(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鏡筒と、前記鏡筒の内側に前記鏡筒の軸方向に並んで設けられる複数のレンズと、前記鏡筒の一方の端部に配置される光学フィルタとを備え、前記鏡筒の最も他方の端部側に配置される前記レンズの外周面と前記鏡筒内周面との間がシールされているレンズユニットであって、
前記鏡筒の像側の端部には、縮径部が前記鏡筒の内周面から内側に向かって設けられ、
前記縮径部の物体側において、前記複数のレンズのうちの最も像側のレンズを受け、前記縮径部の像側において、前記光学フィルタが配置され、
前記鏡筒の前記一方の端部の端面の内側に、前記端面との間に段差を介して前記端面より他方の端部に近い接着面が前記縮径部の像側に設けられ、
この接着面に前記光学フィルタの周縁部が接着され、
前記端面の前記段差に沿って並ぶ複数箇所に、前記接着面に繋がる底面を備え、かつ、接着剤を前記接着面と前記光学フィルタの前記周縁部との間に入り込ませるために前記接着剤が入れられる凹部が設けられ、
前記接着面の隣り合う二つの前記凹部の間には、前記光学フィルタが接着された状態で前記鏡筒の内部と外部とを連通させる連通溝が設けられていることを特徴とするレンズユニット。
前記鏡筒が樹脂成形により設けられ、前記凹部の少なくとも一部に前記樹脂成形時にゲートを切り離したことにより形成されたゲート痕が配置されていることを特徴とする請求項1に記載のレンズユニット。
前記鏡筒が樹脂成形により設けられ、前記凹部とは別に、前記樹脂成形時にゲートを切り離したことにより形成されたゲート痕が配置されているゲート痕用凹部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のレンズユニット。
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のレンズユニットを備えるとともに、前記レンズユニットにより結像された画像を撮像する撮像素子を備えることを特徴とするカメラモジュール。
【背景技術】
【0002】
近年、カーナビ等のために車にモニタが搭載されることから、例えば、バックモニタシステムとして、車両のバックに搭載された車載カメラが撮影した映像をモニタに表示することが行われている。また、このカメラをバックだけではなく、車両の前後左右に備え、車両の周囲を見渡せるような画像を略リアルタイムで合成してモニタに表示するようなシステムも開発されている。
【0003】
このような車載カメラのレンズユニットは、広角のレンズユニットとなるとともに、物体側となる先端部が車両の外に出た状態となるので、強度、防水性、耐薬品性、高温耐性等が要求される。また、温度変化に対するレンズの曇りを防止する必要がある。
例えば、レンズの曇り防止等のために密閉構造にした車載カメラ用のレンズユニットが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このレンズユニットにおいては、筒状の鏡筒に一群のレンズとして、例えば、4枚のレンズが略鏡筒内に光軸方向に重ねて配置され、最も物体側のレンズと鏡筒との間がシール材としてのOリングにシールされている。また、最も像側(撮像素子側)では、光学フィルタまたは最も像側に配置されるレンズと鏡筒とが接着剤により固定されることにより、硬化した接着剤がシール材として機能している。
【0005】
これにより、鏡筒の物体側のシールと像側のシールとにより鏡筒内が気密された状態となっており、温度変化による鏡筒内のレンズの曇りの発生が防止されている。なお、フィルタは、例えば、所定波長域の光をカットするものなどを含む光学フィルタであり、前記特許文献1に例示されているフィルタは、赤外線カットフィルタである。一般的なデジタルカメラにおいては、撮像素子が可視光だけではなく赤外線にも感度を有することから、赤外線カットフィルタを配置することによりノイズの低減を図ったり、画像の赤味が強くなるのを抑制したりしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、接着剤からはアウトガスが生じることが知られており、上述のように接着剤で最終的に密閉する構造とすると、硬化する接着剤から放出されるアウトガスの鏡筒内からの逃げ場がなくなり、例えば、赤外線カットフィルタがアウトガスにより曇ってしまう虞があった。
【0008】
上述の特許文献1では、鏡筒内部の気密状態を検査するために用いる連通路が設けられている。この連通路は、シールされている鏡筒内部と鏡筒外部とを連通するように、鏡筒の内周面と外周面との間を貫通する孔として形成されている。この連通路は、気密状態の検査後に閉塞される。この場合に、連通路が鏡筒の内外を貫通した状態にしばらく保持されるので、連通路からアウトガスが外部に出る可能性があり、赤外線カットフィルタのアウトガスによる曇りを防止できる可能性がある。
【0009】
しかし、筒状の鏡筒の中央部に外周面から内周面に貫通して連通路が設けられることから、製造が煩雑になり、鏡筒の製造コストが高くなる虞がある。例えば、樹脂成形により鏡筒を製造する場合に、金型の構造が複雑になり、成形においても真円度、同軸度等の機械的精度が低下する。これにより、製造コストが増加する。また、成形後に貫通孔を設ける場合には、製造工程が増えることになり、コストが増加する。
【0010】
また、鏡筒の像側(撮像素子側)の端部の取り付け部に赤外線カットフィルタ等の光学フィルタを取り付ける作業も接着剤の塗布や、フィルタの貼り付け等の作業にコストがかかる。また、鏡筒を例えば射出成形により製造する場合に、ゲート痕の処理等を考慮する必要がある。例えば、ゲート痕が撮像素子側に突出するのを防止するためにゲート痕をカットすると鏡筒の製造工程が増加し、コスト増となる。また、上述のように車載カメラとして必要とされる強度を持たせるために、鏡筒にガラス繊維強化樹脂等の繊維強化樹脂を用いた場合に、ゲートを切断したゲート痕から繊維の断片が落下する虞があり、それが撮像素子側だと、繊維の断片が撮影に悪影響を与える虞がある。特に、撮像素子は高解像度化の傾向にあり、今後車載カメラの撮像素子が順次高解像度化された場合に、繊維の断片による影響が深刻化する虞がある。
【0011】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、鏡筒への光学フィルタの接着剤による接着に際し、接着面に連通溝を設けることにより、接着剤のアウトガスによる曇りの防止を低コストに行うことができるレンズユニットおよびカメラモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のレンズユニットは、鏡筒と、前記鏡筒の内側に前記鏡筒の軸方向に並んで設けられる複数のレンズと、前記鏡筒の一方の端部に配置される光学フィルタとを備え、前記鏡筒の最も他方の端部側に配置される前記レンズの外周面と前記鏡筒内周面との間がシールされているレンズユニットであって、
前記鏡筒の前記一方の端部の環状の端面の内側に、前記端面との間に段差を介して前記端面より他方の端部に近い環状の接着面が設けられ、
この接着面に前記光学フィルタの周縁部が接着され、
前記端面の複数箇所に、前記接着面に繋がる底面を備え、かつ、接着剤を前記接着面と前記光学フィルタの前記周縁部との間に入り込ませるために前記接着剤が入れられる凹部が設けられ、
前記接着面には、前記フィルタが接着された状態で前記鏡筒の内部と外部とを連通させる連通溝が設けられていることを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、例えば、鏡筒を一方の端部を上にして立てた状態で、環状の接着面と、光学フィルタの環状の周縁部とが重なるように、鏡筒に光学フィルタを載せ、前記凹部に接着剤を入れることにより、光学フィルタの周縁部と接着面との間の狭い隙間に液体である接着剤が毛細管現象により入り込んでいくことになる。これにより、光学フィルタの鏡筒への接着を容易なものにできるとともに、適量の接着剤を凹部に注入すれば、鏡筒と光学フィルタが接着されるので接着作業を容易とすることができる。
【0014】
また、他端部側のレンズと鏡筒がシールされた状態で、一端部側で端面の内側の環状の接着面に光学フィルタの環状の周縁部を接着することによって、一方の端部も接着剤にシールされて鏡筒内が気密になり、接着剤から発生するアウトガスの逃げ場がなくなるのを、連通溝により防止できる。すなわち、光学フィルタを鏡筒の一端部側に貼っても、連通溝によりアウトガスが外部に出ることが可能になっている。なお、連通溝を後で閉塞するようにした場合に、光学フィルタの接着からアウトガスが外部に出る程度の時間が経過した後に連通溝を閉塞することが好ましい。
【0015】
また、鏡筒の一方の端部の接着面に連通溝を設けているので、鏡筒に貫通孔を設ける場合に対して、連通溝を樹脂成形時に設けるものとしても、金型が複雑になったり、真円度、同軸度等の成形精度を損ねたりすることなく、低コストに鏡筒を成形することができる。
【0016】
ここで、接着面に接着剤を塗布した後に、光学フィルタを貼り付ける場合には、接着面に接着剤を塗布した際に、連通溝の断面積や断面形状によるが、連通溝が接着剤で埋まってしまう可能性が高く、光学フィルタの接着後にアウトガスを逃がすことができない。
【0017】
また、連通溝の断面積を大きくすれば、連通溝が接着剤により埋まることはないが、大きな断面積の連通溝を設けた場合に、温度変化に基づく曇り防止のために確実に連通溝を閉塞する必要がある。
【0018】
それに対して、上述のように凹部から接着面と光学フィルタの周縁部との間に毛細管現象により接着剤を拡がらせる場合に、連通溝の部分で光学フィルタと接着面との間の間隔が明らかに広くなることにより、接着剤の液の拡がりが停止し、連通溝内に接着剤が流入せず、連通溝が接着剤で埋まることがない。
【0019】
なお、接着面の濡れ性や、連通溝の断面積および断面形状や、接着剤の粘性等の液としての性質などの組み合わせによっては、連通溝に接着剤が流入することも有り得るので、実験的に接着剤が連通溝に流入して連通溝を埋めてしまわないことを確認することが好ましい。また、連通溝に接着剤が流入し難い構造として、複数の前記凹部から環状の接着面の周方向に沿って、できるだけ遠い位置に連通溝を配置することが好ましい。例えば、複数の凹部が周方向に沿って等間隔で並んで配置されている場合に、隣り合う2つの凹部の間の中央に連通溝が配置されることが好ましい。
【0020】
また、この場合に連通溝の断面積をある程度小さくしても、連通溝が接着剤に埋まらないので、鏡筒内で発生した接着剤のアウトガスは、その発生場所の近傍にある連通溝から押し出されるように排出されるが、連通溝の断面積が小さいことにより、鏡筒の内外での空気の動きが抑制されることになり、連通溝を閉塞しなくても、ある程度、温度差によるレンズの曇りを防止できる可能性が高い。したがって、連通溝を閉塞しない構成とすることにより、レンズユニットの製造コストの低減を図ることも可能である。
【0021】
また、接着面に繋がる凹部の底面は、接着面との間に段差がないことが好ましく、さらに接着面と同一平面にあること、すなわち、面一となっていることが好ましい。なお、凹部内に接着剤を注入した際に、円滑に接着面と光学フィルタの周縁部との間に接着剤が拡がるように入り込むことが可能ならば、接着面と凹部の底面との間に多少の段差や傾斜があってもよい。
【0022】
本発明の前記構成において、前記鏡筒が樹脂成形により設けられ、前記凹部の少なくとも一部に前記樹脂成形時にゲートを切り離したことにより形成されたゲート痕が配置されていることが好ましい。
【0023】
このような構成によれば、筒状の鏡筒を射出成形等の樹脂成形で製造する際に、成形後にゲートが切り離される場合に、ゲートより成形された製品側(鏡筒本体側)でゲートを切り取らない限りは、ゲート痕が残ることになる。なお、ゲートを完全に切り取る場合には、製造コストが増加する。
【0024】
このゲート痕が凹部に配置されることにより、ゲート痕が凹部の深さより短ければ、鏡筒の一方の端部の端面よりゲート痕が突出するのを防止できる。例えば、鏡筒の一方の端部が撮像素子を備えるマウンタにマウントされる場合にゲート痕が邪魔になるのを防止できる。したがって、ゲートを鏡筒から完全に切り離す必要がなく、製造コストの低減を図ることができる。
【0025】
また、本発明の前記構成において、前記鏡筒が樹脂成形により設けられ、前記凹部とは別に、前記樹脂成形時にゲートを切り離したことにより形成されたゲート痕が配置されているゲート痕用凹部が設けられていることが好ましい。
【0026】
このような構成によれば、ゲート痕用凹部が接着剤を注入するための凹部とは、別に形成されるが、成形時に形成される凹部なので、鏡筒の製造コストが増加することがない。なお、ゲート痕用凹部は、接着面と光学フィルタとの間に接着剤を入り込ませる必要はないので、例えば、接着面と底面とが面一で繋がっている必要はない。
【0027】
また、本発明の前記構成において、前記ゲート痕用凹部には、接着剤が入れられていることが好ましい。
【0028】
このような構成によれば、ゲート痕から樹脂の添加物や粉塵が落下するのを接着剤の硬化により防止できる。また、樹脂としてガラス繊維強化樹脂等の繊維強化樹脂を用いている場合に、ゲート痕からの繊維断片の落下を防止できる。この場合に、繊維断片等がマウンタ側の特に撮像素子のある部分に入り込んで、シミや影となって像に写り込むなど撮影に悪影響を及ぼすことを防止できる。
【0029】
また、本発明の前記構成において、前記連通溝に、この連通溝を塞ぐ閉塞部材が設けられていることが好ましい。
【0030】
このような構成によれば、連通溝により鏡筒内部のアウトガスを排出させた後に、連通溝を塞ぐことにより、鏡筒内を気密にして、鏡筒の内側に温度差等により析出する水分等によって、鏡筒内のレンズが曇るのをより確実に防止できる。また、連通溝を閉塞する前に鏡筒内部の空気を窒素置換するなどして、酸素のない状態とすることにより、100℃以上の高温環境下に長時間曝された際に、内部のレンズとして樹脂レンズを用いている場合に、樹脂レンズが酸素により酸化して黄変等の劣化が発生するのを防止できる。
【0031】
本発明のカメラモジュールは、前記構成のレンズユニットを備えるとともに、前記レンズユニットにより結像された画像を撮像する撮像素子を備えることを特徴とする。
【0032】
このような構成によれば、カメラモジュールは、上述の各レンズユニットのいずれか1つと同様の作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、鏡筒の他端側でシールされるとともに、一端側で光学フィルタが接着剤で接着されて鏡筒が閉塞されることにより、鏡筒内に封じ込められる可能性があるアウトガスを排出するために、光学フィルタを接着する接着面に、鏡筒の内外に連通する連通溝を設けたので、低コストで鏡筒内のアウトガスを排出させる構造とすることができる。また、凹部から接着面と光学フィルタとの間に毛細管現象で接着剤が行き渡るようにしたので、連通溝に光学フィルタを接着するための接着剤が流入するのを防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
図1から
図6に示すように、この実施の形態のレンズユニットは、鏡筒1と、鏡筒1内に配置される複数(4枚)のレンズ2,3,4,6と、鏡筒1のレンズ2,3,4,6が像を結ぶ(結像)側(撮像素子が配置される側)の一方の端部に配置される光学フィルタ7と、鏡筒1の最も物体側に配置されるレンズ2の外周面と鏡筒1の内周面との間に配置されるシール部材としてのOリング8と、絞り部材9と、スペーサ(中間環)5とを備える。
【0036】
このレンズユニットは、例えば、自動車のバック側や、自動車の周囲を撮影するために、少なくとも物体側のレンズ2を自動車の車外に露出させた状態で配置される車載カメラに用いられる広角のレンズユニットである。
前記鏡筒1は、ナイロン系の樹脂をガラス繊維で強化したものである。このナイロン系の樹脂とは、一般に脂肪族骨格を含むポリアミドである。この樹脂は、耐薬品性に優れるとともに、優れた強靭性、耐衝撃性、柔軟性を示し、さらに、ガラス繊維など複合材との親和性も高くエンジニアリングプラスチックとして扱いやすものである。しかし、吸水率が高く、吸水すると膨張するので、できるだけ吸水率の低いポリアミド系樹脂を用いることが好ましい。そこで、吸水率が低減されたポリアミド樹脂である、例えば、レニー(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製)を用いてもよい。
【0037】
また、鏡筒1は、その内側に鏡筒1の軸方向に沿って1つのレンズ群を構成する4枚のレンズ2,3,4,6が並べて配置される。また、鏡筒1の軸方向と略一致するように各レンズ2,3,4,6の光軸方向が配置されている。鏡筒1の一方の端部が結像側として撮像素子に向いて配置され、他方の端部が物体側として撮影対象を向いて配置される。
【0038】
鏡筒1に対してレンズ2,3,4,6と絞り部材9とスペーサ5は、物体側から結像側に向かって順番に挿入されて設置されるようになっている。なお、物体側から2番目のレンズ3と3番目のレンズ4との間に絞り部材9が配置され、物体側から3番目のレンズ4と4番目のレンズ6との間にスペーサ5が配置されている。鏡筒1にレンズ2,3,4,6を設置する際には、レンズ2,3,4,6、絞り部材9、スペーサ5を結像側からの順で、鏡筒1内に物体側の端部から挿入していく。
【0039】
また、各レンズ2,3,4,6およびスペーサ5の径は、物体側から結像側への配置順に従って小さくなっている。それに対して、鏡筒1の内周側は、径の異なる複数(5つ)の設置部11〜15が設けられている。設置部11,12,13,15がレンズ2,3,4,6用のレンズの設置部11,12,13,15であり、設置部14がスペーサ5の設置部である。
【0040】
各設置部11〜15は、その内径が、鏡筒1の物体側から結像側に向かって小さくなるようになっている。また、物体側から2番目のレンズ3が物体側の大径部と結像側の小径部とからなっているのに対応して、レンズ3が設置される設置部12は、大内径部と小内径部とからなる。
【0041】
また、最も物体側の設置部11は、その内周面が円筒状であるが、それ以外の設置部12〜15は、内周面が8角形以上多角形筒状になっている。なお、スペーサ5の設置部14は、内周面が円形でも多角形でもよい。
また、各設置部12〜15は、レンズ3〜6が挿入される物体側の端部に内径が拡げられたレンズ導入部が設けられるとともに、それより結像側は内径が一定の筒状になっている。
【0042】
また、最も物体側の設置部11は、物体側の端部が熱カシメ部17となっており、4枚のレンズ2,3,4,6を鏡筒1内に設置した後に、熱カシメ部17が熱を加えて加締められているので、レンズ2,3,4,6が鏡筒1の物体側の端部の開口から出ることがないように収容されているとともに結像側に押さえ付けられている。
【0043】
また、鏡筒1の結像側の端部の開口には、鏡筒1の最も結像側の設置部15の結像側に隣接して環状で板状の縮径部18が鏡筒1の内周面から内側に突出するように設けられ、この部分の内径が最も結像側のレンズ6の外径に対して狭くなっており、最も結像側のレンズ6がこの縮径部18により鏡筒1の結像側の端部から出ないように支持された状態となっている。したがって、縮径部18と、熱カシメ部17との間に4枚のレンズ2,3,4,6が移動できないように鏡筒1の内側に支持されている。
【0044】
また、鏡筒1の最も物体側の設置部11の内周面と、最も物体側のレンズ2の外周面の径が小さくなった小径部との間に上述のOリング8が配置されている。このOリング8により、鏡筒1の物体側の端部において、鏡筒1の内周面と最も物体側のレンズ2の外周面との間がシールされている。
【0045】
鏡筒1の物体側の端部に設けられた熱カシメ部17より少し結像側に鏡筒1で最も外径が大きくなったフランジ部19が設けられている。フランジ部19は、外側に突出した鍔状に形成され、その物体側に図示しないOリングが配置され、鏡筒1に被せた状態となる筒状の図示しないケースの内周面と鏡筒1の外周面との間をシールしており、鏡筒1とケースとの間から鏡筒1が固定されるマウンタ側への水の進入を阻止している。
【0046】
また、鏡筒1のフランジ部19の結像側に隣接して、雄ねじ部20が形成されている。この雄ねじ部20は、撮像素子を備える図示しないマウンタ側の雌ねじ部に螺合して、鏡筒1をマウンタに固定するためのものである。なお、雄ねじ部20を螺合した場合の鏡筒1の軸方向位置を調整することで、車載カメラの製造時のピント合わせが行えるようになっている。なお、フランジ部19の外周面には、鏡筒1をマウンタにねじ止めする際に治具により鏡筒1を回転させるための設定された数の凹部が等間隔に配置されている。
【0047】
鏡筒1の結像側の端部には、上述の縮径部18の部分に光学フィルタ7を接着する接着面21が設けられている。なお、鏡筒1の結像側の端面22、接着面21等の端部の構造については、後に詳細に説明する。
【0048】
一連のレンズ群を校正するレンズ2,3,4,6のうちの最も物体側のレンズ2は、ガラス製であり、樹脂系のレンズより傷や熱に強いものとなっている。また、レンズ2には、物体側より結像側の外径が小さくなっており、この外径が小さい小径部に上述のOリング8が配置されるようになっている。
【0049】
このレンズ2を除く、物体側からの順番で2番目から5番目までのレンズ3〜6は、樹脂レンズであり、例えば、非結晶ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂等からなり、射出成形により製造されている。また、レンズ3,4,6は、その外周面にゲート痕3a,4a,6aが残っている。
【0050】
前記光学フィルタ7は、例えば、外光の特定の周波数成分を除去する目的でガラスに多層膜を蒸着させたものであり、この実施の形態では、光学フィルタ7が、赤外線カットフィルタ(赤外線除去フィルタ)とされている。
なお、光学フィルタ7は、上述のように特定の周波数成分を除去するものならば、赤外線カットフィルタに限られるものではない。
【0051】
例えば、光学フィルタ7として、可視光帯域の光を透過し、可視光帯域に隣接する第1の近赤外帯域の光を遮断し、さらに第1の近赤外帯域よりも長波長の第2の近赤外帯域の光を透過する光学フィルタを用いてもよい。この光学フィルタによれば、第2の近赤外波長帯域を、夜間撮影の際に補助的に使用される赤外線照明の出力波長(例えば880nm等)に合わせることにより、昼間は、第2の近赤外帯域を除く赤外帯域の光が遮断され良好に撮影が可能であり、夜間にも、光学フィルタを透過する第2の近赤外帯域を利用した赤外線照明の光によって撮影が可能になる。
【0052】
Oリング8は、上述のように最も物体側のレンズ2の円筒状の外周面と、鏡筒1の最も物体側の設置部11の円筒状の内周面との間をシールするシール部材である。このOリング8の材質は、例えば、NBR(ニトリルゴム)、EPDM(エチレンピロピレンゴム)、FKM(ふっ素ゴム)、CR(クロロプレンゴム)、VMQ(シリコーンゴム)、UR(ポリウレタンゴム)、NR(天然ゴム)、ACM(アクリルゴム)等を好適に用いることができる。
【0053】
絞り部材9は、環状の遮光シートであり、隣り合うレンズ3とレンズ4とによって固定されて通過光の範囲を制限するためのものである。絞り部材9の主な材料は、例えば、PET(延伸ポリエステル)等のプラスチック材及びカーボンブラックである。なお、縮径部18が絞り部材9と同様の機能を有するものとしてもよい。
【0054】
スペーサ5は、光量絞りとして機能し、通過する光量を制御してレンズユニットとしてのF値を決定するものであり、主光線がスペーサ5の中心を通過し、物体側と像(結像)側の光線が絞りを境に反転する共役点の役目を担うものである。このスペーサ5の部分で最も通過光線が絞られることになる。また、スペーサ5は、スペーサとしてレンズ4とレンズ6の光軸方向の間隔を所定の間隔に保つようになっている。このスペーサ5の材質は、光を遮光する例えば黒色ポリカーボネートを用いることができる。
【0055】
このようなレンズユニットは、上述の撮像素子を備えるとともに、鏡筒1がねじ止めされるマウンタと、鏡筒1の外周を覆う上述のケースと合わせてカメラモジュールを構成するようになっている。このカメラモジュールが車両に取り付けられるとともに配線接続される。
【0056】
次に、鏡筒1の光学フィルタ7が取り付けられる結像側の端面22および接着面21を備える端部(一方の端部)の構造について説明する。
鏡筒1の結像側の端部には、縮径部18が内側に向かって突出した状態に形成されている。縮径部18の外周側は鏡筒1の内周面に一体に接合された状態であり、内周側は、板体の中央部に円形の開口部を設けた形状となっている。すなわち、縮径部18は、環状で板状である。
【0057】
この縮径部18の物体側の側面は、平面とされるとともに最も結像側のレンズ6の外周部分の当接面に当接して、レンズ6を受けた状態となっている。また、縮径部18の結像側の側面は、外周縁と内周縁が円状の平面とされるとともに、円板状の光学フィルタ7の周縁部が接着される接着面21となっている。
【0058】
鏡筒1の最も結像側の面である端面2の内側に隣接して接着面21が配置されるとともに、接着面21は、端面22よりも物体側に一段引き込んだ形状となっており、接着面21と端面22との間に段差面23が円状に設けられている。すなわち、接着面21の周囲に鏡筒1の軸方向に突出した状態に端面22が設けられている。
【0059】
端面22には、底面24が接着面21と繋がるように接着剤を接着面21と光学フィルタ7の周縁部との間に供給するための接着剤用凹部25が設けられている。
この凹部25は、端面22の内周側に略半円状もしくは半円より小さい弓状に形成されるとともに、接着面21と端面22との間の段差面23に開口している。これにより凹部25の底面24と接着面21とが繋がった状態になっている。また、底面24と接着面21とは、同一平面内に配置されている。
【0060】
この接着剤用凹部25は、外周縁と内周縁とが同軸上に配置される端面22の内周部に周方向に沿って等間隔に複数(3つ)設けられている。
【0061】
この接着剤用凹部25は、接着面21に光学フィルタ7の周縁部を接着する際に接着剤を接着面21と光学フィルタ7との間に供給するためのものである。例えば、接着面21を上にして鏡筒1を立てた状態で、接着面21上に光学フィルタ7を置いて、接着面21と光学フィルタ7の周縁部を重ねた状態で、接着剤を凹部25に例えば滴下すると、凹部25に入った接着剤が光学フィルタ7の外縁より光学フィルタ7と接着面21との間に毛細管現象で入り込むとともに拡がっていき、接着面21と光学フィルタ7の周縁部との間の全体に接着剤が行き渡ることになる。
【0062】
接着剤は、例えば、紫外線硬化樹脂であり、上述のように毛細管現象で円滑に接着面21と光学フィルタ7との間に拡がり、かつ、後述の連通溝27に流入しない状態となるために、粘度が1000〜3000mPa・Sであることが好ましい。なお、接着剤は、紫外線硬化樹脂に限られるものではなく、熱硬化性樹脂やその他の樹脂であってもよいが、紫外線硬化樹脂は、紫外線を照射することにより短時間で硬化するので取り扱いが容易である。
【0063】
外周縁と内周縁が同軸上の円状の接着面21には、その内周縁から外周縁まで、接着面21の半径方向に沿って連通溝27が設けられている。この連通溝27は、内側の端部が鏡筒1の内周面側に開口して鏡筒1の内側に連通しているとともに、外側の端部が段差面23で直角に曲げられて段差面23に沿って延びており、この部分で鏡筒1の外側に連通している。
【0064】
この連通溝27の外側の位置は、後述のゲート痕用凹部30が配置される位置であり、段差面23に延びた連通溝27は、ゲート痕用凹部30の底面31に開口している。
したがって、
図6に示すように、連通溝27は、光学フィルタ7の内側の側面の位置で、鏡筒1の内周面と、鏡筒1の光学フィルタ7より外側の端面部分とに開口しており、上述のように物体側がOリング8でシールされ、結像側に光学フィルタ7が接着剤で貼られてシール(封止)された状態の鏡筒1において、鏡筒1の内部と外部とを連通している。
連通溝27は、端面22の周方向に沿って等間隔で配置される接着剤用凹部25のうちの隣り合う2つの接着剤用凹部25の間の略中央に設けられている。
【0065】
また、鏡筒1の端面22には、鏡筒1を樹脂成形する際に生じたゲート痕32(
図1に図示)が配置されるゲート痕用凹部30が設けられている。このゲート痕用凹部30は、略円形で端面22に開放されるとともに、端面22の内周縁の段差面23に開放されている。なお、ゲート痕32は、
図1および
図2に図示し、他の図では図示省略した。
また、ゲート痕用凹部30の底面31は、鏡筒1の軸方向上の位置が端面22と接着面21との間で、端面22より接着面21に近い位置となっている。
【0066】
したがって、ゲート痕用凹部30の底面31と接着面21との間には、段差がある。また、
図1に示すようにゲート痕用凹部30の底面31からは鏡筒1を成形した際に切り離されたゲート痕32が存在するが、ゲート痕32の高さ(鏡筒1の軸方向に沿う長さ)は、ゲート痕用凹部30の深さ(鏡筒1の軸方向に沿う長さ)より低く、ゲート痕用凹部30から外側にゲート痕32が突出しないようにゲート痕用凹部30の深さが設定されている。
【0067】
なお、ゲートは、鏡筒1の成形時の離型の際に自然に切れるように設計されたピンゲート呼ばれるもので、切削加工等の後加工により切断されるものではない。これにより、ゲート痕32からガラス繊維等の繊維の断片が落下する虞があり、ゲート痕用凹部30のゲート痕部分に接着剤が塗布されるようになっている。すなわち、ゲート痕用凹部30に接着剤が入れられるようになっている。これにより、ゲート痕32部分で露出する繊維断片が接着剤により落下しないように固められた状態となる。この接着剤は、例えば、紫外線硬化樹脂であり、粘度が5000mPa・S以上であることが好ましい。なお、接着剤は、紫外線硬化樹脂に限られるものではなく、熱硬化性樹脂やその他の樹脂であってもよいが、紫外線硬化樹脂の方が上述のように取扱が容易である。
【0068】
ゲート痕用凹部30は、端面22の周方向に沿って等間隔に複数(3つ)配置されている。また、この実施の形態では、ゲート痕用凹部30と接着剤用凹部25とが同じ数だけ設けられ、これらゲート痕用凹部30と、接着剤用凹部25とが交互に等間隔に配置されている。したがって、周方向に隣り合う2つの接着剤用凹部25の間の略中央にゲート痕用凹部30が配置されているので、隣り合う2つの接着剤用凹部25の間の中央にある連通溝27と、同じく隣り合う2つの接着剤用凹部25の間の中央にあるゲート痕用凹部30とが一部重なった状態となる。
【0069】
次に、このようなレンズユニットにおける鏡筒1への光学フィルタ7の取り付け方法を説明する。
レンズ2,3,4,6が取り付けられた鏡筒1において、接着面21、すなわち、結像側の一方の端部を上にして鏡筒1を立てた状態とする。次に、端面22の内側の接着面21上に光学フィルタ7を配置する。この際には、段差面23に光学フィルタ7の外周縁を案内させた状態で、接着面21上に光学フィルタ7を載置することによって、光学フィルタ7が位置決めされた状態に接着面21上に載置される。なお、円筒状の段差面23の内径は、円板状の光学フィルタ7の外径より少しだけ大きなものとなっている。
【0070】
次に、3つの接着剤用凹部25にそれぞれ接着剤を滴下する。滴下された接着剤は、接着剤用凹部25の底面24を伝わって接着面21と光学フィルタ7との間に毛細管現象により入り込むとともにこれらの間を拡がっていくことになる。この際には3つの接着剤用凹部25から拡がった接着剤は、隣の接着剤用凹部25から拡がる接着剤に接触して一体の接着剤となって、接着面21と光学フィルタ7の接着面21と重なる周縁部との間に略全体に拡がった状態となる。これにより光学フィルタ7が接着面に接着されるとともに、連通溝27の部分を除いて接着剤によりシールされた状態となる。
【0071】
連通溝27の部分では、連通溝27の左右両隣の接着剤用凹部25から上述のように接着剤が拡がってくるが、連通溝27の部分で接着剤の拡がりが止まる。すなわち、連通溝27の左右のから拡がって来る接着剤は、連通溝27の左右側縁に至ると、連通溝27の部分で光学フィルタ7と接着面21の間隔が広くなり、毛細管現象による接着剤の拡がりが止まる。これにより、連通溝27の左右側縁まで、接着剤を入れることができるとともに、接着剤が連通溝27に流入せず、連通溝27の部分で鏡筒1の内外を連通することができる。
【0072】
この連通溝27による鏡筒1の内外での連通により、光学フィルタ7を貼るための接着剤から発生するアウトガスを排出することが可能になる。これにより、アウトガスにより光学フィルタ7やレンズ2,3,4,6が曇るのを防止できる。
【0073】
また、鏡筒1内を完全に密閉する場合には、アウトガスがある程度排出された後に、連通溝27に閉塞部材を入れる。なお、閉塞部材としては、たとえば、接着剤を用いることができ、特に、紫外線硬化樹脂からなる接着剤を好適に用いることができる。また、連通溝27の断面積は、例えば、0.4mm×0.3mm(0.12mm2)程度が好適であり、それほど大きくなく、連通溝27を完全に閉塞しなくても、実用上は問題ないレベルで使用できる可能性が高い。
【0074】
このようなレンズユニットにおいては、上述のように鏡筒1の一方の端部に光学フィルタ7を接着剤で貼ることにより、鏡筒1内を密閉構造とする際に、接着剤のアウトガスが逃げ場をなくし、鏡筒1内に残存して光学フィルタ7等を曇らせるのを連通溝27により防止できる。この場合に、連通溝27は、鏡筒1の端面22の内側に隣接して配置される接着面21に形成されており、端面22より内側において、この接着面21の結像側には、部材がなく、成形時に接着面に溝を設ける構成であっても、樹脂成形のための金型構造が複雑になるのを防止し、成形においても真円度、同軸度等の機械的精度が低下することを防止できる。
【0075】
したがって、鏡筒1の内外を連通する連通路としての連通溝27を設けるものとしてもコストの増加を抑制できる。
また、接着面21への光学フィルタ7の接着に際しては、接着面21に繋がる底面24を備えた接着剤用凹部25から毛細管現象により、接着面21と、光学フィルタ7との間に接着剤を拡げる構成なので、接着時に連通溝27に接着剤が流入して、連通溝27が詰まってしまうのを防止することができる。
【0076】
すなわち、接着面21に連通溝27を形成しても、連通溝27に接着面21に塗布される接着剤が流入して連通溝27が埋まってしまうと鏡筒1の内外を連通できなくなってしまうので、上述のように接着剤を毛細管現象で接着面21と光学フィルタ7との間に行き渡らせる構成として、連通溝27の部分で、光学フィルタ7の接着側の面と、接着面21(連通溝27の底面)とが離れること(距離が長くなること)により、毛細管現象が発生しない状態となって接着剤の拡がりを止まらせることにより、上述のように連通溝27による鏡筒1の内外の連通を確保することができる。
【0077】
また、鏡筒1の成形時には、鏡筒1の端面22の複数箇所にゲートを設け、鏡筒1を成形するためのキャビティ内に複数箇所のゲートから樹脂を注入する状態となるが、これらのゲートが切断された際のゲート痕32が、ゲート痕用凹部30内に配置されるので、ゲート痕32が端面22より結像側に突出するのを防止できる。
【0078】
さらに、ゲート痕用凹部30内に接着剤を注入してゲート痕32を接着剤で固めることにより、ゲート痕32からガラス繊維の断片が、鏡筒1が取り付けられるマウンタ側に落下するのを防止できる。これにより、例えば撮像素子表面にガラス繊維の断片が落下して撮影画像にシミや影となって写り込み、撮影に悪影響を及ぼすことを防止できる。
【0079】
なお、この実施の形態においては、接着剤用凹部25と、ゲート痕用凹部30とを別々に設けたが、接着剤用凹部25の底面にゲート痕32が配置される構成とすることにより、接着剤用凹部25とゲート痕用凹部30とを1種類の凹部としてもよい。例えば、上述の実施の形態では、接着剤用凹部25を3つ設けるとともに、ゲート痕用凹部30を3つ設けることにより凹部を6つ設けたが、これら凹部を兼用とすることで凹部を3つだけ設ける構成としてもよい。