(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シャシフレームと、前記シャシフレームの車幅方向の左右二箇所の位置に配置される少なくとも2つのブッシュとを有し、当該ブッシュによって前記シャシフレームを支持するシャシフレーム支持構造であって、
前記ブッシュは、内側部材と、前記内側部材を取り囲む外筒部材と、前記内側部材と前記外筒部材との間に配置される弾性体とを有して、前記内側部材の中心軸を車両上下方向として車両に取り付けられ、
前記内側部材は、車幅方向内側に向かうに従って上方に傾斜する傾斜部を有するものであり、
前記外筒部材は、前記内側部材の傾斜部の傾斜面と対向するように前記内側部材に向かって突出する対向部を有するものであり、
前記外筒部材の対向部は、車幅方向内側に向かうに従って上方に傾斜しており、
前記弾性体は、少なくとも、前記内側部材の傾斜部と前記外筒部材の対向部との間に介在する部分を含むものであり、
前記内側部材の傾斜部と前記外筒部材の対向部とは、互いに径方向で重なり合っていないとともに、互いに前記中心軸方向で重なり合っていない、シャシフレーム支持構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記サブフレームには、様々なサスペンションリンク機構を介してタイヤが取り付けられている。このため、路面状態に起因した振動等が前記タイヤから入力されたとき、前記サブフレームのロール回転中心軸と、その他のサスペンションリンク機構のロール回転中心軸とがそれぞれ異なることから、前記サブフレームと前記サスペンションリンク機構とは相対的に別々の動きとなる。こうした異なる動きは、車両の操縦安定性に影響を与えることが懸念される。
【0005】
そこで、前記ブッシュの前記弾性体として硬度が高いゴムを使用すれば、当該ブッシュ自体の剛性が高まることで、前記サブフレームの動きが抑制されるため、車両の操縦安定性が向上する。
【0006】
一方、ゴム硬度を高くして前記ブッシュの剛性を高めた場合、動的ばね定数が高くなることから、振動や騒音を伝達しやすくなるため、防振・防音性能などの性能悪化が考えられる。
【0007】
こうしたことへの対策としては、前記ブッシュの弾性主軸の方向を変えるべく、例えば、前記ブッシュ自体を傾けて取り付けることが考えられる。このように前記ブッシュ自体を傾けて取り付ければ、前記サブフレームのロール回転中心軸と、前記サスペンションリンク機構のロール回転中心軸とを近付けることができるため、前記サブフレームのロール回転角度が低減されることにより、前記サブフレームの相対動きを減少させることができる。
【0008】
ところが、前記ブッシュ自体を傾けて取り付ける場合、前記サブフレーム及び/又は前記車体への取り付けが困難になるという新たな問題が生じる。
【0009】
本発明の目的は、組み立て時の作業性を損なうことなく、車両の操縦安定性を向上させることが可能な、車両用ブッシュおよびシャシフレーム支持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の車両用ブッシュは、車両の車幅方向の左右二箇所の少なくとも一方の位置に配置されるブッシュであって、前記ブッシュは、内側部材と、前記内側部材を取り囲む外筒部材と、前記内側部材と前記外筒部材との間に配置される弾性体とを有して、前記内側部材の中心軸を車両上下方向として車両に取り付けられるものであって、前記内側部材および前記外筒部材の一方は、車両に取り付けられたときに車幅方向内側に向かうに従って上方に傾斜する傾斜部を有するものであり、前記内側部材および前記外筒部材の他方は、前記傾斜部の傾斜面と対向するように前記内側部材および前記外筒部材の前記一方に向かって突出する対向部を有するものであり、前記弾性体は、少なくとも、前記傾斜部と前記対向部との間に介在する部分を含むものである。
本発明の車両用ブッシュによれば、当該車両用ブッシュを車両上下方向に対して傾けることなく、弾性主軸の方向が変えられることで、組み立て時の作業性を損なうことなく、車両の操縦安定性を向上させることができる。
【0011】
本発明の車両用ブッシュにおいて、前記弾性体は、前記中心軸方向の両端面のうち、前記傾斜部を挟んで前記対向部と反対側の前記端面に開口して当該端面と前記傾斜部との間に延在する空洞部を有することが好ましい。
この場合、前記弾性主軸をより大きく傾かせることができる。
【0012】
本発明の車両用ブッシュにおいて、前記内側部材および前記外筒部材の一方は、車両に取り付けられたときに車幅方向内側に向かうに従って上方に傾斜する他の傾斜部を有するものであり、前記内側部材および前記外筒部材の他方は、前記他の傾斜部の傾斜面と対向するように前記内側部材および前記外筒部材の前記一方に向かって突出する他の対向部を有するものであり、前記弾性体は、前記他の傾斜部と前記他の対向部との間に介在する部分をさらに含むものであることが好ましい。
この場合、前記弾性主軸の傾きを大きく確保しつつ、当該弾性主軸の傾きを安定的に一定の状態に維持することができる。
【0013】
本発明の車両用ブッシュにおいて、前記弾性体は、前記中心軸方向の両端面のうち、前記他の傾斜部を挟んで前記他の対向部と反対側の前記端面に開口して当該端面と前記他の傾斜部との間に延在する、他の空洞部を有することが好ましい。
この場合、前記弾性主軸をより大きく傾かせることができる。
【0014】
本発明のシャシフレーム支持構造は、シャシフレームと、前記シャシフレームの車幅方向の左右二箇所の位置に配置される少なくとも2つのブッシュとを有し、当該ブッシュによって前記シャシフレームを支持するシャシフレーム支持構造であって、
前記ブッシュは、内側部材と、前記内側部材を取り囲む外筒部材と、前記内側部材と前記外筒部材との間に配置される弾性体とを有して、前記内側部材の中心軸を車両上下方向として車両に取り付けられ、前記内側部材および前記外筒部材の一方は、車幅方向内側に向かうに従って上方に傾斜する傾斜部を有するものであり、前記内側部材および前記外筒部材の他方は、前記傾斜部の傾斜面と対向するように前記内側部材および前記外筒部材の前記一方に向かって突出する対向部を有するものであり、前記弾性体は、少なくとも、前記傾斜部と前記対向部との間に介在する部分を含むものである。
本発明のシャシフレーム支持構造によれば、車両用ブッシュを車両上下方向に対して傾けることなく、弾性主軸の方向が変えられることで、シャシフレームのロール回転角度が低減されるため、シャシフレームの相対的な動きが減少することにより、組み立て時の作業性を損なうことなく、車両の操縦安定性を向上させることができる。
【0015】
本発明のシャシフレーム支持構造において、前記弾性体は、前記中心軸方向の両端面のうち、前記傾斜部を挟んで前記対向部と反対側の前記端面に開口して当該端面と前記傾斜部との間に延在する空洞部を有することが好ましい。
この場合、前記弾性主軸をより大きく傾かせることができる。
【0016】
本発明のシャシフレーム支持構造において、前記内側部材および前記外筒部材の一方は、車幅方向内側に向かうに従って上方に傾斜する他の傾斜部を有するものであり、前記内側部材および前記外筒部材の他方は、前記他の傾斜部の傾斜面と対向するように前記内側部材および前記外筒部材の前記一方に向かって突出する他の対向部を有するものであり、前記弾性体は、前記他の傾斜部と前記他の対向部との間に介在する部分をさらに含むものであることが好ましい。
この場合、前記弾性主軸の傾きを大きく確保しつつ、当該弾性主軸の傾きを安定的に一定の状態に維持することができる。
【0017】
本発明のシャシフレーム支持構造において、前記弾性体は、前記中心軸方向の両端面のうち、前記他の傾斜部を挟んで前記他の対向部と反対側の前記端面に開口して当該端面と前記他の傾斜部との間に延在する、他の空洞部を有することが好ましい。
この場合、前記弾性主軸をより大きく傾かせることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、組み立て時の作業性を損なうことなく、車両の操縦安定性を向上させることが可能な、車両用ブッシュおよびシャシフレーム支持構造を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の車両用ブッシュの、一実施形態に係る円筒ブッシュと、本発明のシャシフレーム支持構造の、一実施形態に係るサブフレーム支持構造とを詳細に説明する。なお、以下の説明では、
図1、
図2(b)および
図4の断面図ならびに
図5では、図面上下方向を鉛直方向とし、図面の上方および下方をそれぞれ、車両の上方および下方とする。
【0021】
図1中、符号1は、本発明の車両用ブッシュの、一実施形態に係る円筒ブッシュである。円筒ブッシュ1は、内筒部材(内側部材)11と、この内筒部材11を取り囲む外筒部材12と、内筒部材11と外筒部材12との間に配置される弾性体13とを有している。円筒ブッシュ1は、内筒部材11の中心軸O
1 を車両上下方向として、車両に取り付けられる。外筒部材12は、内筒部材11と同心配置されている。ここで、本実施形態では、内筒部材11の中心軸O
1 とは、内筒部材11の内径中心を通って伸びる軸線である。
【0022】
詳細には、本実施形態では、内筒部材11は、金属性材料からなり、本体部11aを有する。本実施形態では、本体部11aは、軸直角方向(径方向)の肉厚が中心軸O
1 に沿って一定の中空の円筒形である。本実施形態では、本体部11aの内周面および外周面はそれぞれ、中心軸O
1 周りの半径が中心軸O
1 に沿って同径のストレート形状である。また本実施形態では、本体部11aは、その内側に貫通穴が形成されている。この貫通穴には、後述するサブフレーム20(
図5,6参照)を、円筒ブッシュ1を介してボディ(図示省略)などに固定するための締結ボルトが貫通する。
【0023】
図1に示すように、本実施形態では、内筒部材11の上端面11e
1 および下端面11e
2 は、それぞれ、本体部11aの上端面および下端面を構成する。また、内筒部材11は、車両に取り付けられたときに車幅方向内側に向かうに従って上方に傾斜する傾斜部11bおよび11cを有する。本実施形態では、内筒部材11は、内筒部材11の上端面11e
1 および下端面11e
2 の間に、中心軸O
1 周りを周方向に延在する環状の膨出部を有し、この膨出部の一部として傾斜部11bおよび11cが構成されている。膨出部は、本体部11aから中心軸O
1 に対して径方向外側に向かうに従って先細りするように突出している。これにより、膨出部は、車両上下方向にそれぞれ、下側傾斜面11f
1 を有する傾斜部(以下、「下側傾斜部」ともいう)11bおよび上側傾斜面11f
2 を有する傾斜部(以下、「上側傾斜部」ともいう)11cを形成する。本実施形態では、車両に取り付けられたときに、車幅方向内側に配置される下側傾斜面11f
1 と、車幅方向外側に配置される上側傾斜面11f
2 とがそれぞれ、車両に取り付けられたときに車幅方向内側に向かうに従って上方に傾斜する。
【0024】
また、本実施形態では、下側傾斜面11f
1 が中心軸O
1 と平行な軸線となす角度をα
1 とし、上側傾斜面11f
2 が中心軸O
1 と平行な軸線となす角度をα
2 とすると、角度α
1 およびα
2 は、それぞれ、0度を含まない90度以下の範囲であればよい。さらに、角度α
1 およびα
2 は、同一の角度としても、異なる角度としてもよい。すなわち、角度α
1 およびα
2 は、それぞれ、車両の仕様などに合わせて、個々に設定することができる。また、下側傾斜面11f
1 および上側傾斜面11f
2 は、上方又は下方から見たとき、内筒部材11(中心軸O
1 )の周りに180度以下の範囲内に形成することができる。本発明では、この範囲を大きくすることで、後述する弾性主軸O
2 の傾きを大きくすることができる。このため、本実施形態では、前記膨出部を、内筒部材11の周方向に全周にわたって形成することにより、下側傾斜部11bおよび上側傾斜部11cの領域を、それぞれ、拡大している。ただし、下側傾斜部11bおよび上側傾斜部11cの周方向の範囲も車両の仕様などに合わせて、個々に設定することができる。
【0025】
次いで、本実施形態において、外筒部材12は、金属性材料からなり、内筒部材11を全周にわたって取り囲んで肉厚が一定の中空の円筒形である。外筒部材12は、中心軸O
1 に沿って同径のストレート形状である胴部12aを有している。また、外筒部材12は、車両に取り付けられたときに、内筒部材11の下側傾斜部11bの下側傾斜面11f
1 と対向するように内筒部材11に向かって突出する対向部12bと、内筒部材11の上側傾斜部11cの上側傾斜面11f
2 と対向するように内筒部材11に向かって突出する対向部12cを有している。本実施形態では、外筒部材12は、開口部が形成された下端部が下端フランジ12dとして構成されている。下端フランジ12dおよび胴部12aは、胴部12aよりも径が小さい絞り部を介して繋がり、この絞り部で対向部(以下、「下側対向部」ともいう)12bが構成されている。本実施形態では、下側対向部12bは、中心軸O
1 周りを周回する環状の絞り部である。下側対向部12bは、内筒部材11に向かうに従って先細りするように突出する。これにより、下側対向部12bは、内筒部材11の下側傾斜面11f
1 と対向するように、対向面(以下、「下側対向面」ともいう)12f
1 を形成する。本実施形態では、外筒部材12の下側対向面12f
1 は、
図1に示すように、内筒部材11の下側傾斜面11f
1 と向かい合うように、上方に向かうに従って径方向外向きに傾斜する。これにより、内筒部材11の下側傾斜面11f
1 と外筒部材12の下側対向面12f
1 との相互間には、
図1に示すように、車両に取り付けられたときに、車幅方向内側に向かうに従って上方に傾斜する領域S
1 が形成される。下側対向面12f
1 は、下側対向面12f
1 が中心軸O
1 と平行な軸線となす角度をβ
1 とすると、内筒部材11の下側傾斜面11f
1 と同様に、角度β
1 は、0度を含まない90度以下の範囲が好ましい。すなわち、角度β
1は、車両の仕様などに合わせて、個々に設定することができる。好適には、互いに向かい合う内筒部材11の下側傾斜面11f
1 と外筒部材12の下側対向面12f
1 とは、縦断面視で、互いに平行になるように構成される。この場合、弾性主軸O
2 を大きく傾斜させることができる。
【0026】
また、
図2(a),(b)に示すように、本実施形態では、外筒部材12は、開口部が形成された上端部が径方向内側に延在する折り返し部として構成されており、この折り返し部で対向部(以下、「上側対向部」ともいう)12cが構成されている。これにより、
図1に示すように、上側対向部12cは、内筒部材11の上側傾斜面11f
2 と対向するように、対向面(以下、「上側対向面」ともいう)12f
2 を形成する。本実施形態では、外筒部材12の上側対向面12f
2 は、
図1に示すように、内筒部材11の上側傾斜面11f
2 と向い合うように径方向内向きに延在する。このため、上側対向部12cは、内筒部材11の上側傾斜面11f
2 と対向するように、上側対向面12f
2 を形成する。これにより、内筒部材11の上側傾斜面11f
2 と外筒部材12の上側対向面12f
2 との相互間には、
図1に示すように、車両に取り付けられたときに領域S
2 が形成される。上側対向面12f
2 も、上側対向面12f
2 が中心軸O
1 と平行な軸線となす角度をβ
2 とすると、外筒部材12の下側対向面12f
1 と同様に、角度β
2 は、0度を含まない90度以下の範囲が好ましい。すなわち、角度β
2 も、車両の仕様などに合わせて、個々に設定することができる。本実施形態では、外筒部材12の上側対向面12f
2 は、径方向内側に向かって水平方向に延在する。これにより、領域S
2 は、縦断面視で、傾斜する上側対向面12f
1 と水平な上側対向面12f
2 とで形成される。
【0027】
なお、本実施形態では、
図2(a),(b)に示すように、他の折り返し部として、外筒部材12の上側対向部12cの両端から、それぞれ、上側対向部12cよりも折り返し量の少ない上縁部12eが中心軸O
1 の周りを周方向に延在し、この上縁部が補助的な対向部(以下、「補助対向部」ともいう)12eを構成している。これにより、
図1に示すように、補助対向部12eには、補助的な対向面(以下、「補助対向面」ともいう)12f
3 が形成される。本実施形態では、補助対向面12f
3 は、補助対向面12f
3 が中心軸O
1 と平行な軸線となす角度をβ
3 とすると、角度β
3 は、下側対向面12f
2 の角度β
2 と同一の角度となっている。ただし、補助対向面12f
3 の角度β
3 も、下側対向面12f
2 の角度β
2 と同様、車両の仕様などに合わせて、個々に設定することができる。また、本実施形態では、外筒部材12の胴部12aには、外筒部材12の下端から上端に向かうに従って縮径する段部が形成されており、この段部で追加の対向部(以下、「追加対向部」ともいう)12gが構成されている。これにより、追加対向部12gは、追加的な対向面(以下、「追加対向面」ともいう)12f
4 を形成している。追加対向面12f
4 も、追加対向面12f
4 が中心軸O
1 と平行な軸線となす角度をβ
4 とすると、角度β
4 は、車両の仕様などに合わせて、適宜設定することができる。なお、補助対向部12eおよび追加対向部12gは、それぞれ、個別的に省略することができる。
【0028】
図1に示すように、本実施形態では、内筒部材11の外周面は、内筒部材11の上下端部の外縁部を残して弾性体13によって被覆されている。さらに、
図1に示すように、外筒部材12は、その内周面全体が弾性体13によって被覆されている。弾性体13は、例えば、内筒部材11および外筒部材12をインサート品として、内筒部材11と外筒部材12との間に加硫成形することができる。すなわち、円筒ブッシュ1は、インサート成形することができる。
【0029】
本実施形態では、内筒部材11の下側傾斜部11bおよび外筒部材12の下側対向部12bと、内筒部材11の上側傾斜部11cおよび外筒部材12の上側対向部12cとが中心軸O
1周りに180度反対側に配置されている。これにより、
図1に示すように、円筒ブッシュ1を車両に取り付けたとき、弾性体13は、中心軸O
1 周りに180度反対側の位置に配置された領域S
1 および領域S
2 のそれぞれに介在する。すなわち、
図1に示すように、円筒ブッシュ1は、車両に取り付けたとき、下側に位置する領域S
1 が車幅方向内側の位置に配置されるとともに、上側に位置する領域S
2 が車幅方向外側の位置に配置されるブッシュとしてなる。
【0030】
加えて、本実施形態では、弾性体13は、内筒部材11の下側傾斜部11bを挟んで外筒部材12の下側対向部12bと反対側の上端面(端面)13e
1 に開口して、当該上端面13e
1 と下側傾斜部11bとの間に中心軸O
1 に沿って延在する上側空洞部(空洞部)13bを有する。本実施形態では、上側空洞部13bは、弾性体13の上端面13e
1 から中心軸O
1 に沿って内筒部材11の下側傾斜部11bの上端まで延在する。詳細には、上側空洞部13bは、径方向に幅の広い開口側領域13b
1 と、当該開口側領域13b
1 よりも径方向に幅の狭い傾斜部側領域13b
2 とで構成されている。開口側領域13b
1 は、弾性体13の上端面13e
1 から内筒部材11の上端面側の本体部11aの下端までの間を延在し、傾斜部側領域13b
2 は、内筒部材11の上端面側の本体部11aの下端から下側傾斜部11bの上端までの間を延在する。
【0031】
また、
図3(a)に示すように、本実施形態では、上側空洞部13bは、中心軸O
1 周りを周方向に、角度θ
13b の範囲で延在している。上側空洞部13bの周方向の範囲も車両の仕様などに合わせて、個々に設定することができる。例えば、角度θ
13b の範囲は、90度以上270度以下の範囲(90°≦θ
13b ≦270°)が好ましい。さらに、好適には、角度θ
13b の範囲を、180度以上270度以下の範囲(180°≦θ
13b ≦270°)とする。なお、
図1の断面図は、
図3(a)のY−Y断面図であり、Y−Y断面は、車両前後方向軸線と平行な軸線(以下、単に「車両前後方向軸線」ともいう)O
L および中心軸O
1 を含む平面である。
【0032】
同様に、本実施形態では、弾性体13は、内筒部材11の上側傾斜部11cを挟んで外筒部材12の上側対向部12cと反対側の下端面(端面)13e
2 に開口して、当該下端面13e
2 と上側傾斜部11cとの間に中心軸O
1 に沿って延在する下側空洞部(他の空洞部)13cを有する。本実施形態では、下側空洞部13cは、弾性体13の下端面13e
2 から中心軸O
1 に沿って内筒部材11の上側傾斜部11cの下端まで延在する。詳細には、下側空洞部13cは、径方向に幅の広い開口側領域13c
1 と、当該開口側領域13c
1 よりも径方向に幅の狭い傾斜部側領域13c
2 とで構成されている。開口側領域13c
1 は、弾性体13の下端面13e
2 から内筒部材11の下端面側の本体部11aの上端までの間を延在し、傾斜部側領域13c
2 は、内筒部材11の下端面側の本体部11aの上端から上側傾斜部11cの下端までの間を延在する。
【0033】
また、
図3(b)に示すように、本実施形態では、下側空洞部13cも、中心軸O
1 周りを周方向に、角度θ
13c の範囲で延在している。下側空洞部13cの周方向の範囲も車両の仕様などに合わせて、個々に設定することができる。例えば、角度θ
13c の範囲も、90度以上270度以下の範囲(90°≦θ
13c ≦270°)が好ましい。さらに、好適には、角度θ
13c の範囲を、180度以上270度以下の範囲(180°≦θ
13c ≦270°)とする。
【0034】
さらに本実施形態では、上側空洞部13bおよび下側空洞部13cは、2つの貫通孔A
13を用いて互いに連通している。
図4に示すように、2つの貫通孔A
13は、それぞれ、互いに対向する上側空洞部13bおよび下側空洞部13cの周方向端部を連通させている。なお、
図4の断面図は、
図3(b)のZ−Z断面図であり、Z−Z断面は、車幅方向軸線と平行な軸線(以下、単に「車幅方向軸線」ともいう)O
w および中心軸O
1 を含む平面である。
【0035】
以下、本実施形態の円筒ブッシュ1の作用効果を説明する。なお、以下の説明において、円筒ブッシュ1は、その上端側に加わる荷重が内筒部材11の上端面11e
1 に入力され、この荷重は、弾性体13を介して外筒部材12で受けるものとする。
図1に示すように、内筒部材11の下側傾斜部11bと外筒部材12の下側対向部12bとは、車幅方向内側に向かう従って上方に傾斜し、これら下側傾斜部11bおよび下側対向部12bの相互間に形成された領域S
1 には弾性体13が介在する。即ち、弾性体13は、内筒部材11の下側傾斜部11bと外筒部材12の下側対向部12bとの間に介在する部分を含む。この領域S
1 内の弾性体13は、円筒ブッシュ1の上端面(内筒部材11の上端面11e
1 )に対して下向きの荷重が加わると、内筒部材11の下側傾斜部11bが外筒部材12の下側対向部12bに向かって移動することから、内筒部材11の下側傾斜部11bと外筒部材12の下側対向部12bとの間で圧縮される。これにより、内筒部材11には、白抜き矢印に示す円筒ブッシュ1の上端面から入力される下向きの荷重と、白抜き矢印に示す弾性体13からの車幅方向外側に向かう反力とが入力される。この結果、内筒部材11は、車幅方向外側に向かって下方に傾斜する合力を受ける。このため、円筒ブッシュ1の弾性主軸O
2 の方向は、車両上側に向かうに従って車幅方向内側に傾斜する。
【0036】
また、内筒部材11の上側傾斜部11cと外筒部材12の上側対向部12cとは、それぞれ、他の傾斜部および他の対向部として機能し、内筒部材11の上側傾斜部11cが車幅方向内側に向かう従って上方に傾斜するとともに、外筒部材12の上側対向部12cは内筒部材11に向かって突出している。これら上側傾斜部11cおよび上側対向部12cの相互間に形成された領域S
2 にも弾性体13が介在する。即ち、弾性体13は、内筒部材11の上側傾斜部11cと外筒部材12の上側対向部12cとの間に介在する部分を含む。円筒ブッシュ1内の領域S
2 は、弾性体13が圧縮される圧縮部分ではなく、弾性体13を伸張させる部分となるが、弾性主軸O
2 を傾かせる効果は、弾性体13が領域S
1 内にて圧縮されるときだけでなく、弾性体13が領域S
2 内にて引き伸ばされるときにも得られる。このため、さらに、領域S
2 は、円筒ブッシュ1の弾性主軸O
2 の方向を、車両上側に向かうに従って車幅方向内側に傾斜させることに寄与する。
【0037】
すなわち、円筒ブッシュ1の上端面11e
1 に下向きの荷重が入力されると、弾性主軸O
2の向きを変えようとする作用は、円筒ブッシュ1内の下側に配置された車幅方向内側の領域S
1 側と、上側に配置された車幅方向外側の領域S
2 側との両方で生じる。この結果、無負荷時には中心軸O
1 と一致していた円筒ブッシュ1の弾性主軸O
2 は、円筒ブッシュ1を中心軸O
1 沿って車両上下方向に配置したままでも、円筒ブッシュ1の上端面11e
1 に荷重が加わることで、上側に向かう従って車幅方向内側に傾斜角θ
1 (好適には、少なくともθ
1 =11°以上、例えば、θ
1 =30°)だけ傾かせることができる。すなわち、本実施形態の円筒ブッシュ1によれば、円筒ブッシュ1自体を鉛直方向に対して傾けて取り付けなくても、円筒ブッシュ1の弾性主軸O
2 の方向が変えられることで、車両の操縦安定性を向上させることができる。従って、本実施形態の円筒ブッシュ1によれば、組み立て時の作業性を損なうことなく、車両の操縦安定性を向上させることが可能になる。
【0038】
ところで、本発明では、弾性主軸O
2 をより大きく傾斜させるためには、内筒部材11の下側傾斜部11bの径方向最外縁と外筒部材12の下側対向部12bの径方向最内縁とは、互いに径方向で重なり合うことが好ましい。これに対し、本実施形態では、内筒部材11の下側傾斜部11bの径方向最外縁と外筒部材12の下側対向部12bの径方向最内縁とを、互いに径方向で重なり合わせることなく、弾性体13に上側空洞部13bを形成している。この場合、内筒部材11の下側傾斜部11bの径方向最外縁と外筒部材12の下側対向部12bの径方向最内縁とを、互いに径方向で重なり合わせなくとも、円筒ブッシュ1の弾性主軸O
2 を大きく傾かせることができる。
【0039】
同様に、本発明では、弾性主軸O
2 をより大きく傾斜させるためには、内筒部材11の上側傾斜部11cの径方向最外縁と外筒部材12の上側対向部12cの径方向最内縁とは、互いに径方向で重なり合うことが好ましい。これに対し、本実施形態では、内筒部材11の上側傾斜部11cの径方向最外縁と外筒部材12の上側対向部12cの径方向最内縁とを、互いに径方向で重なり合わせることなく、弾性体13に下側空洞部13cを形成している。この場合、内筒部材11の上側傾斜部11cの径方向最外縁と外筒部材12の上側対向部12cの径方向最内縁とを、互いに径方向で重なり合わせなくとも、円筒ブッシュ1の弾性主軸O
2 を大きく傾かせることができる。
【0040】
なお、本実施形態では、内筒部材11の下側傾斜部11bおよび外筒部材12の下側対向部12bは、互いに中心軸O
1 の方向で重なり合うことなく、互いに離間しているが、本発明では、互いに中心軸O
1 の方向で重なり合わせるようにすることで、径方向に間隔を置いた状態に並置することができる。内筒部材11の上側傾斜部11cおよび外筒部材12の上側対向部12cも、同様で、本実施形態では、互いに中心軸O
1 の方向で重なり合うことなく、互いに離間しているが、本発明では、互いに中心軸O
1 の方向で重なり合わせるようにすることで、径方向に間隔を置いた状態に並置することができる。
【0041】
また、本発明によれば、領域S
1 およびS
2 は、少なくともいずれか一方だけを採用することも可能であるが、車両上下方向の両方に配置した本実施形態の円筒ブッシュ1では、領域S
1 および領域S
2 のいずれか一方にのみが車両上下方向に配置される場合に比べ、弾性主軸O
2 の向きを変化させるための作用が上下に生じるため、弾性主軸O
2 の傾斜角θ
1 を安定的に一定の状態に維持することができる。なお、本実施形態では、弾性主軸O
2 を傾かせる効果は、弾性体13を領域S
1 内で圧縮させたときの方が、弾性体13を領域S
2 内で引き伸ばしたときに比べて大きい。
【0042】
また、本実施形態の円筒ブッシュ1によれば、内筒部材11の上端面11e
1 および下端面11e
2 との間に膨出部を設けることで、下側傾斜部11bおよび上側傾斜部11cを形成することができる。また、本実施形態のように、外筒部材12を絞って、折り返してまたは曲げるだけで、対向部12b、12c、12eおよび12gを形成することができる。このため、本実施形態のように、内筒部材11に設けた膨出部の一部を傾斜部11b、11cとすれば、簡単な方法で、弾性主軸O
2 を大きく傾斜させる円筒ブッシュ1を製造することができる。また、本実施形態によれば、円筒ブッシュ1の外観形状は従来のものと変わりないため、サブフレーム等の相手側の設計変更を要し車両上下方向にスペースを確保する必要があるトーコレクトブッシュを用いることなく、従来のブッシュと同様に、そのまま組み付けることができる。
【0043】
図5,6は、本発明のシャシフレーム支持構造に係る、一実施形態のサブフレーム支持構造であって、円筒ブッシュ1を用いた場合の作用を車両後方から模式的に示す。本実施形態は、車両のリアサスペンションのサブフレーム支持構造である。
【0044】
図5に示すように、符号30は、サブフレーム(シャシフレーム)20の車幅方向左右両側に配置されるリアタイヤである。リアタイヤ30はそれぞれ、ナックル30a、アッパーアーム41およびロアアーム42を基本構成とするサスペンションリンク機構を介してサブフレーム20に取り付けられている。但し、サブフレーム20とリアタイヤ30との間のサスペンションリンク機構については特に限定されるものではない。
【0045】
また、
図5に示すように、サブフレーム20には、車幅方向の左右両側に、円筒ブッシュ1を取り付けるブッシュ取り付け部21が設けられている。本実施形態では、
図5に示すように、ブッシュ取り付け部21は嵌合孔Aを有し、この嵌合孔Aに、本実施形態の円筒ブッシュ1が固定される。本実施形態では、
図6に示すように、円筒ブッシュ1は、サブフレーム20に対して計4箇所の位置に設けられている。すなわち、
図6に示すように、円筒ブッシュ1は、外筒部材12を4つのブッシュ取り付け部21に固定することにより、サブフレーム20に固定されている。外筒部材12は、例えば、ブッシュ取り付け部21の内側に圧入嵌合させることによって固定される。詳細には、
図6に示すように、円筒ブッシュ1は、車幅方向の左側と右側とに配置された円筒ブッシュ1を左右一対とし、この左右一対の円筒ブッシュ1が前後二列に間隔を置いて配置されている。ただし、外筒部材12をブッシュ取り付け部21に固定する手段は特に限定されるものではない。
【0046】
加えて、本実施形態では、
図6に示すように、左右一対の2つの円筒ブッシュ1は、外筒部材12の上側対向部12cがそれぞれ、各中心軸O
1に対して車幅方向内側に向かって突出している。すなわち、左右一対の2つの円筒ブッシュ1は、それぞれ、内筒部材11の下側傾斜部11bが車幅方向内側に向かうに従って上方に傾斜するととともに、外筒部材12の下側対向部12bは、内筒部材11の下側傾斜部11bの下側傾斜面11f
1 と対向するように内筒部材11に向かって突出し、さらに、内筒部材11の上側傾斜部11cが車幅方向内側に向かうに従って上方に傾斜するととともに、外筒部材12の上側対向部12cは、内筒部材11の上側傾斜面11cの上側傾斜面11f
2 と対向するように内筒部材11に向かって突出している。なお、
図6において、車幅方向内側とは、
図6の後方側の左右に配置された2つのサブフレーム20のブッシュ取り付け部21に例示するように、車両前後方向軸線O
Lを基準に、車幅方向内側にあればよい。すなわち、中心軸O
1を通る車幅方向軸線O
wに対して前後90度の範囲(
図6中、θ
3=180度の範囲)をとることができる。例えば、
図6に示すように、互いの外筒部材12の上側対向部12cを車幅方向軸線O
w上で対向させることが最も好ましいと考えられる。しかしながら、本発明では、角度θ
3はそれぞれ、車両の仕様などに合わせて、個々に設定することができる。また、左右一対の2つの円筒ブッシュ1は、車幅方向軸線O
w上に整列する場合は勿論、前後にずらした配置とすることもできる。
【0047】
円筒ブッシュ1は、締結ボルト等を用いて図示せぬボディ等に固定される。これにより、サブフレーム20は、円筒ブッシュ1を介してボディ等に支持される。
【0048】
次に、
図5,6を参照して、本実施形態のサブフレーム支持構造の作用を説明する。
【0049】
図5中、符号L
Rは、サスペンションリンク機構のロール回転中心軸である。一方、符号L
r2は、内筒部材11の中心軸O
1 を車両上下方向として従来のブッシュを取り付けたサブフレーム20のロール回転中心軸である。従来のブッシュの場合、中心軸O
1 と弾性主軸O
2 が一致し、サブフレーム20のロール回転角度が大きく、サブフレーム20のロール回転中心軸L
r2は、
図5に示すように、サスペンションリンク機構のロール回転中心軸L
R と異なる位置となる。すなわち、サスペンションリンク機構とサブフレーム20とは、相対的に別々の動きとなる。こうした異なる動きは、車両の操縦安定性に影響を与えることが懸念される。
【0050】
これに対し、本実施形態では、
図6に示すように、円筒ブッシュ1はそれぞれ、内筒部材11の下側傾斜部11bが車幅方向内側に向かうに従って上方に傾斜するととともに、外筒部材12の下側対向部12bは、内筒部材11の下側傾斜部11bの下側傾斜面11f
1と対向するように内筒部材11に向かって突出し、さらに、内筒部材11の上側傾斜部11cが車幅方向内側に向かうに従って上方に傾斜するととともに、外筒部材12の上側対向部12cは、内筒部材11の上側傾斜部11cの上側傾斜面11f
2 と対向するように内筒部材11に向かって突出している。このため、ボディ等に取り付けられた状態でタイヤ30を接地させると、
図5に示すように、左右一対の2つの円筒ブッシュ1ではそれぞれ、弾性主軸O
2 の方向が上方に向かうに従って車幅方向内側に傾斜角θ
1 だけ傾くことで、サブフレーム20のロール回転中心軸L
r1も、
図5の白抜き矢印に示すように、サスペンションリンク機構のロール回転中心軸L
R に一致する方向に移動することで、サブフレーム20のロール回転角度が低減される。従って、各円筒ブッシュ1を車両上下方向に対して傾けて取り付けることなく、サブフレーム20のロール回転角度が低減され、サブフレーム20の相対的な動きが減少することにより、弾性体13のゴム硬度を高めることなく、車両の操縦安定性を向上させることができる。
【0051】
また、本実施形態では、操縦安定性を向上させるために、弾性体13のゴム硬度を高める必要がないので、ゴム硬度を下げることで、防振・防音性能を向上させることができる。さらに、中心軸O
1 は、従来と同様、車両上下方向に沿って伸びているため、円筒ブッシュ1を傾けることなく、そのままサブフレーム20に組み付けることができる。
【0052】
このように、本実施形態によれば、組み立て時の作業性を損なうことなく、車両の操縦安定性を向上させることが可能な、サブフレーム支持構造を提供することができる。
【0053】
なお、本実施形態のサブフレーム支持構造では、
図6に示すように、前後二列それぞれで、前述の実施形態の円筒ブッシュ1を用いている。本実施形態のように、前後二列全てに、上記の円筒ブッシュ1を用いた場合、車両の操縦安定性に最も効果的である。但し本実施形態のサブフレーム支持構造は、前後二列の少なくとも一列に、上記の円筒ブッシュ1を採用することもできる。
【0054】
上述したところは、本発明の例示的な実施形態を説明したものであり、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で様々な変更を行うことができる。例えば、本実施形態の円筒ブッシュ1は、車両上下方向を逆向きに取り付けることができる。すなわち、内筒部材の下端面11e
2側を入力側とすることができる。この場合、領域S
2 が圧縮領域として機能する一方、領域S
1 が伸張領域として機能する。また、外筒部材2に荷重入力をさせることもできる。さらに
図5,6のサブフレーム支持構造は、FF車のリアサスペンションのサブフレーム支持構造として説明したが、FR(フロントエンジン・リアドライブ方式)車、RR(リアエンジン・リアドライブ方式)車、4WD(4輪駆動)車のリアサスペンションのサブフレーム支持構造についても同様である。また、本発明のシャシフレーム支持構造は、サスペンションのサブフレーム支持構造に限定されるものではない。