特許第6437900号(P6437900)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6437900
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】圧粉磁心の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/02 20060101AFI20181203BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20181203BHJP
   H01F 1/24 20060101ALI20181203BHJP
【FI】
   H01F41/02 D
   H01F27/255
   H01F1/24
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-168819(P2015-168819)
(22)【出願日】2015年8月28日
(65)【公開番号】特開2017-45926(P2017-45926A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2017年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】石井 洪平
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】三枝 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】高橋 利光
(72)【発明者】
【氏名】大坪 将士
(72)【発明者】
【氏名】近藤 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】ファン ジョンハン
(72)【発明者】
【氏名】谷 昌明
(72)【発明者】
【氏名】服部 毅
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−054924(JP,A)
【文献】 特開2014−177664(JP,A)
【文献】 特開2010−251696(JP,A)
【文献】 特開平01−219101(JP,A)
【文献】 特開平08−143901(JP,A)
【文献】 特開平04−033301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 27/255
H01F 1/24
C22C 38/00
B22F 1/00
B22F 3/00
B22F 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性金属粉末とガラス粉末と第1の潤滑剤と第2の潤滑剤とを混合して混合体を形成する混合体形成工程と、
前記混合体を加圧成形して焼きなましする成形工程と、を備え、
互いに溶融している状態で前記第1の潤滑剤は前記第2の潤滑剤よりも分散性が高く、前記第2の潤滑剤は前記第1の潤滑剤よりも潤滑性が高く、
前記混合体形成工程において、前記第1の潤滑剤の融点以上かつ前記第2の潤滑剤の融点以上で加熱しながら前記磁性金属粉末と前記ガラス粉末と前記第1の潤滑剤と前記第2の潤滑剤とを混合し、前記磁性金属粉末に前記ガラス粉末、前記第1の潤滑剤、及び前記第2の潤滑剤を均一に付着させる
圧粉磁心の製造方法。
【請求項2】
前記成形工程の加圧成形は、前記第1の潤滑剤の融点以上かつ前記第2の潤滑剤の融点以上に加熱した状態で実施する、請求項1に記載の圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧粉磁心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の駆動モータを構成するステータコアやロータコア、電力変換回路を構成するリアクトルコアなどに圧粉磁心が用いられている。圧粉磁心は、電磁鋼板を積層して形成したコアと比べて、高周波損失(鉄損)が少ない等の利点を備える。
【0003】
特許文献1には圧粉磁心の製造方法が開示されている。特許文献1に開示されている圧粉磁心の製造方法では、磁性金属粉末とガラス粉末と潤滑剤とを混合し、その後これらの混合体を圧縮して成形することで圧粉磁心を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−054924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている圧粉磁心の製造方法では、磁性金属粉末にガラス粉末を添加することで、圧粉磁心の強度を向上させている。しかしながら、ガラス粉末は流動性が低いため、磁性金属粉末にガラス粉末を添加すると粉末流動性が低下し、圧粉磁心を成形する際の成形性が悪化する。このような成形性の悪化は潤滑剤を添加することで改善することができる。しかしながら、添加する潤滑剤の量が多くなると圧粉磁心の密度が低下し、圧粉磁心の強度が低下するという問題がある。
【0006】
上記課題に鑑み本発明の目的は、圧粉磁心の成形性を向上させつつ圧粉磁心の強度低下を抑制することが可能な圧粉磁心の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる圧粉磁心の製造方法は、磁性金属粉末とガラス粉末と潤滑剤とを混合して混合体を形成する混合体形成工程と、前記混合体を加圧成形して焼きなましする成形工程と、を備え、前記混合体形成工程において、前記潤滑剤の融点以上で加熱しながら前記磁性金属粉末と前記ガラス粉末と前記潤滑剤とを混合する。
【0008】
本発明にかかる圧粉磁心の製造方法では、混合体形成工程において、潤滑剤の融点以上で加熱しながら磁性金属粉末とガラス粉末と潤滑剤とを混合している。よって、混合時に潤滑剤が溶融し、潤滑剤の分散性と付着性が向上し、混合体の粉末流動性が向上する。したがって、磁性金属粉末の表面にガラス粉末および潤滑剤を均一に付着させることができるので、圧粉磁心の成形性を向上させることができる。また、混合時に潤滑剤を溶融させているので、潤滑剤の機能を効果的に発揮させることができる。よって、混合体に添加する潤滑剤の添加量を低減させることができるので、圧粉磁心の密度の低下を抑制することができ、圧粉磁心の強度が低下することを抑制することができる。
【0009】
本発明にかかる圧粉磁心の製造方法において、前記成形工程の加圧成形は、前記潤滑剤の融点以上に加熱した状態で実施してもよい。
【0010】
このように、加熱した状態で加圧成形することで、磁性金属粉末の表面を被覆している潤滑剤を再び溶融させることができる。よって、溶融した潤滑剤を用いて金型と成形体との間の摩擦力を低減させることができるので、混合体を加圧成形して成形体を形成した後、当該成形体を金型から取り出すときに必要な力を低減させることができる。
【0011】
本発明にかかる圧粉磁心の製造方法において、前記潤滑剤は第1の潤滑剤と第2の潤滑剤とを含んでいてもよく、互いに溶融している状態で前記第1の潤滑剤は前記第2の潤滑剤よりも分散性が高く、前記第2の潤滑剤は前記第1の潤滑剤よりも潤滑性が高くてもよい。
【0012】
このように、分散性が高い第1の潤滑剤を添加することで、混合体の分散性を効果的に向上させることができる。よって、混合体の粉末流動性が向上し、圧粉磁心の成形性を効果的に向上させることができる。また、潤滑性が高い第2の潤滑剤を添加することで、成形体と金型との間の摩擦力を効果的に低減させることができる。よって、成形体を金型から取り出すときに必要な力を効果的に低減させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、圧粉磁心の成形性を向上させつつ圧粉磁心の強度低下を抑制することが可能な圧粉磁心の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図2】実施例にかかる圧粉磁心の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図3】圧粉磁心の作製条件および評価結果を示す表である。
図4】混合体形成工程における温度プロファイルを説明するための図である。
図5】潤滑剤の添加量と粉末流動性との関係を示すグラフである。
図6】混合体形成工程後の混合体のSEM像である(実施例)。
図7】混合体形成工程後の混合体のSEM像である(比較例)。
図8】潤滑剤の添加量と圧粉密度との関係を示すグラフである。
図9】潤滑剤の添加量と圧環強度との関係を示すグラフである。
図10】成形工程後の圧粉磁心のEPMA像である(実施例)。
図11】成形工程後の圧粉磁心のEPMA像である(比較例)。
図12】潤滑剤の添加量と抜き出し力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法を説明するためのフローチャートである。本実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法は、混合体形成工程(ステップS1)と成形工程(ステップS2)とを備える。
【0016】
混合体形成工程(ステップS1)は、磁性金属粉末とガラス粉末と潤滑剤とを混合して混合体を形成する工程である。磁性金属粉末には、例えば表面が絶縁被膜で覆われた軟磁性金属粉末を用いる。具体的には、AlまたはAlNなどの絶縁被膜で覆われたFe−Si系合金の粉末やAlまたはAlNなどの絶縁被膜で覆われたFe−Si−Al系合金の粉末を用いることができる。なお、これらの材料は一例であり、本実施の形態では磁性金属粉末として他の材料を用いてもよい。
【0017】
また、ガラス粉末には低融点ガラス粉末を用いることができる。具体的には、潤滑剤の融点よりも軟化点が高く、成形工程(ステップS2)で実施する焼きなまし(後述する)の温度よりも軟化点が低いガラス粉末を用いる。一例を挙げると、硼珪酸系、硼珪酸バリウム系、硼酸バリウム系、アルミノリン酸塩系、リン酸塩系のガラス粉末を用いることができる。例えば、平均粒子径が1μm〜10μmのガラス粉末を用いる。なお、これらの材料は一例であり、本実施の形態ではガラス粉末として他の材料を用いてもよい。
【0018】
潤滑剤には、例えば、ベヘニルアルコール、エルカ酸モノアミド、ステアリン酸モノアミド、オレイン酸モノアミド、ステアリン酸カルシウム、およびエチレンビス−ステアリン酸アミドから選ばれる1種または2種以上の材料を用いることができる。なお、これらの材料は一例であり、本実施の形態では潤滑剤として他の材料を用いてもよい。
【0019】
本実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法では、磁性金属粉末とガラス粉末と潤滑剤とを混合する際(つまり、撹拌する際)、潤滑剤の融点以上で加熱しながらこれらの混合体を混合する。このように、混合時に潤滑剤の融点以上に加熱することで、混合時に潤滑剤を溶融させることができ、潤滑剤の分散性と付着性を向上させることができる。よって、混合体の粉末流動性を向上させることができる。
【0020】
本実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法では、例えば、磁性金属粉末とガラス粉末と潤滑剤とを混合して混合体を形成する際、混合体100重量%に対して、潤滑剤を0.1〜0.6重量%の割合で混合することが好ましい。また、磁性金属粉末とガラス粉末と潤滑剤とを混合する際の温度の上限値は、ガラス粉末の軟化点よりも低い温度とする。
【0021】
次に、成形工程(ステップS2)について説明する。成形工程(ステップS2)では、混合体形成工程(ステップS1)において形成した混合体(混合粉末)を加圧成形し、その後、焼きなましをすることで所定の形状を備える圧粉磁心を形成する。具体的には、所定の形状(つまり、完成後の圧粉磁心の形状に対応した形状)を備える金型に、混合体形成工程(ステップS1)において形成した混合体を充填する。その後、金型に充填されている混合体に所定の圧力を印加する。例えば、印加する圧力は100〜2000MPaとすることができる。これにより、混合体が成形される(成形後の混合体を成形体と呼ぶ)。そして、加圧成形後、成形体を金型から取り外す。
【0022】
なお、本実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法では、加圧成形をする際に、潤滑剤の融点以上に加熱した状態で加圧成形(つまり、温間成形)してもよい。このように、加熱した状態で加圧成形することで、磁性金属粉末の表面を被覆している潤滑剤を再び溶融させることができる。よって、溶融した潤滑剤を用いて金型と成形体との間の摩擦力を低減させることができるので、混合体を加圧成形して成形体を形成した後、当該成形体を金型から取り出すときに必要な力を低減させることができる(つまり、抜き出し力を低減させることができる)。なお、この場合も、加圧成形する際の温度の上限値は、ガラス粉末の軟化点よりも低い温度とする。
【0023】
その後、成形体を焼きなましする。例えば、焼きなましの条件は、窒素雰囲気で600〜900℃、15〜60分とすることができる。なお、焼きなましの条件は、この条件に限定されることはなく、適宜、変更してもよい。
【0024】
特許文献1に開示されている圧粉磁心の製造方法では、磁性金属粉末にガラス粉末を添加することで、圧粉磁心の強度を向上させていた。しかしながら、ガラス粉末は流動性が低いため、磁性金属粉末にガラス粉末を添加すると粉末流動性が低下し、圧粉磁心を成形する際の成形性が悪化する。このような成形性の悪化は潤滑剤を添加することで改善することができる。しかしながら、添加する潤滑剤の量が多くなると圧粉磁心の密度が低下し、圧粉磁心の強度が低下するという問題があった。
【0025】
そこで、本発明にかかる圧粉磁心の製造方法では、混合体形成工程において、潤滑剤の融点以上で加熱しながら磁性金属粉末とガラス粉末と潤滑剤とを混合している。よって、混合時に潤滑剤が溶融し、潤滑剤の分散性と付着性が向上し、混合体の粉末流動性が向上する。したがって、磁性金属粉末の表面にガラス粉末および潤滑剤を均一に付着させることができるので、圧粉磁心の成形性を向上させることができる。また、混合時に潤滑剤を溶融させているので、潤滑剤の機能を効果的に発揮させることができる。よって、混合体に添加する潤滑剤の添加量を低減させることができるので、圧粉磁心の密度の低下を抑制することができ、圧粉磁心の強度が低下することを抑制することができる。
【0026】
また、本実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法では、性質が異なる2種以上の潤滑剤を用いてもよい。例えば、潤滑剤として第1の潤滑剤と第2の潤滑剤とを用いる場合は、第1の潤滑剤として第2の潤滑剤よりも分散性(溶融している状態における分散性)が高い潤滑剤を用い、また、第2の潤滑剤として第1の潤滑剤よりも潤滑性(溶融している状態における潤滑性)が高い潤滑剤を用いてもよい。例えば、第1の潤滑剤はベヘニルアルコールを含んでいてもよく、第2の潤滑剤はエルカ酸モノアミド及びステアリン酸モノアミドの少なくとも一つを含んでいてもよい。
【0027】
このように、分散性が高い第1の潤滑剤を添加することで、混合体の分散性を効果的に向上させることができる。ここで、分散性が高い潤滑剤は融点が比較的低いという性質がある。つまり、融点が低い潤滑剤は溶けやすいので、潤滑剤が均一になりやすい。このように分散性が高い潤滑剤を用いることで、混合体の粉末流動性が向上し、圧粉磁心の成形性を効果的に向上させることができる。
【0028】
また、潤滑性が高い第2の潤滑剤を添加することで、成形体と金型との間の摩擦力を効果的に低減させることができる。つまり、潤滑性が高い潤滑剤は、表面の摩擦係数を低減させる効果が高いので、成形体を金型から取り出すときに必要な力を効果的に低減させることができる。
【0029】
なお、分散性が高い潤滑剤は融点が比較的低いという性質があり、潤滑性が高い潤滑剤は融点が比較的高いという性質がある。よって、本実施の形態にかかる圧粉磁心の製造方法では、融点が異なる2種以上の潤滑剤を用いることで、上記で説明した混合体の粉末流動性の向上と、成形体と金型との間の摩擦力の低減の効果を得ることができる。
【0030】
以上で説明した本実施の形態にかかる発明により、圧粉磁心の成形性を向上させつつ圧粉磁心の強度低下を抑制することが可能な圧粉磁心の製造方法を提供することができる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明の実施例について説明する。
図2は、実施例にかかる圧粉磁心の製造方法を説明するためのフローチャートである。図3は、圧粉磁心の作製条件および評価結果を示す表である。
【0032】
<サンプルの作製>
まず、図2に示す混合体形成工程(ステップS11)に従い、磁性金属粉末とガラス粉末と潤滑剤とを含む混合体を形成した。具体的には、まず、所定の容器(混合機)に磁性金属粉末を投入した。磁性金属粉末には、Feを3%、Siを3.5%含むFe−Si−Al系合金の粉末(表面がAlの絶縁被膜で覆われているもの)を用いた。更に、この磁性金属粉末にガラス粉末と潤滑剤とを添加した。ガラス粉末には平均粒径が1.5μmの硼珪酸ガラス(軟化点:505℃)を用いた。ガラス粉末の添加量は2.0重量%とした。
【0033】
また、潤滑剤として、ベヘニルアルコール粉末(融点:約70℃)、エルカ酸モノアミド粉末(融点:約82℃)、ステアリン酸モノアミド粉末(融点:約103℃)をそれぞれ1:1:3の割合で混合したものを用いた。潤滑剤(3種の潤滑剤を混合した後の潤滑剤a1)の添加量は、0.1〜0.6重量%とした。図3の表に示すように、潤滑剤の添加量が0.1重量%のサンプルを実施例1、潤滑剤の添加量が0.2重量%のサンプルを実施例2、潤滑剤の添加量が0.4重量%のサンプルを実施例3、潤滑剤の添加量が0.6重量%のサンプルを実施例4とした。
【0034】
そして、磁性金属粉末とガラス粉末と潤滑剤とを含む混合体の温度を、図4に示す温度プロファイルとなるように制御しながら、混合体を撹拌した。具体的には、実施例1〜4に含まれる潤滑剤のうち最も融点が高いステアリン酸モノアミド粉末(融点:約103℃)の融点よりも高い温度である110℃に混合体を加熱し、5分間、撹拌した。つまり、混合体に含まれる潤滑剤を溶融させながら、混合体を撹拌した。その後、混合体を撹拌しながら70℃まで冷却した。
【0035】
また、図3の表に示すように、比較例1として潤滑剤を添加しないサンプルを作製した。更に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛粉末(融点:約150℃)を用いたサンプルを比較例2〜4として作製した。潤滑剤の添加量が0.2重量%のサンプルを比較例2、潤滑剤の添加量が0.4重量%のサンプルを比較例3、潤滑剤の添加量が0.6重量%のサンプルを比較例4とした。
【0036】
比較例1〜4にかかるサンプルを作製する際は、磁性金属粉末とガラス粉末と潤滑剤とを含む混合体をV型混合機に入れて常温で乾式混合した。すなわち、比較例1〜4では潤滑剤が溶融していない状態で混合体を撹拌した。
【0037】
次に、図2に示す成形工程(ステップS12)に従い、混合体形成工程(ステップS11)で形成した混合体を成形した。具体的には、リング形状(φ30〜φ39)および円柱形状(φ17)の金型に、混合体形成工程(ステップS11)において形成した混合体を充填した。その後、温間成型法を用いて混合体を成形した。つまり、金型を130℃に加熱しながら、金型に充填されている混合体に980MPaの圧力を印加して混合体を成形した。加圧成形後、成形体を金型から取り外した。その後、成形体を窒素雰囲気において750℃で30分、焼きなまし処理をすることで圧粉磁心を作製した。このようにして、各々のサンプル(実施例1〜4、比較例1〜4)を作製した。
【0038】
<サンプルの評価>
次に、サンプルの評価結果について説明する。各々のサンプル(実施例1〜4、比較例1〜4)に対して、粉末流動性試験、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)による表面観察、圧粉密度測定、圧環強度測定、磁気測定(鉄損)、引き出し力測定、EPMA(Electron Probe Micro Analyser)による表面分析を実施した。以下、各々の評価結果について説明する。
【0039】
(粉末流動性試験)
図2に示す混合体形成工程(ステップS11)で形成した混合体(粉末)に対して粉末流動性試験を実施した。粉末流動性試験は、JIS、Z−2502に準拠した方法で行った。具体的には、排出口直径φ2.63mmのかさ密度測定器から50gの混合体(粉末)を室温にて排出し、この排出が終了するまでの時間を測定することで粉末流動性を調べた。つまり、排出時間が短いほど粉末流動性がよいといえる。
【0040】
図5に、潤滑剤の添加量と粉末流動性との関係を示す(図3の表も参照)。図5に示すように、比較例1〜4では粉末流動性(排出時間)が76〜85(s/50g)であったのに対して、実施例1〜4では粉末流動性(排出時間)が24〜28(s/50g)と小さく(短く)なった。よって、実施例1〜4では比較例1〜4と比べて粉末流動性が著しく向上したといえる。つまり、混合体形成工程において、潤滑剤の融点以上に加熱して潤滑剤を溶融させながら混合体を混合することで、潤滑剤の分散性と付着性を向上させることができ、混合体の粉末流動性を向上させることができた。
【0041】
(SEMによる表面観察)
また、混合体形成工程(ステップS11)で形成した混合体の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。図6は、実施例にかかる混合体のSEM像であり、図7は比較例にかかる混合体のSEM像である。図6に示すように、実施例にかかる混合体では、潤滑剤を溶融させながら混合体を混合したので、磁性金属粉末の表面がガラス粉末および潤滑剤で均一に被覆されていた。よって、磁性金属粉末間の摩擦力を低減することができ、混合体の粉末流動性を向上させることができたといえる。
【0042】
一方、図7に示すように、比較例にかかる混合体では、潤滑剤が溶融していない状態で混合体を混合したので、ガラス粉末および潤滑剤の分散状態が不均一となった。このため、比較例にかかる混合体では粉末流動性が悪くなったといえる。
【0043】
(圧粉密度)
また、作製した圧粉磁心の密度を測定した。図8は、潤滑剤の添加量と圧粉密度との関係を示すグラフである(図3の表も参照)。図8に示すように、実施例1〜4では圧粉磁心の密度が6.32〜6.33と略一定となったのに対して、比較例1〜4では、圧粉磁心の密度が潤滑剤の添加量が増加するにしたがって低下した。この理由は、比較例では混合体を形成した際に潤滑剤が偏って存在しているため(図7参照)、焼きなまし処理で潤滑剤が抜ける際に空孔ができ、密度が低下したためであると考えられる。一方、実施例1〜4では、潤滑剤が均一に分散しているため、焼きなまし処理で潤滑剤が抜ける際に、空孔の発生を抑制できたと考えられる。
【0044】
(圧環強度)
また、作製した圧粉磁心の圧環強度試験を行った。具体的には、5kNオートグラフを用いて最大荷重を測定して圧環強度を算出した。圧環強度試験は、JIS、Z−2507に準拠した方法を用いて行った。図9に潤滑剤の添加量と圧環強度との関係を示す(図3の表も参照)。図9に示すように、実施例1〜4では比較例1〜4と比べて圧環強度が高くなった。これは、実施例1〜4では比較例1〜4と比べて圧粉磁心の密度が高いためであると考えられる(図8参照)。また、比較例1〜4では、潤滑剤の添加量が増加するにしたがって圧環強度が低下した。これは、比較例1〜4では潤滑剤の添加量が増加するにしたがって圧粉磁心の密度が低下したためであると考えられる(図8参照)。
【0045】
(EPMAによる表面分析)
また、作製した圧粉磁心に対してEPMAによる表面分析を実施した。図10は、実施例にかかる圧粉磁心のEPMA像であり、図11は比較例にかかる圧粉磁心のEPMA像である。図10に示すように、実施例にかかる圧粉磁心では、磁性金属粉末の粒界においてガラスが均一に分散していることが確認できた。一方、図11に示すように、比較例にかかる圧粉磁心では、磁性金属粉末の粒界においてガラスが偏析していることが確認できた。このように比較例にかかる圧粉磁心ではガラスが偏析しており、このガラスの偏析は圧環強度が低くなる原因の一つであると考えられる。
【0046】
(引き出し力)
また、混合体形成工程(ステップS11)で形成した混合体を、500kNアムスラー試験機を用いて加圧成形(温間成形)した後、金型から成形体を抜き出す時の荷重を測定し、この測定した最大荷重を抜き出し力とした。図12に潤滑剤の添加量と抜き出し力との関係を示す。図12に示すように、実施例2〜4では比較例2〜4と比べて抜き出し力が低くなった。これは、実施例では、磁性金属粉末の表面に潤滑剤が均一に被覆されているため、加圧成形時に潤滑剤が溶融した際に、金型と成形体との間に潤滑剤が均一に分散したためであると考えられる。
【0047】
(磁気測定)
また、作製した圧粉磁心に対して磁気測定を行った。磁気測定は、リング形状の圧粉磁心に励磁用、検出用の巻線(90×90ターン)をそれぞれ設けて行った。巻線にはφ0.5mmの銅線を用いた。磁気測定には、BHアナライザ(岩通計測、型番SY−8232)を用いた。測定条件は、0.1T、20kHzとした。図3の表に示すように、比較例1〜4では鉄損が313〜336(kW/m)となり、潤滑剤の添加量が増加するにしたがって鉄損の値が上昇した。これに対して、実施例1〜4では鉄損が311〜314(kW/m)となり、比較例と比べて鉄損の値が低くなった。
【0048】
以上で説明した実施例1〜4では、潤滑剤として3種の材料を用いた場合を示したが、本発明では、1種の材料を用いた潤滑剤を溶融した場合でも同様の効果が得られる。つまり、添加する潤滑剤の種類が1種の場合であっても、本発明の効果が奏される基本的なメカニズム(潤滑剤が溶融することによる効果)は、潤滑剤の種類が3種の場合と同様である。
【0049】
以上、本発明を上記実施の形態および実施例に即して説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12