(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6437710
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】バルブカートリッジ、および、電磁弁
(51)【国際特許分類】
F16K 31/08 20060101AFI20181203BHJP
F16K 31/06 20060101ALI20181203BHJP
【FI】
F16K31/08
F16K31/06 345
F16K31/06 350
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-89303(P2013-89303)
(22)【出願日】2013年4月22日
(65)【公開番号】特開2013-228100(P2013-228100A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2016年4月12日
(31)【優先権主張番号】10 2012 206 791.4
(32)【優先日】2012年4月25日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(72)【発明者】
【氏名】ファクラフ・カコーレック
【審査官】
角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−503459(JP,A)
【文献】
特表2002−527026(JP,A)
【文献】
特開2001−317649(JP,A)
【文献】
特開平01−242885(JP,A)
【文献】
特開昭56−113874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06−31/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カプセル(2.1)と、一方の端部が前記カプセル(2.1)の内側に結合され、他方の端部に主弁座(9.1)を備える弁体(9)を有するバルブインサート(8)と、を備えるバルブカートリッジであって、前記バルブカートリッジ(2)の内部では、復帰ばね(7)の力に抗して可動であり、封止部材(6.2)を備えた閉止部材(6.1)を有しているタペット(6)が可動に案内されており、前記封止部材(6.2)は封止機能を実行するために前記弁体(9)の前記主弁座(9.1)と共同作用する、そのようなバルブカートリッジにおいて、
永久磁石(22)と、可動の前記タペット(6)と連動して、前記永久磁石(22)の磁極間に位置する部分が該磁極の並び方向に対して実質的に垂直方向へ可動である電気導体(24)と、を有する磁気式の緩衝モジュール(20)が設けられており、
前記永久磁石(22)は、前記カプセル(2.1)の外部に配置されており、
前記電気導体(24)は、前記カプセル(2.1)の内部で、前記永久磁石(22)の前記磁極間に前記電気導体(24)が配置されるように案内されている
ことを特徴とするバルブカートリッジ。
【請求項2】
前記永久磁石(22)は、マグネットリングとして製作されている
ことを特徴とする、請求項1に記載のバルブカートリッジ。
【請求項3】
前記電気導体(24)は、銅コンポーネントまたはアルミニウムコンポーネントとして製作されている
ことを特徴とする、請求項1または2に記載のバルブカートリッジ。
【請求項4】
前記電気導体(24)は、円柱として製作されている
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のバルブカートリッジ。
【請求項5】
前記電気導体(24)は、前記カプセル(2.1)の内部で、マグネットリングとして製作された前記永久磁石(22)の開口部の内部に前記電気導体(24)が配置されるように案内されている
ことを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載のバルブカートリッジ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のバルブカートリッジ(2)と、電気式の磁気モジュール(5)と、を備えている電磁弁であって、前記バルブカートリッジ(2)の内部では磁気アーマチュア(4)が可動に案内されており、該磁気アーマチュア(4)は電気式の前記磁気モジュール(5)で生成される磁力により前記復帰ばね(7)の力に抗して可動であり、前記タペット(6)を動かす
ことを特徴とする電磁弁。
【請求項7】
マグネットリングとして製作された前記永久磁石(22)は、電気式の前記磁気モジュール(5)を基準とする前記主弁座(9.1)の反対側に配置されている
ことを特徴とする、請求項6に記載の電磁弁。
【請求項8】
前記電気導体(24)は、前記磁気アーマチュア(4)と固定的に結合されている
ことを特徴とする、請求項6または7に記載の電磁弁。
【請求項9】
前記磁気アーマチュア(4)は、前記電気導体(24)とともに前記カプセル(2.1)の内部で、マグネットリングとして製作された前記永久磁石(22)の開口部の内部に前記電気導体(24)が配置されるように案内されている
ことを特徴とする、請求項6から8のいずれか1項に記載の電磁弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立請求項1の分野に属する調節可能なバルブのためのバルブカートリッジ、およびこれに付属する電磁弁に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ブレーキシステムでは、制動力を制御するために、調節可能な電磁弁が用いられることがますます増えてきている。このようなバルブに対する特別な要求事項は、切換弁と比べたときに、比較的長い期間にわたって、部分ストロークを安定的に保たなくてはならないことにある。バルブを平衡姿勢から崩す電気的、油圧的、または機械的な障害が、バルブによって増幅されてはならない。障害の増幅は、圧力変動、騒音、耐久性の低下を引き起こす振動につながる。現在のブレーキシステムでは、調節可能なバルブの安定化は、油圧式の緩衝によって具体化されている。バルブの運動は、接続部/配管によって隔てられた2つのチャンバの間での流体交換を引き起こす。散逸効果により、配管内でエネルギーの一部が熱に変換され、このことはバルブの安定化につながる。どれだけの量のエネルギーがシステムから運び出されるかは、接続部のジオメトリーに依存して決まる。
【0003】
油圧式の緩衝部材の作用は、接続部のジオメトリーのほか、流体の粘性にも左右される。周囲温度が動作中に変わるため、液体の粘性も変化する。そのために緩衝が最大で係数1000まで変動する可能性がある。さらに、液体中の気泡も粘性に影響を及ぼす。そのために、緩衝効果が確率的に変動する可能性がある。再現可能なバルブ反応を実現するには、アーマチュア室を念入りに排気しなくてはならない。良好に排気可能なアーマチュア室と、望ましい高い緩衝という相反する特性は、油圧式の緩衝部材を備えるバルブの設計を特別に難しいものにする。
【0004】
特許文献1には、電磁弁のためのバルブカートリッジ、およびこれに付属する電磁弁が記載されている。記載されている電磁弁のためのバルブカートリッジは、カプセルと、カプセルの内部で可動に案内された磁気アーマチュアと、第1の端部がカプセルに差し込まれたバルブインサートと、主弁座を備える弁体とを含んでいる。バルブインサートの内部には、封止機能を実行するために弁体の主弁座へ密閉式に入り込む封止部材を備えた閉止部材を有するタペットが、長手方向へ可動に案内されている。タペットは磁気アーマチュアにより、復帰ばねの力に抗して、バルブインサートの内部で動くことができ、このとき磁気アーマチュアは、磁気モジュールにより生成される磁力によって動く。磁気モジュールは、磁束を生成するために、ハウジング外套と、巻線支持体と、コイル巻線と、カバーディスクとを含んでおり、たとえばバルブカートリッジのカプセルに押し込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ドイツ特許出願公開第102007053134A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それに対して、独立請求項1の構成要件を備えた本発明によるバルブカートリッジは、永久磁石の磁場によって、障害により引き起こされるバルブ運動を緩衝し、バルブを安定化することができるという利点を有している。磁気式の緩衝モジュールの緩衝は、可動の電気的な導体の導電性と体積、および磁束密度に依存して決まる。油圧式の緩衝に比べて、磁気式の緩衝では温度への非依存性があると言える。関連する領域の導電性が、温度によってごくわずかに影響を受けるにすぎないからである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要諦は、導電性材料からなる構成部品を、バルブカートリッジの駆動される構成要素と、たとえばアーマチュアおよび/またはタペットと連結し、永久磁石により生成される磁場に対して垂直方向に動かすという点にある。このとき導電性の構成部品では、磁場で反応しローレンツ力を生成する電流が誘導され、ローレンツ力は導電性の構成部品の運動に作用する。油圧式の緩衝部材とは異なり、温度や流体の粘性に力が左右されることがないという利点がある。温度と粘性への非依存性に基づき、緩衝作用をいっそう厳密に調整することができ、バルブカートリッジのアーマチュア室の良好な排気可能性を確保しなくてよいという利点がある。
【0008】
本発明の実施形態は、カプセルと、第1の端部がカプセルと結合され、他方の端部に主弁座を備える弁体を有するバルブインサートとを備えるバルブカートリッジを提供する。バルブカートリッジの内部では、復帰ばねの力に抗して可動であり、封止機能を実行するために弁体の主弁座と密閉式に共同作用する封止部材を備えた閉止部材を有しているタペットが可動に案内されている。本発明によると、永久磁石と、永久磁石の磁場に配置され、可動のタペットと連結されて磁場に対して実質的に垂直方向へ可動である電気導体とを有する、磁気式の緩衝モジュールが設けられている。
【0009】
本発明によるバルブカートリッジの実施形態は、好ましくは、本発明によるバルブカートリッジのほかに電気式の磁気モジュールを含む電磁弁で使用することができる。バルブカートリッジの内部では磁気アーマチュアが可動に案内されており、この磁気アーマチュアは、電気式の磁気モジュールにより生成される磁力によって復帰ばねの力に抗して可動であり、バルブインサートの内部で案内されるタペットを動かす。本発明によるバルブカートリッジの実施形態は、基本的に、どのような無通電でも開く電磁弁および無通電で閉じる電磁弁にも適用することができる。
【0010】
従属請求項に記載の方策および発展形態により、独立請求項1に記載されたバルブカートリッジの、および独立請求項7に記載された電磁弁の、好ましい改良が可能である。
【0011】
永久磁石は、カプセルの外部に配置することができるのが特別に好ましい。永久磁石は、マグネットリングとして製作することができるのが好ましい。それにより、好ましくは開口部をバルブカートリッジのカプセルに外嵌することができる、永久磁石の簡単な組付けが可能である。
【0012】
本発明によるバルブカートリッジの好ましい実施形態では、電気導体は銅コンポーネントまたはアルミニウムコンポーネントとして製作することができる。電気導体を円柱として製作することができるのが好ましく、それにより、簡単で低コストな大量生産が可能となる。
【0013】
本発明によるバルブカートリッジの別の好ましい実施形態では、電気導体はカプセルの内部で、マグネットリングとして製作された永久磁石の開口部の内部に電気導体が配置されるように案内することができる。
【0014】
本発明による電磁弁の好ましい実施形態では、マグネットリングとして製作された永久磁石は、たとえば電気式の磁気モジュールの上方に配置することができる。
【0015】
本発明による電磁弁の好ましい実施形態では、電気導体は磁気アーマチュアと固定的に結合することができ、それにより、障害により引き起こされる磁気アーマチュアの運動および磁気アーマチュアと結合されたタペットの運動が緩衝されるという利点がある。電気導体を備える磁気アーマチュアは、カプセルの内部で、マグネットリングとして製作された永久磁石の開口部の内部に電気導体が配置されるように案内することができる。
【0016】
本発明の実施例が図面に示されており、以下の記述において詳しく説明する。図面では、同じ符号は同じ機能ないし類似の機能を果たすコンポーネントないし部材を表している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明によるバルブカートリッジの一実施例を含む電磁弁を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1から明らかなように、本発明によるバルブカートリッジ2の実施例は、好ましくは鋼材の深絞り部品として製作されるカプセル2.1と、第1の端部がカプセル2.1に差し込まれ、他方の端部で主弁座9.1を備える弁体9を収容するバルブインサート8とを含んでいる。バルブカートリッジ2の内部には、復帰ばね7の力に抗して可動であり、封止機能を実行するために弁体9の主弁座9.1へ密閉式に入り込む封止部材6.2を備える閉止部材6.1を有しているタペット6が、可動に案内されている。本発明によると、磁気式の緩衝モジュール20が設けられており、この緩衝モジュールは、永久磁石22と、可動のタペット6と連結され、磁場Bに対して実質的に垂直方向に可動である、永久磁石22の磁場Bに配置された電気導体24とを有している。このとき永久磁石22の磁場Bは、電気導体24が運動vしたときに電流を電気導体24で誘導し、この電流は、電気導体24とタペット6の運動と反対向きに働く緩衝力F
Lを惹起する。
【0019】
運動をする導電性の物体24に対する磁場Bの作用は一般に知られている。電気導体24が均一な磁場Bに対して垂直方向に動くとき、その作用は簡略化して下記の各式により表すことができる。運動を減速させるローレンツ力については、式(1)に示す関係が成り立つ。
f
L=J
*B (1)
ここでf
Lは力密度、Jは運動により誘導される電流の電流密度、Bは磁束密度を表している。
【0020】
電流密度Jは式(2)で規定することができる。
J=γ
*ν
*B (2)
ここでγは導電率、νは電気導体24の速度を表している。
【0021】
電気導体24の体積と乗算すると、電気導体24の運動と反対向きに作用する絶対力F
Lについて式(3)が得られる。
F
L=γ
*ν
*B
2*V (3)
【0022】
ここで説明している磁場Bの効果を、油圧式の緩衝部材の作用と比較できるようにするために、式(3)をローレンツ力F
Lについて相応に書き換える。Ns/mを単位とする緩衝dは、油圧装置で式(4)によって表される。
d=F/ν (4)
【0023】
力Fについて式(3)のローレンツ力F
Lを代入すると、磁場Bの緩衝作用について式(5)が得られる。
d=γ
*B
2*V (5)
【0024】
磁気式の緩衝モジュールの緩衝dは、可動の導体24の導電率γおよび体積Vと、磁束密度Bとに依存して決まる。油圧式の緩衝dと比較したとき、磁気式の緩衝では、温度の非依存性という表現を使うことができる。関連する領域の導電率γが、温度によってごくわずかに影響を受けるにすぎないからである。
【0025】
図1からさらにわかるとおり、図示した電磁弁1は本発明によるバルブカートリッジ2のほかに、電気式の磁気モジュール5を含んでいる。電気式の磁気モジュール5は、磁束を生成するために、ハウジング外套5.1と、巻線支持体5.2と、コイル巻き線5.3と、カバーディスク5.4とを含んでいる。バルブカートリッジ2の内部には、電気式の磁気モジュール5で生成される磁力により復帰ばね7の力に抗して可動であり、バルブインサート8の内部で案内されるタペット6を動かす磁気アーマチュア4が、可動に案内されている。磁気モジュール5は、図には見えていない電気接続部を介してのコイル巻き線5.3への通電により磁力を生成し、この磁力は、主封止部材6.2を備える閉止部材6.1を含むタペット6とともに長手方向へ可動の磁気アーマチュア4を、復帰ばね7の力に抗してバルブインサート8に対して動かし、このとき、タペット6と復帰ばね7はバルブインサート8の内穴で案内されている。封止機能を実行するために、閉止部材6.1の封止部材6.2が、弁体9の主弁座9.1へ密閉式に入り込む。バルブインサート8は、磁気モジュール5からカバーディスク5.4を介して導入される磁束を軸方向に、エアギャップ5.5を通して磁気アーマチュア4の方向へ誘導する。図示した実施例では、永久磁石22はマグネットリングとして製作されており、電気式の磁気モジュール5の上方に配置されている。マグネットリングとして製作された永久磁石22は、たとえばカプセル2.1に外嵌することができる。電気導体24は、図示した実施例では、銅円柱として製作されている。別案として電気導体24は、アルミニウムコンポーネントとして、または、良好な導電性を有するその他の材料から製作することもできる。電気導体24はカプセル2.1の内部で、マグネットリングとして製作された永久磁石22の開口部の内部に、すなわち永久磁石22の磁場Bの中に、電気導体24が配置されるように案内されている。
【0026】
コイル巻き線5.3を通って電流が流れると、磁気アーマチュア4で磁力が生成される。図示している無通電のときに開く電磁弁1では、この磁力が開放力よりも強くなると、磁気アーマチュア4ならびにタペット6が閉止部材6.1および封止部材6.2とともに軸方向へ動きはじめる。そこで本発明の基本的な意図は、アーマチュアの軸方向運動に追随する、銅からなる円柱として製作された電気導体24を磁気アーマチュア4に取り付けるという点にある。電気式の磁気モジュール5の上方に、電気導体24の軸方向運動に対して垂直方向に、すなわち図示した実施例では右から左に分極した、マグネットリングとして製作された永久磁石22が取り付けられているので、銅円柱として製作された電気導体24は、運動vに対して垂直方向に向く磁場Bの中に位置している。運動vは電気導体24で、運動vを緩衝するローレンツ力を誘導する。永久磁石22の磁場Bにより、障害によって引き起こされるバルブ運動を緩衝し、バルブを安定化することができるという利点がある。この緩衝力は、温度や液体の粘性に左右されないという利点がある。温度や粘性への非依存性に基づき、緩衝作用を厳密に調整することができる。さらに、バルブカートリッジ2の中のアーマチュア室の良好な排気可能性が必要ないという利点がある。
【0027】
電磁弁1の製造にあたっては、バルブカートリッジ2のカプセル2.1とバルブインサート8をプレスにより相互に接合し、シール溶接2.2によりバルブカートリッジ2を大気に対して油圧的に密閉する。さらに、図示した電磁弁1ではバルブ下側部分10に、逆止め弁10.1と、汚れ粒子を濾過するための環状フィルタ3および平形フィルタ11が設けられている。電磁弁1は、図示した実施例では、かしめ板12.1のかしめブッシュ18.1を介して流体ブロック12とかしめられており、バルブ下側部分10は、流体ブロック12の対応する収容穴12.2に収容されている。
【符号の説明】
【0028】
1 電磁弁
2 バルブカートリッジ
2.1 カプセル
6 タペット
6.2 封止部材
8 バルブインサート
9 弁体
9.1 主弁座
20 緩衝モジュール
22 永久磁石
24 電気導体