(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記診断パラメーターに対する前記制約は、腫瘍の最小放射線量に対する制約、少なくとも1つの危険臓器(OAR:over−dose to organs−at−risk)の最大放射線量に対する制約、並びに組織の累積放射線量に対する最大制約及び最小制約のうちの1つ又はそれらの組み合わせを含み、前記座標系の原点は、ゼロ放射線量を有する前記放射線療法治療を表す、請求項1に記載の方法。
放射線療法システムであって、患者の治療容積の診断パラメーターに対する制約下で前記治療容積の放射線療法治療のための放射線量を最適化するためのプロセッサを備え、前記プロセッサは、前記治療容積における各ボクセルの総放射線量に対する最小制約及び最大制約下の放射線ビームの強度値を最小化する最短距離問題(LDP)の解を求め、前記制約を満たす前記診断パラメーターの最適値を得るように構成されるとともに、前記診断パラメーターの前記最適値を用いて前記放射線療法治療のための前記放射線量の分布を求めるように構成され、
前記プロセッサは並列プロセッサであり、前記LDPを非負の二次計画(NNQP)に変換し、並列二次計画法(PQP)を用いて、前記並列プロセッサを用いて前記NNQPの候補解を反復的に再スケーリングして前記NNQPを解くことによって前記LDPを解く、放射線療法システム。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の1つの実施形態による放射線療法システム100の概略図である。放射線療法システム100は放射線治療計画システム101を備え、放射線治療計画システム101は並列プロセッサ102を更に備える。並列プロセッサは、ボクセルの容積として表すことができる、対象の放射線治療容積を有する身体105に関する入力情報を受け取るようになっている。並列プロセッサ102はまた、身体の対象の放射線治療容積に放射線治療を提供するための出力情報を生成するようになっている。
【0020】
放射線治療計画システム101は、記憶装置107と、ディスプレイ108と、入/出力(I/O:input/output)デバイス及びインターフェース109とを更に備えることができる。記憶装置107は例えば、ハードディスクドライブ、CD−ROMドライブ、DVDドライブ、フラッシュドライブ等とすることができる。ディスプレイ108は、例えば、液晶ディスプレイ(LCD:liquid crystal display)、陰極線管(CRT:cathode ray tube)モニター、プラズマディスプレイ等とすることができる。I/Oデバイス109は、例えば、マウスと、キーボードと、ネットワーク又はデータバスを介したデータ転送のためのインターフェースとを含むことができる。
【0021】
放射線療法システム100は、放射線治療計画システム101と通信する放射線治療システム103を更に備えることができる。放射線治療システム103は、治療のために複数の有向放射線ビームを放出する放射線源106を備えることができる。放射線源の例は、X線源、ガンマ線源、電子ビーム源等を含むことができる。放射線源106は、ビームを成形するマルチリーフコリメーター(MLC:multi−leaf collimator)を更に備えることができる。MLCのリーフの位置を調整することによって、放射線療法士は放射場を身体の治療容積の形状に合わせることができる。幾つかの実施形態では、他のビーム成形及び/又は輪郭形成を含めることができる。放射線源106は、対応するソースモデルを有することができる。放射線治療システム103は、放射線治療計画システム101によって、例えば、強度が調整された放射エネルギーを送達するように、及び放射線治療を対象の放射線治療容積の形状に合わせるように制御することができる。
【0022】
放射線療法システム100は、放射線治療計画システム101と通信する診断システム104も備えることができる。診断システム104は、身体105、例えば患者の身体の経験的データを生成する。経験的データは、放射線治療計画システム101及び並列プロセッサ102への入力情報として用いることができ、放射線量を求めるのに用いることができる。診断システム104は、身体105の経験的データを取得するセンサーを備えることができる。例示的な診断システムは、コンピューター断層撮影法(CT:computed tomography)スキャナー、磁気共鳴画像法(MRI:magnetic resonance imaging)スキャナー、ポジトロン放出型断層撮影法(PET:positron emission tomography)スキャナーとすることができる。
【0023】
放射線療法線量最適化の1つの目的は、放射線療法治療の間、腫瘍への線量不足を防ぐとともに、危険臓器(OAR)及び他の健常な組織に対する線量過剰を防ぐことである。放射線療法は通常、診断パラメーターの処方に従って実行される。処方は、例えば腫瘍内の各容積単位への最小放射線量と、各近傍の健常な臓器内の各容積単位への最大線量とを与えることができる。ペンシルビーム放射療法又は粒子線放射療法(PBDO)の設定において、処方内の診断パラメーターが成り立つような多数の放射線ビームについての強度値の算出が模索される。
【0024】
本発明の様々な実施形態は、放射線療法のための線量最適化を、放射線療法治療の診断パラメーターにおいてパラメーター化された総照射の座標系の原点と、制約によって指定された各診断パラメーターの実行可能値の半平面を交差させることによって形成される境界を有する、その座標系内に配置された凸実行可能多面体との間の最短距離問題(LDP)とみなすことができるという認識に基づいている。
【0025】
図2は、上記の認識の原理に従って座標系220内に配置される例示的な多面体210を示している。座標系220は通常、診断パラメーターの低次元系である。例えば、処方が、腫瘍Tに対する最小放射線量、第1の危険臓器(OAR)OAR1に対する最大放射線量、第2の危険臓器(OAR)OAR2に対する最大放射線量、及び正常組織Nに対する最大放射線量等の4つの診断パラメーターのための4つの制約を含む場合、座標系220は4次元であり、対象の腫瘍の放射値のための1つの次元T222と、第1のOARに対する放射値のための次元OAR1 224と、第2のOARに対する放射値のための次元OAR2 226と、正常組織に対する放射値のための次元228とを有する。座標系220は、他の制約と、放射線治療の物理特性及び/又は機械特性に関する対応する次元とを有することができる。例えば、幾つかの制約は可能な限り最小の放射を指定することができる。
【0026】
そのような構成は、PBDOを、臨床医にとって物理的な意味があるパラメーターにおいて定式化する。点233、235、237等の多面体上の点の集合は、診断パラメーターに対する制約を満たす可能な解の集合を定義する。しかしながら、1つのみの点、例えば、ゼロ放射を表す原点225の最近傍点237が、患者の総照射を最小にする最適解を指定する。ここで「最近傍」とは、何らかの重み付けされた凸ノルムを最小化することと解釈され、例えば、最適に重み付けされたユークリッドノルムを最小化することによって総照射が正確に最小化されるのに対し、重み付けされていないユークリッドノルムを最小化することによって総照射に対する上界が最小化される。したがって、PBDOは、原点225と多面体210との間のLDPとして定式化される。
【0027】
図3は、2D座標系における多面体210の2次元(2D)表現310を示している。多面体の境界を形成する各線、例えば線340及び345は、診断パラメーターに対する制約、すなわち多面体210を形成する半平面に対応する。
【0028】
少なくとも1つの診断パラメーターに対する少なくとも1つの制約の変更によって、多面体上の最近傍点の位置が変化する可能性がある。例えば、線340によって表される制約の値が線350によって表される値に変化することによって、多面体の形状が変化し、原点に対する最近傍点の位置が位置330から位置335に更新される。しかし、点の更新された位置は、依然として多面体上にあり、このため実行可能解に対応し、また、依然として原点の最近傍にあり、最適解に対応する。このため、臨床医は、物理的かつ医学的な意味を有する診断パラメーターに対する制約を変動させることによって、近似に頼る必要なく、及び/又はパレート面を再構成する必要なく、診断パラメーターの最適で実行可能な組合せを直接求めることができる。
【0029】
最短距離問題(LDP)としての粒子線線量最適化
幾つかの実施形態は、治療容積の様々なボクセルの総照射に対する最小制約及び最大制約を表す多面体を明示的に求めることなくLDPを解く様々な最適化方法を用いる。そのような定式化によって、様々な最適化方法を受け入れ可能なLDPの数学的表現を導出することが可能になる。例えば、LDPは、非負の二次計画法(NNQP)として数学的に等価な双対定式に変換することができ、LDP多面体を決定する臨床的制約は、非負のベクトル空間にわたって最小化される二次コスト関数によって表され、そのようなベクトルの各要素は、臨床的制約のうちの1つを満たすことのコストを表す。PQP法は、このNNQPを非常に高速に解くことができ、LDPの最適解はNNQPの最適解の線形変換である。しかしながら、最新のスーパーコンピューターであっても、この二次コスト関数を明示的に表すのは現実的でない。幾つかの実施形態は、二次コスト関数を明示的に形成することなく特にLDP問題を解く新たな形式のPQPを用いる。
【0030】
図4は、多面体を構築することなく最適化問題を解くことによって、原点に対する最近傍の多面体の点の位置を求める方法のブロック図を示している。本方法は、プロセッサ401、例えば並列プロセッサ102を用いて実施することができる。
【0031】
本方法は、処方を、照射を受ける患者の治療容積のセグメント化、例えばボクセルマップ及びフルエンス行列と組み合わせる(415)。ボクセルマップにおいて、各ボクセルは「腫瘍」、「肝臓」、「骨」等とラベル付けされる。フルエンス行列は、すなわち、各ビームが各ボクセルに放射線をかけるレートを決定するテーブルである。通常、各ラベル付けされたエンティティは、数千個のボクセルを含む3D容積に及ぶ。セグメント化を用いて、処方は治療計画容積内のそれぞれの全てのボクセルに対する制約405に変換される(415)。
【0032】
一般的な最適化問題は、多くのビームの強度値を、それらの組み合わされた放射パターンがボクセルごとの制約を満たし、総照射を最小化するように設定することである。このように述べた問題は線形計画(LP:linear program)である。しかしながら、この大きさのLPは通常、現実的な時間量で解くには大き過ぎる。LP手法の更なる欠点は、LP解が空間的に平滑でないことであり、これによって、患者が治療時に正しく位置合わせされていないとき、不正確な線量となる。さらに、発見的最適化、例えばペナルティ付き最小二乗は比較的高速であり、平滑な解をもたらすが、必ずしも制約を満たさない。
【0033】
本発明の幾つかの実施形態は、最適化問題を重み付けされたLDPとして定式化することができる(410)という認識に基づいている。ここで、制約はビーム強度値の重み付けされたL2ノルムを最小化している間に厳密に満たされ、これは空間的により平滑な解を促進する。さらに、重み付けは、最適なLP解に類似しているか又は同一の、最適なLDP解を成すように選択することができる。幾何学的に、LP及びLDPの場合、制約はビーム重みベクトルの空間内に凸多面体を形成し、各制約は半空間を定義し、多面体は全てのそのような半空間の交差部である。LDPでは、この多面体において原点に対し最近傍の点を見つけることが目的である。
【0034】
幾つかの実施形態は、以下のLDP定式化を用いる。
【数1】
式中、A∈R
m×n≧0は、ビーム強度値のベクトルx∈R
n≧0を累積ボクセル線量のベクトルAx∈R
mにマッピングする非負の線量フルエンス行列であり、W∈R
n×n≧0は重みの対角行列である。下界制約Ax≧b
minは、腫瘍内のボクセルごとに最小処方線量を設定し、上界制約Ax≦b
maxは、OARボクセルを保護し、腫瘍内のホットスポットを防ぐのに用いられる。
【0035】
様々な実施形態によって、様々な重み付け方式が行列Wに用いられる。例えば、W=diag(A
Te)の場合、ベクトルWxの各要素は1つのビームによって送達される総線量を含む。ここで、eは1のベクトルである。この場合、E[X
2]=(E[X])
2+var[X]であるので、2ノルム‖Wx‖
2を最小化することは、二乗平均線量と線量変動(ビーム単位)とを加えたものを最小化することに等しい。これによって、解における節約及び平滑性の双方が促進される。
【0036】
付加的に又は代替的に、
【数2】
の場合、
【数3】
であり、
【数4】
において等式が成り立つので、2ノルム‖Wx‖
2を最小化することは、全てのボクセルにわたる累積線量‖Ax‖
1を最小化することに等しい。ここで
【数5】
は解の推定値である。
【0037】
本発明の幾つかの実施形態は、LDP問題の双対が、並列二次計画法(PQP)反復により、特にグラフィック処理ユニット(GPU:graphic processing unit)等の並列ハードウェアにおいて効率的に解くことができる形態の非負二次計画(NNQP)であるという別の認識に基づいている。PQPは、任意の問題データ構造について完全に並列化可能であり、マルチコア、単一命令/複数データ(SIMD:single−instruction/multiple data)及びGPUを含むマルチプロセッサマシンの完全な並列性を容易に利用することができる。PQPの実施は、行列ベクトル積及びスカラー除算(scalar divide)に縮約することができ、そのような単純性によって、直列コンピューター上で実施される場合であってもかなりの速度の利点がもたらされる。
【0038】
したがって、幾つかの実施形態は、LDPの双対を取ってLDPを非負の二次計画(NNQP)に変換し(420)、PQPを用いてNNQPの候補解を反復的に再スケーリングしてNNQPを解き、双対解435を求める(430)。
【0039】
LDPのそのような再定式化によって、最適で実行可能な解をリアルタイムで求めることが可能となり、これによって、診断パラメーターに対する様々な制約の影響をリアルタイムで探索する独自の機会が臨床医に提供される。例えば、1つの実施形態において、双対変数を2つ以上のグループ、通常、上界制約を表す1つのグループと、下界制約を表す1つのグループとに分割することによって、PQP反復をLDP双対に特化させて、計算効率を更に増大させる。
【0040】
幾何学的に、これは双対変数(ボクセルに対する制約ごとに1つの変数)の非常に高次元の空間における動作であり、制約はこの空間内の二次コストによって表され、目的は、二次コストを最小化するこの空間の非負部分における点を見つけることである。双対解435が求められると、この双対最適点は線形変換により最適ビーム強度ベクトルに関連付けられる。このため、本方法は、NNQPの双対解435を用いてLDPの主解445を求める(440)。
【0041】
したがって、本発明の幾つかの実施形態は、以下の式に従って、LDP問題(2.1)を、その双対を取ることによって非負の最小二乗問題に変換することにより、PQPの乗法的更新を用いて最適化問題(2.1)を解く。
【数6】
ここで、以下の式が成り立つ。
【数7】
【数8】
及び
【数9】
【0042】
ベクトルu、v及びwは、それぞれ下界制約、上界制約及び非負性制約に対応する双対変数を含む。PQPアルゴリズムは、行列Qを非負の行列Q→Q
+−Q
−に分割し、同様にベクトルhを分割し、次に、線形に収束した固定点を反復することによってy
*について解く。
【数10】
ここで、
【数11】
はアダマール(要素ごとの)積であり、逆演算子はベクトルに要素ごとに適用される。LDPにおいて双対変数を代入することによってLDP固有の反復が得られる。
【数12】
【数13】
【数14】
【0043】
上記の反復が収束した後、本方法は、式x
*=W
−2max(0,A
T(u
*−v
*))を用いることによって主解を求める。反復は、wを代数的に消去することによって更に単純化することができる。
【0044】
スラックによる定式化(slacked formulation)における2つの基準の平衡
多くの場合に、臨床医によって与えられる処方は実行不可能であり、これは、LDP主空間における多面体210が正の容積を囲まないことを意味する。この問題に対する1つの解は、制約の部分集合を、それらを満たすものに何らかの「スラック」を許可するによって緩和することである。スラックの量は、制約を過度に緩和することを防ぐ目的でペナルティを付けることができる。幾何学的に、これは、多面体の容積を、その容積を定義する半空間のうちのいくらかを外側に動かすことによって成長させることに等しい。
図3に示すように、多面体が形状を変更すると、位置最適点も更新することができる。
【0045】
図5は、本発明の幾つかの実施形態による、少なくとも1つの制約の変更に応じて点の位置を更新する方法のブロック図を示している。本方法は、診断パラメーターに対する制約を受け取るのに応じて、多面体が実行可能であるか否かを判断する(510)。本方法は、多面体が実行不可能である場合、更新された制約に対応する多面体が実行可能となるまで、少なくとも1つの制約を自動的に更新する(520)。実行可能な多面体について最適点が求められる(530)。
【0046】
さらに、幾つかの実施形態は、出力デバイスにおいて治療容積に関して放射線量の分布をレンダリングし、出力デバイスにおいて少なくとも1つの制約を更新する(540)ためのインターフェースを提供する。更新によって、点の位置及び線量の分布を求めることがリアルタイムで繰り返され(550)、出力デバイスにおける線量の分布のレンダリングを更新することができる。
【0047】
例えば、幾つかの実施形態は、特化したPQL/LDP反復を、任意の2つの二次目的関数間の平衡を最適にとり、特に総照射の測定量及びペナルティ付きスラックの測定量を最小化するビーム重みの集合を計算するように変更することができるという別の認識に基づいている。
【0048】
このために、1つの実施形態は、スラック変数sを制約の或る集合vの上界に加え、目的関数においてこのスラック変数にペナルティを付け、以下の最適化問題を得る。
【数15】
ここで、e
vはi番目の成分が、i∈vである場合に1であり、そうでない場合に0であるベクトルであり、βはスラックペナルティに対する相対的な重みである。目的関数は、(放射コスト‖Wx‖によって測定されるような)解の全体品質と、(スラックコストs
2によって測定されるような)緩和された制約における過剰な線量を最小化することとのトレードオフを提供する。このトレードオフは重み0<β<1によって制御される。
【0049】
上記のスラック問題(slacked problem)の双対は以下となる。
【数16】
ここで、
【数17】
であり、Q、h及びyは元のLDP問題について定義されたとおりであり、
【数18】
である。
【0050】
1つの実施形態では、スラック変数s及びその関連付けられた双対変数tは、例えばKKT最適条件を解くことによって代数的に消去され、
【数19】
及びt=0が得られる。元のLDP問題と同様に、実施形態は行列分割=H
+−H
−を代数的に求める。双対問題及び行列分割を用いて、スラック問題の乗法的更新の集合が得られる。
【数20】
【数21】
【数22】
【数23】
【0051】
上記の反復が収束した後、実施形態は、
【数24】
を通じて所望の解を得る。
【0052】
スラック問題における変形形態は、スラック変数sが緩和された最大安全線量選択の実際の値を表すようにすることである。この場合、問題は以下の形態をとる。
【数25】
【0053】
POP乗法的反復の導出は、元のスラック問題に類似しているが、b
maxが
【数26】
に置き換えられることが異なる。
【0054】
別の変形形態は、上界の代わりに下界制約の部分集合に対するペナルティ付きのスラック変数を含めることである。この解析は類似しているが、行列Eにおいて唯一の変更点がある。
【数27】
【0055】
幾つかの実施形態は、この問題のPQP反復も含み、下界制約の部分集合vにおいてスラックを追加し、
【数28】
【数29】
【数30】
【数31】
上述したようにx
*を求める。
【0056】
さらに、幾つかの実施形態は、主LDP問題が、その双対が非有界である場合にのみ実行可能であるという認識に基づく。これについては以下でより詳細に説明する。したがって、幾つかの実施形態は、NNQPの界を求め(505)、NNQPが非有界である場合にLDPが実行不可能であると判断することによって、LDPの実行可能性を判断する(510)。
【0057】
パレート曲線の探索
治療計画の間、緩和する制約の集合を選択して、これらの制約のより多くの違反が許容されるにつれ利用可能になる解の集合を調べる。異なる量のスラックペナルティによって異なる最適解が求められる。例えば、ペナルティは、総照射を最小化することと、或る特定の制約において許可されるスラック量を最小化することとのトレードオフを決定する。このトレードオフを変動させるときの全ての最適解の集合がパレート曲線と呼ばれる。
【0058】
パレート曲線は、基準重み付けパラメーターβによってパラメーター化される。しかしながら、βは臨床的に意味のあるパラメーターではない。代わりに、治療計画部は、スラック変数sの値の関数として解を見ること、すなわち所与の基準重み付けβについて最適解を得るために制約がどれだけ緩和されるかに関心を有する。このため、sは所与のβについての最適化の結果とすることができる。本発明の幾つかの実施形態はこの関係を逆転させ、制約緩和値sから直接重み付けβ及び解x
*を計算する。
【0059】
図6Aは、パレート曲線630の例を示している。幾何学的に、この曲線は2D空間内にあり、軸610及び620は様々なコスト基準を表す。この2D空間における全ての点は、僅かに異なる問題に対する解をあらわす。パレート曲線は、一方の側では全ての解が劣解であり、他方の側では全ての解が実行不可能であるという意味で「最良」解を表す。
【0060】
本発明の幾つかの実施形態は、少数のPQP/LDP最適化から、スラック変数によってインデックス付けされたこの曲線上の任意の全ての解を生成することが可能であるという更に別の認識に基づいている。したがって、幾つかの実施形態は、スラック変数の集合について求められた最適値集合の最適値間の補間を用いてスラック変数の様々な値についての最適解を表すパレート曲線を求め、パレート面を用いて特定のスラック変数についての最適解を求める。
【0061】
図6Bは、スラック変数の値と、最適化の可能な解のうちの1つ、例えば診断パラメーターの値との平衡をとるパレート曲線650の例を示している。曲線650上の点、例えば点651、653、655、657は、PQP/LDP反復によって求められる。点をつなぐセグメント、例えばセグメント652、654、656は、例えば求められた点をつなぐことによって、補間を用いて求められる。
【0062】
幾つかの実施形態では、解及び解の補間は、必要な場合にのみ求められる。例えば、臨床医が制約の特定の集合においてX個のスラックユニットを有する最適解660を得ることを望む場合、幾つかの実施形態は、それぞれX個よりも多いスラックユニット及びX個よりも少ないスラックユニットを有し、その双対解ベクトルにおいてゼロの同じパターンを有する2つの最適解661及び662を索出する。このとき、新たな最適解は、それらの主解ベクトル(ビーム強度)間の線形補間であり、重み付けは以下に示すようにXから求められる。
【0063】
PQP/LDP反復は非常に高速であるので、これらの索出される解は、既にメモリに記憶されていない場合、オンザフライで計算することができる。臨床的に、これは、臨床医が任意の量のスラックに対応する最適解を要求することによって、制約の任意の部分集合に関連付けられた任意のパレート曲線を迅速に探索することができることを意味する。大抵の場合、実施形態は、区分的線形補間により最適解を即座に提供することができる。そうでない場合、効率的なPQP/LDP反復を用いてキャッシュに解を加え、補間可能な解の範囲を拡張させることができる。
【0064】
パレート曲線の構造によれば、基準重み付けパラメーターβが変化すると、線量分布が変化し、最終的に、最大線量又は最小線量を受ける治療容積のボクセルの集合が変化する。これは、解においてアクティブである制約の部分集合の変更を反映する。
【0065】
結果的に、範囲β∈(0,1]は、解がβとともに変化するにもかかわらず、アクティブ集合のメンバーシップが一定のままである間隔に分割することができる。βの特定の値についてアクティブ制約がわかっている場合、アクティブである制約のみを用いてスラック付き最適化問題(3.1)を書き換えることができる。
【数32】
ここで、行列B
1、行列B
2及びベクトルcはアクティブ制約の集合を形成する(双対最適解における正値の変数によって示される)。
【0066】
[B
1 B
2]は行フルランクを有し、そうでない場合、アクティブ制約は冗長である。式(4.1)における問題は、非負の重み付けされた最小二乗問題であるので、幾つかの実施形態は、閉形式解を以下のように書くことができる。
【数33】
【0067】
【数34】
が階数1の行列であることに注目し、1つの実施形態は、逆行列補題を用いてx及びsについて以下の式を得る。
【数35】
及び
【数36】
ただし、比
【数37】
並びに、定数
【数38】
及び
【数39】
を有する。
【0068】
x、a、bに関する式における行列反転は、大きくかつ階数不足であるが、計算されない。スラックsは既知のq及び2つの未知の定数a及びbに線形に依存する。このため、最適LDP解におけるアクティブ制約の集合が不変の任意の間隔β∈(β
1,β
2)について、a、bを求め、これによってアクティブ集合が不変のβ間隔における全ての解を求めるのに、2つの解があれば十分である。
【0069】
式(4.3)並びに2つの解(β
1,s
1)及び(β
2,s
2)によれば、以下の式が成り立ち、
【数40】
ここで、q
1及びq
2は式(4.4)によりそれぞれβ
1及びβ
2から得られる。
【0070】
特定のアクティブ集合についてパラメーターa及びbがわかった後、以下の式が得られる。
【数41】
及び
【数42】
【0071】
所与の重み付けβ又はスラックsに対応する解xを得るために、式(4.2)は以下のように書き換えることができる。
【数43】
ここで、gは非スラック問題から導出されたものであり、hはスラックによって生じる補正である。
【数44】
【数45】
【0072】
これらのベクトルは行列演算なしで計算することができる。同じアクティブ集合を有するが目的関数の重み付けβ
1及びβ
2を有する2つの解x
1及びx
2を所与とすると、式(4.2)の操作によって以下が得られる。
【数46】
及び
【数47】
【0073】
元の問題の凸性に起因して、式(4.10)はパレートスライスのファセットをパラメーター化し、このファセットの端点は、sの最小値及び最大値について解くことによって得ることができる。ここで、x=g+sh及びAx=Ag+sAhは問題制約を満たし、これらの制約のほとんどはボックス制約であるので、これはPBDOにとって容易な計算である。各端点は隣接するファセットによって共有され、このため、端点を僅かに超えて1つの最適化を実行することで、この次のファセットを特徴付けるのに十分な情報が得られる。したがって、パレートスライス全体は、ファセットあたり1つの最適化のコストにおいて特徴付けることができる。次に、治療計画部が様々な緩和値sに対応する解を要求するとき、これらの解は、適切なファセットを特定し、式(4.10)を適用することによってオンザフライで生成することができる。
【0074】
加速技法
幾つかの実施形態は、最適化問題空間の特定の部分空間において加速技法を周期的に又は断続的に適用することによってPQP反復を低減する。これらの実施形態は、様々な要素がPQPの収束を低速化させる可能性があるという認識に基づいている。例えば、PQPの現在の候補解を表すベクトルの幾つかの要素がゼロに近いか、又はPQP反復のスケーリング係数が1に近いとき、候補解の変化は非常に小さくなる可能性がある。
【0075】
そのような問題を回避するために、幾つかの実施形態は、様々なタイプの動作、すなわちスケーリング以外によって候補解の値を更新する。1つの実施形態の加速技法は、更新方向及びその方向に沿ったステップ長を得ることによって、候補解を更新する。通常の技法は、負のコスト関数勾配方向を用い、最適ステップ選択を実行する。例えば、幾つかの実施形態は、凸二次関数の勾配を、候補解における双対問題によって最小化されるように決定する。
【0076】
図7は、PQP更新反復と、本発明の幾つかの実施形態による様々な加速技法との差異を比較するグラフを示している。候補解708の更新707は、最適解701に向けたPQPの反復によって得ることができる。更新707は解の実行可能領域700内に留まるが、非常に短い場合があり、すなわち、解708と707との差が小さい。
【0077】
検討される1つの実施形態は、コスト関数勾配709の逆である減少方向704を用いて加速技法による更新された解703を求める。しかしながら、勾配に従う候補値の変化により、双対問題の実行可能領域の外側の候補解をとる場合がある。そして、解が実行不可能領域に入る場合、PQP法は中断する。例えば、解は実行可能領域700を去り、実行不可能領域702に入る場合がある。
【0078】
しかしながら、幾つかの実施形態は、臨床的制約に依拠する主問題の実行可能領域と対照的に、双対問題の実行可能領域は常に、負の要素を有しないベクトルの集合である、はるかに単純な非負の円錐であるという別の認識に基づいている。このため、NNQPの反対勾配がその成分によって表される場合、幾つかの成分は、実行不可能領域の方を指す場合があり、幾つかの成分は実行可能領域の方、すなわち、正の円錐が非有界の方向を指す場合がある。このため、幾つかの実施形態は、実行可能領域の方を指す反対勾配の成分のみを選択して候補解を更新する。反対勾配のそのような変更によって、候補解が常に実行可能領域に留まることが確実になる。
【0079】
例えば、1つの実施形態は時折、正の無限大から現在のNNQP解推定値まで、厳密に非正の劣勾配である任意の方向に沿って延びる半直線に沿った最低コスト点について、閉形式で解く。この点は、実行可能領域の内部にあることがわかっており、したがって、略ゼロの変数をゼロから離れるように動かす。現在の推定値xにおける任意の厳密に非正の劣勾配は、この特性を有する1Dアフィン部分空間を提供する。なぜなら、構築によって、劣勾配に沿った任意の下降は非負の円錐内に更に進むためである。これは双対実行可能領域である。
【0080】
1つの実施形態は、負である勾配の成分として劣勾配を選択する。元のLDP問題(2.1)について、ベクトルgを双対目的関数の逆勾配であるものとする。
【数48】
これは、g>0である場合はいつでも主制約違反を測定することになる。このため、劣勾配
【数49】
は、双対変数が、満たされない制約を増強するようにゼロから離れて伸展する必要がある方向を指す。目的関数(2.1)は二次であるので、dに沿った最適値は代数的に解くことができ、これは以下となる。
【数50】
及び
【数51】
【0081】
混合したPQP反復の収束は、PQP収束解析の後に生じる。PQP更新が無限に多くの場合に用いられると仮定する。このとき、PQP−S更新は双対問題の最小値に単調に収束する。以下は、PQP−Sアルゴリズムにおいて用いられるステップサイズαの例である。
【0082】
上界スラック問題(3.1)について、結果は以下のように導出することができる。
【数52】
【数53】
ここで、d=max(g,0)及びrは上記で定義済みである。スラック問題の他の変形形態を同様に加速することができる。
【0083】
実行不可能性検出
LDP問題が主実行可能である場合、PQPは最適点に収束する。しかしながら、放射線療法計画において非常に一般的な実行不可能問題を求める方法が必要である。いくつかの実施形態は、主LDP問題は、その双対が非有界である場合かつその場合に限り(iff)実行不可能であるという認識に基づいている。
【0084】
証明。主LDP問題は、以下の線形計画が実行不可能である場合かつその場合に限り実行不可能である。
【数54】
上記のLPの双対は以下となる。
【数55】
【0085】
この双対形式は常に実行可能である。ファーカスの補題によれば、主LDP問題は以下の式が満たされるような∃λ≧0の場合かつその場合に限り実行不可能である。
【数56】
又は等価には
【数57】
【0086】
PQPがそのようなλを算出する場合、本方法は、実行不可能性の証明とともに終了することができる。このため、双対形式(7.2)は、主LP(7.1)が実行不可能である場合かつその場合に限り非有界である。(7.3)を満たすλ≧0が存在しない場合、明らかに、双対LP問題の最適値が存在するならばこの最適値が0によって上界を設けられ、したがって非有界でない。他の方向について、∃λ≧0が(7.8)を満たす場合、実施形態は増大していく定数aを選択し、それによってaλが結果として、任意の大きさの双対LP目的関数(結果として非有界目的関数をもたらす)をもたらすようにすることができる。最終的に、最後のステップは、LDP問題の双対が、(7.8)を満たす∃λ≧0である場合かつその場合に限り非有界であることを示すことである。
【0087】
後方向(
【数58】
)はLP双対の非有界性を証明するのに用いられるのと同じ議論により証明される。順方向について、LDP双対が非有界であると仮定する。このとき、h
Tλ>0を満たすQのヌル空間内に何らかのλ≧0が存在しなくてはならない。λに対するこの条件は、(7.8)において与えられるものに等しい。
【0088】
上記の提案は、全ての主実行可能問題によって双対目的関数に対する上界が満たされる限り、PQPアルゴリズムが実行不可能性を検出することができることを保証する。一方、より良好な上界は、結果としてより迅速な検出をもたらす。このため、1つの実施形態は、Axのための上界Uを得ることができると仮定する。放射線療法の場合、そのような上界の例は、U=b
maxをセットし、腫瘍ボクセルへの可能な最大線量に対する制限をかけ、同様に正常な組織及びOARへの可能な最大線量に対する別の制限をかけることとすることができる。
W=diag(A
Te)の場合、以下となる。
【数59】
【数60】
【数61】
【0089】
次に、実施形態は、以下の一連の不等式を用いて双対目的関数に対する上界を計算する。
【数62】
【数63】
【数64】
【数65】
ここで、(7.8)では双対理論を用いて主目的関数と双対目的関数とを関係付け、(7.9)では従来のノルム限界を用いた。
【0090】
ユーザーインターフェース
図8A及び
図8Bは、出力デバイスにおける治療容積に関して放射線量の分布をレンダリングする例を示している。治療容積は、患者の様々な臓器830、組織820及び/又は腫瘍810の表現を含むようにレンダリングすることができる。また、幾つかの実施形態は、出力デバイスにおいて、線量の分布の表現をレンダリングすることもできる。例えば、線量の分布は等高線815、825、835としてレンダリングすることができる。1つの実施態様において、等高線は様々な放射線量を示すように色分けされる。
【0091】
幾つかの実施形態は、少なくとも1つの制約を変更するためのインターフェースも提供する。そのような変更によって、リアルタイムで、最適点の位置を求め、線量の分布を求め、出力デバイスにおいて線量の分布をレンダリングすることが繰り返される。そのようなインターフェースを、本発明の様々な実施形態の最適化技法と組み合わせることによって、臨床医が診断パラメーターに対する様々な制約について放射線ビームの線量の分布をリアルタイムで解析することが可能になる。
【0092】
本発明の上記の実施形態は数多くの方法のいずれかにおいて実現することができる。例えば、それらの実施形態は、ハードウェア、ソフトウェア又はその組み合わせを用いて実現することができる。ソフトウェアにおいて実現されるとき、そのソフトウェアコードは、単一のコンピューター内に設けられるにしても、複数のコンピューター間に分散されるにしても、任意の適切なプロセッサ、又はプロセッサの集合体において実行することができる。そのようなプロセッサは集積回路として実現することができ、集積回路構成要素内に1つ又は複数のプロセッサが含まれる。しかしながら、プロセッサは、任意の適切な構成の回路を用いて実現することができる。
【0093】
さらに、コンピューターは、ラック取付けコンピューター、デスクトップコンピューター、ラップトップコンピューター、ミニコンピューター又はタブレットコンピューター等の幾つかの形態のうちのいずれかにおいて具現できることは理解されたい。また、コンピューターは、1つ又は複数の入力及び出力デバイスを有することができる。これらのデバイスは、とりわけ、ユーザーインターフェースを提供するために用いることができる。ユーザーインターフェースを提供するために用いることができる出力デバイスの例は、出力を視覚的に提示するプリンター又はディスプレイ画面、及び出力を聴覚的に提示するスピーカー又は他の音生成デバイスを含む。
【0094】
ユーザーインターフェースのために用いることができる入力デバイスの例は、キーボード、並びにマウス、タッチパッド及びデジタイジングタブレット等のポインティングデバイスを含む。別の例として、コンピューターは、音声認識を通して、又は他の可聴形式において入力情報を受信することができる。
【0095】
そのようなコンピューターは、企業ネットワーク又はインターネット等の、ローカルエリアネットワーク又はワイドエリアネットワークを含む、任意の適切な形態の1つ又は複数のネットワークによって相互連結することができる。そのようなネットワークは、任意の適切な技術に基づくことができ、任意の適切なプロトコルに従って動作することができ、無線ネットワーク、有線ネットワーク又は光ファイバーネットワークを含むことができる。
【0096】
また、本発明の実施形態は方法として具現することができ、その一例が提供されてきた。その方法の一部として実行される動作は、任意の適切な方法において順序化することができる。したがって、例示的な実施形態において順次の動作として示される場合であっても、例示されるのとは異なる順序において動作が実行される実施形態を構成することもでき、異なる順序は、幾つかの動作を同時に実行することを含むことができる。