(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6437100
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】車両の電源装置
(51)【国際特許分類】
B60L 3/00 20060101AFI20181203BHJP
B60L 11/18 20060101ALI20181203BHJP
G01R 31/36 20060101ALI20181203BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20181203BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20181203BHJP
【FI】
B60L3/00 S
B60L11/18 A
G01R31/36 A
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H01M10/42 P
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-512117(P2017-512117)
(86)(22)【出願日】2015年4月15日
(86)【国際出願番号】JP2015061572
(87)【国際公開番号】WO2016166833
(87)【国際公開日】20161020
【審査請求日】2017年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073759
【弁理士】
【氏名又は名称】大岩 増雄
(74)【代理人】
【識別番号】100088199
【弁理士】
【氏名又は名称】竹中 岑生
(74)【代理人】
【識別番号】100094916
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 啓吾
(74)【代理人】
【識別番号】100127672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】谷 英明
(72)【発明者】
【氏名】和知 敏
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 博之
【審査官】
清水 康
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−020401(JP,A)
【文献】
特開2013−090474(JP,A)
【文献】
特開2008−043188(JP,A)
【文献】
特開2002−223507(JP,A)
【文献】
特開2014−241662(JP,A)
【文献】
特開2008−220088(JP,A)
【文献】
特開2011−041422(JP,A)
【文献】
特開2004−006415(JP,A)
【文献】
特開平10−253682(JP,A)
【文献】
特開2005−027379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 3/00
B60L 11/18
G01R 31/36
H01M 10/42
H01M 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載電池と、この電池の充放電電流を検出する充放電電流センサと、前記電池の状態を管理する車両の電源管理装置とを備え、
前記電源管理装置は、
前記電池の充放電電流、電圧および温度に基づき、前記電池の充電率を推定する充電率推定部と、
前記電池に接続された電気負荷に流れる稼働電流を推定する稼働電流推定部と、
前記充放電電流センサにより検出された充放電電流と前記稼働電流推定部により推定された稼働電流推定値の差分が所定値以上であれば、前記充放電電流センサに故障が生じていると判定する充放電電流センサ故障検知部とを有し、
前記充放電電流センサの故障検知時に前記電気負荷を低出力で稼働させるとともに、
前記稼働電流推定値を用いて前記電池の充電率を推定するように構成したことを特徴とする車両の電源装置。
【請求項2】
前記電源管理装置は、前記電池の電圧を検出する電圧センサと、前記電池に接続された電気負荷の稼働電力を推定する稼働電力推定部を有し、推定された前記電気負荷の稼働電力と前記電圧センサにより検出された前記電池の電圧とから前記稼働電流を推定するように構成したことを特徴とする請求項1に記載の車両の電源装置。
【請求項3】
前記充放電電流センサの故障検知時に前記電池の充電率動作範囲を狭めるように構成したことを特徴とする請求項1または2に記載の車両の電源装置。
【請求項4】
前記電源管理装置は、車両の走行状態に応じて車載発電機を制御する発電制御部を有し、前記充放電電流センサの故障検知時に前記発電制御部に所定電圧の発電を指令するように構成したことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の車両の電源装置。
【請求項5】
前記電源管理装置は、前記充電率が上下限値に達したとき、前記電池が異常であることを検知する電池異常検知部を備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の車両の電源装置。
【請求項6】
前記電源管理装置は、前記電池異常検知部からの指令に基づき前記電池の出力を遮断するフェイルセーフリレーを備えたことを特徴とする請求項5に記載の車両の電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は車両の電源装置に係り、特に電池の充放電電流を検出する電流センサの故障を検知し、故障時に電池の充電率を推定する車両の電源装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両には各種電気負荷へ電力を供給するために、発電機と二次電池が搭載されており、近年の燃費改善の強い要求から、二次電池については、従来の鉛電池に対する電力拡張策として、エネルギー密度の高いリチウムイオン電池などの採用が進んでいる。これらの電池を安全に使用するためには、電池の充放電電流、電池電圧、電池温度に加え、電池の充電率(State of Charge)(以下、SOCという)の検知が必要であり、このSOCを算出する上で、電池の充放電電流を検出する電流センサ(以下、充放電電流センサという)が重要な役割を担っている。
【0003】
従って、この充放電電流センサに異常があれば、即座に故障を検知し、電池を保護しながら退避走行が可能なフェールセーフ措置を講ずることが要求される。これに対し、充放電電流センサの故障を検知した場合は、電池の電気負荷毎に設けられた電流センサ(以下、電気負荷電流センサという)が出力する合計電流を用いて電池のSOC推定を継続する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5372872号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1に示される従来技術においては、充放電電流センサの故障は、出力値が正常範囲外となる場合においてのみ検知され、電気負荷電流センサの合計電流との比較による充放電電流センサの性能異常は、検知することができない。これは、電気負荷電流センサ側に異常があれば、充放電電流センサと電気負荷電流センサのどちらが故障しているか判別できないためである。また、電気負荷毎に電気負荷電流センサを設けた場合、システムが複雑化し、センサ本体や電気配線、受信機側のインターフェース等がコストアップの要因になるという問題点があった。
【0006】
この発明は、上記のような従来の問題点を解消するためになされたもので、電気負荷の稼働電流を推定することにより電気負荷毎の電流センサを廃止し、電気負荷稼働電流推定値との比較により充放電電流センサの性能異常を検知して、充放電電流センサの故障時には、即座に電気負荷を低出力で稼働させるとともに、電気負荷稼働電流推定値を用いて電池のSOC推定を所望の精度で継続させることができる車両の電源装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る車両の電源装置は、電池の充放電電流を検出する充放電電流センサと、電池の状態を管理する車両の電源管理装置とを備え、この電源管理装置は、電池の充放電電流、電圧および温度に基づき、電池の充電率を推定する充電率推定部と、電池に接続された電気負荷に流れる稼働電流を推定する稼働電流推定部と、充放電電流センサにより検出された充放電電流と稼働電流推定部により推定された
稼働電流推定値の差分が所定値以上であれば、充放電電流センサに故障が生じていると判定する充放電電流センサ故障検知部とを有し、充放電電流センサの故障検知時に電気負荷を低出力で稼働させるとともに、稼働電流推定値を用いて電池の充電率を推定するように構成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明に係る車両の電源装置によれば、電気負荷毎の電流センサを廃止し、システムの簡素化と低コスト化を図ることが可能となる。また、電気負荷稼働電流推定値との比較により充放電電流センサの性能異常を検知するため、出力値が正常範囲外となる異常のみを検知する場合に対し、充放電電流センサの信頼性を向上することができる。さらに、充放電電流センサの故障時に、即座に電気負荷を低出力で稼働し、電気負荷稼働電流推定値を用いて電池の充電率推定を所望の精度で継続するため、電池を保護しながら退避走行が可能なフェールセーフ措置を講ずることができる。
なお、この発明の目的、特徴、効果は、以下の実施の形態における詳細な説明および図面の記載からより明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】この発明の実施の形態1に係る車両の電源管理装置を含む車両の電源系全体の概略構成図である。
【
図2】この発明の実施の形態1に係る電源管理装置の制御処理を示すフローチャートである。
【
図3】この発明の実施の形態1に係る電源管理装置の電気負荷稼働電流を推定するための制御処理を示すフローチャートである。
【
図4】この発明の実施の形態1に係る充放電電流センサ故障時の発電電圧指令範囲を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1について、図面を参照して説明する。
図1は、この発明の実施の形態1に係る車両の電源装置全体の概略構成を示すもので、図において、車両の電源装置は、電池パック101、電源管理装置102、車両制御装置103、モータジェネレータ(以下、MGと称す)105、MG用インバータ104、高電圧電気負荷106、DCDCコンバータ107、低電圧電池を担う鉛電池108、低電圧電気負荷109を備えて構成されている。
【0011】
ここで、高電圧電源系は、電池パック101と、図示しない内燃機関に機械的に連結され、車両の発電または車両の駆動を担うMG105と、MG105の稼働を制御するインバータ104と、車両の高電圧電気負荷106とから構成されている。一方、低電圧電源系は、電源管理装置102と、車両制御装置103と、高電圧電源系および低電圧電源系の間で受給電を行うDCDCコンバータ107と、鉛電池108と、車両の低電圧電気負荷109とから構成されている。また、電源管理装置102は、マイクロコンピュータから構成されており、電池パック101の異常を検知したとき、電池パック101内部のフェイルセーフリレー113の接点を開放し、車両制御装置103へ非常給電および車両の退避走行を行うよう指令するとともにDCDCコンバータ107へ低出力を発生するよう指令する。また、車両制御装置103は、図示しない内燃機関を制御するとともに、電源管理装置102の指令を受け、インバータ104を介してMG105を制御し、高電圧電気負荷106と低電圧電気負荷109を制御する。
【0012】
さらに、電池パック101は、複数の電池を直列接続して構成され、高電圧の出力を発生する組電池110と、組電池110に接続され、各単電池の状態を検知する電池状態検知基板(以下、CMUという)111と、電池パック101の異常時に電池パック101と他の回路との電気接続を遮断するフェイルセーフリレー113と、CMU111の出力に基づき、フェイルセーフリレー113の駆動を制御する制御基板112より構成される。ここで、CMU111は、各単電池の充放電電流を検出する充放電電流検出部111aと、各単電池の電圧を検出する電池電圧検出部111bと、各単電池の温度を検出する電池温度検出部111cとを備え、これらの検出値に基づき、電源管理装置102を介して組電池110全体のSOCを算出する。このSOC算出方法については、後述の
図2において説明する。また、制御基板112は、フェイルセーフリレー113を制御するリレー制御部112aに加え、電池パック101内部の回路部の温度を検出するパック内部温度検知部112bを備えている。なお、CMU111と制御基板112は、それぞれ検知した電池パック101の状態を示す信号を電源管理装置102へ送信する。
【0013】
この電源管理装置102は、電池パック101内部の異常検知を行うとともに、各状態の検出値についても異常がないかを検知し、故障状態に応じたフェールセーフ措置を指令する。例えば、組電池110の充放電電流を検出する充放電電流センサCSが故障した場合、電源管理装置102は、充放電電流による過電流検知機能とSOC推定機能を喪失することになるが、組電池110に異常がない限りフェイルセーフリレー113の接点を開放しないため、充放電電流による検知機能に代わり電気負荷稼働電流115を推定することによって、組電池110を保護しながら退避走行が可能なフェールセーフ措置を講ずることになる。これらの故障検知とフェールセーフ措置については、後述の
図2において説明する。
【0014】
なお、ここでは、電池パック101、電源管理装置102、車両制御装置103、インバータ104、MG105、DCDCコンバータ107を個別に備えた実施の形態を示しているが、それぞれを統合してもよく、例えば、電源管理装置102の機能をマイクロコンピュータからなる車両制御装置103に組み込んで装置の統合を行うことが可能で、この場合、統合による低コスト化と軽量化の効果を得ることができる。一方、電源管理装置102と車両制御装置103とを個別に備えた場合には、従前の車両制御装置103に変更を加えることなく機能の追加ができ、また、電源管理装置102に異常が生じた場合、車両制御装置103のみによって車両を駆動させることができる利点がある。
【0015】
また、電源管理装置102は、電池パック101の充放電許可電力や出力端子目標電圧、MG105の稼働電力や稼働トルク、電気負荷の放電電力のいずれかを車両制御装置103へ送信することによって、車両制御装置103を介して車両の発電と電力消費を制御してもよい。また、MG105については、発電機能のみを有するオルタネータであってもよい。さらに、電池パック101の内部構成については、CMU111、制御基板112、フェイルセーフリレー113を個別に備えた形態を示しているが、それぞれを統合してもよい。また、組電池110とCMU111については、一対の形態を示すが、単電池の列数に応じてCMU111を複数設けてもよい。また、CMU111と制御基板112は、それぞれで検知した電池パック101内部の状態に基づき異常判定を行い、異常時には電源管理装置102の指令によらずフェイルセーフリレー113の接点を開放するように構成してもよい。
【0016】
図2は、この発明の実施の形態1における電源管理装置102の制御処理を示すフローチャートである。
電源管理装置102は、まず、ステップ201において、CMU111より各単電池の充放電電流と電圧と温度の信号を受信し、ステップ202において、電池パック制御基板112より電池パック101の回路部の温度の信号を受信する。次に、ステップ203において、電池パック101に接続される全ての電気負荷の稼働電流115を推定する。この電気負荷の稼働電流115の推定方法については、後述の
図3において説明する。
【0017】
次に、ステップ204において、充放電電流センサCSの出力電流が正規の範囲内にあるかを判定し、範囲内にあればステップ205へ進む。ここで、充放電電流センサCSの出力が異常となる場合は、回路部の電気的故障により、過電流域を超えて通常使用では起こり得ない電流値が出力されたときに判定される。ステップ205において、充放電電流センサCSの性能異常判定における許可条件が成立するかを判定し、成立すればステップ206へ進む。この許可条件は、続く充放電電流センサCSの性能異常判定において誤判定を生じないように考慮される条件であり、MG105の発電または駆動制御のモード変更直後や、高電圧電気負荷106稼働開始等において、電池パック101の充放電電流に過渡変動が大きいと想定される場合は、変動が収束するまでの期間中許可条件を不成立とする。
【0018】
ステップ206において、充放電電流センサCSの性能異常判定が行われ、充放電電流と電気負荷稼働電流115の推定値の差分が性能異常閾値以下であれば、異常を検知せず、ステップ207に移行して充放電電流センサ故障フラグを0(正常)にセットする。ここで、性能異常閾値は、電気負荷の稼働状態に応じて設定され、充放電電流センサCSが正常時の走行評価において得られる前記差分のバラツキに対し、マージンを加味して設定される適合値である。
【0019】
また、ステップ205において、充放電電流センサCSの性能異常判定における許可条件が不成立の場合は、充放電電流センサCSの性能異常判定を行わず、ステップ207へ移行して充放電電流センサCSの故障フラグを0(正常)にセットし、ステップ208へ移行する。
ステップ208において、充放電電流よりSOCを算出してステップ209に移行する。
また、ステップ204において、充放電電流センサCSの出力電流が正規の範囲外にある場合、さらに、ステップ206において、充放電電流と電気負荷稼働電流115の推定値の差分が性能異常閾値以上にある場合は、充放電電流センサCSの性能異常を検知し、ステップ209において充放電電流センサCSの故障フラグを1(故障)にセットしてステップ210へ移行する。
【0020】
このステップ210において、電気負荷稼働電流115に基づきSOCを算出し、ステップ211へ移行する。なお、ステップ208においても充放電電流に基づきSOCを算出しているが、これらの動作は、入力電流のみが異なり、いずれも同じ算出処理を行うものである。このSOC算出処理においては、車両のキーオン時の開放端電圧(以下、OCVと称す)と電池温度とに基づき予め記録されたマップにより算出されるSOCを初期値とし、入力電流の積算処理または等価回路モデル方式の回路パラメータの逐次推定処理を経てSOCを更新することによって現在のSOCが算出されることになる。
【0021】
次に、ステップ211およびステップ212において、充放電電流センサCSが故障時の制御処理として、車両制御装置103へ充放電抑制指令を送信し、DCDCコンバータ107へ低出力稼働を指令する。
ここで、ステップ211における充放電抑制指令について説明する。
図4に示すように、電源管理装置102は、充放電電流センサCSの故障時にSOCの動作範囲を正常時の範囲401よりも狭め、発電電圧指令範囲402の範囲とすることにより、想定外の電池出力があった場合においても、SOCが使用可能な上下限値に達することなく電池を安全に使用することができる。または、発電電圧指令範囲402の範囲内で所定電圧の発電を指令することにより、電池パック101の端子電圧から内部抵抗を差し引いたOCVの動作範囲が制限され、OCVと電池温度とにより定まるSOCの動作範囲を制限することが可能となる。
【0022】
図2に戻り、ステップ211とステップ212において、MG105、高電圧電気負荷106、DCDCコンバータ107を低出力稼働させて、電池出力を退避走行に必要な電力まで制限するとともに、決められた電気負荷への給電に限定することになり、これによって電気負荷稼働電流115の推定精度を所望の精度に管理することができる。なお、DCDCコンバータ107の低出力稼働により、低電圧電気負荷109の消費電力がDCDCコンバータ107の出力制限を超える場合は、鉛電池108が低電圧電気負荷109へ不足分を給電することになる。
【0023】
次に、ステップ213において、ステップ201で受信した各単電池の充放電電流と電圧と温度、ステップ202で受信した電池パック101回路部の温度、ステップ208または210で算出したSOCに基づき、いずれかの値が各上下限値に達すると、電池パック101が異常であると判定し、ステップ214へ移行する。ここで、充放電電流については、充放電電流センサCSが故障したとき、ステップ203で算出した電気負荷の稼働電流115の推定値を用いる。
ステップ214においては、フェイルセーフリレー113の接点開放を指令し、フェイルセーフリレー113の接点を開放させることによって、組電池110の入出力を停止させることになる。
【0024】
図3は、この発明の実施の形態1に係る電源管理装置102の電気負荷稼働電流115推定の制御処理を示すフローチャートである。
まず、ステップ301において、CMU111より組電池110の総電圧Aの信号を受信し、ステップ302において、インバータ104より入出力電流であるDC電流Bの信号を受信する。ここで、インバータ104のDC電流は、内部のモータ制御基板114において推定され、MG105を駆動する各相の電流に駆動デューティ比を乗算して算出される合計電流である。次に、ステップ303において、高電圧電気負荷106の消費電力Cを稼働中の電気負荷の合計定格出力に基づき算出し、ステップ304へ移行する。なお、単純なオンオフ負荷を除く制御装置を有する電気負荷については、この限りではなく、電源管理装置102は、同じく通信経由で受信したパラメータを基に、高電圧電気負荷106の合計出力を算出することができる。
【0025】
次に、ステップ304において、DCDCコンバータ107が出力制限に達していない場合は、稼働中の低電圧電気負荷109の定格出力にDCDCコンバータ107の出力損失を加算して、DCDCコンバータ107の消費電力Dを算出する。但し、DCDCコンバータ107の内部の制御基板が消費電力Dまたは稼働出力を算出可能な場合はこの限りではなく、電源管理装置102は、同じくこの電力の情報を通信経由で受信することができる。なお、DCDCコンバータ107が低出力稼働等で出力制限に達している場合は、DCDCコンバータ107の消費電力Dは、この出力制限値となる。
【0026】
最後に、ステップ305において、電気負荷稼働電流115を「インバータ104のDC電流B+(高電圧電気負荷106の消費電力C+DCDCコンバータ107の消費電力D)÷電池電圧A」の式によって算出する。
なお、ここで、高電圧電気負荷106の消費電力CとDCDCコンバータ107の消費電力Dの合計出力を電池電圧Aで除算して合計電流を算出するように構成したが、個別に消費電流を推定可能な場合は、ステップ305においてインバータ104のDC電流Bに各電流を加算すればよい。また、インバータ104のDC電流Bについても、インバータ104の合計出力が算出可能な場合は、これを電池電圧Aで除算して合計電流Bを算出してもよい。
【0027】
以上のように、この発明における車両の電源管理装置は、次のような特徴および効果を有している。
第1に、電池の充放電電流を検出する充放電電流センサと、電池の状態を管理する車両の電源管理装置とを備え、この電源管理装置は、電池の充放電電流、電圧および温度に基づき、電池の充電率を推定する充電率推定部と、電池に接続された電気負荷に流れる稼働電流を推定する稼働電流推定部と、充放電電流センサにより検出された充放電電流と稼働電流推定部により推定された
稼働電流推定値の差分が所定値以上であれば、充放電電流センサに故障が生じていると判定する充放電電流センサ故障検知部とを有し、充放電電流センサの故障検知時に電気負荷を低出力で稼働させるとともに、稼働電流推定値を用いて電池の充電率を推定するように構成したもので、このように構成することによって、電気負荷毎に設けられた電流センサを廃止し、システムの簡素化と低コスト化を図ることが可能となる。また、電気負荷稼働電流推定値との比較により充放電電流センサの性能異常を検知するため、出力値が正常範囲外となる異常のみを検知する場合に対し、充放電電流センサの信頼性を向上することができる。さらに、充放電電流センサの故障時に、即座に電気負荷を低出力で稼働し、電気負荷稼働電流推定値を用いて電池の充電率推定を所望の精度で継続するため、電池を保護しながら退避走行が可能なフェールセーフ措置を講ずることができる。
【0028】
第2に、電源管理装置は、上記第1の構成に加え、電池の電圧を検出する電圧センサと、電池に接続された電気負荷の稼働電力を推定する稼働電力推定部を有し、推定された電気負荷の稼働電力と電圧センサにより検出された電池の電圧とから稼働電流を推定するように構成したもので、上記第1の構成と同様の効果を得ることができる。
【0029】
第3に、充放電電流センサの故障検知時に電池の充電率動作範囲を狭めるように構成することによって、想定外の電池出力があった場合においても、電池を安全に使用することができる。
【0030】
第4に、充放電電流センサの故障検知時に車両の走行状態に応じて車載発電機を制御する発電制御部を制御し、所定電圧の発電を指令するように構成したことによって、電池の充電率の動作範囲を制限することができる。
【0031】
第5に、電池の充電率が上下限値に達したとき、電池が異常であると検知する電池異常検知部を備えたことによって、電池の充電率推定を継続することができ、また、電源管理機能に加えて発電制御機能を統合することができ、システムの簡素化と低コスト化を図ることができる。
【0032】
第6に、電池異常検知部からの指令に基づき電池の出力を遮断するフェイルセーフリレーを備えることによって、充放電電流センサが故障した場合に電池の出力を遮断することができる。
なお、本発明は、その発明の範囲内において、実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
101:電池パック、102:電源管理装置、102a:電池パック異常検知部、102b:電流センサ故障検知部、102c:充電率推定部、
102d:電気負荷稼働電流推定部、103:車両制御装置、104:インバータ、105:モータジェネレータ、106:高電圧電気負荷、
107:DCDCコンバータ、108:鉛電池、109:低電圧電気負荷、110:組電池、111:電池状態検知基板、112:電池パック制御基板、113:フェイルセーフリレー、114:モータ制御基板、115:電気負荷稼働電流、CS:充放電電流センサ