(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、電極用金属の化学反応を用いた様々な電池が実用化されており、その1つとして金属空気電池が挙げられる。金属空気電池は、空気極(正極)、燃料極(負極)、および電解質(または電解液)等で構成されており、電気化学的な反応により、亜鉛、鉄、マグネシウム、アルミニウム、ナトリウム、カルシウム、およびリチウム等の金属が金属酸化物に変化する過程で得られる電気エネルギーを取り出して利用する。
【0003】
例えば、燃料極として亜鉛を用いた金属空気電池では、放電時に燃料極および空気極において、以下のような反応が起こる。燃料極では、亜鉛と水酸化物イオンとが反応することで、水酸化亜鉛が生成されると共に、放出された電子が空気極へ流れる。生成された水酸化亜鉛は、酸化亜鉛と水とに分解され、電解液内に水が戻る。一方、空気極では、空気中に含まれる酸素と、燃料極から流れてきた電子とが、空気極触媒によって水と反応し、水酸化物イオンに変化する。水酸化物イオンは、電解液中をイオン伝導し、燃料極へ到達する。このようなサイクルにより、金属空気電池は、空気極から取り込んだ酸素を利用し、燃料極の亜鉛を燃料として酸化亜鉛を形成しながら、連続的な電力の取り出しを実現する。
【0004】
一般的な電池は、反応に必要な正極、負極、および電解質を電池(セル)に内蔵しており、内蔵した物質から電力を取り出している。これに対し、金属空気電池は、上述したように、セル内に正極活物質である酸素を内蔵していないため、他の物質の割合を増やすなどして、エネルギー密度を大きくすることができる。理論的なエネルギー密度は、リチウムイオン電池よりも大きくできる可能性があり、現在、金属空気電池は、補聴器用のボタン電池(一次電池)等の用途で既に実用化されている。一方、二次電池に関しては、様々な研究が取り組まれているが、例えば、2極方式の場合、充電によって燃料極が再生されても空気極が酸化消耗して、耐用期間が短くなるという問題があり、充放電反応に適した安価な空気極の実現が困難である等の課題から、いまだ実用化されていない。
【0005】
上述した充電の課題を解決するために、充電時に空気極を使わず、第3の電極を用いる3極方式の金属空気電池が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
特許文献1に記載の充電式空気電池は、空気極および金属電極に加えて、補助電極を備えた3極方式とされている。具体的には、
図19の従来の充電式空気電池を示す要部断面図のような構成とされており、充電式空気電池910は、電解液916が入れられたケース913と、ケース913の側面に設けられた空気極911と、電解液916中に配置された金属電極912および補助電極915とで電池部が構成され、電池部の外部に設けられた光電変換部918および負荷917に接続されている。負荷917は、空気極911と金属電極912との間に接続されており、電池部での放電反応によって電力が供給される。光電変換部918は、金属電極912と補助電極915との間に接続されており、光電変換部918と補助電極915との間には、ダイオード914が設けられている。光電変換部918は、光が照射されると電圧印加して、金属電極912と補助電極915との間で充電反応を行わせ、金属電極912の充電を行う。
【0007】
また、3極方式とは異なる方法として、燃料極を丸ごと交換するメカニカルチャージ(機械式充電)も検討されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2に記載の金属−空気電池用ケースは、空気を正極とし、かつ、負極となる金属部と、金属部が通過可能な出入口が形成された筐体と、筐体内に設けられ、金属部を収納する収納部とを備えている。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施の形態に係る金属空気電池について、図面を参照して説明する。なお、以下では、金属空気電池が1つである場合に、電池セル1(後述する
図5参照)と呼び、複数の電池セル1が接続された金属空気組電池を、電池モジュール30(後述する
図10参照)と呼ぶことがある。金属空気電池においては、電池セル1単体で使用することもでき、複数の電池セル1を接続して、電池モジュール30として使用することもできる。つまり、電池セル1と電池モジュール30とは、いずれも負荷に対して接続された1つの電池とみなすことができる。このことを考慮して、以下では、電池セル1と電池モジュール30とを併せて、金属空気二次電池と呼ぶことがある。
【0028】
図1は、切替装置の構成例を模式的に示すブロック図である。
【0029】
金属空気二次電池は、切替装置300を介して外部負荷および外部電源に接続されている。切替装置300は、金属空気二次電池の空気極101、燃料極102、および補助極103(詳しくは、後述する
図5参照)に接続されており、また、外部負荷の正極および負極並びに外部電源の正極および負極に接続されている。切替装置300は、切替部301と電池制御部302とを備えている。切替部301は、外部負荷および外部電源のそれぞれの電極に対する金属空気二次電池の接続状態を切り替える。電池制御部302は、切替部301の切り替えによる接続状態を制御する。電池制御部302は、人為的作業による手動切替操作および自動判定による切替処理のいずれかの機能、あるいは双方の機能を有する。金属空気二次電池は、接続状態によって、放電モード、充電モード、および発電モードの3種類のモードを切り替えて動作する。
【0030】
図2は、充電モードにおける切替部の接続状態を示すブロック図である。
【0031】
充電モードでは、外部電源によって金属空気二次電池を充電する接続状態であって、外部電源の正極と補助極103とが接続され、外部電源の負極と燃料極102とが接続されている。金属空気二次電池は、外部電源から電圧を印加されることで、電気分解が発生し、燃料極102に亜鉛が析出する形で充電が行われる。
【0032】
図3は、放電モードにおける切替部の接続状態を示すブロック図である。
【0033】
放電モードは、金属空気二次電池から外部負荷に対して電力を供給する接続状態であって、外部負荷の正極と空気極101とが接続され、外部負荷の負極と燃料極102とが接続されている。燃料極102では、放電によって亜鉛の酸化反応が生じる。
【0034】
図4は、発電モードにおける切替部の接続状態を示すブロック図である。
【0035】
発電モードは、燃料極102の換わりに補助極103を用いて外部負荷に電力を供給する接続状態であって、外部負荷の正極と空気極101とが接続され、外部負荷の負極と補助極103とが接続されている。つまり、
図3に示す放電モードなどで、溜めていた電力を使いきった際、燃料極102から補助極103へ接続を切り替えることで、外部負荷への電力供給が可能になる。
【0036】
次に、本発明の第1実施形態に係る金属空気電池について、図面を参照して説明する。
【0037】
図5は、本発明の第1実施形態に係る電池セルの概略断面図であって、
図6は、
図5の筐体上部を拡大して示す拡大断面図であって、
図7は、
図5の取込側面の側から見た概略側面図である。なお、
図5は、図面の見易さを考慮して、ハッチングを省略し、筐体10を透視して示している。また、
図6は、
図7の矢符A−Aでの断面に相当する。
【0038】
電池セル1は、筐体10の内部に、空気極101、燃料極102、補助極103、および電解液20が収納された構成とされている。なお、以下では説明の簡略化のため、空気極101、燃料極102、および補助極103を併せて電極と呼ぶことがある。
【0039】
筐体10は、アクリル、POM(ポリアセタール)、およびABS等の耐アルカリ性を有する樹脂で形成され、内部が空洞とされた直方体状とされている。筐体10は、幅方向Xおよび高さ方向Zに対して、厚さ方向Yでのサイズが小さく形成されている。具体的には、筐体10のサイズは、幅方向X(横)が200mmで、厚さ方向Y(奥行)が10.84mmで、高さ方向Z(縦)が135mmである。なお、電池セル1は、容量が292.7cm
3で、重量が646gである。また、筐体10の側面は、幅方向Xで第1横側面16(
図7では、左側)と第2横側面17(
図7では、右側)とが対向し、厚さ方向Yで取込側面11(
図6では、左側)と燃料側面12(
図6では、右側)とが対向している。取込側面11には、矩形状の空気取込口13が内部を開口するように形成されている。つまり、電池セル1は、空気取込口13を介して内部に空気を取り込む。空気取込口13は、幅方向Xまたは高さ方向Zに沿って設けられた複数の桟14によって格子状に区切られている。複数の桟14は、電解液20の圧力で空気極101が外側へ膨らむのを抑制する。筐体10の上面には、2つの電解液投入口15がそれぞれ内部まで貫通形成されており、電解液投入口15を介して内部に電解液20を補充することができる。2つの電解液投入口15は、幅方向Xで離間して設けられており、第1横側面16近傍と第2横側面17近傍とに設けられている。
【0040】
空気極101は、例えば、基材として多孔質の炭素材料が使用され、表面をフッ素系撥水材でコーティングして形成されたものや、炭素材料と混合分散して形成されたものである。なお、空気極101については、後述する
図8を参照して、詳細に説明する。空気極101は、取込側面11の内面に沿って設けられ、空気取込口13を覆っている。空気極101のサイズは、高さ方向Zが110mmで、幅方向Xが180mmであり、補助極103および燃料極102に対向する面の有効面積が19800mm
2である。
【0041】
燃料極102は、0.1〜2.0mm厚の平板状とされており、例えば、ステンレス、銅、鉄、ニッケル、およびアルミニウム等の金属で形成されている。燃料極102は、表面に燃料金属である亜鉛を有することで放電用の燃料極として使用でき、予めメッキなどで表面に亜鉛が付与されていてもよいし、充電によって表面に亜鉛が析出していてもよい。本実施の形態では、燃料極102として厚さ0.5mmのニッケル板を用いている。燃料極102のサイズは、空気極101と同じで、高さ方向Zが110mmで、幅方向Xが180mmであり、補助極103および空気極101に対向する面の有効面積が19800mm
2である。燃料極102は、燃料側面12の内面に沿って設けられ、燃料側面12を補強している。つまり、燃料極102と燃料側面12とが一体となるように形成されており、側面が電極によって補強されているため、側面を薄くするといった軽量化と、構造強度の維持とを両方実現できる筐体10とすることができる。
【0042】
補助極103は、平板状とされ、例えば、ニッケル製の多孔質体や、ニッケル/ニッケル合金/SUS板といった非酸化性の多孔質金属材料で形成されている。本実施の形態では、補助極103として厚さ0.5mmのニッケル板を用いており、打ち抜き加工によって複数の連絡孔103aが形成されている。電解液20は、連絡孔103aを通って空気極101と燃料極102との間を円滑に流れる。なお、連絡孔103aの形状については、後述する
図9を参照して、詳細に説明する。補助極103のサイズは、空気極101と同様に、高さ方向Zが110mmで、幅方向Xが180mmであり、燃料極102および空気極101に対向する面の有効面積が19800mm
2である。補助極103は、空気極101の内側の面に沿って設けられ、空気極101を介して、取込側面11を補強している。
【0043】
電解液20は、強アルカリ水溶液を用いることができ、本実施の形態では、pH14の水酸化カリウム水溶液を用いており、筐体10の内部に充填されている。
【0044】
電池セル1は、さらに、空気極101に接続された空気極端子201、燃料極102に接続された燃料極端子202、および補助極103に接続された補助極端子203を備えている。なお、以下では説明の簡略化のため、空気極端子201、燃料極端子202、および補助極端子203を併せて端子と呼ぶことがある。空気極端子201、燃料極端子202、および補助極端子203は、それぞれ電池セル1の上面より突出して設けられており、端子を介して電極同士が電気的に接続される。つまり、電極に接続された端子同士を、電池セル1の同じ上面側に設けることで、端子間の距離を近づけて、配線を短くすることができる。また、電池セル1の上面であれば、電池セル1の電解質を液体とした場合に、端子が濡れてショートしたり腐食したりすることを防止できる。本実施の形態では、空気極端子201、燃料極端子202、および補助極端子203は、銅で形成され、アルカリ水溶液による腐食を防止するためのメッキ処理が施されている。
【0045】
図7に示すように、幅方向Xで第1横側面16の側から燃料極端子202、補助極端子203、空気極端子201の順に配置されている。具体的には、第1横側面16から燃料極端子202までの第1幅W1は63mmであって、燃料極端子202から補助極端子203までの第2幅W2は56mmであって、補助極端子203から空気極端子201までの第3幅W3は22mmであって、空気極端子201から第2横側面17までの第4幅W4は59mmである。つまり、電池セル1を取込側面11側から見た際、燃料極端子202は、幅方向Xで電池セル1の中央より第1横側面16側(左側)に配置され、空気極端子201および補助極端子203は、幅方向Xで電池セル1の中央より第2横側面17側(右側)に配置されている。なお、端子同士の位置関係については、後述する
図10を参照して、詳細に説明する。
【0046】
図8は、空気極を拡大して示す拡大断面図である。なお、
図8は、図面の見易さを考慮して、ハッチングを省略している。
【0047】
空気極101は、ガス拡散層101a、撥水層101b、触媒層101c、およびセパレータ101eの順に積層された構造とされており、ガス拡散層101aが外部に露出して空気に接する側(
図5では、左側)に設けられ、セパレータ101eが電解液20および補助極103に接する側(
図5では、右側)に設けられている。ガス拡散層101aは、PET(ポリエチレンテレフタレート)製の不織布で形成され、厚さが100μmとされている。撥水層101bは、多孔質フッ素樹脂で形成され、厚さが3μmとされている。触媒層101cは、多孔質の炭素材料と、触媒である白金と、バインダー(接着剤)であるPTFEとを混合分散して形成され、厚さが0.4mmとされている。触媒層101cの内部には、金属メッシュで形成された集電体101dが埋め込まれており、集電体101dによって発生した電流を流す。セパレータ101eは、ポリエステル製の不織布で形成され、厚さが100μmとされており、補助極103と空気極101とを電気的に絶縁する。
【0048】
図9は、補助極を拡大して示す拡大側面図である。
【0049】
図9に示すように、連絡孔103aは矩形状とされている。つまり、補助極103は、複数の連絡孔103aが形成されたメッシュ状とされている。なお、連絡孔103aの形状は、これに限定されず、他の形状としてもよい。連絡孔103aを異なる形状とした第2実施形態については、後述する
図12Aおよび
図12Bを参照して、詳細に説明する。
【0050】
上述したように、燃料極102および補助極103は、筐体10を兼用している。つまり、電極が筐体10を兼用した構造とされているため、簡素な筐体10とすることができ、電池セル1の小型化および軽量化を図ることができる。
【0051】
また、取込側面11と燃料側面12とは、互いに対向するように設けられている。この構成によると、取込側面11と燃料側面12とを対向して設けることで、電極を効率よく配置することができる。つまり、燃料極102と補助極103とは、平行に配置されており、例えば、大面積化する際に広がる方向が一致しているので、双方を拡大しても、燃料極102と補助極103とが対向する方向の幅には影響せず、筐体が過剰に大きくならないため、電池セル1の小型化に適した構造とすることができる。
【0052】
次に、複数の電池セルを接続した電池モジュールについて、図面を参照して説明する。
【0053】
図10は、本発明の第1実施形態に係る電池セルを複数接続した電池モジュールを示す概略断面図である。なお、
図10は、図面の見易さを考慮して、ハッチングを省略している。
【0054】
電池モジュール30は、複数の電池セル1を接続した構成とされ、本実施の形態では、4つの電池セル1を接続している。以下では、4つの電池セル1は、それぞれを区別する場合、第1セル1a(
図10では左側)、第2セル1b、第3セル1c、または第4セル1d(
図10では、右側)と呼ぶことがある。なお、本実施の形態では、4つの電池セル1を接続して電池モジュール30としたが、これに限定されず、接続する電池セル1の数は、適宜選択することができる。
【0055】
4つの電池セル1は、絶縁性を有する樹脂製のバンド(図示しない)を巻き掛けて一体に固定されている。電池モジュール30の下方には、樹脂製の受皿31が設置されており、受皿31によって、電池セル1から漏れ出した電解液20を受けることができる。電池モジュール30は、隣り合う電池セル1の空気取込口13を互いに向かい合わせた配置とされている。また、電池モジュール30では、筐体10の側面のうち、いずれか1つを第1隣接側面とし、第1隣接側面と対向する側面を第2隣接側面として設定されている。そして、複数の電池セル1は、第1隣接側面同士および第2隣接側面同士が対面するように隣接して並べられている。本実施の形態では、電池セル1において、取込側面11が第1隣接側面とされ、燃料側面12が第2隣接側面とされている。具体的には、第1セル1aと第2セル1bとは、互いの取込側面11同士が対面し、第2セル1bと第3セル1cとは、互いの燃料側面12同士が対面し、第3セル1cと第4セル1dとは、互いの取込側面11同士が対面した状態とされている。従って、電池セル1は、隣接する電池セル1に対して、厚さ方向Yへ向けた筐体10の側面が互い違いになるように並べられている。
【0056】
電池モジュール30においては、空気極101での反応を生じさせるため、電池セル1の内部に空気を取り入れる必要がある。ここで、電池セル1を密集させると空気取込口13が塞がれてしまうため、隣接する電池セル1の間に隙間を設けるように、電池セル1同士の間隔を設けたり、筐体10を厚くしたり、スペーサーを設けたりするなどの処置が求められる。
【0057】
上述したように、隣接する電池セル1において、取込側面11同士が対向した状態とすることで、隙間を設けるなどの処置が必要な側面が共通するため、筐体10の燃料側面12側の隙間を考慮せずに、電池セル1の厚さ方向Yの幅を狭くすることができる。本実施の形態では、電池セル1は、取込側面11の側で1mm程度の隙間が形成されている。従って、電池モジュール30では、第1セル1aと第2セル1bとの間に2mm程度の隙間が形成され、第3セル1cと第4セル1dとの間に2mm程度の隙間が形成されている。
【0058】
具体的に、筐体10は、取込側面11において、筐体10の上下部に比べて空気取込口13近傍が薄くされており、隣接する筐体10と密着させても、空気取込口13近傍では、隣の筐体10との間に隙間が形成される。
【0059】
図11は、電池モジュールを上面視した状態での配線を示す説明図である。
【0060】
電池モジュール30は、第1セル1a、第2セル1b、第3セル1c、第4セル1dの順に直列に接続されている。そして、第1セル1aの燃料極端子202は、アース線206に接続されており、第4セル1dの空気極端子201は、放電回路207に接続されており、第4セル1dの補助極端子203は、充電回路208に接続されている。放電回路207および充電回路208は、上述した切替装置300の一部であって、電池制御部302によって適宜接続状態を切り替えられる。なお、
図11に示す接続状態は一例であって、上述した放電モード、充電モード、および発電モードに応じて、適宜接続する端子を調整すればよい。
【0061】
電池モジュール30において、隣接する電池セル1同士は、充放電切換素子204を介して接続されている。具体的に、第1セル1aと第2セル1bとの間に設けられた充放電切換素子204は、第2セル1bの燃料極端子202に接続され、第1セル1aの空気極端子201および補助極端子203に対して接続を切り換えるように設けられている。
図11は、放電時の接続状態を示しており、充放電切換素子204は空気極端子201に接続されている。なお、充電時には、充放電切換素子204は補助極端子203に接続される。また、充放電切換素子204は、隣り合う電池セル1同士の上部に跨って設置されている。つまり、3極方式の金属空気電池では、充電時と放電時とで補助極103または空気極101に対して接続を切り換える必要があり、充放電切換素子204を設けることで円滑に接続を切り換えることができる。また、隣り合う電池セル1同士の上部であれば、電池セル1同士の間隔を空けずに、充放電切換素子204の配置スペースを容易に確保することができる。
【0062】
電池セル1は、燃料極端子202と補助極端子203とが切り離し素子205を介して接続されている。複数の電池セル1で構成される電池モジュール30では、各電池モジュール30が直列に接続されているため、いずれかの電池セル1の特性が劣化したり、電解液20漏れ等によって抵抗値が上昇したりするなどの不具合が発生すると、電池モジュール30全体の性能に影響を及ぼしたり、不具合が発生した電池セル1が過充電や過放電によって発火するなどの危険な状態になるという課題がある。そこで、切り離し素子205を設けていれば、電池セル1に不具合が発生した際、不具合が発生した電池セル1の切り離し素子205によって燃料極端子202と補助極端子203とを短絡させると同時に、充放電切換素子204を補助極端子203側に切り換えることで、隣り合う電池セル1の燃料極端子202と不具合が発生した電池セル1とが短絡され、不具合が発生した電池セル1を電池モジュール30から切り離すことができる。
【0063】
なお、本実施の形態では、補助極端子203が空気極端子201よりも幅方向Xで電池セル1の内側に配置されており、燃料極端子202に近いことから、燃料極端子202と補助極端子203とを切り離し素子205を介して接続したが、補助極端子203と空気極端子201との位置を入れ換えた場合、空気極端子201に切り離し素子205を接続すればよい。また、切り離し素子205も、充放電切換素子204と同様に、隣り合う電池セル1同士の上部に跨って設置されていてもよい。
【0064】
空気極端子201、補助極端子203、および燃料極端子202は、それぞれ配線で接続されるため、互いの間隔を狭くすると配線を短くすることができる。しかしながら、補助極端子203と燃料極端子202との間に切り離し素子205を設置していることから、切り離し素子205の幅程度の間隔を設けることが望ましい。
【0065】
また、電池セル1の幅方向Xでの一方の端部(第1横側面16)から燃料極端子202までの間隔(第1幅W1、
図7参照)は、電池セル1の幅方向Xでの他方の端部(第2横側面17)から空気極端子201までの間隔(第4幅W4、
図7参照)と同程度であることが望ましい。つまり、電池モジュール30では、隣り合う電池セル1の端子の並び順が互い違いになるように設置されており、第1幅W1と第2幅W2とが同程度であれば、燃料極端子202に対して隣り合う電池セル1の空気極端子201が近い位置となり、配線を短くすることができる。なお、これに限定されず、第3幅W3と第4幅W4とを併せた距離が第1幅W1と同程度とされていてもよい。つまり、燃料極端子202に対して、隣り合う電池セル1の補助極端子203が近い位置となるような配置であってもよい。
【0066】
さらに、電解液投入口15は、第1横側面16から燃料極端子202までの間と、第2横側面17から空気極端子201までの間とに設けられていることが望ましい。つまり、燃料極端子202から空気極端子201までの間には、配線が設けられており、電解液20の投入時に端子等を濡らす虞があるため、電解液投入口15を設けるのは好ましくない。しかしながら、端子の外側であれば、配線等に阻害されないため、安全に電解液20を投入することができる。
【0067】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る金属空気電池について、図面を参照して説明する。第2実施形態は、第1実施形態に対して補助極が異なり、他の構造は同様であるため、補助極に関する図面を示し、他の図面は省略する。
【0068】
図12Aは、本発明の第2実施形態に係る金属空気電池の補助極を拡大して示す拡大側面図であって、
図12Bは、本発明の第2実施形態の変形例での補助極を拡大して示す拡大側面図である。なお、第1実施形態と機能が実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0069】
第2実施形態では、
図12Aに示すように、連絡孔103aは円形状とされている。つまり、空気極101は、複数の連絡孔103aが形成された多孔状とされている。また、変形例では、
図12Bに示すように、連絡孔103aは六角形状とされている。つまり、空気極101は、複数の連絡孔103aが形成されたハニカム状とされている。
【0070】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る金属空気電池について、図面を参照して説明する。
【0071】
図13は、本発明の第3実施形態に係る電池セルの概略断面図であって、
図14は、
図13の筐体上部を拡大して示す拡大断面図であって、
図15Aは、
図13の第1取込側面の側から見た概略側面図であって、
図15Bは、
図13の第2取込側面の側から見た概略側面図である。なお、
図13は、図面の見易さを考慮して、ハッチングを省略し、筐体10を透視して示している。また、
図14は、
図15Aの矢符B−Bでの断面に相当する。また、第1実施形態および第2実施形態と機能が実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0072】
第3実施形態では、空気極101および補助極103をそれぞれ2つ備えている点で、第1実施形態と異なる。つまり、第1実施形態では、空気極101と燃料極102とが筐体10の互いに対向する側面に配置されていたが、第3実施形態では、電池セル2の厚さ方向Yにおける中央部に燃料極102が配置されており、筐体10の互いに対向する側面に空気極101が配置されている。従って、空気極101を両面に配置することで電極面積が2倍になり、取り出す電流量を増加させて、出力不足を解消することができる。
【0073】
図13および
図15Aに示すように、具体的に、筐体10の側面は、幅方向Xで第1横側面16(
図15Aでは、左側)と第2横側面17(
図15Aでは、右側)とが対向し、厚さ方向Yで第1取込側面11a(
図13では、左側)と第2取込側面11b(
図13では、右側)とが対向している。第1取込側面11aおよび第2取込側面11bには、それぞれ空気取込口13が形成されており、それぞれの内面に沿って空気極101および補助極103が設けられている。本実施の形態では、第1取込側面11aおよび第2取込側面11bは、それぞれ対応する補助極103によって補強されている。
【0074】
燃料極102は、2つの補助極103の間に配置され、一方の面が厚さ方向Yで第1取込側面11a側の空気極101と対向しており、他方の面が厚さ方向Yで第2取込側面11b側の空気極101と対向している。また、燃料極102は、2つの空気極101が対向する方向(厚さ方向Y)での筐体10の中央部において、筐体10と一体的に形成されている。具体的に、燃料極102は、下端部が筐体10の内部に差し込まれて一体とされており、幅方向Xの両端部も筐体10と一体にされている。このように、内部が空隙とされた筐体10の中央部を燃料極102によって支持することで、筐体10の機械的強度を補強することができる。
【0075】
本実施の形態において、筐体10のサイズは、幅方向Xが200mmで、厚さ方向Yが14.5mmで、高さ方向Zが135mmである。なお、電池セル2は、容量が391.5cm
3で、重量が812gである。
【0076】
また、
図13に示すように、2つの空気極101は、それぞれ同じ空気極端子201に接続されており、2つの補助極103は、それぞれ同じ補助極端子203に接続されている。したがって、空気極101および補助極103をそれぞれ2つ設けた場合であっても、それぞれ端子が1つとされていることから、複数の電池セル2を接続する際の配線が容易となる。
【0077】
次に、複数の電池セルを接続した電池モジュールについて、図面を参照して説明する。
【0078】
図16は、本発明の第3実施形態に係る電池セルを複数接続した電池モジュールを示す概略断面図である。なお、
図16は、図面の見易さを考慮して、ハッチングを省略している。
【0079】
第3実施形態では、第1実施形態と同様に、4つの電池セル2を接続した電池モジュール40について説明する。以下では、4つの電池セル2は、それぞれを区別する場合、第1両面セル2a(
図16では左側)、第2両面セル2b、第3両面セル2c、または第4両面セル2d(
図16では、右側)と呼ぶことがある。つまり、第3実施形態では、第1実施形態に対して、第1両面セル2aが第1セル1aに相当し、第2両面セル2bが第2セル1bに相当し、第3両面セル2cが第3セル1cに相当し、第4両面セル2dが第4セル1dに相当する。
【0080】
第3実施形態では、第1実施形態と同様に、第1隣接側面と第2隣接側面とが設定され、第1隣接側面同士および第2隣接側面同士が対面するように隣接して並べられている。本実施の形態では、電池セル2において、第1取込側面11aが第1隣接側面とされ、第2取込側面11bが第2隣接側面とされている。本実施の形態において、第1両面セル2aと第2両面セル2bとは、互いの第2取込側面11b同士が対面し、第2両面セル2bと第3両面セル2cとは、互いの第1取込側面11a同士が対面し、第3両面セル2cと第4両面セル2dとは、互いの第2取込側面11b同士が対面した状態とされている。本実施の形態では、厚さ方向Yで対向する側面(第1取込側面11aおよび第2取込側面11b)の両方に空気取込口13が設けられているため、隣り合う電池セル2同士の間に空気を取り込む隙間が設けられていることが望ましい。
【0081】
図17は、電池モジュールを上面視した状態での配線を示す説明図である。
【0082】
第3実施形態は、第1実施形態と同様の配線とされており、充放電切換素子204および切り離し素子205を設けて接続されている。
【0083】
次に、第1実施形態および第3実施形態に係る電池セルと従来の充電式空気電池とについて、電池モジュールにおける諸特性を評価し、図面を参照して結果を比較する。
【0084】
図18は、電池モジュールにおける諸特性を示す特性図表である。
【0085】
実施例1は、第1実施形態に係る電池セル1を用いた電池モジュール30であって、実施例2は、第3実施形態に係る電池セル2を用いた電池モジュール40であって、比較例は、
図19に示す従来の充電式空気電池910を用いた電池モジュールである。なお、電池モジュールの設計としては、それぞれの容積が略等しくなるように、電池セルの数を設定した。具体的には、実施例1は電池セル数を「8」とし、実施例2および比較例は電池セル数を「6」としており、電池モジュールの容積は2349cm
3となった。
【0086】
図18に示すように、実施例1では、電池モジュールの容量が1200Whであり、容積が等しい比較例では容量が900Whであることから、容量が33%増加している。その結果、体積エネルギー密度においては、比較例では383Wh/Lであるのに対して、実施例1では511Wh/Lとなって33%増加している。また、重量エネルギー密度においては、比較例では186Wh/kgであるのに対して、実施例1では232Wh/kgとなって25%増加している。同じ容積であっても、体積エネルギー密度や重量エネルギー密度が増加していることから、電極が筐体10を兼用した構造とすることは、電池セル1の小型化・軽量化に対して有効であることがわかる。リチウムイオン電池においては、一般的にエネルギー密度が100Wh/kg程度といわれているのに対して、実施例1では、リチウムイオン電池に比べて2.3倍程度のエネルギー密度を実現しており、移動体用電池として有効に用いることができる。また、実施例1では、電池セル数が8個であるため、電圧が8Vで出力が87.2Wとなっている。これに対し、比較例では、電池セル数が6個であることから、電圧が6Vで出力が65.4Wとなっており、実施例1は出力が33%増加していることがわかる。
【0087】
次に、実施例2と比較例とを比べると、出力が比較例の2倍である130.8Wとなっている。実施例2では、空気極101および補助極103が電池セル2の両側面に配置されていることから、電極の有効面積が2倍となっている。具体的に電流を比較すると、比較例では10.9Aであるのに対して、実施例2では21.8Aであって、2倍に増加している。金属空気電池では、リチウムイオン電池と比較した際に出力不足であることが課題とされていたが、実施例2の構成とすることでこの課題を解決することができる。
【0088】
なお、上述した第1実施形態ないし第3実施形態では、3極方式である金属空気二次電池とされていたが、本発明はこれに限定されず、2極方式の金属空気二次電池や金属空気一次電池(メカニカルチャージ方式を含む)にも適用できる。
【0089】
また、今回開示した実施の形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。従って、本発明の技術的範囲は、上記した実施の形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。