(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るコイルボビンの実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
以下の説明では、変圧器の一次コイルと二次コイルに用いられるコイルボビンについて説明する。本実施の形態に係る変圧器は、一次巻線を整列巻きした一次コイルの外側に二次巻線を整列巻きした二次コイルを同心状に配置し、両コイルの脚部の外側に円筒状の鉄心を配置した構造を有している。本発明に係るコイルボビンは、特に、変圧器の一次コイルと二次コイルを製作するために用いられるものである。
【0022】
図1は、本発明に係る変圧器の主要部の構成を示す斜視図である。
図2は、同変圧器の回路構成を示す図である。
【0023】
図1に示す変圧器Aは、配電用変圧器に適用されるもので、複数のタップ(本実施の形態では、4個)を有する。
図1に示す変圧器Aは、
図2に示す変圧器Aの回路構成の点線で示す部分に相当している。
【0024】
変圧器Aは、一次コイル1(
図1では見えていない。
図14参照)の外側に二次コイル2を同心状に配置した長方形のリング形状を有するコイル部Bと、コイル部Bの2つの長辺の部分(脚部)の一方に装着された円筒状の鉄心Cとを備える。一次コイル1と二次コイル2は、後述するようにそれぞれコイルボビン101(
図3,
図4参照)とコイルボビン201(
図9,
図10参照)を用いて製作されている。一次コイル1と二次コイル2の構造については後述する。
【0025】
変圧器Aの一次コイル1は、
図2に示すように、一次巻線102の巻数n
1の主要部を構成する巻線1021(以下、「主要巻線1021」という。)と、一次巻線102の巻数n
1の巻線調整部(巻数n
1の巻数を調整する部分)を構成する巻線1022(以下、「巻数調整用巻線1022」という。)を有する。巻数調整用巻線1022は、3個の小巻線1022a,1022b,1022cを有する。
【0026】
一方、二次コイル2の二次巻線202は、一次巻線102の巻数n
1よりも少ない巻数n
2を有し、二次巻線202の中間位置cは接地されるようになっている。
【0027】
変圧器Aの回路構成では、3個の小巻線1022a,1022b,1022cは直列に接続され、巻数調整用巻線1022の小巻線1022cと主要巻線1021が直列に接続される。そして、小巻線1022aと小巻線1022b、小巻線1022bと小巻線1022c、小巻線1022cと主要巻線1021の各接続点と小巻線1022aの開放された端子がタップとなる。
【0028】
図2に示す変圧器Aの回路構成は、
図1に示す変圧器Aをタンク(図示省略)に収納し、当該タンクに配設されるブッシングや当該タンクに内蔵されるタップ板TBやタップ切換器TLなどに所要の電気的な接続を行って完成される。
【0029】
タンクには、一次電圧v
1を印加するための一対の一次ブッシングBS1(+),BS1(−)と二次電圧v
2を出力するための3個の二次ブッシングBS2(+),BS2(−)
2,BS2(G)((G)は、接地されたブッシングであることを示す。)が配設されている。
【0030】
タップ板TBには4つの接続端子T
1〜T
4が設けられている。タップ切換器TLには4つのタップ端子P
1〜P
4と、切換レバーによっていずれかのタップ端子に接続されるコモン端子P
cとが設けられている。
【0031】
タップ板TBの接続端子T
1〜端子T
4は、タップ切換器TLのタップ端子P
1〜P
4にそれぞれ接続されている。タップ切換器TLのコモン端子P
cは、一次ブッシングBS1(+)に接続されている。
【0032】
図1に示すように、変圧器Aのコイル部Bからは主要巻線1021の両端部、小巻線1022a,1022b,1022cの各両端部、二次巻線202の両端部と中間位置cが引き出されている。
図1に示す引出線L
a1,L
a2は、小巻線1022aの両端から引き出された線であり、引出線L
b1,L
b2は、小巻線1022bの両端から引き出された線であり、引出線L
c1,L
c2は、小巻線1022cの両端から引き出された線であり、引出線L
d1,L
d2は、主要巻線1021の両端から引き出された線である。また、引出線L
e1,L
e2は、二次巻線202の両端から引き出された線であり、引出線L
e3は、二次巻線202の中間位置cから引き出された線である。
【0033】
変圧器Aがタンクに収納される際、主要巻線1021から引き出された一方の引出線L
d2は、一次ブッシングSB1(−)に接続され、他方の引出線L
d1は、タップ板TBの接続端子T
4に接続される。巻数調整用巻線1022の3個の小巻線1022a,1022b,1022cから引き出された引出線L
a1,L
a2,L
b1,L
b2,L
c1,L
c2は、引出線L
a1,L
a2が接続端子T
1と接続端子T
2に、引出線L
b1,L
b2が接続端子T
2と接続端子T
3に、引出線L
c1,L
c2が接続端子T
3と接続端子T
4にそれぞれ接続される。二次コイル2から引き出された引出線L
e1,L
e2,L
e3は、一次ブッシングSB1(+)と二次ブッシングBS2(−)と二次ブッシングBS2(G)にそれぞれ接続される。
【0034】
以上の配線により、タンクに収納された変圧器Aの回路構成は、
図2に示す回路構成となる。
【0035】
以下の説明では、本実施の形態に係る変圧器Aを配電用6600[V]/(210−105[V]変圧器に適用する場合について、説明する。
【0036】
6600[V]/(210−105)[V]変圧器が配置される需要家の周辺は、配電変電所からの距離によって一次電圧v
1が大きく変動するので、一般に、配電変電所からは6600[V]よりも高い電圧で送電される。このため、配電変圧器に印加される一次電圧v
1は、配電変電所に近い場所では6600[V]以上になり、配電変電所から遠い場所では6600[V]以下になることがある。
【0037】
本実施の形態に係る変圧器Aでは、タップ切換器TLでコモン端子P
cと接続するタップ端子P
1〜P
4を切り換えることにより、一次巻線102の巻数n
1を4種類に切り換えることができる。
【0038】
すなわち、変圧器Aは、一次電圧v
1の大きさによって一次コイル1の巻数n
1を4段階に調整し、二次コイル2から安定した(210−105)[V]の二次電圧v
2が出力できるようにしている。具体的には、一次電圧v
1をv
A、v
B、v
C、v
D(v
A>v
B>v
C>v
D)の4種類に分け、各電圧値に4つのタップを対応させている。
【0039】
変圧器Aの変圧比は、(v
1/v
2)=(n
1/n
2)で表される。v
2、n
2は固定であるから、一次巻線102の巻数n
1は、一次電圧v
1に比例する。本実施の形態では、3個の小巻線1022a,1022b,1022cの巻数を同一にするために、タップ間の電圧の差が全て同じになるように、各タップの一次電圧v
A、v
B、v
C、v
Dを設定している。例えば、v
A=6750[V]、v
B=6600[V]、v
C=6450[V]、v
D=6300[V]にしている。
【0040】
3個の小巻線1022a,1022b,1022cの巻数をn
sとすると、各タップの一次電圧v
A、v
B、v
C、v
Dに対応する一次巻線102の巻数n
1は、それぞれ(n
d+3×n
s)、(n
d+2×n
s)、(n
d+n
s)、n
dとなる。
【0041】
次に、一次コイル1と二次コイル2の構造について、説明する。まず、一次コイル1の構造について、
図3〜
図8を用いて説明する。
【0042】
図3は、変圧器の一次コイル1を製作するためのコイルボビン101を正面から見た図、
図4は、同コイルボビン101を右側面から見た図、
図5は、同コイルボビン101の
図4におけるX1−X1線断面図、
図6は、同コイルボビン101の
図4におけるX2−X2線断面図である。
図7は、同コイルボビン101の凹溝1012の底面1014Bに形成される巻数調整用巻線1022のガイド溝1016を示す図、
図8は、同コイルボビン101の凹溝1012の両即壁面1013Aと底面1013Bに形成される主要巻線1021のガイド溝1017を示す図である。
【0043】
以下の説明では、一次コイル1を製作するためのコイルボビンと二次コイル2を製作するためのコイルボビンを区別するため、一次コイル1用のコイルボビンを「第1のコイルボビン」と称し、二次コイル2用のコイルボビンを「第2のコイルボビン」と称する。
【0044】
また、
図3において、リング形状の外周に沿う面を「外周側面」と称し、内周に沿う面を「内周側面」と称し、
図4において、ボビン本体1011の左側の面を「正面」と称し、右側の面を「背面」と称して説明をする。
【0045】
一次コイル1は、第1のコイルボビン101を用いて長方形のリング状に成形される。第1のコイルボビン101は、
図3,
図4に示すように、背の低い長方形のリング形状を有するボビン本体1011を備える。ボビン本体1011は、本発明の環状体に相当し、樹脂を成形して製作されている。
【0046】
ボビン本体1011は、外周側面に一次巻線102を巻回するための凹溝1012が形成されており、外周側面以外の部分(ボビン本体1011の内周側面の部分)の外形形状が半円形状に成形されている(
図5,
図13参照)。
【0047】
ボビン本体1011の外周側面に形成された凹溝1012は、主要巻線1021が巻回される第1の凹溝1013と巻数調整用巻線1022が巻回される第2の凹溝1014を有する。第2の凹溝1014は、第1の凹溝1013の底面1013Bの幅方向(
図4において横方向)の中央に穿設されている。
【0048】
ボビン本体1011の内周側面の外形形状を半円形状にしているのは、ボビン本体1011の2つの長辺の部分の一方に、
図1に示すように、円筒状の鉄心Cが装着されるため、当該鉄心Cの穴の内側面をボビン本体1011に密着させるためである。従って、ボビン本体1011の外形形状を半円形状にした部分の半径は、鉄心Cの穴の半径より僅かに小さいサイズに設定されている。
【0049】
ボビン本体1011の正面側の長方形の外形寸法(L1(長手方向の長さ)×W1(短手方向の長さ))は、ボビン本体1011の背面側の長方形の外形寸法(L2(長手方向の長さ)×W2(短手方向の長さ))よりも小さいサイズに設定されている。これは、
図14に示すように、第1のコイルボビン101を第2のコイルボビン201の穴の部分に嵌入してコイル部Bを一次コイル1の外側に二次コイル2が同心状に配置された構造にするためである。
【0050】
従って、ボビン本体1011の正面側の長方形の外形寸法(L1×W1)は、第2のコイルボビン201の穴の部分の長方形の寸法(L3(長手方向の長さ)×W3(短手方向の長さ))(
図9参照)より僅かに小さいサイズに設定されている。一方、ボビン本体1011の背面側の長方形の外形寸法(L2×W2)は、長方形のリング形状を有する第2のコイルボビン201の外形寸法(L4(長手方向の長さ)×W4(短手方向の長さ))(
図9参照)と略同一の寸法に設定されている。
【0051】
ボビン本体1011の正面側のリング状の側面のうち、一方の長辺の部分(
図3では、右側の長辺の部分)に、4個の切り欠き部1015A,1015B,1015C,1015Dが設けられている。3個の切り欠き部1015A,1015B,1015Cは、第2の凹溝1014に巻回される3個の小巻線1022a,1022b,1022cの各両端部をそれぞれボビン本体1011の外部に引き出すためのものである。また、切り欠き部1015Dは、第1の凹溝1013に巻回される主要巻線1021の一方の端部をボビン本体1011の外部に引き出すためのものである。
【0052】
一方、ボビン本体1011の背面側のリング状の側面の、切り欠き部1015Dと向かい合う位置に、切り欠き部1015Eが設けられている(
図4参照)。切り欠き部1015Eは、第1の凹溝1013に巻回される主要巻線1021の他方の端部をボビン本体1011の外部に引き出すためのものである。以下の説明では、切り欠き部を「巻線引出部」と称する。
【0053】
3個の巻線引出部1015A,1015B,1015Cは、ボビン本体1011の外周側面から第2の凹溝1014の底面1014Bまでの深さを有し、ボビン本体1011の正面側から第2の凹溝1014まで貫通するように形成されている。
【0054】
一方、巻線引出部1015Dは、ボビン本体1011の外周側面から第1の凹溝1013の底面1013Bまでの深さを有し、ボビン本体1011の正面側から第1の凹溝1013まで貫通するように形成されている(
図5参照)。また、巻線引出部1015Eは、ボビン本体1011の外周側面から第1の凹溝1013の傾斜した内側壁1013Aの上端位置までの深さを有し、ボビン本体1011の背面側から第1の凹溝1013まで貫通するように形成されている(
図5参照)。
【0055】
第2の凹溝1014の
図4におけるX1−X1線断面(以下、この断面を「横断面」という。)の形状は、第2の凹溝1014の底面1014Bに対して両内壁面1014Aが垂直に立ち上がる形状(長方形の形状)を有している(
図5参照)。第2の凹溝1014の底面1014Bには、
図7に示すように、当該底面1014Bに巻き付けられる小巻線1022aが整列するように巻き付け位置をガイドするための第1のガイド溝1016が設けられている。
【0056】
第1のガイド溝1016は、巻数調整用巻線1022に用いられる巻線の線径をφ
1[mm]とすると、φ
1/2[mm]よりも短い溝幅を有する円弧状の断面形状を有する。第1のガイド溝1016は、第2の凹溝1014の底面1014Bの幅方向にφ
1[mm]のピッチでn
s/2[本]形成されている。
【0057】
本実施の形態では、
図13に示すように、巻数調整用巻線1022の小巻線1022aが、一方の端部を巻線引出部1015Aからボビン本体1011の外部に引き出した状態で第2の凹溝1014の内壁面1014Aから第1のガイド溝1016に沿って反対側の内壁面1014Aまで巻き付けられた後折り返して、巻回された小巻線1022aの上側に元の内壁面1014A(巻線引出部1015Aを有する内壁面1014A)まで巻き付けられた後、巻線引出部1015Aからボビン本体1011の外部に引き出すように、第1のコイルボビン101の第2の凹溝1014に2層構造で巻回される。
【0058】
巻数調整用巻線1022の小巻線1022bと小巻線1022cも小巻線1022aと同様にして、小巻線1022bは小巻線1022aの外側(小巻線1022aの層の上側)に下層の整列巻きされた巻線同士の窪みをガイドとして2層構造で巻回され、小巻線1022cは小巻線1022bの外側(小巻線1022bの層の上側)に下層の整列巻きされた巻線同士の窪みをガイドとして2層構造で巻回される。小巻線1022b,1022cの各層のターン数は、小巻線1022aと同様にn
s/2[ターン]である。
【0059】
第2の凹溝1014は、3個の小巻線1022a,1022b,1022cをそれぞれ1層当たりn
s/2ターンで整列巻きするために、横断面形状を長方形状にして第2の凹溝1014の幅方向の寸法が深さ方向で変化しないようにしている。各小巻線1022a,1022b,1022cの上層に整列巻きされる巻線は、下層に整列巻きされる巻線に対して底面1014Bの幅方向にφ
1/2[mm]だけ位置がずれるので、第2の凹溝1014の幅方向の寸法w1[mm](
図13参照)は、凡そw1=φ
1×(n
s/2)+φ
1/2=φ
1×(n
s+1)/2である。
【0060】
また、第2の凹溝1014の深さの寸法h
1[mm]は、小巻線1022a,1022b,1022cの各層の重なり部分の寸法をΔh
1[mm](
図7参照)とすると、凡そ(積層数−1)×(φ
1−Δh
1)+φ
1=5×(φ
1−Δh
1)+φ
1[mm]である。
【0061】
一方、第1の凹溝1013の横断面の形状は、第1の凹溝1013の底面1013Bに対して両内壁面1013Aが120°の傾斜角θでそれぞれ外側に傾斜した形状となっている(
図5参照)。この形状は、上底の長さが下底の長さよりも長い等脚台形の形状である。
【0062】
第1の凹溝1013の両内壁面1013Aを底面1013Bに対して120°の傾斜角θで外側に傾斜させているのは、両内壁面1013Aの部分で各層の巻線と内壁面1013Aの間に隙間が生じないようにするためである。
【0063】
第1の凹溝1013の両内壁面1013Aと底面1013Bにも第2の凹溝1014の底面1014Bと同様に、第1の凹溝1013に巻き付けられる主要巻線1021が整列するように巻き付け位置をガイドするための第2のガイド溝1017が設けられている(
図8参照)。
【0064】
第2のガイド溝1017は、第1のガイド溝1016と同一サイズの円弧状の断面形状を有する溝であり、第1のガイド溝1016と同様に、第1の凹溝1013の底面1013Bでは幅方向にφ
1[mm]のピッチで形成され、第1の凹溝1013の両内壁面1013Aでは傾斜に沿う方向にφ
1[mm]のピッチで形成されている。
【0065】
第1の凹溝1013に整列巻きされる主要巻線1021の積層数をmとすると、第1の凹溝1013の深さの寸法h
2[mm](
図13参照)は、凡そ(m−1)×(φ
1−Δh
1)+φ
1[mm]である。
【0066】
第1の凹溝1014の底面1014Bと第2の凹溝1014の底面1014Bの
図4におけるX2−X2線断面(以下、この断面を「縦断面」という。)の形状は、
図6に示すように、第1のコイルボビン101の穴の部分の長方形状と略相似の長方形状を有している。
【0067】
第1のコイルボビン101の穴の部分の形状は、長方形の4つの角部を丸面で面取りした長方形状を有しているが、第1の凹溝1013の底面1013Bと第2の凹溝1014の底面1014Bの縦断面形状は、4つの辺部をそれぞれ外側に僅かに湾曲させ、4つの角部をそれぞれ丸面で面取りした長方形状を有している。
図6の点線で示すラインは、第1の凹溝1013の底面1013Bと第2の凹溝1014の底面1014Bの縦断面形状を長方形の4つの角部を丸面で面取りした長方形状にした場合の当該底面1013Bと当該底面1014Bの縦断面形状を示すラインである。
【0068】
第1の凹溝1013の底面1013Bと第2の凹溝1014の底面1014Bの縦断面形状において、4つの辺部をそれぞれ外側に僅かに湾曲させている構成(
図6の実線で示す底面のラインが点線で示す底面のラインよりも外側に僅かに湾曲している構成)は本実施の形態に係る第1のコイルボビン101の特徴的な構成である。この特徴的な構成の作用と効果については、後述する。
【0069】
次に、二次コイル2の構造について、
図9〜
図12を用いて説明する。
【0070】
図9は、変圧器の二次コイル2を製作するための第2のコイルボビン201を正面から見た図、
図10は、同第2のコイルボビン201を右側面から見た図、
図11は、同第2のコイルボビン201の
図9におけるY1−Y1線断面図、
図12は、同第2のコイルボビン201の
図10におけるY2−Y2線断面図である。
【0071】
二次コイル2は、第2のコイルボビン201を用いて長方形のリング状に成形される。第2のコイルボビン201は、
図9,
図10に示すように、背の低い長方形のリング形状を有するボビン本体2011を備える。ボビン本体2011は、ボビン本体1011と略同じ寸法の高さ寸法(
図9の幅方向の寸法)を有する。
【0072】
ボビン本体2011の側面から見た形状は、略左右対称になっているが、以下では、説明の便宜上、
図9において、リング形状の外周に沿う面を「外周側面」と称し、内周に沿う面を「内周側面」と称し、
図10において、ボビン本体2011の左側の面を「正面」と称し、右側の面を「背面」と称して説明をする。
【0073】
ボビン本体2011は、外周側面に二次巻線202(
図14参照)を巻回するための凹溝2012が形成されており、穴の部分の形状は直方体形状に成形されている(
図9,
図10参照)。ボビン本体2011の穴の部分の形状を直方体形状としているのは、
図14に示すように、この穴の部分にボビン本体1011を嵌入装着することができるようにしたものである。
【0074】
ボビン本体2011の穴の部分の長方形の寸法(L3(長手方向の長さ)×W3(短手方向の長さ))は、上述したようにボビン本体1011の正面側の長方形の外形寸法(L1×W1)より僅かに大きいサイズに設定されている。また、ボビン本体2011の外周側面側の長方形の外形寸法(L4(長手方向の長さ)×W4(短手方向の長さ))は、上述したようにボビン本体1011の背面側の長方形の外形寸法(L2×W2)と略同一の寸法に設定されている。
【0075】
ボビン本体2011の正面側のリング状の側面のうち、一方の短辺の中央部分(
図9では、上側の短辺の部分)に、1個の切り欠き部2013が設けられている。切り欠き部1013は、凹溝2012に巻回される二次巻線202の両端部をボビン本体2011の外部に引き出すためのものである。以下の説明では、ボビン本体2011の切り欠き部も「巻線引出部」と称する。
【0076】
巻線引出部2013は、ボビン本体2011の外周側面から凹溝2012の底面2012Bまでの深さを有し、ボビン本体2011の正面側から凹溝2012まで貫通するように形成されている。ボビン本体2011の巻線引出部2013から引き出される二次巻線202の両端部と中間位置cから引き出される線が上述した
図1の引出線L
e1,L
e2,L
e3に相当する。
【0077】
凹溝2012は、凹溝2012の底面2012Bに対して両内壁面2012Aが垂直に立ち上がる形状(長方形の断面形状)となっている(
図10,
図11参照)。凹溝2012の底面2012Bには、第2の凹溝1014の底面1014Bと同様に、当該底面2014Bに巻き付けられる二次巻線202が整列するように巻き付け位置をガイドするためのガイド溝(図示省略)が設けられている。
【0078】
二次巻線202の各層のターン数をn
t[ターン]とし、二次巻線202に用いられる巻線の線径をφ
2(>φ
1)[mm]とすると、凹溝2012の底面2012Bの幅方向の寸法は、凡そφ
2(n
t+1/2)に設定されている。
【0079】
また、凹溝2012における二次巻線202の積層数をjとすると、n
2=n
t×jの関係があり、凹溝2012の深さの寸法h
2[mm]は、各層の重なり部分の寸法をΔh
2[mm]とすると、凡そ(j−1)×(φ
2−Δh
2)+φ
2[mm]に設定されている。
【0080】
凹溝2012の底面2012Bの
図10におけるY2−Y2線断面(以下、この断面を「縦断面」という。)の形状は、
図12に示すように、第2のコイルボビン201の穴の部分の長方形状と略相似の長方形状を有している。
【0081】
第2のコイルボビン201の穴の部分の形状は、長方形の4つの角部を丸面で面取りした長方形状を有しているが、凹溝2012の底面2012Bの縦断面形状は、第2の凹溝1014の底面1014Bの縦断面形状と同様に、4つの辺部をそれぞれ外側に僅かに湾曲させ、4つの角部をそれぞれ丸面で面取りした長方形状を有している。
図12の点線で示すラインは、凹溝2012の底面2012Bの縦断面形状を長方形の4つの角部を丸面で面取りした長方形状にした場合の当該底面2012Bの縦断面形状を示すラインである。
【0082】
凹溝2012の底面2012Bの縦断面形状において、4つの辺部をそれぞれ外側に僅かに湾曲させている構成(
図12の実線で示す底面のラインが点線で示す底面のラインよりも外側に僅かに湾曲している構成)も本実施の形態に係る第2のコイルボビン201の特徴的な構成である。この特徴的な構成の作用と効果については、後述する。
【0083】
図1に示す変圧器Aのコイル部Bは、一次巻線102を長方形のリング形状を有する第1のコイルボビン101の凹溝1012に整列巻きして一次コイル1を製作するとともに、二次巻線202を長方形のリング形状を有する第2のコイルボビン201の凹溝2012に整列巻きして二次コイル2を製作した後、
図14に示すように、第2のコイルボビン201の穴の部分に第1のコイルボビン101の正面側を第2のコイルボビン201の正面側から嵌め込んで製作される。
【0084】
第1のコイルボビン101と第2のコイルボビン201は、同心状に嵌め合わせて一体化する構造であるので、コイル部Bは、一次巻線102の外側に二次巻線202を同心状に配置した構造となる。
【0085】
一次コイル1の製作では、
図13に示すように、まず、一次巻線102の一方の端部に配置される小巻線1022aが、一方の端部を巻線引出部1015Aからボビン本体1011の外部に引き出した状態で第2の凹溝1014の内壁面1014Aから第1のガイド溝1016に沿って反対側の内壁面1014Aまで巻き付けられた後折り返され、巻回された小巻線1022aの上側に元の内壁面1014A(巻線引出部1015Aを有する内壁面1014A)まで巻き付けられた後、巻線引出部1015Aからボビン本体1011の外部に引き出されて、第1のコイルボビン101の第2の凹溝1014に2層構造で巻回される。
【0086】
次に、巻数調整用巻線1022の小巻線1022bが、一方の端部を巻線引出部1015Bからボビン本体1011の外部に引き出した状態で第2の凹溝1014の内壁面1014Aから小巻線1022aの2層目の上面に形成される巻線同士の窪みをガイドとして反対側の内壁面1014Aまで巻き付けられた後折り返され、巻回された小巻線1022aの上側に元の内壁面1014A(第2の凹溝1014を有する内壁面1014A)まで巻き付けられた後、巻線引出部1015Bからボビン本体1011の外部に引き出されて、小巻線1022aの外側(積層する方向では上側)に2層構造で巻回される。
【0087】
次に、巻数調整用巻線1022の小巻線1022cが、一方の端部を巻線引出部1015Cからボビン本体1011の外部に引き出した状態で第2の凹溝1014の内壁面1014Aから小巻線1022bの2層目の上面に形成される巻線同士の窪みをガイドとして反対側の内壁面1014Aまで巻き付けられた後折り返され、巻回された小巻線1022bの上側に元の内壁面1014A(第2の凹溝1014を有する内壁面1014A)まで巻き付けられた後、巻線引出部1015Cからボビン本体1011の外部に引き出されて、小巻線1022bの外側に2層構造で巻回される。
【0088】
最後に、主要巻線1021が、一方の端部を巻線引出部1015Dからボビン本体1011の外部に引き出した状態で第1の凹溝1013の内壁面1013Aから第2のガイド溝1017に沿って巻回される。主要巻線1021は、巻線引出部1015Eが形成された内壁面1013Aまで巻回されると折り返され、整列巻きされた1層目の主要巻線1021の上側に形成される巻線同士の窪みをガイドとして元の内壁面1013A(巻線引出部1015Dを有する内壁面1014A)まで巻き付けられる。その後、主要巻線1021は、整列巻きされた各層の主要巻線1021の上側に形成される巻線同士の窪みをガイドとして内壁面1013Aに到達する毎に折り返されながら、積層数が所定数となるまで巻回され、巻線引出部1015Eからボビン本体1011の外部に引き出されて、小巻線1022cの外側に多層構造で巻回される。
【0089】
二次コイル2の製作では、二次巻線202が、一方の端部を巻線引出部2013からボビン本体1011の外部に引き出した状態で凹溝2012の内壁面2012Aからガイド溝2014に沿って巻回される。二次巻線202は、反対側の内壁面2012Aまで巻回されると折り返され、整列巻きされた1層目の二次巻線202の上側に形成される巻線同士の窪みをガイドとして元の内壁面2012A(巻線引出部2013を有する内壁面2012A)まで巻き付けられる。その後、二次巻線202は、整列巻きされた各層の二次巻線202の上側に形成される巻線同士の窪みをガイドとして内壁面2012Aに到達する毎に折り返されながら、積層数が所定数となるまで巻回され、巻線引出部2013からボビン本体2011の外部に引き出される。
【0090】
次に、本実施の形態に係る第1,第2のコイルボビン101,201の特徴的な構成の作用と効果について、説明する。第2のコイルボビン201の特徴的な構成の作用と効果は、第1のコイルボビン101の特徴的な構成の作用と効果と同じであるから、以下では、第1のコイルボビン101の特徴的な構成の作用と効果について、
図15を用いて、説明する。
【0091】
図15は、第2の凹溝1014の底面1014Bに小巻線1022aを巻き付けた状態の要部の縦断面図(
図6において上側の短辺の部分の断面図)である。
【0092】
巻数調整用巻線1022の小巻線1022aは、所定の引っ張り力を掛けた条態でボビン本体1011を回転させることによりボビン本体1011の凹溝1012に整列に巻き付けられる。巻数調整用巻線1022の小巻線1022b,1022cと主要巻線1021についても同様である。
【0093】
小巻線1022aを所定の引っ張り力を掛けた状態でボビン本体1011の第2の凹溝1014の底面1014Bに巻き付けると、小巻線1022aには当該小巻線1022aを底面1014B側に押し付ける方向の巻締力が作用する。
【0094】
第2の凹溝1014の底面1014Bの縦断面の形状を従来のように4つの角度を丸面で面取りした長方形状(以下、この形状を「従来形状」という。)にした場合は、小巻線1022aに作用する巻締力は、主として4つの角度に発生し、4つの辺部の中間部分には殆ど発生しない。このため、第2の凹溝1014の底面1014Bの縦断面の形状を従来形状にした場合は、当該底面1014Bに巻き付けられた小巻線1022aの辺部の部分が当該底面1014Bの平滑の具合によって当該底面1014Bに密着せず、小巻線1022aを積層して整列巻きしているときに底面1014Bにおける巻き付け位置がずれ易くなる。
【0095】
小巻線1022aの2層目は、整列巻きされた1層目の巻線同士の窪みをガイドとして巻き付けられるので、1層目のいずれかのターンで巻線位置がずれると、2層目の巻線が1層目に落ち込み、整列巻きされた小巻線1022aの高さが底面1014Bの幅方向で歪むことになる。整列巻きされた小巻線1022aの上面には小巻線1022bが小巻線1022aの2層目の上面に巻線同士の窪みをガイドとして巻き付けられるので、小巻線1022aの2層目の上面が歪んでいると、その歪みが小巻線1022bの整列巻きに影響し、ボビン本体1011に巻数調整用巻線1022と主要巻線1021を巻き付けた一次コイル1の断面形状が綺麗な巻線の層とならず、歪んだ層の形状となる。そして、一次コイル1の断面形状が歪むと、一次コイル1の電気的な特性にコイル間のばらつきが生じ、変圧器Aを量産した場合の製品間の特性のばらつきに大きく影響することになる。
【0096】
本実施の形態では、
図15に示すように、第2の凹溝1014の底面1014Bの縦断面の形状を4つの角度1018Aを丸面で面取りするとともに、4つの辺部1018Bをそれぞれ外側に僅かに湾曲させた長方形状(
図15の実線で示す底面1014Bのラインが点線で示す底面1014Bのラインよりも外側に僅かに湾曲している構成を参照)にしている。底面1014Bの各辺部1018Bの断面形状は、各辺の両端(両角部1018A)から中央に向かって角度φで底面の深さh3が直線的に減少させてもよく、底面の深さh3が外側に湾曲するように曲線的に減少させてもよい。
【0097】
要は、底面1014Bの縦断面の形状が、第2の凹溝1014の底面1014Bに鞍部が生じないように、両端から(両角部1018A)から辺部1018Bの中央に向かって底面の深さh3が単調に減少する形状(辺部1018Bが外周側面側に緩やかに湾曲する形状)であればよい。
【0098】
本実施の形態に係る第1のコイルボビン101によれば、小巻線1022aを所定の引っ張り力を掛けた状態でボビン本体1011の第2の凹溝1014の底面1014Bに巻き付けると、小巻線1022aは、底面1013Bの4つの隅部1018Aの部分だけでなく4つの辺部1018Bの部分も押し付けられ、底面1013Bの全周に亘って密着した状態で巻き締められる。
【0099】
従って、巻き締められた小巻線1022aには、
図15に示すように、底面1013Bの4つの隅部1018Aの部分だけでなく4つの辺部1018Bの部分にも巻締力Fが生じ、その巻締力Fによって小巻線1022aの全体が底面1013Bの全周に亘って強く密着されることになる。
【0100】
そして、本実施の形態に係る第1のコイルボビン101では、第2の凹溝1014の底面1014Bに小巻線1022aの線径φ
1のピッチで第1のガイド溝1016を設けているので、小巻線1022aの1層目の各ターンは巻線同士が密着した状態で位置ずれすることなく第1のガイド溝1016上に整然と巻き付けられることになる。
【0101】
これにより、小巻線1022aの1層目の上側に巻線同士の窪みに沿って粽地の2層目を巻き付けても2層目の巻線が1層目に落ち込み、整列巻きされた小巻線1022aの高さが底面1014Bの幅方向で歪むようなことがない。従って、小巻線1022aの上側(外側)に小巻線1022bと小巻線1022cを順番に2層に整列巻きしても巻数調整用巻線1022の断面形状を綺麗な巻線の層の形状にすることができ、更には巻数調整用巻線1022の上側(外側)に主要巻線1021を第1の凹溝1013の底面1013Bに形成した第2のガイド溝1017と下の層の巻線同士の窪みとをガイドとして多層に整列巻きしても主要巻線1021の断面形状を綺麗な巻線の層の形状にすることができる。
【0102】
この結果、第1の巻数調整用巻線1022と主要巻線1021を巻き付けた一次コイル1の断面形状を歪んだ層の形状にすることがなく、一次コイル1の電気的な特性のコイル間のばらつきを低減することができる。
【0103】
以上のように、本実施の形態に係る第1のコイルボビン101および第2のコイルボビン201によれば、第1,第2の凹溝1013,1014の底面1013B,1014Bと凹溝2012の底面2012Bの縦断面の形状を、長方形の4つの隅部1018Aを丸面で面取りするとともに、4つの辺部1018Bを外周面側に鞍部が生じないよう湾曲させているので、第1のコイルボビン101の凹溝1012に一次巻線102を縦断面の形状を歪ませることなく多層に整列巻きすることができるともに、第2のコイルボビン201の凹溝2012に二次巻線202を縦断面の形状を歪ませることなく多層に整列巻きすることができる。
【0104】
上記の実施の形態では、巻数調整用巻線1022が3個の小巻線1022a,1022b,1022cを直列に接続される構成の場合を例に説明したが、巻数調整用巻線1022の小巻線1022の数は3個の限定されるものではなく、1個でもよく、4個以上であってもよい。
【0105】
また、一次コイル1は、巻数調整用巻線1022を有しない主要巻線1021だけであってもよい。すなわち、第1のコイルボビン101の凹溝1012は、第1の凹溝1013だけを有する構成であってもよい。
【0106】
上記の実施の形態では、変圧器Aに用いられるコイル部Bについて説明したが、本発明は、変圧器に限定されるものではなく、同一の構造を有するコイル部を用いる静止誘導機器に広く利用することができる。