特許第6438544号(P6438544)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6438544
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月12日
(54)【発明の名称】電気機械変換装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 23/00 20060101AFI20181203BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20181203BHJP
   H04R 19/00 20060101ALI20181203BHJP
【FI】
   H04R23/00 330
   B81B3/00
   H04R19/00 330
【請求項の数】29
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-147319(P2017-147319)
(22)【出願日】2017年7月31日
(62)【分割の表示】特願2016-147972(P2016-147972)の分割
【原出願日】2011年4月14日
(65)【公開番号】特開2017-216728(P2017-216728A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2017年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086483
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 一男
(72)【発明者】
【氏名】虎島 和敏
(72)【発明者】
【氏名】笠貫 有二
【審査官】 大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6186055(JP,B2)
【文献】 特開2010−272956(JP,A)
【文献】 特開2009−031268(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/081021(WO,A1)
【文献】 特開2007−329368(JP,A)
【文献】 特開2009−100460(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/033887(WO,A1)
【文献】 特開2010−075681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 3/00
H04R 19/00
H04R 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセル構造体を含み構成される静電容量型の電気機械変換装置であって、
前記セル構造体は、第一の電極と、該第一の電極と間隙を隔てて設けられている第二の電極を含み構成される振動膜とを、有し、
前記振動膜上に、前記複数のセル構造体に対して共通に用いられる光反射層が設けられており、且つ
前記振動膜と前記光反射層との間には、応力緩和層が設けられていることを特徴とする静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項2】
前記振動膜の形状は、円形、四角形、六角形のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項3】
前記応力緩和層は、前記複数のセル構造体に対して共通に用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項4】
複数のセル構造体を含み構成される静電容量型の電気機械変換装置であって、
前記セル構造体は、第一の電極と、該第一の電極と間隙を隔てて設けられている第二の電極を含み構成される振動膜とを、有し、
前記振動膜上に光反射層が設けられており、且つ
前記振動膜と前記光反射層との間には、前記複数のセル構造体に対して共通に用いられる応力緩和層が設けられており、
前記振動膜の形状は、円形、四角形、六角形のいずれかであることを特徴とする静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項5】
前記応力緩和層は、前記複数のセル構造体により形成される受信面よりも大きい領域に配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項6】
前記振動膜、前記応力緩和層、及び前記光反射層が積層されている積層方向に関して、前記応力緩和層は、前記振動膜よりも厚いことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項7】
前記応力緩和層は、前記光反射層の応力による前記振動膜への影響を緩和するための層であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項8】
前記応力緩和層の音響インピーダンスが1MRayls以上2MRayls以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項9】
前記応力緩和層は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を含み構成されることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項10】
前記光反射層は、前記応力緩和層上の全面に設けられていることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項11】
前記セル構造体が二次元配列されていることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項12】
前記振動膜は、前記第二の電極と窒化シリコン膜を含み構成されることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項13】
前記振動膜は、基板上に設けられており、該基板は、シリコン基板あるいは絶縁性の基板を含み構成されていることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項14】
前記基板は、前記第一の電極を含み構成されていることを特徴とする請求項13に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項15】
前記基板は、貫通配線を有するシリコン基板であることを特徴とする請求項13または14に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項16】
前記光反射層の反射率は、80%以上であることを特徴とする請求項1から15のいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項17】
前記光反射層の反射率は、90%以上であることを特徴とする請求項1から16のいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項18】
前記光反射層は、Al、Au、あるいは誘電体多層膜であることを特徴とする請求項1から17のいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項19】
前記光反射層は、前記振動膜、前記応力緩和層、及び前記光反射層が積層されている積層方向の厚さが、10μm以下であることを特徴とする請求項1から18のいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項20】
前記応力緩和層と前記光反射層との間に、該応力緩和層より剛性が高い光反射支持層を有することを特徴とする請求項1から19のいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項21】
前記光反射支持層と前記応力緩和層との間に、樹脂を有することを特徴とする請求項20に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項22】
前記応力緩和層は、前記振動膜と該応力緩和層との界面での音響波の反射を低減できるように、その音響インピーダンスが調整されていることを特徴とする請求項1から21のいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項23】
前記第二の電極はアルミを有することを特徴とする請求項1から22のいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項24】
複数のセル構造体を含み構成される静電容量型の電気機械変換装置であって、
前記セル構造体は、第一の電極と、該第一の電極と間隙を隔てて設けられている第二の電極を含み構成される振動膜とを、有し、
前記振動膜は四角形状であり、
前記振動膜上に光反射層が設けられており、且つ
前記振動膜と前記光反射層との間には、前記複数のセル構造体に対して共通に用いられる、前記光反射層の前記振動膜への影響を緩和するための層が設けられていることを特徴とする静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項25】
さらに電圧印加手段を有し、前記電気機械変換装置が超音波を受信して電流を出力するように、前記電圧印加手段は前記第一の電極及び前記第二の電極間に直流電圧を印加することを特徴とする請求項1から24のいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項26】
前記電流を電圧に変換する電流電圧変換素子をさらに有することを特徴とする請求項25に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項27】
さらに電圧印加手段を有し、前記電気機械変換装置が超音波を送信するように前記電圧印加手段は前記第一の電極あるいは前記第二の電極に直流電圧と交流電圧を印加することを特徴とする請求項1から26のいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項28】
前記静電容量型の電気機械変換装置の中心周波数が1〜10MHzであることを特徴とする請求項1から27のいずれか1項に記載の静電容量型の電気機械変換装置。
【請求項29】
光源、
該光源からの光を導き、被検体に照射するための、光ファイバ、
請求項1から28のいずれか1項に記載の電気機械変換装置、
前記電気機械変換装置からの信号をA/D変換する信号処理部、及び
前記信号処理部からの出力信号を用いて、被検体内部の情報に関する画像データを生成するデータ処理部を有することを特徴とする光音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波トランスデューサなどとして用いられる静電容量型電気機械変換装置等の電気機械変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロマシニング技術によって製造される微小機械部材はマイクロメータオーダの加工が可能であり、これらを用いて様々な微小機能素子が実現されている。このような技術を用いたCMUT(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducer)等の静電容量型の電気機械変換装置は、圧電素子の代替品として研究されている。こうした静電容量型電気機械変換装置によると、振動膜の振動を用いて超音波などの音響波を送信、受信することができ、特に液中において優れた広帯域特性を容易に得ることができる。他方、照明光(近赤外線など)を測定対象物に照明することで被検体の内部から発せられる光音響波を受信する超音波トランスデューサが提案されている(特許文献1参照)。本トランスデューサでは、光を反射するための光反射部材が設けられていて、この光反射部材は光音響波を受信する超音波トランスデューサの受信面より大きい構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−075681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光音響波を受信するセンサとして静電容量型の電気機械変換装置を用いる場合、光音響波を発生させるための光が装置に入射すると、装置の受信面において、光音響波が発生しノイズとなる。こうした事態を防止するために、光が入射しないように反射部材を静電容量型電気機械変換装置の受信面直上に配置すると、今度は、装置を構成する振動膜のばね定数の変化、振動膜の変形量のばらつき等が発生する。これにより、静電容量型電気機械変換装置の感度の低下、ばらつき、帯域幅の減少が発生することがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に鑑み、本発明の電気機械変換装置は、複数のセル構造体を含み構成される静電容量型の電気機械変換装置であって、前記セル構造体は、第一の電極と、該第一の電極と間隙を隔てて設けられている第二の電極を含み構成される振動膜とを、有し、前記振動膜上に、前記複数のセル構造体に対して共通に用いられる光反射層が設けられており、且つ前記振動膜と前記光反射層との間には、応力緩和層が設けられている。また、複数のセル構造体を含み構成される静電容量型の電気機械変換装置であって、前記セル構造体は、第一の電極と、該第一の電極と間隙を隔てて設けられている第二の電極を含み構成される振動膜とを、有し、前記振動膜は四角形状であり、前記振動膜上に光反射層が設けられており、且つ前記振動膜と前記光反射層との間には、前記複数のセル構造体に対して共通に用いられる、前記光反射層の前記振動膜への影響を緩和するための層が設けられている。
【発明の効果】
【0006】
本発明の電気機械変換装置では、装置受信面である振動膜上に応力緩和層、ないし光反射層の振動膜への影響を緩和するための層を有し、その上に光反射層を有している。従って、光反射層の応力による影響が受信面にあまり及ばないため、振動膜の変形等が起こり難い。これにより、光反射層を形成した電気機械変換装置の性能ばらつきを低減して、光音響波などの弾性波を受信することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態と実施例1の電気機械変換装置を説明するための図である。
図2】本発明の実施例2の電気機械変換装置を説明するための断面図である。
図3】本発明の光音響装置を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の電気機械変換装置の特徴は、セル構造の振動膜上に、応力緩和層、ないし光反射層の振動膜への影響を緩和するための層を設け、層上に光反射層を設けることである。セル構造は、例えば、基板と、基板の一方の表面側の第一の電極と、第二の電極を有する振動膜と、第一の電極と振動膜との間に間隙が形成されるように振動膜を支持する振動膜支持部と、で形成される。セル構造は、所謂サーフェイス型、接合型の製法などで作製することができる。後述の図1の例は接合型の製法で作製することができる構造を有し、後述の図2の例はサーフェイス型の製法で作製することができる構造を有する。
【0009】
以下、本発明の一実施形態について図1を用いて説明する。図1(a)は、本実施形態の静電容量型電気機械変換装置の上面図であり、図1(b)は、図1(a)のA−B断面図である。本電気機械変換装置は、セル構造2を有する素子(エレメント)1を複数有している。図1では、4つの素子1のみを記載しているが、素子数は幾つでも構わない。また、各素子1は、9個のセル構造2から構成されているが、セル構造2の個数は幾つであっても構わない。
【0010】
本実施形態のセル構造2は、振動膜7、空隙等の間隙5、振動膜7を振動可能に支持する振動膜支持部4、およびシリコン基板3で構成されている。振動膜7は、単結晶シリコンであるが、積層成膜した振動膜(例えば、窒化シリコン膜)等であっても構わない。振動膜7は、第二の電極となる金属(アルミ薄膜8など)を振動膜内あるいは外面上に有している。本発明においては、窒化シリコン膜や単結晶シリコン膜からなるメンブレン部分と第二の電極部分をあわせて振動膜と表現する。また、振動膜7が低抵抗の単結晶シリコンである場合、単結晶シリコンを第二の電極として用いることができるため、第二の電極となる金属を配置しなくてもよい。シリコン基板3は低抵抗であり、第一の電極として用いることができる。シリコン基板を第一の電極として用いない場合、第一の電極として金属を基板上に形成することができる。また、基板としてガラス基板等の絶縁性の基板を用いた場合も基板上に第一の電極を形成する。第一及び第二の電極は間隙5を挟んで設けられている。
【0011】
本実施形態の電気機械変換装置は、音響波の受信面上に、応力緩和層9を有している。応力緩和層9は、振動膜内に第一の電極が形成されている際は振動膜上に直接形成され、振動膜上に第一の電極が形成されている際は、第一の電極上に形成される。応力緩和層9は、全セル構造を含む受信面全面より大きく配置するのが望ましい。応力緩和層とは、振動膜7の変形量を増大させず、ばね定数などの機械特性を変化させないものである。また、音響インピーダンスが振動膜7を有する受信面と同程度のものであることが好ましい。具体的に、ヤング率が0MPa以上100MPa以下、音響インピーダンスが1MRayls以上2MRayls以下がよい。100MPa以下のヤング率を有する応力緩和層であれば、光反射層6(後述)の応力による振動膜への影響を緩和し、且つ、剛性(ヤング率)も十分に小さいため、振動膜7の機械特性をほぼ変化させない。また、1MRayls以上2MRayls以下の音響インピーダンスを有することで、音響波の受信面の音響インピーダンスとほぼ同程度となり、振動膜7と応力緩和層9との界面での音響波の反射を抑制できる。受信面の音響インピーダンスは、振動膜のばね定数、質量、エレメントの静電容量などから換算できる音響インピーダンスであり、例えば、中心周波数が1〜10MHzのCMUTの場合、0.01〜5MRaylsである。ただし、セルの形状等により受信面の音響インピーダンスは異なる。また、本実施形態の電気機械変換装置を水などの低い音響インピーダンス(水の音響インピーダンスは、1.5MRayls程度)を有する媒質の中で用いる場合、応力緩和層が1MRayls以上2MRayls以下であれば、応力緩和層と媒質の界面での反射を低減することができる。
【0012】
さらに、本実施形態の電気機械変換装置は、応力緩和層9上に光反射層6を有する。光反射層6は、主に、光を被検体に照射して光音響波を発生させるために用いる光源の有する波長の光を反射するためであり、光源の有する波長に対する反射率が高い膜であればよい。光反射層6としては、Al、Au、誘電体多層膜等が用いられる。光反射層6は、応力緩和層9上全面に配置するのが望ましい。光反射層6は、電気機械変換装置のうち、受信面より被検体側に位置するすべての部材に配置されるのがより望ましい。本構成により、電気機械変換装置にレーザ光が照射されて発生するノイズを防止することができる。光反射層6の反射率は、使用する光において80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。また、光反射層6は受信面上に配置されるため、音響波をほとんど減衰せずに伝播させる必要があるため、薄いことが好ましい。具体的には10μm以下であることが好ましい。
【0013】
本実施形態の駆動原理を説明する。ここでは、素子1は、第一の電極として用いるシリコン基板3上に形成されており、第二の電極として振動膜7を用いている。素子1は、図示しない引き出し配線を基板上あるいは貫通基板中に設けることで、第一の電極あるいは第二の電極から電気信号を引き出すことができる。音響波を受信する場合、図示しない電圧印加手段で、直流電圧を第一の電極あるいは第二の電極に印加しておく。音響波を受信すると、振動膜7が変形するため、第二の電極を含む振動膜7と第一の電極である基板3との間の間隙5の距離が変わり、静電容量が変化する。この静電容量変化によって、図示しない引き出し配線に電流が流れる。この電流を、図示しない電流−電圧変換素子によって、電圧として、音響波を受信することができる。また、第一の電極であるシリコン基板3あるいは第二の電極である振動膜7に直流電圧と交流電圧を印加し、静電気力によって、単結晶シリコン振動膜7を振動させることができる。これによって、音響波を送信することもできる。
【0014】
本実施形態の静電容量型電気機械変換装置は、光音響波を受信するために用いることができる。光音響波とは、短パルスレーザを被検体に照射し、その光を吸収した被検体から発生する音響波(典型的には超音波)である。従って、図示しない被検体にレーザ等の光を照射する必要がある。このレーザ等の光源からの散乱光等が装置の受信面に入射すると、受信面を構成する振動膜7等が光源からの散乱光等を吸収し、受信面で音響波を発生してしまうため、ノイズとなる。これを防止するために光反射層を用いるのであるが、受信面に直接光反射層を設ける静電容量型電気機械変換装置の場合、光反射層の応力等によって、振動膜の変形量や振動膜のばね定数などの機械特性が変化する。よって、前述した様に、各セル構造間、各素子間の感度ばらつき、帯域ばらつきを生じるため、装置の特性劣化を引き起こす。これに対して、本実施形態の静電容量型電気機械変換装置では、応力緩和層9上に光反射層6を有している。応力緩和層9はヤング率が小さいため、応力緩和層を硬化させて形成する場合であっても、硬化時の応力等による振動膜の変形やばね定数の変化を抑制することができる。また、音響インピーダンスが受信面と同程度であるため、応力緩和層と受信面との界面での受信音響波の反射を抑制することができる。さらに、光反射層6を有しているため、光が受信面に入射しない。従って、光音響波を受信するセンサとして本実施形態の装置を用いる場合、ノイズを低減することができる。また、光反射層6が受信面近傍に配置されているため、様々な角度から入射する散乱光等の光が受信面に入射することを防止することができる。また、光反射層6が受信面と一体化されているため、光音響波を受信する静電容量型電気機械変換装置を小型化でき、他の装置に容易に組み込むことができる。
【0015】
また、本実施形態の静電容量型電気機械変換装置では、光反射層を支持する光反射層支持層を、応力緩和層9と光反射層6の間に設けることもできる(後述する実施例2参照)。応力緩和層上に直接光反射層を成膜する場合、応力緩和層のヤング率が低いため、光反射層の応力等によって、光反射層がたわむ、あるいは、変形する可能性がある。また、光反射層と応力緩和層との密着性が低い場合、光反射層が剥離することがある。本構成では、光反射層は、応力緩和層より剛性の高い光反射層支持層上に形成されているため、光反射層支持層を応力緩和層上に接着しても、光反射層がたわむ、あるいは、変形することを防止することができる。光反射層6を支持する光反射層支持層のヤング率は、100MPa以上20GPa以下が望ましい。また、光反射層は光反射層支持層によって支持されており、光反射層支持層と応力緩和層とは、密着力の高い接着方法あるいは接着剤により接着することができる。従って、応力緩和層上に光反射層を直接成膜する場合と比較して、光反射層がたわむ、あるいは、変形することをより確実に防止することができ、また密着力を向上させることができる。光反射層6を支持する光反射層支持層は、音響インピーダンスが1MRayls以上5MRayls以下程度がよい。光反射層6を支持する光反射層支持層の音響インピーダンスを応力緩和層9の音響インピーダンスの値に近くすることによって、光反射層6を支持する光反射層支持層と応力緩和層9との界面での音響波の反射量を低減することができる。
【0016】
上記構成において、応力緩和層9は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)が望ましい。PDMSにシリカ粒子等を添加したものや、PDMSの水素の一部をフッ素で置換したフロロシリコーン、あるいは、フロロシリコーンにシリカ粒子等を添加したものでもよい。シリカ粒子等を添加することにより、音響インピーダンスを調整することができる。PDMSは音響インピーダンスが1MRaylsから2MRayls程度であり、応力緩和層と受信面との界面での音響波の反射を抑制することができる。さらに、生体との適合性が高い。光反射層6を支持する光反射層支持層は、応力緩和層9より剛性が高いものが望ましい。応力緩和層としてポリジメチルシロキサンを用いた場合、例えば、ポリメチルペンテン、ポリカーボネート、アクリル、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン等の樹脂光反射層支持層を使用することができる。ただし、応力緩和層より光反射層支持層の剛性が高ければ、これらに限定されるものではない。特に、トリメチルペンテンの音響インピーダンスは1.8MRayls程度、ポリカーボネートは2.5MRayls程度であり、音響インピーダンスが3MRayls以下であり非常に低い。従って、光反射層6を支持する光反射層支持層と応力緩和層9との界面での音響波の反射量を低減することができる。さらに、音響インピーダンスの低い媒質中で、本実施形態の電気機械変換装置を用いる場合、光反射層6を支持する光反射層支持層と媒質との音響インピーダンスの差が小さいため、それらの界面での音響波の反射量を低減することができる。さらに、ポリカーボネートは表面粗さを小さくできるので、反射膜の表面粗さも小さくでき、反射率低下を防止することができる。
【0017】
以下、より具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
実施例1の静電容量型電気機械変換装置の構成を図1を用いて説明する。本実施例の電気機械変換装置は、素子1を複数有している。図1では、4つの素子のみ記載しているが、素子数は幾つでも構わない。
【0018】
セル構造2は、厚さ1μmの単結晶シリコン振動膜7、間隙5、抵抗率が0.01Ωcmの単結晶シリコン振動膜7を支持する振動膜支持部4、およびシリコン基板3で構成されている。シリコン基板3は、厚さが300μmで、抵抗率が0.01Ωcmである。本実施例の振動膜7の形状は、直径が30μmの円形であるが、形状は四角形、六角形等でも構わない。単結晶シリコン振動膜7は単結晶シリコンが主材料であり、振動膜7上に残留応力の大きな層が形成されていないので、各素子1間の均一性が高く、送受信性能のバラツキを低減できる。単結晶シリコン振動膜7の導電特性を向上するため、200nm程度のアルミ薄膜8を成膜することもできる。本構成では、振動膜支持部4は酸化シリコンであり、振動膜支持部4の高さは300nmであり、間隙5のギャップは200nmである。
【0019】
単結晶シリコン振動膜7およびシリコン基板3は低抵抗であるため、第一の電極あるいは第二の電極として用いることができる。本実施例の静電容量型電気機械変換装置では、引き出し配線をシリコン基板上に形成する、あるいは、貫通配線を有するシリコン基板とすることで、第一の電極あるいは第二の電極から電気信号を引き出すことができる。受信および送信の駆動原理は上記実施形態のところで説明した通りである。
【0020】
本実施例の静電容量型電気機械変換装置では、応力緩和層9が受信面上に配置され、光反射層6が応力緩和層9上に配置されている。応力緩和層9はPDMSであり、光反射層6は金である。応力緩和層9の音響インピーダンスは、1.8MRaylsであり、厚さは100μmである。応力緩和層9とシリコン振動膜7の有する音響インピーダンスの差が非常に小さいため、応力緩和層と受信面との界面での音響波の反射はほぼ発生しない。また、本実施形態の電気機械変換装置を水などの低い音響インピーダンスを有する媒質の中で用いる場合、応力緩和層9と媒質の有する音響インピーダンスの差が非常に小さいため、応力緩和層と媒質の界面での反射を低減することができる。従って、音響波を受信する際、受信信号の強度劣化を起こさない。光反射層6は、光音響波を発生させるために用いる光源の有する波長の光を反射するためであり、光源の有する波長に対する反射率が高い膜であればよい。光反射層6としては、Al、誘電体多層膜等を用いることもできる。本実施例の静電容量型電気機械変換装置は、上記実施形態のところで述べたように、光音響波を受信するために用いることができる。
【0021】
(実施例2)
実施例2の静電容量型電気機械変換装置の構成を図2を用いて説明する。実施例2の電気機械変換装置の構成は、実施例1とほぼ同様である。セル構造は、上部電極37、厚さ1μmの振動膜36、間隙34、振動膜36を支持する振動膜支持部35、絶縁膜33、下部電極32および基板30で構成されている。基板30はシリコン基板、振動膜36と振動膜支持部35は窒化シリコン膜、上部電極37と下部電極32はアルミである。基板30と下部電極32の間には、酸化膜31を配置して、両者間を絶縁している。基板30が低抵抗シリコン基板、ガラス等の絶縁性基板の場合、酸化膜31はなくてもよい。
【0022】
基板30は、厚さが300μmである。本構成では、振動膜36の形状は、直径が30μmの円形である。振動膜支持部35の高さは300nmであり、間隙34のギャップは200nmである。また、応力緩和層38が受信面上に配置され、光反射層41が応力緩和層38上に配置されている。光反射層41は、これの剛性を維持するため、高剛性光反射層支持層40上に成膜して構成されている。光反射層41を有する高剛性光反射層支持層40は、樹脂39により、応力緩和層38と接着されている。
【0023】
応力緩和層38は、PDMSである。応力緩和層38の音響インピーダンスは1.8MRaylsであり、厚さは50μmである。応力緩和層38の音響インピーダンスは、1MRaylsから2MRaylsが望ましく、こうすれば応力緩和層と受信面との界面での音響波の反射はほぼ発生しない。従って、音響波を受信する際、受信信号の強度劣化を起こさない。応力緩和層38は、スピンコート、滴下、型を用いた圧入、あるいは、型形成した応力緩和層を張り付けることで作製することができる。
【0024】
光反射層41は金であり、光反射層41を支持する高剛性光反射層支持層40は、ポリカーボネートである。これのヤング率は、2.5x10Paであり、厚みは100μmである。応力緩和層38はヤング率が低いため、光反射層41の応力等によって、光反射層がたわむ、あるいは、変形することがある。また、光反射層41と応力緩和層38との密着性が低い場合、光反射層が剥離することがある。本構成では、光反射層41は応力緩和層38より剛性の高い光反射層支持層40上に形成されているため、光反射層支持層40を応力緩和層38上に接着しても、光反射層41がたわむ、あるいは、変形することを防止することができる。また、光反射層41は光反射層支持層40によって支持されており、光反射層支持層40と応力緩和層38とは、密着力の高い接着方法あるいは接着剤により接着することができる。従って、応力緩和層上に光反射層を直接成膜する場合と比較して、密着力を向上することができる。
【0025】
光反射層支持層40のポリカーボネートの音響インピーダンスは2.4MRaylsである。応力緩和層38と高剛性光反射層支持層40および受信面との音響インピーダンスの差が比較的小さいため、各界面での音響波の反射は非常に小さい。従って、音響波信号の強度を低下させずに受信することができる。高剛性光反射層支持層40は、音響インピーダンスが応力緩和層38の音響インピーダンスとほぼ同等のものであればよく、アクリル、ポリイミド、ポリエチレン等でもよい。高剛性光反射層支持層40の音響インピーダンスは、1MRaylsから5MRaylsが望ましい。高剛性光反射層支持層40と応力緩和層38との接着のための樹脂39は、シリコン系の接着剤を用いることができる。また、エポキシ等の接着剤を使用することもできる。本実施例においても、上記実施形態や実施例と同様な効果を奏することができる。
【0026】
(実施例3)
上記各実施例の電気機械変換装置は、光音響イメージング技術を利用した光音響装置に用いることができる。光音響イメージングは、まずパルス光を被検体に照射し、被検体内で伝播・拡散した光のエネルギーを光吸収体が吸収することで発生した音響波を受信する。そしてこの音響波の受信信号を用いることにより被検体内部の情報を画像化する技術である。この技術により、被検体内の初期圧力発生分布や光吸収係数分布などの光学的な特性分布情報を画像データとして得ることができる。
【0027】
本発明が適用できる光音響装置の模式図を図3に示す。本発明の光音響装置は、光源51、音響波受信器である上記各実施例の電気機械変換装置57、信号処理部59、データ処理部50を少なくとも有する。本実施例では、光源51から発振する光52は、レンズやミラー、光ファイバ等の光学部材54を介して被検体53に照射される。被検体内では、照射された光により、被検体内の光吸収体55(例えば腫瘍や血管等)で吸収され、音響波56が発生する。音響波受信器57は音響波56を受信して電気信号に変換し、前記電気信号を信号処理部59に出力する。信号処理部59は、入力された電気信号に対してA/D変換や増幅等の信号処理を行い、データ処理部50へ出力する。データ処理部50は、入力された信号を用いて画像データに変換し、表示部58に出力する。表示部58は入力された画像データに基づいて画像を表示する。
【0028】
以上、本発明の光音響装置により、音響波受信器である電気機械変換装置は、光反射膜を有するため、光が受信面に入射せず、ノイズの少ない画像データを生成することができる。
【符号の説明】
【0029】
1…素子、2…セル構造、3…基板(電極)、4…振動膜支持部、5…間隙、6…光反射層、7…振動膜、8…アルミ薄膜(電極)、9…応力緩和層
図1
図2
図3