(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6437306
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】高流動フライアッシュの判別方法、およびフライアッシュ混合セメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20181203BHJP
C04B 7/26 20060101ALI20181203BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20181203BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20181203BHJP
【FI】
G01N33/38
C04B7/26
C04B18/08 Z
C04B28/02
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-264628(P2014-264628)
(22)【出願日】2014年12月26日
(65)【公開番号】特開2016-125845(P2016-125845A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年10月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141966
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 範彦
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【弁理士】
【氏名又は名称】衡田 直行
(72)【発明者】
【氏名】安藝 朋子
(72)【発明者】
【氏名】久保田 修
(72)【発明者】
【氏名】細川 佳史
(72)【発明者】
【氏名】岸森 智佳
(72)【発明者】
【氏名】平尾 宙
【審査官】
多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−194113(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第102520114(CN,A)
【文献】
特開2011−013197(JP,A)
【文献】
特開2010−043933(JP,A)
【文献】
特開2013−195369(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0052921(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N33/00−33/46
C04B2/00−32/02、40/00−40/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(C)工程を経て得られた、へマタイトまたはマグネタイトと、非晶質相とが併存する相の体積率が、6.0体積%以上であるフライアッシュを、高流動性フライアッシュとして判別する、高流動性フライアッシュの判別方法。
(A)フライアッシュ粒子の反射電子像、および後方散乱電子回折パターンを取得する、反射電子像および後方散乱電子回折パターンの取得工程
(B)フライアッシュ粒子を特定するために設けた閾値に基づき、前記取得した反射電子像を二値化し、該二値化した像に基づきフライアッシュ粒子を特定する、フライアッシュ粒子の特定工程
(C)フライアッシュ粒子中のFe2O3の含有率が25質量%以上、かつAl2O3およびSiO2の合計の含有率が50質量%未満である領域を、へマタイトまたはマグネタイトと、非晶質相とが併存する相として識別する、へマタイトまたはマグネタイトと非晶質相とが併存する相の識別工程
【請求項2】
請求項1に記載の高流動性フライアッシュの判別方法を用いてフライアッシュを判別し、高流動性フライアッシュとして判別されたフライアッシュと、セメントを混合してフライアッシュ混合セメントを製造する、フライアッシュ混合セメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートおよびモルタルの流動性を向上させるフライアッシュ(以下「高流動性フライアッシュ」という。)の判別方法、該判別方法により判別して得られる高流動性フライアッシュ、および該高流動性フライアッシュとセメントを混合して得られる混合セメントに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、フライアッシュは球状粒子であり、コンクリートに添加するとフライアッシュのボールベアリング作用により、コンクリートの流動性が向上すると云われている。
通常、フライアッシュの流動性は、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」、およびその付属書2に記載のフロー値比により規定されている。ちなみに、フライアッシュI種、II種、III種、およびIV種のフロー値比は、それぞれ105%以上、95%以上、85%以上、および75%以上である。なお、前記フロー値比は下記式により求める。
フロー値比(%)=100×試験モルタルのフロー値/基準モルタルのフロー値
ここで、試験モルタルとは、フライアッシュ含有モルタルをいい、基準モルタルとは、フライアッシュを含有しないモルタルをいう。
【0003】
しかし、前記II〜IV種のフライアッシュのフロー値比の下限値が95〜75%と100%以下である点は、基準モルタルに比べ試験モルタルの流動性が劣る例を示唆しており、フライアッシュによっては流動性が低下する場合がある。実際、顕微鏡を用いてフライアッシュ粒子を観察すると、球体のほかに、中空体、凝集体、いびつな粒子等の非球体が存在する。
したがって、フライアッシュの高流動性の有無を簡易に判別できる手段があれば、高流動性フライアッシュが容易に得られ、流動性が向上したフライアッシュ含有コンクリートを安定的に製造できる。
【0004】
フライアッシュの流動性を評価(判別)する方法として、特許文献1では下記の方法が提案されている。すなわち、該方法は、セメント、水、評価対象のフライアッシュ、および使用予定の減水剤の量を変化させた3種類以上の配合の基準ペーストを調製してフロー試験を行い、フライアッシュの流動性を評価する方法である。しかし、該方法は、試験体としてモルタルの代わりにセメントペーストを用いるという違いはあるが、フライアッシュを含む試験体を作製してフロー試験を行う点では前記JISに規定するフロー値比の試験方法と共通する。また、該評価方法は、1試料当たり3種類以上の配合の基準ペーストを調製してフロー試験を行わなければならず、手間がかかり煩雑である。
したがって、フロー試験を実施しなくても、簡易に高流動性フライアッシュを判別できる方法が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−194113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、フロー試験を実施しなくても、簡易に高流動性フライアッシュを判別できる方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、高流動性フライアッシュを判別できる指標を解明するため、フライアッシュが有する種々の特性値とフライアッシュの流動性との関連を検討した。その結果、下記文献aに記載の粒子解析を用いて求めた特定の構成相の体積率は、高流動性フライアッシュを判別する指標になることを見出し、本発明を完成させた。
文献a:高橋晴香ほか、「SEM−EDS/EBSDおよび粒子解析を用いたFAのキャラクタリゼーション」、太平洋セメント研究報告、第162号、3−14頁(2012)
【0008】
すなわち、本発明は下記の構成を有する高流動性フライアッシュの判別方法
、およびフライアッシュ混合セメント
の製造方法である。
[1]下記(A)〜(C)工程を経て得られた、へマタイトまたはマグネタイトと、非晶質相とが併存する相の体積率が、6.0体積%以上であるフライアッシュを、高流動性フライアッシュとして判別する、高流動性フライアッシュの判別方法。
(A)フライアッシュ粒子の反射電子像、および後方散乱電子回折パターンを取得する、反射電子像および後方散乱電子回折パターンの取得工程
(B)フライアッシュ粒子を特定するために設けた閾値に基づき、前記取得した反射電子像を二値化し、該二値化した像に基づきフライアッシュ粒子を特定する、フライアッシュ粒子の特定工程
(C)フライアッシュ粒子中のFe
2O
3の含有率が25質量%以上、かつAl
2O
3およびSiO
2の合計の含有率が50質量%未満である領域を、へマタイトまたはマグネタイトと、非晶質相とが併存する相として識別する、へマタイトまたはマグネタイトと非晶質相とが併存する相の識別工程
[2]前記[1]に記載の高流動性フライアッシュの判別方法を用いて
フライアッシュを判別し、高流動性フライアッシュとして判別されたフライアッシュ
と、セメントを混合してフライアッシュ混合セメントを製造する、フライアッシュ混合セメントの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高流動性フライアッシュの判別方法は、フロー試験を実施しなくても、簡易に高流動性フライアッシュを判別できる。また、本発明の高流動性フライアッシュおよびフライアッシュ混合セメントは、コンクリートおよびモルタルの流動性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の高流動性フライアッシュの判別方法は、前記(A)BSE像およびEBSDパターンの取得工程、(B)フライアッシュ粒子の特定工程、(C)HMA相の識別工程を経て得られたHMA相の体積率が、6.0体積%以上であるフライアッシュを、高流動性フライアッシュとして判別する方法等である。以下、本発明について、高流動性フライアッシュの判別方法の各工程と、高流動性フライアッシュ、およびフライアッシュ混合セメントとに分けて説明する。
【0011】
1.高流動性フライアッシュの判別方法
(A)BSE像およびEBSDパターンの取得工程
該取得工程は、フライアッシュ粒子と樹脂を練り混ぜて硬化させて作製した試料と、電界放出形走査電子顕微鏡(以下「FE−SEM」という。)、BSE検出器、およびEBSD検出器とを用いて、フライアッシュ粒子のBSE像およびEBSDパターンを取得する工程である。以下に、BSE像およびEBSDパターンについて説明する。
(i)BSE像
BSE像はグレイレベルの濃淡で表わされ、反射電子が発生した領域に存在する原子の原子番号の平均値を反映し、該値が大きい程、BSE像は明るい、すなわちグレイレベルは淡い。したがって、フライアッシュ粒子の間においてグレイレベルの濃淡の差が大きい場合は、該粒子の間において化学組成の違いが大きいことを示す。後記するように、BSE像はさらに二値化処理した後に、フライアッシュ粒子の特定に用いる。
(ii)EBSDパターン
EBSDパターンは、電子線をフライアッシュ粒子に入射することにより生じ、EBSDパターンが存在する領域は結晶相と、また該パターンが存在しない領域は非晶質相と判定する。
なお、測定に用いるフライアッシュ粒子の数は、精度を高めるために、好ましくは、1000個以上である。
【0012】
(B)フライアッシュ粒子の特定工程
該特定工程は、前記BSE像のグレイレベルに基づきヒストグラムを作成し、該ヒストグラムからフライアッシュ粒子を抽出するための閾値を決定した後、該閾値を用いてBSE像を二値化処理してフライアッシュ粒子を特定する工程である。閾値は、例えば、FE−SEMの測定条件が、照射電流300pA、加速電圧15keVの場合、明度が100以上の領域をフライアッシュ粒子と特定する。
【0013】
(C)HMA相の識別工程
該識別工程は、前記取得したEBSDパターンに基づき、前記特定したフライアッシュ粒子の結晶相および非晶質相の化学組成を、例えばエネルギー分散型X線分光器(以下「EDS」という。)とFE−SEMを用いて測定した後、Fe
2O
3の含有率が25質量%以上、かつAl
2O
3およびSiO
2の合計の含有率が50質量%未満である領域を識別して、該領域をHMA相と定める工程である。
【0014】
本発明においては、上記HMA相の体積率が、6.0体積%以上(好ましくは、9.0体積%以上、より好ましくは11.0体積%以上、特に好ましくは14.0体積%以上)であるフライアッシュを、高流動性フライアッシュとして判別する。該高流動性フライアッシュは、特に、3CaO・Al
2O
3の含有量が多いセメントと組合せた場合、流動性が高い。
【0015】
2.高流動性フライアッシュ、およびフライアッシュ混合セメント
本発明の高流動性フライアッシュは、前記[1]に記載の高流動性フライアッシュの判別方法を用いて、高流動性フライアッシュとして判別されたフライアッシュからなるものである。
また、本発明のフライアッシュ混合セメントは、前記高流動性フライアッシュとセメントとを混合してなる混合セメントである。該セメントは、特に制限されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、およびエコセメントからなる群から選ばれる1種以上である。また、前記セメントと前記高流動性フライアッシュの混合装置は、例えば、ボールミルやヘンシェルミキサ等が挙げられる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.フライアッシュ粒子の粒子解析
前記文献aに記載の方法に準拠して粒子解析を行った。以下に詳細に説明する。
(1)試料の調製
表1に示す5種類のフライアッシュ(FA1〜FA5)それぞれと、低粘性エポキシ樹脂を質量比で1:1の割合で練り混ぜ、樹脂の硬化後に5×5×2mm程度の大きさに切断した。この切断片をクロスセクションポリッシャー(日本電子社製、SM-09020、アルゴンイオンビーム)を用いて、加速電圧6keV、研磨時間10時間の条件で研磨し、最後にカーボンを約5nmの厚さで蒸着した。
【0017】
【表1】
【0018】
(2)HMA相の体積率の算出
該算出作業は、(A)BSE像およびEBSDパターンの取得工程、(B)フライアッシュ粒子の特定工程、および(C)HMA相の識別工程の順に行った。以下、各工程に分けて説明する。
【0019】
(A)BSE像およびEBSDパターンの取得工程
前記調製した試料と、BSE検出器およびEBSD検出器を備えたFE−SEMを用いて、フライアッシュ粒子のBSE像とEBSDパターンを取得した。なお、使用した装置と分析条件は以下に示す。
・BSE検出器:日本電子社製、SM−54060RBEI
・BSE測定条件:加速電圧15keV、照射電流 300pA、倍率 1000倍
・EBSD検出器:オックスフォードインストゥルメンツ社製 HKL Channe15
・EBSD測定条件:加速電圧3keV、倍率は観察対象に応じて選択した。
・FE−SEM:日本電子社製、JSM−7001F(電界放出型)
【0020】
(B)フライアッシュ粒子の特定
次に、フライアッシュ粒子を抽出するために設けた閾値(明度100以上)に基づき、BSE像を二値化して、該二値化した像に基づきBSE像中のフライアッシュ粒子を特定した。
【0021】
(C)HMA相の識別工程
前記取得したEBSDパターンに基づき、前記特定したフライアッシュ粒子の結晶相および非晶質相の化学組成を、FE−SEMおよびEDSを用いて測定した後、Fe
2O
3の含有率が25質量%以上、かつAl
2O
3およびSiO
2の合計の含有率が50質量%未満である領域を識別して、該領域をHMA相と定めた。各フライアッシュのHMA相の体積率(体積%)を表2に示す。また、参考として、蛍光X線元素分析により求めた各フライアッシュのFe
2O
3の含有率(質量%)も表2に示す。
なお、使用した装置と分析条件を以下に示す。
・EDS検出器:オックスフォードィンストゥルメンツ社製、INCA energy
・EDS測定条件:加速電圧15keV、照射電流 300pA、ワーキングディスタンス 10mm、分析時間 100sec/測定点
【0022】
2.フライアッシュを含むモルタルの流動性の測定
前記フライアッシュ(FA1〜FA5)の流動性を確認するため、前記フライアッシュのそれぞれ25質量%と、3CaO・Al
2O
3を9質量%および10質量%含む2種類の普通ポルトランドセメントのそれぞれ75質量%とを混合した後、モルタルを作製しフロー試験を行った。
モルタルの配合は質量比で、細骨材/(セメント+フライアッシュ)=2.0、水/(セメント+フライアッシュ)=0.35、および減水剤/(セメント+フライアッシュ)=0.007(すなわち、セメント+フライアッシュ100質量部に対し減水剤は0.7質量部)とした。モルタルの混練は、ホバートミキサーを用いて低速で2.5分間、続けて高速で3分間混練した。
前記混錬したモルタルを、ミニスランプコーン(JIS A 1171:2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」に規定する鋼製スランプコーン)の中に投入し、該コーンを上方へ取り去った時のモルタルの広がり(フロー値)を測定した。
なお、前記細骨材はJIS R 5201に規定する標準砂を、また、前記減水剤はポリカルボン酸系高性能AE減水剤(商品名:レオビルドSP8N[登録商標]、BASFポゾリス社製)を用いた。
3CaO・Al
2O
3を9質量%含む普通ポルトランドセメント含有モルタル(以下「N9」という。)のフロー値と、3CaO・Al
2O
3を10質量%含む普通ポルトランドセメント含有モルタル(以下「N10」という。)のフロー値を表2に示す。
【0023】
【表2】
【0024】
表2に示すように、FA2〜5のフロー値は、N9で305〜323mm、N10で279〜290mmであるのに対し、FA1のフロー値はN9で349mm、N10で338mmと、N9とN10のいずれのモルタルにおいても、FA1を含有するモルタルのフロー値は格段に大きい。そして、FA2〜5のHMA相の体積率は1.07〜2.79であるのに対し、FA1のHMA相の体積率は14.7体積%と、数値に明確な差があるから、フライアッシュ粒子中のHMA相の体積率は、高流動性フライアッシュを判別する指標として有用である。ちなみに、FA1〜5のF
2O
3の含有率は3.88〜5.56と大差はなく、高流動性フライアッシュを判別する指標として有用ではない。