特許第6438251号(P6438251)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6438251算出方法、プログラム、情報処理装置及び計測装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6438251
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】算出方法、プログラム、情報処理装置及び計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 5/20 20060101AFI20181203BHJP
   G01B 5/008 20060101ALI20181203BHJP
   G01B 21/20 20060101ALI20181203BHJP
【FI】
   G01B5/20 C
   G01B5/008
   G01B21/20 101
【請求項の数】11
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2014-191876(P2014-191876)
(22)【出願日】2014年9月19日
(65)【公開番号】特開2016-61738(P2016-61738A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(72)【発明者】
【氏名】太田 哲二
【審査官】 河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−357415(JP,A)
【文献】 特開2005−037197(JP,A)
【文献】 特開2008−101991(JP,A)
【文献】 特表2004−521343(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0229579(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00− 5/30
G01B 21/00−21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測面の形状を算出する算出方法であって、
前記被計測面に対してプローブを第1方向に走査させながら前記被計測面のライン領域を計測して得られる前記ライン領域の形状を表す第1形状データ、及び、前記被計測面に対して前記プローブを前記第1方向とは異なる第2方向に走査させながら前記被計測面のライン領域を計測して得られる前記ライン領域の形状を表す第2形状データを取得する第1工程と、
前記プローブを前記第1方向に走査することに起因する計測誤差を補正するための第1補正パラメータを用いて前記第1形状データを補正して第1補正形状データを求め、前記プローブを前記第2方向に走査することに起因する計測誤差を補正するための第2補正パラメータを用いて前記第2形状データを補正して第2補正形状データを求め、前記第1補正形状データと前記第2補正形状データとを合成して前記被計測面の全体の形状を表す第1全体形状データを生成する第2工程と、
を有し、
前記第1補正パラメータを変更しながら前記第1工程で取得された前記第1形状データを補正し、前記第2補正パラメータを変更しながら前記第1工程で取得された前記第2形状データを補正し、前記第1補正パラメータ及び前記第2補正パラメータを変更するごとに、前記第1補正パラメータで前記第1形状データを補正して得られる形状データと前記第2補正パラメータで前記第2形状データを補正して得られる形状データとを評価する評価関数の値を求め、当該値が許容範囲内になるように、前記第1補正パラメータ及び前記第2補正パラメータを決定する第3工程を更に有することを特徴とする算出方法。
【請求項2】
前記第1補正パラメータ及び前記第2補正パラメータは、前記プローブを前記第1方向に走査することで計測される前記被計測面のライン領域と、前記プローブを前記第2方向に走査することで計測される前記被計測面のライン領域との間における空間周波数よりも低次の空間周波数成分を含むことを特徴とする請求項1に記載の算出方法。
【請求項3】
前記計測誤差は、ゼルニケ多項式で表され、
前記第1補正パラメータ及び前記第2補正パラメータは、前記ゼルニケ多項式の第4項から第9項に対応する空間周波数成分を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の算出方法。
【請求項4】
被計測面の形状を算出する算出方法であって、
前記被計測面に対してプローブを第1方向に走査させながら前記被計測面のライン領域を計測して得られる前記ライン領域の形状を表す第1形状データ、及び、前記被計測面に対して前記プローブを前記第1方向とは異なる第2方向に走査させながら前記被計測面のライン領域を計測して得られる前記ライン領域の形状を表す第2形状データを取得する第1工程と、
前記プローブを前記第1方向に走査することに起因する計測誤差を補正するための第1補正パラメータを用いて前記第1形状データを補正して第1補正形状データを求め、前記プローブを前記第2方向に走査することに起因する計測誤差を補正するための第2補正パラメータを用いて前記第2形状データを補正して第2補正形状データを求め、前記第1補正形状データと前記第2補正形状データとを合成して前記被計測面の全体の形状を表す第1全体形状データを生成する第2工程と、
前記第2工程で生成された前記第1全体形状データから所定次数よりも高次の空間周波数成分の形状データを抽出する第工程と、
前記第1工程で取得された前記第1形状データ及び前記第2形状データから前記所定次数以下の低次の空間周波数成分の形状データを抽出する第工程と、
前記第工程で抽出された高次の空間周波数成分の形状データと前記第工程で抽出された低次の空間周波数成分の形状データとを合成して前記被計測面の全体の形状を表す第2全体形状データを生成する第工程と、
を有し、
前記計測誤差は、ゼルニケ多項式で表され、
前記低次の空間周波数成分は、前記ゼルニケ多項式の第4項から第9項に対応する空間周波数成分を含み、
前記高次の空間周波数成分は、前記ゼルニケ多項式の第10項以上の項に対応する空間周波数成分を含むことを特徴とする算出方法。
【請求項5】
被計測面の形状を算出する算出方法であって、
前記被計測面に対してプローブを第1方向に走査させながら前記被計測面のライン領域を計測して得られる前記ライン領域の形状を表す第1形状データ、及び、前記被計測面に対して前記プローブを前記第1方向とは異なる第2方向に走査させながら前記被計測面のライン領域を計測して得られる前記ライン領域の形状を表す第2形状データを取得する第1工程と、
前記プローブを前記第1方向に走査することに起因する計測誤差を補正するための第1補正パラメータを用いて前記第1形状データを補正して第1補正形状データを求め、前記プローブを前記第2方向に走査することに起因する計測誤差を補正するための第2補正パラメータを用いて前記第2形状データを補正して第2補正形状データを求め、前記第1補正形状データと前記第2補正形状データとを合成して前記被計測面の全体の形状を表す第1全体形状データを生成する第2工程と、
を有し、
前記第1工程では、前記被計測面における複数の部分領域のそれぞれについて、前記第1形状データ及び前記第2形状データをそれぞれ含む部分形状データを取得し、
前記第2工程では、前記部分形状データのうちの第1部分形状データに対応する前記第1補正パラメータ及び前記第2補正パラメータと前記第1部分形状データに含まれる計測誤差を補正するための第3補正パラメータとを用いて前記第1部分形状データを補正して第3補正形状データを求め、前記部分形状データのうちの第2部分形状データに対応する前記第1補正パラメータ及び前記第2補正パラメータと前記第2部分形状データに含まれる計測誤差を補正するための第4補正パラメータとを用いて前記第2部分形状データを補正して第4補正形状データを求め、前記第3補正形状データと前記第4補正形状データとを合成して前記被計測面の全体の形状を表す第3全体形状データを生成することを特徴とする算出方法。
【請求項6】
前記第1部分形状データに含まれる計測誤差を補正するための第5補正パラメータを用いて前記第1部分形状データを補正して第5補正形状データを求め、前記第2部分形状データに含まれる計測誤差を補正するための第6補正パラメータを用いて前記第2部分形状データを補正して第6補正形状データを求め、前記第5補正形状データと前記第6補正形状データとを合成して前記被計測面の全体の形状を表す第4全体形状データを生成する第工程と、
前記第2工程で生成された前記第3全体形状データから所定次数よりも高次の空間周波数成分の形状データを抽出する第工程と、
前記第工程で生成された前記第4全体形状データから前記所定次数以下の低次の空間周波数成分の形状データを抽出する第工程と、
前記第工程で抽出された高次の空間周波数成分の形状データと前記第工程で抽出された低次の空間周波数成分の形状データとを合成して前記被計測面の全体の形状を表す第5全体形状データを生成する第工程と、
を更に有し、
前記計測誤差は、ゼルニケ多項式で表され、
前記低次の空間周波数成分は、前記ゼルニケ多項式の第4項から第9項に対応する空間周波数成分を含み、
前記高次の空間周波数成分は、前記ゼルニケ多項式の第10項以上の項に対応する空間周波数成分を含むことを特徴とする請求項に記載の算出方法。
【請求項7】
前記第1方向と前記第2方向とは、互いに逆方向であることを特徴とする請求項1乃至のうちいずれか1項に記載の算出方法。
【請求項8】
前記被計測面は、前記プローブの走査方向に対して傾斜角を有する部分を含むことを特徴とする請求項1乃至のうちいずれか1項に記載の算出方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のうちいずれか1項に記載の算出方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項10】
被計測面の形状を求める処理を行う処理部を有する情報処理装置であって、
前記処理部は、
前記被計測面に対してプローブを第1方向に走査させながら前記被計測面のライン領域を計測して得られる前記ライン領域の形状を表す第1形状データ、及び、前記被計測面に対して前記プローブを前記第1方向とは異なる第2方向に走査させながら前記被計測面のライン領域を計測して得られる前記ライン領域の形状を表す第2形状データを取得する第1工程と
前記プローブを前記第1方向に走査することに起因する計測誤差を補正するための第1補正パラメータを用いて前記第1形状データを補正して第1補正形状データを求め、前記プローブを前記第2方向に走査することに起因する計測誤差を補正するための第2補正パラメータを用いて前記第2形状データを補正して第2補正形状データを求め、前記第1補正形状データと前記第2補正形状データとを合成して前記被計測面の全体の形状を表す全体形状データを生成する第2工程と、
を行い、
前記第1補正パラメータを変更しながら前記第1工程で取得された前記第1形状データを補正し、前記第2補正パラメータを変更しながら前記第1工程で取得された前記第2形状データを補正し、前記第1補正パラメータ及び前記第2補正パラメータを変更するごとに、前記第1補正パラメータで前記第1形状データを補正して得られる形状データと前記第2補正パラメータで前記第2形状データを補正して得られる形状データとを評価する評価関数の値を求め、当該値が許容範囲内になるように、前記第1補正パラメータ及び前記第2補正パラメータを決定する第3工程を更に行うことを特徴とする情報処理装置。
【請求項11】
被計測面の形状を計測する計測装置であって、
前記被計測面を計測するためのプローブと、
前記プローブを用いて計測された計測データに基づいて前記被計測面の形状を求める処理を行う制御部と、
を有し、
前記制御部は、
前記被計測面に対して前記プローブを第1方向に走査させながら前記被計測面のライン領域を計測して得られる前記ライン領域の形状を表す第1形状データ、及び、前記被計測面に対して前記プローブを前記第1方向とは異なる第2方向に走査させながら前記被計測面のライン領域を計測して得られる前記ライン領域の形状を表す第2形状データを取得する第1工程と
前記プローブを前記第1方向に走査することに起因する計測誤差を補正するための第1補正パラメータを用いて前記第1形状データを補正して第1補正形状データを求め、前記プローブを前記第2方向に走査することに起因する計測誤差を補正するための第2補正パラメータを用いて前記第2形状データを補正して第2補正形状データを求め、前記第1補正形状データと前記第2補正形状データとを合成して前記被計測面の全体の形状を表す全体形状データを生成する第2工程と、
を行い、
前記第1補正パラメータを変更しながら前記第1工程で取得された前記第1形状データを補正し、前記第2補正パラメータを変更しながら前記第1工程で取得された前記第2形状データを補正し、前記第1補正パラメータ及び前記第2補正パラメータを変更するごとに、前記第1補正パラメータで前記第1形状データを補正して得られる形状データと前記第2補正パラメータで前記第2形状データを補正して得られる形状データとを評価する評価関数の値を求め、当該値が許容範囲内になるように、前記第1補正パラメータ及び前記第2補正パラメータを決定する第3工程を更に行うことを特徴とする計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、算出方法、プログラム情報処理装置及び計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子や金型などの被計測物の3次元形状を高精度に計測する計測装置として、被計測物に対して計測プローブを走査して被計測物の形状データを取得する走査式の計測装置が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1には、計測プローブを被計測面に接触させ、その接触点における反力を検出し、かかる反力を一定値に制御しながら被計測面に沿って計測プローブを走査することで、被計測面の形状データを高速、且つ、高分解能で取得する計測装置が開示されている。
【0003】
計測プローブを被計測面に接触させて走査する場合、以下の2点が課題として挙げられる。
(1)接触点で摩擦力が発生し、制御すべき接触力に対する誤差となる。
(2)接触力によって被計測面が変位し、接触点に対する誤差となる。
【0004】
これらは、特に、計測プローブの走査方向に対して被計測面が部分的又は全体的に傾斜角を有している場合に顕著な課題となる。
【0005】
これらの誤差要因によって、被計測面の形状データには、計測プローブの走査方向ごとに異なる計測誤差が含まれることになる。これは、例えば、計測プローブの走査パターンをラスタパターンとした場合、図15に示すように、隣接する形状データ(データライン)の間に不連続な段差状の誤差が顕著に発生することを意味する。このような段差状の誤差は、計測プローブの走査ピッチに依存して現れる高次の空間周波数成分の形状誤差と考えてよい。そこで、隣接する形状データ同士を平均処理又は重み付け平均処理することが考えられるが、これらの処理は、被計測面の全体の形状データの分解能を低下させてしまう。
【0006】
計測プローブの走査時の被計測面の傾斜と摩擦に関する課題を解決するための技術が幾つか提案されている(特許文献2及び3参照)。特許文献2には、計測プローブをZ軸方向に駆動する駆動機構を有する計測装置が開示されている。かかる計測装置では、計測プローブを斜面に対して走査する際に計測プローブに発生するX軸方向の力を検出し、その力が閾値を超えた場合には、計測プローブをZ軸方向に駆動して接触力の変化を低減させている。
【0007】
また、計測プローブに発生するX軸方向の力を考えると、斜面に対して上る方向に計測プローブを走査する場合より、斜面に対して下る方向に計測プローブを走査する場合の方がX軸方向の力が小さくなる。そこで、特許文献3には、計測誤差となるX軸方向の力が小さい場合、即ち、斜面に対して下る方向に計測プローブを走査したときの形状データのみを採用することで、被計測面の形状を高精度に求める計測方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3272952号公報
【特許文献2】特開2012−168001号公報
【特許文献3】特開2005−156235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に開示された計測装置では、計測プローブに発生するX軸方向の力を検出する検出機構や計測プローブをZ軸方向に駆動する駆動機構が必要となる。これらの機構は、装置構成の複雑化及び計測プローブの重量の増加を招くため、特許文献2に開示されたような計測装置を構成することは現実的ではない。
【0010】
また、特許文献3に開示された計測方法では、斜面に対して上る方向に計測プローブを走査したときの形状データを採用しないため、被計測面の全体の形状データの分解能が1/2程度に低下してしまう。このような分解能の低下を抑制するためには、例えば、1つのデータラインについて計測プローブを2回走査しなければならず、被計測面の形状の計測に要する時間が2倍になってしまう。
【0011】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、被計測面の形状を高精度、且つ、短時間で算出するのに有利な算出方法を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての算出方法は、被計測面の形状を算出する算出方法であって、前記被計測面に対してプローブを第1方向に走査させながら前記被計測面のライン領域を計測して得られる前記ライン領域の形状を表す第1形状データ、及び、前記被計測面に対して前記プローブを前記第1方向とは異なる第2方向に走査させながら前記被計測面のライン領域を計測して得られる前記ライン領域の形状を表す第2形状データを取得する第1工程と、前記プローブを前記第1方向に走査することに起因する計測誤差を補正するための第1補正パラメータを用いて前記第1形状データを補正して第1補正形状データを求め、前記プローブを前記第2方向に走査することに起因する計測誤差を補正するための第2補正パラメータを用いて前記第2形状データを補正して第2補正形状データを求め、前記第1補正形状データと前記第2補正形状データとを合成して前記被計測面の全体の形状を表す第1全体形状データを生成する第2工程と、を有し、前記第1補正パラメータを変更しながら前記第1工程で取得された前記第1形状データを補正し、前記第2補正パラメータを変更しながら前記第1工程で取得された前記第2形状データを補正し、前記第1補正パラメータ及び前記第2補正パラメータを変更するごとに、前記第1補正パラメータで前記第1形状データを補正して得られる形状データと前記第2補正パラメータで前記第2形状データを補正して得られる形状データとを評価する評価関数の値を求め、当該値が許容範囲内になるように、前記第1補正パラメータ及び前記第2補正パラメータを決定する第3工程を更に有することを特徴とする。
【0013】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、例えば、被計測面の形状を高精度、且つ、短時間で計測するのに有利な計測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】被計測面の形状データの概要を示す図である。
図2】第1の実施形態における計測方法での形状データに対する処理を説明するための図である。
図3】第1の実施形態における計測方法を説明するためのフローチャートである。
図4】第2の実施形態における計測方法での形状データに対する処理を説明するための図である。
図5】第2の実施形態における計測方法を説明するためのフローチャートである。
図6】第3の実施形態における計測方法での形状データに対する処理を説明するための図である。
図7】第3の実施形態における計測方法を説明するためのフローチャートである。
図8】被計測面の形状データの概要を示す図である。
図9】第4の実施形態における計測方法での形状データに対する処理を説明するための図である。
図10】第4の実施形態における計測方法を説明するためのフローチャートである。
図11】第5の実施形態における計測方法を説明するためのフローチャートである。
図12】スティッチ計測における問題を説明するための図である。
図13】第6の実施形態における計測方法を説明するためのフローチャートである。
図14】被計測面の形状を計測する計測装置を説明するための図である。
図15】隣接する形状データの間に発生する不連続な段差状の誤差を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について説明する。なお、各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
<第1の実施形態>
まず、図14(a)乃至図14(e)を参照して、被計測面Wの形状を計測する計測装置を説明する。計測プローブ101を被計測面Wに接触させた場合に、計測プローブ101に発生する重力方向の反力を考える。図14(a)では、計測プローブ101を走査する走査方向を1次元としている。
【0018】
被計測面Wに対して、計測プローブ101は、駆動ステージ(不図示)によって駆動される。計測プローブ101は、板ばね102を介して、プローブシャフト103を保持する。プローブシャフト103は、被計測面Wに接触するプローブ球104と、プローブシャフト103の位置を計測する計測光を反射するプローブミラー105とを有する。
【0019】
計測プローブ101には、複数の干渉計106が設けられており、計測装置上の複数の参照ミラー107に対して計測光を照射することで、計測プローブ101の位置及び姿勢を過不足なく計測することができる。また、干渉計106は、計測プローブ101に対するプローブミラー105の位置を計測することができる。
【0020】
計測プローブ101に対するプローブミラー105の相対変位から、板ばね102のばね定数に基づいて、プローブ球104と被計測面Wとの接触点における接触力を求めることが可能である。かかる接触力が一定となるように、駆動ステージによって計測プローブ101を駆動することで、被計測面Wに対して計測プローブ101を接触させた状態で走査する。これにより、プローブ球104の接触点の座標、即ち、被計測面Wの形状データを、プローブ球104の座標データ(の集合)として取得することができる。
【0021】
プローブ球104の座標データは、干渉計106によって得られるデータである。例えば、干渉計106をヘテロダイン干渉計とし、且つ、空調及び温調環境を整えることで、原理的に、nmからサブnmオーダーでの計測が可能である。
【0022】
図14(b)乃至図14(d)を参照して、背景技術で挙げた課題(1)について説明する。図14(b)に示すように、傾斜角θの被計測面Wに対して計測プローブ101を上り方向に走査する場合、接触力、即ち、Z軸方向の力が一定値となるように制御する。この際、計測プローブ101に作用する力は、被計測面Wから受ける反力及び摩擦力である。計測プローブ101に作用する力のうち、Z軸方向以外の方向に働く力、即ち、他成分の力は、計測プローブ101を傾ける要因となる。図14(b)を参照するに、計測プローブ101に作用するX軸方向の力Fxは、以下の式(1)で表される。
Fx=Nsinθ+μNcosθ (1)
一方、図14(c)を参照するに、傾斜角θの被計測面Wに対して計測プローブ101を下り方向に走査する場合、計測プローブ101に作用するX軸方向の力Fxは、以下の式(2)で表される。
Fx=Nsinθ−μNcosθ (2)
力Fxとプローブシャフト103の長さlとの積が、プローブシャフト103を保持する板ばね102を曲げようとするモーメントとなる。板ばね102のねじり剛性をKとすると、プローブシャフト103の傾きφは、以下の式(3)で表される。
φ=Fx・l/K (3)
プローブシャフト103の傾きφは、被計測面Wに対して計測プローブ101を上り方向に走査する場合、図14(d)に示すように、プローブミラー105の位置誤差Δhを発生させる。位置誤差Δhは、以下の式(4)で表される。
Δh=h(1−cosφ) (4)
例えば、θ=30[deg]、μ=0.1、l=0.02[m]、h=0.01[m]、F=0.01[N]、K=0.1[Nm/rad]とすると、Δh=10[nm]となり、目標とするnmオーダーの計測に対して大きな誤差となる。
【0023】
図14(e)を参照して、背景技術で挙げた課題(2)について説明する。図14(e)に示すように、被計測面Wは、支持固有値ωの支持装置Hに支持されている。支持装置Hが被計測面Wを支持するときのばね定数kは、被計測面Wの質量をmとして、以下の式(5)で表される。
k=mω (5)
被測定面Wに作用する力Nは、接触力F及び傾斜角θの関数である。これに対して、ばねの変位の式N=kxが成り立つ。例えば、F=0.01[N]、θ=30[deg]、ω=30[Hz]、m=10[kg]とすると、ばね定数k=228[mN/mm]、被計測面Wの変位Δhwg=44[nm]となり、目標とするnmオーダーの計測に対して大きな誤差となる。ここでは、支持固有値ωからばね定数kをZ軸方向への並進固有値と仮定して計算したが、実際には、被計測面Wの重心に対して、荷重が付加される位置に応じて、被計測面Wにモーメントが働く。この際、被測定面Wの回転固有値に起因する傾斜が発生し、それが計測誤差となる。
【0024】
また、式(1)や式(2)から明らかなように、Z軸方向の接触力Fに対して、傾斜角θが変化すると、被計測面Wに発生する力Nが変化する。これにより、被計測面WのX軸方向の支持固有値に起因するX軸方向の変位Δhwhも発生し、更なる誤差要因となる。
【0025】
位置誤差Δh及び変位Δhwhは、動摩擦係数μの関数である。但し、特に、被計測面Wに潤滑剤を塗布している場合には、計測プローブ101の走査速度や接触力によって動摩擦係数μが可変となり、経験的に、ストライベック曲線に適合した変数となる。これは、原器を予め計測して、被計測面Wの傾斜角θに応じた計測データの補正テーブルを作成しようとする場合に、膨大な補正パターンが必要となることを意味する。
【0026】
そこで、本実施形態では、背景技術で挙げた課題(1)及び(2)を解決し、被計測面Wの形状を高精度、且つ、短時間で計測するのに有利な計測方法を提供する。
【0027】
図1(a)乃至図1(c)は、図14(a)に示す計測装置によって取得される被計測面Wの形状データの概要を示す図である。図1(a)に示すように、被計測面Wに対してプローブ球104を接触させた状態で計測プローブ101を走査させることで、プローブ球104の座標データ、即ち、被計測面Wの形状データを取得する。この際、計測プローブ101の走査パターンとして、図1(b)に示すようなラスタパターンを採用する。ラスタパターンでは、被計測面Wの隣接するライン領域(データライン)を計測する際の計測プローブ101の走査方向が反対となっており、それぞれ破線と一点鎖線とで示している。この場合、図1(c)に示すように、計測プローブ101を第1方向に走査させたときのライン領域の計測形状を表す第1形状データdl1と、計測プローブ101を第2方向に走査させたときのライン領域の計測形状を表す第2形状データdl2が取得される。ここで、第1方向と第2方向とは、互いに異なる方向であって、例えば、逆方向となる。第1形状データdl1及び第2形状データdl2のそれぞれは、異なる計測誤差を含んでいる。第1形状データdl1及び第2形状データdl2のそれぞれに含まれる計測誤差は、被計測面Wの傾斜角θ及び計測プローブ101の走査方向に起因する誤差である。従って、第1形状データdl1と第2形状データdl2とをそのまま合成すると、第1形状データdl1と第2形状データdl2との間に不連続な段差状の誤差、即ち、高次の空間周波数成分の形状誤差が現れる。
【0028】
図2は、本実施形態における計測方法での形状データに対する処理を説明するための図である。図3は、本実施形態における計測方法を説明するためのフローチャートである。かかる計測方法は、計測装置の制御部で実行されてもよいし、計測装置の外部の情報処理装置の処理部で実行されてもよい。
【0029】
S11(第1工程)では、被計測面Wに対して計測プローブ101を第1方向及び第2方向に走査させながら互いに異なる被計測面Wのライン領域を計測して、各ライン領域の形状データ、即ち、図1(c)に示す形状データを取得する。
【0030】
S12では、S11で取得された形状データを、計測プローブ101を第1方向に走査させたときのライン領域の形状を表す第1形状データdl1と、計測プローブ101を第2方向に走査させたときのライン領域の形状を表す第2形状データdl2とに分離する。具体的には、図2(a)に示すように、第1形状データdl1のみを含む第1形状データA1と、第2形状データdl2のみを含む第2形状データA2とを定義する。第1形状データA1は、X軸、Y軸及びZ軸成分を含むデータ点a1の集合であって、被計測面Wの真の形状A1’と、計測プローブ101の走査方向に起因する計測誤差u1との組み合わせで表すことができる。第2形状データA2についても同様である。A1、A2、A1’、A2’、a1、a2は、それぞれ、以下の式(6)乃至式(11)で定義される。
【0031】
【数1】
【0032】
式(6)及び式(7)においては、記号「・」は、形状データに対してパラメータが作用することを意味している。ここでの作用とは、形状データとパラメータとの単純な積算のみでなく、形状データとパラメータから算出された形状との積算や加減算なども含み、一般的な数学的記述としての行列の積のみを示すものではない。換言すれば、「形状データA1は、真の形状A1’と計測誤差u1との組み合わせとして計測される」ということを、「真の形状A1’に対して計測誤差u1が作用することで、形状データA1が計測結果として得られる」と表現している。なお、以下では、記号「・」は、上述したものと同等として扱うことにする。
【0033】
ここで、第1形状データA1又は第2形状データA2のみに注目すると、各形状データ間は、走査方向が同じである。従って、計測プローブ101の走査方向に起因する計測誤差は、各形状データ間で異なることがないため、各形状データは、不連続ではなくなる。
【0034】
以下では、発明の理解を容易にするために、第1形状データA1及び第2形状データA2のそれぞれにおいて、1つの形状データのみを参照して説明する。但し、本発明は、これに限定されるものではない。
【0035】
S13−1では、第1形状データdl1に与えるパラメータとして、走査補正パラメータ(第1補正パラメータ)P1を設定する。同様に、S13−2では、第2形状データdl2に与えるパラメータとして、走査補正パラメータ(第2補正パラメータ)P2を設定する。走査補正パラメータP1は、計測プローブ101を第1方向に走査することに起因する計測誤差を補正するためのパラメータであり、走査補正パラメータP2は、計測プローブ101を第2方向に走査することに起因する計測誤差を補正するためのパラメータである。
【0036】
図2(b)では、走査補正パラメータP1及びP2のそれぞれを二点鎖線で示している。走査補正パラメータP1及びP2のそれぞれは、関数として、以下の式(12)及び式(13)に示すように設定する。
【0037】
【数2】
【0038】
走査補正パラメータP1及びP2は、任意の入力x、yに対して、座標値zを返すものであってもよいし、任意の入力x、yに対して、座標値x’、y’、zを返すものであってもよい。前者は、例えば、計測プローブ101の軸の傾斜によるZ軸方向の誤差に相当する。後者は、例えば、計測プローブ101の軸が傾斜することにより、プローブ球104の接触点とプローブミラー105とが同一のZ座標上にないことに起因する面内方向の誤差に相当する。
【0039】
被計測面Wの任意の計測領域における関数として、直交多項式を用いることは計算を容易にするため、これを走査補正パラメータP1及びP2として採用するとよい。直交多項式としては、具体的には、ゼルニケ多項式やグラムシュミット直交化手法を用いて直交化されたXY多項式などが挙げられる。
【0040】
走査補正パラメータP1及びP2を用いることで、第1形状データA1及び第2形状データA2のそれぞれに含まれる計測誤差を個別に補正することが可能となる。これにより、図2(c)に斜線領域で示すような評価関数EF1が、例えば、以下の式(14)に示すように定義される。このように、S14では、評価関数EF1を設定する。
【0041】
【数3】
【0042】
式(14)を参照するに、評価関数EF1は、第1形状データA1及び第2形状データA2のそれぞれに走査補正パラメータP1及びP2をそれぞれ作用させた後、その差分を二乗するものである。評価関数EF1は、図2(c)に示すように、計測誤差の補正を含めた形状データ同士の重複した領域におけるZ軸方向の座標値の差の絶対値の2乗に相当する。評価関数EF1の値が小さくなるほど、各形状データ同士の整合性がよくなる、即ち、計測プローブ101の走査方向に起因する計測誤差が最も小さくなることを意味する。
【0043】
S15(第3工程)では、図2(d)に示すように、評価関数EF1(の値)を、走査補正パラメータP1及びP2のそれぞれを可変として最小化する。換言すれば、評価関数EF1を最小化するように、走査補正パラメータP1及びP2のそれぞれを、以下の式(15)及び式(16)に示す関係を満たすように決定する。
【0044】
【数4】
【0045】
式(15)及び式(16)においては、任意のパラメータvについて、記号「v−1」は、vに対して作用させることで互いに打ち消し合い、v・(v−1)=1となるパラメータを表している。ここでの作用とは、形状データとパラメータの単純な積算のみでなく、形状データとパラメータから算出された形状との積算や加減算なども含み、一般的な数学的記述としての逆行列のみを示すものではない。なお、以下では、記号「v−1」は、上述したものと同等として扱うことにする。
【0046】
例えば、誤差モデルが線形計算であれば、線形最小二乗法によって、計測誤差u1及びu2を打ち消すような走査補正パラメータP1及びP2の解が、同時、且つ、一意に求められる。また、非線形計算が必要であっても、非線形最小二乗法や特異値分解を利用した解法などによって、走査補正パラメータP1及びP2のそれぞれを容易に決定することが可能である。
【0047】
ここでは、評価関数EF1を最小化する例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、走査補正パラメータP1及びP2のそれぞれを変更しながら第1形状データA1及び第2形状データA2を補正し、走査補正パラメータP1及びP2を変更するごとに評価関数EF1(の値)を求める。そして、評価関数EF1が許容範囲内となるように、走査補正パラメータP1及びP2を決定してもよい。
【0048】
S16(第2工程)では、S15で評価関数EF1を最小化して決定された走査補正パラメータP1及びP2を用いて、図2(e)に示すように、被計測面Wの全体の形状を表す全体形状データ(第1全体形状データ)AS’を生成する。具体的には、まず、走査補正パラメータP1で第1形状データA1を補正して第1補正形状データを求め、走査補正パラメータP2で第2形状データA2を補正して第2補正形状データを求める。そして、第1補正形状データと第2補正形状データとを合成して全体形状データAS’を生成する。全体形状データAS’は、第1形状データdl1及び第2形状データdl2の全てが利用されており、分解能が維持されていることが理解されるであろう。なお、被計測面Wの全体とは、単純な被計測面Wの全面のみではなく、計測対象領域の全面も含むものである。
【0049】
本実施形態の計測方法によれば、被計測面Wを計測プローブ101で走査して計測された形状データに、計測プローブ101の走査方向に起因する計測誤差が含まれていたとしても、被計測面Wの形状を高精度、且つ、短時間で計測することができる。
【0050】
<第2の実施形態>
第1の実施形態では、走査補正パラメータP1及びP2を用いて、第1形状データA1及び第2形状データA2を補正することで、計測プローブ101の走査方向に起因する段差状の誤差、即ち、高次の空間周波数成分の形状誤差を低減できることを説明した。但し、実際には、被計測面Wは、設計形状からの乖離を実形状として有している。
【0051】
本実施形態では、被計測面Wの形状に、高次の空間周波数の形状誤差が含まれている場合を考える。図4は、本実施形態における計測方法での形状データに対する処理を説明するための図である。図5は、本実施形態における計測方法を説明するためのフローチャートである。なお、図5に示すS21、S22、S23、S24、S25及びS26の各工程は、図3に示すS11、S12、S13、S14、S15及びS16と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0052】
図4(a)は、被計測面Wの実形状を示す断面図である。被計測面Wに対して計測プローブ101を第1方向及び第2方向に走査させながら互いに異なる被計測面Wのライン領域を計測することで、図1(c)に示す形状データがS21で取得される。被計測面Wの実形状は、被計測面Wの傾斜に対しては十分小さいが、必要とされる計測精度(例えば、nmオーダー)に対しては大きく、局所的な高次の空間周波数の形状誤差を含んでいる。図4(a)では、スケールを変更して被計測面Wの実形状を示しているが、実際には、被計測面Wの形状の傾斜はmmオーダーであるのに対して、局所的な形状誤差はnmオーダーである。
【0053】
このような場合、第1の実施形態のように、走査補正パラメータP1及びP2を制約なく設定すると、形状データ間の計測プローブ101の走査方向に起因する計測誤差以外に、被計測面Wの実形状に含まれる高次の形状誤差も補正してしまう可能性がある。従って、被計測面Wの実形状に含まれている形状誤差を正確に計測することができない。
【0054】
計測プローブ101の走査方向に起因する計測誤差は、式(4)及び式(5)で考えられるため、主に、被計測面Wの傾斜角θに起因する比較的低次の空間周波数成分の形状誤差であると想定される。図4(b)に点線で示す形状データを参照するに、高次の空間周波数成分の形状は計測できているが、計測プローブ101の走査方向に起因する計測誤差、即ち、低次の空間周波数成分の形状誤差を含んでいると考えられる。
【0055】
そこで、本実施形態においては、S23−1では、図4(c)に一点鎖線P’で示すように、第1形状データd11に与えるパラメータとして、比較的低次の空間周波数成分に限定した走査補正パラメータP1を設定する。同様に、S23−2では、第2形状データdl2に与えるパラメータとして、比較的低次の空間周波数成分に限定した走査補正パラメータP2を設定する。このように、走査補正パラメータP1及びP2を低次の空間周波数成分のみに限定することで、図4(c)に示すように、高次の空間周波数成分の形状を高精度に計測しながら、計測プローブ101の走査方向に起因する計測誤差のみを補正することが可能となる。
【0056】
ここで、走査補正パラメータP1及びP2は、計測プローブ101の走査方向が異なる隣接する形状データ同士を補正するものであり、形状データ同士の間隔よりも高い次数の空間周波数成分を補正することは不要である。従って、走査補正パラメータP1及びP2は、第1形状データA1と第2形状データA2との間の間隔よりも低次の空間周波数成分を含むべきである。また、走査補正パラメータP1及びP2は、被計測面Wの計測に必要となる空間周波数に基づいて、低次の空間周波数成分として任意に設定することができる。被計測面Wの形状が比較的単純であれば、計測プローブ101の走査方向に起因する計測誤差は、ゼルニケ多項式で表現すると、ゼルニケ多項式の第4項から第9項に対応する形状(低次形状)が支配的であることが多い。この場合、走査補正パラメータP1及びP2は、ゼルニケ多項式の第4項から第9項に対応する空間周波数成分を含むように設定すればよい。
【0057】
<第3の実施形態>
本実施形態では、第2の実施形態に加えて、被計測面Wが低次の空間周波数の誤差形状を有する場合について説明する。被計測面Wの実形状を含んで走査補正パラメータを作用させた場合、走査補正パラメータを低次の空間周波数成分のみに限定すると、計測誤差だけでなく、被計測面Wの低次形状そのものをも補正してしまう可能性がある。例えば、被計測面Wの低次形状が隣接する形状データ同士で極めて小さくなることで、被計測面Wの実形状に近づかなくても評価関数を最小化してしまう可能性がある。また、被計測面Wの低次形状がどのように変化しても、隣接する形状データとの整合性が取れればよいのであれば、評価関数の種類によっては、被計測面Wの実形状及び走査補正パラメータが一意に定まらず、収束しないこともある。これは、被計測面Wの形状を正確に計測できないことを意味する。
【0058】
従って、第1の実施形態及び第2の実施形態では、高次の空間周波数の形状誤差を低減することができるが、被計測面Wの形状によっては、より低次の空間周波数の形状誤差を発生させる可能性がある。
【0059】
本実施形態では、被計測面Wの形状に、特に、低次の空間周波数の形状誤差が含まれている場合を考える。図6は、本実施形態における計測方法での形状データに対する処理を説明するための図である。図7は、本実施形態における計測方法を説明するためのフローチャートである。なお、図7に示すS31乃至S36の各工程は、図3に示すS11乃至S16と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0060】
図6(a)は、被計測面Wの実形状を示す断面図である。被計測面Wに対して計測プローブ101を第1方向及び第2方向に走査させながら互いに異なる被計測面Wのライン領域を計測することで、図1(c)に示す形状データがS31で取得される。図6(b)には、従来技術で得られた被計測面Wの形状データ、即ち、図1(c)に示す形状データの断面を点線で示している。また、図6(b)には、被計測面Wの実形状の断面も実線で示している。一方、図6(c)には、第1の実施形態で得られた被計測面Wの形状データ、即ち、全体形状データAS’の断面を点線で示している。また、図6(c)には、被計測面Wの実形状の断面も実線で示している。
【0061】
図6(a)乃至図6(c)を参照するに、従来技術で得られた被計測面Wの形状データにおいては、特に、段差状の高次の空間周波数成分の形状誤差は大きいが、比較的緩やかな低次の空間周波数成分の形状は誤差が小さい。従来技術で得られる被計測面Wの形状データを、空間フィルタによって、低次の空間周波数成分と高次の空間周波数成分とに分離すると、図6(d)及び図6(e)に示す形状データが得られる。図6(d)及び図6(e)を参照するに、低次の空間周波数成分である低次形状は十分な精度で計算されているのに対して、高次の空間周波数成分である高次形状には、スティッチによる明らかな誤差が含まれている。
【0062】
一方、第1の実施形態で得られた被計測面Wの形状データにおいては、段差状の高次の空間周波数成分の形状誤差は低減されているが、比較的緩やかな低次の空間周波数成分の形状は走査補正パラメータで変化することもあり、誤差が大きくなる可能性がある。第1の実施形態で得られた被計測面Wの形状データを、空間フィルタによって、低次の空間周波数成分と高次の空間周波数成分とに分離すると、図6(f)及び図6(g)に示す形状データが得られる。図6(f)及び図6(g)を参照するに、低次の空間周波数成分である低次形状は明らかに失われているのに対して、高次の空間周波数成分である高次形状は十分な精度で再現されている。
【0063】
そこで、本実施形態における計測方法は、以下の工程を含む。S37−1(第4工程)では、S36で生成された全体形状データAS’を、図6(g)に示すような高次の空間周波数成分の形状データ(高次形状成分)と、図6(f)に示すような所定次数以下の低次の空間周波数成分の形状データ(低次形状成分)とに分離する。換言すれば、全体形状データAS’から所定次数よりも高次の空間周波数成分の形状データを抽出する。
【0064】
S37−2(第5工程)では、従来技術で得られた被計測面Wの形状データ、即ち、図1(c)に示す形状データを、図6(e)に示す高次の空間周波数成分の形状データと、図6(d)に示す所定次数以下の低次の空間周波数成分の形状データとに分離する。換言すれば、図1(c)に示す形状データから所定次数以下の低次の空間周波数成分の形状データを抽出する。
【0065】
S38(第6工程)では、図6(h)に示すように、S37−1で分離(抽出)された高次形状成分とS37−2で分離(抽出)された低次形状成分とを合成し被計測面Wの全体の形状を表す全体形状データ(第2全体形状データ)AS’’を生成する。
【0066】
本実施形態において、低次形状成分及び高次形状成分のそれぞれは、独立、且つ、全空間周波数領域を包含していることが好ましい。これにより、各空間周波数領域の形状の合成を、独立な成分同士の単純な足し合わせで行うことが可能となり、特殊な形状合成手法が必要なくなる。
【0067】
本実施形態の計測方法によれば、計測プローブ101の走査方向に起因する高次の空間周波数成分の形状誤差を低減しながら、評価関数によっては低次の空間周波数成分の形状に誤差が含まれてしまうことを回避することができる。
【0068】
<第4の実施形態>
本実施形態では、被計測面Wを複数の部分領域に分割して計測し、かかる計測で得られた部分形状データを合成して被計測面Wの全体の形状を計測する、所謂、スティッチ計測について説明する。
【0069】
図8(a)乃至図8(d)は、図14(a)に示す計測装置によって取得される被計測面Wの形状データの概要を示す図である。図8(a)に示すように、被計測面Wに対して、例えば、破線で示すような複数の部分領域PB1、PB2、PB3及びPB4が設定される。部分領域PB1乃至PB4のそれぞれに対してプローブ球104を接触させた状態で計測プローブ101を走査させることで、プローブ球104の座標データ、即ち、被計測面Wの形状データを取得する。図8(b)に示すように、部分領域PB1の部分形状データB1には、上述したように、被計測面Wの傾斜角θ及び計測プローブ101の走査方向に起因する誤差が含まれている。従って、部分形状データB1に含まれる第1形状データdl11と第2形状データdl12とをそのまま合成すると、第1形状データdl11と第2形状データdl12との間に不連続な段差状の誤差、即ち、高次の空間周波数成分の形状誤差が現れる。
【0070】
また、スティッチ計測においては、各部分領域PB1乃至PB4のそれぞれの部分形状データB1乃至B4について、それぞれのスティッチ誤差が小さくなるように合成される必要がある。スティッチ誤差が大きい場合、図8(c)及び図8(d)に示すように、各部分領域PB1乃至PB4が重なり合う領域(部分)に、段差状の高次の空間周波数成分の形状誤差が現れる。
【0071】
このように、スティッチ計測においては、2つの異なる誤差、即ち、各部分領域PB1乃至PB4におけるライン領域の形状データごとの誤差に起因する誤差と、各部分領域PB1乃至PB4が重なり合う領域における誤差とが発生する。
【0072】
図9は、本実施形態における計測方法での形状データに対する処理を説明するための図である。図10は、本実施形態における計測方法を説明するためのフローチャートである。ここでは、発明の理解を容易にするために、部分領域(第1部分領域)PB1と部分領域(第2部分領域)PB2とをスティッチする場合を説明する。
【0073】
S41−1では、被計測面Wの部分領域PB1に対して計測プローブ101を第1方向及び第2方向に走査させながら互いに異なる部分領域PB1のライン領域を計測して、図8(c)に示す部分形状データ(第1部分形状データ)B1を取得する。同様に、S41−2では、被計測面Wの部分領域PB2に対して計測プローブ101を第1方向及び第2方向に走査させながら互いに異なる部分領域PB2のライン領域を計測して、図8(c)に示す部分形状データ(第2部分形状データ)B2を取得する。
【0074】
S42−1では、S41−1で取得された部分形状データB1を、第1形状データdl11と、第2形状データdl12とに分離する。第1形状データdl11は、計測プローブ101を第1方向に走査させたときのライン領域の形状を表すデータであり、第2形状データdl12は、計測プローブ101を第2方向に走査させたときのライン領域の形状を表すデータである。具体的には、第1形状データdl11のみを含む第1形状データA11と、第2形状データdl12のみを含む第2形状データA12とを定義する。第1形状データA11は、X軸、Y軸及びZ軸成分を含むデータ点a11の集合であって、被計測面Wの真の形状A11’と、計測プローブ101の走査方向に起因する計測誤差u11との組み合わせで表すことができる。第2形状データA12についても同様についても同様である。A11、A12、A11’、A12’、a11及びa12は、それぞれ、以下の式(17)乃至(22)で定義される。
【0075】
【数5】
【0076】
ここで、第1形状データA11又は第2形状データA12のみに注目すると、各形状データ間は、走査方向が同じである。従って、計測プローブ101の走査方向に起因する計測誤差は、各形状データ間で異なることがないため、各形状データは、不連続ではなくなる。
【0077】
S42−2では、S42−1と同様に、S41−2で取得された部分形状データB2を、第1形状データdl21と、第2形状データdl22とに分離する。第1形状データdl21は、計測プローブ101を第1方向に走査させたときのライン領域の形状を表すデータであり、第2形状データdl22は、計測プローブ101を第2方向に走査させたときのライン領域の形状を表すデータである。具体的には、第1形状データdl21のみを含む第1形状データA21と、第2形状データdl22のみを含む第2形状データA22とを定義する。
【0078】
以下では、発明の理解を容易にするために、第1形状データA11、第2形状データA12、第1形状データA21及び第2形状データA22、のそれぞれにおいて、1つの形状データのみを参照して説明する。但し、本発明は、これに限定されるものではない。
【0079】
S43−11では、第1形状データA11に与えるパラメータとして、走査補正パラメータP11を設定する。同様に、S43−12では、第2形状データA12に与えるパラメータとして、走査補正パラメータP12を設定する。走査補正パラメータP11は、計測プローブ101を第1方向に走査することに起因する計測誤差を補正するためのパラメータである。走査補正パラメータP12は、計測プローブ101を第2方向に走査することに起因する計測誤差を補正するためのパラメータである。
【0080】
図9(b)では、走査補正パラメータP11及びP12のそれぞれを二点鎖線で示している。走査補正パラメータP11及びP12のそれぞれは、関数として、以下の式(23)及び式(24)に示すように設定する。
【0081】
【数6】
【0082】
走査補正パラメータP11及びP12は、任意の入力x、yに対して、座標値zを返すものであってもよいし、任意の入力x、yに対して、座標値x’、y’、zを返すものであってもよい。また、ゼルニケ多項式やグラムシュミット直交化手法を用いて直交化されたXY多項式などを走査補正パラメータP11及びP12として採用するとよい。
【0083】
同様に、S43−21では、第1形状データA21に与えるパラメータとして、走査補正パラメータP21を設定し、S43−22では、第2形状データA22に与えるパラメータとして、走査補正パラメータP22を設定する。
【0084】
S44−1では、図9(a)に示すように、部分形状データB1に与えるパラメータとして、スティッチ補正パラメータ(第3補正パラメータ)Q1を設定する。同様に、S44−2では、図9(a)に示すように、部分形状データB2に与えるパラメータとして、スティッチ補正パラメータ(第4補正パラメータ)Q2を設定する。
【0085】
スティッチ計測においては、被計測面Wの全体の形状を得るために、部分形状データB1と部分形状データB2とが合成される。この際、各部分形状データは、スティッチ誤差tを有している。部分領域PB1の形状データB1において、部分領域PB1の真の形状B1’及びスティッチ誤差t1は、以下の式(25)で表される。
【0086】
【数7】
【0087】
スティッチ誤差t1としては、例えば、各部分領域ごとの位置ずれ及び傾斜などの姿勢誤差、計測装置に固有の全ての部分領域に共通する系統誤差、各部分領域ごとに異なる計測誤差などが挙げられる。これらの誤差は、スティッチ計算において、スティッチ補正パラメータによって補正される。スティッチ補正パラメータQ1は、関数として、以下の式(26)に示すように設定される。
【0088】
【数8】
【0089】
スティッチ補正パラメータQ1は、各部分領域ごとの位置ずれ及び傾斜などの姿勢誤差、計測装置に固有の全ての部分領域に共通する系統誤差などを補正するためのパラメータである。スティッチ補正パラメータQ1は、姿勢誤差として座標変換行列で表してもよいし、誤差を表現するためのゼルニケ多項式などの関数で表してもよいし、これらの組み合わせで表してもよい。
【0090】
また、部分領域PB2の部分形状データB2についても、部分領域PB1の真の形状B2’、スティッチ誤差t2及びスティッチ補正パラメータQ2が同様に定義される。
【0091】
走査補正パラメータP11、P12、P21及びP22を用いることで、第1形状データA11、第2形状データA12、第1形状データA21及び第2形状データA22のそれぞれに含まれる計測誤差を個別に補正することが可能となる。また、スティッチ補正パラメータQ1及びQ2を用いることで、部分形状データB1及びB2のそれぞれに含まれるスティッチ誤差を個別に補正することが可能となる。これにより、図9(b)に斜線領域で示すような評価関数EF4が、例えば、以下の式(27)に示すように定義される。このように、S45では、評価関数EF4を設定する。
【0092】
【数9】
【0093】
式(27)を参照するに、評価関数EF4は、第1形状データ及び第2形状データのそれぞれに走査補正パラメータをそれぞれ作用させ、その差分に対して、スティッチ補正パラメータをそれぞれ作用させ、その差分を二乗するものである。評価関数EF4は、図9(b)に示すように、計測誤差及びスティッチ誤差の補正を含めた形状データ同士の重複した領域におけるZ軸方向の座標値の差に相当する。評価関数EF4の値が小さくなるほど、各形状データ同士の整合性がよくなる、即ち、計測プローブ101の走査方向に起因する計測誤差及びスティッチ誤差が小さくなることを意味する。
【0094】
S46では、図9(c)に示すように、評価関数EF4(の値)を、走査補正パラメータP11、P12、P21及びP22、及び、スティッチ補正パラメータQ1及びQ2のそれぞれを可変として最小化する。換言すれば、評価関数EF4を最小化するように、走査補正パラメータP11、P12、P21及びP22、及び、スティッチ補正パラメータQ1及びQ2のそれぞれを、以下の式(28)乃至式(33)に示す関係を満たすように決定する。
【0095】
【数10】
【0096】
例えば、誤差モデルが線形計算であれば、線形最小二乗法によって、走査補正パラメータP11、P12、P21及びP22、及び、スティッチ補正パラメータQ1及びQ2の解が、同時、且つ、一意に求められる。また、非線形計算が必要であっても、非線形最小二乗法や特異値分解を利用した解法などによって、走査補正パラメータP11、P12、P21及びP22、及び、スティッチ補正パラメータQ1及びQ2のそれぞれを容易に決定することが可能である。本実施形態では、一般的なスティッチ計算において、スティッチ補正パラメータを求める際に、特段の計算の複雑さを増すことなく、走査補正パラメータも同時に求めることができる。
【0097】
S47では、評価関数EF4を最小化して決定された走査補正パラメータP11、P12、P21及びP22とスティッチ補正パラメータQ1及びQ2とを用いて、図9(d)に示すように、被計測面Wの全体の形状を表す全体形状データAS’’を生成する。全体形状データ(第3全体形状データ)AS’’は、第1形状データdl11、第2形状データdl12、第1形状データdl21及び第2形状データdl22の全てが利用されており、分解能が維持されていることが理解されるであろう。
【0098】
本実施形態では、部分領域PB1と部分領域PB2とをスティッチする場合を例に説明したが、部分領域PB1、PB2、PB3、・・・、PBnをスティッチする場合には、評価関数EF4nを以下の式(34)に示すように設定すればよい。
【0099】
【数11】
【0100】
このように、各部分領域について、それぞれZ軸方向の座標値の差の絶対値の2乗を計算し、その総和を評価関数として定義すれば、評価関数EF4nが小さくなるほど、形状データ同士の整合性がよくなる。これは、計測プローブ101の走査方向に起因する計測誤差及びスティッチ誤差が小さくなることを意味する。また、この場合にも、線形最小二乗法、非線形最小二乗法や特異値分解を利用した解法などによって、走査補正パラメータ及びスティッチ補正パラメータを容易に決定することが可能である。
【0101】
本実施形態の計測方法によれば、複数の部分領域を合成して全体の形状を得るスティッチ計測において、計測プローブ101の走査方向に起因する計測誤差及びスティッチ誤差を低減して、被計測面Wの形状を高精度、且つ、短時間で計測することができる。
【0102】
<第5の実施形態>
第4の実施形態では、スティッチ計測において、走査補正パラメータ及びスティッチ補正パラメータを用いて形状データを補正することで、計測プローブの走査方向に起因する段差状の誤差、即ち、高次の空間周波数成分の形状誤差を低減できることを説明した。但し、実際には、被計測面Wは、第2の実施形態で説明したように、設計形状からの乖離を実形状として有している。
【0103】
図11は、本実施形態における計測方法を説明するためのフローチャートである。なお、図11に示すS51−1乃至S52−2、S54−1乃至S57の各工程は、図10に示すS41−1乃至S42−2、S44−1乃至S47と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0104】
被計測面Wが設計形状からの乖離を有している場合において、第4の実施形態のように、走査補正パラメータを制約なく設定することを考える。この場合、形状データ間の計測プローブの走査方向に起因する計測誤差及びスティッチ誤差以外に、被計測面Wの実形状に含まれる高次の形状誤差も補正してしまう可能性がある。従って、被計測面Wの実形状に含まれている形状誤差を正確に計測することができない。
【0105】
第2の実施形態で説明したように、計測プローブの走査方向に起因する計測誤差は、式(4)及び式(5)で考えられるため、主に、被計測面Wの傾斜角θに起因する比較的低次の空間周波数成分の形状誤差であると想定される。
【0106】
そこで、本実施形態においては、S53−11では、第1形状データA11に与えるパラメータとして、比較的低次の空間周波数成分に限定した走査補正パラメータP11を設定する。同様に、S43−12では、第2形状データA12に与えるパラメータとして、比較的低次の空間周波数成分に限定した走査補正パラメータP12を設定する。また、S53−21では、第1形状データA21に与えるパラメータとして、比較的低次の空間周波数成分に限定した走査補正パラメータP21を設定する。同様に、S53−22では、第2形状データA22に与えるパラメータとして、比較的低次の空間周波数成分に限定した走査補正パラメータP22を設定する。
【0107】
このように、走査補正パラメータP11、P12、P21及びP22を低次の空間周波数成分のみに限定することで、高次の空間周波数成分の形状を高精度に計測しながら、計測プローブ101の走査方向に起因する計測誤差のみを補正することが可能となる。
【0108】
ここで、走査補正パラメータP11、P12、P21及びP22は、隣接する形状データの間隔よりも低次の空間周波数成分を含むべきである。また、走査補正パラメータP11、P12、P21及びP22は、被計測面Wの計測に必要となる空間周波数に基づいて、低次の空間周波数成分として任意に設定することができる。被計測面Wの形状が比較的単純であれば、計測プローブ101の走査方向に起因する計測誤差は、ゼルニケ多項式で表現すると、ゼルニケ多項式の第4項から第9項に対応する形状(低次形状)が支配的であることが多い。この場合、走査補正パラメータP11、P12、P21及びP22は、ゼルニケ多項式の第4項から第9項に対応する空間周波数成分を含むように設定すればよい。
【0109】
<第6の実施形態>
本実施形態では、第5の実施形態に加えて、被計測面Wが低次の空間周波数の誤差形状を有する場合について説明する。被計測面Wの実形状を含んで走査補正パラメータを作用させた場合、走査補正パラメータを低次の空間周波数成分のみに限定すると、計測誤差だけでなく、被計測面Wの低次形状そのものをも補正してしまう可能性がある。また、被計測面Wの低次形状がどのように変化しても、隣接する形状データとの整合性が取れればよいのであれば、評価関数の種類によっては、被計測面Wの実形状及び走査補正パラメータが一意に定まらず、収束しないこともある。
【0110】
ここで、走査補正パラメータ及びスティッチ補正パラメータを幾つかのパターンで設定することを考える。この場合、例えば、走査補正パラメータの空間周波数帯域を変化させると、被計測面Wの形状誤差に応じて、各空間周波数帯域の計測信頼度が変化する。第3の実施形態で説明したように、例えば、走査補正パラメータを用いる場合と、走査補正パラメータを用いない場合とを考えると、前者は高次の空間周波数成分の信頼度が高く、後者は低次の空間周波数成分の信頼度が高くなる傾向がある。
【0111】
また、スティッチ補正パラメータとして、形状データの姿勢誤差を含む場合には、図12に示すような問題が現れることがある。例えば、図12(a)に示す被計測面Wを、2つの部分領域に分割して計測し、図12(b)に示すような部分形状データB1及びB2が得られたとする。部分形状データB1及びB2は、計測プローブ101の走査方向に起因する形状誤差及び計測時の姿勢誤差を含んでいるものとする。
【0112】
部分形状データB1は、第1形状データA11と、第2形状データA12とを含み、図12(c)に示すように、その誤差を補正するための走査補正パラメータによって、各形状データが補正される。その結果、図12(d)に示す全体形状データAS1’’が得られる。図12(d)に示す全体形状データAS1’’と被計測面Wの実形状とを比較すると、高次形状成分については良好に合成されているが、低次形状成分において大きな乖離がある。
【0113】
一方、図12(e)に示すように、スティッチ補正パラメータのみを用いて、部分形状データB1及びB2を補正して合成すると、図12(f)に示す全体形状データAS2’’が得られる。図12(f)に示す全体形状データAS2’’と被計測面Wの実形状とを比較すると、低次形状成分については良好に合成されているが、高次形状成分として段差状の誤差がある。
【0114】
これは、補正パラメータによって合成される被計測面Wの形状が変化し、更に、その形状の空間周波数成分ごとに信頼度が変化することを意味している。
【0115】
図13は、本実施形態における計測方法を説明するためのフローチャートである。なお、図13に示すS61−1乃至S63−22の各工程は、図10に示すS43−22と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0116】
部分形状データB1に与えるパラメータとして、S64−11では、スティッチ補正パラメータQ11を設定し、S64−12では、スティッチ補正パラメータQ12を設定する。同様に、部分形状データB2に与えるパラメータとして、S64−21では、スティッチ補正パラメータQ21を設定し、S64−22では、スティッチ補正パラメータQ22を設定する。
【0117】
S65−1では、走査補正パラメータP11、P12、P21及びP22と、スティッチ補正パラメータQ11及びQ21とに基づいて、評価関数EF61を設定する。S65−2では、スティッチ補正パラメータQ12及びQ22のみに基づいて、評価関数EF62を設定する。
【0118】
S66−1では、評価関数EF61(の値)を、走査補正パラメータP11、P12、P21及びP22、及び、スティッチ補正パラメータQ11及びQ21のそれぞれを可変として最小化する。換言すれば、評価関数EF61を最小化するように、走査補正パラメータP11、P12、P21及びP22、及び、スティッチ補正パラメータQ11及びQ21のそれぞれを決定する。
【0119】
S66−2では、評価関数EF62(の値)を、スティッチ補正パラメータQ12及びQ22のそれぞれを可変として最小化する。換言すれば、評価関数EF61を最小化するように、スティッチ補正パラメータQ12及びQ22のそれぞれを決定する。
【0120】
S67−1では、評価関数EF61を最小化して決定された走査補正パラメータP11、P12、P21及びP22とスティッチ補正パラメータQ11及びQ21とを用いて、被計測面Wの全体の形状を表す全体形状データAS1’’を生成する。
【0121】
S67−2(第7工程)では、被計測面Wの全体の形状を表す全体形状データ(第4全体形状データ)AS2’’を生成する。全体形状データAS2’’を生成する際には、評価関数EF62を最小化して決定されたスティッチ補正パラメータ(第5補正パラメータ)Q12及びスティッチ補正パラメータ(第6補正パラメータ)Q22を用いる。
【0122】
S68−1(第8工程)では、S67−1で生成された全体形状データAS1’’を、高次の空間周波数成分の形状データ(高次形状成分)と、所定次数以下の低次の空間周波数成分の形状データ(低次形状成分)とに分離する。換言すれば、全体形状データAS1’’から所定次数よりも高次の空間周波数成分の形状データを抽出する。
【0123】
S68−2(第9工程)では、S67−2で生成された全体形状データAS2’’を、高次の空間周波数成分の形状データ(高次形状成分)と、所定次数以下の低次の空間周波数成分の形状データ(低次形状成分)とに分離する。換言すれば、全体形状データAS2’’から所定次数以下の低次の空間周波数成分の形状データを抽出する。
【0124】
S69(第10工程)では、S68−1で分離(抽出)された高次形状成分とS68−2で分離(抽出)された低次形状成分とを合成し被計測面Wの全体の形状を表す全体形状データ(第5全体形状データ)AS’’’を生成する。
【0125】
本実施形態において、低次形状成分及び高次形状成分のそれぞれは、独立、且つ、全空間周波数領域を包含していることが好ましい。これにより、各空間周波数領域の形状の合成を、独立な成分同士の単純な足し合わせで行うことが可能となり、特殊な形状合成手法が必要なくなる。
【0126】
また、本実施形態では、2つの部分形状データに対して、2通りの補正パラメータしか設定していないが、実際には、任意の数の部分形状データに対して、任意の補正パラメータを設定してよい。
【0127】
本実施形態の計測方法によれば、計測プローブ101の走査方向に起因する高次の空間周波数成分の形状誤差を低減しながら、評価関数によっては低次の空間周波数成分の形状に誤差が含まれてしまうことを回避することができる。
【0128】
<第7の実施形態>
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。この場合、そのプログラム、及び、かかるプログラムを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。
【0129】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0130】
101:計測プローブ 102:板ばね 103:プローブシャフト 104:プローブ球 105:プローブミラー 106:干渉計 107:参照ミラー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15