特許第6437863号(P6437863)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6437863フレキシブル回路基板用難燃性二軸配向ポリエステルフィルム、およびそれからなるフレキシブル回路基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6437863
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】フレキシブル回路基板用難燃性二軸配向ポリエステルフィルム、およびそれからなるフレキシブル回路基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/03 20060101AFI20181203BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20181203BHJP
   C08K 5/5313 20060101ALI20181203BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20181203BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20181203BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20181203BHJP
【FI】
   H05K1/03 670A
   H05K1/03 610M
   C08L67/02
   C08K5/5313
   C08J5/18CFD
   B32B27/36
   B32B27/18 B
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-60972(P2015-60972)
(22)【出願日】2015年3月24日
(65)【公開番号】特開2016-181602(P2016-181602A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2017年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】301020226
【氏名又は名称】帝人フィルムソリューション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 有美子
(72)【発明者】
【氏名】大宅 太郎
(72)【発明者】
【氏名】仁木 淳
【審査官】 小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/090732(WO,A1)
【文献】 特開2006−063211(JP,A)
【文献】 特開平11−199762(JP,A)
【文献】 特開2005−119107(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/143196(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/03
B32B 27/18
B32B 27/36
C08J 5/18
C08K 5/5313
C08L 67/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを70重量%以上99.5重量%以下、および、下式(1)もしくは(2)で表される平均粒子径0.5〜3.0μmの難燃剤粒子を0.5重量%以上30重量%以下含有する層Aを含み、かつ前記層Aの片面に層Bを有するポリエステルフィルムであって、
前記層Bは、層重量を基準としてポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを90重量%以上100重量%以下、および前記難燃剤粒子を0重量%以上10重量%以下含有し、層Aが層Bよりも難燃剤を多く含んでなり、前記層Aと前記層Bの層厚み比が2:1〜10:1であること、
【化1】
(式中、R、Rは水素、炭素数1〜6のアルキル基および/またはアリール基であり、Mは金属、mはMの価数をそれぞれ表す)
【化2】
(式中、R、Rは水素、炭素数1〜6のアルキル基および/またはアリール基、Rは炭素数1〜6のアルキレン基または炭素数6〜10のアリーレン基、アルキルアリーレン基もしくはアリールアルキレン基であり、Mは金属、nはMの価数をそれぞれ表す)
該層A中に含まれる最大長10μm以上の粗大粒子の個数が10個/m以下であることを特徴とするフレキシブル回路基板用難燃性二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項2】
前記フレキシブル回路基板用難燃性二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、少なくとも一方の面の中心線平均粗さRaが0.1μm以上2μm未満である、請求項1記載のフレキシブル回路基板用難燃性二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記層A側の中心線平均粗さRaが0.1μm以上2μm未満であり、前記層B側の中心線平均粗さRaが1nm以上10nm未満である請求項に記載のフレキシブル回路基板用難燃性二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
請求項1〜のいずれかに記載のフレキシブル回路基板用難燃性二軸配向ポリエステルフィルムを用いたフレキシブル回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフレキシブル回路基板用難燃性ポリエステルフィルムおよびそれからなるフレキシブル回路基板に関するものである。さらに詳しくは、難燃性および表面平坦性に優れたフレキシブル回路基板用難燃性二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれからなるフレキシブル回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの電子機器の技術進歩に伴って、フレキシブルプリント回路(以下、FPCと略記することがある)基板の需要が急激に伸びている。近年、製造物責任法の施行に伴い、火災に対する安全性を確保するためにFPCに用いられる樹脂の難燃化が要望されている。従来より、本用途では銅箔張り合わせのポリイミドフィルムや薄膜化ポリイミドが使用されている。しかしながら、ポリイミドはその素材の性質上、薄肉フィルムの加工性に乏しく、また高価な素材に位置付けられている。
【0003】
難燃性ポリステルフィルムとしては、有機ハロゲン化合物、ハロゲン含有有機リン化合物等のハロゲン系難燃剤を含有するフィルムが検討されてきたが、これらの難燃剤は難燃効果は高いものの、成形・加工の温度によっては微量のハロゲンが遊離し、腐食性のハロゲン化水素ガスを発生して成形・加工機器を腐食させる可能性、火災等の燃焼に際して微量のハロゲン化水素等のガスを発生する可能性が指摘されている。そのため、近年ハロゲン系難燃剤に替わり、ハロゲンを含まない難燃剤を用いることが要望されている。
【0004】
また、ポリエステル樹脂の難燃化方法の1つとして、リン化合物をポリエステルに共重合化させる方法が検討されており、例えば特開2007−9111号公報(特許文献1)には、カルボキシホスフィン酸成分の中でも特定のカルボキシホスフィン酸成分を用いることにより、他のリン化合物を併用しなくても少量でポリエチレンナフタレンジカルボキシレートに高い難燃性を付与できることが開示されている。しかしながら、特許文献1のようなカルボキシホスフィン酸化合物を含有するポリエチレンナフタレンジカルボキシレートフィルムは、フィルムの状態では高い難燃性が発現するものの、フレキシブルプリント回路などの用途に加工した後の難燃性についてはフィルム自体の難燃性が再現されないことがあった。
【0005】
その他のリン系難燃剤として、例えば特開2009−179037号公報(特許文献2)、特開2010−89334号公報(特許文献3)にはホスフィン酸金属塩などといった無機金属のリン酸系誘導体を含む難燃層をポリエステルフィルムに積層させた積層フィルムが提案されている。しかしながら提案されている積層フィルムは、多孔質基材フィルムのフィルム内部のボイド構造により燃焼性が高いことを鑑み、基材フィルム上に難燃剤と硬化剤とを用いた難燃層を設ける技術であった。また国際公開第2012/090732号パンフレット(特許文献4)には、ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩を含有する難燃性ポリエステルフィルムが提案されており、ポリアルキレンテレフタレートやポリアルキレンナフタレートといったポリエステルフィルムそのものをリン系難燃剤で難燃化し、さらにこれら難燃剤による耐加水分解性低下が抑制された難燃性二軸配向ポリエステルフィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−9111号公報
【特許文献2】特開2009−179037号公報
【特許文献3】特開2010−89334号公報
【特許文献4】国際公開第2012/090732号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩を難燃剤として用いたポリエステルフィルムの検討を進める過程で、未処理のホスフィン酸塩をそのまま用いるとフィルム表面が粗く、表面平坦性が求められるフレキシブル回路基板として用いるのに適した表面性とはいえないことを知見した。
本発明の目的はかかる従来の課題を解消し、難燃性と表面平坦性に優れるFPC回路基板として好適に使用できるフレキシブル回路基板用難燃性二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれからなるフレキシブル回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、ホスフィン酸塩またはジホスフィン酸塩はポリエステルと相溶せずにフィルム中で粒子等のように異物として存在しており、しかも粗大粒子の存在比率が高いこと、また延伸によりこれら難燃剤とポリエステル樹脂との界面にボイドが生じやすく、特に粗大粒子の周囲にボイドが形成されるとフィルム表面の凹凸が顕著になるため、これらの要因によって表面平坦性の低下を引き起こしていることを見出し、難燃剤粒子の粒径とともに粗大な難燃剤粒子の頻度を制御することで表面平坦性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明の目的は、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを70重量%以上99.5重量%以下、および、下式(1)もしくは(2)で表される平均粒子径0.5〜3.0μmの難燃剤粒子を0.5重量%以上30重量%以下含有する層Aを含み、かつ前記層Aの片面に層Bを有するポリエステルフィルムであって、
前記層Bは、層重量を基準としてポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを90重量%以上100重量%以下、および前記難燃剤粒子を0重量%以上10重量%以下含有し、層Aが層Bよりも難燃剤を多く含んでなり、前記層Aと前記層Bの層厚み比が2:1〜10:1であること、
【化1】
(式中、R、Rは水素、炭素数1〜6のアルキル基および/またはアリール基であり、Mは金属、mはMの価数をそれぞれ表す)
【化2】
(式中、R、Rは水素、炭素数1〜6のアルキル基および/またはアリール基、Rは炭素数1〜6のアルキレン基または炭素数6〜10のアリーレン基、アルキルアリーレン基もしくはアリールアルキレン基であり、Mは金属、nはMの価数をそれぞれ表す)
該層A中に含まれる最大長10μm以上の粗大粒子の個数が10個/m以下であることを特徴とするフレキシブル回路基板用難燃性二軸配向ポリエステルフィルム(項1)によって達成される。
【0010】
また本発明の二軸配向ポリエステルフィルムには以下の態様も好ましく包含される。
(項2) 前記フレキシブル回路基板用難燃性二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、少なくとも一方の面の中心線平均粗さRaが0.1μm以上2μm未満である、項1記載のフレキシブル回路基板用難燃性二軸配向ポリエステルフィルム。
(項) 前記層A側の中心線平均粗さRaが0.1μm以上2μm未満であり、前記層B側の中心線平均粗さRaが1nm以上10nm未満である項に記載のフレキシブル回路基板用難燃性二軸配向ポリエステルフィルム。
(項4) また、本発明には上述のフレキシブル回路基板用難燃性二軸配向ポリエステルフィルムを用いたフレキシブル回路基板も包含される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムは表面平坦性に優れており、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートといったポリエステルが有する機械特性を低下させることなく、高い難燃性を備えているため、フレキシブルプリント回路基板に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
<難燃性二軸配向ポリエステルフィルム>
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムは、ポリマー成分としてポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを70重量%以上99.5重量%以下、および、下式(1)もしくは(2)で表される平均粒子径0.5〜3.0μmの難燃剤粒子を0.5重量%以上30重量%以下含有する層Aを含むポリエステルフィルムであって、
【化3】
(式中、R、Rは水素、炭素数1〜6のアルキル基および/またはアリール基であり、Mは金属、mはMの価数をそれぞれ表す)
【化4】
(式中、R、Rは水素、炭素数1〜6のアルキル基および/またはアリール基、Rは炭素数1〜6のアルキレン基または炭素数6〜10のアリーレン基、アルキルアリーレン基もしくはアリールアルキレン基であり、Mは金属、nはMの価数をそれぞれ表す)
かつ該層A中に含まれる最大長10μm以上の粗大粒子の個数が10個/m以下である、フレキシブル回路基板用の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムである。
【0013】
(ポリエステル)
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムは、ポリマー成分としてポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが用いられ、好ましくはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが挙げられる。該ポリマー成分の含有量は、層Aについて、層Aの重量を基準として70重量%以上99.5重量%以下の範囲である。これらポリマー成分の含有量の下限値は75重量%であることが好ましく、78重量%であることがより好ましく、80重量%であることがさらに好ましく、85重量%であることが特に好ましい。
また、これらポリマー成分の含有量の上限値は、後述する難燃成分の含有量との関係で99重量%であることが好ましく、より好ましくは96重量%、さらに好ましくは92重量%、特に好ましくは90重量%である。
これらポリマー成分の含有量が下限値に満たないとフィルムの機械強度が低下する。一方、これらポリマー成分の含有量が上限値を超えると相対的に難燃成分の含有量が少なく、十分な難燃性が発現しない。
【0014】
また、本発明のフレキシブル回路基板用難燃性二軸配向ポリエステルフィルムは、本発明における層Aの片面に後述する本発明における層Bを積層する構成により、さらに一方の表面平坦性を高めることができる。かかる積層構成の場合、層Bにおけるポリマー成分(ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート)の含有量は、層Bの重量を基準として90重量%以上100重量%以下であることが好ましい。層Bにおける前記ポリマー成分の含有量の下限値は、好ましくは91重量%、より好ましくは92重量%、さらに好ましくは93重量%である。また、層Bにおける前記ポリマー成分の含有量の上限値は、好ましくは99.5重量%、より好ましくは99重量%、さらに好ましくは98重量%である。層Bにおける前記ポリマー成分の含有量が下限値に満たないと、層Bを設けることによるさらなる平坦化効果が十分に発現しないことがある。層Bにおける前記ポリマー成分は、より平坦化効果を高める観点で、かかる範囲内でより含有量が多いことが好ましい。一方、層Aにくらべて層Bの難燃剤量が少ないため、層Bの厚み比が高くなると難燃性低下につながることがある。
【0015】
本発明におけるポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、エチレンナフタレンジカルボキシレートを主成分とするポリエステルであり、好ましくはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート主成分とするポリエステルである。
また本発明におけるポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、主成分以外の成分(以下、共重合成分と称することがある)を有する共重合体である場合、本発明における難燃成分を含有しつつ、より平坦な表面性が得られるため好ましい。
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが共重合体である場合、各層を構成するポリエステルの全繰り返し単位のモル数を基準として25mol%未満の範囲で共重合成分を用いることができ、より好ましくは20mol%以下、さらに好ましくは15mol%以下、特に好ましくは10mol%以下である。また、前記共重合成分の下限は好ましくは1mol%以上であり、より好ましくは2mol%以上、さらに好ましくは4mol%以上である。
【0016】
本発明のフレキシブル回路基板用難燃性二軸配向ポリエステルフィルムが積層構成の場合、層A、層Bにおける共重合成分量は同一でも異なっていてもよく、また層Bの共重合成分量がより多い場合、より層B側の表面が平滑になり好ましい。
かかる共重合成分として、例えば蓚酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等のジカルボン酸、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸などのオキシカルボン酸、あるいはトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール、ポリエチレンオキシドグリコールなどのジオールが例示され、これらの中から主成分以外の成分を好ましく用いることができる。これらの共重合成分は1種または2種以上用いてもよい。
これらの共重合成分は、モノマー成分として共重合化されたものでもよく、また他のポリエステルとのエステル交換反応により共重合化されたものでもよい。
【0017】
また本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムは、ポリマー成分として、前記のポリエチレンナフタレンジカルボキシレート以外に、本発明の目的を損なわない範囲で他のポリエステルを含有してもよく、あるいはポリエステル以外の熱可塑性樹脂を含有してもよい。これら他の成分は、各層の重量を基準として、ポリマー成分のうち10重量%未満の範囲でポリエチレンナフタレンジカルボキシレートに代えて用いることができ、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下である。ポリエステル以外の熱可塑性樹脂として、例えばポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリイミド系樹脂などが例示される。
本発明におけるポリエチレンナフタレンジカルボキシレートの固有粘度は、ο−クロロフェノールを溶媒とし、25℃にて測定される固有粘度が0.4dl/g以上1.5dl/g以下であることが好ましく、さらに0.5dl/g以上1.2dl/g以下であることが好ましい。
【0018】
(難燃成分)
本発明における難燃成分として、下式(1)で表されるホスフィン酸塩もしくは下式(2)で表されるジホスフィン酸塩(以下、これらを総称してホスフィン酸塩類と称することがある)が難燃剤粒子として用いられる。
【0019】
【化5】
(式中、R、Rは水素、炭素数1〜6のアルキル基および/またはアリール基であり、Mは金属、mはMの価数をそれぞれ表す)
【0020】
【化6】
(式中、R、Rは水素、炭素数1〜6のアルキル基および/またはアリール基、Rは炭素数1〜6のアルキレン基または炭素数6〜10のアリーレン基、アルキルアリーレン基もしくはアリールアルキレン基であり、Mは金属、nはMの価数をそれぞれ表す)
【0021】
かかるホスフィン酸塩はホスフィン酸金属塩とも称される化合物であり、R、Rとして、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基、ビフェニル基が例示される。またMとしてアルミニウム、マグネシウム、カルシウムが例示され、価数mは2〜4の整数である。
【0022】
式(1)で表されるホスフィン酸塩として、具体的にはジメチルホスフィン酸カルシウム、メチルエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸カルシウム、フェニルホスフィン酸カルシウム、ビフェニルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、メチルエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、フェニルホスフィン酸マグネシウム、ビフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、メチルエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、フェニルホスフィン酸アルミニウム、ビフェニルホスフィン酸アルミニウム、が挙げられる。
【0023】
また、ジホスフィン酸塩のうち、R、Rとして、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、フェニル基が例示され、Rとしてメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、フェニレン基が例示される。またMとしてアルミニウム、マグネシウム、カルシウムが例示され、価数nは2〜4の整数である。
式(2)で表わされるジホスフィン酸塩として、エタン−1,2−ビス(ホスフィン酸)カルシウムなどのアルカンビスホスフィン酸カルシウム、エタン−1,2−ビス(メチルホスフィン酸)カルシウムなどのアルカンビス(アルキルホスフィン酸)カルシウム、アルカンビスホスフィン酸マグネシウム、アルカンビス(アルキルホスフィン酸)マグネシウム、アルカンビスホスフィン酸アルミニウム、アルカンビス(アルキルホスフィン酸)アルミニウムなどが挙げられる。
これらのホスフィン酸塩類の中でも、ジエチルホスフィン酸アルミニウムが特に好ましい。
【0024】
本発明において難燃剤粒子として用いられる前記のホスフィン酸塩類は、従来のリン系難燃剤に比べて、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートといった強度の高いポリエステルに対する物性低下の影響が少ないことから、ポリエステルフィルムに対してこれまで添加が難しかった多量の範囲まで難燃成分を添加することができる。
そのため、例えば金属層と積層して使用される用途に加工した際、従来であれば金属層を積層する前の難燃性ポリエステルフィルムにくらべて金属積層体は難燃性が低下していたのに対し、本発明の難燃剤粒子を用いた金属積層体は難燃性ポリエステルフィルムそのものと同様の高い難燃性が得られる特徴を有する。
【0025】
かかるホスフィン酸塩類の含有量は、層Aにおいて、層Aの重量を基準として0.5重量%以上30重量%以下である。また層Aにおける該ホスフィン酸塩類の含有量の下限値は、好ましくは1重量%、より好ましくは4重量%、さらに好ましくは8重量%、特に好ましくは10重量%である。また、該ホスフィン酸塩類の含有量の上限値は、好ましくは25重量%、より好ましくは22重量%、さらに好ましくは20重量%、特に好ましくは15重量%である。層Aにおけるホスフィン酸塩類の含有量が下限値に満たないと難燃性が十分でなく、一方、層Aにおけるホスフィン酸塩類の含有量が上限値を越えるとフィルム製膜性と表面平坦性が低下する。
【0026】
さらに本発明において層Bを設ける場合、層Bにおけるホスフィン酸塩類の含有量は、層Bの重量を基準として0重量%以上10重量%以下であることが好ましい。また層Bにおける該ホスフィン酸塩類の含有量の下限値は、好ましくは0.5重量%、より好ましくは1重量%、さらに好ましくは2重量%である。また、層Bにおける該ホスフィン酸塩類の含有量の上限値は、好ましくは9重量%、より好ましくは8重量%、さらに好ましくは7重量%である。
層Aの片面にさらに前記の層Bを設けるとともに、層Aが層Bよりも難燃剤を多く含むことにより、二軸配向ポリエステルフィルム全体での難燃性を発現しつつ、より平坦な表面を一方の面に付与できる。
層Bにおけるホスフィン酸塩類の含有量が下限値に満たないと、層Bの厚み比によっては難燃性の低下を伴うことがある。一方、層Bにおけるホスフィン酸塩類の含有量が上限値を越えると、層Bによる更なるフィルム表面の平坦化効果が十分に発現しないことがある。
【0027】
かかるホスフィン酸塩類は粒子形状を有しており、本発明において難燃剤粒子と称する。本発明の難燃剤粒子の平均粒子径は0.5μm以上3.0μm以下であり、該平均粒子径の下限は好ましくは1.0μm、さらに好ましくは1.5μmである。また該難燃剤粒子の平均粒子径の上限は好ましくは2.5μmである。該平均粒子径が下限に満たないとフィルム中での分散性が低下し、粒子が凝集してフィルム表面の平坦性の低下につながる。一方、上限を超える平均粒子径の場合もフィルム表面の平坦性の低下につながる。
【0028】
また本発明において、層Aに含まれる最大長10μm以上の粗大粒子の個数は10個/m以下であることを要し、さらに5個/m以下であることが好ましい。また、さらに層Bを設ける場合、層Bに含まれる最大長10μm以上の粗大粒子の個数も10個/m以下であることが好ましく、さらに5個/m以下であることが好ましい。かかる難燃性粒子は粒子径分布がかなり広く、これらの粗大粒子がフィルム表面の平坦性の低下に影響し、フレキシブル回路基板として用いることが難しくなる。そのため、難燃剤粒子を予め粉砕、分級などの前処理を行い、これらの粗大粒子を予め取り除くことにより、平坦性を向上させた難燃性二軸配向ポリエステルフィルムを得ることができる。
【0029】
ここで難燃剤粒子の平均粒子径は、測定方法欄における説明のとおり、ポリエステルフィルムの断面について、株式会社ハイロックス デジタルマイクロスコープKH−3000を用い、3500倍の倍率で粒子20個をサンプリングし、それぞれの粒子径のうちの最大長を測定し、20点のうち最小値と最大値を除いた18点の平均値より求められる。
また最大長10μm以上の粗大粒子の個数は、万能投影機を用い、透過照明にて20倍に拡大して粒子の最大長を測定して求めることができる。
【0030】
(リン原子濃度)
本発明におけるリン原子濃度は、層Aについて、層Aの重量を基準として0.1重量%以上7重量%以下であることが好ましい。またかかるリン原子濃度の下限値は、好ましくは0.2重量%、より好ましくは0.9重量%、さらに好ましくは1.8重量%、特に好ましくは2.3重量%である。かかるリン原子濃度の上限値は、好ましくは5.8重量%、より好ましくは5.0重量%、さらに好ましくは4.6重量%、特に好ましくは3.5重量%である。
また本発明においてさらに層Bを有する場合、層Bのリン原子濃度は層Bの重量を基準として0重量%以上2.3重量%以下であることが好ましく、下限値についてより好ましくは0.1重量%、さらに好ましくは0.2重量%、特に好ましくは0.5重量%、上限値についてより好ましくは2.1重量%、さらに好ましくは1.8重量%、特に好ましくは1.6重量%である。
【0031】
本発明は、ポリエステルの中でも強度の高いポリエチレンナフタレンジカルボキシレートに対して、本発明のホスフィン酸塩類からなる特定サイズの難燃剤粒子を用いることにより、従来の添加型リン系成分または共重合型リン系成分に比べてポリエステルの機械特性を損ねない点に特徴がある。
一方でリン原子濃度を上限値を超える濃度にまで高めようとすると、添加するホスフィン酸塩類の量が多すぎてフィルムの平坦性と製膜性に乏しくなる。また、リン原子濃度の下限値に近い範囲、すなわち従来のリン系成分の含有量に位置付けられる範囲においても、他のリン系成分にくらべて高い難燃性が発現し、金属層と積層して使用される用途に加工した際にも難燃性ポリエステルフィルムそのものと同様の高い難燃性が再現される特徴を有する。リン系成分の含有量が少ない範囲においてもかかる効果が発現する理由として、ホスフィン酸塩類を構成する金属成分によるラジカルトラップ効果によると考えられる。
【0032】
(他添加剤)
本発明の難燃性二軸配向ポリステルフィルムには、フィルムの取り扱い性を向上させるため、発明の効果を損なわない範囲で不活性粒子などが添加されていてもよい。かかる不活性粒子としては、例えば、周期律表第IIA、第IIB、第IVA、第IVBの元素を含有する無機粒子(例えばカオリン、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素など)、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂粒子等の耐熱性の高いポリマーよりなる粒子が挙げられる。
不活性粒子を用いる場合、不活性粒子の平均粒子径は、0.001〜5μmの範囲が好ましく、各層の重量を基準として0.01〜10重量%の範囲で含有されることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜5重量%、特に好ましくは0.05〜3重量%である。
本発明の難燃性二軸配向ポリステルフィルムには、さらに必要に応じて熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤などの添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
【0033】
(フィルム層構成)
本発明における難燃性二軸配向ポリエステルフィルムの層構成として、特定の粒径でかつ粗大粒子を除去した前記難燃剤を0.5重量%以上30重量%以下の範囲で含有する層Aを有することを特徴としており、さらに一方の表面平滑性をさらに良好なものとするために、前記難燃剤を0重量%以上10重量%以下の範囲で含有する層Bを層Aの片面に有することが好ましい。また、層Bを有する場合、層Aは層Bよりも難燃剤を多く含有する構成であることが好ましい。
【0034】
(フィルム厚み)
本発明における難燃性二軸配向ポリエステルフィルムの厚みは50μm以上250μm以下であることが好ましい。従来は、ポリエステルフィルムにリン系難燃剤を添加する方法で難燃化させようとすると、ポリエステルフィルムの機械的特性や耐加水分解性の低下を引き起こすため、ポリエステルフィルムそのものをリン系難燃剤で難燃化するのではなく、難燃剤を含む他の層をポリエステルフィルムに積層させる手法が主流であった。本発明は、難燃成分による上述するような問題が解消されるため、フィルム厚みの制約なく、例えば上述のような様々な厚みの二軸配向ポリエステルフィルム自体にリン系難燃剤を添加して用いることができる。
また、本発明においてさらに層Bを有する場合、難燃性を維持しながら層B側の表面平坦性をより高めるために、前記層Aと層Bの層厚み比は2:1〜10:1であることが好ましく、さらに4:1〜8:1の範囲であることが好ましい。
【0035】
(表面粗さ)
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、層Aの表面粗さ(中心線平均粗さRa)は0.1μm以上2μm未満であることが好ましい。層Aの中心線平均粗さRaの上限はより好ましくは1.5μm未満、さらに好ましくは1.0μm未満、特に好ましくは0.5μm未満である。また中心線平均粗さRaの下限は0.2μm以上であってもよく、さらに0.3μm以上であってもよい。より好ましい中心線平均粗さRaの範囲として、0.1μm以上1.5μm未満、さらに好ましくは0.1μm以上1.0μm未満、特に好ましくは0.1μm以上0.5μm未満である。また本発明の難燃成分の含有量が多い領域においては、0.2μm以上1.5μm未満、0.3μm以上1.0μm未満、あるいは0.3μm以上0.5μm未満であってもよい。
【0036】
また、本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムにおいてさらに層Bを有する場合、一方の面の中心線平均粗さRaが0.1μm以上2μm未満であり、もう一方の面の中心線平均粗さRaが1nm以上10nm未満であることが好ましく、具体的には層A側の面の中心線平均粗さRaが0.1μm以上2μm未満であり、層B側の中心線平均粗さRaが1nm以上10nm未満であることが好ましい。
前記のより平坦な面の中心線平均粗さRaは、より好ましくは2nm以上9nm未満、さらに好ましくは3nm以上8nm未満である。それぞれの面の表面粗さは、上述した平均粒子径であって、かつ粗大粒子を除いたホスフィン酸塩類からなる難燃剤粒子を用い、層A、層Bに特定量ずつ用いることによって得られる。
【0037】
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、それぞれの面について前記の表面特性を有することにより、フィルムがロール状に巻かれている間に形成される、より粗面である層A側から層B側への粒子跡の転写を防ぐことができる。そのため、層B側の表面平坦性をより向上させることができ、フレキシブル回路基板用途として用いた場合に平坦な層B側にさらに線幅の細い回路を形成できる。一方で粗大粒子の存在により層A側の中心線平均粗さRaが上限を越える場合、層Bを有していても層B側への転写が生じ、層B側の表面平坦性が乏しくなることがある。
【0038】
<フィルム製造方法>
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムの製造は、公知の製膜方法を用いて製造することができる。例えば層Aに用いるホスフィン酸塩を含むポリエステル組成物と層Bに用いるホスフィン酸塩を含むポリエステル組成物を用意する。十分に乾燥させた後、融点〜(融点+70)℃の温度で各々を別々の押出機内で溶融し、フィードブロックを用いて層A/層Bとなるように2層に積層し、Tダイを通じて溶融押出し、フィルム状溶融物を冷却ロール(キャスティングドラム)上で急冷して未延伸フィルムとする。次いで該未延伸フィルムを逐次または同時二軸延伸し、熱固定する方法で製造することができる。逐次二軸延伸により製膜する場合、未延伸フィルムを縦方向に80〜190℃で2.3〜5.5倍、より好ましくは2.5〜5.0倍の範囲で延伸し、次いでステンターにて横方向に90〜190℃で2.3〜5.0倍、より好ましくは2.5〜4.8倍の範囲で延伸する。
熱固定は、180〜260℃、より好ましくは190〜240℃の温度で緊張下又は制限収縮下で熱固定するのが好ましく、熱固定時間は1〜1000秒が好ましい。また同時二軸延伸の場合、上記の延伸温度、延伸倍率、熱固定温度等を適用することができる。また、熱固定後に弛緩処理を行ってもよい。
【0039】
<難燃性ポリエステルフィルム積層体>
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムは、金属層と積層された難燃性ポリエステルフィルム積層体として用いることができる。ここで金属層には、フィルム上に層状に形成された形状のもの、導線などの形状のもの、回路など一定のパターン形状のものなどが含まれ、フレキシブルプリント回路が形成される。
かかる難燃性ポリエステルフィルム積層体はフレキシブルプリント回路基板に好適に用いられる。
【0040】
本用途において用いられる金属層としては銅箔が例示される。金属層の接合手段や形状の具体的手段としては特に制限はなく、例えば金属層を難燃性二軸配向ポリエステルフィルムに積層させた後、金属層をパターンエッチングするいわゆるサブトラクティブ法、難燃性二軸配向ポリエステルフィルム上に金属をパターン状にメッキするアディティブ法、パターン状に打ち抜いた金属層を難燃性二軸配向ポリエステルフィルムに貼り合せるスタンピングホイルなどを利用することができる。
【0041】
本発明の難燃性ポリエステルフィルム積層体を用いて得られたフレキシブルプリント回路基板は、ポリエステルフィルム自体の難燃性が非常に高く、金属層と積層して使用されるフレキシブルプリント回路基板用途に加工した際にも難燃性二軸配向ポリエステルフィルムそのものと同様の高い難燃性が発現し、同時に本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムは高い難燃性を有しながら表面平滑性にも優れているため、金属層の回路パターンの形成に優れており、特に中心線平均粗さRaが1nm以上10nm未満である平滑面を有する場合、さらに金属層の回路パターンを高繊細化でき、高密度化できるため好ましい。
また本発明の難燃性ポリエステルフィルム積層体は、十分な機械強度および耐加水分解性も備えることから、フレキシブルプリント回路基板としての長期耐久性にも優れている。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0043】
(1)ポリエステル成分の種類および含有量
H−NMR測定、13C−NMR測定により、ポリエステルの成分および共重合成分および各成分量を特定した。
【0044】
(2)リン成分の種類
NMRおよびEPMAを用いてリン成分の種類を特定した。
【0045】
(3)リン原子濃度
ポリエステルフィルムについて、リン原子濃度を蛍光X線の発光強度より算出した。
【0046】
(4)難燃剤粒子の平均粒子径
ポリエステルフィルムの断面について、株式会社ハイロックス デジタルマイクロスコープKH−3000を用い、3500倍の倍率で粒子20個をサンプリングし、それぞれの粒子径のうちの最大長を測定し、20点のうち最小値と最大値を除いた18点の平均値より平均粒子径を求めた。
【0047】
(5)粗大粒子の大きさ、個数
万能投影機を用い、透過照明にて20倍に拡大し、10μm以上の最大長をもつ粒子数をカウントし、以下の基準で評価した。測定面積は1mとした。1枚のフィルムサンプルの面積が1mに満たない場合は、複数枚のフィルムサンプルの合計面積が1mとなるよう調整するか、1mより小面積のフィルムサンプルでの測定結果をもとに1mあたりの個数に換算してもよい。
○: 10μm以上の最大長をもつ粒子数が10個/m以下
×: 10μm以上の最大長をもつ粒子数が10個/mを超える
【0048】
(6)フィルム全体厚み、層厚み
フィルムサンプルをスピンドル検出器(安立電気(株)製K107C)にはさみ、デジタル差動電子マイクロメーター(安立電気(株)製K351)にて、異なる位置で厚みを10点測定し、平均値を求めフィルム厚みとした。
また各層厚みの測定については、フィルムをフィルム長手方向2mm、幅方向2cmに切り出し、包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂(リファインテック(株)製エポマウント)にて包埋した。包埋されたサンプルをミクロトーム(LEICA製ULTRACUT UCT)で幅方向に垂直に切断し、5nm厚の薄膜切片にした。透過型電子顕微鏡(日立S−4300)を用いて加速電圧100kVにて観察撮影し、写真から各層の厚みを測定した。
【0049】
(7)表面粗さ:中心線平均粗さRa
株式会社小坂研究所製の触針式表面粗さ計(SURFCORDER SE−30C)を用い、以下の条件でポリエステルフィルムの両面について測定し、算出される中心線平均粗さRaを測定し、それぞれの面について4回測定した平均値を用いて下記評価基準に従って評価した。
<測定条件>
触針先端半径 2μm
測定長:2.5mm
カットオフ:0.25mm
測定環境:室温、大気中
<評価基準:Ra>
5: 1nm以上10nm未満(0.001μm以上0.01μm未満)
4: 0.01μm以上0.1μm未満
3: 0.1μm以上2μm未満
2: 2μm以上
【0050】
(8)フィルム燃焼性
フィルムサンプルをUL−94VTM法に準拠して評価した。サンプルを20cm×5cmにカットし、23±2℃、50±5%RH中で48時間放置し、その後、試料下端をバーナーから10mm上方に離し垂直に保持した。該試料の下端を内径9.5mm、炎長19mmのブンゼンバーナーを加熱源とし、3秒間接炎した。VTM−0,VTM−1,VTM−2の評価基準に沿って難燃性を評価し、n=5の測定回数のうち、同じランクになった数の最も多いランクとした。
【0051】
(9)FPC構成での燃焼性
フィルムの片面に回路を形成した片面FPCを作成し、
UL−94V法に準拠して評価した。層Bを設ける構成の場合は層B側の面に回路を形成した。
燃焼性試験を行うに際し、FPCサンプルを13mm×125mmにカットし、50±5%RH中で48時間放置し、その後、試験片の下端をバーナーから10mm上方に離し垂直に保持した。該試験片の下端を内径9.5mm、炎長19mmのブンゼンバーナーを加熱源とし、10秒間接炎した。離炎後の自己消火性を評価し、V−0、V−2で評価した。
【0052】
[実施例1]
層A用組成物として、固有粘度0.60dl/g、末端カルボキシル基濃度25当量/tonのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(エステル交換触媒:酢酸マンガン四水塩、重合触媒:三酸化アンチモン)を用い、ジメチルホスフィン酸アルミニウム(表1中、リン化合物Cと記載,平均粒子径2μm,粗大粒子(最大長10μm以上)を粉砕、分級加工により除去)を層Aの重量を基準として25重量%含有した組成物を準備し、層B用組成物として層Aと同じポリエステルを用い、リン化合物は含有しない組成物を準備し、それぞれ170℃のドライヤーで3時間乾燥後、別々の押出機に投入し、溶融温度300℃で溶融混練して300℃のダイスリットより押出した後、フィードブロック内で層Aと層Bの厚み比が87:13となるよう積層状態とし、表面温度60℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
【0053】
この未延伸フィルムを140℃に加熱したロール群に導き、長手方向(縦方向)に3.2倍で延伸し、40℃のロール群で冷却した。続いて、縦延伸したフィルムの両端をクリップで保持しながらテンターに導き、140℃に加熱された雰囲気中で長手方向に垂直な方向(横方向)に3.6倍で延伸した。その後、テンタ−内で240℃の熱固定を行い、200℃で幅方向に1%弛緩後、均一に徐冷して室温まで冷やし、75μmのフィルム厚みで、層Aと層Bの厚みがそれぞれ65μmと10μmである二軸配向フィルムを得た。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。本実施例の二軸配向フィルムは、難燃性、表面平坦性に優れていた。また中心線平均粗さRaが層A側0.3μm、層B側8nmであり、層B面に銅箔を積層し、高繊細な回路パターンを歪みなく形成できた。また本実施例の二軸配向フィルムを得るにあたり、安定して製膜でき、製膜性に優れていた。
【0054】
[実施例2]
難燃剤をジエチルホスフィン酸アルミニウム(表1中、リン化合物Dと記載,平均粒子径2μm,粗大粒子(最大長10μm以上)を粉砕、分級加工により除去)に変更し、層Aに25重量%含有させ、層Bに5重量%含有させた組成物とした以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み75μmの二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。本実施例の二軸配向フィルムは、難燃性、表面平坦性、製膜性、高繊細な回路パターン形成性ともに優れていた。
【0055】
[実施例3]
難燃剤の含有量を層Aに15重量%、層Bに10重量%に変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、厚み75μmの二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。本実施例の二軸配向フィルムは、難燃性、表面平坦性、製膜性、高繊細な回路パターン形成性ともに優れていた。
【0056】
[実施例4]
難燃剤の含有量を層Aに5重量%、層Bに3重量%に変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、厚み75μmの二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。本実施例の二軸配向フィルムは、難燃性、表面平坦性、製膜性、高繊細な回路パターン形成性ともに優れていた。
【0057】
[実施例5]
層Aと層Bの層厚みを50μmと25μmに変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、厚み75μmの二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。本実施例の二軸配向フィルムは、難燃性、表面平坦性、製膜性、高繊細な回路パターン形成性ともに優れていた。
【0058】
[実施例6]
層Aと層Bの層厚みを70μm、5μmに変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、厚み75μmの二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。本実施例の二軸配向フィルムは難燃性、表面平坦性、製膜性に優れていたが、層Bの厚みが薄いため、層B側の表面平坦性は実施例4よりは低下した。
【0059】
[比較例1]
層Aについて難燃剤を添加せず、層Aのみの単層とした以外は実施例1と同様の操作を行い、厚み75μmの二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。本比較例の二軸配向フィルムは製膜性、表面平坦性に優れるものの難燃性が十分ではなかった。
【0060】
[比較例2]
難燃剤の含有量を層Aに40重量%、層Bに5重量%に変更した以外は実施例2と同様の操作を行い、厚み75μmの二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。本比較例の二軸配向フィルムは製膜性、難燃性に優れるものの、層A側の表面平坦性が十分ではなく、層Aの表面形状が層Bに転写されて層Bの表面平坦性も実施例2にくらべると低下した。
【0061】
[比較例3]
難燃剤として粗大粒子を除去していないジエチルホスフィン酸アルミニウム(表1中、リン化合物D’と記載,平均粒子径2μm)に変更した以外は実施例4と同様の操作を行い、厚み75μmの二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。本比較例は製膜性が十分でなく、また得られた二軸配向フィルムは表面が粗く、表面平坦性が十分ではなかった。
【0062】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の難燃性二軸配向ポリエステルフィルムは表面平坦性に優れており、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートといったポリエステルが有する機械特性を低下させることなく、高い難燃性を備えているため、フレキシブルプリント回路基板に好適に用いることができる。