(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6437267
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】ロードセル
(51)【国際特許分類】
G01L 1/22 20060101AFI20181203BHJP
【FI】
G01L1/22 E
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-210461(P2014-210461)
(22)【出願日】2014年10月15日
(65)【公開番号】特開2016-80455(P2016-80455A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年8月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208444
【氏名又は名称】大和製衡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086737
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】藤本 真澄
【審査官】
細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−339676(JP,A)
【文献】
特開平04−194630(JP,A)
【文献】
特開2001−264190(JP,A)
【文献】
特開2013−104754(JP,A)
【文献】
特開2003−028746(JP,A)
【文献】
特開2013−205133(JP,A)
【文献】
特開2014−163877(JP,A)
【文献】
米国特許第04488611(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 1/22
G01G 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右方向の一端側の固定部及び他端側の可動部と、前記固定部の上部及び前記可動部の上部を連結する上ビーム部と、前記固定部の下部及び前記可動部の下部を連結する下ビーム部とを一体に有する金属材料からなる起歪体を備え、
前記固定部と前記可動部との間に、前後方向に貫通する貫通孔を有し、
前記起歪体の上側端面には、前後方向に貫通するように断面円弧状の一対の上部円弧状溝が、前記貫通孔の外周に近接するように形成されると共に前記起歪体の上側端面との間に開放部が設けられる一方、前記起歪体の下側端面には、前後方向に貫通するように断面円弧状の一対の下部円弧状溝が、前記貫通孔の外周に近接するように形成されると共に前記起歪体の下側端面との間に開放部が設けられ、
前記上部円弧状溝は、当該上部円弧状溝の円弧に対応する円周の一部を残し、当該一部よりも長い前記円周の残余の部分が起歪体本体内に位置するように形成されている一方、前記下部円弧状溝は、当該下部円弧状溝の円弧に対応する円周の一部を残し、当該一部よりも長い前記円周の残余の部分が起歪体本体内に位置するように形成されており、
前記貫通孔の内周面の、各円弧状溝と前記貫通孔とが近接する薄肉の起歪部に対応する部分には、歪ゲージが取付けられ、
前後方向の一方側の端面には、前記貫通孔の外周に溶接用周壁を形成するための環状溝が、前記貫通孔を囲むように形成される一方、前後方向の他方側の端面には、前記貫通孔の外周に溶接用周壁を形成するための環状溝が、前記貫通孔を囲むように形成され、
前記貫通孔内に装着されて前記歪ゲージを密封するための金属製の筒状のシール部材の一端部と、前記一方側の端面に形成される前記溶接用周壁とが、溶接される一方、前記シール部材の他端部と、前記他方側の端面に形成される前記溶接用周壁とが、溶接される、
ことを特徴とするロードセル。
【請求項2】
左右方向の一端側の固定部及び他端側の可動部と、前記固定部の上部及び前記可動部の上部を連結する上ビーム部と、前記固定部の下部及び前記可動部の下部を連結する下ビーム部とを一体に有する金属材料からなる起歪体を備え、
前記固定部と前記可動部との間に、前後方向に貫通する貫通孔を有し、
前記起歪体の上側端面には、前後方向に貫通するように断面円弧状の一対の上部円弧状溝が、前記貫通孔の外周に近接するように形成されると共に前記起歪体の上側端面との間に開放部が設けられる一方、前記起歪体の下側端面には、前後方向に貫通するように断面円弧状の一対の下部円弧状溝が、前記貫通孔の外周に近接するように形成されると共に前記起歪体の下側端面との間に開放部が設けられ、
前記貫通孔の内周面の、各円弧状溝と前記貫通孔とが近接する薄肉の起歪部に対応する部分には、歪ゲージが取付けられ、
前後方向の一方側の端面には、前記貫通孔の外周に溶接用周壁を形成するための環状溝が、前記貫通孔を囲むように形成される一方、前後方向の他方側の端面には、前記貫通孔の外周に溶接用周壁を形成するための環状溝が、前記貫通孔を囲むように形成され、
前記貫通孔内に装着されて前記歪ゲージを密封するための金属製の筒状のシール部材の一端部と、前記一方側の端面に形成される前記溶接用周壁とが、溶接される一方、前記シール部材の他端部と、前記他方側の端面に形成される前記溶接用周壁とが、溶接されるものであり、
前記貫通孔が円形であり、
前記上部円弧状溝及び前記下部円弧状溝が、前記貫通孔よりも小径の断面円弧状であり、
前記シール部材が、円筒状であり、
前記環状溝は、前記貫通孔と該貫通孔に近接する円弧状溝との間の距離未満の狭い幅で、前記貫通孔と該貫通孔に近接する円弧状溝との間の領域を通って前記貫通孔を囲むように形成される、
ことを特徴とするロードセル。
【請求項3】
筒状の前記シール部材の前記一端部及び前記他端部は、残余の部分より大径の大径部を有し、
前記環状溝は、前記大径部の前後方向に沿う長さ以内の深さで浅く形成される、
請求項1または2に記載のロードセル。
【請求項4】
前記大径部は、前後方向に沿って延びる接合部を有し、
前記溶接用周壁と前記接合部とが溶接され、
前記溶接用周壁の高さを、前記接合部の前後方向に沿う長さと略等しくした、
請求項3に記載のロードセル。
【請求項5】
前記溶接用周壁の幅を、前記接合部の幅と略等しくした、
請求項4に記載のロードセル。
【請求項6】
前記シール部材が、前記起歪体と同一種類の金属材料からなる、
請求項1ないし5のいずれかに記載のロードセル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、台秤、計量タンク、計量ホッパ等の各種計量装置に用いられる平行四辺形型のロードセルに関し、更に詳しくは、防水型のロードセルに関する。
【背景技術】
【0002】
歪量を検出する歪センサの一種である歪ゲージを、起歪体に貼着して、負荷荷重による起歪部の伸縮量を歪ゲージの抵抗値変化による電気信号に変換して負荷荷重の大きさに比例する荷重信号を発生するロードセルにおいて、前記歪ゲージ部分等を密封して外部環境から保護するものとして、例えば、特許文献1に示す防水型のロードセルがある。
【0003】
図6は、この特許文献1のロードセルの正面図であり、
図7は、
図6の矢視A−A断面図である。
【0004】
このロードセル50は、荷重を受ける受台が取付けられる可動部51、計量装置の基台等のベースに取付けられる固定部52、および、それらを連結する上下のビーム部53,54を備えている。
【0005】
左右方向の両側の前記可動部51と前記固定部52との間には、前後方向(
図Aの紙面に垂直方向、
図Bの上下方向)に貫通する第1貫通円孔55が形成されており、該第1貫通円孔55の周囲が深く掘下げ加工されて円筒部55aが形成され、前後方向の中央部分において、その外周の一部が、連結部56を介して可動部51及び固定部52とそれぞれ連結されている。
【0006】
第1貫通円孔55の周囲の上ビーム部53側には、第1貫通円孔55よりも小径の一対の第2上部貫通円孔66,67が形成されると共に、それらを繋ぐ連結溝68が形成され、また、第1貫通円孔55の周囲の下ビーム部54側には、第1貫通円孔55よりも小径の一対の第2下部貫通円孔69,70が形成されると共に、それらを繋ぐ連結溝71が形成される。
【0007】
上ビーム部53側の一対の第2上部貫通円孔66,67によって、上ビーム部53には、薄肉の起歪部53a,53bが形成される一方、第1貫通円孔55の外周の連結部56には、薄肉の起歪部56a,56bが形成される。また、下ビーム部54側の一対の第2下部貫通円孔69,70によって、下ビーム部54には、薄肉の起歪部54a,54bが形成される一方、第1貫通円孔55の外周の連結部56には、薄肉の起歪部56c,56dが形成される。
【0008】
前記第1貫通円孔55の外周の各起歪部56a〜56dに対応して第1貫通円孔55の内周面には、4つの歪ゲージ57〜60が貼着されており、これら歪ゲージ57〜60部分の防水を図るために、円筒状の金属製の円筒シール部材61を嵌め込み、この円筒シール部材61の両端部と第1貫通円孔55とを溶接し、歪ゲージ57〜60部分を密封している。
【0009】
また、固定部52には、歪ゲージ57〜60と外部とを配線接続するための配線や回路基板等が収納された収納室62が形成されており、この収納室62は、連通孔63を介して外部に連通する一方、上述の連結部56に形成された接続孔64を介して第1貫通円孔55の内周面に接続されている。歪ゲージ57〜60は、接続孔64、収納室62及び連通孔63を介して外部と配線接続される。この収納室62は、開口部に金属製の蓋体65が溶接されて、防水が図られている。
【0010】
このロードセル50では、負荷荷重が可動部51に加えられると、上下のビーム部53,54の起歪部53a,53b;54a,54bが撓むと共に、第1貫通円孔55の外周の連結部56の起歪部56a〜56dが撓み、歪応力が集中する第1貫通円孔55の内周面に貼着された歪ゲージ57〜60によって伸縮歪応力を検出し、負荷荷重が荷重信号に変換される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,488,611号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1のロードセルでは、上下のビーム部53,54の起歪部53a,53b;54a,54b(以下「第1の起歪部」という)と、第1貫通円孔55の外周の連結部56の起歪部56a〜56d(以下「第2の起歪部」という)とが存在し、第1の起歪部と第2の起歪部とが、並列バネを構成するので、ロードセルとしてのバネ定数は第1の起歪部と第2の起歪部のバネ定数の合計値となる。
【0013】
このように第1の起歪部が存在し、大きいバネ定数を持つため、第2の起歪部、すなわち、第1貫通円孔55の外周の連結部56の起歪部56a〜56dのバネ定数を小さくしなければならない。
【0014】
このため、上記のように第1貫通円孔55の周囲を広い幅で深く掘下げ加工し、薄い円筒部55aが形成されると共に、この円筒部55aの前後方向(
図7の上下方向)の長さも短く加工しており、加工コストが高くつくという課題がある。
【0015】
本発明は、上述のような実情に着目してなされたものであって、コストを低減した防水型のロードセルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明では次のように構成している。
【0017】
(1)本発明のロードセルは、左右方向の一端側の固定部及び他端側の可動部と、前記固定部の上部及び前記可動部の上部を連結する上ビーム部と、前記固定部の下部及び前記可動部の下部を連結する下ビーム部とを一体に有する金属材料からなる起歪体を備え、前記固定部と前記可動部との間に、前後方向に貫通する貫通孔を有し、前記起歪体の上側端面には、前後方向に貫通するように断面円弧状の一対の上部円弧状溝が、前記貫通孔の外周に近接するように形成されると共に前記起歪体の上側端面との間に開放部が設けられる一方、前記起歪体の下側端面には、前後方向に貫通するように断面円弧状の一対の下部円弧状溝が、前記貫通孔の外周に近接するように形成されると共に前記起歪体の下側端面との間に開放部が設けられ、
前記上部円弧状溝は、当該上部円弧状溝の円弧に対応する円周の一部を残し、当該一部よりも長い前記円周の残余の部分が起歪体本体内に位置するように形成されている一方、前記下部円弧状溝は、当該下部円弧状溝の円弧に対応する円周の一部を残し、当該一部よりも長い前記円周の残余の部分が起歪体本体内に位置するように形成されており、前記貫通孔の内周面の、各円弧状溝と前記貫通孔とが近接する薄肉の起歪部に対応する部分には、歪ゲージが取付けられ、前後方向の一方側の端面には、前記貫通孔の外周に溶接用周壁を形成するための環状溝が、前記貫通孔を囲むように形成される一方、前後方向の他方側の端面には、前記貫通孔の外周に溶接用周壁を形成するための環状溝が、前記貫通孔を囲むように形成され、前記貫通孔内に装着されて前記歪ゲージを密封するための金属製の筒状のシール部材の一端部と、前記一方側の端面に形成される前記溶接用周壁とが、溶接される一方、前記シール部材の他端部と、前記他方側の端面に形成される前記溶接用周壁とが、溶接される。
【0018】
本発明によると、固定部と可動部との間に、前後方向に貫通する貫通孔を有し、起歪体の上側端面には、前後方向に貫通するように断面円弧状の一対の上部円弧状溝が、貫通孔の外周に近接するように形成される一方、下側端面には、前後方向に貫通するように断面円弧状の一対の下部円弧状溝が、貫通孔に近接するように形成されるので、4個の各円弧状溝が、貫通孔にそれぞれ近接する4箇所に薄肉の起歪部が形成されることになる。
【0019】
上部円弧状溝は、上側端面に断面円弧状に形成されると共に上方は開放し、同様に、下部円弧状溝は、下側端面に断面円弧状に形成されると共に下方が開放している。
【0020】
したがって、
図6の特許文献1のように、第1貫通円孔55の周囲に近接して断面円形の第2貫通円孔66,67;69,70を形成する場合のような上下のビーム部53,54の起歪部53a,53b;54a,54bは存在しない。
【0021】
すなわち、本発明のロードセルは、4個の各円弧状溝が貫通孔にそれぞれ近接する薄肉の4箇所を起歪部とした平行四辺形型ロードセルとして機能し、特許文献1のような大きなバネ定数を持つ起歪部53a,53b;54a,54bが存在しないので、特許文献1のように、第1貫通円孔55の起歪部56a〜56dのバネ定数を小さくするために、第1貫通円孔55の周囲を広い幅で深く掘下げ加工し、薄い円筒部55aを形成すると共に、この円筒部55aの前後方向の長さも短く加工するといった必要がなく、加工コストを低減した防水型のロードセルを得ることができる。
【0022】
更に、4箇所の起歪部に対応する貫通孔の内周面に歪ゲージを取付け、これら歪ゲージを密封するための金属製の筒状のシール部材を貫通孔内に装着して溶接しているが、前後方向の一方側及び他方側の各端面には、貫通孔を囲むように環状溝を形成することによって、貫通孔の周縁に溶接用周壁を形成し、筒状のシール部材の一端部及び他端部を、各端面に形成した各溶接用周壁にそれぞれ溶接している。
【0023】
環状溝によって、溶接用周壁の大きさが、溶接相手であるシール部材の一端部や他端部に対応する大きさとなるように形成することによって、溶接の際の熱を、溶接用周壁とシール部材の端部とに均等に伝達させることができ、溶接不良が生じることなく、歪ゲージを完全に密封して防水を図ることができる。
【0024】
また、環状溝は、溶接用周壁を形成するためだけのものであり、細く、浅く形成すればよく、環状溝が、起歪部のバネ定数へ与える影響は極めて小さく、無視することができる。すなわち、バネ定数を小さくするための加工は不要で、溶接に対する考慮を払う加工のみで環状溝を形成できる。
【0025】
(2)本発明のロードセ
ルは、
左右方向の一端側の固定部及び他端側の可動部と、前記固定部の上部及び前記可動部の上部を連結する上ビーム部と、前記固定部の下部及び前記可動部の下部を連結する下ビーム部とを一体に有する金属材料からなる起歪体を備え、前記固定部と前記可動部との間に、前後方向に貫通する貫通孔を有し、前記起歪体の上側端面には、前後方向に貫通するように断面円弧状の一対の上部円弧状溝が、前記貫通孔の外周に近接するように形成されると共に前記起歪体の上側端面との間に開放部が設けられる一方、前記起歪体の下側端面には、前後方向に貫通するように断面円弧状の一対の下部円弧状溝が、前記貫通孔の外周に近接するように形成されると共に前記起歪体の下側端面との間に開放部が設けられ、前記貫通孔の内周面の、各円弧状溝と前記貫通孔とが近接する薄肉の起歪部に対応する部分には、歪ゲージが取付けられ、前後方向の一方側の端面には、前記貫通孔の外周に溶接用周壁を形成するための環状溝が、前記貫通孔を囲むように形成される一方、前後方向の他方側の端面には、前記貫通孔の外周に溶接用周壁を形成するための環状溝が、前記貫通孔を囲むように形成され、前記貫通孔内に装着されて前記歪ゲージを密封するための金属製の筒状のシール部材の一端部と、前記一方側の端面に形成される前記溶接用周壁とが、溶接される一方、前記シール部材の他端部と、前記他方側の端面に形成される前記溶接用周壁とが、溶接されるものであり、前記貫通孔が円形であり、前記上部円弧状溝及び前記下部円弧状溝が、前記貫通孔よりも小径の断面円弧状であり、前記シール部材が、円筒状であり、前記環状溝は、前記貫通孔と該貫通孔に近接する円弧状溝との間の距離未満の狭い幅で、前記貫通孔と該貫通孔に近接する円弧状溝との間の領域を通って前記貫通孔を囲むように形成される。
【0026】
本発明によると、貫通孔が円形であり、楕円形などの場合に比べて加工が容易となる。また、環状溝の幅は、貫通孔と、該貫通孔に近接する円弧状溝との間の距離未満の狭い幅であるので、起歪部のバネ定数へ与える影響は極めて小さい。また、環状溝は、貫通孔と、該貫通孔に近接する円弧状溝との間の領域を通って貫通孔を囲むように形成されるので、環状溝と貫通孔との間に形成される溶接用周壁の幅を細くすることができる。
【0027】
(3)本発明のロードセルの別の実施態様では、筒状の前記シール部材の前記一端部及び前記他端部は、残余の部分より大径の大径部を有し、前記環状溝は、前記大径部の前後方向に沿う長さ以内の深さで浅く形成される。
【0028】
この実施態様によると、環状溝は、筒状のシール部材の大径部の前後方向に沿う長さ以内の深さで浅く形成されるので、起歪部のバネ定数へ与える影響は極めて小さく、また、環状溝と貫通孔との間に形成される溶接用周壁の高さを低くすることができる。
【0029】
(4)本発明のロードセルの他の実施態様では、前記大径部は、前後方向に沿って延びる接合部を有し、前記溶接用周壁と前記接合部とが溶接され、前記溶接用周壁の高さを、前記接合部の前後方向に沿う長さと略等しくしている。
【0030】
この実施態様によると、内周面に歪ゲージが取付けられた貫通孔の周縁の溶接用周壁と、前記歪ゲージを密封するために貫通孔の内周に装着されて溶接されるシール部材の接合部との長さを略等しくしたので、溶接の際の熱が、溶接用周壁と接合部とに均等に伝達されて、溶接不良が生じることなく、確実な溶接が可能となり、歪ゲージを完全に密封して防水を図ることができる。
【0031】
(5)上記(4)の実施態様では、前記溶接用周壁の幅を、前記接合部の幅と略等しくしてもよい。
【0032】
この実施態様によると、内周面に歪ゲージが取付けられた貫通孔の周縁の溶接用周壁と、前記歪ゲージを密封するために貫通孔内に装着されて溶接されるシール部材の接合部との長さ及び幅を略等しくしたので、溶接の熱が一層均等に伝達され、一層確実な溶接が可能となる。
【0033】
(6)本発明の好ましい実施態様では、前記シール部材が、前記起歪体と同一種類の金属材料からなる。
【0034】
この実施態様によると、溶接用周壁を構成する起歪体と、溶接相手であるシール部材とが、同一種類の金属材料からなるので、異なる材料を溶接した場合のように、異なる材料の力学的な性質の相違等に起因してロードセルの特性が劣化するといったことがない。
【発明の効果】
【0035】
このように本発明のロードセルによれば、4個の各円弧状溝が貫通孔にそれぞれ近接する薄肉の4箇所を起歪部とし、従来の特許文献1のように貫通孔の周囲以外に大きなバネ定数を持つ起歪部が存在しないので、特許文献1のように、貫通孔の周囲の起歪部のバネ定数を小さくするために、貫通孔の周囲を広い幅で深く掘下げ加工し、薄い円筒部を形成すると共に、この円筒部の前後方向の長さも短く加工するといった必要がなく、正常な溶接ができるようにするための浅く幅の狭い簡単な加工を施すのみでよくコストを低減した防水型のロードセルを得ることができる。
【0036】
更に、貫通孔の外周の溶接用周壁を、歪ゲージを密封するための筒状のシール部材の端部に対応する大きさに形成することによって、溶接の際の熱を、溶接用周壁とシール部材の端部とに均等に伝達することができ、溶接不良が生じることなく、確実な溶接が可能となり、これによって、歪ゲージを完全に密封して防水を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態に係るロードセルの正面図である。
【
図5】
図5は本発明の他の実施形態のロードセルの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面によって本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0039】
図1は、本発明の一実施形態のロードセルの正面図であり、
図2は、その平面図である。
【0040】
この実施形態のロードセル1は、ステンレス鋼、あるいは、アルミニウムや鉄などの直方体状の金属弾性体から成る起歪体2を備えている。このロードセル1は、水平方向である左右方向(
図1,
図2の左右方向)の一端側の固定部3と、他端側の可動部4と、前記両部3,4の間に、起歪体2の厚み方向である前後方向(
図1,の紙面に垂直方向、
図2の上下方向)に貫通する直径Rの円形の貫通円孔5と、起歪体2の上側端面に形成された前後方向に貫通するように延びる断面円弧状の一対の上部円弧状溝6,7と、起歪体2の下側端面に形成された前後方向に貫通するように延びる断面円弧状の下部円弧状溝8,9と、固定部3側に形成されて、配線を接続収納する配線接続室10と、その開口部を密封する蓋体11等を備えている。
【0041】
この実施形態のロードセル1は、防水型であり、貫通円孔5の内周面の4箇所に貼着された歪ゲージ12a〜12dを密封するために、後述の拡大断面図である
図3及び
図4にも示すように、円筒状の金属製の円筒シール部材13を、貫通円孔5内に嵌め込み、溶接して密封している。
【0042】
図1に示すように、固定部3の下面側には、当該ロードセル1を、計量装置の基台26等のベースに固定するためのねじ孔14が形成されており、可動部4の左側の端面には、被計量物が載置される計量台15を支持する計量台用金具15aを取付けるためのねじ孔16が形成されている。
【0043】
一対の上部円弧状溝6,7は、前後方向に貫通するように、すなわち、前後方向の一方側の端面(正面)から他方側の端面(背面)に至るように、貫通円孔5に近接して形成される。そして起歪体2の上側端面との間に開放部が設けられる。
【0044】
同様に、一対の下部円弧状溝8,9は、前後方向に貫通するように、すなわち、前後方向の一方側の端面(正面)から他方側の端面(背面)に至るように、貫通円孔5に近接して形成される。そして起歪体2の下側端面との間に開放部が設けられる。
【0045】
各円弧状溝6〜9の円弧の直径rは、互いに等しく、貫通円孔5の直径Rより小さい。各円弧状溝6〜9は、前後方向に沿って貫通円孔5にそれぞれ平行に形成されている。開放部とは、
図1のロードセル1の場合、円弧状溝6,7,8,9の円周の一部が、起歪体2の上面及び下面によって途切れた部位をいう。
【0046】
可動部4と固定部3とは、その上下が、貫通円孔5の上側の一対の上部円弧状溝6,7の間の上ビーム部17、及び、貫通円孔5の下側の一対の下部円弧状溝8,9の間の下ビーム部18を介してそれぞれ連結されている。上部円弧状溝6,7は、上ビーム部17を挟んで左右対称の位置に形成され、下部円弧状溝8,9は、下ビーム部18を挟んで左右対称の位置に形成される。
【0047】
上部円弧状溝6,7及び貫通円孔5によって、上ビーム部17には、薄肉の起歪部19a,19bが形成される一方、下部円弧状溝8,9及び貫通円孔5によって、下ビーム部18には、薄肉の起歪部19c,19dが形成される。
【0048】
貫通円孔5から上部及び下部の各円弧状溝6,7;8,9までの距離aは、いずれも等しく、各起歪部19a〜19dの肉厚となる。負荷荷重に応じた歪を発生させる起歪部19a〜19dに対応して貫通円孔5の内周面には、その前後方向の中央部位に、歪ゲージ12a〜12dが貼着されている。貫通円孔5の直径Rは、歪ゲージ12a〜12dを貼着し、配線作業をするのに必要な大きさとなっている。
【0049】
計量台15から可動部4に負荷荷重が加えられたとき、4個の円弧状溝6〜9と貫通円孔5との間に形成された4箇所の薄肉部を起歪部19a〜19dとし、上側の上部円弧状溝6,7間の連結部を上ビーム部17とし、下側の下部円弧状溝8,9の間の連結部を下ビーム部18とする平行四辺形型のロードセルとして機能する。
【0050】
すなわち、ロードセル1に、計量台15を介して負荷荷重が可動部4に加えられると、貫通円孔5の外周の起歪部19a〜19dが撓み、貫通円孔5の内周面の歪ゲージ12a〜12dによって伸縮歪応力を検出し、負荷荷重が荷重信号に変換され、この荷重信号を演算処理して計量台15に印加された負荷荷重が算出される。
【0051】
図3は、
図1の矢視B−Bの拡大断面図であり、
図4は、
図1の矢視C−C拡大断面図である。
【0052】
この実施形態のロードセル1は、貫通円孔5の内周面に貼着された歪ゲージ12a〜12dを完全に密封するために、円筒状の円筒シール部材13を、貫通円孔5内に嵌め込み、ティグ(TIG)溶接やレーザー溶接によって接合している。
【0053】
円筒シール部材13は、金属製であり、その両端部が、やや大径のフランジ部13aとなっており、このフランジ部13aは、外方へ傾斜した傾斜部13a1と、前後方向に延びる接合部13a2とを備えている。
【0054】
この溶接は、貫通円孔5と円筒シール部材13の接合部13a2とを溶融させて接合するが、接合される部分の熱伝達特性及び熱容量を略等しくするために、次のように構成している。
【0055】
すなわち、前後方向(
図3,
図4の上下方向)の両端面には、円筒シール部材13の接合部13a2と略等しい大きさとなるように、貫通円孔5の周縁に溶接用周壁21が形成される。
【0056】
この溶接用周壁21を形成するために、
図1に示すように、貫通円孔5とこの貫通円孔5にそれぞれ近接する各円弧状溝6〜9との間の領域を通る環状溝20を形成している。
【0057】
この実施形態の環状溝20は、断面矩形であり、その幅Wは、貫通円孔5とこの貫通円孔5にそれぞれ近接する各円弧状溝6〜9との間の距離a未満の狭い幅である。また、
図3に示すように、環状溝20の深さDは、円筒シール部材13の大径のフランジ部13aの前後方向に沿う長さL1以下に浅く形成される。すなわち、溶接加熱によって、溶接用周壁21と円筒シール部材13とが接触する先端の極く短い部位が、均等に少量ずつ溶融すればよいので、溶接用周壁21の高さは低くてよい。
【0058】
したがって、貫通円孔5と環状溝20との間に形成される溶接用周壁21は、細く、低く形成され、この実施形態では、溶接用周壁21の幅及び高さは、円筒シール部材13の接合部13a2の厚さ及び長さに略等しくなるように形成される。
【0059】
これによって、貫通円孔5の周縁の溶接用周壁21と、円筒シール部材13の接合部13a2との熱伝達特性及び熱容量を略等しくすることができ、TIG(ティグ)溶接の際の熱が、溶接用周壁21と接合部13a2とに略均等に伝達され、溶接用周壁21と接合部13a2とを互いに均等に溶融させて接合することができる。
【0060】
したがって、熱伝導のアンバランスが生じていずれか一方が速く溶融して溶接不良が生じるといったことがなく、溶接用周壁21と円筒シール部材13とを確実に接合することができる。
【0061】
この溶接用周壁21と円筒シール部材13との接合によって、歪ゲージ12a〜12dが貼着された貫通円孔5の内周面が円筒シール部材13で完全に密封された気密室22が構成される。
【0062】
更に、この実施形態では、円筒シール部材13は、貫通円孔5の周縁の溶接用周壁21を構成する起歪体2と同一種類の金属材料からなる。
【0063】
このように同一種類の金属材料からなる円筒シール部材13の接合部13a2と貫通円孔5の周縁の溶接用周壁21とを、互いに溶融させて溶接することによって、異なる材料を用いた場合のように異なる材料の力学的な性質の相違等に起因してロードセルの特性が劣化するといったことがない。また、同一の熱伝導率であるから、同一のタイミングで溶融するので好都合である。
【0064】
上記のように貫通円孔5の内周面の歪ゲージ12a〜12dは、気密室22内に存在するため防水性能を有する。また、荷重信号検出用の配線も防水性能を持たせるため、
図1及び
図2に示すように、固定部3の内部には、貫通円孔5の内周面と配線接続室10とを繋ぐ配線孔23が形成される一方、固定部3の端部には、配線接続室10と外部とを接続するための接続孔24が形成される。気密室22から引き出される配線は、配線接続室10において、ロードセル1の外部から防水コネクタ25を介して導入された配線と接続される。配線接続室10も防水性能を有するように、円形の開口部には、外周部にフランジの付いた薄い金属製の蓋体11を設けて覆い、開口部の周縁と蓋体11のフランジとをティグ(TIG)溶接等によって接合し、完全密閉され防水性能の高い配線接続室10となっている。
【0065】
以上のように本実施形態によれば、4個の円弧状溝6〜9が貫通円孔5にそれぞれ近接する4箇所の薄肉部を起歪部19a〜19dとし、上部円弧状溝6,7の上側は開放され、下部円弧状溝8,9の下側は開放されているので、
図6の従来の特許文献1のような大きなバネ定数を持つ起歪部53a,53b;54a,54bが存在せず、起歪部19a〜19dを前後方向に薄くする必要がない、すなわち、特許文献1のように、第1貫通円孔55の起歪部56a〜56dのバネ定数を小さくするために、第1貫通円孔55の周囲を広い幅で深く掘下げ加工し、薄い円筒部55aを形成すると共に、この円筒部55aの前後方向の長さも短く加工するといった必要がなく、加工コストを低減した防水型のロードセル1を得ることができる。
【0066】
更に、貫通円孔5の内周面の歪ゲージ12a〜12dを密封するための円筒シール部材13を貫通円孔5に嵌め込んで溶接しているが、前後方向の両端面には、貫通円孔5を囲むように環状溝20を形成することによって、貫通円孔5の周縁に、円筒シール部材13の接合部13a2と略等しい大きさの溶接用周壁21を形成し、この溶接用周壁21と円筒シール部材13の接合部13a2とを溶接しているので、溶接の際の熱を、溶接用周壁21と円筒シール部材13の接合部13a2とに均等に伝達させることができ、溶接不良が生じることなく、確実な溶接が可能となり、歪ゲージ12a〜12dを完全に密封して気密・防水を図ることができる。
【0067】
また、環状溝20は、溶接用周壁21を形成するためだけのものであり、細く、浅く加工すればよく、加工が容易であると共に、起歪部19a〜19dのバネ定数へ与える影響は極めて小さく、無視することができる。すなわち、起歪部19a〜19dのバネ定数は、貫通円孔5と各円弧状溝6〜9との間の肉厚の大小によって決定すればよい。
【0068】
本実施形態のロードセル1では、小さい定格容量であっても、特許文献1の場合のように、貫通円孔5の周囲の起歪部19a〜19dの前後方向の厚みを薄くする必要がなく、すなわち、貫通円孔5の周囲を深く掘下げ加工する必要がなく、環状溝20は、溶接用周壁21を形成するための専用溝として浅く、狭く形成すればよい。
【0069】
図5は、本発明の他の実施形態のロードセルの正面図であり、上記実施形態に対応する部分には、同一の参照符号を付す。
【0070】
この実施形態のロードセル1aは、応答速度を高めるため、すなわち、固有振動数を高めるために、起歪部19a〜19dの各中立線が水平線とそれぞれなす角度αを、30度未満(α<30°)としている。なお、
図5では、起歪部19a,19bについてだけ前記角度αを示しているが、起歪部19c,19dも同様である。
【0071】
このようにすると、モーメントアームと呼ばれる固定部3側の起歪部19b,19dと、可動部4側の起歪部19a,19cとの間の距離L2を短くすることができ、同じ荷重に対する起歪部19a〜19dの撓み量が小さくなって、すなわち、バネ定数が大きくなってロードセル1aの固有振動数が高くなって高速応答が可能となる。
【0072】
その他の構成は、上記実施形態と同様である。
【0073】
上記各実施形態では、環状溝20の幅Wは、貫通円孔5とこの貫通円孔5にそれぞれ近接する各円弧状溝6〜9との間の距離a未満としたけれども、前記距離a以上としてもよい。
【0074】
また、環状溝20の深さDは、円筒シール部材13の大径のフランジ部13aの前後方向に沿う長さL1以下としたけれども、前記長さL1を超える深さとしてもよい。
【0075】
環状溝20の断面形状は、矩形に限らず、V字状やその他の形状であってよい、
貫通円孔5は、円形であったけれども、楕円形としてもよく、この場合には、楕円筒状のシール部材を用いればよい。
【符号の説明】
【0076】
1,1a ロードセル
2 起歪体
3 固定部
4 可動部
5 貫通円孔
6,7 上部円弧状溝
8,9 下部円弧状溝
9,10 下部貫通円孔
12a〜12d 歪ゲージ
13 円筒シール部材
13a フランジ部(大径部)
13a2 接合部
17 上ビーム部
18 下ビーム部
19a〜19d 起歪部
20 環状溝
21 溶接用周壁