特許第6437305号(P6437305)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6437305フライアッシュの流動性評価方法、およびフライアッシュ混合セメントの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6437305
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】フライアッシュの流動性評価方法、およびフライアッシュ混合セメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20181203BHJP
   C04B 7/26 20060101ALI20181203BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20181203BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20181203BHJP
【FI】
   G01N33/38
   C04B7/26
   C04B18/08 Z
   C04B28/02
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-264451(P2014-264451)
(22)【出願日】2014年12月26日
(65)【公開番号】特開2016-125833(P2016-125833A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】岸森 智佳
(72)【発明者】
【氏名】細川 佳史
(72)【発明者】
【氏名】久保田 修
(72)【発明者】
【氏名】安藝 朋子
(72)【発明者】
【氏名】平尾 宙
【審査官】 多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−194113(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102520114(CN,A)
【文献】 特開2011−013197(JP,A)
【文献】 特開2008−058205(JP,A)
【文献】 特開2010−043933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N33/00−33/46
C04B2/00−32/02、40/00−40/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定したフライアッシュ粒子の全粒子数に対する、面積円形度が0.5以上および投影面積が100μm以下であるフライアッシュ粒子の粒子数の比率が90%未満であるフライアッシュを、高流動性フライアッシュとして評価する、フライアッシュの流動性評価方法。
【請求項2】
測定したフライアッシュ粒子の全粒子数に対する、フライアッシュ粒子の面積円形度が0.5以上およびフライアッシュ粒子の投影面積が100μm以下であるフライアッシュ粒子の粒子数の比率と、フライアッシュ粒子の面積円形度の分散とに基づき、フライアッシュの流動性を評価する、フライアッシュの流動性評価方法。
【請求項3】
測定したフライアッシュ粒子の全粒子数に対する、前記面積円形度が0.5以上および前記投影面積が100μm以下であるフライアッシュ粒子の粒子数の比率が99%未満であって、かつ下記の取得方法により得られる前記面積円形度の分散の積算値が0.01以上であるフライアッシュを、高流動性フライアッシュとして評価する、請求項に記載のフライアッシュの流動性評価方法。
<面積円形度の分散の積算値の取得方法>
フライアッシュ粒子の面積円形度を縦軸にとり、
フライアッシュ粒子の投影面積を横軸にとり、
該縦軸および横軸に垂直な第三の軸である度数(すなわち粒子数)の軸をとり、
フライアッシュ粒子の投影面積毎に、フライアッシュ粒子の度数分布から面積円形度の分散を求め、
さらに、該面積円形度の分散を縦軸に、フライアッシュ粒子の投影面積を横軸にとった座標上に描かれた、前記面積円形度の分散を示す曲線を、投影面積が1μm以下の領域で積分することにより、面積円形度の分散の積算値を取得する方法
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載のフライアッシュの流動性評価方法を用いてフライアッシュを評価し、高流動性フライアッシュとして評価されたフライアッシュと、セメントを混合してフライアッシュ混合セメントを製造する、フライアッシュ混合セメントの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モルタルおよびコンクリートの流動性を向上させるフライアッシュ(以下「高流動性フライアッシュ」という。)を簡便に評価できるフライアッシュの流動性評価方法、該流動性評価方法により高流動性と評価された高流動性フライアッシュ、および該高流動性フライアッシュとセメントを混合したセメントに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート用フライアッシュの品質規格であるJIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」は、フライアッシュの粉末度、該フライアッシュを含むモルタルのフロー値比、および、各種コンクリート用混和剤との相性に影響する未燃炭素量に代わる指標としての強熱減量等を用いて、フライアッシュをI種〜IV種の4種類に区分している。そして、該JISの「解説」では、標準的なフライアッシュをII種に分類している。
【0003】
元来、フライアッシュは球状の微粒子であるため、コンクリート等に用いるとボールベアリング作用により、コンクリート等の流動性が向上して単位水量の低減効果があるとされてきた。しかし、II種の規格を満足するフライアッシュでも、コンクリートの流動性が向上しない場合があり、コンクリートの流動性を正しく管理できるフライアッシュの新たな流動性管理項目が求められている。
【0004】
かかる状況から、特許文献1では、コンクリート用混和剤の含有量を3種類以上変化させて調製したセメントペーストを用いてフロー試験を実施し、該試験結果から流動性を評価するフライアッシュの品質評価方法を提案している。しかし、該品質評価方法はコンクリートの試し練りを、混和剤の含有量を指標としてセメントペーストのフローで代替する方法であり、フライアッシュの新たな流動性管理項目を提供するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−194113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、前記のようにフローを実測することなく、フライアッシュをコンクリート、およびモルタル等に用いた場合、該コンクリート等の流動性が向上するか否かを簡易かつ高い精度で評価できる、フライアッシュの流動性評価方法等を提供することを目的とする。
なお、本発明において、フライアッシュを含むコンクリート、モルタル、およびセメントペーストの流動性を、単に、フライアッシュの流動性という。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はフライアッシュの流動性評価方法について鋭意検討した結果、フライアッシュの流動性は、フライアッシュ粒子の面積円形度と投影面積等により評価できることを見い出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は下記の構成を有するフライアッシュの流動性評価方法等である。
[1]測定したフライアッシュ粒子の全粒子数に対する、面積円形度が0.5以上および投影面積が100μm以下であるフライアッシュ粒子の粒子数の比率が90%未満であるフライアッシュを、高流動性フライアッシュとして評価する、フライアッシュの流動性評価方法。
[2]測定したフライアッシュ粒子の全粒子数に対する、フライアッシュ粒子の面積円形度が0.5以上およびフライアッシュ粒子の投影面積が100μm以下であるフライアッシュ粒子の粒子数の比率と、フライアッシュ粒子の面積円形度の分散とに基づき、フライアッシュの流動性を評価する、フライアッシュの流動性評価方法。
[3]測定したフライアッシュ粒子の全粒子数に対する、前記面積円形度が0.5以上および前記投影面積が100μm以下であるフライアッシュ粒子の粒子数の比率が99%未満であって、かつ下記の取得方法により得られる前記面積円形度の分散の積算値が0.01以上であるフライアッシュを、高流動性フライアッシュとして評価する、前記[]に記載のフライアッシュの流動性評価方法。
<面積円形度の分散の積算値の取得方法>
フライアッシュ粒子の面積円形度を縦軸にとり、
フライアッシュ粒子の投影面積を横軸にとり、
該縦軸および横軸に垂直な第三の軸である度数(すなわち粒子数)の軸をとり、
フライアッシュ粒子の投影面積毎に、フライアッシュ粒子の度数分布から面積円形度の分散を求め、
さらに、該面積円形度の分散を縦軸に、フライアッシュ粒子の投影面積を横軸にとった座標上に描かれた、前記面積円形度の分散を示す曲線を、投影面積が1μm以下の領域で積分することにより、面積円形度の分散の積算値を取得する方法
[4]前記[1]〜[]のいずれかに記載のフライアッシュの流動性評価方法を用いてフライアッシュを評価し、高流動性フライアッシュとして評価されたフライアッシュと、セメントを混合してフライアッシュ混合セメントを製造する、フライアッシュ混合セメントの製造方法
【発明の効果】
【0009】
本発明のフライアッシュの流動性評価方法によれば、高流動性フライアッシュとしての適否を、簡易かつ高い精度で評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】縦軸がフライアッシュ粒子の面積円形度、横軸がフライアッシュ粒子の投影面積である座標上に、フライアッシュ粒子A〜Hの分布(黒い部分)を示した図である。
図2】縦軸がフライアッシュ粒子の面積円形度の分散、横軸がフライアッシュの投影面積である座標上に、フライアッシュ粒子A〜Hの面積円形度の分散を表す曲線を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、フライアッシュの流動性評価方法、高流動性フライアッシュ、およびフライアッシュ混合セメントの順に詳細に説明する。
【0012】
1.フライアッシュの流動性評価方法
(1)フライアッシュ粒子の面積円形度および投影面積
初めに、フライアッシュ粒子の面積円形度とフライアッシュ粒子の投影面積とに基づく、フライアッシュの流動性評価方法について説明する。
フライアッシュ粒子の面積円形度とは、(4π×フライアッシュ粒子の投影面積)/(フライアッシュ粒子の投影の周囲の長さの2乗)であり、フライアッシュ粒子の形状が球に近づく程、面積円形度は1に近づく。
また、フライアッシュ粒子の投影面積とは、該粒子に真上から平行光線を投光したときに、下の平面に映った該粒子の影の面積をいい、また、フライアッシュ粒子の投影の周囲の長さとは、該粒子に真上から平行光線を投光したときに、下の平面に映った該粒子の影の周囲の長さをいう。
【0013】
そして、フライアッシュ粒子の投影面積、およびフライアッシュ粒子の投影の周囲の長さを計測する方法は、例えば、評価対象のフライアッシュ粒子が分散したプレパラートを光学顕微鏡に載置して、画像式粒度分布測定装置を用いて行なう。また、乾式分級装置を装備した画像式粒度分布測定装置を用いれば、フライアッシュ粒子の1粒1粒が分散した状態の静止画像が得られるため好ましい。また、前記計測に用いる粒子数は、好ましくは5,000粒以上、より好ましくは10,000粒以上、さらに好ましくは20,000粒以上、特に好ましくは50,000粒以上である。
【0014】
フライアッシュ粒子の面積円形度とフライアッシュ粒子の投影面積とに基づくフライアッシュの流動性評価方法は、好ましくは、測定したフライアッシュ粒子の全粒子数に対する、前記面積円形度が0.5以上および前記投影面積が100μm以下であるフライアッシュ粒子の粒子数の比率(以下「特定粒子比率」という。)が90%未満であるフライアッシュを、高流動性フライアッシュとして評価する方法である。該方法によれば、高流動性フライアッシュとしての適否を、簡易に評価できる。
なお、上記特定粒子比率の下限値は70%である。該特定粒子比率が70%未満では、コンクリートの強度発現性等が低下するおそれがある。
【0015】
(2)フライアッシュ粒子の面積円形度の分散
次に、特定粒子比率と、フライアッシュ粒子の面積円形度の分散とに基づく、フライアッシュの流動性評価方法について説明する。
図1は、フライアッシュ粒子の面積円形度を縦軸にとり、フライアッシュ粒子の投影面積を横軸にとった座標上で、フライアッシュ粒子の分布の状況を示している。そして、図1の縦軸および横軸に垂直な第三の軸である度数(すなわち粒子数)の軸をとり、フライアッシュ粒子の投影面積毎に、フライアッシュ粒子の度数分布から分散を求めた。そして、図2は、該分散を縦軸に、フライアッシュ粒子の投影面積を横軸にとった座標上に、前記分散を表す曲線を示したグラフである。
【0016】
特定粒子比率と、フライアッシュ粒子の面積円形度の分散とに基づく、フライアッシュの流動性評価方法では、好ましくは、特定粒子比率が99%未満、かつ面積円形度の分散の積算値が0.01以上のフライアッシュを、高流動性フライアッシュとして評価する方法である。該方法によれば、高流動性フライアッシュとしての適否を、比較的簡易かつ高い精度で評価できる。なお、該方法において、特定粒子比率は、より好ましくは95%以下、特に好ましくは90%以下である。また、前記面積円形度の分散の積算値は、より好ましくは0.014以上である。
前記面積円形度の分散の積算値とは、投影面積が1μm以下の領域で面積円形度の分散を示す曲線を積分した値であり、台形公式等の数値積分により求めることができる。
【0017】
2.高流動性フライアッシュ、およびフライアッシュ混合セメント
本発明の高流動性フライアッシュは、前記[1]〜[4]に記載のいずれかのフライアッシュの流動性評価方法を用いて、高流動性フライアッシュとして評価されたフライアッシュからなるものである。
また、本発明のフライアッシュ混合セメントは、セメントと、前記高流動性フライアッシュとを混合してなる混合セメントである。前記セメントは、特に制限されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、およびエコセメントからなる群から選ばれる1種以上である。また、前記セメントと、前記高流動性フライアッシュの混合装置は、ボールミルやヘンシェルミキサ等を用いることができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.使用材料
表1に示す産地やロットの異なるフライアッシュA〜Hを使用した。
【0019】
【表1】
【0020】
2.フライアッシュ粒子の面積円形度、および面積円形度の分散の測定
フライアッシュA〜Hのそれぞれ50,000粒を対象にして、乾式分級装置を用いて一粒一粒が分散した状態にした後、光学顕微鏡によりフライアッシュ粒子の画像を撮影して解析した。該画像の撮影と解析にはマルバーン社製の「Morphologi G3」を使用した。フライアッシュA〜Hの面積円形度が0.5以上および投影面積が100μm以下のフライアッシュ粒子の分布状況を図1に示す。また、50,000粒中の面積円形度が0.5以上および投影面積が100μm以下のフライアッシュ粒子の比率(特定粒子比率(%))を表2に示す。
【0021】
また、撮影した画像のデジタルデータから、統計処理ソフトを用いて面積円形度の分散を算出し、投影面積が1μmの領域における分散の積算を台形公式により近似して求めた。求めた分散値のグラフ(縦軸は面積円形度の分散、横軸は投影面積)を図2に示す。また、投影面積が1μm以下の領域における面積円形度の分散の積算を表2に示す。
【0022】
3.フライアッシュA〜Hを含むモルタルの流動性の測定
フライアッシュA〜Hの流動性を確認するため、該フライアッシュを含むモルタルを用いてフロー試験を行った。具体的には、フライアッシュA〜Hのそれぞれ25質量%と、普通ポルトランドセメント75質量%とを混合した後、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に準拠してモルタルを作製し、フロー試験を行った。得られたフロー値を表2に示す。
【0023】
【表2】
【0024】
表2に示すように、
(1)フライアッシュ粒子の面積円形度とフライアッシュ粒子の投影面積とに基づくフライアッシュの流動性評価方法では、特定粒子比率が90%未満のフライアッシュA、C、D、およびHは、フライアッシュを使用していないモルタルよりも流動性が向上している。よって、特定粒子比率が90%未満のフライアッシュは、高流動性フライアッシュとして評価できる。
また、
(2)特定粒子比率とフライアッシュ粒子の面積円形度の分散とに基づくフライアッシュの流動性評価方法では、特定粒子比率が99%未満かつ面積円形度の分散の積算値が0.01以上のフライアッシュA、C、D、E、およびHは、フライアッシュを使用していないモルタルよりも流動性が向上している。よって、特定粒子比率が99%未満かつ面積円形度の分散の積算値が0.01以上のフライアッシュは、高流動性フライアッシュとして評価できる。
なお、この特定粒子比率とフライアッシュ粒子の面積円形度の分散とに基づくフライアッシュの流動性評価方法は、上記特定粒子比率のみから評価する方法では高流動性フライアッシュとして評価されなかったフライアッシュEを高流動性フライアッシュとして評価でき、特定粒子比率のみから評価する方法よりも評価の精度が高い。
図1
図2