特許第6437818号(P6437818)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6437818
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】ケーブル固定構造
(51)【国際特許分類】
   H02G 3/30 20060101AFI20181203BHJP
   F16B 5/02 20060101ALI20181203BHJP
【FI】
   H02G3/30
   F16B5/02 T
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-262539(P2014-262539)
(22)【出願日】2014年12月25日
(65)【公開番号】特開2016-123225(P2016-123225A)
(43)【公開日】2016年7月7日
【審査請求日】2017年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】特許業務法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】堀田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】内田 桂
(72)【発明者】
【氏名】田村 聡
(72)【発明者】
【氏名】昆野 浩之
【審査官】 久保 正典
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−260624(JP,A)
【文献】 米国特許第07162790(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/30
F16B 5/02
H02G 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブルの外周側を包囲して保護する樹脂製のケーブル保護部と、
上方側の一端部が固定され下方側に吊り下げられる棒状部材を挿通可能に、前記ケーブル保護部を貫通して設けられる取付孔と、
前記取付孔の内周面に設けられ、前記取付孔に前記棒状部材が挿通された状態において前記棒状部材の外周に設けられる凹凸部と接触可能に形成される接触部と、
を備え、
前記ケーブル保護部は、前記取付孔に前記棒状部材が挿通された状態において、前記接触部が前記取付孔の前記内周面の一部に設けられると共に前記棒状部材の前記凹凸部と接触することで、前記棒状部材に係止され
前記取付孔は、前記棒状部材の軸径より孔径が小さい小径部と、前記棒状部材の軸径より孔径が大きい大径部とを有し、
前記取付孔の前記小径部が、前記接触部であり、
前記ケーブル保護部は、前記取付孔に前記棒状部材が挿通された状態において、前記小径部が前記棒状部材の前記凹凸部と接触して変形することで、前記棒状部材に係止される
ことを特徴とするケーブル固定構造。
【請求項2】
前記ケーブル保護部は、
前記ケーブルを所定の延在方向の両側から引き出すよう形成され、
前記延在方向に沿って前記ケーブルの外周側を包囲して形成される本体部と、
前記本体部の外周面に突設される突設部と、
を有し、
前記取付孔は、前記ケーブル保護部の前記突設部を前記延在方向と直交する方向に貫通して設けられる、
請求項に記載のケーブル固定構造。
【請求項3】
前記取付孔は、前記延在方向において、前記ケーブル保護部の前記本体部の中央位置と同等の位置に設けられる、
請求項に記載のケーブル固定構造。
【請求項4】
前記ケーブル保護部は、複数のケーブルの端末を接続して形成された接続部を内部に収容し、前記接続部にて接続される前記複数のケーブルの一部を、前記接続部から前記延在方向の一方側へ引き出し、前記複数のケーブルの残りを前記接続部から前記延在方向の他方側へ引き出すよう形成される、
請求項またはに記載のケーブル固定構造。
【請求項5】
前記ケーブル保護部は、前記接続部を樹脂材で被覆するようモールド成形されたモールド部である、
請求項に記載のケーブル固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブル固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、主に屋内配線工事の省力化を目的として、予め工場において必要な電気配線回路を結線し、接続部をモールドして、ケーブルの分岐接続処理を予めプレアセンブリ化して形成した電気配線システム、所謂ユニットケーブルが知られている。例えば特許文献1には、2芯または3芯の平型ケーブルを複数本束ねて単一のジョイントボックス(接続部)に集約する構成のユニットケーブルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−21118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば吊ボルトなど、上方側の一端部が建物の天井などに固定され下方側に吊り下げられる構成のボルト部材(棒状部材)に、特許文献1などに記載されるユニットケーブルが固定される場合がある。この場合、まず、ユニットケーブルの接続部に設けられた取付孔にボルト部材を挿通し、次に、取付孔に挿通されたボルト部材にナットを取り付け、これによりユニットケーブルがボルト部材に固定される。このように、従来のユニットケーブルをボルト部材に固定する際には、ボルト部材にナットを取り付ける作業が必要であり、同様に、ユニットケーブルをボルト部材から取り外す際にも、ナットを取り外す作業が必要であった。また、接続部の取り付け位置を変更する場合にも、吊ボルトに取り付けているナットを緩め、接続部の位置を調節した後にナットを再度締め直すという作業が必要であった。このため、従来のユニットケーブルでは、ボルト部材への着脱作業や位置調整作業に施工時間が長くかかる場合があり、施工性の向上について改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、棒状部材への着脱作業を簡便にできるケーブル固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明に係るケーブル固定構造は、ケーブルの外周側を包囲して保護する樹脂製のケーブル保護部と、上方側の一端部が固定され下方側に吊り下げられる棒状部材を挿通可能に、前記ケーブル保護部を貫通して設けられる取付孔と、前記取付孔の内周面に設けられ、前記取付孔に前記棒状部材が挿通された状態において前記棒状部材の外周に設けられる凹凸部と接触可能に形成される接触部と、を備え、前記ケーブル保護部は、前記取付孔に前記棒状部材が挿通された状態において、前記接触部が前記取付孔の前記内周面の一部に設けられると共に前記棒状部材の前記凹凸部と接触することで、前記棒状部材に係止され、前記取付孔は、前記棒状部材の軸径より孔径が小さい小径部と、前記棒状部材の軸径より孔径が大きい大径部とを有し、前記取付孔の前記小径部が、前記接触部であり、前記ケーブル保護部は、前記取付孔に前記棒状部材が挿通された状態において、前記小径部が前記棒状部材の前記凹凸部と接触して変形することで、前記棒状部材に係止されることを特徴とする。
【0008】
また、上記のケーブル固定構造において、前記ケーブル保護部は、前記ケーブルを所定の延在方向の両側から引き出すよう形成され、前記延在方向に沿って前記ケーブルの外周側を包囲して形成される本体部と、前記本体部の外周面に突設される突設部と、を有し、前記取付孔は、前記ケーブル保護部の前記突設部を前記延在方向と直交する方向に貫通して設けられることが好ましい。
【0009】
また、上記のケーブル固定構造において、前記取付孔は、前記延在方向において、前記ケーブル保護部の前記本体部の中央位置と同等の位置に設けられることが好ましい。
【0010】
また、上記のケーブル固定構造において、前記ケーブル保護部は、複数のケーブルの端末を接続して形成された接続部を内部に収容し、前記接続部にて接続される前記複数のケーブルの一部を、前記接続部から前記延在方向の一方側へ引き出し、前記複数のケーブルの残りを前記接続部から前記延在方向の他方側へ引き出すよう形成されることが好ましい。
【0011】
また、上記のケーブル固定構造において、前記ケーブル保護部は、前記接続部を樹脂材で被覆するようモールド成形されたモールド部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るケーブル固定構造は、従来のユニットケーブルのようにケーブル保護部を貫通したボルト部材(棒状部材)の下端部にナットを締結しなくても、取付孔の内周面の一部に形成される接触部によってケーブル保護部をボルト部材に係止することができるので、棒状部材への着脱作業を簡便にできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るケーブル固定構造の概略構成を示す斜視図である。
図2図2は、図1に示すケーブル固定構造の正面図である。
図3図3は、図2中のIII−III断面図である。
図4図4は、本実施形態に係るケーブル固定構造を吊ボルトへ取り付けた状態を示す図である。
図5図5は、本実施形態のケーブル固定構造を吊ボルトへ取り付ける取付動作の第一段階を示す図である。
図6図6は、本実施形態のケーブル固定構造を吊ボルトへ取り付ける取付動作の第二段階を示す図である。
図7図7は、本実施形態のケーブル固定構造を吊ボルトへ取り付ける取付動作の第三段階を示す図である。
図8図8は、実施形態の第一変形例の概略構成を示すケーブル固定構造の断面図である。
図9図9は、実施形態の第二変形例の概略構成を示すケーブル固定構造の断面図である。
図10図10は、実施形態の第三変形例の概略構成を示すケーブル固定構造の断面図である。
図11図11は、実施形態の第四変形例の概略構成を示すケーブル固定構造の断面図である。
図12図12は、実施形態の第五変形例の概略構成を示すケーブル固定構造の断面図である。
図13図13は、実施形態の第六変形例の概略構成を示すケーブル固定構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係るケーブル固定構造の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0015】
[実施形態]
まず図1〜4を参照して、本発明の一実施形態に係るケーブル固定構造の構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るケーブル固定構造の概略構成を示す斜視図である。図2は、図1に示すケーブル固定構造の正面図である。図3は、図2中のIII−III断面図である。図4は、本実施形態に係るケーブル固定構造を吊ボルトへ取り付けた状態を示す図である。
【0016】
図1に示すように、本実施形態のケーブル固定構造1は、予め複数のケーブル10の分岐配線処理を施し、これらのケーブル10の接続部をモールドしてプレアセンブリ化(仮組み立て)して形成されるものであり、所謂ユニットケーブルと呼ばれるものの一種である。そして、図4に示すように、本実施形態のケーブル固定構造1は、このように一体的に纏められた複数のケーブル10を、吊ボルト20(棒状部材)を利用して固定するための構造である。
【0017】
吊ボルト20は、一般に、配管やダクト、空調機などの機器の吊下げや、軽量鉄骨天井下地(LGS)などを吊るすために用いるボルト部材の一種である。図4に示すように、吊ボルト20は、長尺上の棒材であり、天井などの支持体30に上方の一端部が固定されて、支持体30から下方に吊り下げられる構成のボルト部材である。吊ボルト20の外周面上には雄ねじ加工が施されたネジ部21(凹凸部)が設けられている。吊ボルト20の下方の端部は、例えば図4に示すように自由端とすることができる。本実施形態では、吊ボルト20は、支持体30から鉛直下方に吊り下げられている。つまり、吊ボルト20は、軸心C2が鉛直方向に沿って延在するよう設置されている。
【0018】
ケーブル固定構造1により纏められている複数のケーブル10は、図1,3,4に示すように、複数の平型ケーブルを積層して構成されている。平型ケーブルである各ケーブル10は、断面円形状の複数の電線11が、導体部12を絶縁部13で被覆して形成され、これらの複数の電線11が同一方向に延在するよう並列配置され、さらに、並列配置された複数の電線11がシース(外皮)14により一括で被覆されて形成されている。本実施形態では、図1などに示すように、ケーブル10として、3本の電線11を内包する3心の平形ケーブルが例示されているが、ケーブル10の種類はこれに限られない。
【0019】
また、本実施形態では、図1に示すように、積層配置された3本のケーブル10Aと、同様に積層配置された3本のケーブル10Bとが、同一方向に延在して、ケーブル固定構造1のモールド部2の内部にて、それぞれの端末が接続された接続部(図示せず)を形成している。
【0020】
以下の説明では、図1に示す複数のケーブル10(10A,10B)がそれぞれ延在する方向を「ケーブル延在方向」と表記し、複数のケーブル10のそれぞれにおいて3本の電線11が並列配置される方向を「ケーブル幅方向」と表記する。ケーブル延在方向とケーブル幅方向とは相互に直交する方向である。また、これらのケーブル延在方向及びケーブル幅方向と共に直交する方向を「軸線方向」と表記する。この軸線方向は、後述する取付孔3の軸線C1の方向である。また、図4に示すように、吊ボルト20が吊り下げられる方向を「鉛直方向」と表記する。
【0021】
図1〜4に示すように、本実施形態のケーブル固定構造1は、モールド部2(ケーブル保護部)と、取付孔3とを備える。
【0022】
モールド部2は、ケーブル10の接続部を樹脂材で被覆するようモールド成形(射出成形)された部材であり、ケーブルの外周側を包囲して接続部を保護するものである。ここでケーブル10の接続部について説明すると、複数のケーブル10A,10Bは、相互に対向する側の端末においてシース14が皮むきされ、さらに、各電線11の絶縁部13が皮むきされて導体部12が露出され、これらの導体部12が他の電線の導体部12と電気的に接続される。ケーブル10の接続部とは、このように露出された導体部12同士が接続されて回路を構成する部分であると共に、シース14及び絶縁部13が皮むきされた部分である。モールド部2は、この接続部の周囲を樹脂材で充填することにより絶縁処理を施している。
【0023】
モールド部2は、本実施形態では、軟質樹脂(軟質塩化ビニル)を用いて成形されるが、例えばポリエチレンなどの他の材料を使用することができる。
【0024】
モールド部2は、複数のケーブル10をケーブル延在方向の両側から引き出すよう形成されている。より詳細には、モールド部2は、内部の接続部にて接続される複数のケーブル10のうちの一部のケーブル10Aを、接続部からケーブル延在方向の一方側(図2の右側)へ引き出し、残りのケーブル10Bを、接続部からケーブル延在方向の他方側(図2の左側)へ引き出すよう形成されている。
【0025】
モールド部2は、ケーブル延在方向に沿ってケーブル10の外周側を包囲して形成される本体部2aと、本体部2aの外周面に突設される突設部2bと、を有する。
【0026】
本体部2aは、複数のケーブル10の端末を接続して形成された接続部を内部に収容し、ケーブル10Aをケーブル延在方向の一方側から、ケーブル10Bをケーブル延在方向の他方側から引き出すよう形成される。
【0027】
突設部2bは、本体部2aのケーブル延在方向の略中央部分からケーブル幅方向の一方側(図1,2では上側)に突出して形成されている。この突設部2bには、ケーブル固定構造1を吊ボルト20に固定するための取付孔3が貫通して設けられている。
【0028】
取付孔3は、吊ボルト20を挿通できるように形成されている。取付孔3は、図3に示すように、モールド部2の突設部2bを、ケーブル延在方向及びケーブル幅方向と直交する軸線方向に貫通して設けられ、その軸線C1が軸線方向に沿うように形成されている。また、取付孔3は、図2に示すように、ケーブル延在方向において、モールド部2の本体部2aの中央位置と同等の位置に設けられている。
【0029】
そして、特に本実施形態では、この取付孔3の内周面の軸線方向に沿った一部に、この取付孔3に吊ボルト20が挿通された状態において、吊ボルト20の外周に設けられるネジ部21と接触可能に形成される接触部4が設けられている。モールド部2は、取付孔3に吊ボルト20が挿通された状態において、この接触部4が吊ボルト20のネジ部21と接触することで、吊ボルト20に係止される。
【0030】
この接触部4についてさらに説明する。本実施形態では、図2,3に示すように、取付孔3は、吊ボルト20の軸径より孔径が小さい小径部5と、吊ボルト20の軸径より孔径が大きい大径部6とを有する。小径部5は、取付孔3の軸線方向の中央部に設けられる。大径部6は、取付孔3の軸線方向の両端部、すなわち取付孔3の開口に設けられる。小径部5と大径部6における取付孔3の形状は、図2に示すように、軸線方向から視たときに、軸線C1を中心とする同心円状に形成されている。取付孔3は、軸線方向に沿って小径部5側から大径部6側に進むにつれて徐々に孔径が広がるように形成されている。つまり、取付孔3は、吊ボルト20が挿入される開口の孔径が最も大きく、軸線方向中央部の孔径が最も小さくなるように、内周面をテーパ状に形成されている。
【0031】
本実施形態では、取付孔3に吊ボルト20が挿通された状態において、小径部5の内周面を吊ボルト20のネジ部21と接触させて小径部5を弾性変形させることで、小径部5がネジ部21に引っ掛かり、モールド部2が吊ボルト20に係止することができる(図6参照)。つまり、本実施形態では、取付孔3の小径部5が、取付孔3に吊ボルト20が挿通された状態において、吊ボルト20のネジ部21と接触可能に形成される接触部4である。
【0032】
次に、図5〜7を参照して、本実施形態のケーブル固定構造1を吊ボルト20へ取り付ける取付動作について説明する。図5は、本実施形態のケーブル固定構造を吊ボルトへ取り付ける取付動作の第一段階を示す図である。図6は、本実施形態のケーブル固定構造を吊ボルトへ取り付ける取付動作の第二段階を示す図である。図7は、本実施形態のケーブル固定構造を吊ボルトへ取り付ける取付動作の第三段階を示す図である。
【0033】
まず図5に第一段階として示すように、モールド部2が鉛直方向下側から吊ボルト20の下端部へ接近するよう移動し、吊ボルト20の下端部が取付孔3に挿入される。吊ボルト20の軸径は、取付孔3の開口に設けられる大径部6の孔径より小さく、また、取付孔3の軸線方向中央に設けられる小径部5の孔径より大きいので、取付孔3に挿入されると、まずは大径部6と小径部5との間の位置にて取付孔3の内周面と当接する。モールド部2には、引き続き鉛直方向上方へ外力Fが付加される。
【0034】
次に、図6に第二段階として示すように、吊ボルト20の下端部が取付孔3の内周面と当接した状態から外力Fによってモールド部2がさらに鉛直方向上側に吊ボルト20の下端部に抗して押し込まれる。このとき、モールド部2の全体が軟質樹脂により一体成型されたものであるので、取付孔3の小径部5は吊ボルト20の下端部から押圧されることで弾性変形し、孔径が吊ボルト20の下端部を挿通可能な程度に拡張される。この結果、図6に示すように、吊ボルト20が取付孔3を貫通した状態となる。このとき、取付孔3の軸線C1は、吊ボルト20の軸心C2と一致しており、取付孔3は、内周面のうち小径部5の近傍の領域Aにて吊ボルト20の外周のネジ部21と接触している。また、小径部5には吊ボルト20に拡張される前の孔径に戻るべく軸線C1側に弾性復帰しようと復元力が働くので、取付孔3の小径部5近傍の接触領域Aは、吊ボルト20の密着が高められている。つまり、吊ボルト20は、取付孔3の小径部5に圧入されている。なお、ここで用いる「弾性変形」及び「弾性復帰」なる表現は、必ずしも「完全弾性」でなくてもよく、一部塑性変形するものも包含するものである。
【0035】
ここで、モールド部2は、図6に示すように、取付孔3の軸線C1及び吊ボルト20の軸心C2の位置に対して、ケーブル10の配置が偏っている。つまり、モールド部2は、取付孔3が設けられる突設部2bに対して、ケーブル10が収容される本体部2aのほうが重い。このため、モールド部2への鉛直方向上方への外力Fの付加が無くなると、図7に第三段階として示すように、モールド部2には、ケーブル10の重量によって、吊ボルト20の軸心C2に対して、本体部2aが鉛直方向下側に傾斜する方向にモーメントMが発生する。これにより、図7に示すように、取付孔3の軸線C1が吊ボルト20の軸心C2に対して本体部2a側へ傾斜し、モールド部2が吊ボルト20に対して本体部2aを鉛直方向下側に引っ張られるように傾斜した状態となる。このとき、取付孔3の内周面上の接触領域Aは、本体部2a側では鉛直方向下側に拡張した接触領域A1に遷移し、一方、本体部2aと反対側では鉛直方向上側に拡張した接触領域A2に遷移する。この結果、取付孔3の内周面と吊ボルト20の外周のネジ部21との密着性が高まり、より一層確実にモールド部2が吊ボルト20に固定される。
【0036】
次に、本実施形態に係るケーブル固定構造1の効果について説明する。
【0037】
本実施形態のケーブル固定構造1は、ケーブル10の外周側を包囲して保護する樹脂製のケーブル保護部としてのモールド部2と、上方側の一端部が固定され下方側に吊り下げられる吊ボルト20を挿通可能に、モールド部2を貫通して設けられる取付孔3と、取付孔3の内周面に設けられ、取付孔3に吊ボルト20が挿通された状態において吊ボルト20の外周に設けられるネジ部21と接触可能に形成される接触部4と、を備える。モールド部2は、取付孔3に吊ボルト20が挿通された状態において、接触部4が取付孔3の内周面の一部に設けられると共に吊ボルト20のネジ部21と接触することで、吊ボルト20に係止される。
【0038】
この構成により、従来のユニットケーブルのようにモールド部2を貫通した吊ボルト20の下端部にナットを締結しなくても、取付孔3の内周面の一部に形成される接触部4によってモールド部2を吊ボルト20に係止することができる。また、接触部4が取付孔3の全体ではなく一部分だけに形成されているので、吊ボルト20を取付孔3に圧入させるためにかかる抵抗力を低減でき、取付孔3に吊ボルト20を容易に挿通させることが可能となり、モールド部2を吊ボルト20に容易に係止することができる。同様に、吊ボルト20にナットを締結する必要がない点、及び、接触部4が取付孔3の全体ではなく一部分だけに形成されている点により、取付孔3に挿通されている吊ボルト20を容易に引き抜くことが可能となり、モールド部2を吊ボルト20から容易に離脱することができる。また、取付孔3の接触部4と吊ボルト20との接触位置を変更するだけで、モールド部2の固定位置を容易に調整できる。したがって、本実施形態のケーブル固定構造1は、吊ボルト20への着脱作業や位置調整作業を簡便にできる。
【0039】
また、上記のケーブル固定構造1において、取付孔3は、吊ボルト20の軸径より孔径が小さい小径部5と、吊ボルト20の軸径より孔径が大きい大径部6とを有し、取付孔3の小径部5が、取付孔3に吊ボルト20が挿通された状態において吊ボルト20の外周に設けられるネジ部21と接触可能に形成される接触部4である。モールド部2は、取付孔3に吊ボルト20が挿通された状態において、小径部5が吊ボルト20のネジ部21と接触して変形することで、吊ボルト20に係止される。
【0040】
この構成により、吊ボルト20を取付孔3に挿通する際に接触箇所を小径部5に絞ることができるので、吊ボルト20の取付孔3への挿入と、取付孔3からの引抜とを容易にでき、吊ボルト20への着脱作業や位置調整作業をさらに簡便にできる。
【0041】
また、上記のケーブル固定構造1において、モールド部2は、ケーブル10をケーブル延在方向の両側から引き出すよう形成され、ケーブル延在方向に沿ってケーブル10の外周側を包囲して形成される本体部2aと、本体部2aの外周面に突設される突設部2bと、を有する。取付孔3は、モールド部2の突設部2bをケーブル延在方向と直交する軸線方向に貫通して設けられる。
【0042】
この構成により、本体部2aに埋め込まれるケーブル10の位置を、取付孔3の軸線位置を中心として不均等にできるので、取付孔3に吊ボルト20を挿通した状態において、ケーブル10の重量によってモールド部2を傾斜させることができ、この結果、取付孔3と吊ボルト20との密着性を高め、取付孔3の接触部4が吊りボルト20のネジ部21に食い込みやすくでき、モールド部2を吊ボルト20により強固に固定することができる。
【0043】
また、上記のケーブル固定構造1において、取付孔3は、ケーブル延在方向において、モールド部2の本体部2aの中央位置と同等の位置に設けられる。
【0044】
この構成により、取付孔3に吊ボルト20を挿通した状態において、ケーブル延在方向ではケーブル10の重量が取付孔3に対して均等にかかるので、取付孔3が受けるケーブル10の重量の偏りによる影響を、ケーブル幅方向(モールド部2の本体部2aと突設部2bとの連結方向)に集約させることができ、ケーブル10の重量によるモールド部2の傾斜を好適に生じさせることができる。
【0045】
また、上記のケーブル固定構造1において、モールド部2は、複数のケーブル10の端末を接続して形成された接続部を内部に収容し、この接続部にて接続される複数のケーブル10の一部のケーブル10Aを、接続部からケーブル延在方向の一方側へ引き出し、複数のケーブル10の残りのケーブル10Bを接続部からケーブル延在方向の他方側へ引き出すよう形成される。
【0046】
この構成により、モールド部2は、複数のケーブル10の端末を接続して形成された接続部を内部に収容して保護できるので、ケーブル10の保護を効果的に行うことができる。
【0047】
また、上記のケーブル固定構造1において、モールド部2は、接続部を樹脂材で被覆するようモールド成形されて形成される。この構成により、モールド部2の中に収容される複数のケーブル10同士の接続部の絶縁性を向上できる。
【0048】
[変形例]
次に、図8〜13を参照して上記実施形態の変形例について説明する。図8〜13は、実施形態の第一変形例〜第六変形例の概略構成を示すケーブル固定構造の断面図である。
【0049】
上記実施形態の取付孔3の形状(図3参照)は、取付孔3の内周面の軸線方向に沿った一部に、吊ボルト20と接触可能な接触部4が設けられる構成であれば、適宜変更することができる。このような取付孔3の形状を変形した例として、図8〜13のケーブル固定構造1a〜1fに設けられる取付孔3a〜3fを示す。
【0050】
例えば図8に示すように、ケーブル固定構造1aにおいて、取付孔3aの一方の開口に、吊ボルト20の軸径より孔径が小さい小径部5を設け、取付孔3aの他方の開口に、吊ボルト20の軸径より孔径が大きい大径部6を設ける構成としてもよい。このとき、取付孔3aの一方の開口に設けられる小径部5が、取付孔3aに吊ボルト20が挿通された状態において、吊ボルト20のネジ部21と接触可能に形成される接触部4となる。この場合、吊ボルト20は、大径部6を有する開口(図8では上側の開口)から取付孔3aに挿入される。取付孔3aは、軸線方向に沿って小径部5側から大径部6側に進むにつれて徐々に孔径が広がるように形成されている。つまり、取付孔3aは、吊ボルト20が挿入される開口の孔径が最も大きく、その反対側の開口の孔径が最も小さくなるように、内周面をテーパ状に形成されており、これにより、吊ボルト20を取付孔3aに挿入しやすく構成されている。
【0051】
同様に、図9に示すように、ケーブル固定構造1bにおいて、取付孔3bの内周面上の軸線方向の中央部に小径部5を設け、取付孔3bの内周面の他の部分すべてを大径部6とする構成としてもよい。図9の例では、取付孔3bの形状は、基本的には大径部6で構成され、軸線方向の中央部にて局所的に内側に突出して小径部5が形成されている。小径部5の突設部分の断面形状は、図9に示すように略三角波形状である。このとき、取付孔3bの内周面上の軸線方向の中央部に設けられる小径部5が、取付孔3bに吊ボルト20が挿通された状態において、吊ボルト20のネジ部21と接触可能に形成される接触部4となる。
【0052】
同様に、図10に示すように、ケーブル固定構造1cにおいて、取付孔3cの両方の開口に小径部5を設け、取付孔3cの内周面上の軸線方向の中央部に大径部6を設ける構成としてもよい。取付孔3cは、軸線方向に沿って小径部5側から大径部6側に進むにつれて徐々に孔径が広がるように形成されている。つまり、取付孔3cは、開口の孔径が最も小さく、軸線方向中央部の孔径が最も大きくなるように、内周面をテーパ状に形成されている。このとき、取付孔3cの両方の開口に設けられる小径部5が、取付孔3cに吊ボルト20が挿通された状態において、吊ボルト20のネジ部21と接触可能に形成される接触部4となる。
【0053】
同様に、図11に示すように、ケーブル固定構造1dにおいて、取付孔3dの内周面上の軸線方向の中央部に、軸線方向に沿って複数の小径部5を並設し、取付孔3dの内周面の他の部分すべてを大径部6とする構成としてもよい。図11の例では、取付孔3dの形状は、基本的には大径部6で構成され、軸線方向の中央部にて局所的に内側に突出する複数の小径部5が形成されている。小径部5の突設部分の断面形状は、図11に示すように略三角波形状である。このとき、取付孔3dの内周面上の軸線方向の中央部に設けられる複数の小径部5が、取付孔3dに吊ボルト20が挿通された状態において、吊ボルト20のネジ部21と接触可能に形成される接触部4となる。
【0054】
同様に、図12に示すように、ケーブル固定構造1eにおいて、取付孔3eの内周面上の軸線方向の中央部に小径部5を設け、取付孔3eの内周面の他の部分すべてを大径部6とする構成としてもよい。図12の例では、取付孔3eの形状は、基本的には大径部6で構成され、軸線方向の中央部にて局所的に内側に突出して小径部5が形成されている。小径部5の突設部分の断面形状は、図12に示すように略半円形状である。このとき、取付孔3eの内周面上の軸線方向の中央部に設けられる小径部5が、取付孔3eに吊ボルト20が挿通された状態において、吊ボルト20のネジ部21と接触可能に形成される接触部4となる。
【0055】
また、図13に示すように、ケーブル固定構造1fにおいて取付孔3fの軸線C1´の方向を、実施形態の軸線C1の方向に対して傾斜させる構成としてもよい。取付孔3fは、図13に示すように、軸線C1´の鉛直方向上側が本体部2a側に傾斜するように形成するのが好ましい。このとき、取付孔3fの鉛直方向下側の開口における本体部2a側の内周面と、取付孔3fの鉛直方向上側の開口における本体部2aと反対側の内周面とが、取付孔3fに吊ボルト20が挿通された状態において、吊ボルト20のネジ部21と接触可能に形成される接触部4となる。
【0056】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態及びその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0057】
取付孔3の設置位置は、ケーブル10と交差する位置、すなわち、モールド部2の突設部2bではなく本体部2aとしてもよい。この場合、モールド部2の内部に収容されているケーブル10の接続部は、例えば図1,2に示すケーブル幅方向の両側に取付孔3を除けて配置される。また、取付孔3の軸心方向は、ケーブル延在方向と直交する方向以外でもよい。
【0058】
また、モールド部2からのケーブル10の引き出し方向は、ケーブル延在方向の両側以外でもよい。例えばすべてのケーブル10が同一方向に引き出される構成でもよい。また、ケーブル10が積層される方向は、図1に示すような軸線方向に限られず、例えば図1の例から90度回転させ、ケーブル幅方向と同一方向でもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、モールド部2が、ケーブル10の接続部を樹脂材で被覆するようモールド成形されて形成される構成を例示したが、モールド部2は、ケーブル10の外周側を包囲して保護するケーブル保護部としての機能を発揮できればよく、モールド成形以外の手法で形成される要素に置き換えてもよい。例えば、モールド部2の代わりに、ケーブル10の接続部を内部に収容可能な中空状の筺体としてもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、モールド部2がケーブル10の接続部を内部に収容する構成を例示したが、モールド部2をケーブル10の接続部以外の部分に設ける構成としてもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、ケーブル固定構造1が固定される対象物として吊ボルト20を例示したが、吊ボルト以外の他のボルト部材に固定することもできる。例えば、天井や壁部に埋め込まれた埋め込みボルト(アンカーボルト)に固定する構成としてもよい。また、上記実施形態では、吊ボルト20が鉛直下方に吊り下げられる構成を例示したが、ボルト部材が吊り下げられる方向は鉛直方向以外でもよい。言い換えると、ケーブル固定構造1が固定される対象物としては、上方側の一端部が固定され、下方側の他端部から取付孔に挿通可能なボルト部材であればよい。
【0062】
また、ケーブル固定構造1が固定される対象物は、ネジ部21を有するボルト部材の他にも、ネジ部21を有さない棒状部材であってもよい。この場合、棒状部材の外周面には、ネジ部21の代わりに接触部4と接触可能な凹凸部を設ける必要がある。つまり、本実施形態の吊ボルト20に設けられるネジ部21は、棒状部材の外周に設けられる凹凸部の一例である。
【符号の説明】
【0063】
1,1a〜1f ケーブル固定構造
2 モールド部(ケーブル保護部)
2a 本体部
2b 突設部
3,3a〜3f 取付孔
4 接触部
5 小径部(接触部)
6 大径部
10,10A,10B ケーブル
20 吊ボルト(棒状部材)
21 ネジ部(凹凸部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13