(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような溶接システムの溶接トーチや溶接電源装置には、定格電流や定格使用率などが規定されている。例えば、溶接トーチに規定された定格電流を超えて溶接トーチを使用した場合、溶接トーチが焼損してしまう可能性がある。また、溶接電源装置に規定された定格電流を超えて溶接電源装置を使用した場合、溶接電源装置が焼損する可能性がある。例えば、溶接電源装置の定格電流が500Aに対して、溶接トーチの定格電流が200Aのとき、溶接電源装置が500Aの溶接電流を溶接トーチに供給してしまうと、溶接トーチがその溶接電流に耐えられないため、焼損してしまう。
【0005】
一方、定格使用率は、一般的に10分間を周期として、この10分間に対して、定格電流で何分間連続使用可能かを示した割合(百分率)である。例えば、定格使用率60%とは、10分間のうち、定格電流で6分間連続して使用可能であることを示している(残りの4分間は休止させる)。よって、溶接電源装置や溶接トーチに設定された定格電流で溶接中に、定格使用率を超えて使用した場合、溶接電源装置あるいは溶接トーチが焼損してしまう可能性がある。なお、定格使用率は、定格電流で何分間連続使用可能であるかを示す割合であるため、定格電流未満の設定電流(溶接電源装置に設定する溶接電流)で使用した場合、連続使用時間を長くすることも可能である。よって、このように定格電流未満の設定電流で使用する場合には、定格使用率ではなく許容使用率を超えて使用しないようにすればよい。この許容使用率は、定格使用率、定格電流、および、設定電流に基づき、[(定格電流)
2/(設定電流)
2]×定格使用率により算出される。
【0006】
このような溶接システムにおいて、上記のとおり、溶接トーチはワイヤ送給装置に対して着脱可能なようになっているが、溶接電源装置は、ワイヤ送給装置にどのような溶接トーチが接続されたか認識できない。よって、溶接電源装置の性能が溶接トーチの性能より上回っている場合、溶接トーチに規定された定格電流や定格使用率を超えて溶接電流を出力してしまう可能性がある。さらに、溶接トーチには、上記定格電流や定格使用率だけではなく、例えば、耐熱温度など、使用する際の制限があり、それを超えた使用は、溶接トーチの焼損につながる。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みて創作されたものであり、溶接トーチ毎に規定された各種仕様情報(トーチ情報)を溶接電源装置が認識し、溶接電源装置がそのトーチ情報に基づき、溶接トーチを保護するための制御を実行することが可能な溶接システムおよび溶接システムの制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面によって提供される溶接システムは、溶接電源装置からワイヤ送給装置を介して、前記ワイヤ送給装置に接続された溶接トーチに、溶接電流を供給する溶接システムであって、前記溶接トーチは、当該溶接トーチに関するトーチ情報を記憶する記憶手段を、備え、前記ワイヤ送給装置は、前記記憶手段に記憶されるトーチ情報を取得する取得手段と、前記取得手段が取得したトーチ情報を前記溶接電源装置に送信する送信手段と、を備え、前記溶接電源装置は、前記送信手段が送信したトーチ情報を受信する受信手段と、前記受信手段が受信したトーチ情報に基づき、前記溶接トーチを保護するための制御を実行する保護手段と、を備える。
【0009】
本発明の第2の側面によって提供される溶接システムは、溶接電源装置からワイヤ送給装置を介して、前記ワイヤ送給装置に接続された溶接トーチに、溶接電流を供給する溶接システムであって、前記溶接トーチは、当該溶接トーチの種別を示す識別IDを記憶する識別ID記憶手段を、備え、前記ワイヤ送給装置は、前記識別ID記憶手段に記憶される識別IDを取得する取得手段と、前記取得手段が取得した識別IDを前記溶接電源装置に送信する送信手段と、を備え、前記溶接電源装置は、前記送信手段が送信した識別IDを受信する受信手段と、前記識別IDと前記溶接トーチに関するトーチ情報とを対応付けた対応情報を記憶する対応情報記憶手段と、前記対応情報記憶手段に記憶された対応情報に基づき、前記受信手段が受信した識別IDに対するトーチ情報を特定する特定手段と、前記特定手段が特定したトーチ情報に基づき、前記溶接トーチを保護するための制御を実行する保護手段と、を備える。
【0010】
好ましくは、本発明の第1および第2の側面によって提供される溶接システムにおいて、前記溶接電源装置は、前記溶接トーチに供給する溶接電流の電流値を設定する設定手段を、さらに備え、前記トーチ情報は、前記溶接トーチに設定される定格電流値を含み、前記保護手段は、前記設定された溶接電流の電流値が前記定格電流値より大きい場合、少なくとも、警告を報知する、前記設定された溶接電流の電流値を前記定格電流値以下に制限する、あるいは、前記溶接電流の供給を抑止する、のいずれかを実行する。
【0011】
さらに、前記溶接電源装置は、前記溶接トーチに溶接電流を供給した時間を計時し、前記供給時間に基づき実使用率を算出する実使用率算出手段を、さらに備え、前記トーチ情報は、前記溶接トーチに設定される定格使用率を含み、前記保護手段は、前記溶接トーチの定格使用率と前記溶接電源装置に設定された溶接電流の電流値とに基づき、許容使用率を算出し、前記実使用率が前記許容使用率以上となった場合、少なくとも、警告を報知する、あるいは、前記溶接電流の供給を停止する、のいずれかを実行する。
【0012】
また、本発明の第1および第2の側面によって提供される溶接システムにおいて、前記溶接トーチは、当該溶接トーチ自体の温度である実使用温度を計測する温度センサを、さらに備え、前記トーチ情報は、前記溶接トーチの使用限界温度を含み、前記保護手段は、前記実使用温度が前記使用限界温度となった場合、少なくとも、警告を報知する、あるいは、前記溶接電流の供給を停止する、のいずれかを実行する。
【0013】
好ましくは、前記溶接トーチを水冷方式で冷却する水冷装置を、さらに備え、前記保護手段は、前記実使用温度に基づき、前記水冷装置を制御する。
【0014】
なお、前記保護手段は、前記実使用温度が前記水冷装置を起動させる指標となる水冷装置起動温度以上となった場合、前記水冷装置を起動させる。
【0015】
また、前記水冷装置起動温度は、前記溶接トーチの使用限界温度に基づき、設定されてもよい。
【0016】
さらに、前記溶接トーチ周辺の外気温を計測する外気温計を、さらに備え、前記保護手段は、前記外気温に応じて前記水冷装置起動温度を変化させてもよい。
【0017】
好ましくは、前記トーチ情報は、さらに、前記溶接トーチの冷却方式が水冷方式か空冷方式であるかの冷却方式情報を含み、前記溶接トーチは、前記ワイヤ送給装置に着脱可能なように構成され、前記保護手段は、前記実使用温度が前記水冷装置起動温度以上となった場合、前記冷却方式情報に基づき、前記ワイヤ送給装置に接続された溶接トーチの冷却方式が水冷方式であれば、前記水冷装置を制御し、前記空冷方式であれば、警告を報知する。
【0018】
本発明の第1および第2の側面によって提供される溶接システムにおいて、前記送信手段は、前記溶接電源装置と前記ワイヤ送給装置とを接続する電力伝送線を介して、送信し、前記受信手段は、前記電力伝送線を介して、受信する。
【0019】
本発明の第3の側面によって提供される溶接システムの制御方法は、溶接電源装置からワイヤ送給装置を介して、前記ワイヤ送給装置に接続される溶接トーチに、溶接電流を供給する溶接システムの制御方法であって、前記溶接トーチには、当該溶接トーチに関するトーチ情報を記憶する記憶手段が備えられており、前記記憶手段に記憶されるトーチ情報を前記ワイヤ送給装置が取得する第1ステップと、前記第1ステップにより取得されたトーチ情報を前記溶接電源装置に送信する第2ステップと、前記第2ステップにより送信されたトーチ情報を受信する第3ステップと、前記第3ステップにより受信されたトーチ情報に基づき、前記溶接トーチを保護するための制御を実行する第4ステップと、を備える。
【0020】
本発明の第4の側面によって提供される溶接システムの制御方法は、溶接電源装置からワイヤ送給装置を介して、前記ワイヤ送給装置に接続される溶接トーチに、溶接電流を供給する溶接システムの制御方法であって、前記溶接トーチには、当該溶接トーチの種別を示す識別IDを記憶する識別ID記憶手段が、備えられており、前記識別ID記憶手段に記憶される識別IDを前記ワイヤ送給装置が取得する第1ステップと、前記第1ステップにより取得された識別IDを前記溶接電源装置に送信する第2ステップと、前記第2ステップにより送信された識別IDを受信する第3ステップと、前記第3ステップにより受信された識別IDに対応する、前記溶接トーチに関するトーチ情報を、前記識別IDと前記トーチ情報とが対応付いた対応情報に基づき、特定する第4ステップと、前記第4ステップにより特定されたトーチ情報に基づき、前記溶接トーチを保護するための制御を実行する第5ステップと、を備える。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、溶接電源装置がワイヤ送給装置を介して、ワイヤ送給装置に接続された溶接トーチのトーチ情報を認識できるようになり、溶接トーチに規定された仕様を超えて使用されることを防止するための制御が可能となり、ひいては、溶接トーチの焼損などを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、ワイヤ電極とシールドガスが自動的に溶接トーチに供給される半自動アーク溶接を行う溶接システムを例にとって、図面を参照して説明する。
【0024】
図1は、本発明の第1実施形態に係る溶接システムAの全体構成を説明するための図である。図示するように、溶接システムAは、溶接電源装置1、ワイヤ送給装置2、溶接トーチ3、パワーケーブル41,42、電源接続線51,52,52’、ガスボンベ6、および、ガス配管7を備えている。溶接システムAは、実際には、ワイヤ電極が巻回されたワイヤリールなどを備えているが、図への記載や説明を省略している。
【0025】
溶接電源装置1は、ワイヤ送給装置2を介して、溶接トーチ3に溶接電力を供給する。溶接電源装置1の溶接電力用の一方の出力端子aは、パワーケーブル41を介して、ワイヤ送給装置2に接続されている。ワイヤ送給装置2は、ワイヤ電極を溶接トーチ3に送り出して、ワイヤ電極の先端を溶接トーチ3の先端から突出させる。溶接トーチ3の先端に配置されているコンタクトチップにおいて、パワーケーブル41とワイヤ電極とは電気的に接続されている。溶接電源装置1の溶接電力用の他方の出力端子bは、パワーケーブル42を介して、被加工物Wに接続される。溶接電源装置1は、溶接トーチ3の先端から突出するワイヤ電極の先端と、被加工物Wとの間にアークを発生させ、アークに電力を供給する。溶接システムAは、当該アークの熱で被加工物Wの溶接を行う。
【0026】
溶接システムAは、溶接時にシールドガスを用いる。ガスボンベ6のシールドガスは、溶接電源装置1およびワイヤ送給装置2を通るように設けられているガス配管7によって、溶接トーチ3の先端に供給される。ガス配管7は、ガスボンベ6と溶接電源装置1とを接続する配管、溶接電源装置1の内部に配置されている配管、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とを接続する配管、ワイヤ送給装置2の内部に配置されている配管、および、トーチケーブル33(後述)の内部に配置されている配管を備えている。
図2は、ガス配管7のうち、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とを接続する配管が、溶接電源装置1の内部に配置されている配管に接続された接続金具1a、および、ワイヤ送給装置2の内部に配置されている配管に接続された接続金具2aに接続されている部分の断面図である。例えばゴム製のガス配管7は、接続金具1a(2a)に嵌め込むようにして、接続されている。なお、ガス配管7の素材は限定されず、各区間によって異なっていてもよいが、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とを接続する部分は、ゴムなどの絶縁体としている。
【0027】
ワイヤ電極を送り出すための送給モータ24(後述)などを駆動するための電力は、電源接続線51およびパワーケーブル41を介して、溶接電源装置1からワイヤ送給装置2に供給される。溶接電源装置1が備える、ワイヤ送給装置2の駆動電力用の電源(後述する送給装置用電源部12)の一方の出力端子は、電源接続線51を介して、ワイヤ送給装置2の電源(後述する電源部21)の一方の入力端子に接続されている。
【0028】
電源接続線51は、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2との間では、ガス配管7の内側に配置されている。
図2に示すように、溶接電源装置1の内部で、電源接続線51は導電性の接続金具1aに接続しており、ワイヤ送給装置2の内部で、電源接続線51は導電性の接続金具2aに接続している。そして、ガス配管7の内側に配置された電源接続線51が、ガス配管7と接続金具1a(2a)との間に挟まれて固定され、接続金具1a(2a)と電気的に接続されている。つまり、接続金具1aが、溶接電源装置1の内部の電源接続線51と、ガス配管7の内側に配置された電源接続線51とを接続するコネクタとして機能し、接続金具2aが、ワイヤ送給装置2の内部の電源接続線51と、ガス配管7の内側に配置された電源接続線51とを接続するコネクタとして機能している。
【0029】
また、送給装置用電源部12の他方の出力端子とパワーケーブル41とが、溶接電源装置1の内部で、電源接続線52によって接続されており、電源部21の他方の入力端子とパワーケーブル41とが、ワイヤ送給装置2の内部で、電源接続線52’によって接続されている。これにより、送給装置用電源部12の他方の出力端子と電源部21の他方の入力端子とが、電気的に接続されている。送給装置用電源部12から出力される電力は、電源接続線51およびパワーケーブル41によって、電源部21に供給される。また、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2とは、電源接続線51とパワーケーブル41との間に信号を重畳させて通信を行う。
【0030】
溶接トーチ3には、当該溶接トーチ3に関するトーチ情報が記憶されており、溶接トーチ3をワイヤ送給装置2に接続すると、ワイヤ送給装置2は、溶接トーチ3からトーチ情報を取得する。溶接トーチ3に記憶されるトーチ情報には、溶接トーチ3の定格電流および定格使用率が含まれている。
【0031】
溶接電源装置1は、アーク溶接のための溶接電力(直流電力)を溶接トーチ3に供給するものである。また、溶接電源装置1は、ワイヤ送給装置2との間で、各種通信信号の送受信を行う。溶接電源装置1は、ワイヤ送給装置2から溶接トーチ3のトーチ情報を受信し、このトーチ情報に基づいて、溶接トーチ3の保護制御処理を実行する。溶接電源装置1は、溶接トーチ3のトーチスイッチ32が押下されている間、溶接電力を溶接トーチ3に供給する。
図1に示すように、溶接電源装置1は、溶接用電源部11、送給装置用電源部12、通信部13、制御部14、および、記憶部15を備えている。
【0032】
溶接用電源部11は、電力系統から入力される三相交流電力をアーク溶接に適した直流電力に変換して出力するものである。溶接用電源部11に入力される三相交流電力は、整流回路によって直流電力に変換され、インバータ回路によって交流電力に変換される。そして、トランスによって降圧(または昇圧)され、整流回路によって直流電力に変換されて出力される。なお、溶接用電源部11の構成は、上記したものに限定されない。
【0033】
送給装置用電源部12は、ワイヤ送給装置2の送給モータ24などを駆動するための電力を出力するものである。送給装置用電源部12は、電力系統から入力される単相交流電力をワイヤ送給装置2での使用に適した直流電力に変換して出力する。送給装置用電源部12は、いわゆるスイッチングレギュレータである。送給装置用電源部12に入力される交流電力は、整流回路によって直流電力に変換され、DC/DCコンバータ回路によって降圧(または昇圧)されて出力される。送給装置用電源部12は、電圧が例えば48Vに制御された直流電力を、電源接続線51およびパワーケーブル41を介して、ワイヤ送給装置2に供給する。なお、送給装置用電源部12の構成は、上記したものに限定されない。例えば、溶接用電源部11と同様の構成であってもよいし、電力系統から入力される交流電力をトランスで降圧(または昇圧)してから、整流回路で直流電力に変換して出力するようにしてもよい。
【0034】
溶接用電源部11は、出力端子aが出力端子bより電位が高くなるようにして、パワーケーブル41の電位がパワーケーブル42の電位より高くなるように、電圧を印加する。送給装置用電源部12は、電源接続線51の電位が電源接続線52の電位より低くなるように、電圧を印加する。電源接続線52はパワーケーブル41に接続しているので、電源接続線51の電位は、パワーケーブル41の電位より低くなる。つまり、電源接続線51およびパワーケーブル42の電位をどちらもパワーケーブル41より低くすることで、電源接続線51とパワーケーブル42との電位差が大きくならないようにしている。例えば、溶接用電源部11が出力する無負荷電圧が90V、送給装置用電源部12が出力する電圧が48Vの場合、電源接続線51とパワーケーブル42との電位差は42Vになる。仮に、電源接続線51の電位を電源接続線52の電位より高くした場合は、電源接続線51とパワーケーブル42との電位差は132Vになる。なお、電源接続線51とパワーケーブル42との電位差を気にしない場合は、送給装置用電源部12が印加する電圧を逆極性(電源接続線51の電位が電源接続線52の電位より高くなるように、電圧を印加する)にしてもよい。
【0035】
通信部13は、電源接続線51およびパワーケーブル41を介して、ワイヤ送給装置2との間で通信を行うためのものである。通信部13は、結合回路を備えている。当該結合回路は、通信部13の入出力端に接続されたコイルと、電源接続線51,52に並列接続されたコイルとを磁気結合させた高周波トランスを備えており、通信部13が出力する通信信号を電源接続線51,52に重畳し、また、電源接続線51,52に重畳された通信信号を検出する。すなわち、通信部13は、電力線搬送通信(Power Line Communication通信;PLC通信)を行う。電源接続線52は、溶接電源装置1の内部で、パワーケーブル41に接続しているので、通信信号は、電源接続線51とパワーケーブル41との間に重畳される。
【0036】
通信部13は、ワイヤ送給装置2から受信した通信信号を復調して、制御部14に出力する。ワイヤ送給装置2から受信する通信信号には、例えば、溶接条件を設定するための信号、溶接用電源部11の起動を指示する起動信号、ワイヤ送給装置2において電圧センサで検出された溶接電圧の検出値、および、溶接トーチ3のトーチ情報などがある。また、通信部13は、制御部14から入力される信号を変調して、通信信号としてワイヤ送給装置2に送信する。ワイヤ送給装置2に送信する通信信号には、例えば、溶接電源装置1において電流センサで検出された溶接電流の検出値、溶接電源装置1内に発生した異常を示す信号(異常信号)、ワイヤ送給指令やガス供給指令などの信号、および、溶接トーチ3の保護を促す警告信号などがある。なお、ワイヤ送給装置2との間で送受信される通信信号は、上記したものに限定されない。
【0037】
通信部13は、直接スペクトル拡散(Direct Sequence Spread Spectrum:DSSS)通信方式を用いて通信を行う。DSSS通信方式では、送信側は、送信する信号に対して拡散符号による演算を行い、元の信号のスペクトルをより広い帯域に拡散して送信する。受信側は、受信した信号を共通する拡散符号を用いて逆拡散することで、元の信号に戻す。通信信号にノイズが重畳された場合でも、逆拡散によってノイズのスペクトルが拡散されるので、フィルタリングによって元の通信信号を抽出することができる。また、溶接システムA毎に異なる拡散符号を用いていれば、別の溶接システムAで送受信される通信信号を誤って受信したとしても、当該通信信号は異なる拡散符号で逆拡散されて、ノイズとして除去される。したがって、高い通信品質で通信を行うことができる。
【0038】
制御部14は、溶接電源装置1の制御を行うものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現される。制御部14は、溶接電源装置1から出力される溶接電流が設定電流になるように、また、溶接トーチ3の先端と被加工物Wとの間に印加される溶接電圧が設定電圧になるように、溶接用電源部11のインバータ回路を制御する。さらに、送給装置用電源部12から出力される電圧が所定電圧になるように、送給装置用電源部12のDC/DCコンバータ回路を制御する。制御部14は、図示しない設定ボタンの操作に応じて、溶接条件(設定電流や設定電圧)を変更したり、図示しない起動ボタンの操作に応じて溶接用電源部11を起動させたりする。また、制御部14は、図示しない電流センサによって検出された溶接電流の検出値を図示しない表示部に表示させたり、異常が発生した場合に図示しない報知部に報知させたりする。
【0039】
また、制御部14は、通信部13から入力される信号について、溶接条件の変更や溶接用電源部11の起動を行う。例えば、制御部14は、通信部13から溶接条件を設定するための信号が入力されるとこの信号に基づき、溶接条件を設定し、溶接用電源部11の起動を指示する起動信号が入力されると、この起動信号が入力されている間、溶接用電源部11を起動(動作)させる。さらに、制御部14は、検出された溶接電流の検出値や異常信号、ワイヤ送給装置2に対するワイヤ送給指令やガス供給指令などのための信号、および、溶接トーチ3の保護を促す警告信号を通信部13に出力する。
【0040】
制御部14は、ワイヤ送給装置2からトーチ情報を受信すると、受信したトーチ情報を記憶部15に記憶させる。そして、制御部14は、記憶したトーチ情報に基づき、溶接電源装置1に設定された溶接電流(以下、「設定電流」という。)が、溶接トーチ3の定格電流より大きい場合、溶接トーチ3を保護するための保護制御を実行する。このときの保護制御としては、例えば、通信部13を介して、ワイヤ送給装置2に警告信号を送信し、ワイヤ送給装置2は、ワイヤ送給装置2に備える図示しない報知部によって音声で警告したり、図示しない警告灯を点灯させたりして、報知する。また、報知部による報知では、作業者がそれに気付かなかったり、無視して使用したりすることを考慮して、溶接用電源部11を起動させず、溶接電力を出力しないようにしてもよい。ここでは、溶接用電源部11から溶接電力がまだ出力されていないため、溶接電力の出力を抑止することになる。なお、溶接電力の出力を抑止する方がより確実に溶接トーチ3を保護することができる。よって、本実施形態においては、警告報知と溶接電力の出力の抑止との双方を行うものとして説明する。また、本実施形態においては、設定電流が定格電流より大きい場合、溶接電力の出力を抑止させるものとして説明するが、溶接用電源部11を制御し、定格電流に調整した溶接電流(溶接電力)を出力するようにしてもよい。
【0041】
また、制御部14は、設定電流が定格電流値以下の場合、記憶したトーチ情報(定格電流、定格使用率)および設定電流に基づき、許容使用率を算出する。そして、図示しない計時部により計時された、溶接電源装置1から溶接電力を出力した時間(溶接トーチ3に溶接電力を供給した時間)に基づき、実使用率を算出し、算出した実使用率が許容使用率以上となったか否かを確認する。実使用率は、例えば、過去の10分間のうち、溶接トーチ3に溶接電力を供給した累計時間が3分間だった場合、3[分間]/10[分間]×100=30[%]となる。制御部14は、この実使用率が許容使用率以上となった場合、制御部14は、溶接トーチ3の保護制御を実行する。このときの保護制御としては、警告を報知したり、既に起動されている溶接用電源部11を停止させ、溶接電力を出力させないようにしたりする。ここでは、溶接用電源部11から溶接電力がすでに出力されているため、溶接電力の出力を停止することになる。なお、許容使用率および実使用率の算出方法は、上記に記載のものに限定されるものではない。また、許容使用率ではなく、定格使用率をそのまま用いてもよい。
【0042】
ワイヤ送給装置2は、ワイヤ電極を溶接トーチ3に送り出すものである。また、ワイヤ送給装置2は、ガスボンベ6のシールドガスを溶接トーチ3の先端に供給する。また、ワイヤ送給装置2は、溶接電源装置1との間で、各種通信信号の送受信を行う。ワイヤ送給装置2は溶接トーチ3からトーチ情報を取得し、取得したトーチ情報を溶接電源装置1に送信する。ワイヤ送給装置2は、
図1に示すように、電源部21、通信部22、制御部23、送給モータ24、ガス電磁弁25、および、コネクタ26を備えている。
【0043】
電源部21は、制御部23、送給モータ24、および、ガス電磁弁25に電力を供給するものである。電源部21は、電源接続線51,52’を介して、溶接電源装置1(送給装置用電源部12)から電力が供給され、制御部23、送給モータ24、および、ガス電磁弁25のそれぞれに適した電圧に変換して出力する。電源部21は、溶接電源装置1から供給される電力を蓄積するコンデンサ、コンデンサから電源接続線51,52’に電流が逆流するのを防ぐためのダイオード、制御部23、送給モータ24、および、ガス電磁弁25に出力する電圧を調整するためのDC/DCコンバータを備えている。なお、電源部21の構成は、上記したものに限定されない。
【0044】
通信部22は、電源接続線51およびパワーケーブル41を介して、溶接電源装置1との間で通信を行うためのものである。通信部22は、結合回路を備えている。当該結合回路は、通信部22の入出力端に接続されたコイルと、電源接続線51,52’に並列接続されたコイルとを磁気結合させた高周波トランスを備えており、通信部22が出力する通信信号を電源接続線51,52’に重畳し、また、電源接続線51,52’に重畳された通信信号を検出する。すなわち、通信部22もPLC通信を行う。電源接続線52’は、ワイヤ送給装置2の内部で、パワーケーブル41に接続しているので、通信信号は、電源接続線51とパワーケーブル41との間に重畳される。
【0045】
通信部22は、溶接電源装置1から受信した通信信号を復調して、制御部23に出力する。溶接電源装置1から受信する通信信号には、例えば、溶接電流の検出値、異常信号、ワイヤ送給指令やガス供給指令などの信号、および、溶接トーチ3の保護を促す警告信号などがある。また、通信部22は、制御部23から入力される信号を変調して、通信信号として溶接電源装置1に送信する。溶接電源装置1に送信する通信信号には、例えば、溶接条件を設定するための信号、溶接用電源部11の起動を指示する起動信号、溶接電圧の検出値、および、溶接トーチ3のトーチ情報などがある。なお、溶接電源装置1との間で送受信される通信信号は、上記したものに限定されない。通信部22も、通信部13と同様に、DSSS通信方式を用いて通信を行う。
【0046】
制御部23は、ワイヤ送給装置2の制御を行うものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御部23は、溶接トーチ3に設けられているトーチスイッチ32より入力される起動のための操作信号に応じて、溶接電源装置1の溶接用電源部11を起動するための起動信号を通信部22に出力する。また、図示しない操作部より入力される溶接条件を変更するための操作信号に応じて、ワイヤ送給装置2に備わる記憶部(図示しない)に記憶されている溶接条件を変更する。制御部23は、予め設定された送信周期ごとに、記憶部に記憶されている溶接条件を読み出して、通信部22に出力する。また、制御部23は、通信部22より入力される溶接電流の検出値、または、図示しない電圧センサによって検出された溶接電圧の検出値を図示しない表示部に表示させたり、通信部22より入力される異常信号に基づいて、図示しない報知部に異常を報知(例えば、スピーカによる警告音や振動による報知)させたりする。また、制御部23は、通信部22からワイヤ送給指令を入力されている間、送給モータ24に送給を行わせて、溶接トーチ3にワイヤ電極を送り出す。また、通信部22からガス供給指令を入力されている間、ガス電磁弁25を開放して、ガスボンベ6のシールドガスを溶接トーチ3の先端から放出させる。
【0047】
さらに、制御部23は、溶接トーチ3がワイヤ送給装置2(コネクタ26)に接続されると、溶接トーチ3に記憶されるトーチ情報を、通信線81を介して取得する。取得したトーチ情報は、通信部22に出力される。
【0048】
送給モータ24は、溶接トーチ3にワイヤ電極の送給を行うものである。送給モータ24は、制御部23からのワイヤ送給指令に基づいて回転し、送給ローラを回転させて、ワイヤ電極を溶接トーチ3に送り出す。
【0049】
ガス電磁弁25は、ガスボンベ6と溶接トーチ3とを接続するガス配管7に設けられており、制御部23からのガス供給指令に基づいて開閉される。制御部23からガス供給指令が入力されている間、ガス電磁弁25は開放され、溶接トーチ3へシールドガスの供給が行われる。一方、制御部23からガス供給指令が入力されていないときは、ガス電磁弁25は閉鎖され、溶接トーチ3へのシールドガスの供給が停止される。
【0050】
コネクタ26は、溶接トーチ3とワイヤ送給装置2とを接続するための接続用端子である。例えば、コネクタ26は、凹型の接続用端子であり、溶接トーチ3の凸型のトーチプラグ34(後述)をコネクタ26に差し込むことで、溶接トーチ3とワイヤ送給装置2とを接続することができる。よって、このコネクタ26にトーチプラグ34に抜き差しすることで、各種溶接トーチ3をワイヤ送給装置2に着脱することができる。
【0051】
溶接トーチ3は、溶接電源装置1からワイヤ送給装置2を介して供給される溶接電力により、被加工物Wの溶接を行う。この溶接トーチ3の冷却方式は、空冷方式である。なお、冷却方式が空冷方式の溶接トーチを例に説明するが、冷却方式が水冷方式の溶接トーチであってもよい。
図3は、溶接トーチ3の構成例を示す図であり、図示するように、溶接トーチ3は、トーチボディ31、トーチスイッチ32、トーチケーブル33、トーチプラグ34を備えている。なお、
図3には、トーチケーブル33の長軸方向(一部分)の断面拡大図も記載している。
【0052】
トーチボディ31の先端には、ノズル311およびコンタクトチップが設けられている。ワイヤ電極は、電極と熔加材を兼ねており、コンタクトチップにより、溶接電源装置1から供給される溶接電力をワイヤ電極に供給し、アークが形成される。また、トーチボディ31には、メモリ312が設けられ、当該溶接トーチ3に関するトーチ情報が記憶されている。メモリ312に記憶されるトーチ情報には、溶接トーチ3の定格電流、定格使用率が含まれている。このトーチボディ31は溶接トーチ3のグリップ部分としての役割を持ち、作業者は、このトーチボディ31を持って、溶接作業を行う。なお、
図3において、メモリ312や通信線81は、トーチボディ31内部に配置され、外部に露出していないため、点線で示している。
【0053】
トーチスイッチ32は、溶接電源装置1を起動させるためのスイッチであり、トーチボディ31に取り付けられている。このトーチスイッチ32が押下されている間、溶接用電源部11を起動(動作)させるための起動信号が、通信線81を介して、ワイヤ送給装置2に送られる。そして、ワイヤ送給装置2から溶接電源装置1に通信部22、13を介して送受信される。これにより、作業者がトーチスイッチ32を押下している間、溶接電源装置1に起動信号が入力されるため、溶接電源装置1から溶接電力が溶接トーチ3に供給される。
【0054】
トーチケーブル33は、トーチボディ31の一端(先端とは反対側の端)に接続されたケーブルであり、
図3の断面拡大図に示すように、ケーブル内部にパワーケーブル41’、ワイヤガイドライナ、ガスホース、および、通信線81が配置されている。なお、ワイヤガイドライナやガスホースの図への記載は省略する。パワーケーブル41’は、ワイヤ送給装置2から溶接トーチ3に溶接電力を供給するものである。このパワーケーブル41’は、パワーケーブル41と電気的に接続されている。ワイヤガイドライナは、ワイヤ送給装置2から溶接トーチ3にワイヤ電極を導くものである。ガスホースは、ワイヤ送給装置2から溶接トーチ3にシールドガスを供給するものである。通信線81は、溶接トーチ3とワイヤ送給装置2との間での通信信号を伝搬するためのものである。例えば、溶接トーチ3のメモリ312に記憶されるトーチ情報をワイヤ送給装置2に送ったり、溶接用電源部11の起動信号を送ったりする。
【0055】
トーチプラグ34は、溶接トーチ3をワイヤ送給装置2に接続するための接続用端子である。このトーチプラグ34をワイヤ送給装置2のコネクタ26に挿入することで、溶接トーチ3をワイヤ送給装置2に接続することができる。
【0056】
このように構成された第1実施形態に係る溶接システムAにおける溶接電力の供給制御について、
図4および
図5を用いて説明する。この溶接システムAにおける溶接電力の供給制御は、トーチ情報の取得処理(
図4)と、定格電流および定格使用率に基づく溶接トーチ3の保護制御処理(
図5)と、の2つの処理により実行される。
【0057】
まず、溶接電源装置1が行うトーチ情報の取得処理について、
図4を用いて説明する。ワイヤ送給装置2に溶接トーチ3が接続されると(ステップS101)、ワイヤ送給装置2の制御部23は、接続された溶接トーチ3のメモリ312から通信線81を介して、トーチ情報を取得する(ステップS102)。ワイヤ送給装置2の制御部23は、トーチ情報を取得すると、取得したトーチ情報を通信部22に出力し、通信部22は、入力されたトーチ情報を電源接続線51およびパワーケーブル41に重畳させ、電力線通信により溶接電源装置1に送信する(ステップS103)。
【0058】
溶接電源装置1の通信部13は、電源接続線51およびパワーケーブル41に重畳されたトーチ情報を検出し、トーチ情報を受信する(ステップS104)。通信部13は、受信したトーチ情報を制御部14に出力し、制御部14は、入力されたトーチ情報を記憶部15に記憶させる(ステップS105)。このトーチ情報の取得処理は、ワイヤ送給装置2に溶接トーチ3が接続される度に実行される。
【0059】
次に、上記トーチ情報の取得処理により、溶接電源装置1にトーチ情報が記憶された後に行う定格電流および定格使用率に基づく溶接トーチ3の保護制御処理について、
図5を用いて説明する。
【0060】
溶接トーチ3のトーチスイッチが押下される(ステップS201のYES)と、溶接トーチ3は起動信号を、ワイヤ送給装置2を介して、溶接電源装置1に送信する。溶接電源装置1は、起動信号を受信すると、溶接電源装置1に設定された溶接電流(設定電流)を確認し、設定電流が記憶部15に記憶される溶接トーチ3の定格電流より大きいか否かを判断する(ステップS202)。このとき、設定電流が定格電流より大きいと判断した場合、その旨を警告し、溶接電力の出力(すなわち、溶接トーチ3への溶接電力の供給)を抑止する(ステップS203)。ここで行われる警告としては、例えば、溶接電源装置1からワイヤ送給装置2に警告信号を送信し、ワイヤ送給装置2に備えた報知部が音声による警告(アラーム音や「設定電流は、溶接トーチの定格電流以上です。」などの発話)を行う。一方、設定電流が定格電流より小さいと判断した場合、設定電流と定格電流、および、定格使用率に基づき、溶接トーチ3の許容使用率を算出する(ステップS204)。
【0061】
そして、制御部14は、溶接用電源部11を制御し、溶接電力の供給を開始する(ステップS205)。溶接電力の供給が開始されると、制御部14は、溶接電力が供給されている時間の計測を行い、この計測した時間に基づき、実使用率を算出する(ステップS206)。制御部14は、算出した実使用率がステップS204で算出した許容使用率を超えたか否かを判断する(ステップS207)。その結果、実使用率が許容使用率を超えていると判断した場合、その旨を警告し、溶接電力の供給を停止させる(ステップS208)。ここで行われる警告としては、例えば、溶接電源装置1からワイヤ送給装置2に警告信号を送信し、ワイヤ送給装置2に備えた報知部が音声による警告(アラーム音や「使用率がオーバーしました。」などの発話)を行う。なお、好ましくは、このときのアラーム音は、ステップS203の時の警告音とは異なる音色にしておくとよい。一方、実使用率が許容使用率を超えていないと判断した場合には、溶接電力の供給を継続し、ステップS206の処理に戻る。このとき、ステップS205で溶接電力の供給が開始された後、トーチスイッチ32をオフ(トーチスイッチ32の押下をやめた)場合には、ステップS201に戻り、再度トーチスイッチ32が押下されるまで待機する。この溶接トーチ3の保護制御処理は、設定電流が変更される毎や異なる溶接トーチ3が接続される毎に行われる。
【0062】
以上で説明したように、本発明の第1実施形態に係る溶接システムAによれば、ワイヤ送給装置2が溶接トーチ3に記憶されるトーチ情報を取得し、ワイヤ送給装置2は、取得したトーチ情報を溶接電源装置1に送信し、溶接電源装置1はこれを受信する。これにより、溶接電源装置1は、ワイヤ送給装置2に接続された溶接トーチ3のトーチ情報を認識することができ、トーチ情報に基づく溶接トーチ3の保護制御処理が可能となる。これにより、作業者が溶接トーチ3の仕様を超えて使用することを防止でき、溶接トーチ3の焼損を防止することができる。
【0063】
上記第1実施形態に係る溶接システムAの溶接トーチ3の保護制御処理において、ステップS203で、溶接電力の供給抑止を行う場合を例に説明したが、溶接電力の供給を抑止するのではなく、溶接電源装置1から溶接トーチ3に供給する溶接電力(溶接電流)が、溶接トーチ3に規定された定格電流値以下になるように制限してもよい。
【0064】
上記第1実施形態に係る溶接システムAの溶接トーチ3の保護制御処理において、ステップS203およびステップS208で、警告の報知と溶接電力の供給抑止(または供給停止)とを同時に行う場合を例に説明したが、警告を報知した後、所定時間経過してもその状況が改善されない場合(設定電流が変更されない場合、または、トーチスイッチ32をオフにしない場合)に、溶接電力の供給を抑止(または供給を停止)するようにしてもよい。
【0065】
上記第1実施形態に係る溶接システムAの溶接トーチ3の保護制御処理において、トーチスイッチ32が押下されてから、設定電流と定格電流とを比較する順序で説明したが、トーチスイッチ32が押下される前であってもよい。具体的には、溶接電源装置1に設定電流が設定された時点で、設定電流と定格電流とを比較し、比較結果に応じて、警告を報知するようにしてもよい。
【0066】
上記第1実施形態に係る溶接システムAにおいて、溶接トーチ3のメモリ312にトーチ情報(定格電流および定格使用率)を記憶しておき、トーチ情報を溶接電源装置1に送信する例を説明したが、これに限られず、例えば、溶接トーチ3の種別毎に固有に割り当てられた識別ID(トーチID)を記憶しておき、これを送信するようにしてもよい。この場合、記憶部15に、溶接トーチ3のトーチIDとトーチ情報が対応付けられた識別IDテーブル(対応表)(
図6)を記憶しておき、制御部14は、取得したトーチIDからトーチ情報を特定するようにしてもよい。なお、トーチIDの代わりに、溶接トーチ3の型式(型番)を用いてもよい。このようにすることで、溶接トーチ3のメモリ312に記憶する情報量を少なくすることができるため、メモリ312の小型化ができ、溶接トーチ3の可搬性が良くなる。
【0067】
上記第1実施形態に係る溶接システムAにおいて、溶接電源装置1とワイヤ送給装置2との間で、PLC通信により、各種通信信号の送受信を行う例を説明したが、これに限られず、無線LANやBluetooth(登録商標)といった無線通信を用いて、各種通信信号の送受信を行うようにしてもよい。例えば、
図7に示す溶接システムA’は、溶接システムAの通信部13を通信部13’に、通信部22を通信部22’に置き換えたものである。通信部13’と通信部22’はともに、送受信アンテナを備えた無線通信モジュールにより構成される。この通信部13’,22’は、同一の無線通信規格により、無線通信を行い、各種通信信号の送受信を行う。このように構成される溶接システムA’においても、同様に、溶接電源装置1が溶接トーチ3のトーチ情報を認識することができる。
【0068】
上記第1実施形態に係る溶接システムAにおいて、溶接トーチ3のトーチ情報として定格電流および定格使用率をメモリ312に記憶させておき、この定格電流および定格使用率に基づき、溶接トーチ3の保護制御を実行する場合を例に説明したが、溶接トーチ3のトーチ情報として、さらに、溶接トーチ3が耐えられる限界温度(以下、「使用限界温度」という。)や溶接トーチ3を冷却する水冷装置を起動させる指標となる温度(以下、「起動温度」という。特許請求の範囲の「水冷装置起動温度」に相当。)を、含ませておき、この使用限界温度や起動温度に基づき、溶接トーチ3の保護制御処理を実行する構成を加えてもよい。このようにすることで、溶接トーチ3の保護がより確実なものとなる。この場合を第2実施形態として、以下に説明する。
【0069】
図8は、本発明の第2実施形態に係る溶接システムBの全体構成を説明するための図である。同図において、第1実施形態に係る溶接システムA(
図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号番号を付して、その説明を省略する。なお、
図8においては、溶接電源装置1’、ワイヤ送給装置2’、および、溶接トーチ3’の内部構成の一部の記載を省略している。図示するように、溶接システムBは、溶接電源装置1’、ワイヤ送給装置2’、溶接トーチ3’、パワーケーブル41,42、電源接続線51,52,52’(図示省略)、ガスボンベ6、ガス配管7、および、水冷装置9を備えている。第1実施形態に係る溶接システムAに比べ、水冷装置9を備えている点で異なる。さらに、溶接トーチ3’には、後述する温度センサ313が新たに設けられているとともに、当該溶接トーチ3’に関するトーチ情報として、溶接トーチ3’の定格電流、定格使用率、使用限界温度、および、水冷装置9の起動温度が含まれる。この点も第1実施形態に係る溶接システムAと異なる。
【0070】
水冷装置9は、溶接トーチ3’を冷却するための冷却水を循環させるものである。水冷装置9は、溶接電源装置1’(制御部14’)に接続されており、溶接電源装置1’からの指示により、冷却水の循環の開始および停止を行う。水冷装置9は、復水側ホース92を介して溶接トーチ3’から送られる冷却水を、ラジエータで放熱させることで冷却する。また、冷却された冷却水を、循環ポンプによって、送水側ホース91を介して、溶接トーチ3’に送り出す。水冷装置9から送り出された冷却水は、送水側ホース91により、溶接電源装置1’およびワイヤ送給装置2’を介して、溶接トーチ3’に供給される。そして、溶接トーチ3’で高温になった冷却水は、復水側ホース92により、ワイヤ送給装置2’および溶接電源装置1’を介して、水冷装置9に戻ってくる。水冷装置9に戻ってきた高温の冷却水は、ラジエータで冷却され、再び溶接トーチ3’に送り出される。また、ラジエータと循環ポンプの間には、冷却水を蓄えておくためのタンクがある。なお、ラジエータや循環ポンプ、タンクなどの図示および説明は省略する。
【0071】
溶接電源装置1’は、アーク溶接のための溶接電力を、ワイヤ送給装置2’を介して、溶接トーチ3’に供給するものである。溶接電源装置1’は、第1実施形態に係る溶接電源装置1と同様に、PLC通信により、ワイヤ送給装置2’と通信を行う。溶接電源装置1’は、ワイヤ送給装置2’から溶接トーチ3’のトーチ情報を受信し、このトーチ情報に基づいて、溶接トーチ3’の保護制御処理を実行する。さらに、溶接電源装置1’は、溶接トーチ3’からワイヤ送給装置2’を介して、入力される溶接トーチ3’の温度(以下、「トーチ温度」という。特許請求の範囲の「実使用温度」に相当。)に基づいても、溶接トーチ3’の保護制御処理を実行する。溶接電源装置1’は、溶接用電源部11、送給装置用電源部12、通信部13、制御部14’、記憶部15’を備えている。
【0072】
制御部14’は、第1実施形態に係る制御部14と同様に、溶接電源装置1’の制御を行うものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現される。制御部14’は、第1実施形態に示すトーチ情報の取得処理(
図4参照)と同様の処理を実行することで、溶接トーチ3’からワイヤ送給装置2’を介してトーチ情報(定格電流、定格使用率、使用限界温度、および、起動温度)を取得し、記憶部15’に記憶する。これにより、記憶部15’には、トーチ情報として定格電流、定格使用率、使用限界温度、および、起動温度が記憶される。
【0073】
制御部14’は、制御部14と同様に、定格電流および定格使用率に基づく溶接トーチ3’の保護制御処理を実行するとともに、溶接トーチ3’からワイヤ送給装置2’を介して入力されるトーチ温度を確認し、トーチ温度が記憶部15’に記憶される起動温度以上となった場合、水冷装置9に対して、冷却水の循環を開始するように指示する。一方、トーチ温度が起動温度より低い場合には、冷却水の循環を行わない(冷却水の循環が行われている場合は、停止させる)。本実施形態では、トーチ温度に基づき、水冷装置9による冷却水の循環の開始および停止する場合について説明するが、トーチ温度に基づき、水冷装置9から送水される冷却水の流量を変更するようにしてもよい。例えば、水冷装置9が常時冷却水を循環するように構成されている場合、トーチ温度が低くなるにつれて、冷却水の流量を少なくし、反対に、トーチ温度が高くなるにつれて、冷却水の流量を多くする。また、水冷装置9による冷却水の循環の開始および停止と、冷却水の流量の変更と、の両方を行い、トーチ温度が起動温度以上になった場合に、水冷装置9を起動させ、以後、トーチ温度の上昇に伴い、徐々に冷却水の流量を多くするようにしてもよい。
【0074】
さらに、制御部14’は、入力されるトーチ温度が、記憶部15’に記憶した使用限界温度を超えたとき、溶接トーチ3’の保護制御を実行する。このときの保護制御としては、第1実施形態と同じであり、例えば、図示しない報知部に報知させたり、溶接用電源部11を停止させ、溶接電力の出力を停止させたりする。ここで、記憶部15’に記憶される起動温度は、トーチ温度が使用限界温度に到達する前に、水冷装置9による冷却水の循環を行わせる必要があるため、使用限界温度より低い温度が設定される。なお、起動温度は、記憶した使用限界温度に基づき、制御部14’により自動的に設定されるように構成されていてもよい。例えば、起動温度として、使用限界温度に対して20°C低い温度が設定されたり、使用限界温度の75%の温度などが設定されたりする。
【0075】
ワイヤ送給装置2’は、ワイヤ電極を溶接トーチ3’に送り出すためのものである。ワイヤ送給装置2’は、第1実施形態に係るワイヤ送給装置2と同様に、PLC通信により、溶接電源装置1’と、通信を行う。ワイヤ送給装置2’は、電源部21、通信部22、制御部23’、送給モータ24、ガス電磁弁25、および、コネクタ26を備えている。
【0076】
制御部23’は、溶接トーチ3’から通信線81を介してトーチ情報を取得する。そして、制御部23’は、通信部22を介して、取得したトーチ情報を溶接電源装置1’に送信する。また、制御部23’は、溶接トーチ3’から入力されるトーチ温度を、通信部22を介して、溶接電源装置1’に送信する。
【0077】
溶接トーチ3’は、溶接電源装置1’からワイヤ送給装置2’を介して供給される溶接電力により、被加工物Wの溶接を行う。この溶接トーチ3’の冷却方式は、水冷方式である。
図9は、溶接トーチ3’の構成を示す図であり、トーチボディ31’、トーチスイッチ32、トーチケーブル33’、トーチプラグ34を備えている。
【0078】
トーチボディ31’は、第1実施形態に係るトーチボディ31に対して、温度センサ313が新たに設けられている。この温度センサ313は、溶接トーチ3’のトーチ温度を測定し、通信線81を介して、測定したトーチ温度をワイヤ送給装置2’(制御部23’)に出力する。そして、ワイヤ送給装置2’に入力されたトーチ温度は、通信部22から送信され、通信部13が受信することで、溶接電源装置1’に出力される。温度センサ313は、一定期間毎にトーチ温度を測定し、測定したトーチ温度をワイヤ送給装置2’に出力する。
【0079】
温度センサ313として、例えば、サーミスタが取り付けられている。サーミスタは、2本のリード線を介して、図示しない温度測定部に接続されている。温度測定部は、サーミスタに電流を流し、2本のリード線間の電位差を測定して、サーミスタの抵抗値を算出し、算出された抵抗値に対応する温度を演算する。これにより、温度測定部は溶接トーチ3’のサーミスタに接する部分の温度Tを測定している。温度測定部は、検出した温度Tを、通信線81を介して、ワイヤ送給装置2’に出力する。
【0080】
なお、温度測定部をワイヤ送給装置2’に設けておき、サーミスタのリード線をトーチケーブル33’の内部に配置し、サーミスタと温度測定部を接続する構成であってもよい。温度測定部をワイヤ送給装置2’に設けておいた方が、溶接トーチ3’に温度測定部を設ける必要がなくなるため、溶接トーチ3’の構成を簡略化することができる。また、サーミスタが取り付けられる位置は限定されない。溶接トーチ3’のノズル311が取り付けられるトーチボディ31’の先端付近にサーミスタを取り付ければ、先端付近の温度を検出できるので、より精度の高い冷却制御を行うことができる。本実施形態では、温度センサとしてサーミスタを用いているが、これに限られず、熱電対や赤外線温度センサなどの他の温度センサを用いてもよい。
【0081】
メモリ312’には、トーチ情報として、第1実施形態と同様に溶接トーチ3’の定格電流や定格使用率を記憶するとともに、さらに、起動温度(水冷装置9を起動させる指標となる温度)および使用限界温度(溶接トーチ3’が耐えられる限界温度)も記憶されている。
【0082】
トーチケーブル33’は、ケーブル内部にパワーケーブル41’、ワイヤガイドライナ、ガスホース、通信線81、送水側ホース91、および、復水側ホース92が、配置されている。すなわち、第1実施形態に係るトーチケーブル33に比べ、送水側ホース91および復水側ホース92が追加されている。上記のとおり、送水側ホース91は、水冷装置9から溶接電源装置1’およびワイヤ送給装置2’を介して溶接トーチ3’に冷却水を送るものであり、復水側ホース92は、溶接トーチ3’からワイヤ送給装置2’および溶接電源装置1’を介して水冷装置9に冷却水を送るものである。送水側ホース91によって水冷装置9から溶接トーチ3’に供給された冷却水は、溶接トーチ3’のトーチボディ内部を流れて熱を吸収して、復水側ホース92によって、溶接トーチ3’から水冷装置9に戻される。また、送水側ホース91および復水側ホース92はパワーケーブル41’に接するようにトーチケーブル33’内に配置されているので、冷却水は、パワーケーブル41’の冷却も行う。
【0083】
このように構成された第2実施形態に係る溶接システムBにおける溶接電力の供給制御について、
図10を用いて説明する。この溶接システムBにおける溶接電力の供給制御は、トーチ情報の取得処理(
図4)と、定格電流、定格使用率、および、トーチ温度に基づく溶接トーチ3’の保護制御処理(
図10)と、の2つの処理により実行される。なお、トーチ情報の取得処理は、第1実施形態に係るトーチ情報の取得処理と同じであるため、その説明を省略し、溶接トーチ3’の保護制御処理について説明する。
【0084】
溶接電源装置1’の記憶部15’には、トーチ情報の取得処理により、溶接トーチ3’の定格電流、定格使用率、起動温度、および、使用限界温度が記憶されているものとする。第2実施形態に係る溶接トーチ3’の保護制御処理は、第1実施形態に係る溶接トーチ3の保護制御処理に比べ、ステップS301〜S305が追加されている。
【0085】
第1実施形態に係る溶接トーチ3の保護制御処理と同様の処理(S201〜S208)が実行され、算出した実使用率が溶接トーチ3’の許容使用率を超えていないと判断すると、続いて、溶接電源装置1’(制御部14’)は、ワイヤ送給装置2’から入力されるトーチ温度を確認する(ステップS301)。そして、確認したトーチ温度が記憶部15’に記憶される起動温度以上であるか否かを判断する(ステップS302)。その結果、起動温度以上であると判断した場合には、制御部14’は、水冷装置9に起動指示を出力し、冷却水を循環させる(ステップS303)。これにより、溶接トーチ3’の冷却が行われる。一方、ステップS302で、起動温度未満であると判断した場合には、ステップS206に戻り、実使用率を算出し、許容使用率を超えているか否かの判断に戻る。このステップS302において、起動温度未満であると判断した場合、制御部14’は、すでに水冷装置9が冷却水の循環を開始させている場合には、冷却水の循環を停止するように水冷装置9に指示を出力する。
【0086】
溶接電源装置1’は、水冷装置9を起動させ、冷却水を循環させると、続いて、トーチ温度が使用限界温度を超えたか否かを判断する(ステップS304)。その結果、使用限界温度以上であると判断した場合は、その旨を警告し、溶接電力の出力(すなわち、溶接トーチ3’への溶接電力の供給)を停止させる(ステップS305)。ここで行われる警告としては、例えば、溶接電源装置1’からワイヤ送給装置2’に警告信号を送信し、ワイヤ送給装置2’に備えた報知部が音声による警告(アラーム音や「溶接トーチ3’の温度が使用可能な限界温度を超えました。」などの発話)を行う。なお、好ましくは、このときのアラーム音は、ステップS203およびステップS208の時の警告音とは異なる音色にしておくとよい。一方、溶接トーチ3’のトーチ温度が使用限界温度以下であれば、ステップS206に戻り、実使用率を算出し、許容使用率を超えているか否かの判断に戻る。このとき、ステップS205で溶接電力の供給が開始された後、トーチスイッチ32をオフ(トーチスイッチ32の押下をやめた)場合には、ステップS201に戻り、再度トーチスイッチ32が押下されるまで待機する。この溶接トーチ3’の保護制御処理は、設定電流が変更される毎や異なる溶接トーチ3’が接続される毎に行われる。
【0087】
以上で説明したように、本発明の第2実施形態に係る溶接システムBによれば、ワイヤ送給装置2’が溶接トーチ3’に記憶されるトーチ情報を取得し、ワイヤ送給装置2’は、取得したトーチ情報を溶接電源装置1’に送信し、溶接電源装置1’はこれを受信する。また、溶接トーチ3’に設けた温度センサ313が測定したトーチ温度が、溶接トーチ3’からワイヤ送給装置2’を介して、溶接電源装置1’に出力される。これにより、溶接電源装置1’は、ワイヤ送給装置2’に接続された溶接トーチ3’のトーチ情報を認識することができるとともに、溶接トーチ3’の実使用温度(トーチ温度)を認識することができ、トーチ情報およびトーチ温度に基づく溶接トーチ3の保護制御処理が可能となる。これにより、作業者が溶接トーチ3’の仕様を超えて使用することを防止でき、溶接トーチ3’の焼損を防止することができる。
【0088】
上記第2実施形態に係る溶接システムBの溶接トーチ3’の保護制御処理において、ステップS203、ステップS208、および、ステップS305で、警告の報知と溶接電力の供給抑止(または供給停止)とを同時に行う場合を例に説明したが、警告を報知した後、所定時間経過してもその状況が改善されない場合(設定電流が変更されない場合、または、トーチスイッチ32をオフにしない場合)に、溶接電力の供給を抑止(または供給を停止)するようにしてもよい。
【0089】
上記第2実施形態に係る溶接システムBにおいて、起動温度を、溶接トーチ3’のトーチ情報として記憶しておいた場合を例に説明したが、これに限られない。この起動温度を各種溶接トーチ3’で共通として、溶接電源装置1’の記憶部15’に予め記憶しておいてもよい。また、水冷装置9に記憶しておき、溶接電源装置1’が水冷装置9から取得するようにしてもよい。
【0090】
上記第2実施形態に係る溶接システムBにおいて、起動温度が固定の温度である場合を例に説明したが、これに限られず、変更可能な構成であってもよい。例えば、作業者が溶接電源装置1’(あるいは、水冷装置9、ワイヤ送給装置2’)の操作部を操作することで、手動で調整できるものであってもよく、使用環境に応じて自動で調整できるものであってもよい。使用環境の一例として、外気温があり、図示しない外気温計を溶接トーチ3’やワイヤ送給装置2’の付近に備えておき、この外気温計により測定される外気温に応じて、自動で調整される。外気温が基準温度(例えば40°C)より低い場合、外気温により溶接トーチ3’が冷やされるため、起動温度を予め設定された起動温度より高くするようにし、一方、外気温が基準温度(40°C)以上の場合、外気温により溶接トーチ3’が冷やされにくいため、起動温度を予め設定された起動温度より低くするようにしてもよい。なお、基準温度は一例であり、いかなる温度であってもよい。
【0091】
上記第2実施形態に係る溶接システムBにおいて、溶接トーチ3’の冷却方式が水冷方式である場合を例に説明したが、ワイヤ送給装置2’に空冷方式の溶接トーチ3’が接続される可能性があるため、トーチ情報として、さらに、冷却方式(水冷方式か空冷方式)を示す情報を加えておき、この冷却方式に応じて、保護制御を変えるようにしてもよい。例えば、空冷方式の溶接トーチが接続された場合、水冷装置9を起動させても、溶接トーチ3’(トーチケーブル33’)には、送水側ホース91および復水側ホース92を備えていないため、冷却水を循環できない。よって、溶接トーチ3’の冷却方式が空冷方式である場合は、水冷装置9の起動は行わず、トーチ温度が上昇していることを示す警告を報知するだけにする。
【0092】
上記第2実施形態に係る溶接システムBにおいても、溶接トーチ3’のメモリ312’にトーチ情報(定格電流、定格使用率、および、使用限界温度)を記憶しておき、トーチ情報を溶接電源装置1’に送信する例を説明したが、第1実施形態と同様に、メモリ312’にトーチIDを記憶しておき、これを送信するようにしてもよい。この場合に記憶部15’に記憶される識別IDテーブルは、溶接トーチ3’のトーチIDに対して、定格電流、定格使用率、および、使用限界温度が対応付けられている。
【0093】
上記第1実施形態および上記第2実施形態において、定格電流、定格使用率、使用限界温度、および、起動温度に基づき溶接トーチの保護制御処理を実行する例を説明したが、これに限られない。すなわち、溶接トーチに規定された各種仕様情報に基づき溶接トーチの保護制御処理を実行すればよい。
【0094】
本発明の実施の形態として、半自動アーク溶接を行う溶接システムを例に説明したが、これに限定されるものではなく、溶接電源装置、ワイヤ送給装置、および、溶接トーチを備え、溶接トーチは、ワイヤ送給装置2に着脱可能な溶接システムであれば、適用可能である。
【0095】
また、本発明に係る溶接システムおよび溶接システムの制御方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲を逸脱しなければ、各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。