【実施例】
【0035】
以下において、実施例をもとに本実施形態のMEMS型半導体式ガス検知素子の優れた効果を説明する。ただし、本発明のMEMS型半導体式ガス検知素子は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
図1に示されるMEMS型半導体式ガス検知素子1を作製した。その際、ガス感応部3および保護膜6を除く他の構成を、基板2をシリコン基板とし、加熱部4を白金線として、公知のMEMS技術を利用して作製した。
【0037】
ガス感応部3は、アンチモンをドナーとして0.2wt%添加した酸化スズ半導体の微粉体のペーストを、基板2上の加熱部4を覆って最大厚さが40μmになるように塗布して、乾燥後、電気炉にて650℃で2時間加熱して、酸化スズ半導体を焼結させることにより形成した。
【0038】
不活性膜5については、10〜500ppmのHMDS雰囲気中で、加熱部4に通電してジュール熱によりガス感応部3を500℃で1時間の加熱を行なって、シロキサン結合を有するシリカ膜をガス感応部3の外側に形成した。
【0039】
保護膜6は、市販のアルミナの微粉体のペーストを、基板2上の不活性膜5を覆って最大厚さが40μmになるように塗布して、乾燥後、加熱部4に通電してジュール熱により650℃で2時間加熱して、アルミナを焼結させることにより形成した。
【0040】
(実施例2)
保護膜6以外は実施例1と同様にして、
図1に示されるMEMS型半導体式ガス検知素子1を作製した。保護膜6は、市販のアルミノシリケートの微粉体のペーストを、基板2上の不活性膜5を覆って最大厚さが40μmになるように塗布して、乾燥後、加熱部4に通電してジュール熱により650℃で2時間加熱して、アルミノシリケートを焼結させることにより形成した。
【0041】
(実施例3)
保護膜6以外は実施例1と同様にして、
図1に示されるMEMS型半導体式ガス検知素子1を作製した。保護膜6は、市販のアルミノシリケートに酸化クロム20wt%を凍結含浸させた微粉体のペーストを、基板2上の不活性膜5を覆って最大厚さが40μmになるように塗布して、乾燥後、加熱部4に通電してジュール熱により650℃で2時間加熱して、酸化クロム含浸アルミノシリケートを焼結させることにより形成した。
【0042】
(実施例4)
ガス感応部3以外は実施例3と同様にして、
図1に示されるMEMS型半導体式ガス検知素子1を作製した。ガス感応部3は、アンチモンをドナーとして0.2wt%添加した酸化スズ半導体の微粉体に2.0wt%の酸化クロムの微粉体を混ぜたペーストを、基板2上の加熱部4を覆って最大厚さが40μmになるように塗布して、乾燥後、電気炉にて650℃で2時間加熱して、酸化クロムを担持させた酸化スズ半導体を焼結させることにより形成した。
【0043】
(比較例1)
図1の保護膜6を有さないMEMS型半導体式ガス検知素子を作製した。保護膜6を形成しない以外は、実施例1〜3と同様に作製した。
【0044】
(比較例2)
図1の保護膜6を有さないMEMS型半導体式ガス検知素子を作製した。保護膜6を形成しない以外は、実施例4と同様に作製した。
【0045】
(水素ガスに対する応答特性および応答復帰特性の経時劣化の評価)
実施例1〜4および比較例1〜2のMEMS型半導体式ガス検知素子を、公知のブリッジ回路に組み込んで、大気中において水素ガス濃度を変化させたときのセンサ出力の変化を測定した。MEMS型半導体式ガス検知素子の駆動条件は、加熱時の温度が500℃になるように、5秒サイクルにて0.06秒の印加電圧パターンとするパルス駆動とした。測定環境雰囲気は、大気中の水素ガス濃度を1分毎に50ppm、100ppm、200ppm、500ppm、1000ppm、2000ppm、5000ppmと変化させた後、水素ガスを含まない大気と置換した。応答特性は、大気中の水素ガスの濃度を変化させたタイミングでのセンサ出力の変化の速さから評価した。また、応答復帰特性は、水素ガス濃度が5000ppmである環境雰囲気を、水素ガスを含まない大気と置換したタイミングでのセンサ出力の変化の速さから評価した。応答復帰特性の経時劣化は、MEMS型半導体式ガス検知素子を作製した直後、1ヶ月間室温で放置した後、および2ヶ月間室温で放置した後に上記測定を行なうことにより評価した。
【0046】
図3〜5は、酸化スズ半導体によりガス感応部を形成した実施例1〜3の測定結果を示し、
図6は、同じく酸化スズ半導体によりガス感応部を形成した比較例1の測定結果を示している。なお、それぞれの図中では、大気中の水素ガス濃度をそれぞれ増加させたタイミングと環境雰囲気を大気に置換したタイミングとを矢印で示している。
【0047】
比較例1の
図6を参照すると、比較例1の作製直後では、水素ガス濃度をそれぞれ増加させたタイミングでセンサ出力が比較的速やかに増加し、環境雰囲気を大気に置換したタイミングでセンサ出力が比較的速やかに低下している。このことから、比較例1は、作製直後では、所定範囲の応答特性および応答復帰特性が得られていることが分かる。ところが、比較例1の作製後から1ヶ月、2ヶ月と経過するにしたがって、水素ガス濃度をそれぞれ増加させたタイミングでのセンサ出力の増加が緩やかとなり、環境雰囲気を大気に置換したタイミングでのセンサ出力の低下が緩やかになっている。特に、環境雰囲気を大気に置換したタイミングでのセンサ出力の低下については、今回の測定サイクル内で、測定開始前のセンサ出力まで復帰していない。このことから、比較例1は、応答特性および応答復帰特性が経時に伴って大きく劣化していることが分かる。
【0048】
それに対して、比較例1に保護膜を設けた実施例1〜3の
図3〜5を参照すると、いずれも、実施例1〜3の作製後から1ヶ月、2ヶ月と経過しても、水素ガス濃度をそれぞれ増加させたタイミングでのセンサ出力の増加や、環境雰囲気を大気に置換したタイミングでのセンサ出力の低下にはほとんど変化が見られない。このことから、保護膜を設けることによって、応答特性および応答復帰特性の経時に伴う劣化が抑制されることが分かる。特に、アルミノシリケートにより形成される担体に酸化クロムを担持させて形成した保護膜を用いた実施例3(
図5)については、作製直後において、比較例1(
図6)と比べて、水素ガス濃度をそれぞれ増加させたタイミングでのセンサ出力の増加や、環境雰囲気を大気に置換したタイミングでのセンサ出力の低下が急峻な変化を示している。このことから、アルミノシリケートにより形成される担体に酸化クロムを担持させて形成した保護膜を用いることにより、素子の作製直後において、優れた応答特性および応答復帰特性を得ることができることが分かる。これは、水素ガス以外の干渉ガスが、保護膜中の酸化活性の高い酸化クロムによって分解されて、不活性膜に到達するのが制限されるからではないかと考えられる。
【0049】
図7は、酸化クロムを担持させた酸化スズ半導体によりガス感応部3を形成した実施例4の測定結果を示し、
図8は、同じく酸化クロムを担持させた酸化スズ半導体によりガス感応部3を形成した比較例2の測定結果を示している。なお、これらの図中でも、上述したように、大気中の水素ガス濃度をそれぞれ増加させたタイミングと環境雰囲気を大気に置換したタイミングとを矢印で示している。
【0050】
比較例2の
図8を参照すると、比較例2の作製直後では、比較例1(
図6)の作製直後と比べて、水素ガス濃度をそれぞれ増加させたタイミングでセンサ出力が速やかに増加し、環境雰囲気を大気に置換したタイミングでセンサ出力が速やかに低下している。このことから、比較例2は、作製直後では、比較例1と比べて優れた応答特性および応答復帰特性が得られていることが分かる。これは、酸化活性の高い金属酸化物である酸化クロムがガス感応部に添加されているために、ガス感応部の酸化スズ半導体に対する水分子の吸着活性が抑制され、酸化スズ半導体の酸化活性の安定化が図られたことによるものと考えられる。一方、比較例2の作製後から1ヶ月、2ヶ月と経過するにしたがって、水素ガス濃度をそれぞれ増加させたタイミングでのセンサ出力の増加が緩やかとなり、環境雰囲気を大気に置換したタイミングでのセンサ出力の低下が緩やかになっている。このことから、比較例2は、応答特性および応答復帰特性が経時に伴って劣化していることが分かる。
【0051】
それに対して、比較例2に保護膜を設けた実施例4の
図7を参照すると、実施例4の作製直後から1ヶ月、2ヶ月と経過しても、水素ガス濃度をそれぞれ増加させたタイミングでのセンサ出力の増加や、環境雰囲気を大気に置換したタイミングでのセンサ出力の低下にはほとんど変化が見られない。このことから、保護膜を設けることによって、応答特性および応答復帰特性の経時に伴う劣化が抑制されることが分かる。
【0052】
(水素ガスに対する検出感度の経時変化の評価)
実施例1、2、4および比較例1、2のMEMS型半導体式ガス検知素子を、公知のブリッジ回路に組み込んで、異なる水素ガス濃度に対するセンサ出力の経時変化を測定した。また、MEMS型半導体式ガス検知素子の水素ガス選択性を評価するために、異なるメタンガス濃度に対するセンサ出力の経時変化についても測定した。MEMS型半導体式ガス検知素子の駆動条件は、加熱時の温度が500℃になるように、5秒サイクルにて0.06秒の印加電圧パターンとするパルス駆動とした。センサ出力値としては、測定開始からセンサ出力値が安定した時点の値を採用した。測定環境雰囲気は、(1)大気、(2)大気中の水素ガス濃度:50ppm、100ppm、200ppm、500ppm、1000ppm、2000ppm、5000ppm、(3)大気中のメタンガス濃度:1000ppm、2000ppm、5000ppmとした。センサ出力の経時変化は、MEMS型半導体式ガス検知素子を作製した直後から約2ヶ月後までの間に数日間隔で上記測定を行なうことにより評価した。
【0053】
図9、10は、酸化スズ半導体によりガス感応部を形成した実施例1、2の測定結果を示し、
図11は、同じく酸化スズ半導体によりガス感応部を形成した比較例1を示している。
図9、10の実施例1、2と、
図11の比較例1とは、保護膜を有しているか否かの違いを有している。比較例1の
図11を参照すると、すべての濃度の水素ガスに関して、センサ出力は、経時に伴って、素子作製直後から一度低下した後に増加している。このことから、比較例1では、水素ガスに対する検出感度が経時に伴って変化していることが分かる。それに対して、比較例1に保護膜を設けた実施例1、2の
図9、10を参照すると、すべての濃度の水素ガスに関して、センサ出力は、経時に伴って、素子作製直後からわずかに減少した後ほぼ一定の値を示している。このことから、実施例1、2では、保護膜が設けられることにより、比較例1で生じていた水素ガスに対する検知感度の経時変化を抑制できていることが分かる。なお、大気中にメタンガスを含む場合のセンサ出力は、同一の濃度の水素ガスに対するセンサ出力よりも圧倒的に小さく、いずれの濃度の場合でも水素ガス選択性が維持されていることが分かる。
【0054】
図12は、酸化クロムを担持させた酸化スズ半導体によりガス感応部を形成した実施例4の測定結果を示し、
図13は、同じく酸化クロムを担持させた酸化スズによりガス感応部を形成した比較例2の測定結果を示している。
図12の実施例4と、
図13の比較例2とは、保護膜を有しているか否かの違いを有している。比較例2の
図13を参照すると、すべての濃度の水素ガスに関して、センサ出力は、経時に伴って、素子作製直後から増加している。このことから、比較例2では、水素ガスに対する検出感度が経時に伴って変化していることが分かる。それに対して、比較例2に保護膜を設けた実施例4の
図12を参照すると、すべての濃度の水素ガスに関して、センサ出力は、経時に伴って、素子作製直後からほぼ一定の値を示している。このことから、実施例4では、保護膜が設けられることにより、比較例2で生じていた水素ガスに対する検知感度の経時変化を抑制できていることが分かる。なお、大気中にメタンガスを含む場合のセンサ出力は、同一の濃度の水素ガスに対するセンサ出力よりも圧倒的に小さく、いずれの濃度の場合でも水素ガス選択性が維持されていることが分かる。
【0055】
以上に示したように、本実施形態のMEMS型半導体式ガス検知素子1は、基板2と、基板2に設けられ、金属酸化物半導体を主成分とするガス感応部3と、ガス感応部3を加熱する加熱部4と、水素選択透過性を有し、ガス感応部3の外側に形成される不活性膜5と、不活性膜5の外側に形成され、ガス感応部3の劣化を抑制する保護膜6とを備えることにより、水素選択性を維持しながら、ガス感応部の劣化を抑制することができる。