(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1A】500nmの波長を有する電磁放射線(EMR)に曝されたZnS誘電体層内のゼロ又はゼロに近い電場点の略図である。
【
図1B】300、400、500、600、及び700nmの波長を有するEMRに曝した場合の、電場の絶対値の二乗(|E|
2)と
図1Aに示したZnS誘電体層の厚さとの関係を示すグラフである。
【
図2】基板又は反射体層を覆って広がり、かつ誘電体層の外面の垂直方向に対して角度θで電磁放射線に曝された誘電体層の略図である。
【
図3】434nmの波長を有する入射EMRに関してZnS誘電体層内のゼロ又はゼロに近い電場点に位置したCr吸収体層を有するZnS誘電体層の略図である。
【
図4】白色光に曝されたCr吸収体層なしの多層積層体(例えば
図1A)及びCr吸収体層ありの多層積層体(例えば
図3A)についての、反射率(%)と反射EMR波長との関係を示すグラフである。
【
図5A】Al反射体層を覆って広がるZnS誘電体層(例えば
図1A)が示す第一高調和及び第二高調和を示すグラフである。
【
図5B】Al反射体層にわたって広がるZnS誘電体層と、さらに
図5Aに示した第二高調和を吸収するようにZnS誘電体層内に位置するCr吸収体層とを有する多層積層体についての、反射率%と反射されるEMR波長との関係を示すグラフである。
【
図5C】Al反射体層にわたって広がるZnS誘電体層と、さらに
図5Aに示した第一高調和を吸収するようにZnS誘電体層内に位置するCr吸収体層とを有する多層積層体についての、反射率%と反射EMR波長との関係を示すグラフである。
【
図6A】0
o及び45
oで入射光に曝した場合の、Cr吸収体層の電場の角依存性を示す電場の二乗と誘電体層の厚さとの関係を示すグラフである。
【
図6B】外面の垂線に対して0
o及び45
oの角度(0
oは表面に対して垂直である)で白色光に曝した場合の、Cr吸収体層による吸光度%と反射EMR波長との関係を示すグラフである。
【
図7A】本発明の実施形態による赤色全方向構造色多層積層体の略図である。
【
図7B】0
o及び45
oの入射角で
図7Aに示した多層積層体を白色光に曝露した場合の、
図7Aに示したCu吸収体層の吸光度%と反射EMR波長との関係を示すグラフである。
【
図8】0
oの入射角で白色光に曝した概念立証用の赤色全方向構造色多層積層体の、反射率%と反射EMR波長との関係の計算/シミュレーションデータ及び実験データの比較を示すグラフである。
【
図9】本発明の実施形態による全方向構造色多層積層体の略図である。
【
図10】本発明の実施形態による全方向構造色多層積層体の略図である。
【
図11】本発明の実施形態による全方向構造色多層積層体の略図である。
【
図12】本発明の実施形態による全方向構造色多層積層体の略図である。
【
図13】本発明の実施形態による多層積層体構造を有するフレーク又は顔料の走査電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図14】
図13に示した個々のフレークの断面のSEM画像である。
【
図15A】本発明の実施形態に従って設計、製造され、
図15Dに示したカラーマップ上で36
oの色相を有する橙色を有する顔料を用いて塗装されたパネルの略図である。
【
図15B】本発明の実施形態に従って設計、製造され、
図15Dに示したカラーマップ上で26
oの色相を有する暗赤色を有する顔料を用いて塗装されたパネルの略図である。
【
図15C】本発明の実施形態に従って設計、製造され、
図15Dに示したカラーマップ上で354
oの色相を有する明るいピンク色を有する顔料を用いて塗装されたパネルの略図である。
【
図15D】CIELAB色空間を用いたa
*b
*カラーマップである。
【
図15E】
図15A〜15Cに代表される塗料の顔料に使用された11層設計品の略図である。
【
図16A】本発明の実施形態による7層積層体の略図である。
【
図16B】本発明の実施形態による7層積層体の略図である。
【
図16C】本発明の実施形態による7層積層体の略図である。
【
図16D】本発明の実施形態による7層積層体の略図である。
【
図17】彩度及び色相シフトを従来の塗料と
図15Bに示したパネルを塗装するために使用した塗料との間で比較した、CIELAB色空間を用いたa
*b
*カラーマップの一部を示すグラフである。
【
図18】本発明の実施形態による7層設計品についての、反射率と波長との関係を示すグラフである。
【
図19】本発明の実施形態による7層設計品についての、反射率と波長との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
全方向構造色、例えば赤色全方向構造色を与える多層積層体を提供する。そのようなものとして、この多層積層体は、塗料顔料、所望の色を実現する薄膜などとしての用途を有する。
【0013】
この全方向構造色を与える多層積層体は、反射体層と、その反射体層にわたって広がる誘電体層とを含む。この反射体層及び誘電体層は、550nmを超える波長を有する入射白色光の70%超を反射する。誘電体層の厚さを、反射される入射白色光の70%超が、550nm、560nm、580nm、600nm、620nm、640nm、660nm、680nmを超える、又はこれらの間の波長であるように予め定めることができることを理解されたい。別の言い方をすれば、Labカラーシステムのマップ上の所望の色相、彩度、及び/又は明度を有する特定の色が反射され、人の目によって観察されるように、誘電体層の厚さを選択し、作り出すことができる。
【0014】
幾つかの例では多層積層体は、lab色空間中の315
oと45
oの間の色相を有する。また多層積層体は、50を超える彩度及び30
o未満の色相シフトを有する。他の例では彩度は、55を超え、好ましくは60を超え、またより好ましくは65を超え、かつ/又は色相シフトは、25
o未満、好ましくは20
o未満、より好ましくは15
o未満、またさらに一層好ましくは10
o未満である。
【0015】
誘電体層の所望の反射波長に対応する波長のほぼそれ未満の全波長について、入射白色光の70%超を吸収する吸収層が、その誘電体層にわたって広がっている。例えば、誘電体層が、600nmを超える波長を有する入射白色光の70%超を反射するような厚さを有する場合、誘電体層にわたって広がる吸収層は、ほぼ600nm未満の波長を有する入射白色光の70%超を吸収する。このように赤色の色空間に波長を有する鋭い反射ピークが得られる。幾つかの例では、反射体層及び誘電体層は、550nmを超える波長を有する入射白色光の80%超、また他の例では90%超を反射する。また、幾つかの例では吸収体層は、誘電体層の所望の反射波長に対応する波長のほぼそれ未満の波長の80%超、また他の例では90%超を吸収する。
【0016】
本脈絡において用語「ほぼ」とは、幾つかの例では±20nm、他の例では±30nm、さらに他の例では±40nm、またさらに他の例では±50nmを指すことを理解されたい。
【0017】
反射体層、誘電体層、及び吸収層は、電磁放射線の狭い帯域(以後、反射ピーク又は反射帯域と呼ぶ)を反射し、550nmとEMRスペクトルの可視IRの稜線(edge)の間の中心波長と、200nm未満の幅を有する反射帯域と、全方向性反射体を白色光に曝し、かつ0
oと45
oの間の角度から見た場合の100nm未満の色ずれとを有する全方向性反射体を形成する。この色ずれは、反射帯域の中心波長のずれの形であるか、又は代わりに反射帯域のUV側の稜線のずれの形であることができる。本発明の目的の場合、電磁放射線の反射帯域の幅を、可視スペクトル内の最大反射波長の反射高さの2分の1における反射帯域の幅と定義する。さらに、反射電磁放射線の狭い帯域、すなわち全方向性反射体の「色」は、25
o未満の色相シフトを有する。幾つかの例では反射体層は、50〜200nmの間の厚さを有し、アルミニウム、銀、白金、スズ、これらの合金などの金属から作られるか、又はこれらを含有する。
【0018】
反射体層にわたって広がる誘電体層に関しては、その誘電体層は0.1QWと2.0QWの間の光学的厚さを有する。幾つかの例では誘電体層は0.1QWと1.9QWの間の光学的厚さを有するが、他の例では誘電体層は0.1QWと1.8QWの間の厚さを有する。さらに別の他の例では誘電体層は1.9QW未満、例えば1.8QW未満、1.7QW未満、1.6QW未満、1.5QW未満、1.4QW未満、1.3QW未満、1.2QW未満、又は1.1QW未満の光学的厚さを有する。別法では誘電体層は、2.0QWを超える光学的厚さを有する。
【0019】
誘電体層は、1.60、1.62、1.65、又は1.70を超える屈折率を有し、例えばZnS、TiO
2、HfO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5、これらの組合せなどの誘電材料から作ることができる。幾つかの例では誘電体層は、例えばFe
2O
3、Cu
2Oなどの有色の誘電材料から作られる有色の層、選択誘電体層である。本発明の目的の場合、用語「有色の誘電材料」又は「有色の誘電体層」とは、入射白色光の一部分のみを透過させる一方で、白色光の別の部分を反射させる誘電材料又は誘電体層を指す。例えばその有色の誘電体層は、400nmと600nmの間の波長を有する電磁放射線を透過し、かつ600nmを超える波長を反射することができる。そのようなものとしてこの有色の誘電材料又は有色の誘電体層は、橙色、赤色、及び/又は赤みを帯びた橙色の外観を有する。
【0020】
誘電体層に加えてこの全方向性反射体は、5〜200nmの間の厚さを有する選択吸収体層を含むことができる。幾つかの例では有色の吸収体層が、上記吸収体層に取って替わるか、又はその代わりをする。上記説明と同様に、選択吸収体層は、すみれ色、青色、黄色、緑色などに関係のある波長を有する光を吸収し、なおかつ橙色、赤色、及び/又は赤みを帯びた橙色などに対応する波長を反射することができる。幾つかの例では有色の吸収体層は、銅、金、それらの合金、例えば青銅、真鍮などの有色の金属を含有するか、又はそれらから作られる。さらに別の例では有色の吸収体層は、Fe
2O
3、Cu
2Oなどの有色の誘電材料を含有するか、又はこれらから作ることができる。
【0021】
吸収体層の位置は、ゼロ又はゼロに近いエネルギー界面が吸収体層と誘電体層の間に存在するような位置である。別の言い方をすれば誘電体層は、ゼロ又はゼロに近いエネルギー場が誘電体層−吸収体層界面に位置するような厚さを有する。ゼロ又はゼロに近いエネルギー場が存在する誘電体層の厚さは、入射EMR波長の関数であることを理解されたい。さらに、ゼロ又はゼロに近い電場に対応する波長は、誘電体層−吸収体層界面を透過することになるのに対し、その界面でゼロ又はゼロに近い電場に対応しない波長はそれを通過しないことも理解されたい。したがって誘電体層の厚さは、入射白色光の所望の波長が誘電体層−吸収体層界面を透過し、反射体層から反射し、次いで誘電体層−吸収層界面を透過して戻るように設計し、製造される。同様に、誘電体層の厚さは、入射白色光の望まない波長が誘電体層−吸収体層界面を透過しないように製造される。
【0022】
上記を仮定すると、所望のゼロ又はゼロに近い電場界面に対応しない波長は吸収体層によって吸収され、したがって反射されない。このように、構造色としても知られる望ましい「鮮明な」色が提供される。さらに誘電体層の厚さは、全方向性の外観もまた有する赤色を表面に与えるように望ましい第一高調和及び/又は第二高調和の反射が生じるような厚さである。
【0023】
多層積層体は、上記の誘電体層(また第一の誘電体層として知られる)に加えて第二の誘電体層を含むことができ、この第二の誘電体層は吸収体層にわたって広がる。さらに、第二の誘電体層は、吸収体層について最初に述べた誘電体層と反対側に配置される。
【0024】
図1Aは、誘電体層の厚さ及び上記ゼロ又はゼロに近い電場点に関して、Al反射体層にわたって広がるZnS誘電体層の概略図である。ZnS誘電体層は143nmの総厚を有し、かつ500nmの波長を有する入射電磁放射線に対してゼロ又はゼロに近いエネルギー点が77nmに存在する。別の言い方をすればZnS誘電体層は、500nmの波長を有する入射EMRに対してAl反射体層から77nmの距離のところにゼロ又はゼロに近い電場を示す。さらに、
図1Bは、複数の異なる入射EMR波長に対してZnS誘電体層の端から端までのエネルギー場を示すグラフを提供する。このグラフに示されるようにこの誘電体層は、77nmの厚さのところに500nm波長に対するゼロ電場を有するが、300、400、600、及び700nmのEMR波長に対して77nmの厚さのところでは非ゼロ電場を有する。
【0025】
理論に拘束されないが、誘電体層、例えば
図1Aに示したものに対するゼロ又はゼロに近いエネルギー点の厚さの計算を下記に考察する。
【0026】
図2を参照すると、屈折率n
sを有する基板又はコア層2上の、総厚「D」、増分厚「d」、及び屈折率「n」を有する誘電体層4を示す。入射光は、外面5に直角な線6に対して角度θで誘電体層4の外面5に突き当たり、同じ角度で外面5から反射する。入射光は、外面5を透過し、線6に対して角度θ
Fで誘電体層4に入り、角度θ
sで基板層2の表面3に突き当たる。
【0027】
ただ1層の誘電体層の場合、θ
s=θ
Fであり、かつエネルギー/電場(E)は、E(z)(ただしz=d)として表すことができる。マクスウェルの式から、電場は、s偏光の場合は、
【数1】
として、またp偏光の場合は、
【数2】
として表すことができる。
式中、k=2π/λあり、λは所望の反射されるべき波長である。また、α=n
ssinθ
s(ただし、「s」は
図1中の基板に対応する)であり、また
【数3】
は、zの関数としての層の誘電率である。したがってs偏光については、
【数4】
また、p偏光については、
【数5】
である。
【0028】
誘電体層4のZ方向に沿った電場の変動は、未知のパラメータu(z)及びv(z)の計算によって推定することができることを理解されたい。ただし、その変動は
【数6】
で示すことができる
【0029】
当然ながら「i」は−1の平方根である。境界条件
【数7】
及び関係式、
s偏光については、q
s=n
scosθ
s (6)
p偏光については、q
s=n
s/cosθ
s (7)
s偏光については、q=ncosθ
F (8)
p偏光については、q=n/cosθ
F (9)
φ=k・n・dcos(θ
F) (10)
を使用してu(z)及びv(z)を、
【数8】
及び
【数9】
として表すことができる。
【0030】
したがって、s偏光については
【数10】
ただし、φ=k・n・cos(θ
F)であり、またp偏光については
【数11】
ただし、
【数12】
である。
【0031】
したがって、θ
F=0すなわち垂直入射の単純な状況については、φ=k・n・d、かつα=0、すなわち、
【数13】
であり、これにより厚さ「d」に関して、すなわち電場がゼロの誘電体層内の位置又は所在地に関して式を解くことが可能である。
【0032】
次に
図3を参照すると、式19を使用して、434nmの波長を有するEMRに曝した場合に
図1Aに示したZnS誘電体層中のゼロ又はゼロに近い電場点が70nmのところにある(500nmの場合の77nmの代わりに)ことを計算した。さらに、Al反射体層から70nmの厚さのところに15nm厚のCr吸収体層を挿入して、ゼロ又はゼロに近い電場のZnS−Cr界面を与えた。このような本発明の構造は、434nmの波長を有する光がCr−ZnS界面を通過することを許すが、434nmの波長を有しない光を吸収する。別の言い方をすれば、Cr−ZnS界面は、434nmの波長を有する光に関してゼロ又はゼロに近い電場を有し、したがって434nmの光はこの界面を通過する。しかしながらCr−ZnS界面は、434nmの波長を有しない光に対してはゼロ又はゼロに近い電場を有さず、したがってこのような光は、Cr吸収体層及び/又はCr−ZnS界面によって吸収され、Al反射体層によって反射されない。
【0033】
所望の434nmの+/−10nmの範囲内の一定割合の光は、Cr−ZnS界面を通過することになることを理解されたい。しかしながら、このような反射光の狭い帯域、例えば434nm+/−10nmは、さらに人の目に鮮明な構造色をもたらすこともまた理解されたい。
【0034】
図3における多層積層体中のCr吸収体層の結果は、反射率%と反射EMR波長との関係を示す
図4に示される。Cr吸収体層なしの
図3に示したZnS誘電体層に対応する点線が示すように、狭い反射ピークが約400nmのところに存在するが、ずっと広いピークが約550+nmのところに存在する。これに加えて、500nm波長域中の反射される著しい量の光がまだ存在する。そのようなものとして、多層積層体が構造色を有する又は示すことを妨げる二重ピークが存在する。
【0035】
対照的に
図4中の実線は、Cr吸収体層が存在する
図3中に示した構造に対応する。図に示すようにほぼ434nmに鋭いピークが存在し、434nmを超える波長に対する反射率の急な減少がCr吸収体層によってもたらされる。実線によって表される鋭いピークが鮮明な/構造色として目に見えることが分かる。また
図4は、反射ピーク又は帯域の幅が測定される場所を示す。すなわちその帯域の幅は最大反射波長の50%反射率のところで測定され、これはまた半値全幅(FWHM)としても知られる。
【0036】
図3に示す多層構造の全方向挙動に関しては、ZnS誘電体層の厚さを反射光の第一高調波のみがもたらされるように設計又は設定することができる。これは「青い」色にとっては十分であるが、「赤い」色を生み出すには追加の配慮を必要とすることが分かる。例えば、赤色の角度非依存性の制御は、より厚い誘電体層を必要とし、それは順に高度な調波設計につながり、すなわち第二、及び起こり得る第三高調波の存在が避けられないため困難である。また暗赤色の色相空間はきわめて狭い。したがって赤色多層積層体は、より高い角度変動(angular variation)を有する。
【0037】
より高い赤色の角度変動を克服するために、本願は、角度の影響を受けない赤色を与える独特かつ新規な設計/構造を開示する。例えば
図5Aは、誘電体層の外面を0
o及び45
oから見た場合、入射白色光に対して第一及び第二高調波を示す誘電体層を示す。このグラフが示すように、低い角度依存性(小さな△λ
c)は誘電体層の厚さによってもたらされるが、そのような多層積層体は青色(第一高調波)及び赤色(第二高調波)の組合せを有し、したがって所望の「赤だけ」の色には適さない。したがって、吸収体層を使用して望まれていない調波系列を吸収する概念/構造を開発した。
図5Aはまた、所与の反射ピークの反射帯域中心波長(λ
c)の位置と、試料を0
o及び45
oから見た場合の中心波長の分散すなわちずれ(△λ
c)の例を示す。
【0038】
次に
図5Bを参照すると、
図5Aに示した第二高調波は適切な誘電体層の厚さ(例えば72nm)のところにあるCr吸収体層により吸収され、鮮明な青色が得られる。本発明にとってより重要なことには、
図5Cは、別の誘電体層の厚さ(例えば125nm)のところにあるCr吸収体層により第一高調波を吸収することによって赤色が得られることを示す。しかしながら
図5Cはまた、Cr吸収体層の使用が、さらにこの多層積層体によって望ましい角度依存性を越える、すなわち望ましい△λ
cを超える大きな△λ
cを引き起こすことを示す。
【0039】
青色と比べて赤色のλ
cの比較的大きなずれは、暗赤色の色相空間がきわめて狭いこと、また非ゼロ電場に関連のある波長をCr吸収体層が吸収すること、すなわち電場がゼロ又はゼロに近い場合にはCr吸収体が光を吸収しないことに起因することが分かる。このようなものとして
図6Aは、ゼロ点又は非ゼロ点が、異なる入射角の光の波長に対して異なることを示す。このような要因が、
図6Bに示す角度依存性吸光度、すなわち0
o及び45
oの吸光度曲線の違いを引き起こす。したがって、多層積層体の設計並びに角度の影響を受けない性能をさらに精緻化するためには、電場がゼロかゼロでないかに関係なく、例えば青色を吸収する吸収体層を使用する。
【0040】
具体的には、
図7Aは、Cr吸収体層の代わりにCu吸収体層が誘電性ZnS層にわたって広がる多層積層体を示す。このような「有色の」又は「選択的」吸収体層を使用した結果を
図7Bに示す。この図は、
図7Aに示す多層積層体についての0
o及び45
oの吸光度線のずっと「隙間のない」配置を示す。このようなものとして
図6Bと
図7Bの比較は、非選択吸収体層ではなく選択吸収体層を使用した場合の吸光度の角度依存性の顕著な改良を示す。
【0041】
上記に基づいて、概念立証用の多層積層体構造を設計し、製造した。さらに、計算/シミュレーションの結果及び概念立証試料についての実際の実験データを比較した。具体的には、また
図8にグラフプロットによって示すように、鮮明な赤色が生じ(700nmを超える波長は一般には人の目に見えない)、また計算/シミュレーションと、実際の試料から得られる実験による光データとの間できわめて良好な一致が得られた。別の言い方をすれば、計算/シミュレーションを用いて、本発明の一つ又は複数の実施形態による多層積層体設計品及び/又は従来技術の多層積層体の結果をシミュレートすることができ、かつ/又はシミュレートされる。
【0042】
シミュレーションによる、及び/又は実際に作り出された多層積層体試料の一覧表を下記の表1に提供する。表に示すように本明細書中で開示した本発明の設計品には、少なくとも5種類の異なる層状構造物が挙げられる。さらにこれら試料は、広範な材料からシミュレートされ、かつ/又は作製された。高い彩度、低い色相シフト、及び優れた反射率を示す試料が得られた。また、この3層及び5層試料は120〜200nmの間の総厚を有し、7層試料は350〜500nmの間の総厚を有し、9層試料は440〜500nmの間の総厚を有し、11層試料は600〜660nmの間の総厚を有した。
【0044】
層の実際の配列順序に関して
図9は参照数字10で5層設計品の半分を示す。この全方向性反射体10は、反射体層100、その反射体層100にわたって広がる誘電体層110、及びその誘電体層110にわたって広がる吸収体層120を有する。別の誘電体層及び別の吸収体層を反射体層100の反対側に配置して5層設計品を得ることができることを理解されたい。
【0045】
図10中の参照数字20は、別の誘電体層130が吸収体層120について誘電体層110と反対側に配置されるような、その誘電体層130が吸収体層120にわたって広がる7層設計品の半分を示す。
【0046】
図11は、第二の吸収体層105が反射体層100と誘電体層110の間に位置する9層設計品の半分を示す。最後に
図12は、別の吸収体層140が誘電体層130を覆って広がり、さらに別の誘電体層150がその吸収体層140を覆って広がる11層設計品の半分を示す。
【0047】
本発明の実施形態による多層構造を有する複数個の顔料の走査電子顕微鏡(SEM)画像を
図13に示す。
図14は、この多層構造を示すもっと高倍率での顔料のうちの1個のSEM画像である。このような顔料を使用して3種類の異なる赤色塗料を作り出し、次いでこれを試験用の3枚のパネルに塗布した。パネルの実際の写真は、印刷されまたコピーされた場合、また白黒(back and white)では灰色/黒色のように見えるので、
図15A〜15Cは実際の塗布されたパネルの略図である。
図15Dに示すカラーマップ上において、
図15Aは36
oの色相を有する橙色を表し、
図15Bは26
oの色相を有する暗赤色を表し、また
図15Cは354
oの色相を有する明るいピンク色を表す。また、
図15B中に描かれた暗赤色のパネルは、44の明度L
*及び67の彩度C
*を有した。
【0048】
図15Eは、
図15A〜15Cに示したパネルに塗布するために使用された顔料を描いた11層設計品の略図である。様々な層の厚さの実例に関して、表2は、その対応する多層積層体/顔料のそれぞれについての実際の厚さを提供する。表2中の厚さの値が示すように11層設計品の総厚は2μm未満であり、また1μm未満であることもできる。
【0050】
7層設計及び7層設計多層積層体を使用してこのような顔料を作り出すことができることが分かる。4種類の7層多層積層体の例を
図16A〜16Dに示す。
図16Aは、(1)反射体層100、(2)その反射体層100にわたって広がり、かつその両側で向かい合って配置された一対の誘電体層110、(3)その一対の誘電体層110の外面にわたって広がる一対の選択吸収体層120a、及び(4)その一対の選択吸収体層120aの外面にわたって広がる一対の誘電体層130を有する7層積層体を示す。
【0051】
当然ながら、誘電体層110及び選択吸収体層120aの厚さは、選択吸収体層120aと誘電体層110の界面及び選択吸収体層120aと誘電体層130の界面が、
図15Dに示すカラーマップのピンク色−赤色−橙色域(315
o<色相<45
o及び/又は550nm<λ
c<700nm)中で所望の光波長に関してゼロ又はゼロに近い電場を示すような厚さである。このように所望の赤色光は、層130−120a−110を通過し、層100から反射し、層110−120a−130を通過して戻る。対照的に、非赤色光は、選択吸収体層120aによって吸収される。さらに、選択吸収体層120aは、上記で考察したように、また
図7A〜7Bに示すように非赤色光に対して角度の影響を受けない吸光度を有する。
【0052】
誘電体層100及び/又は130の厚さは、その多層積層体による赤色光の反射率が全方向性であるような厚さであることが分かる。全方向反射は、反射光の小さな△λ
cによって測定又は決定される。例えば、幾つかの例では△λ
cは120nm未満である。他の例では△λ
cは100nm未満である。さらに他の例では△λ
cは80nm未満、好ましくは60nm未満、さらに一層好ましくは50nm未満、またさらに一層好ましくは40nm未満である。
【0053】
全方向反射はまた、低い色相シフトによって測定することもできる。例えば、本発明の実施形態による多層積層体から製造される顔料の色相シフトは、
図17に示す(△θ
1参照)ように30
o以下、また幾つかの例では色相シフトは25
o以下、好ましくは20
o以下、より好ましくは15
o以下、またさらに一層好ましくは10
o以下である。対照的に、従来の顔料は45
o以上(△θ
2参照)の色相シフトを示す。
【0054】
図16Bは、(1)選択反射体層100a、(2)その反射体層100aにわたって広がり、かつその両側で向かい合って配置された一対の誘電体層110、(3)その一対の誘電体層110の外面にわたって広がる一対の選択吸収体層120a、及び(4)その一対の選択吸収体層120aの外面にわたって広がる一対の誘電体層130を有する7層積層体を示す。
【0055】
図16Cは、(1)選択反射体層100a、(2)その反射体層100aにわたって広がり、かつその両側で向かい合って配置された一対の誘電体層110、(3)その一対の誘電体層110の外面にわたって広がる一対の非選択吸収体層120、及び(4)その一対の吸収体層120の外面にわたって広がる一対の誘電体層130を有する7層積層体を示す。
【0056】
図16Dは、(1)反射体層100、(2)その反射体層100にわたって広がり、かつその両側で向かい合って配置された一対の誘電体層110、(3)その一対の誘電体層110の外面にわたって広がる一対の吸収体層120、及び(4)その一対の選択吸収体層120の外面にわたって広がる一対の誘電体層130を有する7層積層体を示す。
【0057】
次に
図18を参照すると、反射体の表面に対して0
o及び45
oの角度で白色光に曝された場合の7層設計全方向性反射体について反射率%と反射EMR波長との関係のグラフを示す。このグラフが示すように、0
o及び45
oの両方の曲線は、550nm未満の波長に対してはその全方向性反射体によってもたらされる非常に低い反射率、例えば10%未満を示す。しかしながらこの曲線が示すようにこの反射体は、560〜570nmの間の波長において反射率の著しい増加をもたらし、700nmにおいてほぼ90%の最高値に達する。曲線の右手側(IR側)のグラフの部分すなわち領域は、この反射体によってもたらされる反射帯域のIR部分を表すことを理解されたい。
【0058】
この全方向性反射体によってもたらされる反射率の著しい増加は、550nm未満の波長での低い反射率部分から、高い反射率部分、例えば>70%まで広がる各曲線のUV側の稜線によって特徴づけられる。UV側の稜線の直線部分200は、x軸に対して60
oを超える角度(β)で傾斜し、反射率の軸上でほぼ40の長さL及び1.4の傾きを有する。幾つかの例では直線部分はx軸に対して70
oを超える角度で傾斜するのに対し、他の例ではβは75
oを超える。またその反射帯域は、200nm未満の可視FWHM、また幾つかの例では150nm未満の可視FWHM、また他の例では100nm未満の可視FWHMを有する。さらに、
図18に示すように可視反射帯域の中心波長λ
cは、可視FWHMにおける反射帯域のUV側の稜線とIRスペクトルのIRの稜線の間の等距離である波長として定義される。
【0059】
用語「可視FWHM」とは、その全方向性反射体によってもたらされる反射率がそれを超えると人の目に見えない、曲線のUV側の稜線とIRスペクトル範囲の稜線の間の反射帯域の幅を指すことを理解されたい。このように、本発明の設計及び本明細書中で開示される多層積層体は、電磁放射線スペクトルの非可視IR部分を使用して鮮明な色又は構造色を得る。別の言い方をすれば、本明細書中で開示される全方向性反射体は、それら反射体がIR域に及ぶ電磁放射線のずっと広い帯域を反射する可能性があるという事実にもかかわらず、反射可視光の狭い帯域を得るために電磁放射線スペクトルの非可視IR部分をうまく利用する。
【0060】
次に
図19を参照すると、反射体の表面に対して0
o及び45
oの角度で白色光に曝された場合の別の7層設計全方向性反射体について反射率%と波長との関係のグラフを示す。さらに、本明細書中で開示される全方向性反射体によって得られる全方向特性の定義又は特徴描写を示す。具体的には、また図に示すように本発明の反射体によってもたらされる反射帯域が最高値すなわちピークを有する場合に、各曲線は、最大反射率を示す又はそれになる波長として定義される中心波長(λ
c)を有する。λ
cに対して最大反射波長という用語もまた使用することができる。
【0061】
図19に示すように、全方向性反射体の外面を角度45
o(λ
c(45
o))から観察する、すなわち外面がその表面を見る人の目に対して45
o傾いている場合、その表面を0
o(λ
c(0
o))、すなわち表面に垂直な角度から観察する場合と比較して、λ
cのずれすなわち変位が存在する。このλ
cのずれ(△λ
c)は、全方向性反射体の全方向特性の尺度を提供する。当然ながらゼロシフト、すなわち全くずれがないものが、完全な全方向性反射体であるはずである。しかしながら本明細書中で開示される全方向性反射体は、100nm未満の△λ
cをもたらすことができ、それは人の目にはまるで反射体の表面が色を変化させなかったかのように、したがって実際的観点からは反射体が全方向性であるかのように見えることができる。幾つかの例では本明細書中で開示される全方向性反射体は、75nm未満の△λ
cを、他の例では50nm未満の△λ
cを、さらに他の例では25nm未満の△λ
cを、またさらに他の例では15nm未満の△λ
cを実現することができる。△λ
cのこのようなずれは、反射体の実際の反射率と波長との関係を示すグラフによって、かつ/又は別法ではその材料及び層厚が既知の場合は反射体の模型を作ることによって決めることができる。
【0062】
反射体の全方向特性の別の定義又は特徴描写は、所与の一組の角度反射帯域の側縁部のずれによって決めることができる。例えば、その全方向性反射体の全方向特性の尺度は、0
o(S
L(0
o))から観察される全方向性反射体からの反射率のUV側の稜線のずれすなわち変位(△S
L)を、45
o(S
L(45
o))から観察される同じ反射体による反射率のUV側の稜線のずれすなわち変位と比較することにより得られる。さらに、全方向性の尺度として△S
Lを使用することは、△λ
cの使用にとって、例えば
図18に示したものに似た反射率の帯域、すなわち可視範囲内にない最大反射波長に対応するピークを有する反射帯域をもたらす反射体にとって好ましい場合がある(
図18参照)。UV側の稜線のずれ(△S
L)は、可視FWHMにおいて測定され、かつ/又は測定することができる。
【0063】
当然ながらゼロシフト、すなわち全くずれがないこと(△S
L=0nm)が、完全な全方向性反射体を特徴づけるはずである。しかしながら本明細書中で開示される全方向性反射体は、100nm未満の△S
Lを提供することができ、それは人の目にはまるで反射体の表面が色を変化させなかったかのように、したがって実際的観点からは反射体が全方向性であるかのように見えることができる。幾つかの例では本明細書中で開示される全方向性反射体は、75nm未満の△S
L、他の例では50nm未満の△S
L、さらに他の例では25nm未満の△S
L、またさらに他の例では15nm未満の△λ
cを実現することができる。△λ
cのこのようなずれは、反射体の実際の反射率と波長との関係を示すグラフによって、かつ/又は別法ではその材料及び層厚が既知の場合には反射体の模型を作ることによって決めることができる。
【0064】
本明細書中で開示される多層積層体の製造方法は、当業者に知られている任意の方法又は工程、あるいは当業者に未だ知られていない1つ又は複数の方法であることができる。一般的な既知の方法には、ゾルゲル法、交互吸着(layer−by−layer)法、スピンコーティングなどの湿式法が挙げられる。他の既知の乾式法には、スパッタリング、化学気相成長法、及び電子ビーム蒸着などの物理気相成長法が挙げられる。
【0065】
本明細書中で開示される多層積層体は、塗料用の顔料、表面に塗布される薄膜などの大部分の任意の着色塗装に使用することができる。
【0066】
上記の例及び実施形態は単に例示の目的であり、その変更形態、修正形態などは当業者には明らかなはずであり、さらにそれらもやはり本発明の範囲に入るはずである。したがって本発明の範囲は、特許請求の範囲及びそのすべての等効物によって定められる。