(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0011】
なお、以下の実施形態において、「モノリス」とは、長手方向に形成された複数の貫通孔を有する形状を意味し、ハニカム形状を含む概念である。
【0012】
(モノリス型分離膜構造体100の構成)
図1は、モノリス型分離膜構造体10の斜視図である。
図2は、モノリス型分離膜構造体100の断面図である。
【0013】
モノリス型分離膜構造体100は、モノリス型基材200と、分離膜300とを備える。
【0014】
モノリス型基材200は、基材本体210と、第1シール部220と、第2シール部230とを有する。
【0015】
基材本体210は、多孔体である。基材本体210は、円柱状に形成される。長手方向における基材本体210の長さは150〜2000mmとすることができ、短手方向における基材本体210の直径は30〜220mmとすることができるが、これに限られるものではない。基材本体210は、第1端面210aと、第2端面210bと、側面210cと、複数の貫通孔210dとを有する。第1端面210aは、第2端面210bの反対に設けられる。側面210cは、第1端面210aと第2端面210bに連なる。貫通孔210dは、第1端面210aから第2端面210bまで基材本体210を貫通する。貫通孔210dの断面形状は円形である。貫通孔210dの内径は1〜5mmとすることができるが、これに限られるものではない。
【0016】
第1シール部220は、第1端面210aの全面と側面210cの一部を覆う。第1シール部220は、後述するセルCに流入する濾過対象である混合流体が第1端面210aから基材本体210に直接入り込むことを抑制する。第1シール部220は、セルCの流入口を塞がないように形成される。第1シール部220を構成する材料としては、ガラスや金属などを用いることができるが、基材本体210の熱膨張係数との整合性を考慮するとガラスが好適である。
【0017】
第2シール部230は、第2端面210bの全面と側面210cの一部を覆う。第2シール部230は、セルCから流出する流体が第2端面210bから基材本体210に入り込むことを抑制する。第2シール部230は、セルCの流出口を塞がないように形成される。第2シール部230は、第1シール部220と同様の材料によって構成することができる。
【0018】
分離膜300は、複数の貫通孔210dの内表面に形成される。分離膜300は、円筒状に形成されている。分離膜300の内側には混合流体が通過するセルCが形成される。分離膜300は、例えばガス分離膜、PV(Pervaporation)膜及びVP(Vapor Permeation)膜として用いられる。
【0019】
ここで、
図3は、
図2の部分拡大図である。基材本体210は、押出基材層211と、支持層212とを有する。
【0020】
押出基材層211は、モノリス構造を有する。押出基材層211は、多孔質材料によって構成される。押出基材層211の多孔質材料としては、セラミックス、金属、樹脂などを用いることができ、特に多孔質セラミックス材料が好適である。多孔質セラミックス材料の骨材粒子としては、アルミナ(Al
2O
3)、チタニア(TiO
2)、ムライト(Al
2O
3・SiO
2)、セルベン及びコージェライト(Mg
2Al
4Si
5O
18)などを用いることができ、入手容易性と坏土安定性と耐食性を考慮すると特にアルミナが好適である。押出基材層211は、多孔質材料に加えて、無機結合材を含んでいてもよい。無機結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも一つを用いることができる。押出基材層211の気孔率は、25%〜50%とすることができる。押出基材層211の平均細孔径は、5μm〜25μmとすることができる。押出基材層211を構成する多孔質材料の平均粒径は、10μm〜100μmとすることができる。
【0021】
なお、本実施形態において、「平均粒径」とは、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いた断面微構造観察によって測定される30個の測定対象粒子の最大直径の算術平均値である。
【0022】
支持層212は、押出基材層211と分離膜300の間に配置される。支持層212は、分離膜300を支持する。支持層212は、第1中間層212aと、第2中間層212bと、表層212cとを含む。第1中間層212a、第2中間層212b及び表層212cは、セルCの中心軸に垂直な方向(以下、径方向という。)において、押出基材層211上に順次積層されている。
【0023】
第1中間層212aは、押出基材層211の内表面上に形成される。第1中間層212aは、多孔質材料によって構成される。第1中間層212aの多孔質材料としては、押出基材層211で用いられる多孔質材料を用いることができる。第1中間層212aの多孔質材料は、押出基材層211の多孔質材料と同種であってもよいし異種であってもよい。第1中間層212aは、押出基材層211で用いられる無機結合材を含んでいてもよい。第1中間層212aの無機結合材は、押出基材層211の無機結合材と同種であってもよいし異種であってもよい。後述するように、第1中間層212aは、有機バインダ(溶媒)を含むスラリーを用いた濾過法によって作製される。
【0024】
第1中間層212aの気孔率は、15%〜70%とすることができる。第1中間層212aの平均細孔径は、押出基材層211の平均細孔径よりも小さくてもよい。第1中間層212aの平均細孔径は、0.005μm〜2μmとすることができる。第1中間層212aを構成する多孔質材料の平均粒径は、押出基材層211を構成する多孔質材料の平均粒径よりも小さくてもよい。第1中間層212aを構成する多孔質材料の平均粒径は、0.1μm〜5μmとすることができる。径方向における第1中間層212aの厚みは、50μm〜300μmとすることができる。
【0025】
第2中間層212bは、第1中間層212aの内表面上に形成される。第2中間層212bは、多孔質材料によって構成される。第2中間層212bの多孔質材料としては、押出基材層211で用いられる多孔質材料を用いることができるが、骨材粒子としてアルミナを含有していることが好ましい。第2中間層212bは、押出基材層211で用いられる無機結合材を含んでいてもよい。後述するように、第2中間層212bは、有機バインダを含むスラリーを用いた濾過法によって作製される。
【0026】
第2中間層212bの気孔率は、15%〜70%とすることができる。第2中間層212bの平均細孔径は、第1中間層212aの平均細孔径よりも小さくてもよい。第2中間層212bの平均細孔径は、0.001μm〜0.5μmとすることができる。第2中間層212bを構成する多孔質材料の平均粒径は、第1中間層212aを構成する多孔質材料の平均粒径よりも小さくてもよい。第2中間層212bを構成する多孔質材料の平均粒径は、0.05μm〜1.0μmとすることができる。第2中間層212bがアルミナを含有している場合、アルミナの平均粒径は、0.4μm〜3μmであることが好ましく、1μm以下であることがより好ましい。径方向における第2中間層212bの厚みは、2μm〜80μmとすることができる。第2中間層212bがアルミナを含有している場合、第2中間層212bの厚みは、5μm〜80μmであることが好ましく、10μm〜40μmであることがより好ましい。
【0027】
表層212cは、第2中間層212bの内表面上に形成される。表層212cは、支持層212のうち分離膜300を形成するための最内層である。表層212cは、多孔質材料によって構成される。表層212cの多孔質材料としては、押出基材層211で用いられる多孔質材料を用いることができるが、骨材粒子としてアルミナ及びチタニアの少なくとも一方を含有していることが好ましい。表層212cは、押出基材層211で用いられる無機結合材を含んでいてもよい。表層212cに使用するスラリーは、ボールミル、ビーズミル等により解こうすることが好ましい。表層212cの構成材料は、第2中間層212bの構成材料と同じであってもよいし異なっていてもよい。表層212cの構成材料が第2中間層212bの構成材料と同じであれば、表層212cと第2中間層212bは一体となり両者の間に界面は形成されない。後述するように、表層212cは、有機バインダを含まないスラリーを用いた流下法によって作製される。
【0028】
表層212cの気孔率は、15%〜70%とすることができる。表層212cの平均細孔径は、第2中間層212bの平均細孔径以下であってもよい。表層212cの平均細孔径は、0.001μm〜0.5μmとすることができる。表層212cを構成する多孔質材料の平均粒径は、0.01μm〜0.5μmとすることができる。表層212cがアルミナを含有している場合、アルミナの平均粒径は0.03μm〜1μmであることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。径方向における表層212cの厚みは、1μm〜10μmとすることができる。
【0029】
ここで、表層212cは、分離膜300と接する内表面212Sを有する。内表面212Sは、支持層212の最内面である。内表面212Sの表面粗さRaは、1.0μm以下であることが好ましく、0.7μm以下であることがより好ましい。内表面212Sの表面粗さRaは、SEMを用いて取得される25μm範囲の表面曲線から測定することができる。
【0030】
分離膜300は、表層212cの内表面212Sに形成される。分離膜300は、無機材料や金属などによって構成されることが好ましい。分離膜300の無機材料としては、ゼオライト、炭素、シリカなどが挙げられる。分離膜300の金属材料としては、パラジウムなどが挙げられる。分離膜300がゼオライト膜である場合、LTA、MFI、MOR、FER、FAU、DDR、CHA、BEAなどの結晶構造のゼオライトを用いることができる。分離膜300がDDR型ゼオライト膜である場合、二酸化炭素を選択的に分離するためのガス分離膜として好適に用いることができる。
【0031】
径方向における分離膜300の厚みは、5μm以下であることが好ましく、1.1μm以下であることがより好ましい。分離膜300の厚みは、1箇所の断面を顕微鏡観察して得られる測定値であってもよいし、複数箇所の断面を顕微鏡観察して求められる測定値の算術平均値であってもよい。
【0032】
ここで、分離膜300は、表面300Sを有する。表面300Sの表面粗さRaは、1.0μm以下であることが好ましく、0.61μm以下であることがより好ましい。表面300Sの表面粗さRaは、JIS規格B0601で規定される算術平均粗さRaの測定方法に従い、接触式測定機によって測定可能である。
【0033】
(モノリス型分離膜構造体100の製造方法)
まず、多孔質材料を含む坏土を用いて、複数の貫通孔を有する押出基材層211の成形体を形成する。押出基材層211の成形体を形成する方法としては、真空押出成形機を用いた押出成形法のほかプレス成型法や鋳込み成型法を用いることができる。
【0034】
次に、押出基材層211の成形体を焼成(例えば、1000℃〜1550℃、1時間〜100時間)することによって、押出基材層211を形成する。
【0035】
次に、第1中間層212aの多孔質材料に有機バインダ、焼結助剤、pH調整剤、界面活性剤などを添加して第1中間層用スラリーを調製する。
【0036】
次に、第1中間層用スラリーを用いた濾過法によって第1中間層212aの成形体を形成する。具体的には、第1中間層用スラリーを押出基材層211の貫通孔に供給しながら押出基材層211の外周面からポンプで吸引することによって、押出基材層211の内表面上に第1中間層212aの成形体を形成する。
【0037】
次に、第1中間層212aの成形体を焼成(例えば、900℃〜1450℃、1時間〜100時間)することによって、第1中間層212aを形成する。
【0038】
次に、第2中間層212bの多孔質材料に有機バインダ、焼結助剤、pH調整剤、界面活性剤などを添加して第2中間層用スラリーを調製する。
【0039】
次に、第2中間層用スラリーを用いた濾過法によって第2中間層212bの成形体を形成する。具体的には、第2中間層用スラリーを第1中間層212aの内部に供給しながら押出基材層211の外周面からポンプで吸引することによって、第1中間層212aの内表面上に第2中間層212bの成形体を形成する。
【0040】
次に、第2中間層212bの成形体を焼成(例えば、900℃〜1450℃、1時間〜72時間)することによって第2中間層212bを形成する。
【0041】
次に、表層212cの多孔質材料に焼結助剤、pH調整剤、界面活性剤などを添加して、ボールミルにより解こうすることによって、有機バインダを含まない表層用スラリーを調製する。本実施形態において、「有機バインダを含まない」とは、有機バインダを全く含まない場合だけでなく、実質的に有機バインダを含まない場合も含む概念である。具体的に、表層用スラリーに含まれる有機バインダの含有率は、1wt%以下であることが好ましく、0.5wt%以下であることがより好ましい。
【0042】
次に、表層用スラリーを用いた流下法によって表層212cの成形体を形成する。具体的には、表層用スラリーを第2中間層212bの内部に自重で流下させることによって、第2中間層212bの内表面上に表層212cの成形体を形成する。流下法によって形成された表層212cの成形体の表面は、濾過法を用いる場合に比べて滑らかに形成される。
【0043】
次に、表層212cの成形体を焼成(例えば、600℃〜1450℃、1時間〜72時間)することによって表層212cを形成する。表層212cの表面粗さRaは1.0μm以下であることが好ましく、0.7μm以下であることがより好ましい。表層212cの表面粗さRaは、前工程における流下法の条件を変更することによって調整可能である。例えば、ボールミル、ビーズミル等により表層用スラリーを解こうする時間を変更することで表面粗さを変化させることができる。表層212cの表面粗さRaは、SEMを用いて取得される25μm範囲の表面曲線から測定することができる。
【0044】
次に、表層212cの内表面212Sに5.0μm以下の厚みの分離膜300を形成する。分離膜300の形成方法としては、分離膜300の種類に応じた適切な方法を用いればよい。この際、表層212cの表面粗さRaが1.0μm以下に調整されているため、分離膜300の表面粗さRaを容易に1.0μm以下とすることができる。分離膜300の表面粗さRaは、JIS規格B0601で規定される算術平均粗さRaの測定方法に従い、接触式測定機によって確認することができる。
【0045】
なお、一般的に、分離膜300の形成工程には加熱工程が含まれている。例えば、DDR型ゼオライト膜の形成工程には、流下法による種付け工程と、ゾルの水熱合成工程と、構造規定剤を除去するための加熱工程(400℃〜800℃、1時間〜200時間)が含まれている。DDR型ゼオライト膜の膜厚は、ゾルの水熱合成工程における合成時間を変更することによって調整することができる。
【0046】
また、シリカ膜の形成工程には、シリカゾル液の付着工程と、焼成工程(350℃〜600℃、1時間〜100時間)が含まれている。シリカ膜の膜厚は、これらの工程を繰り返す回数やシリカゾル液の付着方法(例えば、流下法、ディップ法、スピンコート法など)を変更することによって調整することができる。
【0047】
また、炭素膜の形成工程には、前駆体溶液の塗布工程と、熱処理工程(150℃〜250℃、1時間〜50時間)と、非酸化雰囲気での炭化工程(500℃〜600℃、1時間〜50時間)が含まれている。炭素膜の膜厚は、前駆体溶液の塗布工程を繰り返す回数や付着方法(例えば、流下法、ディップ法、スピンコート法など)を変更することによって調整することができる。
【0048】
(作用および効果)
モノリス型分離膜構造体100は、モノリス型基材200と分離膜300とを備える。分離膜300の表面粗さRaは、1.0μm以下である。従って、分離膜300の厚みを略均一化できるため、加熱工程において分離膜300の一部に熱応力が集中することを抑制できる。また、分離膜300の厚みは、5.0μm以下である。従って、分離膜300が厚すぎることによって熱応力が生じることを抑制できる。以上によって、分離膜300にクラックや剥がれが発生することを抑制することができる。
【0049】
実施形態に係るモノリス型分離膜構造体100の製造方法は、有機バインダを含むスラリーを用いた濾過法によって第1及び第2中間層212a、212bを形成する工程と、有機バインダを含まないスラリーを用いた流下法によって表層212cを形成する工程と、表層212cの内表面に5.0μm以下の厚みを有する分離膜300を形成する工程とを備える。このように、表層212cは、有機バインダを含まないスラリーを用いた流下法によって形成されるため、表層212cの表面粗さRaを1.0μm以下に抑えることができる。その結果、分離膜300の成膜性が向上され、分離膜300の厚みを5.0μm以下としながら分離膜300の表面粗さRaを1.0μm以下に抑えることができる。
【0050】
(その他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0051】
(A)上記実施形態において、支持層212は、第1中間層212aと、第2中間層212bと、表層212cとを含むこととしたが、第1中間層212aと第2中間層212bの一方のみを含んでいてもよい。
【0052】
(B)上記実施形態において、基材本体210は、円柱状に形成されることとしたが、多角柱状や楕円柱状に形成されていてもよい。
【0053】
(C)上記実施形態において、貫通孔210d及びセルCの断面形状は円形であることとしたが、多角形や楕円形などであってもよい。
【0054】
(D)第1シール部220及び第2シール部230のそれぞれは、側面210cの一部を覆うこととしたが、側面210cを覆っていなくてもよい。
【実施例】
【0055】
以下において本発明に係るモノリス型基材の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0056】
(サンプルNo.1〜12の作製)
以下のようにして、サンプルNo.1〜12を作製した。
【0057】
まず、平均粒径50μmのアルミナ粒子100質量部に対して無機結合材20質量部を添加し、さらに、水、分散剤及び増粘剤を加えて混練することによって坏土を作製した。
【0058】
次に、坏土を押出成形することによって、複数の貫通孔を有する押出基材層の成形体を形成した。
【0059】
次に、押出基材層の成形体を焼成(1250℃、1時間)した。押出基材層の断面をSEMによって観察して、30個の粒子それぞれの最大直径の算術平均値を平均粒径として算出した。押出基材層の平均粒径を表1にまとめて示す。
【0060】
次に、第1中間層と第2中間層と表層によって構成される支持層を形成した。まず、アルミナとチタニアにPVA(有機バインダ)を添加して第1中間層用スラリーを調製し、第1中間層用スラリーを用いた濾過法によって貫通孔の内表面に第1中間層の成形体を形成した。続いて、第1中間層の成形体を焼成(1250℃、2時間)して第1中間層を形成した。
【0061】
次に、アルミナにPVA(有機バインダ)を添加して第2中間層用スラリーを調製し、第2中間層用スラリーを用いた濾過法によって第1中間層の内表面に第2中間層の成形体を形成した。続いて、第2中間層の成形体を焼成(1250℃、1時間)して第2中間層を形成した。
【0062】
次に、表1に示す材料(サンプルNo.1〜9,11,12ではアルミナ、サンプルNo.10ではチタニア)に有機バインダを添加せずに表層用スラリーを調製し、表層用スラリーを用いた流下法によって第2中間層の内表面に表層の成形体を形成した。この際、表層の内表面の表面粗さを調整するために、ボールミルによって表層用スラリーを解こうする時間をサンプルごとに変更して平均粒径を調整した。
【0063】
次に、表層の成形体を焼成(サンプルNo.1〜9,11,12では1250℃で1時間、サンプルNo.10では950℃で1時間)して表層を形成した。サンプルNo.1〜12では、支持層のうち表層が分離膜を形成するための最内層となっている。表層の断面SEM画像を観察して、30個の粒子それぞれの最大直径の算術平均値を平均粒径として算出した。表層(支持層の最内層)の平均粒径を表1にまとめて示す。
【0064】
次に、表層の内表面に分離膜を形成した。サンプルNo.1〜10では、分離膜としてDDR型ゼオライト膜を形成した。サンプルNo.1〜10では、ゾルの水熱合成時間を変更することによって、DDR型ゼオライトの厚みを表1に示す通りサンプルごとに異ならせた。また、サンプルNo.11では、以下のようにして分離膜として炭素膜を形成した。
【0065】
まず、フェノ一ル樹脂を有機溶媒に混合及び溶解させることによって前駆体溶液を得た。次に、ディップコーティング法によって、前駆体溶液を表層の内表面に成膜した。次に、成膜された前駆体溶液の表面に熱処理(300℃、1時間)によって前駆体であるポリイミド樹脂を配設した。その後、ポリイミド樹脂を熱処理(非酸化雰囲気下、600℃、5時間)することによって炭素膜を形成した。また、サンプルNo.12では分離膜としてシリカ膜を形成した。テトラエトシキシランを硝酸の存在下で加水分解したゾル液をエタノールで希釈した前駆体溶液(シリカゾル液)をセルに流し込み、80℃で乾燥させて表層の内表面に成膜した。その後、100℃/時にて昇温し、500℃で1時間保持した後、100℃/時で降温した。このような流し込み、乾燥、昇温、降温の操作を3〜5回繰り返すことによってシリカ膜を形成した。
【0066】
(サンプルNo.13〜20の作製)
上述したサンプルNo.1〜12と同様の工程を経てサンプルNo.13〜20を作製した。ただし、サンプルNo.13〜20では、支持層のうち表層を形成しなかった。従って、サンプルNo.13〜20では、支持層のうち第2中間層が分離膜を形成するための最内層となっている。第2中間層(支持層の最内層)の平均粒径及び材質と分離膜の膜種及び平均膜厚を表1にまとめて示す。
【0067】
(支持層の最内層の表面粗さRa)
サンプルNo.1〜No.20について、支持層のうち最内層の断面をSEMで観察することによって、分離膜と接触する内表面の表面粗さRaを25μm範囲で測定した。測定結果を表1に示す。
【0068】
(分離膜の表面粗さRa)
サンプルNo.1〜No.20の分離膜について、JIS規格B0601に従い、接触式測定機によって表面粗さRaを測定した。測定結果を表1に示す。
【0069】
(分離膜の分離性能)
サンプルNo.1〜10,13〜18に係るDDR型ゼオライト膜の分離係数を求めた。具体的には、二酸化炭素(CO
2)とメタン(CH
4)の混合ガス(各ガスの体積比を50:50とし、各ガスの分圧を0.2MPaとした。)をセル内に導入し、DDR型ゼオライト膜を透過したガスを回収した。そして、ガスクロマトグラフを用いて、回収したガスの成分分析を行い、「分離係数α=(透過CO
2濃度/透過CH
4濃度)/(供給CO
2濃度/供給CH
4濃度)」の式により分離係数を算出した。
【0070】
また、サンプルNo.11,19に係る炭素膜とサンプルNo.12,20に係るシリカ膜の分離係数を求めた。具体的には、水とエタノールの混合液をセル内に導入し、炭素膜又はシリカ膜を透過した液を回収した。そして、ガスクロマトグラフを用いて、回収した液の成分分析を行い、「分離係数α=(透過水の濃度(質量%)/透過エタノールの濃度(質量%))/(供給水の濃度(質量%)/供給エタノールの濃度(質量%))」の式により分離係数を算出した。算出された分離係数を表1に示す。分離係数が大きいほど、分離膜の分離性能は高いといえる。
【0071】
(ガス透過量に基づく欠陥量の測定)
分離膜の細孔径以上の分子径を有するガスをセル内に導入し、ガス透過量から分離膜の欠陥を調べた。具体的には、サンプルNo.1〜10,13〜18のセル内に四フッ化メタンを0.1MPaで供給し、セルから四フッ化メタンが0.5cc漏れるまでの時間に基づいて、DDR型ゼオライト膜における四フッ化メタンの透過量を算出した。
【0072】
また、サンプルNo.11,12,19,20のセル内に六フッ化硫黄を0.1MPaで供給し、セルから六フッ化硫黄が0.5cc漏れるまでの時間に基づいて、炭素膜又はシリカ膜における六フッ化硫黄の透過量を算出した。算出された透過量を表1に示す。透過量が少ないほど、分離膜の欠陥が少ないといえる。
【0073】
(染色液による欠陥観察)
サンプルNo.1〜20について、ローダミンB0.1%をエタノールに溶かした溶液をセル内に導入して1〜30秒程度浸漬し、水で洗い流した。その後、乾燥させた分離膜におけるクラックの発生状況を目視にて確認した。確認結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示すように、サンプルNo.1〜7,9〜12では、膜種に関わらず分離膜におけるクラックの発生を抑えることができたため、分離性能を向上させることができた。このような結果が得られたのは、分離膜の表面粗さRaを1.0μm以下とするとともに膜厚を5.0μm以下とすることによって、分離膜に局所的な熱応力が発生することを抑制できたためである。
【0076】
また、表1に示すように、分離膜の表面粗さRaを1.0μm以下とするには、支持層のうち最表層の表面粗さRaを1.0μm以下とすることが好ましいこと、及び支持層のうち最表層を流下法によって形成することが好ましいことがわかった。
【0077】
また、表1に示すように、分離膜の表面粗さRaが0.61μm以下かつ膜厚が1.1μm以下であるサンプルNo.5〜7,9,10では、分離係数を特に向上させることができた。