特許第6437857号(P6437857)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6437857
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】沈殿池
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/00 20060101AFI20181203BHJP
   B01D 21/24 20060101ALI20181203BHJP
   B01D 21/02 20060101ALI20181203BHJP
   B01D 21/18 20060101ALI20181203BHJP
   B01D 24/46 20060101ALI20181203BHJP
   B01D 29/66 20060101ALI20181203BHJP
   B01D 24/16 20060101ALI20181203BHJP
   B01D 24/26 20060101ALI20181203BHJP
【FI】
   B01D21/00 C
   B01D21/24 F
   B01D21/02 E
   B01D21/18 F
   B01D23/24 A
   B01D23/10 C
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-56328(P2015-56328)
(22)【出願日】2015年3月19日
(65)【公開番号】特開2016-175009(P2016-175009A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2017年11月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】岡本 裕三
(72)【発明者】
【氏名】武田 茂樹
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/161339(WO,A1)
【文献】 実開平05−037303(JP,U)
【文献】 特開平05−301005(JP,A)
【文献】 特開平11−244870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00−31/34
C02F 1/52− 1/56
B01D 24/16
B01D 24/26
B01D 24/46
B01D 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水中の固形分を沈殿させる沈殿部と、前記沈殿部を通過した被処理水を上向流でろ過するろ過部とを備える沈殿池であって、
前記ろ過部は、沈殿池の深さ方向に延在する隔壁によって区画形成された複数の被処理水流路を備え、
前記被処理水流路は、複数のろ材よりなるろ材層と、前記ろ材層の上方に設けられて前記ろ材の流出を防止する上部スクリーンと、前記ろ材層で被処理水をろ過して得た処理水が流出する処理水流出部と、前記ろ材層を洗浄する際に曝気により前記ろ材層を撹拌するための気体噴出口とを備え、
沈殿池の深さ方向において、前記気体噴出口が、前記被処理水流路を区画形成する前記隔壁の下端よりも上側に位置し、
前記気体噴出口は、沈殿池への被処理水の流入口側あるいは流入口側と反対側の隔壁からの水平方向の距離が隣接する隔壁間の間隔の1/4以下の範囲内に設けられ、
前記被処理水流路は、水平方向に延在して前記気体噴出口の下側を覆う横板を前記気体噴出口の下側に更に備えることを特徴とする、沈殿池。
【請求項2】
沈殿池の深さ方向において、前記気体噴出口が、前記被処理水流路を区画形成する前記隔壁の下端よりも70mm以上上側に位置することを特徴とする、請求項1に記載の沈殿池。
【請求項3】
沈殿池の深さ方向において、前記気体噴出口が、前記ろ材層の下端よりも下側に位置することを特徴とする、請求項1または2に記載の沈殿池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沈殿池に関し、特に、下水処理場の最終沈殿池などとして好適に使用し得る沈殿池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下水処理場などでは、最初沈殿池、生物反応槽および最終沈殿池を備える水処理システムが用いられている。
【0003】
ここで、近年、最初沈殿池や最終沈殿池などの沈殿池として、被処理水中の固形分を沈殿させる沈殿部と、沈殿部で固形分の一部を沈殿させた被処理水をろ過するろ過部とを備える沈殿池を用いることが提案されている。この沈殿部およびろ過部を備える沈殿池によれば、沈殿部において固形分の一部を沈殿させた被処理水をろ過部において更にろ過することができるので、固形分が十分に除去された処理水を得ることができる。
そして、当該沈殿池のろ過部としては、複数のろ材よりなるろ材層と、ろ材層の上方に配設されてろ材層を構成するろ材の流出を防止する上部スクリーンと、ろ材層の下方に配設されてろ材層を構成するろ材を支持する下部スクリーンとを有し、被処理水をろ材層に上向流で通水させることによりろ過を行うろ過部が用いられている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−257585号公報
【特許文献2】国際公開第2012/161339号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ろ過部を備える上記従来の沈殿池では、通常、所定時間毎に、或いは、ろ過部の固液分離性能が低下した際にろ過部のろ材層の洗浄を実施する。そして、ろ材層の洗浄は、通常、ろ過部内に空気等の気体を噴き込み、気体の噴き込みにより生じる水流によってろ材層を構成するろ材を流動させることにより行う。
【0006】
しかし、上記従来の沈殿池には、ろ過部内に気体を噴出させた際に十分に高速な水流を発生させることができず、ろ材を十分に流動させることができないという点において改善の余地があった。そのため、従来の沈殿池には、ろ材層の洗浄時に高速な水流を発生させて洗浄効率を高めることが求められていた。
【0007】
一方、上記従来の沈殿池は、ろ過部のみならず沈殿部も備えている。そのため、上記従来の沈殿池には、ろ材層の洗浄時にろ過部において高速な水流を発生させて洗浄効率を高める一方で、ろ材層の洗浄時に発生する水流によって沈殿部の機能が損なわれないことも求められている。具体的には、沈殿池には、ろ材層の洗浄時に発生する水流に起因して沈殿部側に短絡流等が発生し、沈殿物が舞い上がるのを抑制することも求められている。
【0008】
そこで、本発明は、沈殿部およびろ過部を備える沈殿池であって、沈殿部の機能の低下を抑制しつつろ過部を効率的に洗浄することが可能な沈殿池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の沈殿池は、被処理水中の固形分を沈殿させる沈殿部と、前記沈殿部を通過した被処理水を上向流でろ過するろ過部とを備える沈殿池であって、前記ろ過部は、沈殿池の深さ方向に延在する隔壁によって区画形成された複数の被処理水流路を備え、前記被処理水流路は、複数のろ材よりなるろ材層と、前記ろ材層の上方に設けられて前記ろ材の流出を防止する上部スクリーンと、前記ろ材層で被処理水をろ過して得た処理水が流出する処理水流出部と、前記ろ材層を洗浄する際に曝気により前記ろ材層を撹拌するための気体噴出口とを備え、沈殿池の深さ方向において、前記気体噴出口が、前記被処理水流路を区画形成する前記隔壁の下端よりも上側に位置することを特徴とする。このように、ろ過部に複数の被処理水流路を設ければ、ろ材層を洗浄する際に、隔壁によって区画された各被処理水流路において気体噴出口からの曝気により強力な旋回流を発生させ、ろ材層を効率的に洗浄することができる。また、各被処理水流路において、気体噴出口の位置を当該被処理水流路を形成する隔壁の下端の位置よりも上側にすれば、ろ材層の洗浄時に被処理水流路内で強力な旋回流を発生させた場合であっても、沈殿部において沈殿物が舞い上がるのを抑制し、沈殿部の機能の低下を抑制することができる。
ここで、本発明において、「沈殿池の深さ方向に延在する」とは、沈殿池の深さ方向に向かって延びていることを指し、「沈殿池の深さ方向に延在する」には、沈殿池の深さ方向に沿う方向(通常は鉛直方向)に延在している場合に加え、沈殿池の深さ方向に沿う方向に対して傾斜して延在している場合も含まれる。
【0010】
ここで、本発明の沈殿池は、沈殿池の深さ方向において、前記気体噴出口が、前記被処理水流路を区画形成する前記隔壁の下端よりも70mm以上上側に位置することが好ましい。気体噴出口と隔壁の下端との間の沈殿池の深さ方向に沿う距離が70mm以上であれば、沈殿部において沈殿物が舞い上がるのを更に抑制し、沈殿部の機能の低下を十分に抑制することができるからである。
【0011】
また、本発明の沈殿池は、沈殿池の深さ方向において、前記気体噴出口が、前記ろ材層の下端よりも下側に位置することが好ましい。気体噴出口がろ材層の下端よりも下側に位置していれば、ろ材層を構成するろ材を気体噴出口からの曝気により更に良好に流動させ、ろ材層を更に効率的に洗浄することができるからである。
ここで、本発明において、「ろ材層の下端」とは、被処理水のろ過を実施していない状態のろ材層の下端を指す。
【0012】
そして、本発明の沈殿池は、前記被処理水流路は、水平方向に延在する横板を前記気体噴出口の下側に更に備えることが好ましい。このように、気体噴出口の下側に横板を設ければ、ろ材層の洗浄時に沈殿部において沈殿物が舞い上がるのを更に抑制し、沈殿部の機能の低下を十分に抑制することができるからである。
ここで、本発明において、「水平方向に延在する」とは、水平方向に向かって延びていることを指し、「水平方向に延在する」には、水平方向に沿う方向に延在している場合に加え、水平方向に沿う方向に対して傾斜して延在している場合も含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の沈殿池によれば、沈殿部の機能の低下を抑制しつつろ過部を効率的に洗浄することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に従う沈殿池の一例の概略構成を示す図であり、(a)は平面図、(b)は図1(a)のA−A線に沿う断面図である。
図2図1に示す沈殿池について、ろ過部のろ材層を洗浄している際の水流の様子を図1(a)のA−A線に沿う断面で示す説明図である。
図3図1に示す沈殿池の変形例について、ろ過部のろ材層を洗浄している際の水流の様子を断面で示す説明図である。
図4】比較例の沈殿池について、ろ過部のろ材層を洗浄している際の水流の様子を断面で示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一の構成要素を示すものとする。
【0016】
(沈殿池)
ここで、本発明の沈殿池は、特に限定されることなく、例えば下水処理場において生物反応槽の後段側に設けられる最終沈殿池として用いることができる。そして、本発明の沈殿池の一例は、例えば図1に示すような概略構成を有している。
【0017】
具体的には、図1(a)に平面図を示し、図1(b)に図1(a)のA−A線に沿う断面図を示すように、本発明の一例の沈殿池1は、被処理水中の固形分を沈殿させる沈殿部2と、沈殿部2の後段側に設けられて沈殿部2を通過した被処理水を上向流でろ過するろ過部3とを備えている。また、沈殿池1のろ過部3には、ろ過部3で被処理水をろ過して得た処理水が流れる処理水流路4と、ろ過部3に設けられたろ材層35を洗浄した際に排出される洗浄排水が流れる洗浄排水流路(図示せず)とが設けられている。そして、沈殿池1では、沈殿部2において固形分の一部を沈殿させた被処理水をろ過部3において更にろ過することにより、固形分が十分に除去された処理水を得ることができる。
なお、沈殿池1においては、ろ過部3の下側に位置する部分も被処理水中の固形分を沈殿させる沈殿部2として機能する。
【0018】
<沈殿部>
ここで、沈殿部2は、特に限定されることなく、被処理水中の固形分を重力沈降により沈降させて被処理水から固形分を分離する横流式沈殿槽よりなる。そして、沈殿部2の底部には、固形分排出弁22を有する固形分排出配管21が設けられており、沈殿部2で沈殿した固形分は、固形分排出配管21に設けられた固形分排出弁22を、例えば所定の開度で常時開いておく、或いは、所定時間毎に開くことにより、沈殿池1から排出されて処理される。
なお、沈殿部2は、固形分の沈降を促進する傾斜板や、底部に沈殿した固形分を掻き寄せる往復式掻寄機などを備えていてもよい。
【0019】
<ろ過部>
ろ過部3は、沈殿部2において固形分の一部を沈殿させた被処理水を上向流でろ過するろ過槽よりなる。そして、ろ過部3は、図1(a)および(b)に示すように、沈殿池1の図1(a)では上下に位置する側壁間に亘って設けられ、且つ、沈殿池1の深さ方向(図1(b)では上下方向)に延在する複数(図示例では4枚)の隔壁31によって区画形成された複数(図示例では4つ)の被処理水流路30を備えている。そして、沈殿池1では隔壁31の下端よりも上側がろ過部3となる。
なお、ろ過部3の長さ(図1(a)および(b)では左右方向の長さ)は、特に限定されることなく、沈殿池1の全長の1/4以上3/4以下とすることができる。
【0020】
ここで、各被処理水流路30は、隔壁31と沈殿池1の壁面とによって囲まれた領域であり、被処理水は、各被処理水流路30に上向流で通水される。そして、各被処理水流路30は、被処理水流路30内に充填された複数のろ材よりなるろ材層35と、ろ材層35の上方に設けられた上部スクリーン33と、ろ材層35の下方に設けられた下部スクリーン34と、ろ材層35で被処理水をろ過して得た処理水が処理水流路4へと流出する処理水流出部32とを備えている。更に、各被処理水流路30は、曝気により生じる旋回流を用いてろ材層35を撹拌洗浄する際に使用する曝気管(図示せず)の気体噴出口36と、気体噴出口36の下側に設けられた横板37とを備えている。
【0021】
各隔壁31は、沈殿池1の深さ方向(鉛直方向)に沿う方向に延在している。そして、各隔壁31は、沈殿池1の底面から離隔させて設けられており、被処理水流路30と沈殿部2とは沈殿池1の下部で連通している。また、沈殿池1の深さ方向において、各隔壁31の上端は水面よりも上側に位置しており、各隔壁31の下端は気体噴出口36よりも下側に位置している。
なお、隔壁31は、特に限定されることなく、仕切り板やコンクリート壁を用いて形成することができる。
【0022】
処理水流出部32は、処理水が被処理水流路30内から処理水流路4へと越流する部分であり、図1に示す例では、上部スクリーン33よりも上側に位置している。
【0023】
上部スクリーン33は、ろ材層35を構成するろ材が被処理水流路30から流出するのを防止する。また、下部スクリーン34は、ろ材層35を構成するろ材が被処理水流路30内から下方へと落下または流出するのを防止する。具体的には、下部スクリーン34は、ろ材層を構成するろ材を被処理水流路30内に充填する際にろ材が下方に落下するのを防止したり、沈殿部2において沈殿した固形分を固形分排出配管21を介して排出する際に生じる下向流によりろ材が被処理水流路30内から流出するのを防止したりする。
なお、上部スクリーン33および下部スクリーン34としては、ろ材層35を構成するろ材よりも開孔径が小さいスクリーンであれば特に限定されることなく、パンチングメタルや金網などの既知のスクリーンを使用することができる。
【0024】
上部スクリーン33と下部スクリーン34との間に設けられたろ材層35は、例えばろ材層35を構成する複数のろ材を被処理水流路30内の下部スクリーン34上に充填して形成されている。
ここで、ろ材層35を構成するろ材としては、特に限定されることなく、例えば樹脂製のろ材を用いることができる。そして、ろ材としては、任意の形状のろ材を用いることができるが、筒状のろ材を用いることが好ましい。筒状のろ材を用いてろ材層35を構成した場合、ランダムに充填された筒状のろ材の中空部およびろ材間の隙間を被処理水が通過する際に、各筒状のろ材やろ材間の隙間が小さな傾斜板沈殿装置のように機能して被処理水中の固形分がろ材層35でより良好に分離されるからである。また、ろ材としては、沈降性ろ材(即ち、静止した被処理水中で沈降するろ材)と、浮上ろ材(即ち、静止した被処理水中で浮くろ材)との何れを用いてもよいが、図1(b)に示すように、被処理水の通水中には浮く程度の比重を有するろ材を用いることが好ましく、比重が1.0未満の浮上ろ材を用いることがより好ましい。なお、ろ材として浮上ろ材を使用する場合には、被処理水流路30内に水を貯留した状態でろ材を投入することにより被処理水流路30内にろ材を充填することができるので、下部スクリーン34は設けなくてもよい。
【0025】
気体噴出口36を有する曝気管は、被処理水流路30外に設けられたブロア(図示せず)等の空気供給源に接続されている。そして、気体噴出口36を有する曝気管とブロアとは、気体としての空気の曝気により生じる旋回流を用いてろ材層35を撹拌洗浄する曝気装置として機能する。なお、曝気管とブロアとの接続部には、ろ過中に被処理水が逆流するのを防止するための空気配管弁(図示せず)が設けられている。
【0026】
そして、沈殿池1のろ過部3の各被処理水流路30では、気体噴出口36は、ろ過部3を区画して当該被処理水流路30を形成する隔壁31の下端よりも上側に位置している。また、気体噴出口36は、沈殿池1の長さ方向(図1(a)および(b)では左右方向)に見て、各被処理水流路30の中央よりも沈殿池1への被処理水の流入口側(図1(b)では左側)に設けられている。
【0027】
また、各被処理水流路30では、気体噴出口36の下側に設けられた横板37は、水平方向に沿う方向に延在しており、被処理水流路30の下側の開口部の全面を塞ぐことなく気体噴出口36の下側を覆っている。具体的には、沈殿池1では、横板37は、被処理水流路30の中央よりも沈殿池1への被処理水の流入口側に設けられている気体噴出口36の下側を覆うように、一端を沈殿池1への被処理水の流入口側の隔壁31の下端に接続させて設けられている。
【0028】
そして、上述した構成を有する沈殿池1のろ過部3では、以下のようにして被処理水のろ過およびろ材層35の洗浄が実施される。なお、ろ材層35の洗浄は、特に限定されることなく、例えば予め定めた所定の時間が経過した際に実施することができる。
【0029】
即ち、沈殿池1では、曝気管とブロアとの接続部に設けられた空気配管弁を閉じ、ブロアを停止させた状態で被処理水を被処理水流路30に上向流で通水することにより、被処理水をろ過する。そして、被処理水流路30内に設けられたろ材層35で被処理水をろ過して得た清浄な処理水は、処理水流出部32および処理水流路4を介して外部(例えば、処理水槽など)へと送水される。
【0030】
従って、上述した沈殿部2およびろ過部3を備える沈殿池1によれば、沈殿部2において固形分の一部を沈殿させた被処理水をろ過部3において更にろ過することができるので、固形分が十分に除去された処理水を得ることができる。
【0031】
また、沈殿池1では、曝気管とブロアとの接続部に設けられた空気配管弁を開き、ブロアを運転させた状態で洗浄水としての被処理水を各被処理水流路30に上向流で通水することにより、ろ材層35を撹拌洗浄する。そして、ろ材層35を洗浄中のろ過部3では、ブロアおよび曝気管を介して気体噴出口36から各被処理水流路30内に供給された空気により旋回流が発生し、ろ材層35を構成するろ材が流動して分散する。即ち、ろ過部3では、ブロアと、気体噴出口36を有する曝気管とが曝気によりろ材層35を撹拌する曝気装置として機能する。その結果、ろ過部3では、ろ材層35に捕捉されていた固形分がろ材層35から除去される。なお、ろ材層35から除去された固形分を含む洗浄排水は、洗浄排水流路(図示せず)を介して外部(例えば、洗浄排水処理装置など)へと送水される。
【0032】
ここで、隔壁31を設けてろ過部3を複数の被処理水流路30に区画しない場合には、広いろ過部3に対して曝気により強力な旋回流を起こすことは困難である。しかし、上述した沈殿池1では、隔壁31を設けてろ過部3を複数の被処理水流路30に区画し、各被処理水流路30に設けられた気体噴出口36から曝気しているので、各被処理水流路30内に高速で強力な旋回流を容易に発生させることができる。従って、沈殿池1では、高速で強力な旋回流によってろ材層35を構成するろ材を十分に流動させ、ろ材層35を効率的に洗浄することができる。その結果、ろ材層35の洗浄に要する時間を短時間化し、また、ろ材層35の洗浄時に排出する洗浄排水の量を低減することができるので、処理水の回収率(=(得られた処理水量/沈殿池に流入した被処理水量)×100%)も高めることができる。
【0033】
また、隔壁31によりろ過部3を区画して形成した被処理水流路30毎に気体噴出口36を設けて高速で強力な旋回流を発生させる場合、気体噴出口36の位置を隔壁31の下端よりも下側にすると、短絡流などの発生により沈殿部2において沈殿物が舞い上がり、沈殿部2の沈殿機能自体も失われる虞がある。具体的には、例えば図4に隔壁31の下端よりも下側に気体噴出口36を配設した沈殿池1Bにおいてろ材層を洗浄した際の水流の様子を矢印で示すように、隔壁31の下端よりも下側に気体噴出口36を配設すると、曝気により矢印b,c,d,eで示される旋回流を被処理水流路30B内に発生させた際に、水流bの一部となる水流aは180度の方向から水を獲得する。ここで、沈殿池へ流入する被処理水の流量および沈殿池から流出する処理水の流量は互いに等しく、水流aと水流fとの差になる。また、曝気量が一定であれば水流bの大きさも一定となるところ、水流bの大きさは水流aと水流eの和であるから、水流aが大きくなれば水流dから転じられる水流eの大きさは水流bの大きさに比べて無視できるほどに小さくなる。そのため、矢印b,c,d,eで示される旋回流はほぼ形成できない。それに対して、被処理水量が一定の条件下では水流aと水流fとの差は一定なので、水流aが大きいと、水流fも大きくなる。つまり、沈殿部2とろ過部3との間の水交換が激しくなり、それによって、すでに沈殿した固形分の舞い上がりが激しく生じて、沈殿部2の沈殿機能自体も失われる。
しかし、上述した沈殿池1では、隔壁31の下端よりも上側に気体噴出口36を設けているので、ろ材層35を洗浄した際の水流の様子を図2に矢印で示すように、水流aが180度の方向から水を獲得することがなく、水流aの大きさは小さく(沈殿池1への被処理水の流入量にほぼ等しく)なる。その結果、水流dから転じられる水流eの大きさが大きくなり、矢印b,c,d,eで示される旋回流が良好に形成される。また、被処理水量が一定の条件下では水流aと水流fとの差は一定なので、水流aが小さいと、水流fも小さくなる。その結果、沈殿部2とろ過部3との間の水交換が大幅に抑えられ、沈殿部2における沈殿物の舞い上がりを防止することができ、沈殿部2の沈殿機能の低下を抑制しつつ、旋回流による効率なろ過部3の洗浄を実現できる。
【0034】
なお、図1および2に示す沈殿池1では、気体噴出口36を被処理水流路30の中央よりも沈殿池1への被処理水の流入口側に設けているが、本発明の沈殿池では、気体噴出口を被処理水流路の中央よりも沈殿池1への被処理水の流入口側とは反対側に設けても、沈殿部2の機能の低下を抑制しつつ、高速で強力な旋回流によってろ過部3を効率的に洗浄することができる。具体的には、気体噴出口を被処理水流路の中央よりも沈殿池1への被処理水の流入口側とは反対側に設けた場合には、下方への水流fが沈殿池1への被処理水の流入口側に位置すると共に気体噴出口36および上方への水流aの位置が沈殿池1への被処理水の流入口から離れるので、沈殿部2のうちの沈殿池1への被処理水の流入口側に位置する部分における沈殿物の舞い上がりを防止することができる。また、ろ過部にて旋回流を起こすためという観点からは、気体噴出口36は、被処理水流路30の中央よりも沈殿池1への被処理水の流入口側あるいは流入口側と反対側に設けることが好ましく、沈殿池1への被処理水の流入口側あるいは流入口側と反対側の隔壁31からの水平方向の距離が隣接する隔壁31間の間隔の1/4以下の範囲内に設けることがより好ましく、隔壁31に沿わせて設けることが好ましい。
【0035】
更に、本発明の沈殿池では、図3に示す沈殿池1Aのように各気体噴出口36の下側に横板37を設けなくてもよいが、図1および図2に示す沈殿池1では、各気体噴出口36の下側に横板37を設けているので、ろ材層を洗浄した際の水流の様子を図3に矢印で示す沈殿池1Aと比較し、沈殿物の舞い上がりを更に抑制することができると共に、より強力で高速な旋回流によってろ過部3を効率的に洗浄することができる。具体的には、図3に示すような横板37を設けていない沈殿池1Aでは、水流bの一部となる水流aは90度の方向から水を獲得する。そのため、水流aの大きさは図1および図2に示す沈殿池1よりも大きくなり、その結果、水流dから転じられる水流eの大きさが図1および図2に示す沈殿池1よりも小さくなる。また、被処理水量が一定の条件下では水流aと水流fとの差は一定なので、水流aが大きいと、水流fも大きくなる。その結果、図3に示すような横板37を設けていない沈殿池1Aでは、沈殿部2とろ過部3との間の水交換が図1および図2に示す沈殿池1よりも大きくなり、すでに沈殿した固形分の舞い上がりが生じる虞がある。一方、横板37を設けた沈殿池1では、ろ材層を洗浄した際の水流の様子を図2に示すように、横板37が邪魔板のように機能するため、図3に示す沈殿池1Aと比較して、水流dから転じられる水流eの大きさが大きくなり、矢印b,c,d,eで示される旋回流の流速が早くなる一方で水流aが小さくなる。その結果、横板37を設けた沈殿池1では、沈殿部2とろ過部3との間の水交換が大幅に抑えられ、沈殿部2における沈殿物の舞い上がりを防止することができるので、沈殿部2の沈殿機能の低下を抑制しつつ、旋回流による効率なろ過部3の洗浄を実現できる。
【0036】
以上、一例を用いて本発明の沈殿池について説明したが、本発明の沈殿池は、上記一例に限定されることはなく、本発明の沈殿池には、適宜変更を加えることができる。
【0037】
具体的には、上記一例の沈殿池1では各被処理水流路30内において気体噴出口36の位置を一箇所としたが、本発明の沈殿池では、旋回流を発生させることができれば気体噴出口は複数の位置に設けてもよい。
【0038】
また、上記一例の沈殿池1では横板37を隔壁31の下端に隔壁31と一体的に設けたが、本発明の沈殿池では、横板37の設置位置および設置方法は、気体噴出口の下側を覆うことができれば任意の設置位置および設置方法とすることができる。
【0039】
更に、旋回流によりろ材層35を効率的に洗浄する観点からは、被処理水のろ過を実施していない状態のろ材層35の厚みは、例えば500mm以上900mm以下とすることが好ましい。
【0040】
また、ろ材層35を洗浄する際にろ材が流動するスペースを十分に確保してろ材層35を効率的に洗浄する観点からは、上部スクリーン33と下部スクリーン34との間の沈殿池1の深さ方向の距離は、ろ材層35の厚みよりも200mm以上大きいことが好ましい。
【0041】
更に、各被処理水流路30内に高速で強力な旋回流を発生させる観点からは、隔壁31の配設間隔は、2000mm以下とすることが好ましく、1000mm以下とすることがより好ましい。
【0042】
また、沈殿物の舞い上がりを十分に抑制する観点からは、気体噴出口36は、隔壁31の下端よりも70mm以上上側に位置させることが好ましい。即ち、気体噴出口36と隔壁31の下端との間の沈殿池1の深さ方向の距離は70mm以上であることが好ましい。更に、ろ材層35を洗浄する際に広い範囲に亘って旋回流を形成してろ材を良好に流動させる観点からは、気体噴出口36は、ろ材層35の下端よりも下側に位置させることが好ましく、沈殿池1の深さ方向に見て、ろ材層35の下端からの距離が170mm以上300mm以下の範囲内に位置させることがより好ましい。
【0043】
更に、各被処理水流路30内に高速で強力な旋回流を発生させる観点からは、各被処理水流路30内における気体噴出口36からの曝気量は、10Nm3/時間/m2以上14Nm3/時間/m2以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
図3に示す沈殿池1A(横板37を有さない以外は図1に示す沈殿池1と同様の構成を有する沈殿池)を使用し、以下の条件でろ材層の洗浄を実施した際の沈殿部からの沈殿物の巻き上がりの有無および洗浄前後でのろ過部における損失水頭の大きさの差(洗浄前−洗浄後)を評価および測定した。結果を表1に示す。
なお、使用した沈殿池1Aの詳細な仕様は、以下の通りである。また、沈殿物の巻き上がりの有無は、目視により行った。
・沈殿池の寸法:8m×1.5m×3.7m
・隔壁の配設間隔:500mm
・ろ材層の厚み:700mm
・上部スクリーンと下部スクリーンとの間の距離:900mm
・気体噴出口の位置:隔壁の下端から上方へ100mm
ろ材層の下端から下方へ300mm
被処理水の流入口側の隔壁から右方へ150mm
・被処理水流量:12.4m3/時間
・曝気量:12Nm3/時間/m2
・水面積負荷:25m3/m2/日
・水面積:12m2
・ろ材層の面積:3m2
【0046】
(比較例1)
図4に示す沈殿池1B(隔壁31の長さを変更して気体噴出口36を隔壁31の下端よりも下側に設けた沈殿池)を使用し、実施例1と同様にして沈殿部からの沈殿物の巻き上がりの有無および洗浄前後でのろ過部における損失水頭の大きさの差(洗浄前−洗浄後)を評価および測定した。結果を表1に示す。
なお、使用した沈殿池1Bの詳細な仕様は、以下の通りである。
・沈殿池の寸法:8m×1.5m×3.7m
・隔壁の配設間隔:500mm
・ろ材層の厚み:700mm
・上部スクリーンと下部スクリーンとの間の距離:900mm
・気体噴出口の位置:隔壁の下端から下方へ100mm
ろ材層の下端から下方へ300mm
被処理水の流入口側の隔壁の位置から右方へ150mm
・被処理水流量:12.4m3/時間
・曝気量:12Nm3/時間/m2
・水面積負荷:25m3/m2/日
・水面積:12m2
・ろ材層の面積:3m2
【0047】
【表1】
【0048】
表1より、実施例1の沈殿池では、比較例1の沈殿池に比べ、沈殿部の沈殿機能の低下を抑制しつつろ過部を効率的に洗浄することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、沈殿部およびろ過部を備える沈殿池であって、沈殿部の機能の低下を抑制しつつろ過部を効率的に洗浄することが可能な沈殿池を提供することができる。
【符号の説明】
【0050】
1,1A,1B 沈殿池
2 沈殿部
3,3A,3B ろ過部
4 処理水流路
21 固形分排出配管
22 固形分排出弁
30,30A,30B 被処理水流路
31 隔壁
32 処理水流出部
33 上部スクリーン
34 下部スクリーン
35 ろ材層
36 気体噴出口
37 横板
図1
図2
図3
図4