(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係るリッジ導波路型レーザ装置の一構成例を示す斜視図である。
図1において、Sは信号光を示し、S
ampは増幅された信号光を示し、cは結晶軸を示し、Eは励起光を示す。
図2は、この発明の実施の形態1に係るリッジ導波路型レーザ装置のy−z平面図である。
図3は、この発明の実施の形態1に係るリッジ導波路型レーザ装置のx−y平面図である。
図1から
図3では、コア1の上面及び下面に平行な面内において上面及び下面における直交する2つの辺に平行な方向をそれぞれx軸とz軸とし、x軸とz軸の両方に垂直な方向をy軸としている。また、z軸方向を励起光Eの光軸としている。クラッド3のc軸は、x−z平面に垂直な方向である。
【0011】
本リッジ導波路型レーザ装置は、コア1、基板2、クラッド3、光損失付与部4a及び4bを備える。
【0012】
コア1は、リッジ構造部を有し、等方性のレーザ媒質を有する平板状のコアである。リッジ構造部とは、凸形状(ハンプ)における突出部分である。例えば、コア1には、Er:Phosphate glass、Er、Yb:Phosphate glass、Yb:Phosphate glass、Yb:YAG、Nd:YAG、Er:YAG、Er,Yb:YAG、Tm:YAG、Ho:YAG、Tm,Ho:YAG、または、Pr:YAGなどが用いられる。
【0013】
基板2は、コア1よりも低い屈折率を有する材料で構成されており、コア1の平面側である下面に接合される基板である。例えば、基板2には、活性イオンが添加されていない無添加glass、無添加YAG、クラッド3と同じ材料などが用いられる。なお、基板2は、下部クラッドとも呼ばれる。
【0014】
クラッド3は、コア1内での信号光Sの伝搬方向である光軸に直交する2つの偏光方向で屈折率が異なる複屈折材料で構成されるクラッドである。クラッド3は、コア1の平板面である上面に接合されている。例えば、クラッド3には、水晶、KTPなどが用いられる。
【0015】
光損失付与部4a及び4bは、リッジ構造部の側面に設けられており、レーザ光に損失を与える光損失付与部である。例えば、光損失付与部4a及び4bは、コア1のリッジ構造部の側面を粗し面とすることで形成する。粗し面とは、表面粗さRa=4nm以上の面である。また、光損失付与部4a及び4bは、リッジ構造部の側面にレーザ光を吸収する膜を付加することで形成しても良い。
【0016】
なお、リッジ構造部は、コア1を凸形状(ハンプ)にすることで形成しても良いし、後述するように平板のコア1の一部にクラッド3を接合し、コア1及びクラッド3で凸形状の構造を形成して、構成しても良い。
【0017】
ここで、コア1とクラッド3との屈折率関係について説明する。
コア1の屈折率をn
cとし、クラッド3のc軸方向の異常光屈折率をn
eとし、c軸に垂直な方向の常光屈折率をn
oとすると、n
cは、下記の式(1)または(2)を満足する。
【0020】
式(1)または式(2)に加えて、コア1の屈折率n
cは、基板2の屈折率n
sとの関係で、下記の式を満足する材料で構成されている。
【0022】
以下、式(1)の関係を満足するコア1及びクラッド3の具体的な材料の組み合わせを例示する。ただし、具体的な材料の組み合わせは一例に過ぎず、式(1)の関係を満足する材料であれば、他の組み合わせであっても良い。
組合せ1
コア1 → Er:Phosphate glass、
Er,Yb:Phosphate glass、
Yb:Phosphate glass、
クラッド3 → 水晶
【0023】
組合せ2
コア1 → Yb:YAG、Nd:YAG、Er:YAG、
Er,Yb:YAG、Tm:YAG、Ho:YAG、
Tm,Ho:YAG、または、Pr:YAG
クラッド3 → KTP
【0024】
ここでは、コア1の材料がEr:Phosphate glassであり、クラッド3の材料が水晶である場合を例に説明する。この場合、コア1は、波長1535nmにおいて、1.515〜1.541の屈折率n
cを有するが、ここでは、屈折率1.541とする。
また、クラッド3は、波長1535nmにおいて、異常光線(c軸)での屈折率n
eが約1.536、常光線での屈折率n
oが約1.528である。
【0025】
次に、この発明の実施の形態1に係るリッジ導波路型レーザ装置の動作について説明する。
【0026】
平板状のコア1は、レーザ媒質で構成されているため、端面から励起光Eが入射されると、その励起光Eを吸収することで反転分布状態を形成する。また、コア1は、反転分布状態を形成することで利得を発生する。
コア1は、反転分布状態を形成しているときに、レーザ光である信号光Sが入射されると、その利得によって信号光を増幅する。ここでは、入射される信号光をx偏光として説明するが、y偏光であっても良い。
【0027】
コア1にx偏光が入射されても、導波路の製作過程や、ヒートシンクに接着する際に、リッジ導波路の内部で応力が発生して、リッジ導波路の内部で予期せぬ屈折率分布が発生し、入射した信号光Sの偏光が保持されなくなる。この場合、コア1内でy偏光の成分が発生する。
【0028】
図4は、この発明の実施の形態1に係るリッジ導波路型レーザ装置の光強度分布を示す図である。なお、
図4中の両矢印は、偏光方向を示している。
上記で示した材料の場合、x偏光及びy偏光に対するコア1の屈折率は、1.541であり、x偏光に対するクラッド3の屈折率は、1.528であり、y偏光に対するクラッド3の屈折率は、1.536であるので、x偏光よりy偏光の方がコア1とクラッド3との屈折率差が小さい。
したがって、コアとクラッドの屈折率差が小さいy偏光の方が、クラッド3側へのパワーの分布が、x偏光に比べて大きくなる。したがって、y軸方向のパワー分布は、x偏光とy偏光とで差が発生する。
コア1のリッジ構造部の厚さが10μm、コア1のリッジ構造部以外の部分の厚さ(平坦部の厚さ)が8μm、リッジ構造部のリッジ幅が約40μmの場合、
図4に示すように、全体のパワーに対するリッジ構造部のパワーは、y偏光で24%、x偏光で13%になる。
【0029】
このように、クラッド3のc軸が、x−z平面に垂直な方向であり、コア1とクラッド3との屈折率関係が式(1)を満足することで、リッジ導波路型レーザ装置は、リッジ構造部においてx偏光の光強度分布とy偏光の光強度分布とに差を生じさせることができる。
【0030】
光損失付与部4a及び4bは、リッジ構造部の側面に設けられているので、光損失付与部4a及び4bが与える損失は、x偏光とy偏光とで異なる。今回の例では、y偏光の方がリッジ構造部のパワーが大きいので、y偏光に対する損失は大きくなる。
【0031】
なお、光損失付与部4a及び4bがなくても、界面(側面)で全く損失が無いということはないので、損失は生じる。損失が生じると、光損失付与部4a及び4bがある場合と同様に、y偏光の方がリッジ構造部のパワーが大きいので、y偏光に対する損失は大きくなる。また、仮に損失が生じないとしても、x偏光の方がクラッド3における光の割合が小さいため、言い換えればx偏光の方が利得を与えるコア1との空間的なオーバーラップが高いため、コア1に蓄えられたエネルギーの抜き出しに寄与する光の割合がy偏光に比べてx偏光の方が高くなるので、y偏光に比べてx偏光の方が高い利得を得られ、偏光消光比を高められる。
【0032】
したがって、x偏光成分に比べて、損失が大きいy偏光成分は増幅されにくくなるので、偏光消光比を高めることができる。
【0033】
次に、この発明の実施の形態1に係るリッジ導波路型レーザ装置の製造方法について説明する。
【0034】
まず、レーザ媒質が平板状のコア1となるように切断した後、一対の平板面(zx面)である上面及び下面のうち、一方のzx面を研磨する。
【0035】
次に、研磨したコア1のzx面に対して、式(3)を満足する材料で構成されている基板2を接合する。コア1のzx面に対する基板2の接合は、オプティカルコンタクト、表面活性化接合、拡散接合などの方法で直接接合する。あるいは、コア1と基板2との熱膨張差を緩和させるようなバッファ層を挟んで接合する。
【0036】
次に、コア1のzx面のうち、未だ研磨していない方のzx面(上面)を研磨することで、コア1の厚さを所定の厚さに調整する。
【0037】
次に、基板2を接合していないコア1のzx面(上面)に対して、クラッド3を接合する。ただし、コア1のzx面(上面)に接合するクラッド3は、c軸が
図1〜3に示すような方向になっているクラッドである。
【0038】
次に、リッジ構造部の作製は、レジストをパターニング後、エッチングすることにより作製する。このとき、光損失付与部4a及び4bに相当するリッジ構造部の側面は、条件出しが不十分であると、一般的には荒れる傾向がある。この場合、リッジ構造部の側面は粗し面となり、リッジ構造部における光を散乱させ、損失を与える。このように、一般的には、リッジ構造部の側面は、光に損失を与える光損失付与部4a及び4bとなる。
【0039】
なお、リッジ導波路型レーザ増幅器に励起光を供給する具体的な光源は、半導体レーザ、ファイバレーザ、その他固体レーザなどが挙げられる。
【0040】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、コア1内での信号光の伝搬方向である光軸に直交する2つの偏光方向で屈折率が異なり、2つの偏光の屈折率がコア1の屈折率より低い複屈折材料でクラッド3を構成し、リッジ構造部において2つの偏光の光強度分布に差が生じるようにしたので、コア1に等方性のレーザ媒質を用いても信号光の偏光消光比を高める効果を奏する。
【0041】
実施の形態2.
実施の形態1では、レーザ増幅器の例を示したが、実施の形態2では、レーザ発振器の例を示す。
図5は、この発明の実施の形態2に係るリッジ導波路型レーザ装置を示す斜視図である。
図6は、この発明の実施の形態2に係るリッジ導波路型レーザ装置におけるy−z平面図である。
なお、
図5及び
図6中、
図1と同一符号は同一又は相当部分を示し、説明を省略する。
図5において、S
oscは発振した信号光を示す。
【0042】
コーティング5(反射膜の一例)は、励起光入力端面に成膜されており、信号光に対して高反射率を有し、励起光に対して低反射率を有するコーティングである。例えば、コーティング5は、誘電体多層膜が用いられる。
【0043】
コーティング6(部分反射膜の一例)は、励起光入力端面と対向する端面に成膜されており、信号光の一部を反射する特性を有し、励起光に対して高反射率を有するコーティングである。コーティング6は、コア1及びコーティング5とともに共振器を構成する。例えば、コーティング6は、誘電体多層膜が用いられる。
【0044】
次に、この発明の実施の形態2に係るリッジ導波路型レーザ装置の動作について説明する。
励起光Eが、コア1に入射され、コア1内部で信号光が発生する。コア1内部で発生した信号光は、コーティング5及びコーティング6で反射され、下記の式の発振条件を満足するとレーザ発振する。そして、発振光S
oscがコーティング6から出力される。
【0045】
【数4】
ここで、g
0はコア1で発生する小信号利得係数、α
sは共振器内部損失である。共振器内部損失とは、コーティング5と6との間におけるリッジ導波路で発生する散乱による損失、吸収による損失、コーティング5がコートされているリッジ導波路の端面における結合損失、及びコーティング6がコートされているリッジ導波路の端面における結合損失などの損失の総和である。Lはリッジ導波路の長さ、Tはコーティング6の発振光の透過率である。
【0046】
内部で生じる信号光においてx偏光とy偏光の強度分布は、実施の形態1の場合と同様であり、全体のパワーに対するリッジ構造部のパワーは、x偏光とy偏光とで差が生じる。
そして、x偏光とy偏光とに対して光損失付与部4a及びbが与える損失は異なるので、上式のα
sは、偏光方向によって値が異なる。このため、損失が小さい偏光に対して発振し、もう一方の偏光の発振を抑制できる。
【0047】
以上で明らかなように、この発明の実施の形態2によれば、コア1内での信号光の伝搬方向である光軸に直交する2つの偏光方向で屈折率が異なり、コア1の屈折率より低い複屈折材料でクラッド3を構成し、2つの偏光の光強度分布に差を与え、一方の偏光に対して損失が大きくなるように構成したので、直線偏光の発振光S
oscを出力することができる。
【0048】
実施の形態3.
実施の形態1では、光損失付与部4a及び4bがリッジ構造部の側面に構成され、2つの偏光に損失差を与える例を示したが、実施の形態3では、クラッド3の常光線屈折率と異常光線屈折率の間の屈折率を有する光学材料7で、リッジ構造部周囲を埋め尽くすことで、2つの偏光に損失差を与える例を示す。
【0049】
図7は、この発明の実施の形態3に係るリッジ導波路型レーザ装置を示す斜視図である。
図8は、この発明の実施の形態3に係るリッジ導波路型レーザ装置におけるy−z平面図である。
図9は、この発明の実施の形態3に係るリッジ導波路型レーザ装置におけるx−y平面図である。
なお、
図7、
図8、及び
図9中、
図1と同一符号は同一又は相当部分を示し、説明を省略する。
【0050】
光学材料7は、屈折率をn
aとしたときに、下記の条件を満たす光学材料である。光学材料7は、コア1におけるリッジ導波路の平坦部に接合される。平坦部とは、リッジ導波路における突出部でない部分である(
図9参照)。例えば、光学材料7は、誘電体膜、光学的に使用可能な接着剤などが用いられる。
【0053】
基板8は、リッジ導波路の端面研磨時の面ダレを防ぐための補強基板である。例えば、基板8は、基板2と同じ材料、ガラス、セラミック、結晶などが用いられる。
【0054】
次に、この発明の実施の形態3に係るリッジ導波路型レーザ装置の動作について説明する。
図9に示すように、x偏光及びy偏光に対するリッジ導波路におけるリッジ構造部の等価屈折率をそれぞれn
c2x、n
c2yとし、x偏光及びy偏光に対するリッジ導波路における平坦部の等価屈折率をそれぞれn
c1x、n
c1yとする。
【0055】
式(5)の条件では、n
a<n
cであるので、リッジ構造部と平坦部との等価屈折率関係は、下記のようになる。
【0058】
式(7)に示すように、y偏光に対して平坦部の等価屈折率がリッジ構造部の等価屈折率より低いので、y偏光は、導波モードとなり、光がリッジ構造部に閉じ込められる。
一方、式(8)に示すように、x偏光に対して平坦部の等価屈折率がリッジ構造部の等価屈折率より高いので、x偏光は、放射モードとなり、光は閉じ込められない。
【0059】
なお、式(6)の条件では、リッジ構造部と平坦部との等価屈折率関係は、下記のようになる。
【0062】
この場合、x偏光が導波モードとなり、y偏光が放射モードとなる。
【0063】
このように、式(7)及び式(8)、または式(9)及び式(10)の条件下では、x偏光またはy偏光のいずれか一方の偏光に対して、x軸方向の閉じ込めができなくなるので、x偏光とy偏光とで伝搬損失に差が生じる。
【0064】
以上で明らかなように、この実施の形態3によれば、クラッド3の常光線屈折率と異常光線屈折率との間の屈折率を有する光学材料7をリッジ導波路の平坦部に接合することで、偏光に対してリッジ構造部の等価屈折率と平坦部の等価屈折率との関係を変化させ、一方の偏光に対してx軸方向の閉じ込めが出来なくなるようにしたので、直線偏光の信号光を出力することができる。
【0065】
なお、実施の形態3では、コア1の形状は平板であるが、実施の形態1と同様に凸形状にしても良い。
【0066】
図7から
図9において基板8を示しているが、基板8は必須ではない。ただし、基板8を有することで、以下に示すように、端面研磨におけるコア1の端面のダレを防ぐことができる。
図10は、リッジ導波路型レーザ装置の端面研磨における面のダレを示す図である。基板8がない場合、端面の端の部分と中央の部分において研磨時に発生する熱的な条件が異なることなどにより、端面のダレが生じる。端面のダレが発生すると光損失が発生する。
【0067】
実施の形態4.
実施の形態3では、クラッド3の常光線屈折率と異常光線屈折率との間の屈折率を有する光学材料7をリッジ導波路の平坦部に接合することで、x偏光とy偏光とに損失差を与える増幅器の例を示したが、実施の形態4では、その場合の発振器の例を説明する。
【0068】
図11は、この発明の実施の形態4に係るリッジ導波路型レーザ装置を示す斜視図である。
図12は、この発明の実施の形態4に係るリッジ導波路型レーザ装置におけるy−z平面図である。
なお、
図11及び
図12中、
図7と同一符号は同一又は相当部分を示し、説明を省略する。
図11において、S
oscは発振した信号光を示す。
【0069】
次に、この発明の実施の形態4に係るリッジ導波路型レーザ装置の動作について説明する。
励起光Eが、コア1に入射され、コア1内部で信号光が発生する。コア1内部で発生した信号光は、コーティング5及びコーティング6で反射され、式(4)の発振条件を満足するとレーザ発振する。そして、発振光S
oscがコーティング6から出力される。
【0070】
このとき、リッジ導波路の平坦部に接合された光学材料7はクラッド3の常光線屈折率と異常光線屈折率との間の屈折率を有するので、実施の形態3と同様に、x偏光またはy偏光のいずれか一方に対してx軸方向の閉じ込めができなくなり、x偏光とy偏光とで伝搬損失に差が生じる。
【0071】
したがって、伝搬損失が大きい方の偏光が放射モードとなり、伝搬損失が小さい方の偏光が導波モードとなる。導波モードの偏光はコーティング5及びコーティング6で反射され、レーザ発振し、コーティング6から出力される。
【0072】
以上で明らかなように、この実施の形態4によれば、クラッド3の常光線屈折率と異常光線屈折率との間の屈折率を有する光学材料7をリッジ導波路の平坦部に接合することで、x偏光とy偏光とで伝搬損失に差を生じさせ、伝搬損失の小さい偏光を発振させるので、直線偏光の発振光S
oscを出力することができる。
【0073】
なお、上記実施の形態1乃至4において、クラッド3が一軸結晶の例を示したが、二軸結晶でもよい。