特許第6437807号(P6437807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6437807インバータ回路を制御する制御回路、および、当該制御回路を備えたインバータ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6437807
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】インバータ回路を制御する制御回路、および、当該制御回路を備えたインバータ装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20181203BHJP
   G05F 1/67 20060101ALI20181203BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20181203BHJP
【FI】
   H02M7/48 R
   G05F1/67 A
   H02J3/38 150
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-246802(P2014-246802)
(22)【出願日】2014年12月5日
(65)【公開番号】特開2016-111810(P2016-111810A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】大堀 彰大
【審査官】 佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−168351(JP,A)
【文献】 特開2014−207776(JP,A)
【文献】 特開2001−136664(JP,A)
【文献】 特開平11−308704(JP,A)
【文献】 特開2014−161193(JP,A)
【文献】 特開2012−252537(JP,A)
【文献】 特開2014−042381(JP,A)
【文献】 特開2013−083586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
G05F 1/67
H02J 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源が出力する直流電力を交流電力に変換するインバータ回路を制御する制御回路であって、
前記インバータ回路の三相の出力電流を検出した三相の電流信号を、回転座標系の直交する2つの成分であるd軸電流信号とq軸電流信号とに変換して、それぞれを目標値に制御する電流制御部と、
前記d軸電流信号の目標値を生成するd軸電流目標値生成部と、
前記d軸電流信号の目標値を所定の範囲に制限するd軸目標制限部と、
を備え
前記d軸電流目標値生成部は、前記直流電源の出力電圧を目標値に制御するための補償値を、前記d軸電流信号の目標値として生成する、
ことを特徴とする制御回路。
【請求項2】
直流電源が出力する直流電力を交流電力に変換するインバータ回路を制御する制御回路であって、
前記インバータ回路の三相の出力電流を検出した三相の電流信号を、回転座標系の直交する2つの成分であるd軸電流信号とq軸電流信号とに変換して、それぞれを目標値に制御する電流制御部と、
前記d軸電流信号の目標値を生成するd軸電流目標値生成部と、
前記d軸電流信号の目標値を所定の範囲に制限するd軸目標制限部と、
を備え
前記d軸電流目標値生成部は、前記直流電源の出力電流を目標値に制御するための補償値を、前記d軸電流信号の目標値として生成する、
ことを特徴とする制御回路。
【請求項3】
直流電源が出力する直流電力を交流電力に変換するインバータ回路を制御する制御回路であって、
前記インバータ回路の三相の出力電流を検出した三相の電流信号を、回転座標系の直交する2つの成分であるd軸電流信号とq軸電流信号とに変換して、それぞれを目標値に制御する電流制御部と、
前記d軸電流信号の目標値を生成するd軸電流目標値生成部と、
前記d軸電流信号の目標値を所定の範囲に制限するd軸目標制限部と、
を備え
前記d軸電流目標値生成部は、前記インバータ回路が出力する有効電力を目標値に制御するための補償値を、前記d軸電流信号の目標値として生成する、
ことを特徴とする制御回路。
【請求項4】
直流電源が出力する直流電力を交流電力に変換するインバータ回路を制御する制御回路であって、
前記インバータ回路の三相の出力電流を検出した三相の電流信号を、回転座標系の直交する2つの成分であるd軸電流信号とq軸電流信号とに変換して、それぞれを目標値に制御する電流制御部と、
前記q軸電流信号の目標値を生成するq軸電流目標値生成部と、
前記q軸電流信号の目標値を所定の範囲に制限するq軸目標制限部と、
を備え
前記q軸電流目標値生成部は、前記インバータ回路が出力する無効電力を目標値に制御するための補償値を、前記q軸電流信号の目標値として生成する、
ことを特徴とする制御回路。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれかに記載の制御回路と、前記インバータ回路とを備えていることを特徴とするインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池などが出力する直流電力を交流電力に変換するインバータ回路を制御する制御回路、および、当該制御回路を備えたインバータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池などによって生成される直流電力を交流電力に変換して、電力系統に供給する系統連系インバータシステムが開発されている。
【0003】
図8は、従来の一般的な系統連系インバータシステムを説明するためのブロック図である。
【0004】
系統連系インバータシステムA100は、太陽電池を備える直流電源1が生成した直流電力を交流電力に変換して、電力系統Bに供給するものである。インバータ回路2は、制御回路600から入力されるPWM信号に基づいてスイッチング素子(図示しない)のスイッチングを行うことで、直流電源1から入力される直流電圧を交流電圧に変換する。制御回路600は、インバータ回路2を制御するためのPWM信号を生成して出力する。制御回路600の制御部300は、直流電源1からインバータ回路2に入力される直流電圧が所定の電圧になるように制御している。すなわち、直流電圧センサ82が検出した直流電圧Vdcを、直流電圧目標値設定部400が設定する電圧目標値Vdc*に一致させるように、制御部300がフィードバック制御を行っている。
【0005】
直流電圧目標値設定部400は、電圧目標値Vdc*を設定するものである。一般的に、太陽電池の出力電力をできるだけ大きくするために、最大電力点追従(MPPT:Maximum Power Point Tracking)制御が行われる。最大電力点追従制御は、太陽電池の例えば出力電圧を変化させて太陽電池の出力電力を検出し、当該出力電力が最大になる最大電力点を探索するものである。太陽電池の電圧−電力特性は、図9に示す曲線のようになる。すなわち、所定の電圧Vmaxのときに電力が最大値Pmaxになり、この時の電圧Vmaxから離れるに従って電力が小さくなるという特性がある。この特性を利用した、いわゆる山登り法が、最大電力点追従制御に用いられている。すなわち、出力電圧を増加させた時に出力電力が大きくなれば続けて出力電圧を増加させ、出力電力が小さくなれば最大電力点(図9の点Mmax参照)を超えたとして、出力電圧を減少させる。出力電圧を減少させた時に出力電力が大きくなれば続けて出力電圧を減少させ、出力電力が小さくなれば最大電力点Mmaxを超えたとして、出力電圧を増加させる。これを繰り返すことで、動作点を最大電力点Mmaxの近傍に位置させて、出力電力をできるだけ最大の状態に保つ。直流電圧目標値設定部400は、電圧目標値Vdc*を変化させて、直流電圧センサ82が検出した直流電圧Vdcと、直流電流センサ81が検出した直流電流Idcとから、直流電源1の出力電力を算出する。そして、山登り法を用いて、当該出力電力ができるだけ最大の状態を保つように電圧目標値Vdc*を調整する。
【0006】
太陽電池は日射強度に応じて、出力電力が変化する。日射が強い場合には出力電力が大きくなり、最大電力点追従制御による出力電力の最大値Pmaxも大きくなる。日射が強すぎるときに、出力電力を最大値Pmaxとすると、インバータ回路2から過大な電力が出力されることになる。インバータ回路2を過電流から保護するために、太陽電池の出力電力を抑制する必要がある。
【0007】
特許文献1には、太陽電池の出力電力が所定の制限値PLを超えた場合には出力電圧を大きくする発明が記載されている。すなわち、直流電圧目標値設定部400は、太陽電池の出力電力が制限値PLを超えている場合には、その前に電圧目標値Vdc*を増加させたか減少させたかに関係なく、電圧目標値Vdc*を増加させる。これにより、図9に示すように、動作点が最大電力点Mmaxではなく、制限値PLに対応する動作点MLに位置するように制御され、太陽電池の出力電力が所定の制限値PLに制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−74113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の発明の場合でも、日射変動により電圧−電力特性の曲線が変化した場合に対応できるように山登り法が用いられており、直流電圧目標値設定部400は常に電圧目標値Vdc*を変化させている。最大電力点Mmax近傍で電圧目標値Vdc*を変化させても、太陽電池の出力電力の変化量は小さい。しかし、動作点ML近傍で電圧目標値Vdc*を変化させた場合、太陽電池の出力電力は大きく変化する。このため、太陽電池の出力電力を制限するようにした場合、太陽電池の出力電力が大きく変動するという問題がある。
【0010】
本発明は上述した事情のもとで考え出されたものであって、太陽電池の出力電力を大きく変動させることなく抑制制御を行う、インバータ回路の制御回路を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0012】
本発明の第1の側面によって提供される制御回路は、直流電源が出力する直流電力を交流電力に変換するインバータ回路を制御する制御回路であって、前記インバータ回路の三相の出力電流を検出した三相の電流信号を、回転座標系の直交する2つの成分であるd軸電流信号とq軸電流信号とに変換して、それぞれを目標値に制御する電流制御部と、前記d軸電流信号の目標値を生成するd軸電流目標値生成部と、前記d軸電流信号の目標値を所定の範囲に制限するd軸目標制限部とを備えていることを特徴とする。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記d軸電流目標値生成部は、前記直流電源の出力電圧を目標値に制御するための補償値を、前記d軸電流信号の目標値として生成する。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記制御回路は、前記直流電源の出力電圧の目標値である直流電圧目標値を設定する直流電圧目標値設定手段をさらに備え、前記直流電圧目標値設定手段は、前記直流電圧目標値を変化させて、前記直流電源の出力電力がより大きくなるように、前記直流電圧目標値を調整する。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記制御回路は、前記直流電源の出力電圧の目標値である直流電圧目標値を設定する直流電圧目標値設定手段をさらに備え、前記直流電圧目標値設定手段は、前記直流電圧目標値を変化させて、前記インバータ回路が出力する有効電力がより大きくなるように、前記直流電圧目標値を調整する。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記d軸目標制限部は、前記d軸電流信号の目標値を下記上限値Idmax以下に制限する。
【数1】
なお、P1は前記インバータ回路の出力有効電力の上限値であり、Vrmsは前記インバータ回路の出力線間電圧の実効値であり、aは所定の係数である。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記d軸目標制限部は、前記d軸電流信号の目標値を下記上限値Idmax以下に制限する。
【数2】
なお、I1は前記インバータ回路の出力電流の上限値であり、Kは前記インバータ回路の出力電力の力率であり、bは所定の係数である。
【0018】
本発明の第2の側面によって提供される制御回路は、直流電源が出力する直流電力を交流電力に変換するインバータ回路を制御する制御回路であって、前記インバータ回路の三相の出力電流を検出した三相の電流信号を、回転座標系の直交する2つの成分であるd軸電流信号とq軸電流信号とに変換して、それぞれを目標値に制御する電流制御部と、前記q軸電流信号の目標値を生成するq軸電流目標値生成部と、前記q軸電流信号の目標値を所定の範囲に制限するq軸目標制限部とを備えていることを特徴とする。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記q軸電流目標値生成部は、前記インバータ回路が出力する無効電力を目標値に制御するための補償値を、前記q軸電流信号の目標値として生成する。
【0020】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記q軸目標制限部は、前記q軸電流信号の目標値を下限値である「0」以上、下記上限値Iqmax以下に制限する。
【数3】
なお、Kminは前記インバータ回路の出力電力の力率の下限値であり、Pは前記インバータ回路の出力有効電力であり、Vrmsは前記インバータ回路の出力線間電圧の実効値であり、cは所定の係数である。
【0021】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記直流電源が太陽電池を備えている。
【0022】
本発明の第1の側面によって提供されるインバータ装置は、本発明の第1または第2の側面によって提供される制御回路と、前記インバータ回路とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、d軸電流目標値生成部が生成したd軸電流信号の目標値を、d軸目標制限部が所定の範囲に制限することで、抑制制御を行う。したがって、直流電源の出力電力を大きく変動させることなく、抑制制御を行うことができる。
【0024】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態に係る制御回路を備えた系統連系インバータシステムを説明するための図である。
図2】第1実施形態に係る制御部の内部構成を説明するための機能ブロック図である。
図3】インバータ回路の出力有効電力を抑制制御しているときの、動作点の変化を説明するための図である。
図4】第2実施形態に係る制御回路の内部構成を説明するための機能ブロック図である。
図5】第2実施形態に係る直流電圧目標値設定部が行う最大電力点の探索処理を説明するためのフローチャートである。
図6】第3実施形態に係る制御部の内部構成を説明するための機能ブロック図である。
図7】第4実施形態に係る系統連系インバータシステムを説明するための図である。
図8】従来の一般的な系統連系インバータシステムを説明するためのブロック図である。
図9】太陽電池の電圧−電力特性を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を、本発明に係る制御回路を系統連系インバータシステムに用いた場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
【0027】
図1は、第1実施形態に係る制御回路を備えた系統連系インバータシステムを説明するための図である。
【0028】
系統連系インバータシステムA1は、分散電源であり、直流電源1、インバータ回路2、制御回路6、電流センサ71、電圧センサ72、直流電流センサ81、および、直流電圧センサ82を備えている。系統連系インバータシステムA1は、三相の電力系統Bに連系している。なお、以下では3つの相をU相、V相およびW相とする。系統連系インバータシステムA1は、直流電源1が出力する直流電力をインバータ回路2によって交流電力に変換し、図示しない負荷に供給する。負荷には、電力系統Bからも電力が供給される。また、系統連系インバータシステムA1は、逆潮流ありのシステムであり、交流電力を電力系統Bにも供給する。なお、図示しないが、インバータ回路2の出力側には、交流電圧を昇圧(または降圧)するための変圧器が設けられている。インバータ回路2、制御回路6、電流センサ71、電圧センサ72、直流電流センサ81、および、直流電圧センサ82をまとめたものがインバータ装置であり、いわゆるパワーコンディショナと呼ばれるものである。
【0029】
直流電源1は、直流電力を出力するものであり、太陽電池を備えている。太陽電池は、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換することで、直流電力を生成する。直流電源1は、生成された直流電力を、インバータ回路2に出力する。
【0030】
インバータ回路2は、直流電源1から入力される直流電力を交流電力に変換して出力するものである。インバータ回路2は、図示しないPWM制御インバータとフィルタとを備えている。PWM制御インバータは、図示しない3組6個のスイッチング素子を備えた三相インバータであり、制御回路6から入力されるPWM信号に基づいて各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで直流電力を交流電力に変換する。フィルタは、スイッチングによる高周波成分を除去する。インバータ回路2の入力側の正極および負極は、直流電源1の正極および負極にそれぞれ接続されているので、インバータ回路2の入力電圧は直流電源1の出力電圧に一致し、インバータ回路2の入力電流は直流電源1の出力電流に一致する。
【0031】
電流センサ71は、インバータ回路2の三相の出力電流の瞬時値をそれぞれ検出するものである。電流センサ71は、検出した瞬時値をディジタル変換して、電流信号iu,iv,iw(3つの電流信号をまとめて「電流信号i」と記載する場合がある。)として制御回路6に出力する。電圧センサ72は、インバータ回路2の三相の出力電圧の瞬時値をそれぞれ検出するものである。電圧センサ72は、検出した瞬時値をディジタル変換して、電圧信号vu,vv,vw(3つの電圧信号をまとめて「電圧信号v」と記載する場合がある。)として制御回路6に出力する。また、電圧センサ72は、検出した瞬時値から線間電圧の実効値Vrmsを算出して制御回路6に出力する。
【0032】
直流電流センサ81は、インバータ回路2の入力電流(すなわち、直流電源1の出力電流)の瞬時値を検出するものである。直流電流センサ81は、検出した瞬時値をディジタル変換して、直流電流信号Idcとして制御回路6に出力する。直流電圧センサ82は、インバータ回路2の入力電圧(すなわち、直流電源1の出力電圧)の瞬時値を検出するものである。直流電圧センサ82は、検出した瞬時値をディジタル変換して、直流電圧信号Vdcとして制御回路6に出力する。直流電圧センサ82は、インバータ回路2の入力側の正極と負極との間に設けられた電解コンデンサ(図示しない)の端子間電圧を検出している。
【0033】
制御回路6は、インバータ回路2を制御するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路6は、電流センサ71より入力される電流信号i、電圧センサ72より入力される電圧信号vと線間電圧の実効値Vrms、直流電流センサ81より入力される直流電流信号Idc、および、直流電圧センサ82より入力される直流電圧信号Vdcに基づいてPWM信号を生成して、インバータ回路2に出力する。制御回路6は、制御部3、直流電圧目標値設定部4、および、電力算出部5を備えている。
【0034】
直流電圧目標値設定部4は、直流電圧信号Vdcの目標値である電圧目標値Vdc*を設定するものである。直流電圧目標値設定部4は、いわゆる最大電力点追従制御を行うためのものであり、電圧目標値Vdc*を変化させて、直流電源1から入力される入力電力が最大になるように、電圧目標値Vdc*を調整する。具体的には、直流電圧目標値設定部4は、直流電流センサ81より入力される直流電流信号Idcと直流電圧センサ82より入力される直流電圧信号Vdcとから、直流電源1より入力される入力電力を算出する。そして、電圧目標値Vdc*を変化させたときに、算出された入力電力が大きくなっていれば、電圧目標値Vdc*を同じ方向に変化させ、算出された入力電力が小さくなっていれば、最大電力点(図9の点Mmax参照)を超えたとして、電圧目標値Vdc*を逆の方向に変化させる。これを繰り返すことで、動作点を最大電力点の近傍に位置させて、直流電源1から入力される入力電力をできるだけ最大の状態に保つ。
【0035】
なお、直流電圧目標値設定部4が行う最大電力点の探索処理は、上述したものに限定されない。例えば、電圧目標値Vdc*を所定値だけ減少させたときと、所定値だけ増加させたときとで、それぞれ入力電力を算出し、より大きくなる方向に電圧目標値Vdc*を変化させるようにしてもよい。また、増減幅を変化させたり、遺伝的アルゴリズム処理を用いることで、いわゆる「2山問題」を解消するようにしてもよい。また、山登り法に限定されず、最大電力点追従制御で用いられるあらゆるアルゴリズムを用いることができる。
【0036】
電力算出部5は、インバータ回路2が出力する有効電力および無効電力を算出するものである。電力算出部5は、電流センサ71より入力される電流信号iと電圧センサ72より入力される電圧信号vとに基づいて、有効電力Pおよび無効電力Qを算出して、制御部3に出力する。
【0037】
電力算出部5は、電流センサ71より入力される電流信号iおよび電圧センサ72より入力される電圧信号vから、それぞれ正相分の信号のみを抽出してから、有効電力Pおよび無効電力Qを算出する。算出された有効電力Pおよび無効電力Qは、制御部3に入力される。一般的に、電力系統Bには基本波の正相分の交流信号の他に逆相分の交流信号や、高調波成分の交流信号が含まれている。これら正相分以外の成分のために、交流信号の有効電力や無効電力を精度よく計測することは難しい。したがって、電力算出部5は、電流信号iおよび電圧信号vから、それぞれ逆相分や高調波成分などの成分を除去して、正相分の信号のみを抽出したうえで、有効電力Pおよび無効電力Qの算出を行う。電力算出部5の具体例としては、発明者らが出願した特願2011‐224503号および特願2011‐254123号に記載の電力計測装置がある。この電力計測装置は、三相の電流信号iu,iv,iwを後述する下記(5)式に示す三相/二相変換処理(αβ変換処理)によって、α軸電流信号iαおよびβ軸電流信号iβに変換し、α軸電流信号iαおよびβ軸電流信号iβから正相分の信号のみを抽出する。三相の電圧信号vu,vv,vwも同様に変換を行って、正相分の信号のみを抽出する。そして、これらを用いて有効電力Pおよび無効電力Qを算出する。正相分の信号のみを抽出する具体的な方法は、複素係数フィルタを通す方法、後述する下記(6)式に示す回転座標変換処理(dq変換処理)を行ってからローパスフィルタを通す方法、回転座標変換処理、ローパスフィルタ処理および静止座標変換処理を統合した伝達関数による処理などがあるが、詳細は省略する。なお、その他の方法を用いてもよい。
【0038】
制御部3は、インバータ回路2を制御するものであり、電流センサ71より入力される電流信号i、電圧センサ72より入力される線間電圧の実効値Vrms、電力算出部5より入力される有効効電力Pと無効電力Q、直流電圧センサ82より入力される直流電圧信号Vdc、および、直流電圧目標値設定部4より入力される電圧目標値Vdc*に基づいてPWM信号を生成して、インバータ回路2に出力する。
【0039】
図2は、制御部3の内部構成を説明するための機能ブロック図である。
【0040】
制御部3は、直流電圧制御部31、無効電力制御部32、d軸目標制限部33、d軸範囲設定部34、q軸目標制限部35、q軸範囲設定部36、電流制御部37、および、PWM信号生成部38を備えている。
【0041】
直流電圧制御部31は、直流電源1の出力電圧の制御を行うためのものである。直流電圧制御部31は、直流電圧センサ82より入力される直流電圧信号Vdcと直流電圧目標値設定部4より入力される直流電圧目標値Vdc*との偏差ΔVdc(=Vdc*−Vdc)を算出し、当該偏差をゼロにするための直流電圧補償値をd軸電流の目標値Id*として、電流制御部37に出力する。直流電圧制御部31は、本実施形態では、PI制御(比例積分制御)を行っている。なお、PI制御以外の制御(例えばPID制御など)を行うようにしてもよい。
【0042】
無効電力制御部32は、インバータ回路2が出力する無効電力の制御を行うためのものである。無効電力制御部32は、電力算出部5より入力される無効電力Qとあらかじめ設定されている無効電力目標値Q*との偏差ΔQ(=Q*−Q)を算出し、当該偏差をゼロにするための無効電力補償値をq軸電流の目標値Iq*として、電流制御部37に出力する。無効電力制御部32は、本実施形態では、PI制御を行っている。なお、PI制御以外の制御(例えばPID制御など)を行うようにしてもよい。
【0043】
上述したように、直流電圧制御部31および無効電力制御部32は、PI制御を行っている。積分動作が含まれる制御において、出力された補償値に制限を設けた場合には、いわゆるワインドアップという問題が発生する。したがって、このワインドアップに対する対策を行う必要がある。ワインドアップに対する対策については、従来知られている方法を用いればよいので、詳細についての説明は省略する。
【0044】
d軸目標制限部33は、直流電圧制御部31より出力される目標値Id*を、d軸範囲設定部34によって設定された範囲に制限するためのものである。d軸目標制限部33は、設定された範囲に制限された目標値Id*を、電流制御部37に出力する。d軸範囲設定部34は、d軸目標制限部33における、目標値Id*の制限範囲を設定するものである。
【0045】
本実施形態では、インバータ回路2の出力有効電力を上限値P1以下に抑制するために、d軸範囲設定部34は、電圧センサ72より入力される線間電圧の実効値Vrmsに基づいて、下記(1)式により上限値Idmaxを逐次算出し、d軸目標制限部33に目標値Id*の上限値として当該上限値Idmaxを設定する。P1はあらかじめ設定されている。また、aは、d軸目標制限部33に設定されるd軸の値へ変換するための所定の係数であって、電流センサ71のCT比、電圧センサ72のVT比、ディジタル変換時のAD比などに基づいて算出されて、あらかじめ設定されている。d軸目標制限部33は、目標値Id*を上限値Idmax以下に制限する。
【数4】
【0046】
なお、d軸範囲設定部34が設定する範囲は、これに限られない。例えば、インバータ回路2の出力電流を上限値I1以下に抑制するのであれば、下記(2)式により算出した上限値Idmaxを目標値Id*の上限値として設定すればよい。I1はあらかじめ設定されており、力率Kは、電力算出部5が算出した有効電力Pおよび無効電力Qより算出される。また、bは、d軸目標制限部33に設定されるd軸の値へ変換するための所定の係数であって、上記係数aと同様に算出されて、あらかじめ設定される。
【数5】
【0047】
q軸目標制限部35は、無効電力制御部32より出力される目標値Iq*を、q軸範囲設定部36によって設定された範囲に制限するためのものである。q軸目標制限部35は、設定された範囲に制限された目標値Iq*を、電流制御部37に出力する。q軸範囲設定部36は、q軸目標制限部35における、目標値Iq*の制限範囲を設定するものである。
【0048】
本実施形態では、インバータ回路2の出力電力の力率をKmin以上1.00以下に制限するために、q軸範囲設定部36は、目標値Iq*の上限値および下限値として、上限値Iqmaxおよび下限値Iqminをq軸目標制限部35に設定する。上限値Iqmaxは、電圧センサ72より入力される線間電圧の実効値Vrmsと、電力算出部5より入力される有効電力Pとに基づいて、下記(3)式により逐次算出される。Kminはあらかじめ設定されている。また、cは、q軸目標制限部35に設定されるq軸の値へ変換するための所定の係数であって、上記係数aと同様に算出されて、あらかじめ設定されている。下限値Iqminは、「0」である。q軸目標制限部35は、目標値Iq*を上限値Iqmax以下、下限値Iqmin以上に制限する。なお、q軸範囲設定部36が設定する範囲は、これに限られない。
【数6】
【0049】
なお、有効電力P、無効電力Q、力率Kの関係から下記(4)式が導かれ、上限値Iqmaxを算出する上記(3)式が導かれる。
【数7】
【0050】
電流制御部37は、インバータ回路2の出力電流の制御を行うためのものである。電流制御部37は、電流センサ71より入力される電流信号iに基づいて電流補償値を生成して、PWM信号生成部38に出力する。
【0051】
図2(b)は、電流制御部37の内部構成を説明するための機能ブロック図である。
【0052】
電流制御部37は、三相/二相変換部371、回転座標変換部372、LPF373、LPF374、PI制御部375、PI制御部376、静止座標変換部377、および、二相/三相変換部378を備えている。
【0053】
三相/二相変換部371は、いわゆる三相/二相変換処理(αβ変換処理)を行うものである。三相/二相変換処理とは、三相の交流信号をそれと等価な二相の交流信号に変換する処理であり、三相の交流信号を静止した直交座標系(以下、「静止座標系」という。)における直交するα軸とβ軸の成分にそれぞれ分解して各軸の成分を足し合わせることで、α軸成分の交流信号とβ軸成分の交流信号に変換するものである。三相/二相変換部371は、電流センサ71から入力された三相の電流信号iu,iv,iwを、α軸電流信号iαおよびβ軸電流信号iβに変換して、回転座標変換部372に出力する。
【0054】
三相/二相変換部371で行われる変換処理は、下記(5)式に示す行列式で表される。
【数8】
【0055】
回転座標変換部372は、いわゆる回転座標変換処理(dq変換処理)を行うものである。回転座標変換処理とは、静止座標系の二相の信号を回転座標系の二相の信号に変換する処理である。回転座標系は、直交するd軸とq軸とを有し、連系点電圧の基本波と同一の角速度で同一の回転方向に回転する直交座標系である。回転座標変換部372は、三相/二相変換部371から入力される静止座標系のα軸電流信号iαおよびβ軸電流信号iβを、連系点電圧の基本波の位相θに基づいて、回転座標系のd軸電流信号idおよびq軸電流信号iqに変換して出力する。
【0056】
回転座標変換部372で行われる変換処理は、下記(6)式に示す行列式で表される。
【数9】
【0057】
LPF373およびLPF374は、ローパスフィルタであり、それぞれd軸電流信号idおよびq軸電流信号iqの直流成分だけを通過させる。回転座標変換処理によって、α軸電流信号iαおよびβ軸電流信号iβの基本波成分が、それぞれd軸電流信号idおよびq軸電流信号iqの直流成分に変換されている。つまり、LPF373およびLPF374は、不平衡成分や高調波成分を除去して、基本波成分のみを通過させるものである。
【0058】
PI制御部375は、d軸電流信号idの直流成分と目標値との偏差に基づいてPI制御を行い、電流補償値xdを出力するものである。直流電圧制御部31より出力され、d軸目標制限部33で設定された範囲に制限された目標値Id*が、d軸電流信号idの直流成分の目標値として用いられる。PI制御部376は、q軸電流信号iqの直流成分と目標値Iq*との偏差に基づいてPI制御を行い、電流補償値xqを出力するものである。無効電力制御部32より出力され、q軸目標制限部35で設定された範囲に制限された目標値Iq*が、q軸電流信号iqの直流成分の目標値として用いられる。
【0059】
静止座標変換部377は、PI制御部375およびPI制御部376からそれぞれ入力される電流補償値xd,xqを、静止座標系の電流補償値xα,xβに変換するものであり、回転座標変換部372とは逆の変換処理を行うものである。静止座標変換部377は、いわゆる静止座標変換処理(逆dq変換処理)を行うものであり、回転座標系の電流補償値xd,xqを、位相θに基づいて、静止座標系の電流補償値xα,xβに変換する。
【0060】
静止座標変換部377で行われる変換処理は、下記(7)式に示す行列式で表される。
【数10】
【0061】
二相/三相変換部378は、静止座標変換部377から入力される電流補償値xα,xβを、三相の電流補償値xu,xv,xwに変換するものである。二相/三相変換部378は、いわゆる二相/三相変換処理(逆αβ変換処理)を行うものであり、三相/二相変換部371とは逆の変換処理を行うものである。
【0062】
二相/三相変換部378で行われる変換処理は、下記(8)式に示す行列式で表される。
【数11】
【0063】
PWM信号生成部38は、PWM信号を生成するものである。PWM信号生成部38は、電流制御部37より入力される三相の補償信号xu,xv,xwに基づいて、インバータ回路2の各相の出力電圧の波形を指令するための指令信号を生成し、指令信号とキャリア信号とに基づいて、三角波比較法によりPWM信号を生成する。例えば、指令信号がキャリア信号より大きい場合にハイレベルとなり、指令信号がキャリア信号以下の場合にローレベルとなるパルス信号が、PWM信号として生成される。生成されたPWM信号は、インバータ回路2に出力される。なお、PWM信号生成部38は、三角波比較法によりPWM信号を生成する場合に限定されず、例えば、ヒステリシス方式でPWM信号を生成するようにしてもよい。
【0064】
本実施形態では、制御回路6をディジタル回路として実現した場合について説明したが、アナログ回路として実現してもよい。また、各部が行う処理をプログラムで設計し、当該プログラムを実行させることでコンピュータを制御回路6として機能させてもよい。また、当該プログラムを記録媒体に記録しておき、コンピュータに読み取らせるようにしてもよい。
【0065】
次に、本発明の作用と効果について説明する。
【0066】
本実施形態によると、電流制御部37は、電流センサ71から入力された三相の電流信号iu,iv,iwをd軸電流信号idおよびq軸電流信号iqに変換して、d軸電流信号idおよびq軸電流信号iqの直流成分をそれぞれ目標値に制御する。d軸電流信号idの直流成分の目標値Id*は、直流電圧制御部31より出力され、d軸目標制限部33で設定された範囲に制限される。d軸目標制限部33は、目標値Id*を上記(1)式に示す上限値Idmax以下に制限する。これにより、インバータ回路2の出力有効電力は、上限値P1以下に抑制される。
【0067】
図3は、インバータ回路2の出力有効電力を抑制制御しているときの、動作点の変化を説明するための図である。
【0068】
直流電源1の出力電力を所定の制限値PLに抑制したい場合、インバータ回路2の出力有効電力を制限値PLに対応する制限値PL’に抑制する。この場合、目標値Id*が制限値PL’に対応する上限値Idmax以下に制限される。これにより、インバータ回路2の出力有効電力は、制限値PL’に抑制される。例えば、図3(a)に示す動作点M1(最大電力点)で最大電力点追従制御が行われていた場合、インバータ回路2の入力電力(直流電源1の出力電力)がインバータ回路2の出力有効電力より大きくなるので、インバータ回路2の入力電圧(直流電源1の出力電圧)が上昇して、インバータ回路2の入力電力が低下する。そして、インバータ回路2の入力電圧(直流電源1の出力電圧)は、インバータ回路2の入力電力とインバータ回路2の出力有効電力とが釣り合う電圧VLになる(図3(a)に示す動作点M2参照)。直流電圧目標値設定部4は、MPPT制御を行っているので、電圧目標値Vdc*は電圧VLより小さい値(例えばVmax)で変動している。しかし、d軸電流信号idの目標値Id*が上限値Idmax以下に制限されることで、インバータ回路2の出力有効電力が抑制され、インバータ回路2の入力電圧(直流電源1の出力電圧)が電圧VLより小さくならない(動作点がM2に固定される)ので、インバータ回路2の入力電力(直流電源1の出力電力)は変動しない。したがって、直流電源1の出力電力を大きく変動させることなく、抑制制御を行うことができる。
【0069】
なお、制限値PLと最大電力点M1における電力値との差が小さい場合、MPPT制御による目標値の変動幅によっては、電圧目標値Vdc*が電圧VLより大きい値になってしまう場合がある。この場合、インバータ回路2の出力電力にチャタリングが発生する場合がある。これを回避するために、d軸目標制限部33において目標値Id*が上限値Idmaxになっている間(目標値Id*が設定範囲による制限を受けている間)、直流電圧目標値設定部4がMPPT制御を停止し、電圧目標値Vdc*を電圧VLより所定値VXだけ小さい値(VL−VX)の固定値として出力するようにしてもよい。
【0070】
次に、図3(b)に示すように、日射強度が変化して、直流電源1の電圧−電力特性が、実線の曲線から破線の曲線に変化した場合、動作点はM2からM3に変化する。この場合、直流電源1の出力電力が制限値PLより小さいので、d軸電流信号idの目標値Id*が上限値Idmaxに届かず制限されない。したがって、直流電源1の出力電圧は、直流電圧目標値設定部4が設定する電圧目標値Vdc*に制御される。これにより、最大電力点追従制御が働いて、動作点がM3からM4(最大電力点)に移動して、M4近傍に位置することになる。
【0071】
一方、図3(c)に示すように、変化後の直流電源1の電圧−電力特性が破線の曲線の場合、動作点はM3に変化した後、直流電源1の出力電力が制限値PLまで上昇して、M4’(電圧VL’)に移動する。そして、d軸電流信号idの目標値Id*が上限値Idmax以下に制限されることで、インバータ回路2の入力電圧(直流電源1の出力電圧)は、電圧VL’より小さくならない(動作点がM4’に固定される)。
【0072】
また、本実施形態によると、q軸電流信号iqの直流成分の目標値Iq*は、無効電力制御部32より出力され、q軸目標制限部35で設定された範囲に制限される。q軸目標制限部35は、目標値Iq*を上記(3)式に示す上限値Iqmax以下、下限値Iqmin(=0)以上に制限する。これにより、インバータ回路2の出力電力の力率は、Kmin以上1.00以下に制限される。
【0073】
なお、本実施形態においては、d軸目標制限部33が、目標値Id*を常に設定された範囲に制限し、q軸目標制限部35が、目標値Iq*を常に設定された範囲に制限する場合について説明したが、これに限られない。ある条件に一致した場合にのみ、d軸目標制限部33(q軸目標制限部35)が、目標値Id*(目標値Iq*)を設定された範囲に制限するようにしてもよい。例えば、インバータ装置内の温度が所定の温度以上になった場合や、連系点の電圧が所定値以上になった場合に、d軸目標制限部33が、目標値Id*を設定された範囲に制限するようにしてもよい。
【0074】
本実施形態においては、目標値Id*および目標値Iq*の両方とも制限する場合について説明したが、これに限られない。いずれか一方のみを制限するようにしてもよい。例えば、目標値Id*のみを制限する場合は、q軸目標制限部35およびq軸範囲設定部36を設けなくてもよい。
【0075】
本実施形態においては、直流電源1の出力電圧を制御する場合について説明したが、これに限られない。直流電源1の出力電流を制御するようにしてもよい。すなわち、直流電圧目標値設定部4に代えて、直流電流の目標値を設定する直流電流目標値設定部を備え、直流電圧制御部31に代えて、直流電流センサ81より入力される直流電流信号Idcと直流電流の目標値との偏差を算出し、当該偏差をゼロにするための補償値を出力する直流電流制御部を備えるようにしてもよい。
【0076】
本実施形態においては、インバータ回路2が電力系統Bに電力を供給する場合について説明したが、これに限られず、負荷のみに電力を供給するようにしてもよい。
【0077】
上記第1実施形態においては、直流電圧目標値設定部4がMPPT制御により、直流電源1から入力される入力電力が最大になるように、電圧目標値Vdc*を調整する場合について説明したが、これに限られない。例えば、インバータ回路2の出力有効電力が最大になるように電圧目標値Vdc*を調整するようにしてもよい。この場合の例を第2実施形態として、以下に説明する。
【0078】
図4は、第2実施形態に係る系統連系インバータシステムA2の制御回路6の内部構成を説明するための機能ブロック図である。同図において、第1実施形態に係る制御回路6(図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0079】
第2実施形態に係る制御回路6は、直流電圧目標値設定部4に代えて、インバータ回路2の出力電力が最大になるように電圧目標値Vdc*を調整する直流電圧目標値設定部4’を備えている点で、第1実施形態に係る制御回路6と異なる。
【0080】
直流電源1の出力電圧Vdcに対する、インバータ回路2の出力有効電力の特性曲線は、図10に示す太陽電池の電圧−電力特性と同様の曲線になる。すなわち、所定の電圧Vmaxのときに出力有効電力が最大値になり、この時の電圧Vmaxから離れるに従って小さくなるという特性がある。したがって、この特性を利用した山登り法を用いることができる。
【0081】
直流電圧目標値設定部4’は、電圧目標値Vdc*を変化させて、電力算出部5から入力される有効電力Pが最大になるように、電圧目標値Vdc*を調整する。第1実施形態に係る直流電圧目標値設定部4が、いわゆる最大電力点追従制御を行って、直流電源1の出力電力を最大にするように制御するのに対して、直流電圧目標値設定部4’は、インバータ回路2の出力有効電力を最大にするように制御する点が異なっている。
【0082】
図5は、直流電圧目標値設定部4’が行う最大電力点の探索処理を説明するためのフローチャートである。当該探索処理は、インバータ回路2が電力変換動作を開始するときに、実行が開始される。
【0083】
まず、電圧目標値Vdc*に初期値V0が設定され、探索方向が設定される(S1)。本実施形態では、初期値V0として開放電圧が設定されている。また、探索方向としては、電圧目標値Vdc*を減少させる減少方向が設定される。なお、各設定はこれに限定されない。次に、電圧目標値Vdc*が出力され(S2)、直流電圧制御により直流電源1の出力電圧が電圧目標値Vdc*に制御される。そして、電力算出部5が算出した有効電力Pが取得され(S3)、前回有効電力P0に設定される(S4)。
【0084】
次に、現在設定されている探索方向が減少方向であるか否かが判別される(S5)。探索方向が減少方向である場合(S5:YES)、電圧目標値Vdc*をΔVだけ減少させ(S6)、探索方向が減少方向でない場合(S5:NO)、すなわち増加方向である場合、電圧目標値Vdc*をΔVだけ増加させる(S7)。そして、電圧目標値Vdc*が出力されて(S8)、有効電力Pが取得される(S9)。なお、増減幅ΔVは、小さすぎると最大電力点の探索に時間がかかりすぎ、大きすぎると精度と安定性が悪くなるので、適宜適切な値を設定する必要がある。
【0085】
次に、有効電力Pが前回有効電力P0より大きいか否かが判別される(S10)。有効電力Pが前回有効電力P0より大きい場合(S10:YES)、探索方向は変更されずに、前回有効電力P0に有効電力Pが設定されて(S12)、ステップS5に戻る。一方、有効電力Pが前回有効電力P0以下の場合(S10:NO)、最大電力点を超えたとして探索方向は反転され(S11)、すなわち、減少方向であった場合は増加方向が設定され、増加方向であった場合は減少方向が設定され、前回有効電力P0に有効電力Pが設定されて(S12)、ステップS5に戻る。その後は、ステップS5〜S12が繰り返される。
【0086】
なお、直流電圧目標値設定部4’が行う最大電力点の探索処理は、上述したものに限定されない。例えば、電圧目標値Vdc*をΔVだけ減少させたときと、ΔVだけ増加させたときとで、それぞれ有効電力Pを取得し、より大きくなる方向に電圧目標値Vdc*を変化させるようにしてもよい。また、増減幅ΔVを変化させたり、遺伝的アルゴリズム処理を用いることで、いわゆる「2山問題」を解消するようにしてもよい。また、山登り法に限定されず、最大電力点追従制御で用いられるあらゆるアルゴリズムを用いることができる。従来の最大電力点追従制御で用いられるあらゆるアルゴリズムにおいて、直流電源1からの出力電力を最大にするように追従するのではなく、インバータ回路2の出力電力を最大にするように追従するようにすればよい。
【0087】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、第3実施形態においては、直流電圧目標値設定部4’は、インバータ回路2の出力有効電力が略最大になるように制御を行う。したがって、直流電源1が出力する直流電力が略最大になるときにインバータ回路の出力有効電力が略最大にならない場合でも、システムとしての出力電力を略最大にすることができる。これにより、直流電源1が出力する直流電力が略最大になるように制御を行った場合よりも、発電効率を向上させることができる。
【0088】
上記第1および第2実施形態においては、直流電圧制御および無効電力制御を行う場合について説明したが、これに限られない。いずれか一方のみを行うようにしてもよい。例えば、無効電力制御を行わない場合は、電流制御部37に入力される目標値Iq*として固定値を用いるようにすればよい。
【0089】
また、直流電圧制御および無効電力制御以外の制御を行うようにしてもよい。例えば、直流電圧制御に代えて、有効電力制御を行う場合の例を、第3実施形態として、以下に説明する。
【0090】
図6は、第3実施形態に係る系統連系インバータシステムA3の制御部の内部構成を説明するための機能ブロック図である。同図において、第1実施形態に係る制御部3(図2(a)参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0091】
図6に示す制御部3は、直流電圧制御に代えて、有効電力制御を行う点で、第1実施形態に係る制御部3と異なる。
【0092】
有効電力制御部31’は、インバータ回路2が出力する有効電力の制御を行うためのものである。有効電力制御部31’は、電力算出部5より入力される有効電力Pと有効電力目標値P*との偏差ΔP(=P*−P)を算出し、当該偏差をゼロにするための有効電力補償値をd軸電流の目標値Id*として、電流制御部37に出力する。有効電力制御部31’は、例えば、PI制御を行っている。なお、PI制御以外の制御(例えばPID制御など)を行うようにしてもよい。電流制御部37は、有効電力制御部31’より出力される有効電力補償値をd軸電流信号idの目標値として用いる。有効電力制御部31’より出力された目標値Id*は、d軸目標制限部33で、d軸範囲設定部34によって設定された範囲に制限されて、電流制御部37に入力される。
【0093】
第3実施形態においても、d軸目標制限部33は、目標値Id*を上記(1)式に示す上限値Idmax以下に制限する。これにより、インバータ回路2の出力有効電力は、上限値P1以下に抑制される。したがって、太陽電池の出力電力を大きく変動させることなく、抑制制御を行うことができる。
【0094】
本発明は、直流電源1とインバータ回路2との間にDC/DCコンバータ回路が設けられている場合にも適用することができる。DC/DCコンバータ回路が設けられている場合を第4実施形態として、以下に説明する。
【0095】
図7は、第4実施形態に係る系統連系インバータシステムA4を説明するための図である。同図において、第1実施形態に係る系統連系インバータシステムA1(図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
【0096】
図7に示す系統連系インバータシステムA4は、インバータ回路2の前段にDC/DCコンバータ回路2’が設けられており、DC/DCコンバータ回路2’を制御するための制御回路6’が設けられている点で、第1実施形態に係る系統連系インバータシステムA1と異なる。
【0097】
DC/DCコンバータ回路2’は、直流電源1の出力電圧を昇圧または降圧して、インバータ回路2に出力するものである。DC/DCコンバータ回路2’は、制御回路6’から入力されるPWM信号に基づいて、図示しないスイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、入力電圧を昇圧または降圧して出力する。DC/DCコンバータ回路2’の入力側の正極および負極は、直流電源1の正極および負極にそれぞれ接続されているのでDC/DCコンバータ回路2’の入力電圧は直流電源1の出力電圧に一致し、DC/DCコンバータ回路2’の入力電流は直流電源1の出力電流に一致する。
【0098】
直流電流センサ81’は、DC/DCコンバータ回路2’の入力電流(すなわち、直流電源1の出力電流)の瞬時値を検出するものである。直流電流センサ81’は、検出した瞬時値をディジタル変換して、直流電流信号I’dcとして制御回路6’に出力する。直流電圧センサ82’は、DC/DCコンバータ回路2’の入力電圧(すなわち、直流電源1の出力電圧)の瞬時値を検出するものである。直流電圧センサ82’は、検出した瞬時値をディジタル変換して、直流電圧信号V’dcとして制御回路6’に出力する。直流電圧センサ82’は、DC/DCコンバータ回路2’の入力側の正極と負極との間に設けられた電解コンデンサ(図示しない)の端子間電圧を検出している。
【0099】
制御回路6’は、DC/DCコンバータ回路2’を制御するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路6’は、直流電流センサ81’より入力される直流電流信号I’dc、および、直流電圧センサ82’より入力される直流電圧信号V’dcに基づいてPWM信号を生成して、DC/DCコンバータ回路2’に出力する。制御回路6’は、制御部3’、および、直流電圧目標値設定部4を備えている。
【0100】
直流電圧目標値設定部4は、第1実施形態に係る直流電圧目標値設定部4と同様のものであって、直流電圧信号V’dcの目標値である電圧目標値V’dc*を設定するものであり、電圧目標値V’dc*を変化させて、直流電源1から入力される入力電力が最大になるように、電圧目標値V’dc*を調整する。
【0101】
制御部3’は、直流電圧制御部31、および、PWM信号生成部38を備えている。直流電圧制御部31は、第1実施形態に係る直流電圧制御部31と同様のものであり、直流電源1の出力電圧の制御を行うためのものである。直流電圧制御部31は、直流電圧センサ82’より出力される直流電圧信号V’dcと直流電圧目標値設定部4より入力される直流電圧目標値V’dc*との偏差ΔV’dc(=V’dc*−V’dc)を算出し、当該偏差をゼロにするための直流電圧補償値をPWM信号生成部38に出力する。系統連系インバータシステムA4においては、DC/DCコンバータ回路2’が、MPPT制御を行っている。
【0102】
PWM信号生成部38は、第1実施形態に係るPWM信号生成部38と同様の機能を有し、DC/DCコンバータ回路2’に出力するPWM信号を生成するものである。PWM信号生成部38は、直流電圧制御部31より入力される信号とキャリア信号とに基づいて、三角波比較法によりPWM信号を生成する。生成されたPWM信号は、DC/DCコンバータ回路2’に出力される。また、PWM信号生成部38は、制御回路3において目標値Id*が設定範囲による制限を受けている間、デューティ比を固定したPWM信号を生成する。つまり、目標値Id*が設定範囲による制限を受けている間は、MPPT制御が停止される。
【0103】
なお、制御回路6’の構成は上記に限られない。また、本実施形態では、制御回路6’をディジタル回路として実現した場合について説明したが、アナログ回路として実現してもよい。また、各部が行う処理をプログラムで設計し、当該プログラムを実行させることでコンピュータを制御回路6’として機能させてもよい。また、当該プログラムを記録媒体に記録しておき、コンピュータに読み取らせるようにしてもよい。
【0104】
インバータ回路2は、DC/DCコンバータ回路2’から入力される直流電力を交流電力に変換する。インバータ回路2の入力側の正極および負極は、DC/DCコンバータ回路2’の出力側の正極および負極にそれぞれ接続されているので、インバータ回路2の入力電圧はDC/DCコンバータ回路2’の出力電圧に一致し、インバータ回路2の入力電流はDC/DCコンバータ回路2’の出力電流に一致する。制御回路6は、直流電圧目標値設定部4(図1参照)を備えておらず、直流電圧目標値Vdc*を固定値としている。これにより、DC/DCコンバータ回路2’の出力電圧は、直流電圧目標値Vdc*に固定される。
【0105】
第4実施形態によると、直流電源1の出力電圧が、直流電圧目標値設定部4が設定する直流電圧目標値V’dc*に制御される。第4実施形態においても、制御部3は第1実施形態に係る制御部3と同様の制御を行うので、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0106】
上記第1〜第4実施形態においては、直流電源1が太陽電池により直流電力を生成する場合について説明したが、これに限られない。例えば、直流電源1は、風力タービン発電機などにより生成された交流電力を直流電力に変換して出力する装置であってもよい。自然エネルギーなどの出力を制御できないエネルギーを電力に変換するシステムにおいて、効率よく電力を取り出す場合に、本発明は有効になる。
【0107】
本発明に係る制御回路、および、当該制御回路を備えたインバータ装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る制御回路、および、当該制御回路を備えたインバータ装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0108】
A1,A2,A3,A4 系統連系インバータシステム(インバータ装置)
1 直流電源
2 インバータ回路
2’ DC/DCコンバータ回路
3,3’ 制御部
31 直流電圧制御部(d軸電流目標値生成部)
31’ 有効電力制御部(d軸電流目標値生成部)
32 無効電力制御部(q軸電流目標値生成部)
33 d軸目標制限部
34 d軸範囲設定部
35 q軸目標制限部
36 q軸範囲設定部
37 電流制御部
38 PWM信号生成部
4,4’ 直流電圧目標値設定部
5 電力算出部
6,6’ 制御回路
71 電流センサ
72 電圧センサ
81,81’ 直流電流センサ
82,82’ 直流電圧センサ
B 電力系統
図1
図2
図3
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図5
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図9