特許第6438638号(P6438638)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6438638エンジン始動装置における模擬負荷試験装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6438638
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】エンジン始動装置における模擬負荷試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 15/04 20060101AFI20181210BHJP
   F02N 15/00 20060101ALI20181210BHJP
   F02N 11/08 20060101ALI20181210BHJP
   G01M 17/007 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   G01M15/04
   F02N15/00 B
   F02N11/08 Z
   G01M17/007 K
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-84061(P2016-84061)
(22)【出願日】2016年4月19日
(65)【公開番号】特開2017-194327(P2017-194327A)
(43)【公開日】2017年10月26日
【審査請求日】2018年1月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】516117582
【氏名又は名称】山本 貴士
(74)【代理人】
【識別番号】100146813
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 道雄
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴士
【審査官】 山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−070868(JP,A)
【文献】 特表2015−505031(JP,A)
【文献】 実開昭60−063072(JP,U)
【文献】 特開2003−343349(JP,A)
【文献】 特開2003−057152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 15/00 − 15/14
G01M 17/007
F02N 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン始動装置と接続可能に配置される伝達手段と、
この伝達手段の回転軸に配置される偏心手段と、
この偏心手段に当接するよう移動可能に配置される回転受け手段と、
この回転受け手段を上記偏心手段へ付勢する付勢手段と、
上記回転軸に摩擦力を付加する摩擦手段と、
上記エンジン始動装置に接続され、その駆動データを検出する検出手段と、
を備えるエンジン始動装置における模擬負荷試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の模擬負荷試験装置において、上記回転軸に配置される動力伝達手段と、この動力伝達手段にその動力を断続可能に配置される動力断続手段と、この動力断続手段に連結される駆動手段と、を備えるエンジン始動装置における模擬負荷試験装置。
【請求項3】
請求項2に記載の模擬負荷試験装置において、上記回転軸に対して上記エンジン始動装置がオーバーランする仮想初爆タイミングで上記駆動手段を駆動および所定時間で停止させると共に、上記動力断続手段を断続制御する制御手段と、上記エンジン始動装置の始動から上記仮想初爆タイミングを演算する演算手段と、を備えるエンジン始動装置における模擬負荷試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばスタータモータなどのエンジン始動装置を性能または耐久など試験する模擬負荷試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スタータのオーバーランを防止するスタータ保護装置や、エンジンの自動始動装置等に用いて、エンジンの始動状態を確実に検出できるスタータによるエンジン始動状態検出装置を提供するとともに、該装置を用いることにより、簡易な構成でかつ作動の確実なスタータの自動始動装置が開示されている(明細書中「発明が解決しようとする課題」の欄参照)。
【0003】
即ち、特許文献1は、エンジン始動状態の検出をスタータのモータ部の内部電圧であるモータ端子間電圧と電機子電圧との比較により行う(「第2図」を参照)から、バッテリの容量及び状態とかスタータ以外の電気負荷状態に左右されることなく、安定かつ信頼性の高い検出が可能となる。また、全体構成がスタータと1個の比較器を用いた回路構成によるもので、簡易となってスタータ保護装置とかスタータの自動始動装置に適用するのに最適となる等の優れた諸効果がある(明細書中「発明の効果」の欄参照)。
【0004】
一方、特許文献2には、実際の燃焼エンジンの代わりに電気負荷機械を備えた試験台でスタータモータを試験できるように、燃焼エンジンの数学モデルを実装したシミュレーションユニットが配備されており(「要約」の欄参照)、試験台はスタータモータと接続された燃焼エンジンをシミュレーションする電気負荷機械と、この電気負荷機械を制御するコントローラとを備えている(「技術分野」の欄参照)内容が開示されている。そして、特許文献2は、シミュレーションユニットが、この数学モデルを用いて、制御の各サンプリング時点で電気負荷機械の動作時に測定された実際値から、コントローラに提供される新しい負荷目標値を計算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平03−70868号公報
【特許文献2】特表2015−505031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1は本発明における耐久などの試験とは異なる試験であるが、特許文献1の試験でも「・・・スタータが作動し、公知のようにスタータのピニオンギヤが進出してエンジンのリングギヤと噛合いエンジンを駆動し、エンジンは着火する・・・」(「第1実施例」の作動説明を参照)ものである。即ち、特許文献1では、いわゆる実車に搭載しているエンジン(以下、単に「実機」とも言う)に対し、エンジン始動状態検出装置を用いて試験している。従って、実機での試験では、該エンジン入手不可の場合やエンジンに関するメンテナンスなどでの煩雑な手間たとえば燃焼時における種々の対策などが必要となる(特許文献2の段落番号「0002」後段参照)。
【0007】
そこで、特許文献2では、その「試験台1は、図1に図示されている通り、電気負荷機械3、例えば、永久磁石励起式同期機械」を備え(段落番号「0011」参照)る構成で対処している。しかし、特許文献2では電気負荷機械3が例えば「永久磁石励起式同期機械」などであり、その同期処理などには所謂サーボモータを使用しなければならず、非常に高価な装置となる。
【0008】
なお、特許文献2では「燃焼エンジンの数学モデルを実装したシミュレーションユニットにおいて、この数学モデルを用いて、制御の各サンプリング時点で電気負荷機械の動作時に測定された実際値から、コントローラに提供される新しい負荷目標値を計算する(「要約」の欄参照)」など数学的にシミュレートするのみであり、実際の機械による試験データなどとは異なる場合が想定される。
【0009】
そこで、本発明は、簡易に模擬負荷を変更可能な機械的構成で実機に近似する試験データが得られる安価なエンジン始動装置における模擬負荷試験装置を、提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、エンジン始動装置と接続可能に配置される伝達手段と、この伝達手段の回転軸に配置される偏心手段と、この偏心手段に当接するよう移動可能に配置される回転受け手段と、この回転受け手段を上記偏心手段へ付勢する付勢手段と、上記回転軸に摩擦力を付加する摩擦手段と、上記エンジン始動装置に接続され、その駆動データ(例えば「電圧データ」または「電流データ」など)を検出する検出手段と、を備える。
【0011】
ここで、エンジン始動装置をスタータモータとする場合、伝達手段はリングギヤとなる。一方、エンジン始動装置が発電機能を備える始動装置(ISG)の場合には、伝達手段を回転軸の配置されるプーリ及び上記始動装置のプーリに掛けられるベルトで構成するようにしても良い。そして、回転軸の回転数を計測する場合には、その計測手段(例えば「エンコーダ」など)を計測可能な場所(例えば「軸回り」)に配置する。また、模擬負荷たとえば付勢力や摩擦力は、所望のエンジン特性に対応するよう、付勢手段や摩擦手段の負荷(「荷重」と同義)を変更させる。
【0012】
本発明は上述した模擬負荷試験装置において、上記回転軸に配置される動力伝達手段と、この動力伝達手段にその動力を断続可能に配置される動力断続手段と、この動力断続手段に連結される駆動手段と、を備えるようにしても良い。また、本発明は上記模擬負荷試験装置において、上記回転軸に対して上記エンジン始動装置がオーバーランする仮想初爆タイミングで上記駆動手段を駆動および所定時間で停止させ且つ上記動力断続手段を断続制御する制御手段と、上記エンジン始動装置の始動から上記仮想初爆タイミングを演算する演算手段と、を備えるようにしても良い。
【0013】
ここで、仮想初爆タイミングとは、回転軸に対してエンジン始動装置がオーバーランする仮想(「任意」と同義)の初爆タイミングである。また、本発明は上述した各模擬負荷試験装置を、上記エンジン始動装置および上記計測手段からのデータを記憶する記憶手段を設けるようにしても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、回転軸に対して偏心手段および回転受け手段ならびに付勢手段の機械的構成要素を付加することで、エンジンの負荷となる圧縮抵抗を再現する共に、回転軸に摩擦力を付加する摩擦手段でエンジンの負荷となる摩擦抵抗を再現するので、安価かつ簡易に模擬負荷を変更可能な機械的構成で実機に近似する試験データが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施例における模擬負荷試験装置の概念図である。
図2図1に示す模擬負荷試験装置における模擬負荷機械の要部平面図である。
図3図2に示す模擬負荷機械の側面図である。
図4図3に示す模擬負荷機械の4−4端面図である。
図5】(A)及び(B)は図2に示す模擬負荷機械における偏心カム回転時の各々模式図である。
図6図1の制御機器における模擬負荷試験モードのフローチャート図である。
図7図5に示すルーチンにおけるタイミングチャート図である。
図8図1の模擬負荷試験装置における負荷構成を概念的に示す概念図である。
図9図1の模擬負荷試験装置における負荷(ブレーキ及びスプリング)を加えた場合のグラフ図である。
図10図1の模擬負荷試験装置における負荷(スプリングのみ)を加えた場合のグラフ図である。
図11図1の模擬負荷試験装置における負荷(ブレーキのみ)を加えた場合のグラフ図である。
図12図1の模擬負荷試験装置における無負荷のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、具体化した一実施例を説明する。
【実施例1】
【0017】
以下、図1乃至図5に基づいて、本発明の一実施形態であるエンジン始動装置における模擬負荷試験装置について説明する。この模擬負荷試験装置は、図1に示すエンジン始動装置たとえばスタータモータ(以下、単に「スタータSM」ともいう)または発電機能をも備えるインテグレーテット・スタータ・ジェネレーター(以下、単に「ISG」ともいう)を試験する装置である。
【0018】
ここで試験とは、エンジン始動装置の性能および耐久ならびにそれぞれの再始動(「アイドリング・ストップ」と同義)を含む概念である。そして、耐久試験では、スタータSMの特性が試験データとして把握し得れば充分であるので、特に本発明の模擬負荷試験装置の適用が好適といえる。
【0019】
また、エンジン始動装置でエンジンを始動する際にエンジンから得られる負荷(いわゆる回転脈動およびトルク脈動)は、エンジン自体の摩擦抵抗(「シリンダに対するピストンの摩擦」と同義)およびシリンダ内で空気がピストンによって圧縮される際の周期的な圧縮抵抗によるものである。そして、模擬負荷試験装置は、これらの抵抗を各種の機械的要素で置換した装置である。
【0020】
(模擬負荷試験装置の概略構成)
図1に示すように、模擬負荷試験装置Sは、模擬負荷器具10と、制御機器40と、クラッチ機器70とを備える。模擬負荷機器10は、いわゆる実車に搭載している例えば4気筒のエンジン(以下、単に「実機」とも言う)に近似するよう各種の機械的要素で構成している(具体的には図2乃至図5参照)。制御機器40は、模擬負荷試験装置S全体を制御し、例えばスタータSM(または「ISG」も含む)及びクラッチ機器70などと接続している。クラッチ機器70は、スタータSMにおけるオーバーランの回転域(具体的にはスタータSMの図1に示すピニオンギヤPGが模擬負荷機器10のリングギヤ14より退避し得る回転域)になるようする機器である。
【0021】
(模擬負荷機器10に関する構成)
図1乃至図3に示すように、模擬負荷機器10は、円柱状の回転軸12と、回転軸12の先端に配置されるリングギヤ14と、伝達手段であるリングギヤ14の後段側で同軸上に配置される偏心カム16と、偏心手段である偏心カム16の両サイドに配置されるスプリング部20(図2及び図4参照)と、偏心カム16の後段側で同軸上に配置されるブレーキ30とを備える。
【0022】
そして、上述した摩擦抵抗はブレーキ30で再現し、上述した圧縮抵抗はスプリング部20で再現するものである。また、回転軸12は、実機におけるクランク軸の代用であり、ベース板11(図3及び図4参照)に配置される一対の軸受13で軸支されている。
【0023】
図3に示すリングギヤ14は、回転軸12の先端に固定される取付盤15に対し、図示しないボルトなどの締結手段で取付けられる。一対の偏心カム16は、図2に示すように、一対の軸受13間に配置されている。そして、偏心カム16は、図5に示すように、回転軸12に対して偏心(オフセット)するよう真円体を配置したり(若しくはカム形状を楕円体などと)する。なお、図2に示すように、偏心カム16は一対の保持板18で挟持される状態で回転軸12に対して位置決めされる。
【0024】
図4に示すように、偏心カム16の両側には、スプリング部20がベース板11上に配置されている。即ち、スプリング部20は、ベース板11上をスライド可能に配置される摺動体22と、この摺動体22上に配置されるローラ(「ベアリング」と同義)24と、摺動体22にその一端が固定される複数本(例えば1組4本×摺動体4個=16本)のスプリング26と、スプリング26の他端を固定し且つベース板11上に位置決めされるバネ受け28(図3及び図4参照)と、を備える。
【0025】
ローラ24と摺動体22は回転受け手段を構成し、スプリング26とバネ受け28は付勢手段を構成する。スプリング26は、摺動体22及びバネ受け28によって支持され、圧縮可能となっている。そして、バネの強さは、再現したい波形(実機のエンジンまたはスタータの大きさなど)で変更する。また、ローラ24は偏心カム16のカム形状に沿って回転するので、摺動体22は偏心カム16のオフセットOS(図5参照)の範囲に亘ってスライドする。
【0026】
その際、スプリング26によって所望の圧縮力(「荷重」と同義)になるよう回転軸12に加えられる。即ち、スプリング部20及び偏心カム16は、シリンダ及びピストンの代用である。そして、本実施形態では、例えばスプリング26の強度や本数など又は偏心カム16の外周形状などを変更することで、種々のエンジン特性(たとえば仕様の排気量などを考慮した各種データ)に対応させることができる。
【0027】
摩擦手段であるブレーキ30は、図2及び図3に示すように、後段の軸受13の更に後段に配置されており、摩擦ブレーキ構造となっている。即ち、ブレーキ30は、回転軸12に固定されたブレーキ輪32と、無端状のベルト34(図3参照)と、このベルト34が掛装される図示しないブレーキ輪と、を備える。そして、本実施形態のブレーキ30は、図示しないブレーキ輪の距離などを変更することより、回転軸13に対する負荷(「荷重」と同義)を変更し種々のエンジン特性(たとえば脈動の強さなど)に対応させることができる。
【0028】
(模擬負荷試験装置Sの制御系に関する構成)
図1に示すように、模擬負荷試験装置Sの制御機器40は、制御手段であるPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)42と、演算手段である演算部44と、記憶手段であるメモリ46と、アナログをデジタルへと変換するA/D48と、タイマ50と、バッテリー(充電器を含む)又は商業電源などの電源52と、を備える。
【0029】
検出手段である制御機器40は、スタータSM・模擬負荷機器(「ブレーキ30」を含む)10・クラッチ機器70に接続され、信号またはデータが送受信される。また、PLC42は、模擬負荷試験装置Sの全体的な動作を司り、例えば運転信号(「スタータSMスイッチ信号」と同義)がPLC42へ入力される場合にはその運転信号に基づき試験処理を行う。PLC42には、模擬負荷試験装置Sに各種の処理たとえば試験処理を制御するプログラムなどが記録されている。タイマ50は、例えばクラッチのオン・オフのタイミング(図7参照)などをカウントする。
【0030】
図1に示すように、模擬負荷機器10内には、計測手段例えばエンコーダ54が回転軸12の周辺に配置されている。このエンコーダ54は、回転軸12の回転の有無または回転数を計測する。そして、これらの計測データは、制御機器40のA/D48へ出力され、メモリ46に記憶される。また、制御機器40には、スタータSMの駆動データ例えば電圧値または電流値が、A/D48に入力(「検出」と同義)され、メモリ46に記憶される。
【0031】
(クラッチ機器70に関連する構成)
図1に示すように、クラッチ機器70は、制御機器40に接続されるインバータINVと、このインバータINVに接続される駆動モータMと、駆動モータMのモータ軸72先端に配置されるクラッチ板74と、このクラッチ板74に対向し動力断続可能にスライドするクラッチ板76と、クラッチ板76の軸78に配置されるプーリ80と、このプーリ80に対向する回転軸12上に配置されるプーリ82と、これらのプーリ80・82間に掛装される無端状のベルト84とを備える。なお、インバータINV及び駆動モータMは、駆動手段を構成する。
【0032】
クラッチ板74または76は、制御機器40からの駆動信号に基づき、スライドし動力が断続するように構成されている。そして、駆動モータMは、インバータINVへ制御機器40からの駆動信号が入力されると、モータ軸72が回転駆動もしくは低速または高速など回転制御される。一方、クラッチ板74または76は、制御機器40からの駆動信号が入力されると、両者74・76ともに重なり軸78(プーリ82などをも含む)が回転駆動する。即ち、回転軸12は、スタータSMの図1に示すピニオンギヤPGが、リングギヤ14より退避し得るまで高速回転する。
【0033】
(本実施形態の作用)
図6に示すフローチャート及び図7に示すタイミングチャートを主に用いて、模擬負荷試験装置Sの動作およびPLC42の試験処理について説明する。PLC42の試験処理は、運転信号が入力されると、プログラムをロードすることによって実行される。実行される処理ルーチンは図6のフローチャートで表され、これらのプログラムは予めPLC42(図1参照)のプログラム領域に記憶されている。
【0034】
先ず図1に示す制御機器Sのスイッチ(図示省略)がオンされると、モータMが低速回転まで回転駆動する。ここで、予めモータMを低速回転に維持させているのは、後述するクラッチの切換えを円滑(「迅速」と同義)かつ確実に移行させるためである。そして、スタータSMはその電源をオンすると、図7に示すよう信号が立ち上がると共に図1乃至図4の回転軸12が回転駆動する。即ち、図6に示すステップ100において、回転軸12が回転しているか否かを判断する。この回転の有無は、図1に示すエンコーダ54の信号で判断する。
【0035】
図7に示すように、スタータSMは、所定時間(例えば2.5秒間のカウント値)に亘って回転(「クラッキング」及び「ΔT」図7参照)させる。このクラッキング及び仮想初爆タイミング(回転軸に対してスタータSMがオーバーランする仮想すなわち任意の初爆タイミング)は、予め設定されており、PLC42またはメモリ46に記憶されている。
【0036】
そして、クラッキングの脈動は、図9に示すように、スタータSMの電流値または回転軸12の回転数などの各種データとして表される。このデータは、図1に示す制御機器40のA/D48を介してメモリ46に記憶される。ここで、図9に示すような脈動(スタータSMの電流波形)において、図8に示すような基礎部分はブレーキ30の摩擦力によって再現され、図8に示すような波形部分はスプリング部20の圧縮力によって再現される。
【0037】
また、本実施形態における例えば2組8本のスプリング26では、バネ定数が65Kgf/mmで 初期たわみ3mmとなっており、また初期圧は195Kgf/mmでストロークが20mmとなっている。更に、20mmのストローク時では、最大反力が1495Kgf/mmである。また、ブレーキ力は、50N・m〜75N・mなどである。なお、これらの数値は、模擬負荷器具10を所望のエンジン特性に対応(「変更」と同義)させることにより、大幅に異なる。
【0038】
スプリング部20のみの構成でのデータは、図10に示すように、スタータSMの電流波形が微弱となり、実機の脈動データに近似していない(例えば特許文献1の第2図参照など)。また、ブレーキ30のみの構成でのデータは、図11に示すように、スタータSMの電流波形が微弱となり、スプリング部20の場合と同様、実機の脈動データに近似してしない。更に、無負荷(スプリング部20及びブレーキ30も無い状態)では、図12に示すように、スタータSMの電流波形が微弱すぎるデータとなる。
【0039】
図6に戻り、ステップ100が肯定の場合すなわち回転軸12が回転している場合には、タイマ50のカウントを開始する。そしてステップ102で所定のカウント値(例えば2.5秒間のカウント値)になると、ステップ104でモータMは低速回転から高速回転へと切換ると共にステップ106でクラッチをオン即ちモータの動力を伝達させる。なお、ステップ102が否定の場合は、所定時間(「カウント値」と同義)が経過するのを待つ。
【0040】
PLC42は、ステップ108において、タイマ50が所定のカウント値(例えば1.5秒間のカウント値)か否かを判断する。ステップ108が否定の場合は、所定時間(「カウント値」と同義)が経過するのを待つ。一方PLC42は、ステップ110が肯定の場合モータMを高速回転から低速回転へと切換える。即ち、モータMが高速回転している間は、オーバーランの期間である(図7参照)。
【0041】
その後ステップ112において、PLC42はタイマ50が所定のカウント値(例えば0.5秒間のカウント値)か否かを判断する。ステップ112が否定の場合は、所定時間(「カウント値」と同義)が経過するのを待つ。一方PLC42は、ステップ112が肯定の場合ステップ114でクラッチをオフさせる。そして、モータMがオフとなってからクラッチがオフとなる間は、減速の期間である(図7参照)。即ち、本実施形態では、これらのクラッキング及びオーバーラン並びに減速の期間を、1サイクルとしている。
【0042】
ステップ114の処理が終了した場合には、本フローチャートの処理は終了する。なお、図7に示すように、実際のモータ軸回転数は略正三角の波形であるが、モータMのオン・オフの波形とは異なっている。また、図7に示す試験モードは、例えばタイマ50(図2参照)で所定時間を変更設定すれば、種々のデータを入手できる。即ち、上述したプログラムの処理の流れは一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において適宜変更可能である。
【0043】
また、上述した構成は4気筒に対応させた(180度に1回転させる)構成となっているが、例えば3気筒に変更(270度に1回圧縮)する場合はリングギヤ14を別に設けた軸に移しその間をプーリとベルトで伝達させてプーリ比で対応させる。更に、本実施例では、図1の2点鎖線に示すように、始動装置をインテグレーテット・スタータ・ジェネレーターISGとして、無端状のベルト94をISGのプーリ90と、このプーリ90に対向する回転軸12上に配置される伝達手段のプーリ92とに掛装することにより、模擬負荷試験を行う。
【0044】
本実施例においては、回転軸12に対して偏心カム16およびローラ24を配置する摺動体22ならびにスプリング26の機械的構成要素を付加することで、エンジンの負荷となる圧縮抵抗を再現する共に、回転軸12に摩擦力を付加するブレーキ30でエンジンの負荷となる摩擦抵抗を再現する。従って、本実施形態によれば、安価かつ簡易に模擬負荷を変更可能な機械的構成で実機に近似する試験データが得られる。
【0045】
なお、本実施形態では、ブレーキ機構を上述した摩擦方式の例以外に、パウダー方式などとしても良い。また、本実施形態では、図9に示すようになデータを、メモリ46に記憶させる例以外に、例えば紙などに記録(「打出し」と同義)させる方式などとしても良い。
【符号の説明】
【0046】
10…模擬負荷機器、12…回転軸、14…リングギヤ(伝達手段)、16…偏心カム(偏心手段)、20…スプリング部、22…摺動体(回転受け手段)、24…ローラ(回転受け手段)、26…スプリング(付勢手段)、28…バネ受け(付勢手段)、30…ブレーキ(摩擦手段)、40…制御機器(検出手段)、42…PLC(制御手段)、44…演算部(演算手段)、46…メモリ(記憶手段)、50…タイマ、54…エンコーダ(計測手段)、70…クラッチ機器(動力断続手段)、92…プーリ(動力伝達手段)、94…ベルト(動力伝達手段)、S…模擬負荷試験装置、M…モータ(駆動手段)、ISG…インバータ(駆動手段)、SM…スタータ(始動装置)、ISG…インテグレーテット・スタータ・ジェネレーター(始動装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12