(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6438892
(24)【登録日】2018年11月22日
(45)【発行日】2018年12月19日
(54)【発明の名称】多チャンネル音声システムでの多チャンネル音声処理方法
(51)【国際特許分類】
H04S 3/02 20060101AFI20181210BHJP
H04S 7/00 20060101ALI20181210BHJP
H04S 3/00 20060101ALI20181210BHJP
【FI】
H04S3/02
H04S7/00 370
H04S7/00 300
H04S3/00 200
【請求項の数】11
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-555596(P2015-555596)
(86)(22)【出願日】2013年2月4日
(65)【公表番号】特表2016-509427(P2016-509427A)
(43)【公表日】2016年3月24日
(86)【国際出願番号】EP2013052127
(87)【国際公開番号】WO2014117867
(87)【国際公開日】20140807
【審査請求日】2016年1月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513127951
【氏名又は名称】クロノトン・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(72)【発明者】
【氏名】クロン・グンナー
【審査官】
渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−316600(JP,A)
【文献】
特開2007−311965(JP,A)
【文献】
特開2003−333699(JP,A)
【文献】
特開昭62−146000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04S 1/00− 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有利には、ステレオ信号としての入力信号LとRを復号化する、多チャンネル音声システムでの多チャンネル音声処理方法において、
これらの信号RとLが、少なくともnL−mR(ここで、n,m=1,2,3,4)の形の二つの信号に復号化されること、
当該の信号LとRが、立体信号Rとセンター信号Cに復号化され、一つの立体信号RLが信号LとRの差から作成されることと、一つの立体信号RRが信号RとLの差から作成されることとの中の一つ以上であること、
一つのサラウンド信号SLが差SL=2L−Rから作成され、一つのサラウンド信号SRが差SR=2R−Lから作成されること、及び
LP=C+RL+SL=(L+R)+(L−R)+(2L−R)=4L−R及び
RP=C+RR+SR=(L+R)+(R−L)+(2R−L)=4R−L
形の信号LP,RPへの符号化が行なわれることを特徴とする方法。
【請求項2】
当該の信号RL,RR,C,SL及びSRが、レベルの重み付けVC,VR,VSを受け、当該の信号LとRが、立体信号Rとセンター信号Cに復号化され、一つの立体信号RLが信号LとRの差から作成されることと、一つの立体信号RRが信号RとLの差から作成されることとの中の一つ以上であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
LP=VCC+VRRL+VSSL=VC(L+R)+VR(L−R)+VS(2L−R)及び
RP=VCC+VRRR+VSSR=VC(L+R)+VR(R−L)+VS(2R−L)
形の信号LP,RPへの符号化が行なわれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
当該の信号SLとSRの周波数に依存する重み付けが行なわれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
当該の周波数に依存する重み付けが、ハイシェルビングフィルタ(5,6)を用いて行なわれることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
当該の信号LP,RPがイコライザ(9,10)を用いてフィルタされ、LP=VCC+VRRL+VSSL=VC(L+R)+VR(L−R)+VS(2L−R)及び
RP=VCC+VRRR+VSSR=VC(L+R)+VR(R−L)+VS(2R−L)
形の信号LP,RPへの符号化が行なわれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
当該の信号LP,RPに、高調波倍音が追加されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
当該の高調波倍音の追加が、マキシマイザ又は非線形特性曲線NLを用いて行なわれることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか一つに記載の方法を実施するオーディオシステムにおいて、
信号プロセッサを備えていることを特徴とするオーディオシステム。
【請求項10】
信号プロセッサ上に転送されるソフトウェアにおいて、
本ソフトウェアが、信号プロセッサにより実行されるアルゴリズムを有し、このアルゴリズムが、請求項1から8までのいずれか一つに記載の方法を含むことを特徴とするソフトウェア。
【請求項11】
請求項1から8までのいずれか一つに記載の方法を実施する信号プロセッサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有利には、ステレオ信号としての入力信号LとRを復号化する、多チャンネル音声システムでの多チャンネル音声処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冒頭で述べた形式の方法は、当業者に周知であり、一般的に使用されている。
【0003】
特許文献1に開示されている周知の方法では、フロント信号L’とR’、センター信号C及びサラウンド信号Sが生成されており、二つの入力信号LとRから、合算及び差分演算によって、センター信号C=a
1*L+a
2*R、サラウンド信号S=a
3*L−a
4*R、及びフロント信号L’=a
5*L−a
6*CとR’=a
7*R−a
8*Cが作成されている。これらの重み付け合算の係数a
1...a
8は、レベル測定から導き出されている。この差分演算を制御するために、左と右のチャンネルのレベル差D
LR及び合算と差分信号のレベル差D
CSから二つの制御信号が計算されている。これら二つの制御信号は、その動特性において応答時間が時間的に変化する形で変更されている。そして、これら二つの時間的に変化する新しい制御信号から、時間的に変化する出力行列がフロント信号L’とR’、センター信号C及びサラウンド信号Sを計算できるようにするための四つの個別の重み係数E
C、E
S、E
L及びE
Rが導き出されている。
【0004】
特許文献2は、冒頭で述べた形式の別の方法を開示しており、時間的に変化する制御信号により復号化を拡張することを内容としている。その場合、二つの入力信号LとR及び一つの重み付けした合算信号(L+R)と一つの重み付けした差分信号(L−R)の減算から、二つのフロント信号L
outとR
outを取得している。そのセンター信号Cは、重み付けした入力信号LとRの合算(L+R)と減算から得られている。そのサラウンド信号Sは、重み付けした入力信号LとRの合算と減算(L−R)から得られている。これらの重み係数g
l、g
r、g
c及びg
sは、反復構造による信号LとR又はL+RとL−Rのレベル適合から取得されている。
【0005】
特許文献3でも、L/R及び(L+R)/(L−R)に関するレベル差計算が、多チャンネル音声処理における重み付けした行列復号化に関する制御信号を導き出す役割を果たしている。
【0006】
特許文献4に記載された多チャンネル音声方法では、ステレオ信号から、即ち、入力信号LとRから、フロント信号L
OとR
O、センター信号C
O及びサラウンド信号L
ROとR
ROが導き出されている。各信号に関して、信号L、R、L+R及びL−Rから、それぞれ別の信号が重み付けされて減算されている。その周知の多チャンネル音声処理方法の範囲内では、レベル比率計算の外に、周波数に応じた重み係数も導き出されている。その場合、センター信号Cはレベルだけ変更されているのに対して、二つのサラウンド信号L
ROとR
ROは、二つの周波数帯域において、位相反転された形で導き出されている。
【0007】
前述した多チャンネル音声システムでの多チャンネル音声処理方法は、主に映画音声信号を処理するために開発されたものである。その場合、大抵音声信号と効果信号の形の信号のダイナミックに出現する方向を複数のスピーカにより立体的に正しい方向で再生することが重要であった。それらの多チャンネル信号のダイナミック制御は、そのような信号形式での方向感覚を支援している。しかし、それに反して、音楽のステレオ録音での方向情報は、高い比率でダイナミックではなく、むしろ静的であり、特殊な立体的効果おいて、むしろ僅かしか変化しない。特許文献2に開示された方法の範囲内における音響研究は、支配的な方向が一つのステレオミックス内で稀にしか発生しないので、方向情報を最低限に制御することを提示している。その時間的に変化する多チャンネル制御は、その後再びステレオ符号化が実施された場合に、信号の立体的なシフトを引き起こしている。
【0008】
それに対して、ステレオ信号の立体的な分解能を改善するためには、方向信号成分の抽出と、静的な、或いは周波数に依存した重み付けによる、その重み付けとが非常に重要である。そのことから、特許文献5は、そこでは、異なるレベル調整器により立体成分を評価するために、立体成分へのステレオ信号の分割が行なわれているので、冒頭で述べた形式の方法の大きな進歩を示している。その後、評価された立体信号は、再び一つのステレオ信号に組み立てられている。それらの立体信号成分の重み付けにより、ステレオ信号は立体的な再生を改善されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,046,098号明細書
【特許文献2】米国特許公開第2004/0125960号明細書
【特許文献3】米国特許第6,697,491号明細書
【特許文献4】米国特許第5,771,295号明細書
【特許文献5】国際特許公開第2010/015275号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のことから、本発明の課題は、方向信号成分の抽出に基づき入力信号LとRの立体的な再生の一層の改善が達成されるように、冒頭で述べた形式の方法を更に発展させることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本課題は、請求項1の特徴により解決される。本発明の有利な実施形態は従属請求項から明らかになる。
【0012】
本発明では、RとLが、少なくともnL−mR(この場合、n,m=1,2,3,4)の形の二つの信号に復号化される。それによって、有利には、入力信号LとRの立体的な再生と透明度の改善が達成される。そのために、復号化時に、有利には、信号L−R(即ち、この場合、n,m=1)と2L−R(即ち、この場合、n=2及びm=1)が作成される。
【0013】
有利には、これらの信号LとRは、立体信号Rとセンター信号に復号化される。この場合、立体信号は、信号LとRの差(R
L)及び/又は信号RとLの差(R
R)から作成される。
【0014】
これらの信号LとRをフロント信号L
frontとR
front、センター信号C及びサラウンド信号S
LとS
Rに分割することを規定する従来の方法と異なり、本発明による方法に基づき、ステレオ信号の立体及びステレオ拡張がステレオ分解の拡張によって達成される。そのために、更に、これらの立体信号R
L=L−RとR
R=R−Lが、入力チャンネルRとLから計算される。
【0015】
これらの特性は、以下のシステムにおいて立証されている。
【0016】
ベリンガー社のMS40モニタスピーカ、
東芝社のノートブック、
IMAC27コンピュータ、
ドルビーモバイルを備えたLG GM205携帯電話、
フィリップス社のBBEサラウンドを備えた42PFL9703Dフラットスクリーンテレビ、及び
ドッキングステーションJBL On Stage 400p
ドルビーモバイルと比べて、バーチャルドルビーサラウンド及びそれ以外のステレオスペシャライザは、本発明による方法がステレオ音響パターンの基本的にニュートラルな改善を生じさせることを示している。
【0017】
更に、音響心理学的研究の範囲内では、差L−Rからサラウンド信号を導き出すことが、改善されたステレオ及び立体拡張に関する更なる重要なステップとして立証された。この場合、又もや高度な試聴テストにより、サラウンド信号S
L=2L−RとS
R=2R−Lの比率が有利であると判明した。従って、本発明の有利な実施形態は、この差S
L=2L−R、S
R=2R−Lによりサラウンド信号S
Lとサラウンド信号S
Rを作成すると規定する。
【0018】
この場合、これらのサラウンド信号の周波数に依存した重み付けが有利である。従って、本発明の目的に適うこととして、信号S
LとS
Rの周波数に依存した重み付けが行なわれる。この周波数に依存した重み付けは、有利には、ハイシェルビングフィルタを用いて行なわれる。
【0019】
本発明の目的に適うこととして、信号LとRが信号L
PとR
Pに加算される。
【0020】
本方法を実施するオーディオシステムは請求項13の対象であり、このオーディオシステムは、有利には、オーディオプロセッサの形の信号プロセッサを備えている。
【0021】
本発明の範囲内では、信号プロセッサに存在する、即ち、信号プロセッサに転送されるソフトウェアも規定される。この場合、ソフトウェアは、信号プロセッサにより実行されるアルゴリズムを有し、このアルゴリズムは、本方法を含む。
【0022】
更に、本発明は、本方法を実施する信号プロセッサを含む。
【0023】
以下において、図面に基づき本発明を詳しく説明する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1は、四つの工程A,B,C,Dを有する本発明による方法を図示している。詳しくは、これらの工程は、
復号化(工程A)
復号化した信号の処理(工程B)
符号化(工程C)及び
符号化した信号の処理(工程D)
である。
【0026】
本発明は、復号化の範囲内において、ステレオ信号として出現する入力信号LとRを三つの信号成分に分割することにより開始し、これらの信号LとRは保持したままとすることができる。これらの信号成分は、センター信号C、立体信号R及びサラウンド信号S
LとS
Rである。この場合、センター信号Cは1チャンネルである、即ち、チャンネルCだけから成り、それに対して、立体信号Rとサラウンド信号Sは2チャンネルである、即ち、信号R
LとR
R又はS
LとS
Rから成る。この場合、サラウンド信号及び立体信号S
L、S
R及びR
L,R
Rは、ステレオ信号LとRの方向と立体情報を含む。
【0027】
工程Aでは、これらの信号、即ち、
モノラル信号とも呼ばれる、1チャンネルセンター信号C=L+R、
2チャンネル立体信号Rのステレオ成分R
L=L−RとR
R=R−L及び
二つの2チャンネルサラウンド信号S
L=2L−RとS
R=2R−L
は、ステレオ信号RとLから五つの並列の段階により復号化される。
【0028】
工程Aには、これらのチャンネルC,R
L,R
R,S
L及びS
Rの処理を行なう工程Bが続く。センター信号C及び立体信号R
L=L−RとR
R=R−Lの音量を調整するために、これらの信号は、第一のレベル調整器1,2によって、係数1.5とするレベル重み付けを付与される。この第一のレベル重み付け後、別のレベル調整器3,4によって、復号化された信号の音響特性をL,Rに対して重み付けする別の可変のレベル重み付けが行なわれる。
【0029】
それに対して、二つのサラウンド信号S
L=2L−RとS
R=2R−Lは、ハイシェルビングフィルタに供給され、それによって、サラウンド信号S
LとS
Rの周波数応答を調整される。即ち、これらの信号S
LとS
Rの周波数に依存した重み付けが行なわれ、これらのフィルタ5,6は、周波数領域において、有利には、2kHzの最低限の位相シフトを付与し、その結果、工程Cで行なわれる符号化での消失効果が最小化されるが、それと同時に、本来の増幅効果が強調される、詳しくは、ハイシェルビング周波数応答により、例えば、有利には、2KHzにおいて、3dBだけ強調される。その後、これらのサラウンド信号S
L,S
Rは、復号化された信号の音響特性をS
L,S
Rに対して重み付けするレベル調整器7,8に供給される。
【0030】
そのため、符号化、即ち、工程Cでは、既に工程Aで規定された合算後に、信号C,RL,R
R,S
L,S
Rが、
L
P=C+R
L+S
L=(L+R)+(L−R)+(2L−R)=4L−R
R
P=C+R
R+S
R=(L+R)+(R−L)+(2R−L)=4R−L
の形で得られ、これらの符号化されたステレオ信号L
P,R
Pは、次の式の通り
L
P=V
CC+V
RR
L+V
SS
L=V
C(L+R)+V
R(L−R)+V
S(2L−R)
R
P=V
CC+V
RR
R+V
SS
R=V
C(L+R)+V
R(R−L)+V
S(2R−L)
、或いはサラウンド信号S
L,S
Rのフィルタ後には、次の式の通り
L
P=V
CC+V
RR
L+V
S(S
L)
Filtered=V
C(L+R)+V
R(L−R)+V
S(2L−R)
Filtered
R
P=V
CC+V
RR
R+V
S(S
R)
Filtered=V
C(L+R)+V
R(R−L)+V
S(2R−L)
Filtered
得られる。
【0031】
最後の工程Dでは、これらの符号化され重み付けされた信号L
P,R
Pは、ステレオイコライザ9,10による後処理を受ける。音響パターンの更なる強化のために、特別な非線形特性曲線NLが使用される。この非線形特性曲線は、入力振幅xを出力振幅yにマッピングする。この用いられる非線形特性曲線y=f(x)は、次の式で表される。
【0032】
y=tanh((1/7.522*atan(7.522*x).*(sign(x)+1)./2.+x*(sign(−x)+1)./2)/0.5)*0.5
この特性曲線によって、高調波倍音がダイレクト音楽信号に追加される。最後に、これらの信号L
P,R
Pは、工程Dにおいて、レベル調整器11,12がダイレクト信号に倍音を混合する度合いを決定する形で更なる後処理を受ける。最終的に、本方法の結果の全体レベルを制御可能なレベル調整器13,14による更なる処理が行なわれる。
【0033】
本発明の実施形態は、前述した実施例に限定されない。むしろそれ以外の形式の実施形態でも図示された解決策を利用する一定数の変化形態が考えられる。例えば、工程Dの範囲内において、音響パターンを一層豊かにするために、マキシマイザ、即ち、コンプレッサ/リミッタを使用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1,2 第一のレベル調整器
3,4 別のレベル調整器
5,6 ハイシェルビングフィルタ
7,8 レベル調整器
9,10 ステレオイコライザ
11,12,13,14 別の構成部品