(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を、列車運行システムにおける運行情報配信を例にして、図に基づいて説明する。
図1は、運行情報配信システムのブロック構成図である。運行情報配信システムは、分散計算機システムとして構成され、主として、計算機システム1と、ストレージシステム2とを備えている。
【0009】
計算機システム1は、運行情報配信制御プログラムを実行する中央処理装置1100を備え、ストレージ装置2は、データを蓄積するデータベース1200を備えている。さらに、計算機システム1は、ユーザーからの入力を受け付ける入力装置1300、ダイヤ図をはじめとする各種GUIを表示する表示装置1400を備える。
【0010】
運行情報配信システムは、さらに、通信経路となるネットワーク1500、車掌や運転士といった乗務員に対して業務情報を伝達する乗務員区所装置1600、列車の実績時刻の取得や旅客への案内を行う駅装置1700とを備える。
【0011】
中央処理装置1100は、運行情報配信制御プログラムを実行することにより、列車の遅延等に伴う運行計画の変更を起因として、現在から所定時間の範囲(例えば、未来数時間範囲)を対象とした、列車の駅到着時刻や駅出発時刻に係る予測情報(予測時刻)を取得する予測演算部1110、予測時刻間の因果関係を表す構造データを生成する列車運行ネット生成部1120、予測時刻に対して変動要因を設定する予測変動要因設定部1130、予測時刻が確定した値になり得るかの程度(確定度)を演算する予測確定度演算部1140、予測時刻を基に乗務員行路の変更に係る提案情報を生成する行路提案生成部1150、予測時刻、予測変動確率(確定度)、行路変更提案情報を乗務員区所や駅へ送信する予測情報送信部1160、予測時刻の確からしさを検証する予測確定度検証部1170を実現する。
【0012】
データベース1200には、運行計画および実績時刻のダイヤデータを格納するダイヤデータテーブル1210、乗務員の運用計画データを格納する行路データテーブル1220、予測時刻間の因果関係データを格納する列車運行ネットワークテーブル1230、予測時刻の変動要因と変動確率データ(確定度)を格納する予測確定度定義テーブル1240、予測時刻に対して今後実施されると想定されるダイヤ変更のパターンと実施確率データを格納するダイヤ変更パターンテーブル1250、予測時刻と予測時刻の確定度データを格納する予測確定度履歴テーブル1260、乗務員行路の変更案データを格納する行路提案テーブル1270が記録されている。
【0013】
入力装置1300はマウスやキーボードなど、計算機への汎用的な入力デバイスである。表示装置1400はディスプレイなどの出力デバイスである。乗務員区所装置1600は各乗務員区所に備わる装置であり、運行情報や行路の変更情報など、乗務員に対して業務に必要な情報伝達を行う。駅装置1700は各駅に備わる装置であり、実績時刻や旅客への運行情報の案内を行う。中央処理装置1100と、乗務員区所装置1600、並びに、駅装置1700とは広域ネットワーク1500を介して情報の送受信を行うことができる。
【0014】
図2は、中央処理装置1100の各処理部の動作を示すフローチャートである。ステップ2100では、予測演算部1110は、ダイヤデータテーブル1210の情報をもとに未来数時間分の列車運行予測時刻を取得して設定する。
【0015】
図3はダイヤデータテーブル1210、行路データテーブル1220のデータ(運行計画)をダイヤ図として表わしたもので、A駅とB駅の間を列車が往復することを示している。縦軸は走行区間、横軸は時間を表している。斜線は列車の運行を示しており、例えば、線分3111はA駅からB駅まで走る列車を表している。また、斜線同士を結ぶ線分は同一車両によって列車が運行されることを表しており、列車a(3111)、列車b(3112)、列車c(3113)は同一車両の列車であることを表している。同様に列車d(3121)、列車e(3122)、列車f(3123)が同一車両、列車g(3131)、列車h(3132)が同一車両となる。
【0016】
斜線を結ぶ太線は乗務員の運用企画を示しており、線分3211は列車a(3111)と列車e(3122)を同一の乗務員が乗り継ぐことを示しており、線分3212は列車e(3122)と列車f(3123)を同一の乗務員が乗り継ぐことを示しており、従って、列車a(3111)、列車e(3122)、列車f(3123)を同一乗務員が乗務する。同様に列車d(3121)、列車g(3131)、列車c(3113)とに同一員が乗務し、列車b(3112)、列車h(3132)に同一員が乗務する。なお、線分3300は現時刻線を表しており、現在時刻が9:00であることを示している。
【0017】
図4は
図3に示すダイヤ図を、予測演算部1110によって得られた予測時刻に基づいて変更したものである。列車a(4111)のA駅出発時刻が9:00まで30分遅延、列車e(4122)のB駅出発時刻が9:15まで遅延した状況が示されている。なお、列車aの遅延は走行実績として現れた遅延であり、列車eの遅延は遅延が見込まれるとしてオペレータが中央処理装置1100に入力した遅延とする。
【0018】
列車a、列車eの遅延を受けて他列車にも遅延が発生する。例えば、列車b(4112)は先行出発列車である列車e(4122)の遅延の影響により遅延が発生しており、列車c(4113)は同一車両で走行する列車b(4112)の遅延を受けて遅延が発生している。予測時刻は乗務員の行路に対する影響、即ち、乗務員の乗務に対する支障の有無も示している。例えば、行路4211は、同一乗務員が列車a(4111)と列車e(4122)の乗継を表しているが、乗継時間が十分に取れていないことを示しており、また、行路4231は、同一乗務員が列車g(4131)から列車c(4113)へ乗り継ぐべきであるが、列車g(4131)の到着前に列車c(4113)が出発してしまうため、乗継ができないことを示している。
【0019】
図2のステップ2200では、列車運行ネット生成部1120が列車運行ネットワークの生成を行う。列車運行ネット生成部1120は予測時刻間に存在する因果関係をグラフデータとして表示装置1400に表出する。
図5は予測時刻間の因果関係をネットワークグラフとして示した図である。丸印で示すノードは予測時刻、矢印で示すリンクは予測時刻間の因果関係を示す。ノード中の記号は列車、および、駅を示している。
図5は、
図4に示す予測演算結果をネットワークグラフとして示しており、例えば、ノード5111はA駅列車a(4111)の予測時刻を表している。リンク5202はA駅列車a(4111)の予測時刻とノード5112で示すB駅列車a(4111)の予測時刻間に因果関係があることを表しており、即ち、列車a(4111)がA駅からB駅に辿り着くまでの走行時間に関する因果関係を表している。
【0020】
リンクには通常線と太線の2種の態様があり、太線で示されるすリンクは予測時刻決定に寄与したことを示している。例えば、ノード5113で示すB駅列車b(4122)の予測時刻に対しては、同一車両で運転する列車a(4111)のB駅到着時刻(ノード5112)との間の依存関係リンク5203と、先行列車列である列車e(4122)の出発時刻(ノード5131)との間の依存関係リンク5205の2つが接続されているが、B駅列車b(4112)の予測時刻決定に寄与するのは太線で示す列車e(4122)のB駅出発時刻からの因果関係(依存関係リンク5205)によるものであることを示している。
【0021】
図6は列車運行ネットワークテーブル1230の構成を示し、
図5のネットワークグラフに対応したものである。1つのリンクが各列のレコードに対応しており、各列のレコードは、リンクの起点側のノードを表す起点ノード6110、終点側のノードを表す終点ノード6120、リンクの種別を示すリンク種別6130、起点ノードと終点ノード間で守るべき予測時刻差を示す枝定数6140、終点ノードの予測時刻決定に対して、リンクが寄与したか否かを示す決定値フラグ6150の複数のレコードから構成されている。例えば、データ6202はA駅列車a(4111)の予測時刻とB駅列車a(4111)の予測時刻間に存在する因果関係を示すリンクデータを表しており、2つの予測時刻間の因果関係(リンク種別)は駅間走行時分であり、時刻差10分を必要とし、B駅列車a(4111)の予測時刻決定に寄与していることを示している。
【0022】
図2のステップ2300では、予測変動要因設定部1130が、ステップ2100で取得した予測時刻が変動される要因があるか否かを判定し、肯定判定する場合には変動要因を設定する。変動要因には、予測時刻の決定要因に依存するものと、ダイヤの変更に依存するものの2種類が存在する。予測確定度定義テーブル1240(
図7)は予測時刻の決定要因に依存する変動要因を格納し、ダイヤ変更パターンテーブル1250(
図8)は将来発生し得るダイヤ変更パターンに依存する変動要因を格納する。
【0023】
図7は予測確定度定義テーブル1240のテーブル構成を示し、予測時刻の決定要因7110と、決定要因に対して設定された、予測時刻の正確性を示す予測確定度7120とのレコードから構成されている。例えば、データ7210は実績の遅延を決定要因とし、予測確定度、換言すれば、予測時刻に対する正確性の期待値が100%、つまり、予測時刻が正しいことを示している。一方、データ7220は予測時刻の決定要因がオペレータによる推測(見込み)である場合、予測時刻の正確性は90%に低下することを表している。
【0024】
図8はダイヤ変更パターンテーブル1250のテーブル構成を示す図である。ダイヤ変更のパターンを示す変動ルール8110と、当該パターン通りのダイヤ変更がオペレータにより実行される確率を示す予測確定度8120と、のレコードから構成される。例えば、データ8210は前運用列車が20分以上遅延しても、同一車両を使う次列車が運行される確率が40%であることを示している。なお、前運用列車が20分以上遅延する場合、次列車を運休するというダイヤ変更が60%の確率で実行される。データ8220の意味も、
図7に示される通りである。
【0025】
図2のステップ2300では、予測変動要因設定部1130は予測確定度定義テーブル1240およびダイヤ変更パターンテーブル1250に基づいて、予測時刻に対し、各テーブルのデータに定義された予測確定度を設定する。
図4に示す予測結果において、A駅列車a(4111)は実績遅延が決定要因であり、B駅列車e(4122)は見込遅延が決定要因であるので、予測変動要因設定部1130は、予測確定度定義テーブル1240のデータより、それぞれの予測時刻に対して予測確度を100%、90%と設定する。
【0026】
さらに、予測変動要因設定部1130は、列車a(4111)が20分以上遅れているため、同一車両で走行する次列車である列車b(4112)に対して、ダイヤ変更定義テーブル1250から、列車b(4112)の予測時間に対して予測確定度を40%として設定する。同様に、列車f(4123)は先行列車である列車h(4132)の影響により遅延しているため、列車f(4123)の予測時間に対して予測確定度を50%として設定する。
【0027】
図2のステップ2400では、予測確定度演算部1140は、ステップ2300で設定された予測変動要因に基づいて、全ての予測時刻について予測時刻の確定度を算出する。予測時刻の確定度計算は、列車運行ネットワークテーブル1230のデータを用いて、予測時刻間の因果関係を基に、設定済みの予測確定度を他の予測時刻に伝播させることによって実行する。
【0028】
図9は、予測時刻確定度演算部1140の動作を示すフローチャートである。予測時刻確定度演算部1140は、ステップ9100において、全てのノード(
図5)をキューに登録する。ステップ9200において、キューが空集合であるかを判定し、空集合の場合には全ての予測時刻に対して予測確定度が設定されたと判定して、処理を終了する。
【0029】
予測時刻確定度演算部1140は、空集合でないと判定すると、ステップ9300に進み、キューよりノードを1つ取得する(ノードNとする)。ステップ9400では、取得したノードが起点ノードとなるリンクのうち、決定値フラグが「有」であるリンクデータを、列車運行ネットワークテーブル1230から取得する。
【0030】
ステップ9500において、予測時刻確定度演算部1140は、同テーブルを参照して、リンクデータの終点となるノードnを取得する。ステップ9600において、予測時刻確定度演算部1140は、ノードNとノードnの予測確定度を比較し、ノードNの予測確定度がノードnの予測確定度以上の場合には、ノードnの予測確定度の更新は不要と判定してステップ9200にリターンする。ノードNの予測確定度の方が小さい場合は、ノードnの予測確定度を更新するためステップ9700に移行する。
【0031】
ステップ9700において、予測時刻確定度演算部1140は、ノードnの予測確定度をノードNの予測確定度の値に更新する。ステップ9800では、ノードnと因果関係をもつ予測時刻の確定度を再計算するため、ノードnをキューに登録する。したがって、ノード間の因果関係に基づいて、確定度を求めることができるために、複数のノード間で確定度を適切かつ網羅的に設定することが可能になる。なお、予測確定度の計算のために、予測時刻間の大小関係を利用したがこれは一例である。予測時刻確定度演算部1140が、
図9の予測時刻確定度演算処理を実行して、予測時刻の確定度を更新すると、
図4に基づく予測時間の確定度は以下のように定まる。
【0032】
A駅列車a(4111):100%、B駅列車a(4111):100%、B駅列車e(4122):90%、B駅列車b(4112):60%、A駅列車e(4122):90%、B駅列車g(4131):60%、A駅列車g(4131):60%、A駅列車b(4112):60%、A駅列車c(4113):60%、A駅列車h(4132):60%、A駅列車f(4123):50%
【0033】
予測時刻確定度演算部1140は、求めた予測確定度の演算履歴を予測確定度履歴テーブル1260に格納する。
図10は予測確定度履歴テーブル1260のテーブル構成であり、予測演算部1110によって、予測演算を取得した日時である予測実行日時10110、予測対象列車10120、駅10130、予測時刻10140、予測確定度10150、予測時刻の決定要因10160の各レコードを有している。
【0034】
図2のステップ2500では、行路提案生成部1150は、予測時刻および予測確定度に基づいて乗務員運用の提案情報(行路提案テーブル)を生成する。
図11に行路提案テーブル1270のテーブル構成を示し、各列のレコードで1つの提案情報を示している。同テーブルは、提案内容を示す提案内容11110、提案に関連する列車番号を示す関連列番11120、提案に関係する駅を示す駅11130、提案内容を生成するにあたって基となった予測時刻の確定度を示す予測確度11140、提案を優先事項とすべきか、対処待ちとするかを示す提案優先度11150の各レコードから構成されている。
【0035】
ダイヤ変更に伴う予測時刻に基づいて、乗務員運用の変更の提案がオペレータへ促されても、提案が無駄になるおそれがある。そこで、システムが予測時刻の確定度を乗務員運用の変更のための提案の内容に関係付けることができる。
図11のレコード11210は、
図4に示す予測時刻に基づいて、列車a(4211)から列車e(4122)への乗務員乗継を行うに当たって乗継時間が不足している「乗継時間不足」、関連する列番は列車a(4211)、列車e(4122)、乗継駅はB駅、乗継時間の判定に用いた予測時刻の予測確度は90%、提案優先度としては対処を優先してよい「優先」であることを示す。予測確度は、ステップ2400で求めた列車aの予測確度100%と列車eの予測確度90%のうち確度が小さい方の90%としている。
【0036】
予測確度が所定以上、例えば、90%では、ほぼ予測時刻通りにダイヤが運行されるとして、行路提案生成部1150は、提案優先度を「優先」と設定している。「優先」とは、B駅において、列車e(4122)に乗務する別な乗務員を手配しても無駄にはならないことを示す。したがって、ダイヤ変更に合わせて、乗務員の運用が無駄なく効率的に行うことができる。
【0037】
レコード11220はレコード11210同様に乗継不足の提案であるが、列車g(4131)、列車c(4113)の予測確度が60%と低いことを踏まえ、行路提案生成部1150は、ダイヤが確定するのを待ってから乗務員の手配について対処すべきとして、提案優先度を「待ち」に設定する。
【0038】
図2のステップ2600では、予測時刻送信部1160は、予測確定度の大小を対象毎に内容を変化させて送信を行う。
図12は、乗務員区所装置1600に対する予測情報送信内容の例を示す。予測時刻送信部1160は、乗務員の運用計画を示すダイヤ図(
図4)に基づいて、主要箇所の予測時刻と予測時刻の確定度を送信する。
図12は、A駅、B駅間を走行する列車の乗務を表しており、A駅、B駅の到着時刻、出発時刻に対して、予測時刻と予測時刻の確定度を付与している。
【0039】
図13は駅装置1700に送信される予測情報の内容の例を示している。この情報は駅での旅客案内用情報として想定されており、A駅における上り/下り列車の列車番号、予測時刻を備えている。旅客に対しては予測確度の小さい予測時刻を提示すると、案内した予測時刻が頻繁に変わるおそれがあり、旅客への混乱を避けるため、予測確定度が所定値以上の高い予測時刻のみが送信される。
【0040】
図14は、予測確定度検証部1170によって確定度の検証が可能になる例を示したものである。縦軸は予測確定度であり、横軸に予測時刻と実際の列車走行結果である実績時刻との誤差である。複数の曲線の夫々は複数の予測決定要因(予測時間が決定される要因:実績、遅延見込み、駅間走行(
図7参照))毎の特性を示している。予測確定度検証部1170は、履歴データから、確定度、予測時刻、実際の列車走行結果による実績時刻と、を取得し、これらの値を回帰分析することによって、
図14のような関数特性を作成して、グラフ化する。いずれの要因でも、既述のようにして得られた確定度は、確定度が高いほど誤差が少なく、予測時刻が実績時刻にほぼ合致していることが分かる。
図14に示される複数の関数によれば、その変曲点での値以上の確定度であれば、列車運行上信頼でき得るものであることが判る。このように、確定度の変動パターンの特徴から確定度を評価、検証することによって、運行管理者は、予測決定要因ごとに、確定度の妥当性を検証することができる。また、確定度と誤差との相関を評価した関数によって、確定度から予測時刻を設定することも可能になる。
【0041】
図1に示す運行情報配信システムによれば、確定度を反映した配信情報に基づいて、運行情報の予測値の信頼性を運行情報の受け側が判断できるようになり、受け側(駅、乗務員、旅客)が、確定度が所定値以上の場合に、運行計画の変更に対して直ちに対応しても、再対応が迫られることないのに対して、確定度が所定値より小さい場合には、確定度が上がるまで、対応を控えることにより、再対応に迫られないようにする等、受け手側が予測情報に対して適切に対応することができる。さらに、運行情報システムが、受け手側のニーズに合わせて、配信情報の態様を変更することにより、受け手側の判断し易いようにすることができる。
【0042】
既述の実施形態では、予測確定度定義テーブル1240のテーブルと、ダイヤ変更パターンテーブル1250のテーブルとから、確定度が設定されているが、これに限らず、確定度を運行状況や運行計画の各パラメータによって計算によって求めることもできる。