特許第6438744号(P6438744)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6438744
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】電解用陰極の活性化方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 15/00 20060101AFI20181210BHJP
   C25B 1/10 20060101ALI20181210BHJP
   C25B 11/08 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
   C25B15/00 302A
   C25B1/10
   C25B11/08 Z
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-231858(P2014-231858)
(22)【出願日】2014年11月14日
(65)【公開番号】特開2016-94646(P2016-94646A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2017年10月3日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度経済産業省「再生可能エネルギー貯蔵・輸送等技術開発(低コスト水素製造システムの研究開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100122404
【弁理士】
【氏名又は名称】勝又 秀夫
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(72)【発明者】
【氏名】内野 陽介
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 伸司
【審査官】 越本 秀幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−107088(JP,A)
【文献】 特表平11−513751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、陰極が取り付けられた陰極室、陽極が取り付けられた陽極室、前記陰極及び陽極に挟持される隔膜、並びに前記陰極室及び陽極室に充填された電解液を具備する電解セルを備える電解システムを用いて行う水電解の実施中に、
前記陰極室にはルテニウム化合物を添加せず、前記陽極室にルテニウム化合物を添加する工程を経ることを特徴とする、電解用陰極の活性化方法。
【請求項2】
前記陽極室に添加された前記ルテニウム化合物が、陽極反応によってアルカリ可溶性の化学種に変換されて前記陰極室に導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記陽極室に添加されるルテニウム化合物が、ハロゲン化ルテニウム、酸化ルテニウム水和物、硝酸ルテニウム、及びルテニウム酸ナトリウムから成る群より選択される1種以上である、請求項1又はに記載の方法。
【請求項4】
前記陰極室におけるルテニウム原子の濃度を10〜1,000質量ppmに調整する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記陰極が、陰極芯体に白金族元素を含有する陰極触媒層が形成されて成る陰極である、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも、陰極が取り付けられた陰極室、陽極が取り付けられた陽極室、前記陰極及び陽極に挟持される隔膜、並びに前記陰極室及び陽極室に充填された電解液を具備する電解セルを備える電解システムを用いて行う水電解による水素の製造中に、
前記陰極室にはルテニウム化合物を添加せず、前記陽極室にルテニウム化合物を添加する工程を経て、電解用陰極の活性化を行うことを特徴とする、水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解用陰極の活性化方法に関する。詳しくは、水の電気分解に用いる陰極が、連続駆動又は逆電流等の原因によって劣化して水素過電圧が上昇した場合に、該陰極の活性を回復し、水素過電圧を再び低下させるための、電解用陰極の活性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、例えば燃料電池自動車における燃料、水素発電におけるタービン燃料、都市ガス成分等の燃料としての使用の他、化学肥料の原料等として、重要度が極めて高い。
水素は、例えば水の電気分解によって製造することができる。水の電気分解は、陰極芯体上に触媒層を有する陰極を用いて行われる。前記触媒層は、例えばニッケル、コバルト、白金族元素等、及びこれらの酸化物等から選択される1種以上を含有する。このような陰極は、水素過電圧が低いことから、水の電気分解用の陰極として、好ましく使用されている。
しかし、水の電気分解を長期間継続して行うと、陰極の活性が劣化し、水素過電圧が上昇することが知られている。この陰極劣化の原因としては、例えば、陰極表面への不純物の蓄積、陰極表面からの触媒層の脱落、逆電流による酸化劣化等があると考えられている。
【0003】
陰極の活性が低下した場合には、触媒層の再生処理が行われる。触媒層の再生処理は、通常は電気分解の運転を停止したうえで実施される。
触媒層の再生処理は、きわめて高価な処理であるとともに、運転の停止を伴うことから電気分解の歩留まりにも影響することになる。そこで、運転を停止せずに陰極を活性化することが望まれる。
この点、特許文献1には、電気分解の運転を停止することなく、陰極室内に水に可溶な白金族化合物を添加して電解用陰極を活性化することが提案されている。前記白金族化合物は、ロジウム化合物と、白金化合物及びルテニウム化合物から選ばれる少なくとも1種とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−107088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1の方法によると、確かに電解用陰極の活性化において一定の効果が認められる。しかしながら、白金族化合物がルテニウム化合物を含む場合には陰極液に不溶である場合が多いため、陰極活性化効率は決して高いものではない。更に、不溶性の化合物が配管中に堆積し、送液に支障を来たす場合すらある。
実際、特許文献1の実施例においては、ルテニウム化合物として塩化ルテニウムを使用した例が記載されている。しかし、該化合物はアルカリ性条件下で速やかに水に不溶の水酸化ルテニウムに変換されるため、陰極の活性化において該化合物が有効に機能しているかどうかは、極めて疑問である。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものである。
従って、本発明の目的は、電解用陰極を効率的に活性化するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記の目的を達成しようと鋭意検討を行った。その結果、陰極を活性化するための化合物を、陽極における電極反応を介して可溶化された成分として陰極に作用させることにより、陰極の近傍に直接添加する場合の不都合を回避できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち上記目的は、以下のとおりに要約される本発明によって達成される。
【0007】
[1] 少なくとも、陰極が取り付けられた陰極室、陽極が取り付けられた陽極室、前記陰極及び陽極に挟持される隔膜、並びに前記陰極室及び陽極室に充填された電解液を具備する電解セルを備える電解システムを用いて行う水電解の実施中に、
前記陽極室にルテニウム化合物を添加する工程を経ることを特徴とする、電解用陰極の活性化方法。
[2] 前記ルテニウム化合物が、ハロゲン化ルテニウム、酸化ルテニウム水和物、硝酸ルテニウム、及びルテニウム酸ナトリウムから成る群より選択される1種以上である、[1]に記載の方法。
【0008】
[3] 前記陰極室におけるルテニウム原子の濃度を10〜1,000質量ppmに調整する、[1]又は[2]に記載の方法。
[4] 前記陰極が、陰極芯体に白金族元素を含有する陰極触媒層が形成されて成る陰極である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、電解用陰極を活性化するための効率的な方法が提供される。本発明の方法は、電解システムの稼働を停止せずに行うことができるから、特に水の電気分解の歩留まりを向上することができ、水素製造のコストカットに資する。
本発明の方法は、陰極芯体に白金族元素を含有する陰極触媒層が形成されて成る陰極に特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1で用いた電解システムの構造を示す概略図である。
図2図2は、比較例1で用いた電解システムの構造を示す概略図である。
図3図3は、実施例1及び比較例1において得られた、陰極室のルテニウム化合物濃度と水素過電圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において使用する電解システムは、公知のものであってよく、例えば、少なくとも、
陰極が取り付けられた陰極室、陽極が取り付けられた陽極室、前記陰極及び陽極に挟持される隔膜、並びに前記陰極室及び陽極室に充填された電解液を具備する電解セルを備える。これら以外に、陰極タンク及び陽極タンク、送液ポンプ等を備えていてもよい。
前記電解セルは、陰極が取り付けられた陰極室、陽極が取り付けられた陽極室、並びに陰極室と陽極室とを区画する隔膜を具備する。前記陰極室と前記陽極室とは、隔膜を介して対向して配置されている。前記陰極室及び陽極室は、それぞれ、電解液によって充填されている。
前記の陰極、陽極、隔膜、及び電解液としては、それぞれ、水の電気分解において使用される公知の材料を、制限なく使用することができる。具体的に例示すると、例えば以下のとおりである。
【0012】
陰極としては、水の電気分解に用いられる公知の陰極を制限なく使用することができる。好ましくは所謂低水素過電圧陰極として知られている陰極であり、特に好ましくは、陰極芯体に陰極触媒層が形成されて成る陰極である。
前記陰極芯体としては、例えば、鉄、ニッケル、銅、チタン、ステンレス鋼等、及びこれらの複数から成る合金等を挙げることができる。陰極芯体の形状としては、例えば、平板状、曲板状、エキスパンドメタル、パンチメタル、網状、多孔板状等の任意の形状であってよい。
【0013】
前記陰極触媒層としては、例えば、コバルト、スズ、ニッケル、ジルコニウム、白金族元素等のうちの1種以上の元素を含む金属、酸化物等から成る層を挙げることができる。前記白金族元素とは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金の総称である。陰極触媒層としては、白金族元素等のうちの1種以上の元素を含む金属、酸化物等から成る層であることが好ましく、特に好ましくはルテニウム元素を含有する金属又は合金から成る層である。
陽極としては、例えば炭素電極、Al電極、Cu電極、Sn電極、Pb電極等の溶性電極;
金属メッキ電極、Pt/Ti電極、金属焼成電極、IrO/Ti電極等の不溶性電極等を挙げることができる。陽極の形状としては、例えば、平板状、曲板状、エキスパンドメタル、パンチメタル、網状、多孔板状等の任意の形状であってよい。
【0014】
隔膜としては、イオン交換膜を使用することが好ましく、例えばフッ素原子を有する陽イオン交換膜を例示することができる。
電解液としては、例えばハロゲン化アルカリの水溶液、水酸化アルカリの水溶液等を例示することができる。好ましくは水酸化アルカリの水溶液であり、特に好ましくは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムの水溶液である。
【0015】
本発明における電解システムは、上記のような電解セルを1個だけ有していてもよいし、2個以上の電解セルが積層されて成るセルスタック構造を有する物であってもよい。セルスタック構造を採用する場合には、各単位電解セルは、上記のような隔膜を介して設置されているか、或いは各単位電解セル間に導電性材料による導電路が形成されていることが好ましい。
本発明における電解システムは、水の電気分解によって製品としての水素(及び酸素又はハロゲン)を得ることが目的である。従って、本発明における電解システムは、製品純度を高めるために、気液分離機能を有する陰極タンク及び陽極タンクを更に備えることが好ましい。これらのタンクは、気液分離機能の他に、電解液を循環再利用するための一時貯蔵機能を更に有することが好ましい。これらのタンクは、気液分離機能を有効に作用させるため、前記電解セルよりも上方に設置されることが好ましい。
【0016】
上記のような電解システムを用いると、本発明において好ましく使用される低水素過電圧陰極の作用により、比較的低い電圧の印加によって水の電気分解(電解)を行うことができ、製品である水素(及び酸素又はハロゲン)を得ることができる。しかし、長時間継続して電解を行うと水素過電圧が上昇することがある。この現象は、陰極の劣化によるものと信じられている。本発明において好ましく使用される、陰極芯体に陰極触媒層が形成されて成る低水素過電圧陰極の場合には、電解の継続に伴って、陰極触媒層の溶出、ヒビ割れ、剥離等が発生して陰極芯体が露出する。
【0017】
このような場合には、陰極に活性化化合物を作用させることにより、陰極触媒層が再生されて陰極の電極活性が回復し、水素過電圧を低下し得ることが知られている。本発明においては、前記活性化化合物としてルテニウム化合物を用いる。ルテニウム化合物としては、例えばハロゲン化ルテニウム、酸化ルテニウム水和物、硝酸ルテニウム、及びルテニウム酸ナトリウムから成る群より選択される1種以上を使用することができる。このうち、水に可溶なハロゲン化ルテニウムが好ましく、特に好ましくは塩化ルテニウムである。
上記のルテニウム化合物は、水に溶解した水溶液の状態で使用に供することが好ましい。この水溶液中のルテニウム化合物濃度としては、0.01〜200g/Lとすることが好ましく、1〜50g/Lとすることがより好ましい。
【0018】
上記の活性化化合物水溶液には、ルテニウム化合物以外に、他の白金族元素(例えば、白金、ロジウム等)を含有する化合物(他の白金族化合物)が含有されていてもよい。この場合、該水溶液中における他の白金族化合物の割合は、ルテニウム化合物100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以下であることが更に好ましく、0.1質量部以下であることが特に好ましい。最も好ましくは、活性化化合物水溶液が他の白金族化合物を含有しない場合である。
【0019】
従来技術においては、陰極を再活性化するための上記活性化化合物は、陰極室に直接添加される。しかし、活性化化合物として例えば水に可溶な塩化ルテニウムを水溶液として添加する態様を採用した場合であっても、該化合物はアルカリと接触すると直ちに不溶性の水酸化ルテニウムに変換されるから、陰極室に導入されたとたんに析出する。そのため、陰極の活性化が固固反応となって効率性に乏しい他、不溶性の化合物が配管中に堆積し、送液に支障を来たす場合もある。
そこで本発明においては、前記活性化化合物としてのルテニウム化合物を、陽極室に添加する工程を経るのである。この工程を経ることにより、活性化化合物は陰極液に可溶な状態で陰極室に導入することが可能となり、前記問題は解決される。
【0020】
ルテニウム化合物(例えばハロゲン化ルテニウム)の水溶液を陽極室に導入すると、アルカリ性の陽極液と反応して直ちに不溶性の化学種(例えば水酸化ルテニウム)に変換される。しかしこの後、生成した不溶性化学種は、陽極反応によってアルカリ可溶性の化学種(例えばルテニウム酸イオン(RuO2−))に変換される。この可溶性化学種を陰極室に添加することにより、極めて効率的な陰極の活性化が、配管の閉塞等のリスクを伴わずに実施できるのである。
上記の効果の発現は、ルテニウム以外の白金族元素を含有する化合物についても、少なからず見られる現象である。しかしながら、ルテニウム化合物を用いた場合の効果は絶大である。
【0021】
ルテニウム化合物を陽極室に添加した場合に、アルカリ可溶性の化学種が円滑に生成される理由は以下のように推察される。すなわち;
ルテニウム化合物を陰極室に直接添加した場合に生成する不溶性の化学種(例えば水酸化ルテニウム)は、陰極と接触した時に接触面における還元反応によって生成した不溶性の化学種が、不安定ながらも陰極に付着する。そのため、陰極の最表面が不溶性の化学種で覆われることとなり、それ以降の還元反応が阻害され、進み難くなる。
これに対して、ルテニウム化合物を陽極室に添加した場合に生成する不溶性の化学種(例えば水酸化ルテニウム)は、陽極と接触すると、接触面における酸化反応によって速やかにアルカリ可溶性の化学種に変化する。従って、陽極の最表面が常に露出した状態になるから、後続の酸化反応が阻害されることがないためであると推察される。
【0022】
更に、ルテニウム化合物を陽極室に添加することにより、配管が閉塞する危険も回避することができる。すなわち;
陰極上に堆積した不溶性の化学種上に、他の不溶物が更に堆積して大きな塊になる。この塊が電解液の循環によって浸食され、やがて剥れることとなる。この、剥がれ落ちた堆積物が配管閉塞の危険を引き起こす。
これに対して、ルテニウム化合物を陽極室に添加すると、陽極反応によって生成する化学種はアルカリ可溶性であるから、堆積すべき不溶性の化学種はそもそも生成しない。もしも、ルテニウム化合物と電解液との反応によって生じた不溶性の化学種が物理的に陽極表面に付着した場合であっても、これが大きく成長することはないから、配管の閉塞が生じ難いのである。
【0023】
本発明の方法における前記陽極反応による可溶性化学種への変換は、電解セルの温度を、通常の電解を行う場合と同じ温度として、実現することができる。例えば、10〜95℃、好ましくは50〜90℃の範囲である。変換時間は、例えば1分〜10時間とすることができ、好ましくは30分〜2時間である。
【0024】
陽極室において生成した可溶性化学種を陰極室に添加するには、例えば、以下のような方法を挙げることができる。
(1)陽極室において生成した可溶性化学種を、前記隔膜を介して陰極室に導入する方法、
(2)陽極室において生成した可溶性化学種を含有する電解液を、循環再利用する際に陰極室に導入する方法、等。
【0025】
上記(1)の方法によると、ルテニウム化合物を陽極室に添加すること以外に格別の措置を講じなくても、本発明の目的を達することができる。
上記(2)の方法は、例えば、電解液の循環再利用を、陰極室及び陽極室について別個独立に行わず、共通の配管又はタンクを設けて行うことにより、実施することができる。(2)の方法において、陽極室に添加されたルテニウム化合物が可溶の化学種に変換されるまでの間は、陰極室への電解液供給は停止することが好ましい。
陰極に対する活性化合物の供給速度を任意にコントルールし得る点で、上記(2)の方法によることが好ましい。
【0026】
上記いずれかの方法により、陰極室に可溶性化学種を添加することができる。この可溶性化学種は、陰極上の電気化学反応によってルテニウム金属に変換され、陰極触媒層(の一部)を構成する。このような機構により陰極触媒層が再生されるから、本発明の方法によって水素過電圧が低下するのである。
陰極室において、好ましくは可溶の化学種として存在するルテニウム原子の濃度は、10質量ppm以上とすることが好ましく、50質量ppm以上とすることがより好ましい。本発明の方法においては、陰極室中に存在するルテニウム原子濃度に応じて陰極の活性化の程度が上昇する。しかし、本発明者らの検討によると、高濃度領域では活性化の程度が頭打ちになる傾向がみられる。従って、ルテニウム原子濃度の上限値としては、1,000質量ppm以下で十分であり、コストを考慮すると、500質量ppm以下の濃度に調整することが好ましい。
【0027】
陰極室におけるルテニウム原子の濃度を上記の範囲に維持する時間は、例えば1分〜10時間とすることができ、好ましくは30分〜2時間である。
上記に説明した本発明の方法により、継続使用によって劣化した電解用陰極を、極めて高い効率で再活性することが可能となる。本発明の方法は、電解の実施中、1回だけ行ってもよいし、複数回を逐次的に行ってもよいし、或いは連続的に行ってもよい。
【実施例】
【0028】
以下の実施例及び比較例においては、劣化した陰極の究極の状態を示すモデルとして陰極触媒層がすべて剥離した場合を想定し、陰極芯材のみから成る陰極を用いて実験を行った。
【0029】
実施例1
本実施例は、本発明の方法についてのモデルである。本実施例で使用した電解システムの概略図を、図1に示した。
陰極室1及び陽極室2を有する容量0.2L及び極間2mmのラボ電解槽10に、
陰極11及び陽極12として、それぞれ、5cm×6cm大のニッケル製ファインメッシュ構造の電極を、
隔膜3として、ポリフェニレンスルフィド(PPS)心材のポリスルホン(PSF)製多孔質隔膜を、
それぞれ設置して電解セルとした。更に、前記陰極室1及び陽極室2にそれぞれ接続された陰極タンク12及び陽極タンク22、前記陰極タンク12及び陽極タンク22から共通の電解液供給ライン30を通して前記陰極室1及び陽極室2に電解液を循環再利用するための共通ポンプ40、並びに陰極室前段バルブ50を配置して、電解システムを構成した。更に、陰極室1内に、水素過電圧を測定するための白金線(図示せず)を設置した。電解のための電圧は、電解槽10のフレームから電極へ延びるリブ(図示せず)を介して印加した。
この電解システムを用い、ルテニウム原子濃度を7水準で変量して、電解実験を行った。
【0030】
陰極室1及び陽極室2に、電解液として濃度32質量%の水酸化カリウム水溶液を、それぞれ4.0L/分の速度で供給し、
電流密度:6.0kA/m、電解電流:18A、電解温度:90℃の条件で水電解を開始した。運転開始当初の陰極1の水素過電圧は360mVであった。
次いで、陰極室前段バルブ50を閉鎖した状態で、陽極室2への電解液の供給速度を4.0L/分に維持しつつ、陽極室2の入口付近(下部)から、金属Ru換算の濃度が10g/Lの塩化ルテニウム水溶液を少量ずつ添加して、陽極室内のルテニウム原子濃度が2、10、20、100、300、400、及び500質量ppm(mg/L)となるように、それぞれ調整した。いずれの濃度の場合も、塩化ルテニウム水溶液の添加直後には、陽極室2内に水酸化ルテニウム(Ru(OH))と思われる黒色の沈殿物が生成した。各濃度において、黒色の沈殿物を含んだ状態で、それぞれ2時間ずつの電解を行った。
【0031】
各濃度における2時間の電解後、それぞれ、陰極室前段バルブ50を開放し、陰極室1及び陽極室2への電解液の供給速度をそれぞれ4.0L/分に調整し、陽極室2内の電解液が陰極室1にも循環供給される状態として陰極室1内のルテニウム原子濃度が1、5、10、50、150、200、及び250質量ppm(mg/L)となるように調整して、電解を継続した。ここで、各濃度において、陰極室前段バルブ50を開放してから1時間後の水素過電圧を測定した。測定結果を図3に示した。
本実施例においては、陰極室1内のルテニウム原子濃度の上昇に伴って水素過電圧が減少し、ルテニウム原子濃度250質量ppmのときの水素過電圧は130mVまで低下することを確認した。
【0032】
比較例1
本比較例は、従来技術のモデルである。本比較例で使用した電解システムの概略図を、図2に示した。
図2の電解システムは、図1の電解システムと略同様であるが、ただし、陰極タンク12及び陽極タンク22から陰極室1及び陽極室2に電解液を循環再利用するための供給ラインを別個独立のライン(陰極室用電解液供給ライン31及び陽極室用電解液供給ライン32)とし、図1における共通ポンプ40の代わりに陰極室用ポンプ41及び陽極室用ポンプ42を設置し、陰極室前段バルブ50を設けなかった。
この電解システムを用い、ルテニウム原子濃度を7水準で変量して、電解実験を行った。
【0033】
先ず、実施例1と同様の条件で水電解を開始した。運転開始当初の陰極の水素過電圧は360mVであった。
次いで、陰極室1及び陽極室2の各入口付近(下部)から、金属Ru換算の濃度が10g/Lの塩化ルテニウム水溶液を少量ずつ添加して、陰極室1内及び陽極室2内のルテニウム原子濃度が、それぞれ、1、5、10、50、150、200、及び250質量ppm(mg/L)となるように調整した。いずれの濃度の場合も、塩化ルテニウム水溶液の添加直後には、陰極室1内及び陽極室2内に水酸化ルテニウム(Ru(OH))と思われる黒色の沈殿物が生成した。各濃度において、黒色の沈殿物を含んだ状態で、それぞれ3時間ずつの電解を行った。各濃度における塩化ルテニウム水溶液供給開始3時間後の水素過電圧を測定した。測定結果を図3に示した。
【0034】
本比較例においては、陰極室1内のルテニウム原子濃度の上昇に伴って水素過電圧が減少したが、その現象の程度は少なかった。ルテニウム原子濃度250質量ppmのときであっても、水素過電圧は210mVまでしか低下しなかった。
なお、本比較例において、陽極室2にもルテニウム化合物を添加し、運転時間を3時間としたのは、ルテニウム化合物を当初は陰極室1に添加しないこと以外の実験条件を実施例1に揃えるためである。
【符号の説明】
【0035】
1 陰極室
2 陽極室
3 隔膜
11 陰極
21 陽極
10 電解槽
12 陰極タンク
22 陽極タンク
30 共通の電解液供給ライン
31 陰極室用電解液供給ライン
32 陽極室用電解液供給ライン
40 共通ポンプ
41 陰極室用ポンプ
42 陽極室用ポンプ
50 陰極室前段バルブ
図1
図2
図3