【実施例】
【0031】
次に、本発明の実施例について説明する。
図2は、実施例にかかる圧粉磁心の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図3は、圧粉磁心の作製条件および評価結果を示す表である。
【0032】
<サンプルの作製>
まず、
図2に示す混合体形成工程(ステップS11)に従い、磁性金属粉末とガラス粉末と潤滑剤とを含む混合体を形成した。具体的には、まず、所定の容器(混合機)に磁性金属粉末を投入した。磁性金属粉末には、Feを3%、Siを3.5%含むFe−Si−Al系合金の粉末(表面がAl
2O
3の絶縁被膜で覆われているもの)を用いた。更に、この磁性金属粉末にガラス粉末と潤滑剤とを添加した。ガラス粉末には平均粒径が1.5μmの硼珪酸ガラス(軟化点:505℃)を用いた。ガラス粉末の添加量は2.0重量%とした。
【0033】
また、潤滑剤として、ベヘニルアルコール粉末(融点:約70℃)、エルカ酸モノアミド粉末(融点:約82℃)、ステアリン酸モノアミド粉末(融点:約103℃)をそれぞれ1:1:3の割合で混合したものを用いた。潤滑剤(3種の潤滑剤を混合した後の潤滑剤a1)の添加量は、0.1〜0.6重量%とした。
図3の表に示すように、潤滑剤の添加量が0.1重量%のサンプルを実施例1、潤滑剤の添加量が0.2重量%のサンプルを実施例2、潤滑剤の添加量が0.4重量%のサンプルを実施例3、潤滑剤の添加量が0.6重量%のサンプルを実施例4とした。
【0034】
そして、磁性金属粉末とガラス粉末と潤滑剤とを含む混合体の温度を、
図4に示す温度プロファイルとなるように制御しながら、混合体を撹拌した。具体的には、実施例1〜4に含まれる潤滑剤のうち最も融点が高いステアリン酸モノアミド粉末(融点:約103℃)の融点よりも高い温度である110℃に混合体を加熱し、5分間、撹拌した。つまり、混合体に含まれる潤滑剤を溶融させながら、混合体を撹拌した。その後、混合体を撹拌しながら70℃まで冷却した。
【0035】
また、
図3の表に示すように、比較例1として潤滑剤を添加しないサンプルを作製した。更に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛粉末(融点:約150℃)を用いたサンプルを比較例2〜4として作製した。潤滑剤の添加量が0.2重量%のサンプルを比較例2、潤滑剤の添加量が0.4重量%のサンプルを比較例3、潤滑剤の添加量が0.6重量%のサンプルを比較例4とした。
【0036】
比較例1〜4にかかるサンプルを作製する際は、磁性金属粉末とガラス粉末と潤滑剤とを含む混合体をV型混合機に入れて常温で乾式混合した。すなわち、比較例1〜4では潤滑剤が溶融していない状態で混合体を撹拌した。
【0037】
次に、
図2に示す成形工程(ステップS12)に従い、混合体形成工程(ステップS11)で形成した混合体を成形した。具体的には、リング形状(φ30〜φ39)および円柱形状(φ17)の金型に、混合体形成工程(ステップS11)において形成した混合体を充填した。その後、温間成型法を用いて混合体を成形した。つまり、金型を130℃に加熱しながら、金型に充填されている混合体に980MPaの圧力を印加して混合体を成形した。加圧成形後、成形体を金型から取り外した。その後、成形体を窒素雰囲気において750℃で30分、焼きなまし処理をすることで圧粉磁心を作製した。このようにして、各々のサンプル(実施例1〜4、比較例1〜4)を作製した。
【0038】
<サンプルの評価>
次に、サンプルの評価結果について説明する。各々のサンプル(実施例1〜4、比較例1〜4)に対して、粉末流動性試験、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)による表面観察、圧粉密度測定、圧環強度測定、磁気測定(鉄損)、引き出し力測定、EPMA(Electron Probe Micro Analyser)による表面分析を実施した。以下、各々の評価結果について説明する。
【0039】
(粉末流動性試験)
図2に示す混合体形成工程(ステップS11)で形成した混合体(粉末)に対して粉末流動性試験を実施した。粉末流動性試験は、JIS、Z−2502に準拠した方法で行った。具体的には、排出口直径φ2.63mmのかさ密度測定器から50gの混合体(粉末)を室温にて排出し、この排出が終了するまでの時間を測定することで粉末流動性を調べた。つまり、排出時間が短いほど粉末流動性がよいといえる。
【0040】
図5に、潤滑剤の添加量と粉末流動性との関係を示す(
図3の表も参照)。
図5に示すように、比較例1〜4では粉末流動性(排出時間)が76〜85(s/50g)であったのに対して、実施例1〜4では粉末流動性(排出時間)が24〜28(s/50g)と小さく(短く)なった。よって、実施例1〜4では比較例1〜4と比べて粉末流動性が著しく向上したといえる。つまり、混合体形成工程において、潤滑剤の融点以上に加熱して潤滑剤を溶融させながら混合体を混合することで、潤滑剤の分散性と付着性を向上させることができ、混合体の粉末流動性を向上させることができた。
【0041】
(SEMによる表面観察)
また、混合体形成工程(ステップS11)で形成した混合体の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。
図6は、実施例にかかる混合体のSEM像であり、
図7は比較例にかかる混合体のSEM像である。
図6に示すように、実施例にかかる混合体では、潤滑剤を溶融させながら混合体を混合したので、磁性金属粉末の表面がガラス粉末および潤滑剤で均一に被覆されていた。よって、磁性金属粉末間の摩擦力を低減することができ、混合体の粉末流動性を向上させることができたといえる。
【0042】
一方、
図7に示すように、比較例にかかる混合体では、潤滑剤が溶融していない状態で混合体を混合したので、ガラス粉末および潤滑剤の分散状態が不均一となった。このため、比較例にかかる混合体では粉末流動性が悪くなったといえる。
【0043】
(圧粉密度)
また、作製した圧粉磁心の密度を測定した。
図8は、潤滑剤の添加量と圧粉密度との関係を示すグラフである(
図3の表も参照)。
図8に示すように、実施例1〜4では圧粉磁心の密度が6.32〜6.33と略一定となったのに対して、比較例1〜4では、圧粉磁心の密度が潤滑剤の添加量が増加するにしたがって低下した。この理由は、比較例では混合体を形成した際に潤滑剤が偏って存在しているため(
図7参照)、焼きなまし処理で潤滑剤が抜ける際に空孔ができ、密度が低下したためであると考えられる。一方、実施例1〜4では、潤滑剤が均一に分散しているため、焼きなまし処理で潤滑剤が抜ける際に、空孔の発生を抑制できたと考えられる。
【0044】
(圧環強度)
また、作製した圧粉磁心の圧環強度試験を行った。具体的には、5kNオートグラフを用いて最大荷重を測定して圧環強度を算出した。圧環強度試験は、JIS、Z−2507に準拠した方法を用いて行った。
図9に潤滑剤の添加量と圧環強度との関係を示す(
図3の表も参照)。
図9に示すように、実施例1〜4では比較例1〜4と比べて圧環強度が高くなった。これは、実施例1〜4では比較例1〜4と比べて圧粉磁心の密度が高いためであると考えられる(
図8参照)。また、比較例1〜4では、潤滑剤の添加量が増加するにしたがって圧環強度が低下した。これは、比較例1〜4では潤滑剤の添加量が増加するにしたがって圧粉磁心の密度が低下したためであると考えられる(
図8参照)。
【0045】
(EPMAによる表面分析)
また、作製した圧粉磁心に対してEPMAによる表面分析を実施した。
図10は、実施例にかかる圧粉磁心のEPMA像であり、
図11は比較例にかかる圧粉磁心のEPMA像である。
図10に示すように、実施例にかかる圧粉磁心では、磁性金属粉末の粒界においてガラスが均一に分散していることが確認できた。一方、
図11に示すように、比較例にかかる圧粉磁心では、磁性金属粉末の粒界においてガラスが偏析していることが確認できた。このように比較例にかかる圧粉磁心ではガラスが偏析しており、このガラスの偏析は圧環強度が低くなる原因の一つであると考えられる。
【0046】
(引き出し力)
また、混合体形成工程(ステップS11)で形成した混合体を、500kNアムスラー試験機を用いて加圧成形(温間成形)した後、金型から成形体を抜き出す時の荷重を測定し、この測定した最大荷重を抜き出し力とした。
図12に潤滑剤の添加量と抜き出し力との関係を示す。
図12に示すように、実施例2〜4では比較例2〜4と比べて抜き出し力が低くなった。これは、実施例では、磁性金属粉末の表面に潤滑剤が均一に被覆されているため、加圧成形時に潤滑剤が溶融した際に、金型と成形体との間に潤滑剤が均一に分散したためであると考えられる。
【0047】
(磁気測定)
また、作製した圧粉磁心に対して磁気測定を行った。磁気測定は、リング形状の圧粉磁心に励磁用、検出用の巻線(90×90ターン)をそれぞれ設けて行った。巻線にはφ0.5mmの銅線を用いた。磁気測定には、BHアナライザ(岩通計測、型番SY−8232)を用いた。測定条件は、0.1T、20kHzとした。
図3の表に示すように、比較例1〜4では鉄損が313〜336(kW/m
3)となり、潤滑剤の添加量が増加するにしたがって鉄損の値が上昇した。これに対して、実施例1〜4では鉄損が311〜314(kW/m
3)となり、比較例と比べて鉄損の値が低くなった。
【0048】
以上で説明した実施例1〜4では、潤滑剤として3種の材料を用いた場合を示したが、本発明では、1種の材料を用いた潤滑剤を溶融した場合でも同様の効果が得られる。つまり、添加する潤滑剤の種類が1種の場合であっても、本発明の効果が奏される基本的なメカニズム(潤滑剤が溶融することによる効果)は、潤滑剤の種類が3種の場合と同様である。
【0049】
以上、本発明を上記実施の形態および実施例に即して説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。