特許第6437689号(P6437689)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6437689
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】MEMS型半導体式ガス検知素子
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20181203BHJP
【FI】
   G01N27/12 B
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-148446(P2018-148446)
(22)【出願日】2018年8月7日
【審査請求日】2018年8月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三橋 弘和
(72)【発明者】
【氏名】堂上 長則
【審査官】 黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−120945(JP,A)
【文献】 特開2017−166902(JP,A)
【文献】 特開2014−041164(JP,A)
【文献】 特開2008−261634(JP,A)
【文献】 特開2003−344342(JP,A)
【文献】 特開平09−269306(JP,A)
【文献】 特開2009−282024(JP,A)
【文献】 特開2001−050923(JP,A)
【文献】 特開2004−028822(JP,A)
【文献】 特開2006−300560(JP,A)
【文献】 特開2006−300585(JP,A)
【文献】 特開2007−333625(JP,A)
【文献】 特表2004−519683(JP,A)
【文献】 特開2015−197343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MEMS構造を有し、水素ガスを検知するMEMS型半導体式ガス検知素子であって、
基板と、
前記基板に設けられ、金属酸化物半導体を主成分とするガス感応部と、
前記ガス感応部を加熱する加熱部と、
水素選択透過性を有し、前記ガス感応部の外側に形成される不活性膜と、
前記不活性膜の外側に形成され、前記ガス感応部の劣化を抑制する保護膜と
を備えたMEMS型半導体式ガス検知素子。
【請求項2】
MEMS構造を有し、水素ガスを検知するMEMS型半導体式ガス検知素子であって、
基板と、
前記基板に設けられ、金属酸化物半導体を主成分とするガス感応部と、
前記ガス感応部を加熱する加熱部と、
水素選択透過性を有し、前記ガス感応部の外側に形成される不活性膜と、
前記不活性膜の外側に形成され、前記ガス感応部の水素ガスに対する応答特性および/または応答復帰特性の経時劣化を抑制する保護膜と
を備えたMEMS型半導体式ガス検知素子。
【請求項3】
MEMS構造を有し、水素ガスを検知するMEMS型半導体式ガス検知素子であって、
基板と、
前記基板に設けられ、金属酸化物半導体を主成分とするガス感応部と、
前記ガス感応部を加熱する加熱部と、
水素選択透過性を有し、前記ガス感応部の外側に形成される不活性膜と、
前記不活性膜の外側に形成され、前記ガス感応部の劣化を抑制する保護膜と
を備え、
前記保護膜が、アルミナ、またはアルミニウムおよびシリコンを含む複合酸化物を含むことを特徴とするMEMS型半導体式ガス検知素子。
【請求項4】
前記不活性膜が、前記ガス感応部の一部に形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のMEMS型半導体式ガス検知素子。
【請求項5】
前記不活性膜が、前記ガス感応部の外表部に形成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のMEMS型半導体式ガス検知素子。
【請求項6】
前記保護膜は、アルミニウムおよびシリコンを含む複合酸化物により形成される担体に、酸化クロムまたは酸化パラジウムを担持してなることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のMEMS型半導体式ガス検知素子。
【請求項7】
前記不活性膜が、シロキサン結合を有するシリカ膜を含むことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のMEMS型半導体式ガス検知素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS型半導体式ガス検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス検知器用のガス検知素子として、たとえば特許文献1に開示されているようなコイル型の半導体式ガス検知素子や、たとえば特許文献2に開示されているようなMEMS(Micro Electro Mechanical System)型の半導体式ガス検知素子が用いられている。いずれの半導体式ガス検知素子も、金属酸化物半導体を含むガス感応部と検知対象ガスとの相互作用によって生じる電気抵抗変化を検出して、検知対象ガスを検知するという点で両者は共通する。一方で、コイル型の半導体式ガス検知素子は、構造がシンプルなので製造が容易であるという利点を有し、MEMS型の半導体式ガス検知素子は、小型で消費電力が小さいという利点を有している点において、両者は異なる。
【0003】
コイル型およびMEMS型の半導体式ガス検知素子は、水素ガス、メタンガス、エタノールなどを含むガス検知環境雰囲気中において、水素ガスを精度よく検知するために、他のガスによる影響を極力抑えながら、水素ガスを優先的に検知するという技術が求められる。このような目的のために、たとえば、コイル型の半導体式ガス検知素子では、特許文献1に開示されているように、ガス感応部の外側にシリカを含む不活性膜が設けられる。この不活性膜は、分子サイズの小さい水素ガスを優先的に透過させ、分子サイズの大きいメタンガスやエタノールなどの透過を抑制することが可能である。したがって、コイル型の半導体式ガス検知素子は、このような不活性膜をガス感応部の外側に設けることで、水素ガスに対して高い感度と選択性を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−344342号公報
【特許文献2】特開2014−041164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、MEMS型の半導体式ガス検知素子では、コイル型の半導体式ガス検知素子と同じようにガス感応部の外側に不活性膜を設けると、水素ガスに対する選択性は向上するが、水素ガスに対する応答復帰特性が低化するという問題が生じる。一方、水素ガスに対する応答復帰特性の低下を抑制するように不活性膜を薄く形成すると、水素ガスに対する選択性が低下し、ガス感応部の劣化が生じやすくなるという問題が生じる。これは、MEMS型の半導体式ガス検知素子に特有の問題で、MEMS型の半導体式ガス検知素子の素子サイズや動作条件に起因するものと考えられる。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みなされたもので、水素選択性を維持しながら、ガス感応部の劣化を抑制するMEMS型の半導体式ガス検知素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のMEMS型半導体式ガス検知素子は、MEMS構造を有し、水素ガスを検知するMEMS型半導体式ガス検知素子であって、基板と、前記基板に設けられ、金属酸化物半導体を主成分とするガス感応部と、前記ガス感応部を加熱する加熱部と、水素選択透過性を有し、前記ガス感応部の外側に形成される不活性膜と、前記不活性膜の外側に形成され、前記ガス感応部の劣化を抑制する保護膜とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、前記不活性膜が、前記ガス感応部の一部に形成されることが好ましい。
【0009】
また、前記不活性膜が、前記ガス感応部の外表部に形成されることが好ましい。
【0010】
また、前記保護膜は、アルミニウムおよびシリコンを含む複合酸化物により形成される担体に、酸化クロムまたは酸化パラジウムを担持してなることが好ましい。
【0011】
また、前記不活性膜が、シロキサン結合を有するシリカ膜を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水素選択性を維持しながら、ガス感応部の劣化を抑制するMEMS型の半導体式ガス検知素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るMEMS型半導体式ガス検知素子の概略断面図である。
図2】本発明の別の実施形態に係るMEMS型半導体式ガス検知素子の概略断面図である。
図3】実施例1のMEMS型半導体式ガス検知素子の水素ガス濃度変化に対するセンサ出力変化を測定した結果を示すグラフである。
図4】実施例2のMEMS型半導体式ガス検知素子の水素ガス濃度変化に対するセンサ出力変化を測定した結果を示すグラフである。
図5】実施例3のMEMS型半導体式ガス検知素子の水素ガス濃度変化に対するセンサ出力変化を測定した結果を示すグラフである。
図6】比較例1のMEMS型半導体式ガス検知素子の水素ガス濃度変化に対するセンサ出力変化を測定した結果を示すグラフである。
図7】実施例4のMEMS型半導体式ガス検知素子の水素ガス濃度変化に対するセンサ出力変化を測定した結果を示すグラフである。
図8】比較例2のMEMS型半導体式ガス検知素子の水素ガス濃度変化に対するセンサ出力変化を測定した結果を示すグラフである。
図9】実施例1のMEMS型半導体式ガス検知素子の水素ガスおよびメタンガスに対するセンサ出力の経時変化を測定した結果を示すグラフである。
図10】実施例2のMEMS型半導体式ガス検知素子の水素ガスおよびメタンガスに対するセンサ出力の経時変化を測定した結果を示すグラフである。
図11】比較例1のMEMS型半導体式ガス検知素子の水素ガスおよびメタンガスに対するセンサ出力の経時変化を測定した結果を示すグラフである。
図12】実施例4のMEMS型半導体式ガス検知素子の水素ガスおよびメタンガスに対するセンサ出力の経時変化を測定した結果を示すグラフである。
図13】比較例2のMEMS型半導体式ガス検知素子の水素ガスおよびメタンガスに対するセンサ出力の経時変化を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係るMEMS型半導体式ガス検知素子を説明する。ただし、以下に示す実施形態は一例であり、本発明のMEMS型半導体式ガス検知素子は以下の例に限定されることはない。
【0015】
本実施形態のMEMS型半導体式ガス検知素子は、たとえば大気などの環境雰囲気において、環境雰囲気に含まれる水素ガスを検知するために用いられる。MEMS型半導体式ガス検知素子は、表面に吸着した酸素と環境雰囲気中の水素ガスとの化学反応に伴って抵抗値(または電気伝導度)が変化することを利用して、水素ガスを検知する。
【0016】
MEMS型半導体式ガス検知素子1は、図1に示されるように、MEMS(Micro Electro Mechanical System)構造を有している。MEMS構造とは、シリコン基板などの基板の上に微細加工技術によって素子構成要素の少なくとも一部を集積化したデバイス構造のことを意味する。MEMS型半導体式ガス検知素子1は、MEMS構造を有することにより、コイル型の半導体式ガス検知素子と比べて、小型化が可能で、低消費電力での駆動が可能である。
【0017】
MEMS型半導体式ガス検知素子1は、図1に示されるように、基板2と、基板2に設けられるガス感応部3と、ガス感応部3を加熱する加熱部4と、ガス感応部3の外側に形成される不活性膜5と、不活性膜5の外側に形成される保護膜6とを備えている。
【0018】
MEMS型半導体式ガス検知素子1は、たとえば、公知のブリッジ回路に組み込まれて、ガス感応部3の表面の吸着酸素と環境雰囲気中の水素ガスとの化学反応に伴う抵抗値の変化が検出される。MEMS型半導体式ガス検知素子1は、ガス感応部3の抵抗値の変化を検出するために、加熱部4を電極として兼用し、または加熱部4とは別に電極が設けられて、ブリッジ回路に組み込まれる。ブリッジ回路は、MEMS型半導体式ガス検知素子1における抵抗値の変化によって生じる回路内の電位差の変化を電位差計によって測定して、その電位差の変化を水素ガスの検知信号として出力する。ただし、MEMS型半導体式ガス検知素子1は、ガス感応部3の表面の吸着酸素と水素ガスとの化学反応に伴って生じる抵抗値の変化を検出することができれば、ブリッジ回路に限定されることはなく、ブリッジ回路とは異なる回路に組み込まれて使用されてもよい。
【0019】
基板2は、基板2に対して電気的に絶縁状態となるように、ガス感応部3、加熱部4、不活性膜5および保護膜6(以下、まとめて「積層体A」ともいう)を支持する部材である。基板2は、本実施形態では、図1に示されるように、基板本体21と、基板本体21上に設けられた絶縁支持層22と、絶縁支持層22の一部の下方に設けられた空洞部23とを備えている。基板本体21は、絶縁支持層22を支持し、絶縁支持層22は、積層体Aと基板本体21との間が電気的に絶縁状態となるように、積層体Aを支持する。積層体Aは、下方に空洞部23が設けられた絶縁支持層22の部位の上に設けられる。MEMS型半導体式ガス検知素子1では、空洞部23上の絶縁支持層22の部位に積層体Aが設けられることで、積層体Aに加えられる熱が基板本体21に伝導するのを抑制することができるので、積層体Aをより効率よく加熱することができ、それによって低消費電力の駆動が可能になる。
【0020】
積層体Aを支持する絶縁支持層22は、積層体Aと基板本体21との間を電気的に絶縁するように構成されていれば、特に限定されることはなく、たとえば、積層体Aが設けられる表層のみに絶縁物が設けられていてもよいし、全体が絶縁物で構成されていてもよい。本実施形態では、基板本体21はシリコンにより構成され、絶縁支持層22はシリコン酸化物により構成される。ただし、基板2は、基板2に対して電気的に絶縁状態で積層体Aを支持することができれば、本実施形態に限定されることはなく、たとえばガラス基板などのように、基板全体が絶縁物により構成されていてもよい。
【0021】
ガス感応部3は、金属酸化物半導体を主成分とし、表面の吸着酸素と水素ガスとの化学反応に伴って電気抵抗が変化する部位である。ガス感応部3は、本実施形態では、図1に示されるように、加熱部4を覆うようにして基板2上に設けられる。ただし、ガス感応部3は、基板2上において、加熱部4によって加熱可能に設けられればよく、その設置方法は特に限定されない。ガス感応部3は、たとえば、金属酸化物半導体の微粉体を溶媒に混ぜてペースト状としたものを基板2上に塗布して乾燥させることにより形成することが可能である。あるいは、ガス感応部3は、スパッタリングなどの公知の成膜技術を用いて形成することも可能である。
【0022】
ガス感応部3の金属酸化物半導体としては、吸着酸素と水素ガスとの化学反応に伴って電気抵抗が変化するものであれば、特に限定されることはない。たとえば、ガス感応部3の金属酸化物半導体としては、酸素吸着、および吸着酸素とガス成分との化学反応を促進し、ガス検知感度を向上させるという観点から、n型半導体を用いることが好ましく、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛および酸化タングステンの中から選択される少なくとも1種を含む金属酸化物半導体を用いることがさらに好ましく、酸化スズおよび酸化インジウムの中から選択される少なくとも1種を含む金属酸化物半導体を用いることがよりさらに好ましい。ガス感応部3の金属酸化物半導体は、上述した金属酸化物半導体が単一的に含まれていてもよいし、複合的に含まれていてもよい。
【0023】
ガス感応部3の金属酸化物半導体は、電気抵抗を調整するために、ドナーとして金属元素が添加されていてもよい。添加される金属元素としては、金属酸化物半導体中にドナーとして添加可能であり、金属酸化物半導体の電気抵抗を調整することが可能であれば、特に限定されることはないが、たとえば、アンチモン、ニオブおよびタングステンの中から選択される少なくとも1種が例示される。また、ガス感応部3の金属酸化物半導体は、電気抵抗を調整するために、金属酸化物半導体中に酸素欠損が導入されてもよい。金属元素濃度や酸素欠損濃度は、要求される電気抵抗に応じて、適宜設定することができる。
【0024】
ガス感応部3の金属酸化物半導体は、担持物として酸化活性の高い金属酸化物が添加されてもよい。ガス感応部3の金属酸化物半導体に酸化活性の高い金属酸化物を添加することで、金属酸化物半導体の表面活性を高めることができる。これは、金属酸化物半導体に酸化活性の高い金属酸化物を添加することで、金属酸化物半導体の親水性を弱め、金属酸化物半導体を適度に疎水的にして、金属酸化物半導体に対する水の吸着活性を抑制し、金属酸化部半導体の酸化活性の安定化を図れることによるものと考えられる。添加される金属酸化物としては、たとえば、酸化クロム、酸化コバルト、酸化鉄、酸化ロジウム、酸化銅、酸化パラジウム、酸化セリウム、酸化白金、酸化タングステンおよび酸化ランタンの中から選択される少なくとも1種が例示され、その中でも、酸化クロム、酸化コバルトおよび酸化鉄の中から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0025】
加熱部4は、ガス感応部3を加熱する部位である。加熱部4は、本実施形態では、図1に示されるように、基板2の絶縁支持層22上に設けられ、ガス感応部3によって被覆される。加熱部4は、白金、白金−ロジウム合金などの貴金属などにより形成され、通電により発熱して、ガス感応部3を加熱するように構成されている。加熱部4は、本実施形態では、ガス感応部3の抵抗値変化を検出するための電極としても機能する。ただし、加熱部4は、ガス感応部3を加熱するように構成されていれば、その配置や構成材料は上記例に限定されることはない。たとえば、加熱部4は、ガス感応部3の抵抗値変化を検出するための電極とは別に、基板2の絶縁支持層22の下面に設けられてもよい。
【0026】
不活性膜5は、水素選択透過性を有する膜である。不活性膜5は、相対的に分子サイズの小さい水素ガスを選択的に透過させ、相対的に分子サイズの大きい、水素ガス以外の干渉ガス(たとえば一酸化炭素、エタノール、メタン、ブタンなど)の透過を抑制する。不活性膜5は、水素ガス以外のガスの透過を抑制することで、ガス感応部3の表面の吸着酸素と水素ガス以外のガスとの化学反応を抑制する。MEMS型半導体式ガス検知素子1は、ガス感応部3の外側に不活性膜5が設けられることで、水素ガスの選択性が向上する。
【0027】
不活性膜5は、ガス感応部3の外側に形成されていればよく、特に限定されることはないが、MEMS型半導体式ガス検知素子1に要求される水素選択性を維持しながら、ガス感応部3の水素ガスに対する応答特性および/または応答復帰特性の低下を抑制できるような厚さに形成されていることが望ましい。なお、水素ガスに対する応答特性とは、水素ガスを測定環境雰囲気中に導入したときに、水素ガスの導入後から、導入された水素ガスに対応するセンサ出力が得られるまでの素早さを意味する。つまり、水素ガスの導入後から、導入された水素ガスの濃度に対応するセンサ出力が得られるまでの時間(応答時間)が短ければ短いほど、応答特性が優れているということができる。また、水素ガスに対する応答復帰特性とは、水素ガスを検知した後、測定環境雰囲気を、水素ガスを含まない測定環境雰囲気に置換したときに、測定環境雰囲気の置換後から、水素ガスを含まない測定環境雰囲気におけるセンサ出力に復帰するまでの素早さのことを意味する。つまり、測定環境雰囲気の置換後から、水素ガスを含まない測定環境雰囲気におけるセンサ出力に復帰するまでの時間(応答復帰時間)が短ければ短いほど、応答復帰特性が優れているということができる。
【0028】
不活性膜5は、以上に述べた観点から、たとえば、図2に示されるように、ガス感応部3の一部に形成されることが望ましい。たとえば、不活性膜5は、ガス感応部3上において、気相処理などの成膜の過程の初期に生じる島状構造膜、または、さらに成長して一様な膜となる前段階の、ピンホールを多数(または無数)に含む多孔質膜となることが望ましい。不活性膜5が、ガス感応部3の一部に形成されることで、MEMS型半導体式ガス検知素子1の水素選択性を所定範囲に維持しながら、ガス感応部3の水素ガスに対する応答特性および/または応答復帰特性の低下を抑制することができる。この要因としては、以下のように考察される。不活性膜は、上述したように、水素ガス以外のガスの透過を抑制するので、ガス感応部の抵抗値変化を生じさせる化学反応において発生する水分子がガス感応部の外側に脱出するのも制限している可能性がある。ガス感応部の表面または不活性膜中に水分子が残留すれば、ガス感応部の抵抗値変化を生じさせる反応に必要な酸素分子の吸着も制限される。コイル型の半導体式ガス検知素子であれば、厚い不活性膜を設けていても、十分な加熱処理を行なうことができるので、水分子の離脱を促進することができる。ところが、MEMS型の半導体式ガス検知素子では、低消費電力での駆動を実現するために、十分な加熱処理を行なうことができず、水分子の離脱を十分に行なうことが難しいのではないかと考えられる。ガス感応部の表面や不活性膜中に水分子が残留することによって、水素ガスに対する応答特性および/または応答復帰特性が低下する可能性がある。それに対して、本実施形態のMEMS型半導体式ガス検知素子1では、不活性膜5をガス感応部3の一部に設けることで、少なくとも不活性膜5が設けられていない位置で水分子や酸素分子の通過を容易にし、全体として水分子や酸素分子の透過を制限するのを抑制することができ、水素ガスに対する応答特性および/または応答復帰特性の低下を抑制できるものと考えられる。
【0029】
不活性膜5は、水素ガスに対する応答特性および/または応答復帰特性の低下を抑制するという観点から、ガス感応部3の外表部に形成されることがさらに望ましい。ガス感応部3の外表部は、ガス感応部3の外側にあって、ガス感応部3の金属酸化物半導体を構成する金属と、不活性膜5を構成する元素とを含む部位として構成される。たとえば、不活性膜5は、ガス感応部3の外表面側と不活性膜5との化学反応により形成された部位として構成される。不活性膜5が、ガス感応部3の外表部にのみ形成されることで、水素ガスに対する応答特性および/または応答復帰特性の低下をより抑制することができる。これは、不活性膜5が、ガス感応部3の外表部にのみ形成されることで、水分子や酸素分子の透過を制限するのを抑制することができることによるものと考えられる。
【0030】
不活性膜5は、水素選択性を有していればよく、特に限定されることはないが、シロキサン結合を有するシリカ膜を含むことが望ましい。シリカ膜は、たとえば、ケイ素のシロキサン化合物の1つであるヘキサメチルジシロキサン(以下、「HMDS」という)が1〜500ppmの雰囲気中において、ガス感応部3を加熱することにより形成することができる。ガス感応部3の加熱は、加熱部4に通電し、ジュール熱を発生させることにより、HMDSの分解温度以上になるように調整される。より具体的には、ガス感応部3を約500〜550℃に加熱し、ガス感応部3の外側で所定の時間だけHMDSを熱分解して、ガス感応部3の外側に、シロキサン結合を有するシリカ膜を形成することができる。シリカ膜を、要求される水素選択性を維持しながら、ガス感応部3の水素ガスに対する応答特性および/または応答復帰特性の低下を抑制できる厚さに形成するため、あるいは、シリカ膜を、ガス感応部3の一部や外表部に形成するために、環境雰囲気中でのHMDSの濃度や、ガス感応部3の温度や反応時間が適宜調整される。シロキサン結合を有するシリカ膜を形成するために、HMDS以外にも、たとえばハロシラン、アルキルシラン、アルキルハロシラン、シリルアルコキシドなどのケイ素化合物を用いてもよい。
【0031】
保護膜6は、ガス感応部3の劣化を抑制する。たとえば、保護膜6は、ガス感応部3の水素ガスに対する検出感度の経時変化を抑制し、または、ガス感応部3の水素ガスに対する応答特性および/または応答復帰特性の経時劣化を抑制する。ここで、先に述べたように、MEMS型の半導体式ガス検知素子では、ガス感応部の外側に不活性膜を設けると、水素ガスに対する選択性は向上するが、水素ガスに対する応答特性および/または応答復帰特性が低化するという問題が生じる。一方、水素ガスに対する選択性を所定範囲に維持しながら、水素ガスに対する応答特性および/または応答復帰特性の低下を抑制するように不活性膜を薄く形成すると、ガス感応部の劣化が生じやすくなるという問題が生じる。これは、経時中の不活性膜5に水素ガス以外の干渉ガスが侵入して、不活性膜5中に干渉ガスが捕捉されて、上述した水分子や酸素分子の通過をより妨げることによるものではないかと考えられる。したがって、不活性膜5の外側に保護膜6を形成することで、経時中の不活性膜5に水素ガス以外の干渉ガスが到達するのを保護膜6が抑制するので、不活性膜5の初期状態を維持でき、ガス感応部3の劣化を抑制できるのではないかと考えられる。
【0032】
保護膜6は、ガス感応部3の劣化を抑制することができれば、構成される材料は特に限定されることはないが、たとえば絶縁性金属酸化物により構成することができる。保護膜3が絶縁性金属酸化物により構成されることで、保護膜6中に電流が流れることが抑制され、水素ガス検知時のガス感応部3の抵抗値変化に及ぼす影響を抑えることができるので、ガス感応部3による水素ガス検知に及ぼす影響を抑えながら、ガス感応部3の劣化を抑えることができる。絶縁性金属酸化物としては、特に限定されることはないが、たとえばアルミナ、シリカ、ならびにアルミニウムおよびシリコンを含む複合酸化物が例示される。その中でも、比表面積が大きいアルミニウムおよびシリコンを含む複合酸化物が望ましい。アルミニウムおよびシリコンを含む複合酸化物としては、アルミノシリケートなどが例示される。保護膜6の材料として比表面積の大きいアルミニウムおよびシリコンを含む複合酸化物を採用することにより、ガス感応部3の劣化をより抑制することができる。これは、アルミニウムおよびシリコンを含む複合酸化物において水素ガス以外の干渉ガスを捕捉しやすいため、不活性膜5の初期状態をより維持しやすいからではないかと考えられる。
【0033】
保護膜6は、絶縁性金属酸化物に、酸化活性を有する金属酸化物が担持されて形成されてもよい。保護膜6は、酸化活性を有する金属酸化物が絶縁性金属酸化物に担持されて形成されることにより、ガス感応部3の劣化をより抑制することができる。これは、金属酸化物の有する酸化活性により水素ガス以外の特定のガス成分が分解され、特定のガス成分が不活性膜5内に侵入することが抑制されるからではないかと考えられる。金属酸化物を担持する絶縁性金属酸化物としては、たとえば、上述したように、シリカ、アルミナ、ならびにアルミニウムおよびシリコンを含む複合酸化物が例示されるが、その中でも、比表面積が大きく、金属酸化物担持能に優れたアルミニウムおよびシリコンを含む複合酸化物が望ましい。アルミニウムおよびシリコンを含む複合酸化物としては、アルミノシリケートなどが例示される。酸化活性を有する金属酸化物としては、たとえば、酸化クロム、酸化パラジウム、酸化コバルト、酸化鉄、酸化ロジウム、酸化銅、酸化セリウム、酸化白金、酸化タングステンおよび酸化ランタンの中から選択される少なくとも1種が例示される。金属酸化物は、上に例示された中でも、ガス感応部3の応答特性および/または応答復帰特性の向上、ガス感応部3の応答特性および/または応答復帰特性の経時劣化の抑制といった観点から、酸化クロムまたは酸化パラジウムが好ましい。
【0034】
保護膜6は、本実施形態では、図1および図2に示されるように、ガス感応部3および不活性膜5を覆うように、基板2上に設けられている。ただし、保護膜6は、ガス感応部3の劣化を抑制するように不活性膜5の外側に設けられていればよく、たとえばガス感応部3および不活性膜5の一部を覆うように設けられてもよい。保護膜6は、絶縁性金属酸化物により構成される場合は、絶縁性金属酸化物の微粉体を、絶縁性金属酸化物と金属酸化物とにより構成される場合は、絶縁性金属酸化物および金属酸化物を含む微粉体を溶媒に混ぜてペースト状としたものをガス感応部3および不活性膜5上に塗布して乾燥させることにより形成することが可能である。あるいは、保護膜6は、スパッタリングなどの公知の成膜技術を用いて形成することも可能である。
【実施例】
【0035】
以下において、実施例をもとに本実施形態のMEMS型半導体式ガス検知素子の優れた効果を説明する。ただし、本発明のMEMS型半導体式ガス検知素子は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
図1に示されるMEMS型半導体式ガス検知素子1を作製した。その際、ガス感応部3および保護膜6を除く他の構成を、基板2をシリコン基板とし、加熱部4を白金線として、公知のMEMS技術を利用して作製した。
【0037】
ガス感応部3は、アンチモンをドナーとして0.2wt%添加した酸化スズ半導体の微粉体のペーストを、基板2上の加熱部4を覆って最大厚さが40μmになるように塗布して、乾燥後、電気炉にて650℃で2時間加熱して、酸化スズ半導体を焼結させることにより形成した。
【0038】
不活性膜5については、10〜500ppmのHMDS雰囲気中で、加熱部4に通電してジュール熱によりガス感応部3を500℃で1時間の加熱を行なって、シロキサン結合を有するシリカ膜をガス感応部3の外側に形成した。
【0039】
保護膜6は、市販のアルミナの微粉体のペーストを、基板2上の不活性膜5を覆って最大厚さが40μmになるように塗布して、乾燥後、加熱部4に通電してジュール熱により650℃で2時間加熱して、アルミナを焼結させることにより形成した。
【0040】
(実施例2)
保護膜6以外は実施例1と同様にして、図1に示されるMEMS型半導体式ガス検知素子1を作製した。保護膜6は、市販のアルミノシリケートの微粉体のペーストを、基板2上の不活性膜5を覆って最大厚さが40μmになるように塗布して、乾燥後、加熱部4に通電してジュール熱により650℃で2時間加熱して、アルミノシリケートを焼結させることにより形成した。
【0041】
(実施例3)
保護膜6以外は実施例1と同様にして、図1に示されるMEMS型半導体式ガス検知素子1を作製した。保護膜6は、市販のアルミノシリケートに酸化クロム20wt%を凍結含浸させた微粉体のペーストを、基板2上の不活性膜5を覆って最大厚さが40μmになるように塗布して、乾燥後、加熱部4に通電してジュール熱により650℃で2時間加熱して、酸化クロム含浸アルミノシリケートを焼結させることにより形成した。
【0042】
(実施例4)
ガス感応部3以外は実施例3と同様にして、図1に示されるMEMS型半導体式ガス検知素子1を作製した。ガス感応部3は、アンチモンをドナーとして0.2wt%添加した酸化スズ半導体の微粉体に2.0wt%の酸化クロムの微粉体を混ぜたペーストを、基板2上の加熱部4を覆って最大厚さが40μmになるように塗布して、乾燥後、電気炉にて650℃で2時間加熱して、酸化クロムを担持させた酸化スズ半導体を焼結させることにより形成した。
【0043】
(比較例1)
図1の保護膜6を有さないMEMS型半導体式ガス検知素子を作製した。保護膜6を形成しない以外は、実施例1〜3と同様に作製した。
【0044】
(比較例2)
図1の保護膜6を有さないMEMS型半導体式ガス検知素子を作製した。保護膜6を形成しない以外は、実施例4と同様に作製した。
【0045】
(水素ガスに対する応答特性および応答復帰特性の経時劣化の評価)
実施例1〜4および比較例1〜2のMEMS型半導体式ガス検知素子を、公知のブリッジ回路に組み込んで、大気中において水素ガス濃度を変化させたときのセンサ出力の変化を測定した。MEMS型半導体式ガス検知素子の駆動条件は、加熱時の温度が500℃になるように、5秒サイクルにて0.06秒の印加電圧パターンとするパルス駆動とした。測定環境雰囲気は、大気中の水素ガス濃度を1分毎に50ppm、100ppm、200ppm、500ppm、1000ppm、2000ppm、5000ppmと変化させた後、水素ガスを含まない大気と置換した。応答特性は、大気中の水素ガスの濃度を変化させたタイミングでのセンサ出力の変化の速さから評価した。また、応答復帰特性は、水素ガス濃度が5000ppmである環境雰囲気を、水素ガスを含まない大気と置換したタイミングでのセンサ出力の変化の速さから評価した。応答復帰特性の経時劣化は、MEMS型半導体式ガス検知素子を作製した直後、1ヶ月間室温で放置した後、および2ヶ月間室温で放置した後に上記測定を行なうことにより評価した。
【0046】
図3〜5は、酸化スズ半導体によりガス感応部を形成した実施例1〜3の測定結果を示し、図6は、同じく酸化スズ半導体によりガス感応部を形成した比較例1の測定結果を示している。なお、それぞれの図中では、大気中の水素ガス濃度をそれぞれ増加させたタイミングと環境雰囲気を大気に置換したタイミングとを矢印で示している。
【0047】
比較例1の図6を参照すると、比較例1の作製直後では、水素ガス濃度をそれぞれ増加させたタイミングでセンサ出力が比較的速やかに増加し、環境雰囲気を大気に置換したタイミングでセンサ出力が比較的速やかに低下している。このことから、比較例1は、作製直後では、所定範囲の応答特性および応答復帰特性が得られていることが分かる。ところが、比較例1の作製後から1ヶ月、2ヶ月と経過するにしたがって、水素ガス濃度をそれぞれ増加させたタイミングでのセンサ出力の増加が緩やかとなり、環境雰囲気を大気に置換したタイミングでのセンサ出力の低下が緩やかになっている。特に、環境雰囲気を大気に置換したタイミングでのセンサ出力の低下については、今回の測定サイクル内で、測定開始前のセンサ出力まで復帰していない。このことから、比較例1は、応答特性および応答復帰特性が経時に伴って大きく劣化していることが分かる。
【0048】
それに対して、比較例1に保護膜を設けた実施例1〜3の図3〜5を参照すると、いずれも、実施例1〜3の作製後から1ヶ月、2ヶ月と経過しても、水素ガス濃度をそれぞれ増加させたタイミングでのセンサ出力の増加や、環境雰囲気を大気に置換したタイミングでのセンサ出力の低下にはほとんど変化が見られない。このことから、保護膜を設けることによって、応答特性および応答復帰特性の経時に伴う劣化が抑制されることが分かる。特に、アルミノシリケートにより形成される担体に酸化クロムを担持させて形成した保護膜を用いた実施例3(図5)については、作製直後において、比較例1(図6)と比べて、水素ガス濃度をそれぞれ増加させたタイミングでのセンサ出力の増加や、環境雰囲気を大気に置換したタイミングでのセンサ出力の低下が急峻な変化を示している。このことから、アルミノシリケートにより形成される担体に酸化クロムを担持させて形成した保護膜を用いることにより、素子の作製直後において、優れた応答特性および応答復帰特性を得ることができることが分かる。これは、水素ガス以外の干渉ガスが、保護膜中の酸化活性の高い酸化クロムによって分解されて、不活性膜に到達するのが制限されるからではないかと考えられる。
【0049】
図7は、酸化クロムを担持させた酸化スズ半導体によりガス感応部3を形成した実施例4の測定結果を示し、図8は、同じく酸化クロムを担持させた酸化スズ半導体によりガス感応部3を形成した比較例2の測定結果を示している。なお、これらの図中でも、上述したように、大気中の水素ガス濃度をそれぞれ増加させたタイミングと環境雰囲気を大気に置換したタイミングとを矢印で示している。
【0050】
比較例2の図8を参照すると、比較例2の作製直後では、比較例1(図6)の作製直後と比べて、水素ガス濃度をそれぞれ増加させたタイミングでセンサ出力が速やかに増加し、環境雰囲気を大気に置換したタイミングでセンサ出力が速やかに低下している。このことから、比較例2は、作製直後では、比較例1と比べて優れた応答特性および応答復帰特性が得られていることが分かる。これは、酸化活性の高い金属酸化物である酸化クロムがガス感応部に添加されているために、ガス感応部の酸化スズ半導体に対する水分子の吸着活性が抑制され、酸化スズ半導体の酸化活性の安定化が図られたことによるものと考えられる。一方、比較例2の作製後から1ヶ月、2ヶ月と経過するにしたがって、水素ガス濃度をそれぞれ増加させたタイミングでのセンサ出力の増加が緩やかとなり、環境雰囲気を大気に置換したタイミングでのセンサ出力の低下が緩やかになっている。このことから、比較例2は、応答特性および応答復帰特性が経時に伴って劣化していることが分かる。
【0051】
それに対して、比較例2に保護膜を設けた実施例4の図7を参照すると、実施例4の作製直後から1ヶ月、2ヶ月と経過しても、水素ガス濃度をそれぞれ増加させたタイミングでのセンサ出力の増加や、環境雰囲気を大気に置換したタイミングでのセンサ出力の低下にはほとんど変化が見られない。このことから、保護膜を設けることによって、応答特性および応答復帰特性の経時に伴う劣化が抑制されることが分かる。
【0052】
(水素ガスに対する検出感度の経時変化の評価)
実施例1、2、4および比較例1、2のMEMS型半導体式ガス検知素子を、公知のブリッジ回路に組み込んで、異なる水素ガス濃度に対するセンサ出力の経時変化を測定した。また、MEMS型半導体式ガス検知素子の水素ガス選択性を評価するために、異なるメタンガス濃度に対するセンサ出力の経時変化についても測定した。MEMS型半導体式ガス検知素子の駆動条件は、加熱時の温度が500℃になるように、5秒サイクルにて0.06秒の印加電圧パターンとするパルス駆動とした。センサ出力値としては、測定開始からセンサ出力値が安定した時点の値を採用した。測定環境雰囲気は、(1)大気、(2)大気中の水素ガス濃度:50ppm、100ppm、200ppm、500ppm、1000ppm、2000ppm、5000ppm、(3)大気中のメタンガス濃度:1000ppm、2000ppm、5000ppmとした。センサ出力の経時変化は、MEMS型半導体式ガス検知素子を作製した直後から約2ヶ月後までの間に数日間隔で上記測定を行なうことにより評価した。
【0053】
図9、10は、酸化スズ半導体によりガス感応部を形成した実施例1、2の測定結果を示し、図11は、同じく酸化スズ半導体によりガス感応部を形成した比較例1を示している。図9、10の実施例1、2と、図11の比較例1とは、保護膜を有しているか否かの違いを有している。比較例1の図11を参照すると、すべての濃度の水素ガスに関して、センサ出力は、経時に伴って、素子作製直後から一度低下した後に増加している。このことから、比較例1では、水素ガスに対する検出感度が経時に伴って変化していることが分かる。それに対して、比較例1に保護膜を設けた実施例1、2の図9、10を参照すると、すべての濃度の水素ガスに関して、センサ出力は、経時に伴って、素子作製直後からわずかに減少した後ほぼ一定の値を示している。このことから、実施例1、2では、保護膜が設けられることにより、比較例1で生じていた水素ガスに対する検知感度の経時変化を抑制できていることが分かる。なお、大気中にメタンガスを含む場合のセンサ出力は、同一の濃度の水素ガスに対するセンサ出力よりも圧倒的に小さく、いずれの濃度の場合でも水素ガス選択性が維持されていることが分かる。
【0054】
図12は、酸化クロムを担持させた酸化スズ半導体によりガス感応部を形成した実施例4の測定結果を示し、図13は、同じく酸化クロムを担持させた酸化スズによりガス感応部を形成した比較例2の測定結果を示している。図12の実施例4と、図13の比較例2とは、保護膜を有しているか否かの違いを有している。比較例2の図13を参照すると、すべての濃度の水素ガスに関して、センサ出力は、経時に伴って、素子作製直後から増加している。このことから、比較例2では、水素ガスに対する検出感度が経時に伴って変化していることが分かる。それに対して、比較例2に保護膜を設けた実施例4の図12を参照すると、すべての濃度の水素ガスに関して、センサ出力は、経時に伴って、素子作製直後からほぼ一定の値を示している。このことから、実施例4では、保護膜が設けられることにより、比較例2で生じていた水素ガスに対する検知感度の経時変化を抑制できていることが分かる。なお、大気中にメタンガスを含む場合のセンサ出力は、同一の濃度の水素ガスに対するセンサ出力よりも圧倒的に小さく、いずれの濃度の場合でも水素ガス選択性が維持されていることが分かる。
【0055】
以上に示したように、本実施形態のMEMS型半導体式ガス検知素子1は、基板2と、基板2に設けられ、金属酸化物半導体を主成分とするガス感応部3と、ガス感応部3を加熱する加熱部4と、水素選択透過性を有し、ガス感応部3の外側に形成される不活性膜5と、不活性膜5の外側に形成され、ガス感応部3の劣化を抑制する保護膜6とを備えることにより、水素選択性を維持しながら、ガス感応部の劣化を抑制することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 MEMS型半導体式ガス検知素子
2 基板
21 基板本体
22 絶縁支持層
23 空洞部
3 ガス感応部
4 加熱部
5 不活性膜
6 保護膜
A 積層体
【要約】
【課題】本発明は、水素選択性を維持しながら、ガス感応部の劣化を抑制するMEMS型の半導体式ガス検知素子を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のMEMS型半導体式ガス検知素子は、MEMS構造を有し、水素ガスを検知するMEMS型半導体式ガス検知素子1であって、基板2と、基板2に設けられ、金属酸化物半導体を主成分とするガス感応部3と、ガス感応部3を加熱する加熱部4と、水素選択透過性を有し、ガス感応部3の外側に形成される不活性膜5と、不活性膜5の外側に形成され、ガス感応部3の劣化を抑制する保護膜6とを備えることを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13