【文献】
International Society on Thrombosis and Haemostasis, 2009, Vol.7, Suppl.2, p.309, OC-TH-107
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
出血が少なくとも約5%〜10%、10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、50%〜55%、55%〜60%、60%〜65%、65%〜70%、70%〜75%、75%〜80%、80%〜85%、85%〜90%、90%〜95%、または95%〜100%低減する、請求項1
に記載の組成物。
生産されるトロンビンの量が、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、100%、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、または50倍増大する、請求項3に記載の組成物。
それを必要とする対象においてリバーロキサバンまたはアピキサバンの存在下で凝血時間を減少させるための医薬組成物であって、配列番号1における235位に対応する位置のアミノ酸がLeuまたはThrで置換されている第Xa因子変異体を含み、かつ第Xa因子変異体が、リバーロキサバンまたはアピキサバンの血漿濃度の少なくとも100分の1の血漿濃度でリバーロキサバンまたはアピキサバンの影響を無効にする、医薬組成物。
凝血時間が少なくとも約5%〜10%、10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、50%〜55%、55%〜60%、60%〜65%、65%〜70%、70%〜75%、75%〜80%、80%〜85%、85%〜90%、90%〜95%、または95%〜100%低減する、請求項5に記載の組成物。
前記対象における前記PTが、約25秒、24秒、23秒、22秒、21秒、20秒、19秒、18秒、17秒、16秒、15秒、14秒、13秒、12秒、11秒、または10秒である、請求項7に記載の組成物。
前記対象における国際標準化比(INR)が、約4.0、3.9、3.8、3.7、3.6、3.5、3.4、3.3、3.2、3.1、3.0、2.9、2.8、2.7、2.6、2.5、2.4、2.3、2.2、2.1、2.0、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9、0.8、または0.7である、請求項7に記載の組成物。
急性大量出血を有する対象におけるFXa阻害療法に起因する後天的な凝固障害の緊急の逆転を生じさせるための医薬組成物であって、ここで該FXa阻害療法が、直接FXa阻害剤であるリバーロキサバンまたはアピキサバンによるものであり、該医薬組成物が配列番号1における235位に対応する位置のアミノ酸がLeuまたはThrで置換されている第Xa因子変異体を含み、かつ第Xa因子変異体が、リバーロキサバンまたはアピキサバンの血漿濃度の少なくとも100分の1の血漿濃度でリバーロキサバンまたはアピキサバンの影響を無効にする、医薬組成物。
第Xa因子変異体が、0.0001から50mg/kg、0.001から50mg/kg、0.001から5mg/kg、0.001から0.5mg/kg、0.001から0.05mg/kg、0.01から5mg/kg、または0.01から0.5mg/kgの用量で投与される、請求項1から11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
第Xa因子変異体が、0.0003から300nM、0.003から300nM、0.03から300nM、0.003から30nM、0.03から30nM、または0.3から3nMの血清濃度に達するように投与される、請求項1から12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
第Xa因子変異体が、直接FXa阻害剤の血漿濃度の少なくとも250分の1、少なくとも500分の1、少なくとも1,000分の1、少なくとも2,500分の1、少なくとも5,000分の1、または少なくとも10,000分の1の血漿濃度で、直接FXa阻害剤の影響を無効にする、請求項1から13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
凝固促進剤が、異なる第Xa因子変異体、第IX因子、第XIa因子、第XIIa因子、第VIII因子、第VIIa因子、FEIBA、およびプロトロンビン複合体濃縮物(PCC)からなる群から選択される、請求項18に記載の組成物。
直接FXa阻害剤がリバーロキサバンであり、リバーロキサバンの血漿濃度が、少なくとも約100nM、200nM、300nM、400nM、500nM、600nM、700nM、または800nMである、請求項1から20のいずれか一項に記載の組成物。
直接FXa阻害剤がアピキサバンであり、アピキサバンの血漿濃度が、少なくとも約50nM、100nM、150nM、200nM、250nM、300nM、350nM、または400nMである、請求項1から20のいずれか一項に記載の組成物。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1A:リバーロキサバンによる遊離wt−FXaの阻害を示す図である。wt−FXa(2nM)によるペプチジル基質(SpecXa、200uM)加水分解の初期速度を、リバーロキサバンの増大濃度で決定した。Ki値をグラフに示す。
図1B:リバーロキサバンによるFXa
I16Lの阻害を示す図である。FXa
I16L(6nM)によるペプチジル基質(SpecXa、200uM)加水分解の初期速度を、リバーロキサバンの増大濃度で決定した。Ki値をグラフに示す。
【
図2】
図2A:プロトロンビナーゼを形成しているwt−FXaのリバーロキサバン阻害を示す図である。PCPS(20uM)およびFVa(40nM)の存在下での、wt−FXa(2nM)によるペプチジル基質(SpecXa、200uM)加水分解の初期速度を、リバーロキサバンの増大濃度で決定した。
図2B:プロトロンビナーゼを形成しているFXa
I16Lのリバーロキサバン阻害を示す図である。PCPS(20uM)およびFVa(40nM)の存在下での、FXa
I16L(6nM)によるペプチジル基質(SpecXa、200uM)加水分解の初期速度を、リバーロキサバンの増大濃度で決定した。
【
図3】リバーロキサバンのトロンビン生成に対する影響の逆転に対する、異なる濃度のFXa
I16Lの影響を示す図である。
【
図4-1】
図4A:リバーロキサバンの影響の逆転に対するFXa
I16Lの影響を示す図である。正常なヒト血漿を、500nMのリバーロキサバンと共に、かつ増大濃度のFXa
I16Lの不存在下または存在下で、インキュベートした。データ分析の後、ピークトロンビンをプロットした。
図4B:リバーロキサバンの影響の逆転に対するFXa
I16Lの影響を示す図である。正常なヒト血漿を、500nMのリバーロキサバンと共に、かつ増大濃度のFXa
I16Lの不存在下または存在下で、インキュベートした。データ分析の後、生成された総トロンビン(ETP)をプロットした。
【
図4-2】
図4C:リバーロキサバンの影響の逆転に対するFXa
I16Lの影響を示す図である。正常なヒト血漿を、500nMのリバーロキサバンと共に、かつ増大濃度のFXa
I16Lの不存在下または存在下で、インキュベートした。データ分析の後、ピークトロンビンをプロットした。
図4D:リバーロキサバンの影響の逆転に対するFXa
I16Lの影響を示す図である。正常なヒト血漿を、500nMのリバーロキサバンと共に、かつ増大濃度のFXa
I16Lの不存在下または存在下で、インキュベートした。データ分析の後、生成された総トロンビン(ETP)をプロットした。
【
図5】
図5A:FXa
I16Lが高用量のリバーロキサバンの影響を逆転させることを示す図である。正常なヒト血漿を、7.5uMのリバーロキサバンと共に、かつ増大濃度のFXa
I16Lの不存在下または存在下で、インキュベートした。データ分析の後、ピークトロンビンをプロットした。
図5B:FXa
I16Lが高用量のリバーロキサバンの影響を逆転させることを示す図である。正常なヒト血漿を、7.5uMのリバーロキサバンと共に、かつ増大濃度のFXa
I16Lの不存在下または存在下で、インキュベートした。データ分析の後、生成された総トロンビン(ETP)をプロットした。
【
図6】
図6A:FXa
I16LまたはFXa
I16Tが250nMのアピキサバンの影響を逆転させることを示す図である。正常なヒト血漿を、250nMのアピキサバンと共に、かつ増大濃度のFXa
I16LまたはFXa
I16Tの不存在下または存在下で、インキュベートした。データ分析の後、ピークトロンビンをプロットした。
図6B:FXa
I16LまたはFXa
I16Tが250nMのアピキサバンの影響を逆転させることを示す図である。正常なヒト血漿を、250nMのアピキサバンと共に、かつ増大濃度のFXa
I16LまたはFXa
I16Tの不存在下または存在下で、インキュベートした。データ分析の後、生成された総トロンビン(ETP)をプロットした。
【
図7】
図7A:FXa
I16LまたはFXa
I16Tが高用量のアピキサバンの影響を逆転させることを示す図である。正常なヒト血漿を、2.0uMのアピキサバンと共に、かつ増大濃度のFXa
I16LまたはFXa
I16Tの不存在下または存在下で、インキュベートした。データ分析の後、ピークトロンビンをプロットした。
図7B:FXa
I16LまたはFXa
I16Tが高用量のアピキサバンの影響を逆転させることを示す図である。正常なヒト血漿を、2.0uMのアピキサバンと共に、かつ増大濃度のFXa
I16LまたはFXa
I16Tの不存在下または存在下で、インキュベートした。データ分析の後、生成された総トロンビン(ETP)をプロットした。
【
図8】
図8A:FXa
I16Lが、リバーロキサバンの存在下で、全血凝血を修正することを示す図である。全血トロンボエラストグラフィーを用いて、FXa
I16Lの、典型的な用量のリバーロキサバンの影響を逆転する能力を評価した。
図8B:FXa
I16Lが、リバーロキサバンの存在下で、全血凝血を修正することを示す図である。全血トロンボエラストグラフィーを用いて、FXa
I16Lの、高用量のリバーロキサバンの影響を逆転させる能力を評価した。
【
図9】
図9A:FXa
I16Lが、アピキサバンの存在下で、全血凝血を修正することを示す図である。全血トロンボエラストグラフィーを用いて、FXa
I16Lの、典型的な用量のアピキサバンの影響を逆転させる能力を評価した。
図9B:FXa
I16Lが、アピキサバンの存在下で、全血凝血を修正することを示す図である。全血トロンボエラストグラフィーを用いて、FXa
I16Lの、高用量のアピキサバンの影響を逆転させる能力を評価した。
【
図10】
図10A:FXa
I16Lがトロンビン生成アッセイにおいてリバーロキサバンを中和することを示す図である。リバーロキサバンの用量応答を示す。
図10B:FXa
I16Lがトロンビン生成アッセイにおいてリバーロキサバンを中和することを示す図である。リバーロキサバンの存在下でのFXa
I16Lの用量応答を示す。
【
図11】FXa
I16Lがマウス尾部クリップ出血モデルにおいてリバーロキサバンを中和することを示す図である。
【
図12】マウスに投与されたリバーロキサバンが、ROTEMを用いて測定される全血の凝血時間を遅延させること、およびFXa
I16Lとの投与がリバーロキサバンの影響を用量応答的に中和することを実証する図である。
【
図13】
図13A:マウスに投与されたリバーロキサバンが、レーザーにより生じる精巣挙筋における血管損傷の部位で凝血塊の形成を予防すること、およびFXa
I16Lとの投与がリバーロキサバンの影響を中和することを示す図である。凝血塊の形成は、生体顕微鏡法、ならびにフィブリンおよび血小板に対する蛍光標識抗体を用いて視覚化した。未処理マウスにおける凝血塊の形成を示す。
図13B:マウスに投与されたリバーロキサバンが、レーザーにより生じる精巣挙筋における血管損傷の部位で凝血塊の形成を予防すること、およびFXa
I16Lとの投与がリバーロキサバンの影響を中和することを示す図である。凝血塊の形成は、生体顕微鏡法、ならびにフィブリンおよび血小板に対する蛍光標識抗体を用いて視覚化した。リバーロキサバンが血小板の蓄積を遅延および低減させ、かつフィブリンの堆積を予防したことを示す。
図13C:マウスに投与されたリバーロキサバンが、レーザーにより生じる精巣挙筋における血管損傷の部位で凝血塊の形成を予防すること、およびFXa
I16Lとの投与がリバーロキサバンの影響を中和することを示す図である。凝血塊の形成は、生体顕微鏡法、ならびにフィブリンおよび血小板に対する蛍光標識抗体を用いて視覚化した。リバーロキサバンおよびFXa
I16Lを投与されたマウスにおいて、凝血塊の形成が損傷の部位で生じたことを示す。
【
図14】野生型ヒト第X因子プレタンパク質のアミノ酸配列(配列番号1)を示す図である。シグナルペプチドは、アミノ酸1〜23に対応する。プロペプチドは、アミノ酸24〜40に対応する。活性型第X因子(FXa)の成熟軽鎖は、アミノ酸41〜179に対応する。活性型FXaの成熟重鎖(活性化ペプチドを除去した後)は、アミノ酸235〜488に対応する。活性化ペプチド(AP)は、アミノ酸183〜234に対応する。
【
図15-1】野生型ヒト第X因子プレタンパク質をコードするcDNAのヌクレオチド配列(配列番号2)を示す図である。コード配列は、ヌクレオチド58から1524に対応する。
【
図15-2】野生型ヒト第X因子プレタンパク質をコードするcDNAのヌクレオチド配列(配列番号2)を示す図である。コード配列は、ヌクレオチド58から1524に対応する。
図15−1の続きである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、それを必要とする対象において直接FXa阻害剤の抗凝固性の影響を中和するための組成物および方法を提供する。出願人は、特定のFXa変異体が、用量依存的に、直接FXa阻害剤の影響を迅速かつ完全に中和することを発見した。さらに詳細には、出願人は、比較的少量のFXa変異体が、治療濃度の、さらには治療濃度を超える濃度のFXa阻害剤の存在下で、インビボでの正常な凝固活性を回復させることを発見した。直接FXa阻害剤の抗凝固性の影響のための速く有効な解毒剤を提供することによって、出願人の開示は、したがって、これらの有利な抗凝固剤についての展望を満たすことに寄与する。
【0012】
凝固第X因子(FX)は、内因性第IX因子/第VIII因子または外因性経路(組織因子/第VIIa因子)によって活性化されるとプロトロンビナーゼのプロテアーゼ部分であるFXaになる酵素原である。Arg−Ile切断可能結合のタンパク質分解性の切断の後、酵素原における一連の良く定義された構造的変化である活性化ペプチド(AP)の放出によって、成熟活性セリンプロテアーゼへの活性化プロセスが動き出す(参照することによってその全体が本明細書に組み込まれる、Tosoら、(2008)J.Biol.Chem.283、18627〜18635;Bunceら、(2011)Blood 117、290〜298;およびIvanciuら、(2011)Nat.Biotechnol.29、1028〜1033を参照されたい)。成熟FXaは、触媒性ドメインを含有する軽鎖および重鎖を有する。成熟FXaは、活性型補因子である第Va因子(FVa)の結合を含む、プロトロンビナーゼ複合体の形成がなされると、活性セリンプロテアーゼになる。
【0013】
活性化されると切断によって酵素原様FXa変異体が生じるFXの変異体形態が開発された。すなわち、切断が生じると、その結果生じたFXa変異体は、活性部位機能が弱く、循環阻害剤(すなわち、抗トロンビンIIIおよびTFPI)による不活化に対してより耐性である。FXa変異体は、したがって、野生型FXaよりも、血漿における半減期が長い。FXa変異体は、FVa、脂質膜、およびカルシウムを結合して、プロトロンビンを効率的に活性化させる完全に活性なプロトロンビナーゼ複合体を形成する。
【0014】
FXaの酵素原様変異体は、酵素原様立体構造で循環し、血栓形成性ではないと思われる(参照することによってその全体が本明細書に組み込まれる、Tosoら、(2008)J.Biol.Chem.283、18627〜18635、およびIvanciuら、(2011)Nat.Biotechnol.29、1028〜1033を参照されたい)。このようなFXa変異体の例は、参照することによってその全体が本明細書に組み込まれる、国際特許公開WO2007/059513において記載されている。
【0015】
凝固の酵素は、キモトリプシン様の折り畳みを有するプロテアーゼのS1ペプチダーゼファミリーに属する、トリプシン様酵素である。凝固プロテアーゼは、互いに非常に相同な、かつ消化性の先祖セリンプロテアーゼに非常に相同な、触媒性ドメインを含有する。構造的相同性/同一性は大きく(>70%)、それは、凝固酵素(第Xa因子を含む)の触媒性ドメインにおける残基が、キモトリプシノゲンにおける対応する残基に従って番号付けされるほどである。(キモトリプシン番号付けシステム;共に参照することによってその全体が本明細書に組み込まれる、BajajおよびBirktoft、Methods Enzymol.1993、222:96〜128、Table 2;ならびにBode W、Mayr I、Bauman Yら、The refined 1.9Å crystal structure of human alpha−thrombin:interaction with D−Phe−Pro−Arg chloromethylketone and significance of the Tyr−Pro−Trp insertion segment.EMBO J 1989、8(11):3467〜3475を参照されたい)。したがって、アミノ酸は、本明細書において、当業者に周知のキモトリプシン番号付けシステムに従って言及され得る。
【0016】
本開示によると、FXa変異体は、インビボまたはインビトロで野生型FXaタンパク質と比較して変異体をより酵素原様にするアミノ酸置換を含むFXaタンパク質であり得る。本開示のFXa変異体は、プロトロンビナーゼが形成されると、野生型FXaの活性を実質的に取り戻す。本開示の方法において有用なFXa変異体の例は、キモトリプシン番号付けシステムに従った、a)16位のIleがThr、Leu、Phe、Asp、またはGlyである修飾、およびb)17位のValがLeu、Ala、またはGlyである修飾からなる群から選択される修飾を含む変異体である。キモトリプシン番号付けシステムにおけるアミノ酸16および17は、配列番号1(ヒト第X因子プレプロタンパク質)のアミノ酸235および236でそれぞれ生じる。特定の実施形態において、FXa変異体は、FXa
I16LおよびFXa
I16Tである(FXa変異体について本明細書において用いられる命名は、キモトリプシン番号付けシステムに従って番号付けされた位置の元のアミノ酸と、その後に、置換されたアミノ酸とを列挙する)。FXa変異体は、あらゆる哺乳動物FXaの変異体であり得る。しかし、特に興味深いものは、ヒトFXaのFXa変異体である。
【0017】
特定の実施形態において、本開示の変異体FXaに活性化されるFX変異体は、非天然の細胞内タンパク質分解性切断部位を挿入することによってさらに修飾され得る。非限定的な例において、哺乳動物細胞において「活性型」酵素原様FXa変異体を発現させるために、非天然の細胞内タンパク質分解性切断部位を、変異体FX酵素原において、配列番号1の234位(キモトリプシン番号付けシステムにおける15位)のArgと、配列番号1の235位に対応する位置(キモトリプシン番号付けシステムにおける16位)のアミノ酸との間に挿入することができる。特定の実施形態において、非天然の細胞内プロテアーゼ切断部位は、Arg−Lys−ArgまたはArg−Lys−Arg−Arg−Lys−Arg(配列番号3)である。これらの切断部位は、細胞内のプロテアーゼ(PACE/フリン様酵素)によって効率的に認識され、除去される。この切断の結果、分子の成熟重鎖が配列番号1の235位に対応する位置(キモトリプシン番号付けシステムにおける16位)のアミノ酸で始まるようになった、プロセシングされた変異体FXaが生じ得る。前記位置でのこの切断部位の導入によって、FXからFXaへの細胞内変換が可能になる。
【0018】
特定の実施形態において、FX変異体の活性化ペプチド(AP)の全アミノ酸配列(すなわち、配列番号1のアミノ酸183〜234)は、非天然の細胞内プロテアーゼ切断部位で置き換えられる。特定の実施形態によると、非天然の細胞内プロテアーゼ切断部位は、Arg−Lys−ArgまたはArg−Lys−Arg−Arg−Lys−Arg(配列番号3)である。上記で説明したように、この修飾によって、細胞によって発現されるFX変異体の細胞内切断が可能になる。細胞内切断は、FX変異体を活性型酵素原様FXa変異体に変換し、これは次いで、その後の精製のために細胞によって分泌される。このアプローチは、例えば、タンパク質を単離した後、または凝血の直前に、変異体凝血因子を活性化させるためにこの修飾がなければ必要となるであろう細胞外切断の必要性をなくすものである。
【0019】
特定の実施形態において、本開示のFXa変異体は、天然の野生型ヒトシグナル配列および/またはプロペプチド配列を含むFX変異体プレタンパク質に由来する。他の実施形態において、非ヒト種に由来するFXシグナル配列および/またはプロペプチドを、対応する天然のアミノ酸配列の代わりに用いることができる。また、さらに他の実施形態において、他のヒトまたは非ヒトから分泌されたタンパク質に由来するシグナル配列および/またはプロペプチド配列を、対応する天然のアミノ酸配列の代わりに用いることができる。
【0020】
例示的な実施形態において、FXa変異体は、配列番号1のアミノ酸41〜179およびアミノ酸235〜488を含み、ここで、235位のアミノ酸(野生型配列ではイソロイシン)は、スレオニン(Thr)、ロイシン(Leu)、フェニルアラニン(Phe)、アスパラギン酸(Asp)、またはグリシン(Gly)からなる群から選択される異なるアミノ酸で置換されている。これらの置換は、それぞれ、1文字目がイソロイシンの一文字コードであり、最後の文字が野生型配列内に置換されているアミノ酸の一文字コードである、命名I235T、I235L、I235F、I235D、およびI235Gを用いて表記され得る。配列番号1の235位は、キモトリプシン番号付けシステムにおける16位に等しいため、同一の置換は、I16T、I16L、I16F、I16D、およびI16Gと表記され得る。1つの実施形態において、FXa変異体は、配列番号1のアミノ酸41〜179およびアミノ酸235〜488を含み、ここで、235位のアミノ酸は、Thrで置換されている(すなわち、I235TまたはI16T)。1つの実施形態において、FXa変異体は、配列番号1のアミノ酸41〜179およびアミノ酸235〜488を含み、ここで、235位のアミノ酸は、Leuで置換されている(すなわち、I235LまたはI16L)。1つの実施形態において、FXa変異体は、配列番号1のアミノ酸41〜179およびアミノ酸235〜488を含み、ここで、235位のアミノ酸は、Pheで置換されている(すなわち、I235FまたはI16F)。1つの実施形態において、FXa変異体は、配列番号1のアミノ酸41〜179およびアミノ酸235〜488を含み、ここで、235位のアミノ酸は、Aspで置換されている(すなわち、I235DまたはI16D)。1つの実施形態において、FXa変異体は、配列番号1のアミノ酸41〜179およびアミノ酸235〜488を含み、235位のアミノ酸は、Glyで置換されている(すなわち、I235GまたはI16G)。
【0021】
別の例示的な実施形態によると、FXa変異体は、配列番号1のアミノ酸41〜179およびアミノ酸235〜488を含み、ここで、236位のアミノ酸(野生型配列におけるバリン)は、ロイシン(Leu)、アラニン(Ala)、またはグリシン(Gly)からなる群から選択される異なるアミノ酸で置換されている。これらの置換は、それぞれ、1文字目がバリンの一文字コードであり、最後の文字が野生型配列に置換されているアミノ酸の一文字コードである、命名V236L、V236A、およびV236Gを用いて表記され得る。配列番号1の236位は、キモトリプシン番号付けシステムにおける17位に等しいため、同一の置換は、V17L、V17A、およびV17Gと表記され得る。1つの実施形態において、FXa変異体は、配列番号1のアミノ酸41〜179およびアミノ酸235〜488を含み、ここで、236位のアミノ酸は、Leuで置換されている(すなわち、V236LまたはV17L)。1つの実施形態において、FXa変異体は、配列番号1のアミノ酸41〜179およびアミノ酸235〜488を含み、ここで、236位のアミノ酸は、Alaで置換されている(すなわち、V236AまたはV17A)。1つの実施形態において、FXa変異体は、配列番号1のアミノ酸41〜179およびアミノ酸235〜488を含み、ここで、236位のアミノ酸は、Glyで置換されている(すなわち、V236GまたはV17G)。
【0022】
他の実施形態において、先の段落において記載した具体的な変異体を含む、本開示のFXa変異体には、タンパク質の軽鎖および/または成熟重鎖の様々なアイソフォームが含まれ得る。FXa変異体の成熟重鎖の非限定的な例示的なアイソフォームには、成熟重鎖のアルファ型およびベータ型が含まれる。参照することによって本明細書に組み込まれる、Jestyら、J Biol Chem.1975年6月25日、250(12):4497〜504。本開示の組成物には、アルファおよびベータ成熟重鎖アイソフォームの一方もしくは他方または両方が見られるFXa変異体タンパク質が含まれ得る。
【0023】
さらに他の実施形態によると、先の段落において記載した具体的な変異体を含む、FXa変異体タンパク質のアイソフォームには、様々な数のアミノ酸(例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、またはそれ以上のアミノ酸)がタンパク質の軽鎖および/または成熟重鎖のカルボキシ末端から無くなっているかまたは前記末端に付加されているアイソフォームが含まれ得る。
【0024】
特定の実施形態によると、本開示のFXa変異体には、配列番号1の野生型FXaのアミノ酸配列と比較して、ある最小程度の相同性または配列同一性を有するタンパク質が含まれる。したがって、例えば、FXa変異体には、配列番号1の野生型FXaの軽鎖および成熟重鎖と配列が少なくとも60%、70%、80%、85%、90%、95%、98%、または99%相同または同一な軽鎖および成熟重鎖を含有するタンパク質が含まれ、ここで、このようなFXa変異体にはまた、配列番号1の235位に対応するアミノ酸位置の、Thr、Leu、Phe、Asp、もしくはGlyでの置換、または配列番号1の236位に対応するアミノ酸位置の、Leu、Ala、もしくはGlyでの置換が含まれ、さらに、このようなFXa変異体は、プロトロンビナーゼ複合体に組み込まれるまで、酵素原性である。配列番号1のアミノ酸配列において、野生型FXaの軽鎖配列は、アミノ酸41から179に対応し、野生型FXaの成熟重鎖配列は、アミノ酸235から488に対応する。アミノ酸配列の相同性または同一性のパーセンテージは、National Center for Biotechnology Informationのウェブサイト(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)で入手可能なProtein BLASTなどのソフトウェアを用いて容易に決定することができる。
【0025】
他の非限定的な実施形態によると、本開示のFXa変異体にはまた、限定はしないが1つまたは複数のO結合型もしくはN結合型糖質基または様々な数のガンマカルボキシグルタミン酸(Gla)残基を含む1つまたは複数の翻訳後修飾を含有する、FXa変異体が含まれ得る。本開示のFXa変異体にはさらに、化学的に修飾されたFXa変異体タンパク質が含まれ得る。本開示の方法において有用な他のFXa変異体もまた可能である。
【0026】
本明細書において用いられる場合、用語FXa
I16xは、配列番号1における235位(キモトリプシン番号付けシステムにおける16位に対応する)に対応するアミノ酸が野生型配列におけるアミノ酸(イソロイシン)から「x」と示される異なるアミノ酸に変化している、活性型第X因子の変異体を指す。一部の非限定的な例示的な実施形態において、アミノ酸「x」は、スレオニン(ThrまたはT)、ロイシン(LeuまたはL)、フェニルアラニン(PheまたはF)、アスパラギン酸(AspまたはD)、またはグリシン(GlyまたはG)であり得る。
【0027】
本明細書において用いられる場合、用語FXa
V17yは、配列番号1における236位(キモトリプシン番号付けシステムにおける17位に対応する)に対応するアミノ酸が野生型配列におけるアミノ酸(バリン)から「y」と示される異なるアミノ酸に変化している、活性型第X因子の変異体を指す。一部の非限定的な例示的な実施形態において、アミノ酸「y」は、ロイシン(LeuまたはL)、アラニン(AlaまたはA)、またはグリシン(GlyまたはG)であり得る。
【0028】
用語FXa
I16xおよびFXa
V17yは、配列番号1で示されるタンパク質配列によって限定されない。それどころか、これらの用語にはさらに、プロトロンビナーゼ複合体に組み込まれるまで酵素原として振る舞う、キモトリプシン番号付けシステムにおける16位または17位での特定の置換突然変異を有する、本明細書において記載される様々なアイソフォームおよび相同タンパク質が含まれる。
【0029】
本開示のFXa変異体は、タンパク質を発現させるためのあらゆる技術によって生産され得る。
【0030】
「単離されたタンパク質」、「単離されたポリペプチド」、または「単離された変異体」は、その由来元または由来源のおかげで(1)その天然の状態でタンパク質、ポリペプチド、または変異体に付随する天然で関連する成分と結び付いていない、(2)同一種に由来する他のタンパク質を有さない、(3)異なる種に由来する細胞によって発現される、または(4)天然に生じない、タンパク質、ポリペプチド、または変異体である。したがって、化学的に合成された、またはそれが天然に由来する元である細胞と異なる細胞系において合成されたポリペプチドは、その天然で関連する成分から「単離される」ことになる。タンパク質はまた、当技術分野において周知のタンパク質精製技術を用いる単離によって、天然で関連する成分を実質的に有さないようにされ得る。
【0031】
タンパク質またはポリペプチドは、試料の少なくとも約60から75%が単一種のポリペプチドを示す場合、「実質的に純粋である」、「実質的に均質である」、または「実質的に精製されている」。ポリペプチドまたはタンパク質は、単量体または多量体であり得る。実質的に純粋なポリペプチドまたはタンパク質は、タンパク質試料の約50%、60%、70%、80%、または90%W/Wを典型的に含み、より通常は約95%であり、また99%を超える純度であり得る。タンパク質の純度または均質性は、タンパク質試料のポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけ、その後、当技術分野において周知の染料でゲルを染色して単一のポリペプチドバンドを可視化するなどの、当技術分野において周知の多くの手段によって示され得る。特定の目的では、より高い分解能が、HPLCまたは当技術分野において周知の他の精製手段を用いることによってもたらされ得る。
【0032】
本開示の方法は、直接FXa阻害剤を中和するために有用である。直接FXa阻害剤は、FXaに直接的に結合し、他のプロテアーゼよりもFXaを選択的に結合する阻害剤である。直接FXa阻害剤は、プロトロンビンに関してFXaの非競合阻害剤である。それらは、裂隙を結合する基質を結合し、この領域を同様に結合する小さなペプチド基質に関して競合的にFXaを阻害する。それらは、高ピコモル濃度の親和性でFXaを阻害し、血漿中で高度にタンパク質に結合している。直接FXa阻害剤の例は、リバーロキサバン、アピキサバン、ベトリキサバン、ダレキサバン、エドキサバン、およびオタミキサバンである。特定の実施形態において、直接FXa阻害剤は、リバーロキサバンおよびアピキサバンから選択される。
【0033】
本開示によると、FXa変異体は、FXaを結合する、またはプロトロンビナーゼを形成したFXaを結合する直接FXa阻害剤を中和するために用いられ得る。直接FXa阻害剤は、阻害のために、FXaの補因子を要することもあり、または要しないこともある。本開示の方法によると、FXa
I16LおよびFXa
I16TなどのFXa変異体は、直接FXa阻害剤を含有する血液を有する対象に投与される。
【0034】
本開示は、限定はしないが、合成阻害剤、低分子阻害剤、経口利用可能な阻害剤、または可逆阻害剤を含む直接FXa阻害剤を中和するためのFXa変異体の使用を包含する。FXa阻害剤は、これらの特徴のあらゆる組み合わせ、例えば、経口利用可能な、合成の、可逆の、低分子阻害剤であり得る。特定の実施形態において、直接FXa阻害剤は、リバーロキサバン、アピキサバン、ベトリキサバン、ダレキサバン、エドキサバン、およびオタミキサバンから選択され得る(それぞれが参照することによって本明細書に組み込まれる、Perzbornら、Nat Rev Drug Discov.2011年1月、10(1):61〜75;Turpie、Arterioscler Thromb Vasc Biol.2007年6月、27(6):1238〜47;Pintoら、Expert Opin.Ther.Patents 22:645〜661(2012);Pintoら、J.Med.Chem.50:5339〜5356(2007)を参照されたい)。特定の実施形態において、直接FXa阻害剤は、リバーロキサバンまたはアピキサバンから選択される。
【0035】
一部の実施形態において、本開示のFXa変異体は、直接FXa阻害剤が治療濃度で生じる場合に、このような阻害剤の影響を逆転させるために対象に投与され得る。他の実施形態において、本開示のFXa変異体は、直接FXa阻害剤が治療濃度を超える濃度で生じる場合に、このような阻害剤の影響を逆転させるために対象に投与され得る。治療濃度を超える濃度は、特定の対象または対象クラスにおいて安全に抗凝固を達成するために必要であると通常考えられる濃度よりも高い濃度である。直接FXa阻害剤の治療濃度を超える濃度は、偶発的なまたは意図的な過剰投薬の結果生じ得る。直接FXa阻害剤の治療濃度を超える濃度はまた、例えば薬剤の相互作用または他の要因に起因する、これらの薬剤に対する予想外に高い感受性、または予想外に遅いクリアランス速度などの、特定の対象における予想外の影響の結果生じ得る。特定の対象または対象クラスにおいて何が直接FXa阻害剤の治療濃度または治療濃度を超える濃度となるかの決定は、当業者の知識の範囲内である。
【0036】
本開示によると、FXa変異体は、他のトリプシン様プロテアーゼよりもFXaを少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも10倍、少なくとも15倍、少なくとも20倍、少なくとも25倍、少なくとも30倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、少なくとも1000倍、少なくとも5000倍、または少なくとも10000倍選択的に結合する直接FXa阻害剤を中和するために用いられる。
【0037】
直接FXa阻害剤は、約2×10
−7M以下のK
iでFXa変異体を結合し得る。「K
i」は、最大阻害の半分をもたらすために必要な濃度である、特定の阻害剤−標的相互作用の、阻害剤定数を指す。K
iは、当技術分野において知られている方法を用いて決定され得る。本開示は、したがって、プロトロンビナーゼ複合体を有さないFXa変異体を約2×10
−8M以下、約1×10
−8M以下、約9×10
−9M以下、約8×10
−9M以下、約7×10
−9M以下、約6×10
−9M以下、約5×10
−9M以下、約4×10
−9M以下、約3×10
−9M以下、約2×10
−9M以下、約1×10
−9M以下、約9×10
−10M以下、約8×10
−10M以下、約7×10
−10M以下、約6×10
−10M以下、約5×10
−10M以下、約4×10
−10M以下、約3×10
−10M以下、約2×10
−10M以下、約1×10
−10M以下、約9×10
−11M以下、約8×10
−11M以下、約7×10
−11M以下、約6×10
−11M以下、約5×10
−11M以下、約4×10
−11M以下、約3×10
−11M以下、約2×10
−11M以下、約1×10
−11M以下、約9×10
−12M以下、約8×10
−12M以下、約7×10
−12M以下、約6×10
−12M以下、約5×10
−12M以下、約4×10
−12M以下、約3×10
−12M以下、約2×10
−12M以下、または約1×10
−12M以下、またはそれ以下のK
iで結合する直接FXa阻害剤を中和することを企図する。本開示の方法に従ってFXa変異体によって中和される直接FXa阻害剤は、野生型FXaを、それがFXa変異体を結合するK
iの少なくとも1.5分の1、少なくとも2分の1、少なくとも3分の1、少なくとも4分の1、少なくとも5分の1、少なくとも6分の1、少なくとも7分の1、少なくとも10分の1、少なくとも15分の1、少なくとも20分の1、少なくとも25分の1、少なくとも30分の1、または少なくとも50分の1のK
iで結合し得る。直接FXa阻害剤は、野生型FXaを、プロトロンビナーゼ複合体を有さないFXa変異体でのK
iよりも少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%低いK
iで結合し得る。直接FXa阻害剤は、野生型FXaを含むプロトロンビナーゼ複合体を、それがFXa変異体を含むプロトロンビナーゼ複合体を結合する場合とほぼ同一のK
iで結合し得る。
【0038】
1つの態様において、本開示は、FXa変異体を投与することによる、出血している(内部でまたは外部で)または出血するリスクがある(例えば、計画的な外科手術の過程で)対象における直接FXa阻害剤の影響を中和するための方法を提供する。一部の実施形態において、直接FXa阻害剤は、治療濃度またはより高い濃度(すなわち、治療濃度を超える濃度)で対象内に存在し得る。一部の実施形態において、治療濃度は、感受性の個体においては過剰投薬であり得る。本開示の方法は、したがって、直接FXa阻害剤の過剰投薬に対する解毒剤を提供するために有用である。様々な実施形態において、治療の対象は、ヒトまたは獣医学的対象であり得る。
【0039】
直接阻害剤の過剰投薬は、過剰に低減した凝血能力の症状または徴候の存在に基づいて検出され得る。非限定的な例には、黒っぽいタール状便、血便、および吐血を含む、胃腸の出血の形跡が含まれる。他の例には、鼻血、ならびに紫斑または小さな切り傷およびかすり傷からの出血の傾向または重症度の増大が含まれる。
【0040】
臨床的状況において、直接阻害剤の過剰投薬は、直接的に、または対象の血液の凝血能力を測定し、予想された抗凝固程度からの偏差を検出することによって、検出され得る。凝血の潜在能力は、当業者によく知られた方法で測定され得る。例えば、過剰投薬は、対象のプロトロンビン時間が過剰に延びる場合に疑われ得る。特定の実施形態において、過剰投薬は、国際標準化比(INR)で表されるプロトロンビン時間が、約1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10、12、14、16、18、20、またはそれ以上よりも大きいと測定される場合に、裏付けられる。
【0041】
FXa変異体は、限定はしないが、計画的な外科手術の前、外出血もしくは内出血をもたらす損傷の後、または直接FXa阻害剤の過剰投薬の後を含む、直接FXa阻害剤の影響を中和することが望ましい場合にいつでも投与され得る。本開示によると、FXa変異体は、計画的な外科手術の前、外出血もしくは内出血をもたらす損傷の後、または直接FXa阻害剤の過剰投薬の後などの、望ましい中和影響が必要な時点から、少なくとも約12時間、少なくとも約6時間、少なくとも約3時間、少なくとも約2時間、少なくとも約1時間、少なくとも約30分、少なくとも約10分、または少なくとも約5分で、投与され得る。
【0042】
別の実施形態によると、本開示は、急性大量出血を有する対象におけるFXa阻害療法に起因する後天的な凝固障害の緊急の逆転を生じさせるためにFXa変異体を投与する方法を提供する。一部の実施形態において、対象は成人したヒト患者である。他の実施形態において、対象は小児のヒト患者である。
【0043】
一部の実施形態において、急性大量出血は、外傷によって生じる。他の実施形態において、急性大量出血は、外科手術または他のタイプの介入手順の間に生じる。例示的な非限定的な介入手順には、切開、ドレナージ、血管手術、虫垂切除術、ヘルニア切開術またはヘルニア修復術、腹部手術、胆嚢摘出術、穿孔術(穿頭孔)、腰椎穿刺、心臓ペースメーカーの挿入、股関節骨折手術などが含まれる。さらに他の実施形態において、急性大量出血は、明らかな原因のない、自然発生的な出血であり得る。
【0044】
限定はしないが、急性大量出血の部位には、胃腸の出血、皮下または筋肉内の出血、膀胱の出血、関節血症、硬膜下血腫、鼻出血、腹膜の出血、子宮の出血、および他の部位の出血が含まれる。
【0045】
本開示のFXa変異体での有効な治療は、直接FXa阻害剤の影響を逆転させ得る。FXa変異体によるこのような影響の逆転の成功は、様々な手段で決定され得、異なるアッセイ、方法、またはエンドポイントを用いて測定またはモニタリングされ得る。
【0046】
一部の実施形態において、直接FXa阻害剤の影響を逆転させるためのFXa変異体での治療は、FXa変異体で治療される対象から得られた血液または血漿に対して行われる試験またはアッセイを用いてモニタリングされる。血液試料は、FXa変異体での治療の所定時間後に対象から採取され得る。血液、または血液から調製される血漿は、次いで、1つまたは複数の試験にかけられて、直接FXa阻害剤の存在にも関わらず特定の止血性薬力学的パラメータが正規化されているかが決定される。正規化が見られたら、対象は、FXa変異体でさらに治療される必要はない。しかし、正規化が見られない場合は、本開示の方法に従うFXa変異体でのさらなる治療が、直接FXa阻害剤の影響を逆転させるために必要であり得る。FXa変異体での治療の有効性をモニタリングするための試験には、凝血する能力を直接的にもしくは間接的に測定する、または直接FXa阻害剤の活性を測定する試験が含まれる。非限定的な例示的な試験には、プロトロンビン時間または関連する国際標準化比、プロトロンビナーゼ誘発性の凝血時間アッセイ、トロンボエラストメトリー、トロンボエラストグラフィー、色素生成性抗FXaアッセイ、トロンビン生成アッセイ、プロトロンビン断片1+2のレベル、トロンビン−抗トロンビンIII複合体のレベル、活性型部分トロンボプラスチン時間、および部分トロンボプラスチン時間が含まれる。他の試験もまた、当業者の知識内にあり得る。
【0047】
一部の実施形態によると、FXa変異体を投与することによって対象における直接FXa阻害剤の影響を逆転させることは、対象における出血を低減させる。一部の実施形態において、FXa変異体での治療は、対象における出血を、FXa変異体での治療が不存在の場合と比較して、直接FXa阻害剤の存在下で、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%低減させる。他の実施形態において、FXa変異体での治療は、対象における出血を、約5%〜10%、10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、50%〜55%、55%〜60%、60%〜65%、65%〜70%、70%〜75%、75%〜80%、80%〜85%、85%〜90%、90%〜95%、または95%〜100%低減させる。
【0048】
一部の実施形態によると、FXa変異体を投与することによって対象における直接FXa阻害剤の影響を逆転させることは、対象における直接FXa阻害剤の活性を低減させる。一部の実施形態において、FXa変異体での治療は、対象における直接FXa阻害剤の活性を、FXa変異体での治療が不存在の場合と比較して、直接FXa阻害剤の存在下で、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%低減させる。他の実施形態において、FXa変異体での治療は、対象における直接FXa阻害剤の活性を、約5%〜10%、10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、50%〜55%、55%〜60%、60%〜65%、65%〜70%、70%〜75%、75%〜80%、80%〜85%、85%〜90%、90%〜95%、または95%〜100%低減させる。
【0049】
直接FXa阻害剤の活性は、それぞれが参照することによって本明細書に組み込まれる、Asmisら、Thromb Res.、129:492〜498(2012)、またはBarrettら、Thromb Haemost.104:1263〜71(2010)において記載されているもののような、色素生成性抗FXaアッセイを用いてモニタリングされ得る。
【0050】
一部の実施形態によると、FXa変異体を投与することによって対象における直接FXa阻害剤の影響を逆転させることは、対象の血液または血漿において生産されるトロンビンの量を増大させる。一部の実施形態において、FXa変異体での治療は、対象におけるトロンビンの生産を、FXa変異体が不存在の場合と比較して、直接FXa阻害剤の存在下で、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、100%、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、少なくとも50倍、またはそれ以上、増大させる。対象の血液または血漿におけるトロンビンの生産は、トロンビン生成アッセイ(TGA)または当業者に良く知られた他の技術を用いて決定され得る。
【0051】
一部の実施形態によると、FXa変異体を投与することによって対象における直接FXa阻害剤の影響を逆転させることは、対象における凝血を増大させる。一部の実施形態において、FXa変異体での治療は、対象における凝血を、FXa変異体が不存在の場合と比較して、直接FXa阻害剤の存在下で、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、100%、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、少なくとも50倍、またはそれ以上、増大させる。
【0052】
一部の実施形態によると、FXa変異体を投与することによって対象における直接FXa阻害剤の影響を逆転させることは、対象における凝血時間を低減させる。一部の実施形態において、FXa変異体での治療は、対象における凝血時間を、FXa変異体での治療が不存在の場合と比較して、直接FXa阻害剤の存在下で、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%低減させる。他の実施形態において、FXa変異体での治療は、対象における凝血時間を、約5%〜10%、10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、50%〜55%、55%〜60%、60%〜65%、65%〜70%、70%〜75%、75%〜80%、80%〜85%、85%〜90%、90%〜95%、または95%〜100%低減させる。
【0053】
一部の実施形態によると、凝血時間は、止血が回復するにつれて減少する、対象のプロトロンビン時間(PT)を測定することによって決定される。PTは、組織因子の添加後に血清が凝血するためにかかる時間量である。PTは、したがって、外因性の凝血系が凝血をサポートする能力を測定する。PTは、試験を実施するために実験室で用いられる特定の試薬に応じて変化し得るが、正常なPTは、約11から13秒である。凝血時間はまた、凝血時間の測定における実験室ごとのばらつきを排除する、国際標準化比(INR)を用いて表され得る。INRを用いて、0.8から1.1という比は、正常な凝血を示す。PTまたはINRは、直接FXa阻害剤の影響を逆転させることが必要な対象にFXa変異体が投与されてから所定時間後に決定され得る。
【0054】
一部の実施形態において、直接FXa阻害剤の影響を逆転させるためのFXa変異体での治療は、対象のPTを、約25秒、24秒、23秒、22秒、21秒、20秒、19秒、18秒、17秒、16秒、15秒、14秒、13秒、12秒、11秒、10秒、またはそれ以下まで低減させる。他の実施形態において、FXa変異体での治療は、対象のINRを、約4.0、3.9、3.8、3.7、3.6、3.5、3.4、3.3、3.2、3.1、3.0、2.9、2.8、2.7、2.6、2.5、2.4、2.3、2.2、2.1、2.0、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9、0.8、0.7、またはそれ以下まで低減させる。他の実施形態によると、FXa変異体での治療は、対象におけるPTまたはINRを、約5%〜10%、10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、50%〜55%、55%〜60%、60%〜65%、65%〜70%、70%〜75%、75%〜80%、80%〜85%、85%〜90%、90%〜95%、または95%〜100%低減させる。
【0055】
プロトロンビン時間は、FXa変異体の投与の所定時間後に測定され得る。したがって、一部の非限定的な実施形態において、PTは、FXaの投与の15分、20分、30分、40分、45分、50分、60分、またはそれ以上後に測定される。当業者の知識に従って、他の時間もまた可能である。
【0056】
凝血時間はまた、それぞれが参照することによって組み込まれる、Graffら、Monitoring effects of direct FXa−inhibitors with a new one−step prothrombinase−induced clotting time(PiCT)assay:comparative in vitro investigation with heparin,enoxaparin,fondaparinux and DX 9065a、Int J Clin Pharmacol Ther.、45:237〜43(2007)、およびHarderら、Monitoring direct FXa−inhibitors and fondaparinux by Prothrombinase−induced Clotting Time(PiCT):relation to FXa−activity and influence of assay modifications、Thromb Res.、123:396〜403(2008)において記載されているような一段階のプロトロンビナーゼ誘発性凝血時間(PiCT)アッセイを用いて測定され得る。
【0057】
さらに他の実施形態において、トロンボエラストメトリーまたはトロンボエラストグラフィーの方法を用いて、凝血塊の形成または凝血時間を分析することができる。
【0058】
一部の実施形態によると、FXa変異体を投与することによって対象における直接FXa阻害剤の影響を逆転させることは、対象の血液または血漿におけるプロトロンビン断片1+2(PF1+2)のレベルを増大させる。一部の実施形態において、FXa変異体での治療は、対象におけるPF1+2を、FXa変異体が不存在の場合と比較して、直接FXa阻害剤の存在下で、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、100%、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、少なくとも50倍、またはそれ以上、増大させる。
【0059】
一部の実施形態によると、FXa変異体を投与することによって対象における直接FXa阻害剤の影響を逆転させることは、対象の血液または血漿におけるトロンビン−抗トロンビンIII複合体(TAT)のレベルを増大させる。一部の実施形態において、FXa変異体での治療は、対象におけるTATを、FXa変異体が不存在の場合と比較して、直接FXa阻害剤の存在下で、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、100%、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、少なくとも50倍、またはそれ以上、増大させる。
【0060】
一部の実施形態によると、FXa変異体を投与することによって対象における直接FXa阻害剤の影響を逆転させることは、対象における活性型部分トロンボプラスチン時間(aPTT)を低減させる。一部の実施形態において、FXa変異体での治療は、対象における活性型部分トロンボプラスチン時間(aPTT)を、FXa変異体での治療が不存在の場合と比較して、直接FXa阻害剤の存在下で、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%低減させる。他の実施形態において、FXa変異体での治療は、対象におけるaPTTを、約5%〜10%、10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、50%〜55%、55%〜60%、60%〜65%、65%〜70%、70%〜75%、75%〜80%、80%〜85%、85%〜90%、90%〜95%、または95%〜100%低減させる。
【0061】
一部の実施形態によると、FXa変異体を投与することによって対象における直接FXa阻害剤の影響を逆転させることは、対象における部分トロンボプラスチン時間(PTT)を低減させる。一部の実施形態において、FXa変異体での治療は、対象における部分トロンボプラスチン時間(PTT)を、FXa変異体での治療が不存在の場合と比較して、直接FXa阻害剤の存在下で、少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または99%低減させる。他の実施形態において、FXa変異体での治療は、対象におけるPTTを、約5%〜10%、10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、50%〜55%、55%〜60%、60%〜65%、65%〜70%、70%〜75%、75%〜80%、80%〜85%、85%〜90%、90%〜95%、または95%〜100%低減させる。
【0062】
他の実施形態において、臨床的エンドポイントは、FXa変異体で治療される対象において、直接FXa阻害剤の影響を逆転させるために止血が適切に回復しているかの決定に依存し得る。例えば、対象が急性の出血を示している場合、臨床的な止血有効性は、既存の出血の即座の停止がFXa変異体での治療の後に生じる場合は「非常に良い」とスコア付けされ得、出血の停止が1〜2時間遅れる場合は「普通」とスコア付けされ得、出血の停止が2時間超遅れる場合は「問題あり」とスコア付けされ得、そして出血に対する影響がない場合は「なし」とスコア付けされ得る。FXa変異体での治療が普通未満であると決定されると、さらなる用量のFXa変異体が、適切な止血を生じさせるために投与され得る。さらなる実施例において、対象が介入手順を受けている場合、臨床的な止血有効性は、正常な止血が手順中に実現される場合は「非常に良い」とスコア付けされ得、手順内の止血が失血の量または質によって少し異常であると判断される場合(例えば、わずかな毛細血管性出血)は「普通」とスコア付けされ得、手順内の止血が失血の量または質によってそれなりに異常であると判断される場合(例えば、管理可能な出血)は「問題あり」とスコア付けされ得、そして、手順内の止血が失血の量または質によって非常に異常であると判断される場合(例えば、重篤な難治性の大出血)は「なし」とスコア付けされ得る。
【0063】
直接FXa阻害剤の治療有効用量は、当技術分野における技術を有する医師に周知の多くの要因に依存する。リバーロキサバンの典型的な治療用血漿濃度は、約500nMである。しかし、本開示によると、FXa変異体は、より低いまたはより高い濃度の阻害剤を中和するために投与され得る。FXa変異体で治療される対象におけるリバーロキサバンの血漿濃度は、典型的な治療濃度より低いかまたは高くてよく、例えば、約100nM、約200nM、約300nM、約400nM、約500nM、約600nM、約700nM、約800nM、約900nM、または約1000nMであり得る。
【0064】
アピキサバンの典型的な治療用血漿濃度は、約250nMである。特定の実施形態において、FXa変異体は、約100nM、約200nM、約300nM、約400nM、約500nM、約600nM、約700nM、約800nM、約900nM、または約1000nMの血漿濃度のアピキサバンと共に対象に投与される。
【0065】
同様に、本開示によると、FXa変異体は、阻害剤の血漿濃度が典型的な治療用血漿濃度よりも少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも10倍、少なくとも15倍、少なくとも20倍、少なくとも25倍、少なくとも30倍、もしくは少なくとも50倍高い場合などの、過剰投薬のケースで、直接FXa阻害剤を中和するために用いられ得る。
【0066】
FXa変異体は、驚くべきことに、直接FXa阻害剤の血漿濃度よりも低い血漿濃度で直接FXa阻害剤を中和することにおいて有効である。本開示によると、FXa変異体は、約1から10、約1から25、約1から50、約1から100、約1から250、約1から500、約1から1,000、約1から2,500、約1から5,000、または約1から10,000の、阻害剤に対する変異体の血漿濃度比で、直接FXa阻害剤の影響を無効にする。特定の実施形態において、FXa変異体は、直接FXa阻害剤の血漿濃度の少なくとも10分の1、少なくとも25分の1、少なくとも50分の1、少なくとも100分の1、少なくとも250分の1、少なくとも500分の1、少なくとも1,000分の1、少なくとも2,500分の1、少なくとも5,000分の1、または少なくとも10,000分の1の血漿濃度で、直接FXa阻害剤の影響を無効にする。
【0067】
他の実施形態において、直接FXa阻害剤の影響を逆転させるために十分なFXa変異体の血漿濃度は、直接阻害剤の血漿濃度に、約0.1×10
−4から約1000×10
−4、約4×10
−4から約40×10
−4、約20×10
−4から約200×10
−4、または他の範囲にわたる変換係数をかけることによって計算される。さらに他の実施形態において、変換係数は、約0.1×10
−4、0.5×10
−4、1×10
−4、2×10
−4、3×10
−4、4×10
−4、5×10
−4、6×10
−4、7×10
−4、8×10
−4、9×10
−4、10×10
−4、11×10
−4、12×10
−4、13×10
−4、14×10
−4、15×10
−4、16×10
−4、17×10
−4、18×10
−4、19×10
−4、20×10
−4、21×10
−4、22×10
−4、23×10
−4、24×10
−4、25×10
−4、26×10
−4、27×10
−4、28×10
−4、29×10
−4、30×10
−4、31×10
−4、32×10
−4、33×10
−4、34×10
−4、35×10
−4、36×10
−4、37×10
−4、38×10
−4、39×10
−4、40×10
−4、45×10
−4、50×10
−4、55×10
−4、60×10
−4、65×10
−4、70×10
−4、75×10
−4、80×10
−4、85×10
−4、90×10
−4、95×10
−4、100×10
−4、110×10
−4、120×10
−4、130×10
−4、140×10
−4、150×10
−4、160×10
−4、170×10
−4、180×10
−4、190×10
−4、200×10
−4、250×10
−4、300×10
−4、350×10
−4、400×10
−4、450×10
−4、500×10
−4、550×10
−4、600×10
−4、650×10
−4、700×10
−4、750×10
−4、800×10
−4、850×10
−4、900×10
−4、950×10
−4、または1000×10
−4であり得、かつこれらの数値の間にわたる。FXa直接阻害剤の血漿濃度は、当業者の知識に従って、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)または他の方法によって、測定され得る。
【0068】
直接FXa阻害剤の過剰投薬を逆転させるために十分なFXa変異体の標的血漿濃度を達成することは、当業者の知識の範囲内である。非限定的な例において、対象の血漿容積または他のパラメータなどの、関連する薬物動態学的パラメータの推定は、対象の性別、身長、および体重、または他の因子に基づいて行われ得、標的濃度を達成するためにどの程度FXa変異体が投与される必要があるかを計算するために用いられる。FXa変異体を投与した後、血漿濃度は、当業者の知識に従ってモニタリングされ得、この情報は、濃度をあらゆる望ましい範囲に維持するために用いられる。
【0069】
本開示の組成物および方法には、「治療有効量」または「予防有効量」のFXa変異体が含まれる。「治療有効量」は、必要な投与量および期間で、望ましい治療結果を達成するために有効な量を指す。FXa変異体の治療有効量は、個体の病状、年齢、性別、および体重、ならびにFXa変異体の、個体において望ましい応答を引き出す能力などの因子に従って変化し得る。治療有効量はまた、FXa変異体のいかなる毒性のまたは有害な影響も治療的に有利な影響を上回らない量である。「予防有効量」は、必要な投与量および期間で、望ましい予防結果を達成するために有効な量を指す。例えば、用量は、計画的な外科手術の前に得ることができる。
【0070】
投与量レジメンは、最適な望ましい応答(例えば、治療的または予防的応答)をもたらすように調整され得る。例えば、単回ボーラスを投与することができるか、複数回の分割用量を経時的に投与することができるか、または用量を治療的状況の緊急の要求によって指示されるように比例的に低減もしくは増大させることができる。投与を簡単にするため、および投与量の均一性のために、非経口組成物を投与単位形態に製剤することが特に有利である。本明細書において用いられる投与単位形態は、治療される哺乳動物対象のための単位投与量として適している物理的に個別の単位を指し、各単位は、望ましい治療効果をもたらすように計算された所定の量の活性化合物を、所要の薬学的担体と組み合わせて含有する。本開示の投与単位形態についての仕様は、(a)FXa変異体の特有の特徴、および達成されるべき特定の治療的または予防的影響、ならびに(b)個体の治療のためのこのようなFXa変異体を化合する分野に固有の制限によって決定され、かつそれらに直接依存する。
【0071】
特定の実施形態において、投与されるFXa変異体の治療または予防有効量は、約0.0001から50mg/kg、約0.001から50mg/kg、約0.001から5mg/kg、約0.001から0.5mg/kg、約0.001から0.05mg/kg、約0.01から5mg/kg、または約0.01から0.5mg/kgである。
【0072】
特定の実施形態において、本開示のFXa変異体の治療または予防有効血清濃度は、約0.0003から300nM、約0.003から300nM、約0.03から300nM、約0.003から30nM、約0.03から30nM、または約0.3から3nMである。例えば血液または血漿における、FXa変異体の濃度は、当技術分野において公知のあらゆる方法によって測定され得る。
【0073】
投与量値はFXa阻害剤の濃度で変化し得ることに留意されたい。いかなる特定の対象、具体的な投与量レジメンも、個体の要求、および投与する人物または組成物の投与を監督する人物の専門的な判断に従って、経時的に調整されること、ならびに本明細書において示される投与量の範囲は例示的なものにすぎず、特許請求の範囲に記載の組成物の範囲または実施を限定することを意図したものではないこともさらに理解されたい。
【0074】
本開示の別の態様は、FXa変異体またはこのようなFXa変異体を含む組成物を含むキットを提供する。キットには、FXa変異体または組成物に加えて、診断物質またはさらなる治療物質が含まれ得る。キットにはまた、治療方法において用いるための指示、ならびに、限定はしないが、氷、ドライアイス、発泡スチロール、発泡体、プラスチック、セロファン、シュリンクラップ、気泡ラップ、段ボール、およびスターチピーナッツなどの、包装材料が含まれ得る。1つの実施形態において、キットには、FXa変異体またはそれを含む組成物と、本明細書において記載される方法において用いられ得る1つまたは複数の治療物質とが含まれる。
【0075】
FXa変異体は、例えば、それを含む組成物の形で、適切な止血が回復するまで、または直接FXa阻害剤がもはや有効でなくなるまで、1回または複数回、対象に投与され得る。複数回の投与が用いられる場合、それらは、1時間に1回、1日に1回、または、例えば1日に複数回の用量を含む、あらゆる他の適切な間隔で、投与され得る。複数回用量は、10分ごと、15分ごと、20分ごと、30分ごと、1時間ごと、2時間ごと、3時間ごと、4時間ごと、1日に3回、1日に2回、1日に1回、2日に1回、3日に1回、および1週間に1回などのスケジュールで投与され得る。FXa変異体はまた、例えばミニポンプを介して、連続的に投与され得る。FXa変異体は、例えば非経口経路(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、または筋肉内)を介して投与され得る。FXa変異体は、通常、以下に記載される医薬組成物の一部として投与される。
【0076】
別の実施形態において、FXa変異体は、別のFXa変異体、第IX因子、第XIa因子、第XIIa因子、第VIII因子、第VIIa因子、FEIBA、およびプロトロンビン複合体濃縮物(PCC)を含む、別の凝固促進剤と共に同時投与され得る。
【0077】
本開示のFXa変異体とさらなる治療物質との同時投与(組み合わせ療法)は、FXa変異体とさらなる治療物質とを含む医薬組成物を投与すること、ならびに、2つ以上の分離した医薬組成物、すなわち、FXa変異体を含む一方の医薬組成物およびさらなる治療物質を含む他方の医薬組成物を投与することを包含する。同時投与または組み合わせ療法にはさらに、FXa変異体とさらなる治療物質とを同時にまたは連続的にまたはその両方で投与することが含まれる。例えば、FXa変異体は、3日に1回投与され得、一方、さらなる治療物質は、FXa変異体と同時に、または異なる時点で、1日に1回投与される。FXa変異体は、さらなる治療物質での治療の前または後に投与され得る。同様に、本開示のFXa変異体の投与は、外科手術を含む他の治療法を含む治療レジメンの一部であり得る。組み合わせ療法は、疾患の再発を予防するために投与され得る。組み合わせ療法は、1時間から1週間に複数回、投与され得る。投与は、10分ごと、15分ごと、20分ごと、30分ごと、1時間ごと、2時間ごと、3時間ごと、4時間ごと、1日に3回、1日に2回、1日に1回、2日に1回、3日に1回、1週間に1回などのスケジュールであり得るか、または、例えばミニポンプを介して連続的に投与され得る。組み合わせ療法は、例えば非経口経路(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、または筋肉内)を介して投与され得る。
【0078】
さらなる態様において、本開示は、対象における直接FXa阻害剤の中和において用いるためのFXa変異体を含む組成物を提供する。組成物は、薬学的に許容できる担体、媒体、または生理学的に適合する他の成分を含み得る。このような担体、媒体、および他の成分の非限定的な例には、溶媒(例えば、水、エタノール、生理食塩水、リン酸緩衝溶液)、洗剤、界面活性剤、分散媒質、被覆剤、抗菌剤または抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤、糖(例えば、ショ糖、デキストロース、ラクトース)、ポリアルコール(例えば、グリセロール、マンニトール、ソルビトール)、塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム)、湿潤剤、乳化剤、防腐剤、緩衝剤、およびFXa変異体の安定性または有効性を増強させ得る作用物質が含まれる。
【0079】
本開示に従った使用のため組成物は、溶液(例えば、注射可能溶液および注入可能溶液)などの、対象に投与するためのあらゆる適切な形態であり得る。組成物は、例えばバイアルまたは充填済みシリンジ内の、対象に投与できる状態の予混合されたフォーマットで提供され得る。このようなフォーマットは、投与前の希釈剤での再構成を要しない。あるいは、組成物は、投与前の希釈剤(例えば、滅菌水または生理食塩水)での再構成が必要な凍結乾燥形態で提供され得る。後者の場合、希釈剤は、分離した容器内の凍結乾燥物と共に提供され得る。当業者の知識によると、組成物は、冷凍下でまたは室温で保存するために製剤され得る。組成物の形態は、少なくとも部分的に、意図された投与態様に依存する。特定の実施形態において、投与態様は、例えば、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、または筋肉内投与を含む、非経口投与である。
【0080】
治療用組成物は、典型的には、製造および保存の条件下で無菌かつ安定でなくてはならない。組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、分散物として、リポソーム内、または高い薬剤濃度に適した他の注文された構造で製剤され得る。無菌注射可能溶液は、所要量のFXa変異体を、上記に列挙された1つの成分または成分の組み合わせと共に、適切な溶媒内に組み込み、必要に応じて、その後濾過滅菌することによって、調製され得る。通常、分散物は、活性化合物を、基本的な分散媒質と上記に列挙されたもののうちの所要の他の成分とを含有する無菌媒体内に組み込むことによって調製される。無菌注射可能溶液の調製のための無菌粉末のケースでは、好ましい調製方法は、活性成分と、先に滅菌濾過されたその溶液に由来するあらゆるさらなる望ましい成分との粉末をもたらす、真空乾燥および凍結乾燥である。溶液の適切な流動性は、例えば、レシチンなどの被覆剤を用いることによって、分散物のケースでは所要の粒子サイズを維持することによって、および界面活性剤を用いることによって、維持され得る。注射可能組成物の持続的吸収は、組成物内に、吸収を遅らせる作用物質、例えばモノステアリン酸塩およびゼラチンを含めることによって、もたらされ得る。
【0081】
本開示によって、本明細書における組成物のいずれも、直接FXa阻害剤で治療されている対象に投与され得ることがさらに企図される。
【0082】
本明細書において記載される実施例および実施形態は例示的な目的のためのものにすぎないこと、ならびにそれに照らした様々な修正または変更が当業者に明らかであり、本発明の真の範囲内に含まれ、本発明の真の範囲から逸脱することなくなされ得ることが理解される。
【実施例】
【0083】
(実施例1)
リバーロキサバンに対するFXa
I16Lの感受性
リバーロキサバンに対するFXa
I16Lの感受性を試験するために、阻害アッセイを確立させた。リバーロキサバンは、0.582nMの阻害定数(K
i)を示す、野生型FXaの効率的な阻害剤であった(
図1A)。FXa
I16Lの酵素原様の性質に起因して、リバーロキサバンは、約15分の1に低減した親和性でこの変異体に結合した(K
i=9.3nM)(
図1B)。逆に、変異体がプロトロンビナーゼ複合体を形成していた場合(すなわち、FVaおよびリン脂質小胞の添加の際)、リバーロキサバンについてのK
iは、野生型酵素に匹敵する値までほぼ回復した(wt FXa、K
i=2.67nM(
図2A);FXa
I16L、K
i=3.4nM(
図2B)。
【0084】
(実施例2)
FXa変異体はリバーロキサバンおよびアピキサバンを中和する
トロンビン生成アッセイ(TGA)を用いて、酵素原様FXa変異体が、より生理学的な環境において直接FXa阻害剤の影響を逆転させ得るかを評価した。TGAは、凝固開始後に経時的に血漿におけるトロンビン生産を測定するものであり、以前に記載されているように行った(参照することによってその全体が本明細書に組み込まれる、Bunceら、(2011)Blood 117、290〜298を参照されたい)。正常なヒト血漿におけるトロンビン生成を、90分、37℃で、500nMのリバーロキサバンの存在下または不存在下で測定した。FXa
I16Lがリバーロキサバンの影響を逆転させ得るかどうかを評価するために、増大量のFXa
I16Lを、500nMのリバーロキサバンを含有する血漿に添加した。トロンビン生成を、2.0pMの組織因子/4uMのリン脂質、ならびにCaCl
2およびトロンビン蛍光発生基質で開始させた。
【0085】
データは、500nMのリバーロキサバンの存在下の血漿のトロンビン生成プロファイルが、リバーロキサバンの不存在下の血漿と比較して実質的に低減することを実証した。逆に、0.03から1nMの増大濃度のFXa
I16Lは、トロンビン生成を回復させた(
図3)。これらのデータは、ナノモル濃度およびナノモル濃度を下回る濃度の範囲のFXa
I16Lの予想外に低い濃度が阻害剤の影響を逆転させ得ることを示す。500nMのリバーロキサバン(典型的な治療用血漿濃度)の存在下のFXa
I16Lの用量応答分析は、トロンビン生成のピーク高さ(
図4AおよびC)および生産された総トロンビン(ETP)(
図4BおよびD)が、本質的に最大に達し、これらの条件下でFXa
I16Lの1〜3nMの間の正常レベルまで完全に回復したことを示す。さらなる実験は、高濃度のリバーロキサバン(7.5μM、治療濃度を超える濃度)の存在下でさえも、FXa
I16Lは比較的低い用量(≦3.0nM)でピークトロンビン(
図5A)および生成された総トロンビン(
図5B)の回復において依然として非常に有効であることを示した。
【0086】
類似の実験もまた、FXa酵素原様変異体が別の直接FXa阻害剤であるアピキサバンの影響を逆転させ得るかどうかを評価するために行った。これらの実験において、FXa
I16Lと、別の酵素原様FXa変異体であるFXa
I16Tとの有効性も比較した。FXa
I16TはFXa
I16Lに類似しているが、FXa
I16Tは、プロトロンビナーゼ複合体を形成している場合に、FXa
I16Lと比較して、本質的に活性が低く、血漿半減期が長く、活性が約3分の1〜5分の1に低減している。リバーロキサバンのデータと一致して、FXa
I16Lは、用量依存的に、250nMのアピキサバン(典型的な治療用血漿濃度)の存在下で、ピークトロンビン(
図6A)および生成される総トロンビン(
図6B)を回復させ得、1〜3nMのFXa
I16Lの間で最大に達するようである。FXa
I16Tもまた、アピキサバンの影響を逆転させるのに有効であったが、トロンビン生成を完全に回復させるためには、より高い濃度のこの変異体が必要であると考えられる(
図6)。両変異体は、より高い濃度のアピキサバン(2μM)の存在下でさえも依然として有効であった。しかし、これらの条件下で、トロンビン生成を完全に回復させるためには、より高い濃度の両変異体が必要であると考えられる(
図7AおよびB)。
【0087】
(実施例3)
FXa
I16Lは全血においてリバーロキサバンおよびアピキサバンを中和する
全血トロンボエラストメトリーを用いて、FXa
I16L変異体の、全血における直接FXa阻害剤の影響を逆転させる能力を評価した。この系において、血液は健康なボランティアから採取した。最初の2mLの血液を廃棄し、次の5mLの血液を採血器(BD、フランクリンレイクス、ニュージャージー州)内に回収した。血液試料の回収の前に、トウモロコシトリプシン阻害剤およびクエン酸ナトリウムが回収管の中に入っており、血液内で0.105Mのシトレートおよび25μg/mLのトウモロコシトリプシン阻害剤の最終濃度が達成された(Haematologic Technologies、バーリントン、バーモント州)。2セットの反応を各ドナーについて分析した。第1の反応は、血液回収の5分後に開始した。第2の反応は、第1の反応の開始の1時間後(回収の1時間5分後)に開始した。
【0088】
血液を、トロンボエラストメトリーROTEM(登録商標)デルタ(Tem International GmbH、ミュンヘン、ドイツ)を用いて分析した。反応のために、(1)6μLの媒体、タンパク質、および/または阻害剤を空のカップに添加し、(2)20μlの0.2MのCaCl
2(最終濃度11.6mM)、および(3)20μlのInnovin(反応物における最終濃度1:10,000、組織因子源)をカップに添加した。上記のように回収された全血を反応物(300μL)に添加し、記録を、およそ30〜60分にわたり継続するようにした。回収されたデータを、製造者のソフトウェア(Rotem Gamma Software Version 1.1.1)を用いて分析した。
【0089】
FXa
I16Lの、リバーロキサバンまたはアピキサバンの存在下で全血凝血塊の形成を加速させる能力を、回転トロンボエラストメトリー(ROTEM)を用いて調べた。両直接FXa阻害剤は、単独で、2つの異なる濃度で、全血凝血塊の形成に対する実質的な影響を有しており、低用量(治療濃度)では、全血凝血塊の形成は部分的に解消された(
図8Aおよび
図9A)が、高用量(治療濃度を超える濃度)では、全血凝血塊の形成はほとんど完全に解消された(
図8Bおよび
図9B)。全血凝血塊の形成に対するリバーロキサバンまたはアピキサバンの影響は、FXa
I16Lによって逆転することができた。500nMのリバーロキサバンまたは250nMのアピキサバンの存在下で、0.3nMのFXa
I16Lは、全血凝固を完全にまたはほぼ完全に回復させることができた(
図8Aおよび
図9A)。より高い濃度の直接FXa阻害剤を用いた場合(約2uM)、0.3nMのFXa
I16Lは、全血凝固を部分的に回復させ、3nMのFXa
I16Lは、全血凝固を完全に回復させた(
図8Bおよび
図9B)。これらのデータは、FXa酵素原様変異体が、阻害剤の治療濃度と治療濃度を超える濃度との両方で、血漿ベースのおよび全血の凝固アッセイにおいて、リバーロキサバンまたはアピキサバンの抗凝固性の影響を効果的に逆転させ得ることを実証した。
【0090】
これらの研究の結果は、FXa
I16Lが、リバーロキサバンの抗凝固性の影響を、両作用物質がインビボで投与された場合に中和し得るかを試験することによって、確認され、示された。これらの実験において、C57BL/6マウスに、リバーロキサバン(1mg/kg)または緩衝液を、尾静脈を介して注入した。次いでマウスを、頚静脈および大静脈を露出するように準備した。およそ10分後、FXa
I16L(1または2mg/kg)を直接的な注射によって頚静脈内に注入した。注射の5分後、血液を、大静脈を介して、シトレートおよびトウモロコシトリプシン阻害剤内に回収した。回収された血液を、次いで、希釈された組織因子(Innovin、1:42,000希釈)を用いてROTEMによって分析した。緩衝液のみを投与されたマウスから得られた全血は、約2分までに凝血した(
図12)。1mg/kgのリバーロキサバンの投与によって、凝血時間は実質的に約10分まで延びた(
図12)。FXa
I16Lのさらなる投与によって、凝血時間は、リバーロキサバンの存在下で、用量依存的に短縮した(
図12)。
【0091】
(実施例4)
FXa
I16Lはトロンビン生成アッセイにおいてリバーロキサバンを中和する
血漿におけるリバーロキサバンの逆転に対するFXa
I16Lの影響を、較正自動化トロンボグラフィー(CAT)系(Thrombinoscope BV、マーストリヒト、オランダ)を用いて、トロンビン生成アッセイ(TGA)において調べた。正常なヒト血漿を、George King Biomedical(オーバーランドパーク、カンザス州)から入手した。反応において、4μMのリン脂質および1pMの組織因子を含有する20μLのPPP−Reagent LOWを、Immulon 2HB丸底96ウェルプレート内の70μLのプールされた正常なヒトクエン酸血漿(治療用血漿濃度範囲内の250nMのリバーロキサバンで処理された)に添加し、反応は2連(デュプリケート)で行った。先行する反応が開始するとすぐに、10μLの媒体またはFXa
I16Lを、0.03125nMから0.5nMの範囲のFXa
I16L最終濃度で血漿に添加し、120μLの全反応容積とした。反応を、塩化カルシウムおよび蛍光発生基質を含有する20μLのFluCa緩衝液を添加することによって開始させた。血漿反応物の蛍光を、37℃で、20秒間隔で、Fluoroskan Ascent蛍光光度計で読み取り、参照トロンビン較正器の反応の蛍光と比較して、トロンビン濃度を決定した。蛍光シグナルの強度(FU)を、37℃で、CATを用いて、連続的にモニタリングした。Thromboscopeソフトウェア(Thrombinoscope BVバージョン)を用いて、トロンビン生成曲線(nMトロンビン対時間)を分析して、遅滞時間、ピーク高さ、ピークまでの時間、および内因性トロンビン産生能(ETP)を表す曲線下面積を抽出した。
【0092】
正常なヒト血漿におけるトロンビン生成の用量依存性の阻害を、インビトロでのリバーロキサバン処理(5〜200nM)で観察した(
図10A)。リバーロキサバンは、遅滞時間の増大と、ピークトロンビンの減少およびETPの減少とをもたらした。リバーロキサバン(250nM)へのFXa
I16Lの添加は、ヒト血漿を阻害し、その結果、トロンビン阻害の用量依存性の逆転をもたらし(
図10B)、すなわち、ピークトロンビン生成は回復し、遅滞期は短縮され、そしてETPは増大した。低用量の0.03125nMのFXa
I16Lで、トロンビン生成は、媒体で処理された正常なヒト血漿に匹敵するレベルまで回復した。
【0093】
(実施例5)
FXa
I16Lはマウス尾部クリップ出血モデルにおいてリバーロキサバンを中和する
FXa
I16Lの、インビボでのリバーロキサバンの影響を克服する能力を、正常なマウスにおける急性出血モデルにおいて評価した。結果は、酵素原様FXa変異体が直接FXa阻害剤の抗凝固性の影響を逆転させ得ることを実証した。
【0094】
出血を延ばすリバーロキサバンの用量を確立するために、オスC57Bl/6マウス(The Jackson Laboratory、バーハーバー、メイン州)に、10、25、または50mg/kgの用量のリバーロキサバンを単回、静脈内注射した。30分後、マウスをイソフルランで麻酔し、加熱したプラットフォームに置き、そしてマウスの体温を37℃で維持し、その後、尾部を切断した。尾部を、50mLの事前に温めた37℃のリン酸緩衝溶液(PBS)内に2分浸した。3mmの尾部切断部を作製し、血液を10分間、PBS内に回収した。出血量の定量的評価を、PBS内に回収された血液のヘモグロビン含有量によって決定した。試験管を遠心分離して赤血球を回収し、5mLの溶解緩衝液(8.3g/LのNH
4Cl、1.0g/LのKHCO
3、および0.037g/LのEDTA)内に再懸濁し、そして試料の吸光度を575nmで測定した。吸光値を、標準曲線を用いて、総失血(μL)に変換した。リバーロキサバンの投与の結果、尾部切断後の失血が用量依存的に増大した(
図11)。
【0095】
このモデルにおいて、50mg/kg用量のリバーロキサバンは、尾部離断後の失血を増大させた。マウスに50mg/kgのリバーロキサバンを投薬し、30分後、50または200ug/kgのFXa
I16Lを37℃で静脈内に投薬し、その後、尾部を切断した。マウスを次いでイソフルランで麻酔し、加熱したプラットフォームに置き、そしてマウスの体温を37℃で維持し、その後、尾部を切断した。尾部を、50mLの事前に温めた37℃のリン酸緩衝溶液(PBS)内に2分浸した。3mmの尾部切断部を作製し、血液を10分間、PBS内に回収し、出血量の評価を、記載したように、ヘモグロビン含有量によって決定した。このモデルにおいて、止血性FXa
I16L変異体の投与により、リバーロキサバンで誘発される過剰な失血が減少した(
図11)。
【0096】
(実施例6)
FXa
I16Lは生体顕微鏡法を用いて実証されるようにマウス出血モデルにおいてリバーロキサバンを中和する
生体顕微鏡法を用いて視覚化されるように、リバーロキサバンは、レーザー誘発性の損傷後のマウス精巣挙筋の微小循環において血栓の形成を阻害することが実証された。FXa
I16Lのさらなる投与によって、この系におけるリバーロキサバンの抗凝固性の影響は中和され得た。
【0097】
標準的な技術を用いて、マウスの精巣挙筋を露出させ、生体顕微鏡法を用いて視覚化した。筋肉における血管の損傷を、次いで、レーザーを用いて誘発した。損傷後、凝血塊の形成を、フィブリンおよび血小板を特異的に認識する異なる蛍光標識された抗体を用いて視覚化した。凝血は、両タイプの抗体から生じる蛍光シグナルの存在によって示される。
【0098】
レーザーでの損傷の後、未処理マウスは、損傷部位で凝血塊を迅速に形成し、それは数分にわたり安定であった(
図13A)。ビデオフレームにおいて、凝血塊は、フィブリンおよび血小板に対する抗体と関連する蛍光シグナルの同時発生として可視的である(より暗い灰色の領域と重なる、明るい灰色の中央領域)。1mg/kgのリバーロキサバンの、マウスへの投与は、しかし、損傷部位での血小板の蓄積を遅らせ、フィブリンのあらゆる兆候を解消した(
図13B)。ビデオフレームにおいて、抗血小板抗体に関連する蛍光シグナルの存在を反映する暗い灰色の領域によって示されるように、程度が低減した血小板のみが見られた。逆に、マウスに1mg/kgのリバーロキサバンと、その後、0.5mg/kgのFXa
I16Lとを投与した場合、凝血塊は、損傷部位で迅速に形成された(
図13C)。ビデオフレームにおいて、凝血塊は、血小板およびフィブリンに対する抗体と関連する蛍光シグナルの特徴的なパターンによって示される。
【0099】
本明細書において別段の定義がない限り、本開示に関連して用いられる科学用語および技術用語は、当業者によって一般に理解されている意味を有する。さらに、文脈により別段の要求がない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含む。通常、本明細書において記載される、細胞培養および組織培養、分子生物学、免疫学、微生物学、遺伝学、ならびにタンパク質化学および核酸化学、ならびにハイブリダイゼーションに関連して用いられる命名と、それらの技術とは、当技術分野において周知であり、一般的に用いられるものである。
【0100】
本開示の方法および技術は、通常、別段の指示がない限り、当技術分野において周知の従来の方法に従って、本明細書の全体を通して引用され論じられる様々な一般的な参考文献およびさらに具体的な参考文献において記載されているように行われる。例えば、参照することによって本明細書に組み込まれる、Sambrook J.& Russell D..Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(2000);Ausubelら、Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology、Wiley,John & Sons,Inc.(2002);HarlowおよびLane Using Antibodies:A Laboratory Manual.Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(1998);およびColiganら、Short Protocols in Protein Science、Wiley,John & Sons,Inc.(2003)を参照されたい。酵素反応および精製技術は、製造者の説明に従って、当技術分野において一般に達成されるように、または本明細書において記載されるように行われる。本明細書において記載される、分析化学、合成有機化学、ならびに医科学および薬化学に関連して用いられる命名と、それらの実験手順および実験技術とは、当技術分野において周知であり、一般的に用いられるものである。
【0101】
本明細書において引用される全ての刊行物、特許、特許出願、または他の文献は、各個別の刊行物、特許、特許出願、または他の文献が全ての目的で参照することによって組み込まれることが個別に示されたのと同程度に、全ての目的で、参照することによってその全体が本明細書に組み込まれる。
【0102】
本明細書および特許請求の範囲の全体を通して、単語「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」などの変型は、言及された整数または整数群を含めることを意図するが、いかなる他の整数または整数群の排除も意図するものではないことが理解される。