【実施例】
【0021】
[高強度強靭性炭化ホウ素セラミックスの作製例]
市販の非晶質ホウ素(平均粒径:30 nm)と非晶質炭素(平均粒径:30 nm)を、モル比がB:C=4:1となるように秤量し、アルミナ製の乳鉢と乳棒を用いてメタノール中30分間湿式混合を行なった。
一方、市販のカーボンナノファイバー(繊維径150 nm、繊維長4〜5 μm)を、前記の非晶質ホウ素と非晶質炭素の混合物から合成される炭化ホウ素B
4Cに対して内割りで5〜15 vol%となるように秤量し、これをメタノール中で超音波ホモジナイザー(周波数20 kHz、出力300 W)を用いて30分間分散処理した。
そして、上記の非晶質ホウ素/非晶質炭素混合物に、上記のカーボンナノファイバー分散液を加え、上記の超音波ホモジナイザーを用いて30分間分散処理し、乾燥を行うことにより混合粉末を得た。そして、このようにして得られた混合粉末を整粒した後、一軸金型成形し(16.0 mmφ, 98 MPa)、ついで冷間静水圧(245 MPa)プレス処理を行った。その後、得られた成形体を熱処理(950℃/2h/真空)し、さらに、市販のパルス通電加圧焼結装置(SPSシンテックス(株)/SPS-510Aを使用)を用いて、10 Pa以下の真空下、焼結温度1700〜1900℃、保持時間10分、圧力30 MPa、昇温速度100℃/分の条件でパルス通電加圧焼結を行い、焼結体(B
4C/CNFセラミックス)を得た。
尚、比較品として、カーボンナノファイバーを添加しない以外は、上記と同様の方法を用いて焼結体(B
4Cセラミックス)を製造した。
【0022】
図3には、カーボンナノファイバーが添加されていないホウ素と炭素の混合物の成形体をパルス通電加圧焼結する際の収縮曲線が示されており、
図4には、カーボンナノファイバーを添加した場合のパルス通電加圧焼結する際の収縮曲線が示されている。
この
図3の収縮曲線と
図4の収縮曲線の比較から、カーボンナノファイバーを添加した場合(本発明の作製法を用いた場合)には、収縮開始点Tsが1600℃から1630℃へと30℃高くなり、CNF添加により焼結・収縮・粒成長が高温度側にシフトすることがわかる。
【0023】
以下の表1には、種々の温度で焼結されたモノリシックB
4Cセラミックスの微細構造特性及び機械的特性が示されている。
又、以下の表2には、真空中で1900℃/10分/30MPaにて焼結された種々のB
4C/CNFセラミックス(CNF添加量:0, 5, 7.5, 10, 12.5, 15vol%)のいくつかの特性が示されている。この表1及び表2において、D
obsは嵩密度、D
xは理論密度、D
obs/D
xは相対密度、σ
bは3点曲げ強度、H
vはビッカース硬度、K
ICは破壊靭性値である。
そして、以下の表3には、1900℃/10分/30MPaにて焼結されたB
4C/CNFセラミックス(CNF添加量:0, 5, 7.5, 10, 12.5, 15vol%)の高温曲げ強度が要約されている。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【表3】
【0027】
上記表2の結果から、本発明の作製法を用いることにより相対密度(D
obs/D
x)99%以上のB
4C/CNFコンポジットを製造することができ、B
4C/CNF=90/10 vol%の組成において、室温での曲げ強度が最も大きくなることがわかった。
更に、上記表3の結果は、炭化ホウ素に対して内割りで5〜15 vol%のカーボンナノファイバーが添加された本発明の炭化ホウ素セラミックスの高温曲げ強度が、1300〜1500℃の温度において450 MPa以上で、450〜900 MPa程度であり、特に10〜12.5 vol% のカーボンナノファイバーが添加された本発明の炭化ホウ素セラミックスの高温曲げ強度は535〜830 MPaであることを示している。
【0028】
図5には、1900℃/10分/30MPaの条件下にて焼結されたB
4C/CNFセラミックスの破断表面についてのSEM写真(FE-SEM、日本電子製、JSM 7000にて測定)が示されており、B
4C/CNF=(a)100/0, (b)95/5, (c)90/10及び(d)85/15 vol%である。
【0029】
又、
図6には、本発明のB
4C/CNFセラミックス(CNFの添加量 5, 7.5, 10, 12.5, 15vol%)の高温曲げ強度が、CNF無添加のB
4Cセラミックス(比較品)の高温曲げ強度と共に示されており、本発明では、一定量のCNFを添加した場合に、強度の逆温度依存性が見られ、特に、B
4C/CNF=90/10 vol%及び87.5/12.5 vol%組成のコンポジットでCNF添加による高温強度の著しい向上(90/10 vol%の場合は1000℃/〜500 MPa→1600℃/約800 MPa、87.5/12.5 volの場合は1000℃/〜500 MPa→1500℃/830 MPa)が確認された。尚、このような800 MPa以上の曲げ強度は、Al
2O
3が添加され、かつ、CNFが5〜15vol%添加された従来品の曲げ強度(約500〜550 MPa)よりも大きい。
この
図6の結果は、CNFの添加量の好ましい範囲が10〜12.5 vol%であり、12.5 vol%が最も好ましいことを示している。
尚、この高温での曲げ強度は、高温曲げ強度試験装置(Instron社製、4505)を使用し、30℃・min
-1/1000〜1600℃/N
2/スパン16mm/クロスヘッドスピード0.5 mm・min
-1の条件にて測定を行った。
【0030】
図7〜
図10はそれぞれ、1000℃、1300℃、1600℃、1700℃でのB
4C/CNFコンポジットの破断表面のSEM写真であり、B
4C/CNF=(a)100/0, (b)95/5, (c)90/10及び(d)85/15 vol%である。
この写真において、白く写っている部分がカーボンナノファイバーの軸に対して垂直な方向の断面であり、本発明では、カーボンナノファイバーを添加することでピン止め効果による強度の向上が達成されるものと考えられる。
【0031】
図11は、最も高い高温曲げ強度を示したB
4C/CNF= 87.5/12.5 vol%コンポジットの、室温、1000℃、1300℃、1500℃、1700℃での強度測定後の試料片の破壊面の微細構造変化を示すSEM写真である。これらのSEM写真から、破壊面で観察されるB
4Cの結晶粒子径の大きさには殆ど変化がみられず、高温下での化学安定性の高い結晶質炭素繊維CNFにより、B
4Cの結晶粒子の高温下での粒子成長が1700℃まで抑制されていることが確認される。また、CNFの形態にも殆ど変化が認められない。このことはCNFの高温下での高い化学的安定性を示唆するものである。
【0032】
又、
図12は、
図11と同じB
4C/CNF=87.5/12.5 vol%コンポジットの(a)室温、(b)1000℃、(c)1300℃、(d)1500℃及び(e)1700℃での強度測定後の試料片の破壊面の、CNF近傍の高倍率SEM写真である。これらのSEM写真から、CNFの周囲のB
4Cマトリックスの微細構造が高温下で殆ど変化していないことから、CNFとB
4Cが固相反応せず、これらの2つの化合物が高温で安定であることを示唆する。
【0033】
図13は、B
4C/CNFコンポジットセラミックス内のB
4CとCNF界面のTEM写真であり、左から右に向かって順に拡大され、高倍率で撮影されている。これらのTEM写真から、本発明のコンポジットセラミックスでは、B
4CとCNF間の界面には他の結晶相が観察されず、直接CNFとB
4Cが接していることが確認された。この界面に他の結晶相が存在せず、直接接触していることが、高温強度の維持につながると考えられる。なお、従来の焼結助材として2.5vol%のAl
2O
3を添加してパルス通電加圧焼結して作製されたB
4C/CNFコンポジットセラミックスでは、CNFとB
4Cの界面にAl
2O
3薄膜が形成されており、この薄膜Al
2O
3の高温強度が低いために、1500℃,1600℃での高強度が発現しなかった。
【0034】
図14〜
図15は、1100℃、1300℃、1500℃及び1700℃におけるB
4C/CNFコンポジットセラミックス(CNF添加量:0, 5, 7.5, 10, 12.5, 15vol%)の荷重‐変位曲線を示す図であり、縦軸が荷重、横軸が変位を表している。そして、略三角形の形状をなす部分の面積が、変位の時に蓄えられるエネルギー(弾性歪みエネルギー)の大きさに相当する。
図15の上側の図の結果から、本発明の作製法を用いて得られるB
4C/CNF セラミックスは1500℃の温度において大きな弾性歪みエネルギーを有していることがわかった。
又、
図15の下側の図の結果は、1700℃の場合には、CNFの添加量が12.5vol%のB
4C/CNFセラミックスが、特に大きな弾性歪みエネルギーを有していることを示している。
本発明者等は、
図14〜
図15に示された荷重‐変位曲線から、単位体積あたりの弾性歪みエネルギーを示す弾性歪みエネルギー密度を、以下の式を用いて求めた。
弾性歪みエネルギー= 1/2 ×荷重×変位 (三角形の面積と近似)
弾性歪みエネルギー密度=[1/2×荷重×変位]/[スパンの長さ×サンプルの幅×サンプルの厚み]
【0035】
図16には、上式により計算されたB
4C/CNFコンポジットの弾性歪みエネルギー密度(荷重‐変位曲線によってできた面積)と、サンプルの測定温度との関係が示されている。
図16の結果から、CNF添加量が7.5, 10, 12.5vol%であるB
4C/CNFセラミックスが、CNF添加量が5, 15vol%であるB
4C/CNFセラミックスよりも、高温(1500℃)において高い弾性歪みエネルギー密度を有していることがわかった。又、
図16のグラフは、測定温度1500℃において、CNF添加量が7.5, 10, 12.5vol%のB
4C/CNFセラミックスが、CNF無添加のB
4Cセラミックスの約10倍以上の大きな靭性を有し、CNFが高い温度領域で破壊を抑制することを示している。
又、この
図16の結果から、弾性歪みエネルギーが最も大きくなって、高温強度の著しい向上が達成されるCNF最適添加量は12.5vol%であることが確認され、CNF添加量の好ましい範囲は7.5〜12.5vol%で、より好ましい範囲は10〜12.5vol%であることがわかった。
更に、このような結果は、CNF無添加のB
4Cセラミックスの場合、1500℃において変位すると破壊しやすいが、CNF添加量が10〜12.5vol%のB
4C/CNFセラミックスの場合は、変位が大きくても破壊し難いことを示しており、CNF添加による引き抜き効果(anchor effect)がB
4C/CNF=87.5〜90/12.5〜10の組成の試料において顕著であることを示している。