用紙の抄紙原料として一般的に使用されているものを好適に使用することができ、適宜、これらの1種類または2種類以上を配合して使用される。機械パルプとしては、砕木パルプ(GP)、リファイナー砕木パルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)などが挙げられる。脱墨パルプとしては、上質紙、中質紙、下級紙、新聞紙、チラシ、雑誌などの選別古紙やこれらが混合している無選別古紙や、コピー紙や感熱紙、ノーカーボン紙、機密古紙などを含むオフィス古紙を原料とする脱墨パルプであれば良く、特に限定はない。一般に、針葉樹パルプと比較して広葉樹パルプは繊維長が短いため、広葉樹パルプの使用量を多くすることによって、原紙を構成する全パルプの平均繊維長を本発明の範囲に設定することもできる。また、一般に、脱墨パルプ(DIP)の繊維長は、バージンパルプと比較して短くなる傾向があるため、DIPの使用量を多くすることによって、原紙を構成する全パルプの平均繊維長を小さくすることができる。例えば、好ましい態様において、パルプ全体に対する広葉樹パルプの使用量を30重量%以上とすることができ、40重量%以上とすることもできる。また、他の好ましい態様において、パルプ全体に対するDIPの使用量を20重量%以上とすることができ、30重量%以上としてもよい。本発明の好ましい態様において、原紙を構成するパルプとして、広葉樹パルプを30重量%以上、DIPを20重量%以上使用することができる。広葉樹パルプ、DIPの使用量の上限は特にないが、原紙を構成するパルプの90重量%以下の量で使用することが好ましい。
【0018】
本発明で使用する原紙は、填料が内添されていてもよい。填料の種類は特に制限されないが、特に好ましい填料はタルクである。タルクは、含水ケイ酸マグネシウム(3MgO・4SiO2・H2O)を主成分とする白色粒子であり、シリカ層の間にシリカ・水酸化マグネシウムの層がある層状構造を有する。滑石とも呼ばれ、主な産地は中国、韓国、米国、オーストラリアなどである。本発明の書籍用紙にタルクを内添填料として用いると、不透明性や平滑性、印刷適性などの印刷品質を向上させるとともに、摩擦係数の低下により研磨時の小口面のくっつきを防止することができる。
【0019】
本発明の紙料には、本発明の効果を阻害しない範囲で、種々の内添薬品を添加してよい。内添薬品としては、これに制限されるものではないが、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、その他各種変性澱粉、スチレン−ブタジエン共重合体、ラテックス、酢酸ビニルなどの接着剤;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体;尿素・ホルマリン樹脂、メラミン・ホルマリン樹脂などの内添紙力増強剤;ロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸(ASA)系サイズ剤、石油系サイズ剤、中性ロジンサイズ剤などの内添サイズ剤;硫酸バンド、歩留向上剤、紫外線防止剤、退色防止剤、濾水性向上剤、凝結剤、pH調整剤、スライムコントロール剤、着色料(染料、顔料)および蛍光染料などを添加してもよい。
【0020】
本発明の書籍用紙には、上述したタルクを含め填料を単独または2種以上併用することができるが、填料は、特に限定されるものではなく、公知の填料の中から適宜選択して使用できる。このような填料としては、例えば、カオリン、クレー、軽質炭酸カルシウムや重質炭酸カルシウムなどの炭酸カルシウム、二酸化チタン、シリカ、およびプラスチックピグメントなどの有機填料などを挙げることが出来るが、好ましくはタルクと軽質炭酸カルシウムを併用するが、タルクと軽質炭酸カルシウムを併用した場合、比散乱係数の高い軽質炭酸カルシウムによって、高い不透明性を書籍用紙に付与することができる。書籍用紙は両面印刷されることが多く、印刷後の裏抜けを防止するために、不透明性が重要な品質項目となる。
【0021】
本発明の書籍用紙では、紙中灰分は5重量%以上30重量%以下が好ましく、10重量%以上28重量%以下がさらに好ましい。紙中灰分が5重量%未満では、得られる書籍用紙の不透明度や平滑性が不十分になる場合がある。また、紙中灰分が30重量%より高いと、紙中填料によって繊維間の結合が阻害され、紙の腰が不足する恐れがある。紙腰の不足は、加工適性の悪化、書籍として加工した時のめくり適性の悪化といった問題が生じる。
【0022】
本発明においては、上記のように調成された紙料が適宜希釈され、必要に応じてスクリーンやクリーナーで紙料から異物を除去した後に、抄紙機のヘッドボックスから抄紙ワイヤー上に噴射されて原紙が抄造される。本発明は種々の抄紙機、例えば長網式、円網式、短網式、ツインワイヤー式抄紙機などによって製造される。ツインワイヤー抄紙機としては、ギャップフォーマー、オントップフォーマーなどが挙げられる。抄紙後のプレス線圧は、通常の操業の範囲内で用いられる。
【0023】
また、抄紙法は、中性抄紙でも酸性抄紙でもよいが、中性抄紙であることが好ましい。具体的には、本発明においては、抄紙後の紙面pHが5.0〜9.0であることが好ましく、6.0〜8.0であることがより好ましい。
【0024】
クリア塗工層
本発明においては、表面強度向上や耐水性付与、印刷適性などを付与するために、前記で得られた原紙に、接着剤を主体とする表面処理液を塗工してクリア塗工層を設ける。本発明においては、クリア塗工層の接着剤としてスチレン−ブタジエン系ラテックスと澱粉を併用する。澱粉の種類は特に限定しないが、生澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、アセチル化したタピオカ澱粉を原料として製紙工場内で熱化学変性あるいは酵素変性によって生成される自家変性澱粉などの澱粉、アルデヒド化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉などの変性澱粉を好ましい例として挙げることができる。本発明においては、表面強度と小口研磨時のくっつきを防止する点から、少なくともスチレン−ブタジエン系ラテックスを澱粉とともに併用する。前記ラテックスの光子相関法で測定した平均粒子径は、70nm以上90nm以下であることが好ましく、75nm以上85nm以下がさらに好ましい。90nmより平均粒子径が大きいラテックスを使用すると、得られた紙の表面強度が低くなってしまう恐れがある。
【0025】
スチレン−ブタジエン系ラテックスと澱粉を併用する場合の重量比率は、10:90〜99:1が好ましい。さらに好ましくは30:70〜95:5であり、より好ましくは、51:490〜90:10である。ラテックス単独で使用した場合、コストが高くなってしまうため、澱粉と併用することが好ましいが、ラテックスの混合比率を高くすることで、本発明の研磨時の小口面のくっつき防止効果がより高くなる。
【0026】
スチレン−ブタジエン系ラテックスと澱粉を併用することによって本発明の効果が発現するメカニズムは明らかでなく、本発明は以下の推論に拘束されるものではないが、以下のように考えられる。澱粉とラテックスを混合した際の研磨時の小口面くっつき防止効果は、澱粉の保水性や、ラテックスと澱粉の吸湿性の差に依存している可能性が考えられる。澱粉は固形分濃度が高いとゲル化を起こしやすい性質があり、乾燥過程において塗工層中でゲル化が発生していると考えられる。澱粉を多く含むような保水性の高い表面処理液を使用した場合、塗工から乾燥までの工程間での原紙への表面処理液の浸透が少なく、紙のごく表面にしか表面処理液が存在しない状態となる。そのため、紙層内部の繊維は表面処理剤によってコーティングされていないため毛羽立ちが発生しやすく、より繊維が絡みやすい状態となってしまう。そこで、スチレン−ブタジエン系ラテックスと澱粉を併用することによって、改装時の紙のくっつきを効果的に抑制できるものと考えられる。
【0027】
また、小口面の研磨に供される書籍は、書店などの本棚に長く陳列されたものであり、その間に吸湿が起こっていると想定される。そのため、より吸湿性の高い澱粉を多く使用した場合、水分を含んだクリア塗工層が軟化し、改装時の研磨によってねっぱりが発生し易い状態となっていると想定される。
【0028】
さらに、クリア塗工層には、スチレン−ブタジエン系ラテックスと澱粉の他にも、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、セルロースナノファイバーなどのセルロース誘導体、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル化ポリビニルアルコールなどの変性アルコール、スチレン−ブタジエン系ラテックス以外のラテックス、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸エステルなどを併用することも可能である。
【0029】
また、サイズ性を高める目的で、スチレン系サイズ剤、オレフィン系サイズ剤、アクリレート系サイズ剤、スチレン−アクリル系サイズ剤、カチオン性サイズ剤などの表面サイズ剤を、クリア塗工層に配合することも可能である。表面サイズ剤を用いる場合、表面処理剤中の固形分濃度で0.05〜5重量%が好ましく、0.05〜1重量%がさらに好ましい。
【0030】
さらに、本発明においてクリア塗工する場合、必要に応じて分散剤、増粘剤、保水材、消泡剤、耐水化剤、着色剤、導電剤等、通常の表面処理剤に配合される各種助剤を適宜使用される。
【0031】
クリア塗工層の塗布量は、書籍用紙に要求される表面強度などにより適宜決定されるので特に限定はないが、通常は両面で0.1〜10g/mの範囲である。0.1〜5g/mが好ましく、0.1〜2.0g/mがより好ましい。塗工量が多くなると塗工層中の水分の絶対量が多くなることにより、乾燥負荷が増大し、乾燥不良が発生しやすくなる。そのため、塗工層のねっぱりが増大し、小口面断裁時にくっつきが発生しやすくなる。
【0032】
表面処理剤を塗布する装置は特に限定はなく、2ロールサイズプレス、ポンド式サイズプレス、ゲートロールコーター、ロットメタリングサイズプレスや、ブレードコーター、スプレーコーター、カーテンコーターなどの公知の塗工機によって塗布することができる。
【0033】
得られたクリア塗工紙は、公知公用の仕上げ装置、例えばスーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトカレンダー、高温ソフトニップカレンダーなどに通紙して製品仕上げを行ってもよいし、未処理もしくはバイパスしてもよい。
【0034】
乾式ねっぱり評価
本発明のクリア塗工紙は、乾式ねっぱり評価における、ねっぱりが発生しないことが好ましい。乾式で行うねっぱり評価は、研磨時の小口面のくっつき発生率との相関が高く、ねっぱりの程度が高いほど書籍の小口面研磨時にくっつきのトラブルが発生しやすくなる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を示しながら本発明について説明するが、この実施例は本発明の範囲を限定するものではない。なお、本明細書の説明において、濃度や%は(固形分)重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0036】
<評価方法>
1.各種紙質の測定
・坪量:JIS P 8124に準じて測定した。
・紙厚、密度:JIS P 8118に準じて測定した。
・灰分:ISO1762−1974に準じて測定した。
・ISO不透明度:ISO2471に準じて測定した。
・平均繊維長:JIS P 8220に準じて書籍用紙を離解し、L&W社製FiberTesterを用いて繊維長を測定して、長さ加重平均を求めた。
2.乾式ねっぱり強さの評価
温度23℃、相対湿度50%で調湿した書籍用紙を4×6cmに切り取り、塗工面同志を2枚重ね合わせて50kg/mの圧力でロールに通す。ロールによりプレスされた2枚重ねのサンプルについて、下記の基準により、ねっぱり強さ(紙同士のくっつき易さ)を3段階で評価した。
×:紙同士が付着しており、剥がさないと2枚に分離しない
△:紙同士が付着しているが、軽く触れると2枚に分離する
○:紙同士が付着せず2枚に分離している
3.小口面くっつきの評価
A6判(文庫本サイズ)の書籍用紙を200枚、ソフトカバー、無線とじで製本した。製本サンプルを4冊まとめてベルト研磨機(NIPPO社製)にセットし、標準使用法にしたがって小口面の研磨を往復2回行った。小口面を研磨した製本サンプルについて、下記の基準により、研磨後の小口面のくっつき性を4段階で評価した。
×:本を開くと複数ページが研磨部で強くくっついてほぐれにくい
△:本を開くと複数ページが研磨部でくっついているが、ほぐれ易い
○:本を開くと研磨部のくっつきがほぐれる
◎:研磨部にくっつきがない
4.表面強度の評価
ローランド社製の枚葉印刷機R202にてA3サイズのサンプルに藍色インキを単色ベタ印刷後、表面に現れるパルプ繊維の剥離数を目視で観察した。下記の基準により、ドライピック表面強度を3段階で評価した。
×:剥離が多く発生している
△:剥離が少量発生している
○:剥離の発生がほとんど認められない
<書籍用紙の製造>
実施例1
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、CSF350ml)50部、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、CSF600ml)10部、脱墨パルプ(DIP、CSF280ml)40部を混合したパルプスラリーに、填料としてタルクと炭酸カルシウムを8:19の割合で添加した。さらに、パルプと填料の合計重量(固形分)に対し、硫酸バンド1.0%、内添サイズ剤(AKD)0.06%、カチオン化澱粉0.3%、PAM0.2%を添加して、pHが約7である紙料を調成した。
【0037】
その後、ツインワイヤー型の抄紙ワイヤー上に上記紙料をヘッドボックスから噴出して抄紙し、プレスパートで搾水、プレドライヤーで乾燥し、抄紙速度850m/minで原紙を抄造した。
【0038】
得られた原紙に、ゲートロールコーター(GRC)を用いて、両面の合計塗工量が2.4g/m(片面:1.2g/m)となるように表面処理液を両面均等に塗工し、原紙上にクリア塗工層を設けた。表面処理液は、酸化澱粉(日本コーンスターチ社製SK−20)を水に溶解し95℃で蒸煮して糊化したものを70部、スチレン−ブタジエン系ラテックス(日本A&L社製PB9501、光学相関法で測定した平均粒子径:80nm)を30部、合成高分子系サイズ剤4部を添加して調製した。
【0039】
乾燥後、坪量56.8g/m、紙厚75μm、紙中灰分21%の書籍用紙を得た。この書籍用紙を離解してパルプの平均繊維長を測定したところ、0.85mmだった。
【0040】
実施例2
表面処理液の塗工量を、両面で1.0g/m(片面:0.5g/m)とした以外は、実施例1と同様にして書籍用紙を得た。
【0041】
実施例3
表面処理液の酸化澱粉を30部、スチレン−ブタジエン系ラテックスを70部とした以外は、実施例1と同様にして書籍用紙を得た。
【0042】
実施例4
原紙に填料としてタルクと炭酸カルシウムを11:26の割合で添加して紙中灰分を29%とし、紙厚を65μmとした以外は、実施例1と同様にして書籍用紙を得た。
【0043】
実施例5
原紙に填料としてタルクと炭酸カルシウムを2:6の割合で添加して紙中灰分を6%とした以外は、実施例1と同様にして書籍用紙を得た。
【0044】
実施例6
原紙に、填料としてタルクと炭酸カルシウムを8:19の割合で添加して紙中灰分を21%とし、表面処理液中のスチレン−ブタジエン系ラテックスの粒子径を110nmとした以外は、実施例1と同様にして書籍用紙を得た。
【0045】
実施例7
原紙に、填料としてタルクを含有せず、炭酸カルシウムを添加して紙中灰分を21%とした以外は、実施例1と同様にして書籍用紙を得た。
【0046】
実施例8
表面処理液に酸化澱粉を添加せず、スチレン−ブタジエン系ラテックスを100部とした以外は、実施例1と同様にして書籍用紙を得た。
【0047】
実施例9
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、CSF300ml)50部、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、CSF500ml)10部、脱墨パルプ(DIP、CSF280ml)40部を混合したパルプスラリーを用いた以外は、実施例1と同様にして書籍用紙を得た。この書籍用紙を離解してパルプの平均繊維長を測定したところ、0.83mmだった。
【0048】
比較例1
坪量を39g/mとし、紙厚を51μmとした以外は、実施例1と同様にして書籍用紙を得た。
【0049】
比較例2
紙厚を54μmとし、密度を1.05g/cmとした以外は、実施例1と同様にして書籍用紙を得た。
【0050】
比較例3
表面処理液の酸化澱粉を100部とし、スチレン−ブタジエン系ラテックスを配合しない以外は、実施例1と同様にして書籍用紙を得た。
【0051】
比較例4
填料としてタルクを使用せず紙中灰分を21%とし、表面処理液にスチレン−ブタジエン系ラテックスを配合しなかった(酸化澱粉100部)以外は、実施例1と同様にして書籍用紙を得た。
【0052】
比較例5
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、CSF470ml)50部、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、CSF700ml)10部、脱墨パルプ(DIP、CSF280ml)40部を混合したパルプスラリーを用いた以外は、実施例1と同様にして書籍用紙を得た。この書籍用紙を離解してパルプの平均繊維長を測定したところ、0.88mmだった。
【0053】
【表1】
【0054】
表1に、得られた書籍用紙の評価結果を示す。まず、実施例1、9、比較例5を参照すると、パルプの平均繊維長を0.86mm以下とすることによって、小口面のくっつきが効果的に抑制され、平均繊維長が0.84mm以下であると特に良好な結果が得られた(実施例9)。
【0055】
また、実施例1、3、8、比較例3を参照すると、表面処理液(クリア塗工液)のバインダーとして澱粉だけを用いた場合(比較例3)と比較して、澱粉とともにスチレン−ブタジエン系ラテックスを併用することによって、書籍用紙のねっぱり強さ、小口面のくっつき、表面強度がいずれも向上することが明らかになった。
【0056】
さらに、比較例1、2を参照すると、書籍用紙の坪量や密度が本発明の範囲外であると、小口面のくっつき性が悪化する傾向があった。さらにまた、填料としてタルクを原紙に配合すると、小口面のくっつき性などが改善する傾向も確認された。