特許第6438724号(P6438724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6438724エチレンガス吸着材、エチレンガス吸着材の製造方法、エチレンガス吸着材の廃棄方法、食品保存部材および食品保存方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6438724
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】エチレンガス吸着材、エチレンガス吸着材の製造方法、エチレンガス吸着材の廃棄方法、食品保存部材および食品保存方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/20 20060101AFI20181210BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20181210BHJP
   A23B 7/00 20060101ALI20181210BHJP
   A23L 3/00 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   B01J20/20 E
   B01J20/30
   A23B7/00 101
   A23L3/00 101Z
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-202922(P2014-202922)
(22)【出願日】2014年10月1日
(65)【公開番号】特開2016-68059(P2016-68059A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】514249669
【氏名又は名称】松本 頼興
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】松本 頼興
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−095437(JP,A)
【文献】 特開平11−302547(JP,A)
【文献】 特開2008−025318(JP,A)
【文献】 特開平11−048303(JP,A)
【文献】 特開昭58−108273(JP,A)
【文献】 特開平11−106726(JP,A)
【文献】 特開2013−139018(JP,A)
【文献】 特開2012−110868(JP,A)
【文献】 特開2013−127031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/34
A23B 7/00
A23L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子を含む有機物を炭化して得られた炭素材と、
でんぷんを主成分として含む固形物により形成されたバインダーと、のみからなるエチレンガス吸着剤であって、
前記エチレンガス吸着剤は、フレーク状の形状であり、
前記固形物は、米を炊飯して得られる飯であるエチレンガス吸着剤。
【請求項2】
前記有機物が、多糖類である請求項1に記載のエチレンガス吸着材。
【請求項3】
前記有機物が、セルロースである請求項1または2に記載のエチレンガス吸着材。
【請求項4】
当該エチレンガス吸着材に含まれている炭素材の重量を、Wと、
当該エチレンガス吸着材に含まれているバインダーの乾燥重量を、Wとしたとき、W/Wの値が、1以上10以下である請求項1乃至のいずれか一項に記載のエチレンガス吸着材。
【請求項5】
前記炭素材が、粉末状である請求項1乃至のいずれか一項に記載のエチレンガス吸着材。
【請求項6】
食品を保護するクッション材として用いる、請求項1乃至のいずれか一項に記載のエチレンガス吸着材。
【請求項7】
炭素原子を含む有機物を炭化した炭素材を準備する工程と、
米を炊飯して、でんぷんを主成分として含む固形物を準備する工程と、
前記固形物をペースト状にする工程と、
ペースト状の前記固形物と前記炭素材とのみを混練して混練物を得る工程と、
前記混練物をシート状に加工し乾燥させて得られたエチレンガス吸着剤を破砕してフレーク状にする工程と
を含むエチレンガス吸着材の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至のいずれか一項に記載のエチレンガス吸着材を用いてエチレンガスを吸着する工程と、
前記エチレンガスを吸着した前記エチレンガス吸着材を焼却する工程と、
を有する、エチレンガス吸着材の廃棄方法。
【請求項9】
請求項1乃至のいずれか一項に記載のエチレンガス吸着材を含む、食品保存部材。
【請求項10】
請求項に記載の食品保存部材の内部に、食品を保存することを特徴とする食品保存方法。
【請求項11】
前記食品が、青果物である請求項10に記載の食品保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンガス吸着材、エチレンガス吸着材の製造方法、エチレンガス吸着材の廃棄方法、食品保存部材および食品保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜、果物等の青果物は、収穫された後も呼吸作用を持続している。そして、収穫後の青果物は、呼吸の副産物としてエチレンガスを排出する。このエチレンガスは、青果物の成熟を促進するため、収穫後の貯蔵、流通または保存中に当該青果物の鮮度劣化を引き起こす一因として知られている。
【0003】
こうした事情に鑑みて開発された青果物の鮮度保持のためにエチレンガスを吸着除去する技術としては、たとえば、以下のものがある。
【0004】
特許文献1には、野菜から放出されるエチレンガスやアンモニアガス等の腐敗ガスを吸着し鮮度を保持する機能を持たせた易離解・保湿・防水性及び腐敗ガス吸着性を有する野菜等の鮮度保持紙を提供することが課題として記載されている。かかる課題を解決するため、特許文献1に記載の野菜等の鮮度保持紙では、ヒドロゾル法によって得られたガラス転移温度が特定の条件を満たすように調整されたスチレン・アクリル共重合バインダーに炭の粉末を混錬したものを,最低造膜温度(MFT)以上の温度で乾燥させてなる構成を採用している。
【0005】
特許文献2には、賦活剤としてアルカリ金属の化合物を用い且つ原料に対する賦活剤の混合に乾式混合法を用いることにより、細孔構造を制御してなる新規且つ有用な活性炭及びその製造方法を提供することが課題として記載されている。かかる課題を解決するため、特許文献2に記載の活性炭の製造方法では、炭素を含む材料に対して特定のアルカリ金属の化合物からなる賦活剤を乾式混合して熱処理し、洗浄することにより細孔構造が制御する構成を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−224994公報
【特許文献2】特開2001−122608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1および2等に記載されているエチレンガス吸着除去部材には、誤って当該部材を食してしまった場合に人体に害する成分が含まれている、焼却処分した際に有毒ガスを発生する可能性を有している、製造工程が煩雑であり製造コストがかかる等の不都合があった。くわえて、従来のエチレンガス吸着除去部材には、エチレンガス吸着特性という観点においても、依然として改良の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、エチレンガス吸着特性に優れ、かつ有毒ガスを発生することなく処分することが可能なエチレンガス吸着材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、エチレンガス吸着特性に優れ、かつ有毒ガスを発生することなく処分することが可能な構成について鋭意検討した。その結果、人体に無害な材料で形成したものであり、かつ有毒ガスを発生することなく処分することが可能な構成を実現するためには、エチレンガス吸着材の製造原料として、天然高分子等の天然物由来の素材を用いることが有効であることを見出した。
【0010】
本発明によれば、炭素原子を含む有機物を炭化して得られた炭素材と、
でんぷんを主成分として含む固形物により形成されたバインダーと、のみからなるエチレンガス吸着剤であって、
前記エチレンガス吸着剤が、フレーク状の形状であり、
前記固形物が、米を炊飯して得られる飯であるエチレンガス吸着材が提供される。
【0011】
さらに、本発明によれば、炭素原子を含む有機物を炭化した炭素材を準備する工程と、
米を炊飯して、でんぷんを主成分として含む固形物を準備する工程と、
前記固形物をペースト状にする工程と、
ペースト状の前記固形物と前記炭素材とのみを混練して混練物を得る工程と、
前記混練物をシート状に加工し乾燥させて得られたエチレンガス吸着剤を破砕してフレーク状にする工程と
を含むエチレンガス吸着材の製造方法が提供される。
【0012】
さらに、本発明によれば、上記エチレンガス吸着材を用いてエチレンガスを吸着する工程と、
前記エチレンガスを吸着した前記エチレンガス吸着材を焼却する工程と、
を有する、エチレンガス吸着材の廃棄方法が提供される。
【0013】
さらに、本発明によれば、上記エチレンガス吸着材を含む、食品保存部材が提供される。
【0014】
さらに、本発明によれば、上記食品保存部材の内部に、食品を保存することを特徴とする食品保存方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、エチレンガス吸着特性に優れ、かつ有毒ガスを発生することなく処分することが可能なエチレンガス吸着材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<エチレンガス吸着材>
本実施形態に係るエチレンガス吸着材は、炭素原子を含む有機物を炭化して得られた炭素材と、でんぷんを主成分として含む固形物により形成されたバインダーと、を含むものである。こうすることで、エチレンガス吸着特性に優れ、かつ有毒ガスを発生することなく処分することが可能なエチレンガス吸着材を実現することができる。そして、本実施形態に係るエチレンガス吸着材は、上記炭素材と、上記バインダーとからなることが好ましい。これにより、廃棄時に有毒ガスが発生してしまう可能性を排除することが可能である。さらに、本実施形態に係るエチレンガス吸着材は、上記炭素材と、上記バインダーとを混練してなるものであることが好ましい。こうすることで、バインダーに対して、炭素材を均一に混合することが可能となるため、エチレンガス吸着特性を向上させることができる。
【0017】
ここで、本実施形態に係るエチレンガス吸着材は、その名の通り、エチレンガスを吸着するものである。エチレンガスは植物の呼吸を促進するホルモンとして作用し、農作物等の食品の腐敗や保存期間短縮の原因となる。本実施形態に係るエチレンガス吸着材は、例えば、食品から発生するまたはその周囲に存在するエチレンガスを効率的に吸着することができる。このため、本実施形態に係るエチレンガス吸着材を用いれば、食品の品質の劣化を抑制するとともに、食品を長期間保存することができる。
【0018】
以下、本実施形態に係るエチレンガス吸着材について、詳細に説明する。
【0019】
本実施形態に係るエチレンガス吸着材は、炭素原子を含む有機物を炭化して得られた炭素材を含んでいる。この炭素材は、特に限定されないが、一般に汎用されている活性炭、竹炭、木炭等の他に、炭素原子を含む有機物を炭化して得られたものであればよい。また、本実施形態における炭素材としては、炭素原子を含む有機物を炭化して得られた多孔質体であることが好ましい。こうした炭素材の形状は、特に限定されず、粉末状、粒状、繊維状のいずれでもよいが、粉末状であることが好ましい。
【0020】
また、本実施形態に係る炭素原子を含む有機物は、特に限定されないが、たとえば、穀類、果実殻、木粉等の植物系原料、パン酵母、ビール酵母、酵母滓などの酵母類等が挙げられ、中でも糖類であることが好ましい。そして、本実施形態に係る糖類としては、単糖類、単糖が2〜20分子程度結合したオリゴ糖類、デンプンおよびセルロース等の多糖類等が挙げられる。本実施形態においては、多糖類の化合物を炭化して得られた炭素材を使用することが好ましく、セルロースを炭化して得られた炭素材であるとさらに好ましい。特に、本実施形態においては、熱処理されたセルロース粉末、もしくは熱処理されたセルロースファイバーを炭素材として使用することが好ましい。こうすることで、エチレンガス吸着特性をより一層向上させるとともに、誤食してしまった場合においても健康面で問題が発生する可能性の低いエチレンガス吸着材を実現することできる。
【0021】
また、本実施形態において炭素材として、活性炭、竹炭および木炭を使用する場合には、当該炭素材の平均粒径は、10μm以下であることが好ましく、8μm以下であるとさらに好ましい。また、本実施形態において熱処理されたセルロース粉末を炭素材として使用する場合には、当該セルロース粉末は、熱処理前の平均粒径が、10μm以上60μm以下であるものが好ましく20μm以上60μm以下であるとさらに好ましい。さらに、本実施形態において熱処理されたセルロースファイバーを炭素材として使用する場合には、当該セルロースファイバーは、熱処理前の繊維長が10μm以上150μm以下であり、かつ平均径が10μm以上30μm以下であるものが好ましく、熱処理前の繊維長が15μm以上120μmμm以下であり、かつ平均径が15μm以上18μm以下であるとさらに好ましい。こうすることで、所定重量のエチレンガス吸着材に含まれている炭素材の表面積を増大させることが可能となるため、エチレンガス吸着特性をより一層向上させることができる。なお、セルロース粉末やセルロースファイバーの熱処理温度は、後述するように、たとえば、700℃であればよい。
【0022】
次に、本実施形態に係るエチレンガス吸着材に含まれているバインダーは、でんぷんを主成分として含む固形物により形成されたものである。ここで、本実施形態に係るでんぷんを主成分として含む固形物は、でんぷん由来の粘着特性を有する物であれば特に限定されないが、たとえば、米を炊飯して得られる飯や、コーンスターチ、麦、蒸かしたイモなどが挙げられる。こうすることで、簡便にエチレンガス吸着材を作製することが可能となるだけでなく、誤食してしまった場合に健康上の被害が発生することも抑制することが可能となる。また、本実施形態に係るエチレンガス吸着材においては、でんぷんを主成分として含む固形物により形成されたバインダーを使用しているが故、単位重量のバインダーに混練することができる炭素材量を増大させることも可能である。これにより、従来のエチレンガス吸着材と比べて、エチレンガス吸着特性を向上させることが可能となる。くわえて、本実施形態に係るエチレンガス吸着材は、上述したバインダーを含むものであるが故、炭素材が飛散してしまう、周辺物および人間の衣服や手等が炭素材により汚染される、といった不都合を防止することも可能である。
【0023】
本実施形態に係るバインダーは、上述したように、でんぷんを主成分としてなる固形物により形成されたものである。ここで、でんぷんを主成分としてなるとは、でんぷん含有率が70%以上であるものを指す。そして、本実施形態に係るバインダーのでんぷん含有率は、80%以上であることが好ましく、90%以上であるとさらに好ましく、100%であるとより一層好ましい。これにより、廃棄時に有毒ガスが発生してしまう可能性を排除することが可能である。
【0024】
また、本実施形態に係るバインダーは、米を炊飯して得られる飯を用いて形成されたものであることが好ましい。具体的には、本実施形態に係るバインダーは、米を炊飯して得られる飯をすりつぶしてペースト状にしたものであることが好ましい。こうすることで、人体に無害な材料で形成したものであり、かつ有毒ガスを発生することなく処分することが可能なエチレンガス吸着材を実現できるだけでなく、エチレン吸着量という観点においても優れたエチレンガス吸着材を実現することが可能である。なお、本実施形態に係るバインダーの原材料として米を用いる場合、でんぷんを主成分として含むものであれば、その種類は特に限定されるものではない。このため、本実施形態に係る米としては、たとえば、粳米、もち米または玄米であってもよい。
【0025】
ここで、米を炊飯して得られる飯は、でんぷんの含有率が高い固形物であるため、高い粘着性を有している。このため、本実施形態におけるバインダーとして使用した場合には、たとえば、ポリウレタン、ポリエチレン、酢酸ビニル樹脂およびアクリル樹脂などの合成樹脂をバインダーとして使用する従来のエチレンガス吸着材と比べて、単位重量のバインダーに混練可能な炭素材量を増大させることができる。このため、合成樹脂をバインダーとして使用する従来のエチレンガス吸着材と比べて、エチレンガス吸着特性を向上させることができる。また、飯をすりつぶしてペースト状にしたものをバインダーとして用いた場合には、上述したように、高い粘着性を有しているため、炭素材が使用時に脱落して飛散してしまう、周辺物および人間の衣服や手等が炭素材により汚染される、といった不都合を防止することも可能である。
【0026】
また、バインダーが、米を炊飯して得られる飯を用いて形成されたものである場合、本実施形態に係るエチレンガス吸着材に含まれている炭素材の重量を、Wと、本実施形態に係るエチレンガス吸着材に含まれているバインダーの乾燥重量を、Wとしたとき、W/Wの値は、1以上10以下であることが好ましく、2以上5以下であるとさらに好ましい。こうすることで、炭素材の充填量(言い換えると、エチレンガスの吸着量)と、フレキシブル性とのバランスに優れたエチレンガス吸着材を実現することができる。
【0027】
また、本実施形態に係るエチレンガス吸着材の形状は、炭素材とバインダーとが混練されてなるものであれば、特に限定されない。このため、本実施形態に係るエチレンガス吸着材は、たとえば、シート状に加工して使用してもよいし、エチレンガスの吸着量を増大させるとともに使用態様を拡大するために、シート状に加工したものを粉砕してフレーク状に成形したものを使用してもよい。
【0028】
本実施形態に係るエチレンガス吸着材は、でんぷんを主成分として含む固形物により形成されたバインダーと炭素材とが混練されてなるものであるが故、混練時にバインダーが炭素材に対して融着する。このため、本実施形態に係るエチレンガス吸着材を使用する際に、当該エチレンガス吸着材から炭素材の粉末が脱離して食品に付着することを抑制することができる。また、本実施形態に係るエチレンガス吸着材は、種々の形状に加工して使用することが可能であるが故、意匠性を向上させることもできる。
【0029】
さらに、本実施形態に係るエチレンガス吸着材は、当該エチレンガス吸着材上に食品を載置して使用することも可能である。このため、食品に近接した位置にエチレンガス吸着材を配置することができる。これにより、食品から発生するエチレンガスを効率的に吸着除去することが可能となる。
【0030】
また、本実施形態に係るエチレンガス吸着材は、フレキシブル性を有するため、梱包材の底部や側壁等のスペースに詰め込んで使用してもよいし、食品を覆うように敷き詰めるように使用してもよい。特に、本実施形態に係るエチレンガス吸着材は、食品の流通段階において当該食品に対してかかる物理的な応力(衝撃)等を緩和するという観点から、クッション材として使用することが好ましい。
【0031】
また、本実施形態に係るエチレンガス吸着材の使用態様については、特に限定されないが、たとえば、青果物と共に保存、搬送、陳列等に用いることができる。例えば、保存および搬送においては、食品を載置したり、ダンボール等の梱包箱に敷き詰めたり、その隙間を埋めたりする目的で使用できるし、また、陳列においては、商品を載置したまま陳列棚に配置する目的などで使用できる。例えば、保存の使用態様では、エチレンガス吸着材の表面が保護されているので、食品その他の梱包部材がエチレンガス吸着材と接触することを抑制できる。また、搬送の使用態様では、食品その他の梱包部材からエチレンガス吸着材に受ける衝撃を減少させることができる。これにより、炭素材が食品その他の商品に関連する部材に付着することを抑制することができるので、陳列の使用態様では、食品とともにエチレンガス吸着材を、そのままの状態で、顧客等の前に陳列することも可能となる。このように使用態様の経時変化において、炭素材の脱離が抑制されるので、エチレンガス吸着材のエチレンガス吸着性能を維持することができる。加えて、エチレンガス吸着材の製品間でのエチレンガス吸着性能のバラツキも抑制できる。これにより、本実施形態によれば、安定して果実などの食品の品質を維持することが可能となる。また、本実施形態によれば、炭素材の脱離が抑制されるので、食品に付着した炭素材を除去する手間も省略できる。これにより、商品およびその他の商品に炭素材が付着することを注意しなくてもよいので、使用態様によらずに、本実施形態のエチレンガス吸着材の取り扱いが格段と容易になる。
【0032】
また、本実施形態によれば、エチレンガスを吸着する炭素材の脱離を抑制する構成を採用しているため、使用態様の違いによって、エチレンガス吸着性能およびその経時変化について製品間で大きくばらつくことを抑制することが可能である。
【0033】
また、本実施形態によれば、具体的な使用態様の一例として、エチレンガス吸着材の表面上食品を直接載置することができる。このため、食品を、エチレンガス吸着材と接触させつつ、これと最接近の位置に配置しやすい。このため、本実施形態によれば、食品から発生するエチレンガスを効率的に吸着できる。
【0034】
<エチレンガス吸着材の製造方法>
本実施形態に係るエチレンガス吸着材の製造方法は、炭素原子を含む有機物を炭化した炭素材を準備する工程と、でんぷんを主成分として含む固形物をペースト状にする工程と、ペースト状の固形物と炭素材とを混練する工程と、を含むものである。
【0035】
まず、炭素原子を含む有機物を炭化した炭素材は、たとえば、活性炭、竹炭、木炭等のように、既に炭化されたものを事前に用意してもよいし、セルロースなどの炭素原子を含む有機物をたとえば、賦活処理を行わずに、700℃で熱処理して炭化させて得られたものを用いてもよい。なお、賦活処理とは、アルカリ金属やアルカリ水溶液などの賦活剤を用いる薬品賦活法、および水蒸気や炭酸ガスを用いるガス賦活法などの汎用の手法を意味する。また、炭素原子を含む有機物を炭化するために行う熱処理条件は特に限定されるものではなく、当該有機物を炭化できる条件であればよい。さらに、本実施形態に係る熱処理は、一度ピークに達した時点を基準に炭素化収率(残炭率)が好ましくは80%以下、より好ましくは50%以下に減少しないような環境下で熱処理を行うことを意味する。こうした環境は、例えば、密閉装置や不活性ガスを用いた密閉した空間を用いたり、熱処理温度を適切に調整することにより達成できる。
【0036】
上記密閉装置を用いる場合、例えば、有機物を電気炉にて熱処理する。電気炉内は炭素化収率(残炭率)を軽減させない環境下が望ましい。不活性ガスを用いる場合、例えば、不活性ガス雰囲気下で有機物を熱処理する。不活性ガスとしては、特にガス種は限定されないが、Nガス、Arガス等の希ガスなどが挙げられる。本実施形態においては、高炭素化収率を達成できるNガスが好ましく、99.9995%以上の純度のNガスがより好ましい。
【0037】
また、本実施形態に係る製造方法において、炭素原子を含む有機物を熱処理して炭化物を得る場合、熱処理の温度条件は、有機物を炭化できる条件であれば特に限定されないが、たとえば、400℃以上1000℃以下とすることが好ましく、より好ましくは500℃以上900℃以下であり、さらに好ましくは700℃以上900℃以下である。この中でも、700℃近傍の温度条件がとくに好ましい。熱処理の温度条件を適切に選択することにより、エチレンガスの吸着特性を向上させることができる。
【0038】
次に、密閉装置を用いた具体的な一例を示す。例えば、まず、有機物(例えば、セルロース)を密閉装置(例えば、ルツボ)に入れる。次いで、密閉した状態で、タール分が揮発しない条件で加熱処理を行う。このように、タール分をそのまま系外に排出せずに、これを炭素分として固定化することが好ましい。これにより、エチレンガス吸着材のエチレンガスの吸着特性を一層向上させることができる。
【0039】
ここで、一般的な活性炭の製法は、賦活処理により、付加的に炭素材料の大表面積化を行うものである。このため、発達した細孔構造を有する活性炭が得られるとともに、炭素材料から活性炭が得られるまでに大きな重量減少(炭素消耗)が付随して起こる。
【0040】
他方、本実施形態に係る製造方法においては、上記賦活処理を行わないものであることが好ましい。こうすることで、一般的な活性炭が有する幅広い細孔分布の細孔の形成が抑制され、エチレンガスを吸着しやすい孔径の細孔を効率的に維持することができるものと推察される。また、熱重量減少がほとんど起きないような温度域で炭素化を実行することができる。また、賦活処理を必要としないため、コストを低減することができる。
【0041】
次に、でんぷんを主成分として含む固形物をペースト状にする方法は、特に限定されるものではない。たとえば、でんぷんを主成分として含む固形物が炊飯して得られた飯である場合、すり鉢やヘラを用いてペースト状にしてもよいし、ミキサーを用いてペースト状にしてもよく、素手でペースト状にしてもよい。この場合、米を炊飯して事前に固形物を準備しておくことが好ましい。また、得られるバインダーは、すべての固形物が境界なく結合されている完全にペースト化したものであってもよいし、固形物の一部が残存していたとしても、上述した炭素材を混合して融着できる粘着力を有していればどのような形態であってもよい。
【0042】
そして、本実施形態に係る製造方法においてペースト状の固形物と炭素材とを混練する方法は、特に限定されないが、炭素材を簡便な手段で均一に分散混合させるという観点においては、ミキサーや混練機を用いることが好ましい。他方、製造コストをかけずに簡便な手段によって混練するという観点においては、素手やハンドミキサーを用いることも可能である。こうすることで、エチレンガス吸着特性により一層優れたエチレンガス吸着材を得ることができる。
【0043】
また、本実施形態に係る製造方法においては、ペースト状の固形物と炭素材とを混練して得られた混練物を乾燥させることが好ましい。このとき、得られた当該混練物は、所定の形状に加工しておくとさらに好ましい。こうすることで、使用環境に合わせたエチレンガス吸着剤を作製することができる。ここで、上記所定の形状に加工する場合に考えられる形状としては、たとえば、シート状、粉末状等の形状が挙げられる。本実施形態においては、エチレンガス吸着特性を向上させるという観点から、シート状に加工して乾燥させて得られたエチレンガス吸着剤を、破砕してフレーク状にすることが好ましい。こうすることで、エチレンガス吸着特性を向上させるだけでなく、たとえば、不織布や和紙などの袋に詰めて使用する、梱包箱の底に敷いて使用する等の使用方法も拡大することができる。
【0044】
<エチレンガス吸着材の廃棄方法>
本実施形態に係るエチレンガス吸着材の廃棄方法は、上述したエチレンガス吸着材を用いてエチレンガスを吸着させた後、当該エチレンガス吸着材を焼却して廃棄処分する方法である。本実施形態に係る廃棄方法は、当該エチレンガス吸着材が、たとえば、ご飯や炭等の天然高分子等の天然物由来の素材を用いて構成されたものであるが故、焼却して廃棄したとしても、有毒ガスを発生することなく処分することが可能である。このため、簡便な手段で使用済みエチレンガス吸着材を廃棄することが可能である。
【0045】
<食品保存部材>
本実施形態に係る食品保存部材は、上述したエチレンガス吸着材を含むものである。そして、本実施形態に係るエチレンガス吸着材は、エチレンガス吸着特性に優れ、かつ有毒ガスを発生することなく処分することが可能なものである。それ故、本実施形態に係る食品保存部材によれば、食品の品質の劣化を抑制するとともに、食品を長期間保存することができる。
【0046】
<食品保存方法>
本実施形態に係る食品保存方法は、上述した食品保存部材の内部に、食品を保存するものである。かかる方法によれば、食品の品質の劣化を抑制するとともに、食品を長期間保存することができる。
【0047】
ここで、本実施形態に係る食品としては、例えば、果物や野菜などの青果物が挙げられる。こうした青果物の具体例としては、オオバ、ホウレンソウ、コマツナ、ミズナ、ミブナ、アスパラガス、クウシンサイ、レタス、タイム、セージ、パセリ、イタリアンパセリ、ローズマリー、オレガノ、レモンバーム、チャイブ、ラベンダー、サラダバーネット、ラムズイヤー、ロケット、ダンディライオン、ナスタチューム、バジル、ルッコラ、クレソン、モロヘイヤ、セロリ、ケール、ネギ、キャベツ、ハクサイ、シュンギク、サラダナ、サンチュ、フキ、ナバナ、チンゲンサイ、ミツバ、セリ、メキャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、ミョウガ、ダイコン、ニンジン、ゴボウ、ラディッシュ、カブ、サツマイモ、ジャガイモ、ナガイモ、ヤマイモ、サトイモ、ジネンジョ、ヤマトイモ、ピーマン、パプリカ、シシトウ、キュウリ、ナス、トマト、ミニトマト、カボチャ、ゴーヤ、オクラ、スィートコーン、エダマメ、サヤエンドウ、サヤインゲン、ソラマメ、菌茸類、などがあげられる。また、柑橘、りんご、ナシ、ブドウ、ブルーベリー、桃、柿、イチゴなどの果実類や切花などでも有効である。これらの中でも、梨、桃およびリンゴは、エチレンガスの放出量の多い青果物として一般的に知られている。また、これらは、カットした状態、いわゆるカット野菜、カットフルーツでも有効である。これにより、エチレンガスが食品に接触することを抑制できるので、食品の品質の劣化を防止することができる。
【0048】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
炭素原子を含む有機物を炭化して得られた炭素材と、
でんぷんを主成分として含む固形物により形成されたバインダーと、
を含むエチレンガス吸着材。
2.
前記固形物が、米を炊飯して得られる飯である1.に記載のエチレンガス吸着材。
3.
前記有機物が、多糖類である1.または2.に記載のエチレンガス吸着材。
4.
前記有機物が、セルロースである1.乃至3.のいずれか一つに記載のエチレンガス吸着材。
5.
当該エチレンガス吸着材に含まれている炭素材の重量を、Wと、
当該エチレンガス吸着材に含まれているバインダーの乾燥重量を、Wとしたとき、W/Wの値が、1以上10以下である1.乃至4.のいずれか一つに記載のエチレンガス吸着材。
6.
前記炭素材が、粉末状である1.乃至5.のいずれか一つに記載のエチレンガス吸着材。
7.
食品を保護するクッション材として用いる、1.乃至6.のいずれか一つに記載のエチレンガス吸着材。
8.
炭素原子を含む有機物を炭化した炭素材を準備する工程と、
でんぷんを主成分として含む固形物をペースト状にする工程と、
ペースト状の前記固形物と前記炭素材とを混練する工程と、
を含むエチレンガス吸着材の製造方法。
9.
米を炊飯して前記固形物を準備する工程を、さらに含む8.に記載のエチレンガス吸着材の製造方法。
10.
前記混練する工程により得られた混練物を乾燥させる工程を、さらに含む8.または9.に記載のエチレンガス吸着材の製造方法。
11.
当該エチレンガス吸着材をシート状に加工する工程を、さらに含む8.乃至10.のいずれか一つに記載のエチレンガス吸着材の製造方法。
12.
1.乃至7.のいずれか一つに記載のエチレンガス吸着材を用いてエチレンガスを吸着する工程と、
前記エチレンガスを吸着した前記エチレンガス吸着材を焼却する工程と、
を有する、エチレンガス吸着材の廃棄方法。
13.
1.乃至7.のいずれか一つに記載のエチレンガス吸着材を含む、食品保存部材。
14.
13.に記載の食品保存部材の内部に、食品を保存することを特徴とする食品保存方法。
15.
前記食品が、青果物である14.に記載の食品保存方法。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。なお、実施例1、実施例3および実施例5(シート状のエチレンガス吸着剤)は、参考例である。
【0050】
[実施例1]
炊飯器で炊き上げた米(ご飯)を100gに、250gの水を加え、中火で20分加熱した。こうして得られた多量の水分を含むお粥状のご飯を10gとり、当該ご飯をヘラでペースト状にした。なお、上記お粥状のご飯の固形分重量(乾燥重量)は、2gであった。
【0051】
次に、平均粒径20〜60μmのセルロース粉末を700℃で熱処理し、炭化材5gを得た。次いで、得られた炭化材5gを、ペースト状にしたご飯に対して加え、素手で十分に混練した。得られた混練物を、耐熱性のある離型紙に厚さ3mmとなるように延ばし、シート状に加工した。次いで、このシートを、100℃〜120℃の熱で乾燥させてエチレンガス吸着剤1を得た。
【0052】
得られたエチレンガス吸着剤1は、混練されたセルロース粉末が飛散することなく、手で触れても黒く汚れることのない1枚のシートであった。得られたエチレン吸着剤1を用いて測定したエチレンガス吸着量は、1.5mmol/gであった。
【0053】
なお、エチレンガス吸着量測定は、高精度全自動ガス吸着装置(日本ベル社製、BELSORP 285A)を使用し、室温(25℃)にて20時間、1×10−5Paとなるように真空脱気した後、25℃にて平衝圧100kPaとなるまで等温線を測定した。
【0054】
[実施例2]
実施例1にて得られたシート状のエチレンガス吸着剤1を粉砕して、細かいフレーク状に加工し、エチレンガス吸着剤2を得た。エチレンガス吸着剤2は、混練されたセルロース粉末が飛散することなく、手で触れても黒く汚れることのないものであった。また、エチレンガス吸着剤2を0.5g、不織布袋に充填し測定したエチレンガス吸着量は、1.5mmol/gであった。
【0055】
[実施例3]
混練物を耐熱性のある離型プラスチックシート(C−PET)に厚さ1mmとなるように延ばした点以外は、実施例1と同様の手法でエチレンガス吸着剤3を作成した。得られたエチレンガス吸着剤3のエチレンガス吸着量は、1.5mmol/gであった。また、エチレンガス吸着剤3についても、エチレンガス吸着剤1および2と同様に、混練されたセルロース粉末が飛散することなく、手で触れても黒く汚れることのないものであった。
【0056】
[実施例4]
繊維長18μm、繊維径15μmのセルロースファイバーを700℃で熱処理して得られた炭素材を使用した点、ご飯ペーストと炭素材の固形分重量(乾燥重量)比を1:5とした点、シート状に加工したものを乾燥させた後、粉砕しフレーク状にし、得られたフレーク状混練物を不織布(東洋紡績社製、モイスファイン(登録商標))に挟み、当該不織布の周囲を熱融着させて20mm×90mmの板とした点以外は、実施例1と同様の方法でエチレンガス吸着剤4を作成した。得られたエチレンガス吸着剤4のエチレンガス吸着量は、1.5mmol/gであった。また、エチレンガス吸着剤4についても、エチレンガス吸着剤1〜3と同様に、混練されたセルロース粉末が飛散することなく、手で触れても黒く汚れることのないものであった。
【0057】
[実施例5]
粉末の大きさが10μmの竹炭を炭素材として使用した点、ご飯ペーストと炭素材の固形分重量(乾燥重量)比を1:5とした点以外は、実施例1と同様の方法でエチレンガス吸着剤5を作成した。得られたエチレンガス吸着剤5のエチレンガス吸着量は、1.0mmol/gであった。また、エチレンガス吸着剤5についても、エチレンガス吸着剤1〜4と同様に、混練されたセルロース粉末が飛散することなく、手で触れても黒く汚れることのないものであった。
【0058】
[比較例1]
ご飯ペーストの代わりに合成樹脂(熱可塑性ポリウレタン)をバインダーとして使用した点、合成樹脂と炭素材の乾燥重量比を1:3とした点以外は、実施例1と同様の方法でエチレンガス吸着剤6を作成した。得られたエチレンガス吸着剤6のエチレンガス吸着量は、0.4mmol/gであった。
【0059】
[比較例2]
比較例1にて得られたシート状のエチレンガス吸着剤6を粉砕して、細かいフレーク状に加工し、エチレンガス吸着剤7を得た。得られたエチレンガス吸着剤7のエチレンガス吸着量は、0.5mmol/gであった。
【0060】
エチレンガス吸着量測定試験を行った後、使用した実施例1〜5および比較例1〜2のエチレンガス吸着剤1〜7をそれぞれ焼却して廃棄した。その結果、エチレンガス吸着剤1〜5については、有毒ガスの発生もなく廃棄することができた。他方、エチレンガス吸着剤6および7については、有毒ガスが発生した。
【0061】
エチレンガス吸着剤1〜7をそれぞれ、箱の底に敷き詰めた食品の保存を行った。なお、エチレンガス吸着剤を敷き詰めた箱においては、エチレンガス吸着剤の上に桃を静置し、冷蔵庫の中で30日間保存した。その結果、エチレンガス吸着剤1〜5を敷き詰めた箱を用いた場合、保存後の桃の堅さ、色ともに良好であった。また、25℃で7日間保存した場合も桃は堅さ、色も良好であり、味、香りも大変良好であった。一方、エチレンガス吸着剤6および7を敷き詰めた箱を用いた場合、自重で変形しており、その色も茶色となっていた。