(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6436741
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】集合住宅インターホンシステム
(51)【国際特許分類】
H04M 9/00 20060101AFI20181203BHJP
【FI】
H04M9/00 H
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-237969(P2014-237969)
(22)【出願日】2014年11月25日
(65)【公開番号】特開2016-100833(P2016-100833A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100908
【氏名又は名称】アイホン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】堀 博之
【審査官】
石田 紀之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−068309(JP,A)
【文献】
特開2001−103167(JP,A)
【文献】
米国特許第5771277(US,A)
【文献】
欧州特許出願公開第0929150(EP,A1)
【文献】
特開2009−303055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04M 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
来訪者が住戸を選択して居住者を呼び出すための集合玄関機と、居住者が呼び出しに応答するための居室機と、前記集合玄関機と前記居室機との間に介在されて機器間の通信を制御する制御装置とを有し、前記制御装置と前記居室機とを接続した幹線上に幹線信号を増幅する中継増幅器を複数介在させた集合住宅インターホンシステムであって、
前記中継増幅器は、前記制御装置から前記居室機方向に伝送される下り信号を増幅する下り信号増幅回路と、前記居室機から前記制御装置方向へ伝送される上り信号を増幅する上り信号増幅回路とを有し、
少なくとも前記制御装置の最も近くに設置された前記中継増幅器は、受信した前記下り信号の信号レベルから、自身に向けて下り信号を送出した直近の機器と自身との間の幹線の減衰量を推定する減衰量推定部と、当該減衰量推定部が推定した減衰量情報を基に前記上り信号増幅回路の増幅率を設定する上り増幅率設定部とを有する上り出力可変増幅器であり、
前記減衰量推定部は、受信した前記下り信号を送出した直近の機器の出力レベルを記憶して、当該記憶値と受信した下り信号の信号レベルとを比較して減衰量を推定することを特徴とする集合住宅インターホンシステム。
【請求項2】
前記上り出力可変増幅器は、前記減衰量推定部が検出した下り信号の信号レベル情報を基に、前記下り信号増幅回路の出力が所定の一定レベルになるよう前記下り信号増幅回路の増幅率を設定する下り増幅率設定部を有することを特徴とする請求項1記載の集合住宅インターホンシステム。
【請求項3】
前記上り増幅率設定部は、前記推定した減衰量が所定の範囲内であれば予め設定された一定の増幅率により前記上り信号増幅回路を動作させ、
前記推定した減衰量が前記所定の範囲を超えた場合は、前記一定の増幅率より高い増幅率で前記上り信号増幅回路を動作させ、前記所定の範囲に満たない場合は、前記一定の増幅率より低い増幅率で前記上り信号増幅回路を動作させることを特徴とする請求項1又は2記載の集合住宅インターホンシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は集合住宅に設置される集合住宅インターホンシステムに関し、詳しくは制御装置から個々の居室機に至る幹線において、信号を増幅して減衰量を補正する中継増幅器を備えた集合住宅インターホンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
集合住宅に設置される集合住宅インターホンシステムでは、伝送線路が長いため、特に周波数の高い信号は減衰量が大きい。そのため、伝送線の途中に信号を増幅する中継増幅器を設けて対応している。例えば特許文献1に開示されているように、周波数の低い音声信号や制御信号に比べてFM変調して伝送することで減衰率が大きい映像信号に対しては、伝送線の途中に中継増幅器を設けて増幅することで集合玄関機から居室機までの長い距離に対応している。
また、全ての信号をデジタル化して、データ信号を伝送する集合住宅インターホンシステムでは、全ての信号が減衰するため映像信号に加えて音声信号や制御信号も中継増幅器により増幅される。この場合、居室機に伝送する下り信号に加えて、居室機から制御装置へ伝送される上り信号も合わせて増幅される(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−165018号公報
【特許文献2】特開2014−68309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アナログ信号に比べてデジタル信号は伝送可能な信号量を大きくできるため、映像信号、音声信号、制御信号の全てをデジタル化して伝送するインターホンシステムの普及が進んでいるが、従来の伝送線に設けられた中継増幅器は上記特許文献2に記載されているように、下り信号及び上り信号の出力が一定値になるよう増幅率が制御されていた。
そのため、制御装置の近くに中継増幅器が設置されると制御装置の受信信号レベルが大きくなってピークアウトが発生する場合があり、この場合は歪んだ波形を整形するための回路を追加したり、アッテネータ等で信号レベルを小さくする必要があった。
【0005】
そこで、本発明はこのような問題点に鑑み、中継増幅器が制御装置の近くに設置されても、制御装置が受信する信号レベルは適正なレベルとなる中継増幅器を備えた集合住宅インターホンシステムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する為に、請求項1の発明は、来訪者が住戸を選択して居住者を呼び出すための集合玄関機と、居住者が呼び出しに応答するための居室機と、集合玄関機と居室機との間に介在されて機器間の通信を制御する制御装置とを有し、制御装置と居室機とを接続した幹線上に幹線信号を増幅する中継増幅器を複数介在させた集合住宅インターホンシステムであって、中継増幅器は、制御装置から居室機方向に伝送される下り信号を増幅する下り信号増幅回路と、居室機から制御装置方向へ伝送される上り信号を増幅する上り信号増幅回路とを有し、少なくとも制御装置
の最も近くに設置された中継増幅器は、受信した下り信号の信号レベルから、自身に向けて下り信号を送出した直近の機器と自身との間の幹線の減衰量を推定する減衰量推定部と、当該減衰量推定部が推定した減衰量情報を基に上り信号増幅回路の増幅率を設定する上り増幅率設定部とを有する上り出力可変増幅器であ
り、減衰量推定部は、受信した下り信号を送出した直近の機器の出力レベルを記憶して、当該記憶値と受信した下り信号の信号レベルとを比較して減衰量を推定することを特徴とする。
この構成によれば、制御装置に最も近い中継増幅器は、制御装置から伝送された下り信号の減衰量を推定し、その減衰量を参照して上り信号増幅回路の増幅率を設定する。よって、中継増幅器が制御装置の近くに配置されても制御装置は居室機から伝送された上り信号を適正なレベルで受信することが可能となり、制御装置に波形整形回路やアッテネータ・AGCアンプ等のハードウェアを設ける必要が無くなる。加えて、少なくとも制御装置の近くに設置された中継増幅器は、上り信号増幅回路が必要以上に信号を増幅することが無いため、集合住宅インターホンシステムの消費電力を抑制できる。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の構成において、上り出力可変増幅器は、減衰量推定部が検出した下り信号の信号レベル情報を基に、下り信号増幅回路の出力が所定の一定レベルになるよう下り信号増幅回路の増幅率を設定する下り増幅率設定部を有することを特徴とする。
この構成によれば、下り信号増幅回路は減衰量推定部が入手した情報を基に増幅率が設定されるため、独立した利得制御回路が必要無くなる。よって、中継増幅器のハードウェアを簡略化・小型化でき、安価に構成できる。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の構成において、上り増幅率設定部は、推定した減衰量が所定の範囲内であれば予め設定された一定の増幅率により上り信号増幅回路を動作させ、推定した減衰量が所定の範囲を超えた場合は、一定の増幅率より高い増幅率で上り信号増幅回路を動作させ、所定の範囲に満たない場合ば、一定の増幅率より低い増幅率で上り信号増幅回路を動作させることを特徴とする。
この構成によれば、推定した減衰量が所定の範囲より大きい場合は増幅率を上げ、小さい場合は増幅率を下げるため、中継増幅器から送出された上り信号を受信する機器はその中継増幅器に至る幹線の長さに依らず一定レベルで信号を受信できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、制御装置に最も近い中継増幅器は、制御装置から伝送された下り信号の減衰量を推定し、その減衰量を参照して上り信号増幅回路の増幅率を設定する。よって、中継増幅器が制御装置の近くに配置されても制御装置は居室機から伝送された上り信号を適正なレベルで受信することが可能となり、制御装置に波形整形回路やアッテネータ・AGCアンプ等のハードウェアを設ける必要が無くなる。加えて、少なくとも制御装置の近くに設置された中継増幅器は、上り信号増幅回路が必要以上に信号を増幅することが無いため、消費電力を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る集合住宅インターホンシステムの一例を示す構成図である。
【
図3】中継増幅器の動作説明図であり、(a)は制御装置から伝送された信号の減衰量が大きい場合、(b)は制御装置から伝送された信号の減衰量が小さい場合を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係る集合住宅インターホンシステムの一例を示す構成図であり、1は来訪者が住戸を選択して居住者を呼び出すための集合玄関機、2は居住者が呼び出しに応答するための居室機、3は管理人室に設置されて来訪者や居住者と通話するための管理室機、4は機器間の通信/通話を制御する制御装置、5は受信した信号を増幅して出力する中継増幅器、6は居室機2を幹線に接続するための住戸アダプタである。
【0012】
集合玄関機1、管理室機3はそれぞれ伝送線L1,L2を介して制御装置4に接続され、居室機2は幹線L3を介して制御装置4に接続されている。また中継増幅器5は、幹線L3の適宜部位に設置されている。
尚、幹線L3上では、音声信号、映像信号、制御信号の何れもデジタル信号化されて伝送され、幹線の下り及び上りには高周波信号が伝送される。そして、中継増幅器5により、音声信号、映像信号、制御信号の全ての信号が増幅される。また中継増幅器5のうち、5aは分岐機能を備えている。
【0013】
集合玄関機1は通話する機能に加えて、住戸を選択して呼出操作する操作部11、来訪者を撮像するためのカメラ12、呼出先情報等を表示する表示部13等を備えている。
居室機2は通話する機能に加えて、呼び出しを受けて応答操作する通話ボタン21、カメラ12の撮像映像を表示するディスプレイ22等を備えている。
制御装置4は、呼出信号、音声信号、制御信号の伝送、通話路の接続/切断、更にはカメラ12が撮像した映像信号の伝送等を制御し、接続された各機器に対して一定のレベルで信号を送出する。
【0014】
中継増幅器5は、制御装置4から居室機2へ伝送される下り信号に対しては出力が所定のレベルとなるよう増幅するが、居室機2から制御装置4へ伝送される上り信号に対しては出力レベルを状況に応じて変更する上り出力可変増幅器となっている。
図2はこの中継増幅器5のうち制御装置4に最も近い中継増幅器5(5a)を示し、その回路ブロックを示している。
図2において、51は下り信号を増幅する下り信号増幅回路、52は上り信号を増幅する上り信号増幅回路であり、何れも利得変更機能を備えたAGCAMPで構成されている。また、53は双方の増幅回路51,52の利得を制御する利得制御部である。尚、分岐回路は省略してある。
【0015】
この利得制御部53は、下り信号増幅回路51に入力される信号レベルを検出して幹線L3の減衰量、即ち自身に向けて下り信号を送出した直近の機器(ここでは制御装置4)と自身との間の幹線L3aの減衰量を推定する減衰量推定部53aと、下り信号増幅回路51の出力レベルを検出して出力が所定のレベルで出力されるようフィードバック制御する下り増幅率設定部53bと、減衰量推定部53aが推定した減衰量情報を受けて、上り信号増幅回路52の利得を設定する上り増幅率設定部53cとを備えている。
尚、55a〜55dは信号を所定量増幅する増幅回路であり、56a〜56dはノイズを除去すると共に不必要な帯域成分を除去するためのフィルタ回路である。
【0016】
減衰量推定部53aには、設置された幹線L3の上り側直近の機器である制御装置4の出力信号レベルが予め入力され記憶されている。この記憶値と受信した下り信号の信号レベルとが比較されて減衰量が推定される。尚、制御装置4の幹線L3への信号出力レベルは一定であり、このレベルを記憶することで減衰量推定部53aは上流側直近の機器と自身との間の幹線L3の減衰量を推定できる。
そして、上り増幅率設定部53cは、この減衰量情報を基に上り信号の増幅率を設定する。
【0017】
上り増幅率設定部53cは、増幅率を以下のように設定する。上り増幅率設定部53cは、予め設定された所定の増幅率(基準増幅率)を記憶しており、減衰量推定部53aが推定した減衰量が所定の範囲内である場合には、上り信号増幅回路52を設定された基準増幅率で動作させる。
そして、推定した減衰量が所定の範囲から外れた場合に、減衰量に応じて増幅率を基準増幅率から増減させるためのチャート(図示せず)を記憶しており、このチャートに基づいて増幅率を変化させる。具体的に、推定した減衰量が所定の範囲より大きい場合は、その率に応じて基準増幅率より増幅率を上げて上り信号増幅回路52を動作させる。逆に、所定の範囲に満たない場合は、その率に応じて基準増幅率より増幅率を下げて上り信号増幅回路52を動作させる。
【0018】
図3はこのように増幅率を設定する中継増幅器5の動作説明図であり、
図3(a)は制御装置4から中継増幅器5までの幹線L3aが長く、信号の減衰量が大きい場合を示し、
図3(b)は制御装置4から中継増幅器5までの幹線L3aが短く、信号の減衰量が小さい場合を示している。
図3(a)に示すように、下り信号の減衰量が大きい場合は、下り信号増幅回路51が一定のレベルの信号を出力するよう下り増幅率設定部53bが下り信号増幅回路51の増福率を上げる。そして、上り増幅率設定部53cが上り信号増幅回路52の増幅率を基準増幅率より上げ、上り信号増幅回路52は上り信号の出力レベルを大きくして出力する。
逆に、
図3(b)に示すように下り信号の減衰量が小さい場合は、下り増幅率設定部53bが下り信号増幅回路51の増福率を下げて、下り信号増幅回路51の出力レベルが一定となるよう制御する。そして、上り増幅率設定部53cが上り信号増幅回路52の増幅率を基準増幅率より下げ、上り信号増幅回路52は上り信号の出力レベルを基準増幅率より下げて出力する。
【0019】
このように、制御装置4に最も近い中継増幅器5は、制御装置4から伝送された下り信号の減衰量を推定し、その減衰量を参照して上り信号増幅回路52の増幅率を設定する。よって、中継増幅器5が制御装置4の近くに配置されても制御装置4は居室機2から伝送された上り信号を適正なレベルで受信することが可能となり、制御装置4に波形整形回路やアッテネータ・AGCアンプ等のハードウェアを設ける必要が無くなる。加えて何れの中継増幅器5においても、上り信号増幅回路52が必要以上に信号を増幅することが無いため、集合住宅インターホンシステムの消費電力を抑制できる。
そして、中継増幅器5の上り側幹線L3の推定減衰量が所定の範囲より大きい場合は増幅率を基準増幅率より上げ、小さい場合は増幅率を基準増幅率より下げるため、送出された上り信号を受信する機器は下流側中継増幅器5に至る幹線L3の長さ(減衰量)に依らず好ましいレベルで信号を受信でき、無駄な消費電力が発生しない。
【0020】
尚、この集合住宅インターホンシステムの基本動作である呼び出し/応答動作、及び呼出操作を受けてカメラ12が起動して映像信号が居室機2に伝送される動作は従来の集合住宅インターホンシステムと同様であるため、説明を省略する。
また、上記実施形態では下り信号増幅回路51はフィードバック制御により利得を制御しているが、入力信号レベルを基に利得を設定するフィードフォワード制御としても良く、こうすれば、下り信号増幅回路51は減衰量推定部53aが入手した情報を基に増幅率が設定されるため、下り増幅率設定部53bに独立した利得制御回路が必要無くなる。よって、中継増幅器5のハードウェアを簡略化・小型化でき、安価に構成できる。
更に、上記実施形態では、全ての中継増幅器5を
図2に示す回路を備えた上り出力可変増幅器としたが、制御装置4に最も近い中継増幅器5のみ上り出力可変増幅器とし、他の中継増幅器は、上り信号増幅回路52も下り信号増幅回路51と同様に、自身の出力信号情報を基に出力レベルが一定となるよう利得を制御するフィードバック制御により動作させる中継増幅器としても良い。このように構成しても、制御装置4は居室機2から伝送された上り信号を適切なレベルで受信でき、制御装置4に波形整形回路やアッテネータ・AGCアンプ等のハードウェアを設ける必要が無くなる。
【符号の説明】
【0021】
1・・集合玄関機、2・・居室機、4・・制御装置、5・・中継増幅器(上り出力可変増幅器)、51・・下り信号増幅回路、52・・上り信号増幅回路、53・・利得制御部、53a・・減衰量推定部、53b・・下り増幅率設定部、53c・・上り増幅率設定部。